Coolier - 新生・東方創想話

山の天狗と内輪揉め

2011/02/10 17:43:04
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 妖怪の山で宴があったのが、つい昨日。

 例に漏れず、大酒呑みの鬼と山の神二柱が、気まぐれに唐突に始めたわけだが、もちろん私たち鴉天狗にも誘いの声が。
 鬼に負けず劣らず酒が強いうえ、酒の席はネタの宝庫。誰もが記者気取りな鴉天狗たちは、酔いと雰囲気に軽くなった口から零れ落ちるゴシップを掴みとらんとして、それこそ死体に群がる烏の如く集まってくる。
 実際、鴉天狗同士の会話はひどいものである。相手から何かしら情報を奪い取ろうと、騙し、出し抜き、裏をかく。
そんな殺伐とした宴会は御免こうむるため、私は参加しなかったが。

 しかしながら、パパラッチどもばかり集まるわけでなく、山に住む多くの妖怪が集まってくる。そもそも企画が鬼と神なのだ。社会的組織を築く妖怪の山では、絶対とも言える強制力を持つ。
社会に馴染めそうに無かったので、私は参加しなかったが。

とはいえ、飲めや歌えやの馬鹿騒ぎは妖怪たちの十八番、大勢の集まるところを見れば、特に理由無くともついつい吸い寄せられてしまうもの。山の妖怪は排他的な分、仲間意識が強いため、山の妖怪同士ならば初対面でも家族のように仲良くなってしまう。
そういった人付き合いは面倒だから、私は参加しなかったが。

重ねて言うが、私は参加しなかった。今しがた挙げた理由も含めた様々な理由から、私は宴会に出ていない。決して一緒に行く友達がいなかったからとかじゃなく、自分の意思から参加しなかったわけだが。いや、ホント誘ってもらえなかったからとかじゃないよ。


「なのになんで、こんな目に……」


私は今、射命丸文と犬走椛と三人で、飲みに来ている。















ここは知る人ぞ知る、ミスティア・ローレライの八目鰻の屋台。その評判は人妖問わず高く、なにやら語らうには絶好の場だ。屋台の周囲には円卓と丸椅子がおかれ、私たちはそれぞれ等間隔に円卓を囲っている。
今日は屋台に少し険悪な雰囲気があり、その中心は間違いなく目の前の二人である。他のお客さんが迷惑そうにこちらを見るが、当の本人たちは知らん顔している。結果、私のほうに「何とかしろよ」的な視線が集まっており、なんと言うか、うん、その、非常に居たたまれない。


「はい! お待たせしましたーっ!」
「あ、ありがと」


注文した酒をミスティアから受け取りながら、彼女のはきはきとした仕事振りを見て思う。
この相変わらずの元気な態度、悪い空気をなんとか変えようと奮闘しているのか、もともと空気を読めないのか微妙なラインだが、私はおそらく後者だと思う。なにせ鳥だからね、と根拠を挙げてみるが、そういえば私も鳥だったな、とこの説は撤回。うん、ミスティアはいつもこんな感じだし、この仕事を一生懸命こなしているだけだろう。

っと、完全に現実逃避に走っていたが、今私が置かれている状況を説明しておこう。記者の端くれらしく、5W1Hに則っていこうか。いつ(when)、どこで(where)、誰が(who)、何を(what)、何故(why)、どのように(how)ってね。

 今(when)ここ(where)で、私と文と椛が(who)険悪な空気をかもし出してながら(how)飲んでいます(what)。何故?(why?)
 さあー、なんでかしらー、私が聞きたいわー、本当にー。

 まあ、冗談は置いといて、まず私が何を目的としてこんなことをいているかといえば、ズバリ二人の仲立ちである。しかも驚く無かれ、大天狗様直々のお達しである。。
 なにやら昨日の宴会で、この二人が大喧嘩したらしい。いつも顔を合わせれば当たり前に口論する程度には仲は悪かったが、こんなあからさまに衝突したのは初めてだとか。
 まあ、別に誰かを巻き込んだわけでもなく、むしろいい酒の魚として周囲から煽られたため、二人の喧嘩は激化。弾幕勝負にまで発展したわけだが、大天狗様がいい加減に仲良くしなさいとこの席を設けたとか。
 で、仲立ちするのに誰が良いかと考えた結果、昨日の一件を知らないうえ、二人と適度に仲のいい私が選ばれたというわけ。
 あーあ、これじゃ何のために宴会に参加しなかったのかわからないわね。


