バレンタイン……それは恋人達の愛の祭典
バレンタイン……それは今まで秘めていた気持ちを打ち明ける決戦の日
バレンタイン……それは恋する乙女の輝ける日
だがバレンタインが輝ける光ならば、そこには当然闇がある。
そして光が強ければ強いほど、闇もまた深くなるのだ。
「嫉妬の心はパル心!! 押せば命の泉わく!!」
水橋パルスィの気合いが入ったかけ声が地底に響く。
そう、今日はバレンタイン。パルスィにとってはクリスマスと並ぶ聖戦(ジハード)の日。
バレンタインなどという虚像に浮かれるアベックどもを粉砕し、二月十四日を平穏な普通の日に戻さねばならないのだ。
しかしパルスィは考える。
今の自分にそれができるだろうか、と
例えばこの瞬間にも地底の主の居城地霊殿では、
「お姉ちゃんあ~ん」
「あ~ん」
とか
「ほらお空、チョコだよ」
「うにゅっ」
とかいうやり取りが行われているのだろう。
自分がそこに飛び込んでいって彼女達を粉砕できるだろうか?
おそらく……いや、まず無理だろう。
それにバレンタインの手先と化した愚か者は地底だけに留まらない。
今のパルスィにそれら全てを打ち砕くだけの力はなかった。
だがパルスィも何も考えず手をこまねいていた訳ではない。
足りない力を補う策は考えてあった。
パルスィは地上の吸血鬼の館を訪れていた。
彼女はここに強大な嫉妬パワーを感じていたのだ。
館の前に立つだけで吹き荒れる嫉妬パワーが肌を突き刺す。
それはまるであらゆる女の立ち入りを阻むようだった。
「ふふふ、素晴らしいわ」
パルスィは確信する。
この強大な嫉妬パワー、これを全て吸収できたなら、
自分は幻想郷中のバレンタインを抹殺できるだけの力が得られるだろうと。
館の最上部に向かって歩いていくパルスィ。
この館に渦巻く嫉妬パワーを吸収するためには渦巻く嫉妬の中心部に行かねばならない。
パルスィは事前の調査により、それが館の主であるレミリア・スカーレットであることを突き止めていた。
レミリア・スカーレットは館中の愛を一身に集めていた。
実の妹から魔女、メイド長、門番、司書、末端の妖精メイドに至るまで、皆彼女に只ならぬ想いを抱いている。
故にこの館は莫大な憎愛渦巻く地になった。
世が世なら嫉妬の聖地として多大なる信仰を集めていたことだろう。
「ここね」
しばらくしてパルスィは大きな扉にたどり着いた。
レミリア・スカーレットの私室である。
「あはは……」
バレンタインを葬りさる未来を想像し、思わず含み笑いを漏らしてしまうパルスィ。
栄光はすでに手に届くところにあった。
パルスィは満を持して扉を開ける。
そして絶句した。
そこにいるのはなんなんだろう?
目の前の者を見たとき、パルスィが一番最初に思ったことはそれである。
彼女の事前の調べによれば、レミリア・スカーレットは小さく可愛らしく、
それでいて凛々しくカリスマに溢れた少女であった。
だが目の前にいるのは何だ?
ぶよぶよに膨れ上がった四肢。
恐ろしくふとましい胴体。
パンパンの風船のようになった顔。
ひたすらにチョコレートを貪り食う口
どれもレミリア・スカーレットとは似ても似つかぬ特徴である。
だが着ている服と帽子、髪の色などがあれがレミリア・スカーレットであることを示していた。
「!??」
パルスィは訳が分からなかった。
だがふと周りを見たとき疑問は解けた。
あのレミリア・スカーレットの周りには部屋を埋め尽くさんばかりのチョコの山ができあがっていた。
レミリアはそれをひたすらに口に運ぶ。運ぶ。運ぶ。
あのチョコレート全てがレミリアへの贈り物なのだろう。
見ればレミリアがひたすらに口に放り込んでいるチョコはだいぶ手の込んだ手作りのようだ。
おそらくあの山に積まれたチョコレートの一つ一つに、作った人のたっぷりの愛情が込められているのだろう。
だが花に水をやり過ぎれば根から腐るがごとく、過剰すぎる愛情が彼女をあんな姿にしてしまったのだ。
「ははは……」
パルスィの口から笑いが漏れる。
あれが……
あんなものがバレンタインの終着点であるのなら……
彼女の心の中には今まで感じたことのない感情が芽生えていた。
それは……
「あはは……妬ましくない」
それは彼女の永い存在の中で一度も口にしたことがない言葉。
「妬ましくない! 妬ましくない! 妬ましくないわ!!
あはははははははははははははははははははっ!!」
彼女は笑う。ひたすらに笑う。
もうバレンタインなんてどうでもよかった。
彼女は笑いながら地底に戻った。
それから一ヶ月……
彼女の頭の中からあの光景が消えることはなかった。
妬ましい出来事に出会うとあの光景が浮かんできて妬ましくない気持ちにさせてくれる。
おかげで彼女の心はとても晴れやかだ。
思わず笑顔で上を見上げるぐらいに……
だがそこで見てしまった……
あの吸血鬼が飛んでいる姿を……
体はあの日見た物とは違い、とてもスマートで可愛らしく……
両腕には妹と魔女を侍らせ……
後ろには従者三人従えて……
そしてなにより、その顔は自信とカリスマに満ちていた……
吸血鬼は地から凝視する彼女に気づくこともなく、地霊殿に向かって飛んでいった。
「ね……ね……ね……」
パルスィはそれを裏切りだと感じた。
妬ましくない奴だったはずなのに……
あんな姿になっていたのに……
今のあいつは……あいつは……こんなにも……
「ねぇぇぇぇたぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁしぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
その日、旧都はパルの炎に包まれた。
毎日神社に通っては
霊夢につれなくされるだけでみるみる痩せるゥ!w
私にもお手伝いさせてください!
今日銀歯が砕けました(マジです)
つまりこれはパルパルの呪いッ! 一歩パルスィに近づいたんだッ!