Coolier - 新生・東方創想話

地底のバレンタイン

2011/02/14 00:01:23
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2月14日。
バレンタインデーにチョコレートを送るという風習が出来たのはつい最近の事だったが、
いつの間にか幻想郷でもそのような風習が出来ていた。そしてそれは、地底世界でも例外ではなかった。
今は2月13日、バレンタインはもう明日に迫っている。
「や、パルスィ。明日は何の日か知ってるかい?」
退屈そうに橋を眺めていたパルスィを見つけて、ヤマメが話し掛けてきた。
彼女はパルスィの数少ない友人の一人で、普段からよくパルスィの所へ遊びに来ている。
「…は?明日って、別に何も無いでしょ」
突然の問い掛けに、面倒くさそうにパルスィが答える。パルスィ自身、別にヤマメの事を嫌っている訳ではないのだが、
誰とでも仲良く出来て、アイドル的存在になっている彼女を妬ましく思っていた。
なのでなるべく、彼女と顔を合わせないようにしている。
「それがあるんだよ、バレンタインデーって言ってね。分かりやすく言うと、好きな相手に贈り物をする日かな」
愛想がない事にも慣れている為、特に気にせずいつもの調子でヤマメが答える。
ヤマメの答えを聞いたパルスィは、途端に暗いオーラのような物を纏って険しい表情をしていた。
「…つまりアレね?そんな事してる妬ましい奴を、片っ端から潰していこうって言う…」
「いや、そんな事しないから」
予想通りの反応を返したパルスィに対し、すかさずヤマメが突っ込みを入れる。
そんな事をして周れば、即座に巫女辺りが飛んできて退治されるだろうというのは目に見えていた。
「だったら、なんで私にそんな事を言うのよ」
本気で言っていたらしく、パルスィの声に不満が混じっている。
それでも一応、暗いオーラは引っ込めて大人しく話の続きに戻った。
「なんでって…パルスィにだって渡す相手はいるんじゃないかなー、って思ったからね」
「好きな相手って事?そ、そんなのいないわよ」
顔を赤くしながら慌てて否定するが、そんな態度を返したら好きな相手がいると言っている様なものだった。
もちろんヤマメは、わざわざ確認するまでもなくその事を知っている。
「いやいや、隠さなくて良いじゃない。皆知ってるんだし」
ぽんぽん、と肩を叩きながらヤマメが落ち着かせるように言った。
パルスィの事を知っているヤマメ達にとって、勇儀の事が好きだという事は周知の事実である。
それでも本人は人前でそれを認めず、尋ねられる度にこうして否定している。
「と、とにかく、私はそんな事しないわよ」
ヤマメの手を払いのけながら、パルスィが否定した。
「んー、まぁ無理にとは言わないけど…しないなら仕方ないねぇ」
これ以上言ってもパルスィが機嫌を悪くするだけだったので、ヤマメは一先ず退散する事にする。
だがパルスィなら、一人の時にこっそり作って渡すだろうと考えていた。
「あ、ちなみに渡すのはチョコが多いらしいよー」
「知らないわよっ!」
そう言い残して帰って行ったヤマメを怒鳴りながら、その後姿が見えなくなるまで見送る。
「…バレンタイン…か」
辺りに誰もいないことを確認してから、パルスィはそう呟いていた。

「チョコレートなら、確かあったわよね…」
自分の家に帰ってきたパルスィは、ヤマメが予想していた通り、早速バレンタイン用のチョコレート作りに取り掛かっていた。
髪を後ろで縛り、エプロンも着けて本格的な料理をする体勢を整えており、相当気合が入っているのが見て取れる。
「…でも、どんなのを贈れば良いのかしら…?」
チョコを見つけたのはいいが、さすがにそのまま渡す訳には行かないだろうと思い、どうすればいいのか悩んでいた。
暫く考えていたが、調理するにしてもどんな風にすれば良いのかも分からず、途方に暮れてしまう。
こんな事なら素直に聞いておけば良かった、と思ったパルスィだったが、今更聞きに行くのはプライドが許さなかった。
「あぁもう、なるようになれよっ!……ん?」
ドスンっ!
