Coolier - 新生・東方創想話

でも一人くらい本命が混じっていたりするやもしれぬね

2011/02/14 19:05:06
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一発ネタです。TS要素が入ります。


















 顔が真っ赤になった。

 ……それは酒が入っていたからというのも一因ではある。博麗神社の境内、催された宴会に大勢の妖怪や人間が集まってくるのは割といつものことで、彼女らがやたらと酒を呑みまくるのだっていつものことだ。魔理沙もその例に漏れず大量の酒を呑んでいたし、酔っ払っていた。だから顔が赤いのは仕方がない。当たり前のことだ。だがそのときはそれだけではなかったのだ。もう一つ理由があった。

 胸が。

 胸があたっていた。後ろから魔理沙に胸を押し付けるようにのしかかっているのは八雲紫。宇宙人や門番と比類して巨大な胸を持つことで有名な妖怪だった。“むにむに”だとか“ぽよぽよ”だとかそんなちゃちなもんじゃ断じてないその弾力は、もはや“ぼよよん”の極地に達していた。魔理沙の顔は赤い。相当に赤い。陳腐な表現に頼るなら、ゆで蛸みたいになっていた。

 ……この時点で違和感を覚えているものも少なくないはずだ。

 魔理沙は女の子なのだ。

 同じ女の胸を押し付けられて、男みたいに赤面するなんておかしいじゃないかと。

 きっと多くのものが思っているだろう。

 だが待って欲しい。魔理沙が女だという証拠はどこにあるのか。外見、言動、設定。色々あげられるだろうが、それでも女だというのが絶対の真実であるように語るのはナンセンスだ。こんなに可愛い子が女の子のはずがない。そう、魔理沙は。

 魔理沙は男の娘だった。

 それは誰にも知られてはいけない事実だったし、実際知るものもほとんどいない。彼女の家族はさすがに知っているし、女装云々が実家からの勘当の一番の理由になったりしたのだが、ともかく魔理沙は男である。男だから、きょぬーを押し付けられたら恥ずかしくもなるのだ。そんなことは素知らぬと紫は暢気に「暇だわぁ。暇ー、暇ー」とかなんとか駄々をもらしていたが、魔理沙はそれに構っている余裕は全くなかった。そして。

 ぼよよん。

 ぼよよん。

 ぼよよん。

 むっにゅぅー。

 魔理沙は「アッ」という間に限界を迎えた。

「……紫」
「なに?」
「それはわざとやっているのか?」
「スキンシップよ」
「度を越えたスキンシップのことを、人はセクハラと呼ぶそうだ」
「女同士なんだから、いいじゃない」
「……」

 それを言われると弱い。

 それを言われると弱かった。

 女の子として振舞っている以上、反論することなどできるはずもない。けっして、けっして知られてはならないのだ。魔理沙は今でもよく覚えている。女装した姿で「女の子になりたい」と打ち明けたときの家族の表情を、本当によく覚えている。そもそも“外の世界”で男の娘とかTSとか女装とかといった概念が違和感なく受け入れられるのはそれらがマスメディアやサブカルチャーによって徐々に浸透していったからであり、そういったもののない幻想郷において彼女の発言はあまりに異質だった。当然のことか、父親は肩を怒らせて憤慨し、普段温厚な母親でさえも明確に否定的な態度を示した。

 魔理沙は落胆した。

 失望した、といってもいいのかもしれない。いつも優しい両親なら、自分の特殊な心情も受け入れてくれると思っていた。一方的に信じこんでいた。しかし否定され、その日から魔理沙は彼らと不仲になり、徐々に家は居づらい場所へと変わっていった。魔理沙が勘当された最大の理由はそこにある。

 そういうわけだから、ともかく知られてはいけない。

 自分が男だなどとは。

 絶対に、知られてはいけないのだ。

 そうして、魔理沙が決意新たに現実逃避していると、ふと雑然とした喧騒の中に一際大きな声が聞こえてきた。「きゃー」とか「わー」とか姦しい声が酒の入った脳に響いてわずらわしい。いったい何事だ。これ幸いと紫をふるい落としながら、声のするほうへ向かってみる。

 そして顔をもっと赤くした。

 脱いでいる。

 珍しく宴会に出席していた紅魔館の門番が、酒が回っているのかぽけぽけとした顔をして、何の躊躇もなく衣服を脱ぎ捨てていた。それはもうばっさばっさと脱いでいく。その豪胆さに取り囲む酔っ払いたちが歓声を上げ、いいぞもっとやれと囃したてる。