「で、なんで喧嘩になったわけ?」


 どちらとも無く話を振ってみる。私が伝えられたのは『喧嘩した』ということのみで、経緯も何も知らないのだ。


「…………」
「………………」


 わあ、シカトされた……。
 そりゃそうか。一応向かい合ってはいるが、互いに目をあわせようともしない。ここに来てから一言も言葉を交わしていないのだ。文は体を明後日の方向へ向け、完全な無表情で感情が読み取れない。その視線がどこに向けられているのかも定かではない。椛はそれと対照的に、頬杖をつきながら終始むすっとしている。明らかに嫌そうだ。真面目で礼儀正しい椛にしては珍しい態度だが、そこまでするほど嫌なのだろう。

 とりあえず、立場的にある程度コントロールできるほうから……


「……椛、なんで喧嘩になったの?」


 努めて笑顔で、それでもって恐る恐る聞くと、椛が剣呑な視線でこちらを見てきた。うわ、こわぁ……。
 椛は「なんでそんなわかりきったことを……」というようにため息を吐いた。


「そんなの、」
「チッ」


 と、そこで舌打ちが聞こえてきた。誰のものかは明確で、文は相変わらずの無表情で舌打ちしたのだった。
 気を取り直して、椛が続ける。


「射命丸様が「チッ」いつものように「チッ」根も葉もない「チッ」噂話を「チッ」得意気「チッ」なし「チッ」わってい「チッ」の「チッ」気「チッ」入ら「チッ」から――」


ガタッ! 「まあまあまあ落ち着いて椛!」


 こめかみに青筋を浮かべ椅子から立ち上がりかけた椛を慌てて止める。椛は今にも背に担いだ大剣を抜こうとしており、顔にはもはや表情は消えている。椛って切れるとこんな顔するのね。さっきまでと迫力が違う。
 それより問題なのは文だ。なんだコイツ、カンジ悪いな。一応止めはしたけど、私個人としてもこんな奴、斬られてもしょうがない気がする。
 椛は杯に注がれた酒を一気に飲み干すと、また頬杖をついて黙り込んでしまった。
 気まずい時間が続く。

 とりあえず現状の打開が必要である。
 今度は文に声を掛けてみた。


「文、喧嘩になった理由は?」

「……」


 ……いや、期待しちゃいなかったけどね、こう何度も無視されたら、結構クるものがあるんだけど。
 しかしここで引くわけにもいかない。ここで引けばまた気まずいだけだし、何より文相手に引くのはなんか癪だ。


「ちょっと文!」


 円卓を思いっきり叩いて強気に出てみる。周りから何事かと視線を集めたが、そんなもの今更過ぎて気にもならない。が、文がこちらを向いたときは、頭の中の自分が土下座していた。だって文、怖いんだもん。引きこもりの根性などこんなものよ。
 怯んでしまった。こうなってはもう、何を言っても説得力に欠ける。今までも説得力があったかといえば、そうでもなかった気がするが。
 というわけで、状況は好転せず、むしろ悪化。私は惨めにちびちびと酒をすする。
……ふっ、これ以上私にどうしろと?


「……いい加減、帰ります。ここにいても、胸クソ悪いだけなんで」


 そう言って、椛が席を立った。待て待て待て、そんなことしたら私がまずいんだって!


