こいしちゃんがバレンタインにチョコを作ろう!と思い立ち、
香霖堂なる奇妙な店に行って、チョコレートの作り方の本を買ってきたところまでは成功だったのかもしれません。
ただ、彼女の買ってきた本の表紙は、明らかに黒魔術的な何かを予想させるそれでした。
しかし、こいしちゃんはそれに気付かずにふんふんと鼻歌を歌いながら帰っていきます。
彼女がチョコレートを渡そうとしている相手に、少しだけ同情を覚えます。
地霊殿に帰ってくると、こいしちゃんはてきぱきとチョコレート作りを始めました。
細かく刻んで湯煎で溶かし、生クリームを加えて滑らかにします。
それを、ラップを敷いたバッドに入れて冷やした後、手で丸く固めて冷やします。
その丸く固めたものを、別に溶かしておいたコーティング用のチョコレートで包み、
カカオパウダーを全体につけます。これで立派なトリュフチョコレートの出来上がりです。
このままお店に出してもおかしくないような立派な出来です。
こいしちゃんは、それを一つ摘んで味見しました。
無言で咀嚼して、すぐに怪訝な表情になると、作ったチョコを全てゴミ箱に叩き込みました。ああ、もったいない。
「……足りない」
足りないらしいです。こいしちゃんは頭をふりふりと振りながら何が足りないかを考えているようでした。
しばらく床をごろごろとしたりしながら考えると、不意に自分の買ってきた本を取り出しました。
そして、自分のお望みの記述を見つけると大声で読み上げました。
『自分の血液を入れて愛するあの人をメロメロにしちゃおう☆』
こいしちゃんは、本をばーんと放り投げて走り出しました。
「というわけで空、私の血をソムリエして欲しいのよ」
「そむりえ……?」
こいしちゃんが向かった先は、空のところでした。
ああ、ソムリエなんて難しい言葉を使っても通じるわけがないのに……。
「よーするにね、私のどの部分の血が一番美味しいか試してみて欲しいのよ」
「なるほど、こいし様の血の飲み比べ大会をしましょうってことですね」
「わかればよろしい」
なるほど、こいしちゃんは血をチョコに入れるならば、一番美味しい血を入れたいのですね。
だから、空に味見をしてもらって一番美味しい部分を探すようです。
こいしちゃんは、台所から持ってきた出刃包丁を使って、自分の手のひらにさっと傷を付けました。
「というわけで、まずは手のひらの血からね。はい、どうぞ」
「いただきます」
空は、こいしちゃんの傷跡から流れる血をぺろぺろと舐めました。
「んー、ちょっと苦いかも」
「苦いの?」
「うん。多分土の味かもね。暖かくて苦い感じの土の味」
「あ、最近ガーデニングしてるからかしら。チョコに苦味は必要だからいいかも」
こいしちゃんは、傷の付いてないほうの手で包丁を握ると、次は膝のところに傷を付けました。
空は、屈みこんで膝の部分を愛おしい様子で舐めました。
「んー……なんていうかすぱーって感じの味」
「すぱーって感じといえばびゅーって感じなのかしら」
「そうだねー。なんかこうすかーって感じの」
「なるほど、足の血はさわやか系なのね」
次に、服の裾をがばっと捲ってお腹にすっと傷を付けました。
こいしちゃんは、地面に寝転がって空が舐めやすいような体制をとってあげました。
空は、こいしちゃんの上に乗って、ミルクを飲む猫のように血を舐め始めました。
「んんー……この血はふつーに美味しい」
「あらそう、ちゃんと苦手な野菜も食べてる甲斐があるわね」
「やっぱりねー、お腹の方の血は栄養があっていいよね」
「栄養があるとおいしいもんねー」
こいしちゃんは、服をちゃんと着なおすと空の頭を撫でてお礼を言いました。
「ありがとうね空。あんたのおかげで、大体どうすれば良いかわかったわ」