悩んでいても仕方ないので、とにかく調理に取り掛かろうとした時、家の外で何かが落ちるような音が聞こえてきた。
調理の手を止めて、何事かと思い扉を開けて外の様子を伺うと、家の前に桶が落ちていた。
「……キスメかしら?」
桶の中に見えた緑色の物体から、この桶が釣瓶落としのキスメだと判った。
彼女はヤマメと一緒にいる事が多く、普段から仲の良い二人はパルスィにとって妬みの種の一つである。
「…こ、こんにちは……」
話し掛けるのに緊張しているのか、桶から顔だけを出してキスメが挨拶した。
以前はパルスィから話し掛けても脅えて桶に隠れてしまっていたので、随分と成長したものだと感心する。
しかし同時に、そんな風に成長したいる事が妬ましいとも思っていた。
「はいはい、こんにちは。何の用?」
素っ気無くしたら脅えて話が続かなくなる為、なるべく愛想よく話しかける。
それでも視線の高さが合っておらず見下す形になっている為、緊張は解けていないようだった。
「…ヤマメから……手紙…」
小さな声で用件を伝えると、桶から封筒を取り出して渡そうと手を伸ばす。
立ったままだったパルスィも、封筒を受け取る為にしゃがんでやる。
「手紙…?」
わざわざ手紙を寄越す理由が分からず、不思議そうに呟いた。
そもそもほんの数時間前に会って話をしたばかりである。
「…ま、いいわ。わざわざ悪いわね」
「……う、うん…それじゃ、帰るね……」
中身を確認すれば分かるだろうと思い、一先ずキスメに礼を言って家に戻った。
ちゃんと手紙が渡せたからか、礼を言われたからかは分からなかったが、キスメは少しだけ嬉しそうだった。

家に戻ったパルスィは、椅子に座りキスメが届けた封筒の内容を確認する事にした。
「まったく、なんのつもり…?」
丁寧に封筒を開けると、手紙の内容に目を通す。
手紙の出だしには、バレンタインチョコの作り方、と大きく書かれていた。
「…予想通りって訳ね。この手回しの良さが妬ましいわ…」
ヤマメの好意を素直に受け取れず、悪態をついてみる。それに、自分の行動を予想されたのも気に入らなかった。
だが、先程までどうすれば良いのか分からなかったパルスィにとって、この手紙はとてもありがたいものだった。
「えっと、先ずは…チョコを刻んで…」
早速書かれている内容に従い、チョコの作成に取り掛かる。
慣れた手つきでチョコを刻んで行き、次の工程へと進む。
普段から勇儀に料理を作ってあげる事が多い為、今ではすっかり料理にも慣れてこの程度の作業は難しくなかった。
「……ん、問題ないわね」
作ってる途中で味見をし、手順が間違っていない事を確認するとそのまま手順どおりに進めていく。
順調に進んでいたチョコレート作りだったが、再びパルスィの家を訪ねて来た者によって中断された。
「おーい、パルスィー」
ドンドン、と扉を叩きながら呼び掛けてくる。
声だけですぐに勇儀だと分かったパルスィは、慌てて勇儀を迎え入れようとする。
「今行くから、ちょっと待ってて」
調理中の格好のままだったが、そんな事気にしないだろうと思い、そのまま玄関へと向かうと扉を開けて勇儀を出迎えた。
「おや?料理中だったのか」
「え、えぇ、まぁね」
パルスィの姿を見た勇儀がそう言いながら、居間に上がる。
気にしないだろうと思っていても、少し恥ずかしくてパルスィは顔を赤くしていた。
「この匂いは…チョコレートだね?」
「そうよ、ちょっとお菓子作りをしてたから…」
今までチョコの調理を行っていた所為で、その匂いは居間の方まで届いている。
それに気付いた勇儀が尋ねて来たが、勇儀に渡す為に作っているとは言えないので、当たり障りのないように答えた。
「へぇ…そういえば、地上でも人気らしいよ。何かあるのかねぇ?」
よく地上へ呑みに行っている勇儀でも、バレンタインの事はよく知らないようだった。
幻想郷ではメジャーな行事ではないのでそれが普通なのだが、地上でも似たような事があると知って少し安心する。
もしかしたら、ヤマメに騙されているのかも知れないと思っていたからだ。
「かも知れないわね」
せっかく贈るのだから、当日に渡して驚かせたいと思ったパルスィは、やはり曖昧に答えるのだった。