 ほどなく、下着しかまとっていない艶かしい肢体があらわになっていた。

 魔理沙も死体になっていた。

 血が上りすぎて意識が飛んで、ばったーん、と盛大に音を立ててぶっ倒れたのだ。が、周りのものは酒を呑みすぎたのかとでも思ったのかさして気にしていない様子だった。

 しばらくして意識が戻った。

 見た。

 美鈴は今度は全裸になっている。

 服を着ろ。服を。

 魔理沙はたまらず叫んでいた。

 周囲の酔っ払いたちが大声を出した魔理沙に視線を向ける。「つまらないこと言いやがって」的な視線に怯む魔理沙だったが、ともかくこれ以上は目の毒だったので、なんとかして服を着てもらった。危なかった。本当に危なかった。今日はきっと厄日なのだ。神社の中に入ってのんびりしていよう。

 そんなことを考えて、そそくさと魔理沙は退散していくのだった。










 ところで今日は2月14日。

 外の世界で言うバレンタインデー。親愛をチョコで表す日だ。

 魔理沙もそのことは知っていた。バレンタインの風習は幻想郷では有名なものではないが、外の世界にも詳しい紫はまぁ知っているだろうし、彼女から話を聞いて知ったものたちなんかもいるかもしれない。とはいえ弾幕少女たちはもらう立場ではなくあげる立場であり、その大概が彼氏とかなんとかに興味のないような脳筋だったので、宴会ではむしろ不気味なくらいそれは話題にならなかった。少なくとも魔理沙はその単語を耳にしていない。

 なので、その光景を見たときは本当に驚いた。

 場所は霊夢の寝室。霊夢がいないならいないで一人で落ち着くし、いたならいたで話し相手になってもらおうと思い向かったのだが、果たして障子を開けた先にいたのは、にこにこした表情でチョコレートの包みを持つ霊夢の姿だったのだ。にこにこしている。にやにやとも見えなくない。楽しそうに口角を上げて、目尻を下げてにこにこにやにや。普段からクールなイメージの強い霊夢の、意外な姿を目にした魔理沙は見事なまでに固まった。

 霊夢も、魔理沙に気づいて固まった。

 お互いに固まった。

 沈黙が流れた。

 とりあえず、先ほどの美鈴の裸だとか紫の胸の感触だとかは吹っ飛んでくれた。

「え、えーと……お邪魔しました?」
「ちょ! まっ! 待って! 私は何も見ていないって表情で帰らないで! 誤解してる! 絶対誤解してるからぁ!」

 必死である。あんまり必死なので魔理沙は去るのはやめて、部屋の中に入って障子も閉めた。しかし驚いた。まさか、霊夢にチョコを渡したい相手がいて、しかもそれで霊夢がにやにやにこにこするなどとは、と思いつつ、「そっか、女の子だもんな……」と意味深に呟いてみる。

 霊夢は猛然と抗議した。

「だから勘違いって言ってんでしょ! これはあんたが思っているような用途に使うんじゃないのっ!」
「じゃあ、なんで? バレンタインってそういうイベントだろ?」
「え、えーと……まぁ……むぅぅ……」

 霊夢は歯切れが悪そうだ。やっぱ好きなやつがいるんじゃないか? と魔理沙は訝ったが、これは肯定の返事はもらえなさそうだ。初心だな。実に初心だ。むふぅ。

「むふぅ」
「……疑ってるでしょ」
「まさか。疑ってないはずがない」
「……月のない夜は気をつけなさいよ」
「いや、私はツキのある女だからな。こんな面白いシーンに立ち会えたわけだ」
「いつかその余裕の面を叩き割ってあげるわ」
「ほう。どうやって」
「え、えーと……ゆでる?」
「人は煮るなり焼くなりするもんだぜ」
「あなたは煮ても焼いても食えないやつよ」
「巫女は食べれる人類らしいが」
「いっぺん食べてみる?」
「くれるのか?」
「あげないわ。少なくとも今は」
「残念だ」

 チョコはくれないらしかった。

「にしても静かだな」
「静かね」

 静かだった。宴会は主に室内か、神社正面の石畳の道の周辺などを中心に行われる。月こそ隠れているが雲も少ない今日は皆外にいて、ここまで聞こえてくる音はわずかなものだ。ほんの少し口をつぐむだけで、空気には静寂が満ちるだろう。

