Coolier - 新生・東方創想話

一瞬の衝動

2011/02/17 06:12:53
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 **氷の世界**




 雪に覆われた庭園が好き。
 真っ白く塗り潰されたみたいなところが好き。
 何もかもを埋め尽くす、白。白。白。
 太陽の光を弾いて、きらきらと輝いて。
 その強欲なまでの美しさが――けれども清涼さを感じさせるしたたかさが――私は好き。


 三階の窓から眺めた視線の先に、美鈴の姿を見つけた。
 ああ、こんな時でも、庭の手入れは欠かさないのね。
 足元に咲いているのは、あれは水仙かしら?

 庭園で働く美鈴の姿を見るのが、日々の楽しみとなっている。
 花と向き合うひたむきさが、とても好ましい。
 こんなに寒い時でも、春に向けて、色々やる事があるのでしょうね。

 
 ああ、でも、どうしてかしら……。

 ……春なんて、来なければ良いのに。


 ザ・ワールド。

 時を止めて、氷の世界に貴女を繋ぎとめておく事が出来たなら。
 貴女は花が恋しくて泣くのかしら?
 色のない世界を嘆くかしら?
 自由を求めて、闘いを挑んでくるかしら? 私に。この私に。

(それとも、世界を、私と共有してくれるのかしら……?)


 美鈴の後ろ姿に合わせて、コツン、と指で窓を叩いた。

 世界中の花を見せたいのだと、貴女は言った。
(そして彼女は、たくさんの花を育てた)

 目の覚めるような、美しく、色鮮やかな弾幕を見せたいのだと、彼女は言った。
(そして彼女は、香り立つ花のスペルカードを作り上げた)

 私には到底描けない色のある世界を、貴女はいとも簡単に作り出してゆく。
 貴女から生み出される、色、花、世界、命。

 コツン、コツン、と、いま一度窓を叩いた。

 ……ねえ、そろそろ気付いて。

 花ではなく、色ではなく、
 世界も命も生まなくていいから……

 ――ああ、振り返った。


「――咲夜さん!」


 私に気付いて、綻ぶ顔。
 まるで咲き誇る花のような鮮やかな表情に、目を細める。
 微笑み返すと、ああ、なんて嬉しそうに笑うんだろう。

 ――ずくり、と胸の奥が疼いた。
 この笑顔を、私以外の者にも向けているかもしれないなんて。


 ――そんな事、許せるわけがない。


 ザ・ワールド。

 今度こそ、時を止めた。
 窓を開け放ち、窓枠を蹴る。
 空間をいじれば、貴女はすぐそこ。
 冷たい空気を切り裂いて、貴女へと堕ちていく。


 ……ねぇ、花も色もいらないから、

 私はただ、貴女が欲しい――。


 色のない氷の世界に、そっと美鈴を閉じ込めた。
 固く凍りついた時を動かすまで、もう少しだけ、このままで。






 **花**




 花を育てたい。
 花が好きで好きで堪らなくて、だから花を育てたかった。
 ただ、それだけだった。

 だけど今は、育てなきゃ、に変わっている。

 沢山育てなきゃ、もっともっと美しい花を。
 庭園を花で埋め尽くさなきゃ、もっともっと、色鮮やかに。

 そうしないと、あの人に見てもらえないから。
 見てもらいたいから、咲夜さんに。

 咲夜さんは、私にとって、夜空に浮かぶ月のような人で。
 孤高で、気高くて、美しくて。
 妖怪である私では、全く釣り合わない存在。
 手を伸ばしたところで、とても届かない。
 もちろん、手を伸ばしてくれるはずもない。

 だから、私は育てなきゃいけない。
 目を引く花を咲かせなきゃいけない。

 三階の窓から時折庭園を眺める咲夜さんの視線を、一秒でも長く繋ぎとめておきたいから。
 宵闇の灯りの下に咲く、艶やかな娼婦のように。
 美しい花で、あの人の目を惹きつけたい。


 ……ごめんね、と、足元で咲く水仙に言った。

 醜い欲望のために育ててしまって、ごめんなさい。
 純粋な、好き、っていう気持ちだけで育てられなくなってしまって、ごめんなさい。

 でもね、同時に、どうしようもなく羨ましいんだよ。
 美しく花を咲かせる貴女が憎いの、憎くて仕方ないの。

 だって、貴女は咲夜さんの視線を繋ぎとめることが出来るんだから。

 ――馬鹿みたい。
 ふいに、じわりと涙が滲み出てきて、慌てて空を仰いだ。
 ゆらゆらと揺れる視界に、透明な青が飛び込んでくる。
 咲夜さんの、瞳の色。その色を見せたくなくて、水仙を影に隠した。

 ……ああ、本当に馬鹿みたい。
 育てたのは、他ならぬ私だっていうのに。


 ふいに感じた視線に振り向けば、三階の窓に咲夜さんの姿を見つけた。
 ああ、きっと水仙を見ているんだ。
 良いなぁ、水仙は。咲夜さんに見てもらえて。

 見て。
 ねえ、私も見て――!

 懇願にも似た思いで見つめたら、かちりと目が合った。

「――咲夜さん!」

 反射的に叫んでいた。
 視線を向けてくれた事が嬉しくて、自然と笑みが零れてしまう。
 ……あ、どうしよう。微笑んでくれた。
 嬉しい、胸が締めつけられるくらい、嬉しい。
 どきどきどきどき、鼓動が高鳴る。

 ねぇ、お願いです。
 見て。もっともっと、私を見て。
 私だけを見て。

(――ああもういっそ、その手で手折ってくれたなら……!)


「美鈴」


 一瞬の後、ごく間近で声が聞こえた。
 続いて受ける強い抱擁。咲夜さんの、におい。

「何――?」

 驚きと同時に理解する。
 咲夜さんに、力を使われたのだと。
 時を止めて、空間を捻じ曲げて来たのだと。

 ――手折られる。

 そう思った瞬間、強くしがみついていた。
 バランスを崩して、足元の水仙を踏み潰す。

 くしゃり、と柔らかな感触。

 その感触に罪悪感が募るのに、同時に優越感も湧き上がる。
 選ばれた、ような、そんな浅ましい満足感が込み上げてくる。

「……ねえ、貴女をちょうだい?」

 囁かれた言葉に、しがみつく事で応えた。
 これは、夢……? 月が、ここまで堕ちてきたの?
 それとも、浅ましく手を伸ばす私を、攫いに来たの……?

「あげます、あげるから、早く手折って」

 衝動のままに乞う。
 痛いくらいに、咲夜さんの拘束が強くなる。息が苦しい。
 ふ、と微かに漏れた笑い声は、暗く、熱く、酷く淫靡で。
 手折られる予感に、全身が震えた。

(……手折って、手折って。早く手折って――!)

 高揚とした思いのまま、それだけを願った。
 後は枯れるだけだとしても、水さえ与えられなくても、貴女の手で手折られたい。
 
 
短い連作のようなものを書きたくて、書いてみました。

静かに、本人も気付かぬ間に独占欲を滾らせる咲夜さんと、
憧れと恋心がごちゃごちゃになって、破滅意識が芽生えてしまった美鈴の話。

■2月28日
評価・コメントありがとうございます!
たまにこうして感情を書き連ねる感じのものが書きたくなります。
月夜野かな
http://moonwaxes.oboroduki.com/
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コメント



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面白かったです
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綺麗だなぁ……
9.100奇声を発する程度の能力削除
素敵な感じでした
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これはすごい。震えました。
24.100名前が無い程度の能力削除
うぅをををををを!
33.100名前が無い程度の能力削除
ふぉおお・・