チョコを作るのは一時中断して、勇儀と二人で食事をした。
以前の一件以来、勇儀は地上へ行った帰りには必ずパルスィの家に寄るようにしている為、こうして一緒に食事をする事も多い。
「いやー、やっぱりパルスィの作る料理は美味いねぇ」
パルスィの手料理を綺麗に食べ終えた勇儀が、満足そうに言った。
普段は簡単な食事かお酒のつまみで済ませている為、手の込んだ料理を食べる事はあまりないのだ。
「あ、ありがと…」
褒められた事に照れて、顔を少し赤くしながら嬉しそうに微笑んだ。
勇儀に手料理を振舞う様になってから、いつも美味しい料理を振舞える様に練習している。
だからパルスィにとって、勇儀にそう言って貰えるのが何よりも嬉しかった。
「どんどん上手になって行くし、大した物だよ。凄いねぇ、パルスィは」
そう言ってパルスィの頭をなでながら、片手に持った杯を煽った。
地上でも飲んできた筈なのだが、特に関係ない様子であっという間に杯を空にする。
「こ、これくらい、大した事ないわよ……それより、そろそろ帰らなくて良いの?」
頭を撫でられて先程よりも更に顔を赤くして、勇儀に尋ねる。
勇儀も多少は酔っている為、帰らずにパルスィの家に泊まって行く事もよくあった。
普段なら泊まって欲しいと思うパルスィだったが、今日に限っては一人でチョコ作りをしたい、と思っていた。
「んー、あー…そういや用事があったんだった」
パルスィに言われて暫く考え込んでいた勇儀は、何か用事を思い出したらしく今日の所は帰る事にした。
今日に限ってはその方がありがたいのだが、それでもパルスィは少し残念に思ってしまう。
「ん、そう…家まで一緒に行った方がいい?」
「大丈夫大丈夫、それに旧都は居心地悪いだろう」
少しでも長く一緒にいたいと思ってそう提案したが、勇儀はパルスィを気遣って申し出を断る。
確かに性格上、旧都の様に多くの妖怪が集まる場所にいるのはいい気分がしない。
それをよく知っているからこそ、勇儀は一人で帰るようにしているのだ。
「…分かったわ。帰り道、気をつけてね」
「あぁ、ありがとな、パルスィ。じゃあ、また」
帰りの道中で何かあるとは思えないが、念の為に気をつけるように言っておく。
心配するパルスィに礼を言い、パルスィに別れを告げると勇儀は旧都へと帰って行った。
「…よしっ」
もう一度気合を入れなおすと、チョコレート作りを再開した。

パルスィと別れた勇儀は、旧都に帰る途中で珍しい妖怪に出会った。
地底の奥底にある地霊殿の主、古明地さとりだ。
「おや、さとりがこんな所にいるなんて、珍しいねぇ。どうしたんだい?」
知らない相手でもないので、とりあえず声を掛けてみる。
普段は地霊殿から外に出ないさとりが、旧都にまで足を運ぶと言うのは余程の事があったのだろう。
「あ、あぁ、勇儀さん。私だって、たまには来る事もありますよ…」
さとりにしては珍しく、少し慌てながら答える。
しかしすぐに、そんな様子は見せなくなって普段の落ち着いた調子に戻っていた。
「ま、それもそうか。あんま無理するんじゃないよ、この辺は居心地悪いだろう?」
心を読む能力を持つさとりにとって、旧都などの人が多い所は通るだけでも大変だという事は分かっていた為、心配そうに勇儀が尋ねた。
旧都に住む妖怪の中にもさとりを畏れる者は多いので、尚更いい気はしないだろう。
「こんな時間ですし、通り過ぎるだけなら問題は…」
妹やペット達以外に心配される事に慣れていないさとりは、少し戸惑いながらそう言った。
そこでようやく、勇儀はさとりが丁寧に包装された箱の様な物を持っている事に気付く。
「なら良いんだが…ん?なんだ、それ」
「えっ、あ…これはその、えーと…バレンタインの…」
勇儀に尋ねられ、さとりは顔を赤くしながら、躊躇いがちに答える。
しかし勇儀は、バレンタインと言われても何の事なのかがよく分からなかった。
「バレンタイン?」
「あ、そうか、普通は知りませんよね…」
何のことか分からず聞き返す勇儀に対し、安心した様子でさとりが言った。
「その箱と、バレンタインとやらは何か関係あるのか?」
純粋な好奇心から、バレンタインが一体何なのかを確認しようとする。