「どういたしまして。ていうか、こいし様は何で血の味見なんかを?」
こいしちゃんは、もじもじと照れたような仕草を見せると、空の耳元に口を近づけて言いました。
「……実はね、バレンタインのチョコレートに血を入れてね、お姉ちゃんに私の事をもっと好きになってもらおうと思って」
「なるほど、血を入れればさとり様もよりこいし様に親しみをもてますもんね」
「でしょ!? だから、一番美味しい血を入れてあげたいなーって」
「こういうの、難しい言葉で『血を分けた姉妹』って言うんでしょうね」
「その通り、偉いぞ空!」
何が何だかわからない会話ですが、妖怪同士にしかわからないことがあるのでしょう。
何はともあれ、こいしちゃんは笑顔で地霊殿の台所に戻り、もう一度チョコ作りを始めました。
「バレインタインおめでとう、お姉ちゃん」
こいしちゃんは、満面の笑みを頬に湛えてさとりの前に立ちました。
そして、ピンク色のリボンでラッピングされて箱を差し出しました。
「これ、お姉ちゃんへの私の気持ち」
「ありがとう、こいし」
さとりが箱を開けると、そこにはハートの形をした真っ赤なチョコレートが。
こいしちゃんは、さとりの顔に思いっきり自分の顔を近づけて、囁くように言いました。
「これは、私の心臓を模したチョコなの。これこそが、私のお姉ちゃんへの気持ちの象徴。そして」
そこでちょっとだけ深呼吸をして。
「心臓ってのは、私の一番恥ずかしい部分。私の全部を、お姉ちゃんにあげる」
さとりは、黙ってこいしちゃんを抱きしめました。
そして、何度かついばむようなキスをして、お互いに見つめあいました。
こいしちゃんは、真紅のチョコを箱から取り出すと、さとりの口に入れました。
さとりは、ゆっくりと味わうように噛み締めて、言いました。
「……こいしの、味がする」
お互いに心の中がわからない二人が、少しだけ通じ合った瞬間でした。
香霖堂なる奇妙な店に行って、チョコレートの作り方の本を買ってきたところまでは成功だったのかもしれません。
ただ、彼女の買ってきた本の表紙は、明らかに黒魔術的な何かを予想させるそれでした。
しかし、こいしちゃんはそれに気付かずにふんふんと鼻歌を歌いながら帰っていきます。
彼女がチョコレートを渡そうとしている相手に、少しだけ同情を覚えます。
地霊殿に帰ってくると、こいしちゃんはてきぱきとチョコレート作りを始めました。
細かく刻んで湯煎で溶かし、生クリームを加えて滑らかにします。
それを、ラップを敷いたバッドに入れて冷やした後、手で丸く固めて冷やします。
その丸く固めたものを、別に溶かしておいたコーティング用のチョコレートで包み、
カカオパウダーを全体につけます。これで立派なトリュフチョコレートの出来上がりです。
このままお店に出してもおかしくないような立派な出来です。
こいしちゃんは、それを一つ摘んで味見しました。
無言で咀嚼して、すぐに怪訝な表情になると、作ったチョコを全てゴミ箱に叩き込みました。ああ、もったいない。
「……足りない」
足りないらしいです。こいしちゃんは頭をふりふりと振りながら何が足りないかを考えているようでした。
しばらく床をごろごろとしたりしながら考えると、不意に自分の買ってきた本を取り出しました。
そして、自分のお望みの記述を見つけると大声で読み上げました。
『自分の血液を入れて愛するあの人をメロメロにしちゃおう☆』
こいしちゃんは、本をばーんと放り投げて走り出しました。
「というわけで空、私の血をソムリエして欲しいのよ」
「そむりえ……?」
こいしちゃんが向かった先は、空のところでした。
ああ、ソムリエなんて難しい言葉を使っても通じるわけがないのに……。
「よーするにね、私のどの部分の血が一番美味しいか試してみて欲しいのよ」