「ちょっと、椛待ってよ! まだろくに話もしてないじゃない」
「話できないでしょう、射命丸様はチッチッチッチッと鳴いてばかりですし。ちょっと鳥の言葉は私には理解できかねますので」

 うわあッ、とうとう椛が毒を吐いた! しかも視線がより粘着質なものに……。
 意外な一面にあっけに取られていると、とうとう文が口を開いた。


「あっれ~、いいのぉ? 大天狗直々の顔合わせでさぁ、大天狗の犬っころのあんたが命令無視して」


 今度は文に唖然とする。
 なんだその神経を逆撫でする効果しか期待できない喋り方は。しかも犬って、椛に犬って、真面目な椛はそれを一番気にしてなかったか?
 恐る恐る椛を見ようとしたが、そんな必要はなかった。なぜなら、椛が文に向かって噛み付いたからだ。比喩じゃないよ。
 そこは鴉天狗、次の瞬間にはその場から消えていたが、文の座っていた椅子が椛に噛み砕かれてしまった。さすがは犬、あ、違う狼です、すみません椛さん。


「さすがは犬ねぇ。なりふりかまわず噛み付いてくるなんて、白狼天狗の中でもあんただけじゃないの?」


 既に椛の後ろに回りこんできゃっきゃと笑う文。それをギロリと睨めつける椛。
 ……なるほど、こういう風に喧嘩になったわけだ。たぶん、お互いがお互いの地雷を的確に踏みつけているのだろう。しかも故意で。
 さっきまでの重苦しい空気は一変した。しかし、パニックになったわけではない。周りが二人を囃し立てているのだ。
 二人が本気になればなるほど、見ている分には楽しめる。たしかにこれは、酒の席ではもってこいだ。
 ちょっと人様にはお見せできない顔の椛が口を開く。


「だぁれぇが、犬だこのクソ鴉ッ! 適当なことばっか言いやがッて! どれだけ迷惑かわかってんのかコラァ!」


 …………誰?
 あの口汚い椛っぽい人は誰? 私の礼儀正しい椛はどこに行ったの?
 どうやらあれがブチ切れ椛らしい。普段の礼儀正しさはどこへやら、チンピラ口調でまくし立てる。いつもの態度はこれを隠してるのかもしれないとさえ感じてしまう。


「適当も何も、核心突いてるからあんたもキレてんでしょ? だいたい、ちょっと馬鹿にされたくらいで何キレてんの?」


 文は文であれが地らしい。前々から性格悪いだろうとは思っていたが、実際目の当たりにすると、素で引く。かなり引く。どれだけドロドロの内面してんだこいつ。
 止めようかと思ったが、これで喧嘩の原因がわかるかもしれないと、様子を見ることにした。というか、そもそも私が止められるものなのかコレ。


「お前の記事もいっつもそうだよなァ! 面白おかしくも限度ってもんがあるだろうがッ! だいたい、人の気にしてることを面白おかしく書かれたって、笑えるわけねぇだろがッ!」
「はぁ? 新聞記事は面白くてなんぼでしょーが。そりゃ一部脚色してるのは認めるけどさぁ、そこから先は読者のとらえ方しだいでしょ? 事実は事実なんだから、それは自己責任じゃん」
「無責任なこと言ってんじゃねーぞ! お前の記事、人里まで広がってるって話だぞおい! つか、人里まで顔を出すんじゃねーよ、山の新聞だろうがッ!」
「そんなの関係ないっつーの。面白いネタがあれば里だろうと森だろうと、どこまでだって行くわよ」
「節操がねぇって話をしてんだよビッチかてめぇ!」
「大天狗に尻尾振ってばっかのマゾ犬が偉そうに吠えないでくれるキモイから」


 あ、ヤバイ、これ以上は駄目な気がする。
 だけど、なんとなく二人の溝が見えてきた気がする。
 椛はたぶん、鴉天狗の作る新聞自体が気に入らないのだろう。脚色、誇張、尾ひれも蛇足もつけまくって、自分が楽しいと思うとおりに事実を捻じ曲げる鴉天狗のやり方が。しかもそれは新聞記事として、山中に広がる。
 それに加え、文は鴉天狗の中でも随一に顔が広い。人里や、山の外にも取材に回り、新聞を配る。当然、捻じ曲げられた事実が、幻想郷のいたるところに広がるのだ。たぶん、そのことが、真面目な性分の椛には気に食わなかったのだろう。
 ……もしかしたら、過去に何か記事にされたのだろうか。