「えっ、えーと…お世話になっている相手に贈り物をする日の事で、丁度明日…いえ、もう今日ですね」
好きな相手に、とは恥ずかしくて言えなかった為、その部分だけは置き換えて簡単な説明で済ませる。
しかし誰かに贈り物をする、という事はその相手を聞かれるのは当然だった。
「へぇ…で、さとりはそれを誰に渡すんだい?」
「え、あ、それはその…霊夢さんに…ほ、ほら、以前色々と御迷惑をお掛けしましたし…」
と、取って付けた理由でしどろもどろに答えながら、本音の部分を隠して答えた。
さとりの言った理由にも特に違和感はなかった為、疑っていないようだった。
「はぁ、なるほどねぇ…それなら私も、何か用意した方が良さそうだ」
普段から厄介になっているパルスィの事を思い出しながら、勇儀は何度も頷いていた。
それを読み取ったさとりには、勇儀が本当にパルスィに感謝している事がよく分かった。
「ふふ、そうですね。たまには御礼をしてあげる方が良いですよ」
「まったくだ。こういう切欠がないと、中々照れくさいからなぁ…」
そういった事とは無縁だと思っていたが、勇儀でも照れる事はあるらしい。
勇儀の珍しい一面が見れて、少し得した気分になりながら、何事もなかった風を装っていた。
「そうと決まれば、何か用意しないと…悪いけどこれで失礼するよ。またね、さとり」
「あ、はい…お互い、頑張りましょうね」
ぽんぽん、と頭を軽く叩いて、そのままさとりに別れを告げると家に帰って行った。
さとりの方も、目的地である神社に向けて出発する。
「…さとりも随分と変わったもんだねぇ…」
気になって振り返った勇儀が、そう呟いた。
地底での異変以来会っていなかったが、こんなに普通に会話できる事に驚いていた。
きっと、あの異変の解決に来た人間達が良い影響を与えてくれたのだろう。
さとりの姿を見た勇儀は、心配していた事が解決されて安心するのだった。

改めて、バレンタイン当日。
パルスィの作っていたチョコレートは無事完成し、後は勇儀に渡すだけとなった。
丁寧に包んだチョコレートを眺めて、そこである事に気付いた。
「…どうやって渡そう…」
いざ改めて渡す時になってようやく、どうやって切り出すのか、どうやって渡せば良いのか、などを考え始めていた。
作る事にばかり夢中になっていた所為で、そこまで気が回っていなかったのだ。
「…今日は何の日?って聞く所から入れば…いや、でも…うーん…」
何か良い案がないかと頭を捻るが、そう都合よく良い案が思い浮かぶはずもなく、時間だけが淡々と過ぎていった。
そうこうしている間に、勇儀がパルスィの家を訪ねて来た。
「おーい」
いつもの調子で、ドンドンッ、と扉を叩いてパルスイに呼び掛けた。
考えがまとまっていなかったパルスィは、その声を聞いて更に慌ててしまう。
「ゆ、勇儀!?ちょ、ちょっと待っててっ!」
「え?あ、あぁ」
怒鳴るように言ってしまい、その事を反省しながら、とりあえず落ち着くために深呼吸をする。
ここまで来たら、とにかく渡すしかない。後の事はなるようになる、と少しヤケになりながらもそう自分に言い聞かせた。
そして覚悟を決めると、勇儀を迎えるために玄関の方へと向かう。
「え、えっと、怒鳴ってごめんなさい、もう大丈夫よ…さ、上がって」
「いや、気にしなくて良いさ。お邪魔します、っと」
慌てていたとは言え、怒鳴ってしまった事を申し訳なく思いながら、勇儀を迎え入れた。
背中に贈り物を隠していた勇儀は、その存在に気付いていない事を確認して安心する。
パルスィが怒鳴った事など気にせず、普段と変わらない調子で家に上がるのだった。
(…さて、どうやって切り出すかねぇ)
内心では、柄にもなく持ってきた物をどうやって渡すのかを考えていた。
いつもなら迷う暇があったら行動する、が基本なのだが、パルスィの前ではどうにもそれが出来ないのだ。
「…どうかしたの?」
何となく落ち着かない様子の勇儀が気になって、パルスィが尋ねる。
「あ、あぁ、いや、なんでもないよ」
その心配そうな表情を見て、慌ててなんでもないように言った。
やはり悩むのは性に合わない。とにかく行動するしかない、そう思い直して覚悟を決めると早速行動に移すのだった。

「あー、えーと…パルスィ。今日は…なんだ、その」