 そして、ふ、と。

 ふと沈黙が降りた。

 そして二人はしばらくその静寂を楽しむように黙っていた。楽しげな笑い声がかすかに届いてきては、掻き消える。なのに不思議と疎外されているような感覚にはならない。そんな不思議な居心地のよさがあった。不思議と居心地がよくて、先ほど絶対に知られてはいけないと思いなおしたばかりだというのに、魔理沙は唐突に全てを打ち明けてしまいたい衝動に駆られた。それだけ霊夢を信頼していたし、隠しているのを苦しくも思っていた。

 まるで熱に浮かされたみたいな心地で。

「なぁ」

 と。

 魔理沙がおもむろに口を開く。

「友人に、とある重大な秘密を持っているやつがいるとしよう」
「そう言うあなたが犯人ね」
「勝手に殺人犯にしないでくれ。月の出ていない夜に気をつけなくちゃいけないのは私だろう?」
「まだ予告しただけだわ」

 霊夢は肩を竦めた。

「まぁ、とりあえず、そんなやつがいるんだ」
「いるんだ」
「どう思う?」
「どうって……どうも」
「どういたしまして」
「真面目に話すか、ふざけるかどっちかにしてよ」
「両方やらなきゃ時間がもったいないぜ」
「じゃあ、私も“真面目なおふざけ”で対向しなくちゃならないかしらね」

 突然。

 それは突然だった。

 突然霊夢はそう言うと“にやり”と意味深げに微笑んだのだ。何だ? と話の流れをぶった切られた魔理沙が聞き返すより早く、「ついて来て」と言い魔理沙を立ち上がらせる。部屋を出て、廊下を歩き、あっという間に宴会場へたどり着いた。魔理沙は霊夢の意図するところがまるで理解できなかったが、とりあえず美鈴は裸ではなかった。よかった。

 魔理沙たちが到着すると、酒を呑んでいたものもげらげら笑い転げていたものも、突然ぴたりと動きを止めて彼女らの方を見る。魔理沙はますます訝った。どうやら、何か悪戯かドッキリか計画しているようだが、いったい何が始まるというんだろう。

 霊夢が皆に向けて言う。

「ちょっと早いけど、もうやっちゃいましょう」

 するとあちこちから霊夢が先ほど浮かべたのと同じ“にやり”という笑いが返ってくる。魔理沙はだんだん不安になってきた。自分だけが何も知らないようだから、やはり自分がターゲットであるのは間違いない。事前に来るとわかっているだけ気楽といえばそうなのだが、気負うといえばそうだった。不安な目を霊夢に向けると、「大丈夫。皆、あなたのことを嫌ったりはしていない」とよくわからない言葉を返された。

「いや、だから、何が始まるんだ?」
「まぁまぁ、とりあえず主役は真ん中に」

 魔理沙は背を押されるままに、悪戯者たちの輪の中心へ向かう。みな何か手に隠し持っているのが確認できたが、何を持っているのかまでは、わからなかった。

「じゃあみんなー! せーのでいくわよ!」

 霊夢が号令をかける。これから何かが起こるという緊張に心臓が早鐘を打ち始める。覚えず、きょろきょろと落ちつかなげに見回したり、服のすそを握ったり離したりしていた。そのまま永遠とも思える時間が過ぎた。実際には数秒とたっていないのかもしれないが、それでもひどく長く感じた。もう一思いにやってくれ。そう思い始めた。

 思い始めたとき。

「せーの!」

 という声が聞こえて。

「こ、これは義理チョコなんだからねっ!」

 というニュアンスの言葉が方々から発せられ、大小様々種類色々のチョコが自分に向かって差し出された。理解した。魔理沙はすぐにこのドッキリの意味を、“わかっているし、受け入れる”という意図を理解することができた。もしかしたら、紫が胸を押し付けてきたのとか、美鈴が脱衣を始めたのとかも“わかったうえで”やっていたのかもしれない。ちくしょう。ひねくれものどもめ。素直じゃない。まったく素直じゃない。

 目から何かが溢れた。

 だがそれはきっと汗だ。ゆでられたみたいに顔が熱くなっていたから。

 そうに決まってる。

 人の悩みをあっさり笑い飛ばして失くしてしまえるような愉快なやつらに涙なんかは不似合いなのだと、心の底から笑いながら思った。
「……それで、いつからバレてたんだ?」
「つい最近。でも普通にバレてるよーなんていうんじゃらしくないじゃない」
「愉快犯め」
「“秘密を持っている友人がいる”んでしょう?」
いゃかし
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コメント



0.1140簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
悪くはないけど、ちょっと展開が急だな・・・
8.100アン・シャーリー削除
夢が広がり申す
18.100名前が無い程度の能力削除
まぁ原作台詞で合わない所は脳内変換すれば……


いける。いけるハズだ。