「なるほど、こいし様の血の飲み比べ大会をしましょうってことですね」
「わかればよろしい」
なるほど、こいしちゃんは血をチョコに入れるならば、一番美味しい血を入れたいのですね。
だから、空に味見をしてもらって一番美味しい部分を探すようです。
こいしちゃんは、台所から持ってきた出刃包丁を使って、自分の手のひらにさっと傷を付けました。
「というわけで、まずは手のひらの血からね。はい、どうぞ」
「いただきます」
空は、こいしちゃんの傷跡から流れる血をぺろぺろと舐めました。
「んー、ちょっと苦いかも」
「苦いの?」
「うん。多分土の味かもね。暖かくて苦い感じの土の味」
「あ、最近ガーデニングしてるからかしら。チョコに苦味は必要だからいいかも」
こいしちゃんは、傷の付いてないほうの手で包丁を握ると、次は膝のところに傷を付けました。
空は、屈みこんで膝の部分を愛おしい様子で舐めました。
「んー……なんていうかすぱーって感じの味」
「すぱーって感じといえばびゅーって感じなのかしら」
「そうだねー。なんかこうすかーって感じの」
「なるほど、足の血はさわやか系なのね」
次に、服の裾をがばっと捲ってお腹にすっと傷を付けました。
こいしちゃんは、地面に寝転がって空が舐めやすいような体制をとってあげました。
空は、こいしちゃんの上に乗って、ミルクを飲む猫のように血を舐め始めました。
「んんー……この血はふつーに美味しい」
「あらそう、ちゃんと苦手な野菜も食べてる甲斐があるわね」
「やっぱりねー、お腹の方の血は栄養があっていいよね」
「栄養があるとおいしいもんねー」
こいしちゃんは、服をちゃんと着なおすと空の頭を撫でてお礼を言いました。
「ありがとうね空。あんたのおかげで、大体どうすれば良いかわかったわ」
「どういたしまして。ていうか、こいし様は何で血の味見なんかを?」
こいしちゃんは、もじもじと照れたような仕草を見せると、空の耳元に口を近づけて言いました。
「……実はね、バレンタインのチョコレートに血を入れてね、お姉ちゃんに私の事をもっと好きになってもらおうと思って」
「なるほど、血を入れればさとり様もよりこいし様に親しみをもてますもんね」
「でしょ!? だから、一番美味しい血を入れてあげたいなーって」
「こういうの、難しい言葉で『血を分けた姉妹』って言うんでしょうね」
「その通り、偉いぞ空!」
何が何だかわからない会話ですが、妖怪同士にしかわからないことがあるのでしょう。
何はともあれ、こいしちゃんは笑顔で地霊殿の台所に戻り、もう一度チョコ作りを始めました。
「バレインタインおめでとう、お姉ちゃん」
こいしちゃんは、満面の笑みを頬に湛えてさとりの前に立ちました。
そして、ピンク色のリボンでラッピングされて箱を差し出しました。
「これ、お姉ちゃんへの私の気持ち」
「ありがとう、こいし」
さとりが箱を開けると、そこにはハートの形をした真っ赤なチョコレートが。
こいしちゃんは、さとりの顔に思いっきり自分の顔を近づけて、囁くように言いました。
「これは、私の心臓を模したチョコなの。これこそが、私のお姉ちゃんへの気持ちの象徴。そして」
そこでちょっとだけ深呼吸をして。
「心臓ってのは、私の一番恥ずかしい部分。私の全部を、お姉ちゃんにあげる」
さとりは、黙ってこいしちゃんを抱きしめました。
そして、何度かついばむようなキスをして、お互いに見つめあいました。
こいしちゃんは、真紅のチョコを箱から取り出すと、さとりの口に入れました。
さとりは、ゆっくりと味わうように噛み締めて、言いました。
「……こいしの、味がする」
お互いに心の中がわからない二人が、少しだけ通じ合った瞬間でした。
それでもらしいと思わせちゃうのが古明地姉妹か。