いざ口に出して伝えようとすると、どうにも上手く言葉が出てこなかった。
それでも、とにかく渡さないまま終わる訳にも行かないので、強引にでも話を進める。
「…さとりに聞いたんだが、今日はバレンタインとやらで、世話になってる奴に贈り物をする、って日らしいんだ」
そこまで言って、パルスィの様子を確認する。
勇儀がバレンタインの事を知っているとは思っていなかった為、パルスィは驚いた表情で頷く。
「で、私もパルスィに渡そうと思ってだな…急だったから、こんな物しか渡せないんだが…」
そう言いながら隠していた物を取り出すと、パルスィに差し出した。
酒瓶にはラベルも何も貼られておらず、中には透明なお酒が入っていた。勇儀が自分で作っているお酒である。
このお酒はそれに手を加えて、パルスィが呑みやすいように改良したものだ。
「あ、ありがとう、勇儀…その、えっと…凄く嬉しい…」
まさか勇儀からバレンタインの贈り物があるとは予想していなかったので、嬉しさと驚きが合わさって自分でもよく分からなくなっていた。
柄にもなく素直に気持ちを伝えたパルスィは、お酒を受け取り顔を真っ赤にしながらはにかんでいる。
「はは…そう言ってもらえると、ありがたいね」
勇儀も照れているようで、珍しくお酒以外で顔を赤くしながら、頬を掻いていた。
「…じゃあ、私もお返しに…」
勇儀が作ったきっかけに便乗するように、パルスィも用意していたチョコを持ってくる。
少し予定は狂ってしまったが、この機会を逃すと切り出すのは困難になるだろう、と判断しての事だった。
「それは…」
「チョコレート。勇儀の口に合うか分からないけど…私からの、プレゼントよ」
面と向かって渡すのは恥ずかしい為、真っ赤になった顔を逸らしながら、勇儀にチョコを差し出した。
内心では相当に緊張していたが、必死にそれを隠そうとしている。
「ありがとな、パルスィ」
嬉しそうに受け取る勇儀の姿を横目で見ながら、安心して胸を撫で下ろした。
「そういえば、昨日私が来た時に作ってたのは…」
そしてある事に気付いた勇儀が、昨日のパルスィの様子を思い出して尋ねる。
「そうよ、この為よ。ヤマメの奴が…その…す、好きな相手に渡す物だ、って言ってたから…」
自分で言ってて余計に恥ずかしくなり、顔から湯気が出そうなほどに赤くなっていた。
いつものパルスィなら絶対に言わなかったが、この雰囲気に流されて想いを伝えてしまったのだ。
「好きな相手、か…それならつまり、両想いって事だね」
「きゃっ…な、何よ、急にっ…」
その言葉を聞いて嬉しそうに笑いながら、勇儀がパルスィを抱きしめた。
突然抱きしめられて慌てて抗議するが、嫌がる筈がなく抵抗もしなかった。
「良いじゃないか、減るもんじゃないし。な?」
「あぁもう…そりゃ、まぁ…イヤじゃないけど…」
勇儀に頭を撫でられて、恥ずかしさで失神してしまいそうになりながら、そのまま大人しく身体を預ける。
まだ冬で少し肌寒い事もあり、こうして抱きしめられていると勇儀の温もりを感じて安心できた。
「それじゃ、折角作ってくれたんだし…一緒に食べようじゃないか」
パルスィも大人しくなった所で、勇儀がチョコの包みを開けながら言った。
勇儀の持ってきたお酒もあるので、丁度いい提案だった。
「ふふ、そうね。二人で一緒に…」
迷う事無く勇儀の提案を受け入れたパルスィの表情は、とても嬉しそうで幸せそうだった。
そんなパルスィを見て、勇儀は、この少女の笑顔をどんな事があっても守り抜こう、と強く心に決めるのだった。
という訳で、久しぶりの投下はバレンタイン記念SSです。
勇パルで自分の書いた作品との関連もちょっとありますけど、読まなくても影響はないと思います。
ですが興味を持ってもらえたのなら読んで貰えると嬉しいです、すごく。
秋朱音
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8.100名前が無い程度の能力削除
うわぁ、甘いぜ!
二人に僕がパルパルしちゃうよ。
10.100嫉妬するこーろぎ削除
パルパルパル…、ハッ!?
二人ともよかったですな。しかし、二人を見ていて胸がチクリとくるのは気のせいですかな?