「知ってんだよお前、博麗の神社で巫女に出禁くらってんだろ! しかも山の巫女には『カラスは無理』とか言われたらしいじゃねぇか!」
「あんたこそとうとう河童に愛想つかされたらしいじゃない? 普段から能力で何してたか知らないけど、それバレたんでしょ?」
「何にもしてねえよ! お前の記事じゃねぇか! にとりが完全に不審者を見る目で見てくんだよ、ざけんなよてめぇ!」
「普段の振る舞いに何かあったからのそうなったのよ。変な気さえ起こさなきゃねぇ……」
「グルルルルルルルゥゥゥッ!!!」

 ……やっぱり記事にされてたんだ。椛がうなってるヨ。
 まあ、今はとりあえずヤバイ。今止めなければ、喧嘩がとんでもないところに流れていく気がする。
 そう思い二人の間に立つ。


「まーまーまーまー! ちょっと落ち着こう二人とも! 大天狗様の顔も立てて、ね?」


 だいたいの天狗は、天魔か大天狗の名を出せば大人しくなる。文は自分より強い相手には楯突かないし、椛も、うん、ま、あの、忠実だし。
 しかし、変なところに飛び火してきた。


「なんなんだよてめぇ」
「邪魔なんだけど、あんた」


 二人に睨まれて、冷や汗がぶわッと噴き出す。既にガチで泣いてる私だけど、これ以上はどうなるかわからないよ。
 二人の間に入ったはいいが、逆に言えば挟まれて身動きが取れなくなる。なにかアクションを起こそうとすると、絶対にやられる。殺られる。


「引きこもりがなに、でしゃばってんだよ。引っ込んでろ社会不適合者」
「あんまり近寄ってこないでよね、暗いの伝染すんじゃん」


 んんッ?


「だいたい、なんで茶髪なんだよ。引きこもりが気にするとこ、そこじゃねえだろ」
「あんた何歳でツインテールしてんの? 年考えたら?」


 おいおいちょっと……。


「もっと別に気にするとこあんだろ、人間関係とか」
「あんた、宴会ハブられたらしいじゃん。痛いんだけど」
「あれだろ? 今回選ばれたのも、お前、友達いないからついでに仲良くなっとけってことだろ?」
「あんまり私のこと喋んないでね? 仲いいと思われたくないし」
「早苗さんに聞いたんだけどさぁ、お前の持ってるカメラ、外の世界じゃ『携帯電話』って連絡手段らしいぜ? そんな使い方もできんの?」
「わかるわけ無いじゃんこいつが。連絡取る相手いないんだから」
「まあ、そりゃそうか」


「お前ら言っていいことと悪いことがあるだろーがああぁぁぁ!!!」


 ゲラゲラと笑う二人に、泣きながら叫ぶ。


「引きこもりって、何が楽しみで生きてんだ? 教えてくんね?」
「ほら、念写とかでそういう写真集めてんのよ、あいつ。それしか考えらんないじゃん」
「うわっ、まじか。写真とか私より性質悪いじゃねーか。黒歴史見てほくそ笑んだりしてんだ、アブねー」
「私たちの写真集めてハァハァ言ってんのよきっと。ありえないんだけど」


「あんたら人の傷抉って楽しいの? 私もう泣いてるからね、ほらっ! てゆうか、なんで私を貶すときはチームワーク抜群なの? もうちょっと優しくしようよ!」


 最後は完全に椛→文のコンビネーションだったよ!
 涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をして訴える私に、二人は


「「生理的に無理」」


 アルトとソプラノで完全にハモリやがった二人は、私の心に止めを刺した。











 そのあとのことはよく覚えてない。
 ただ、最近、文と椛の仲が改善したことと。
 二人が妙に私に優しくなったこと。
 そして念写の検索履歴に『文』『椛』の名前が残っていたことが気に掛かる。



 ……やっべ、やっちゃった☆
あれです、文と椛が公式で仲悪いらしいんで、仲良くしてもらうには敵を作るしかなくて、その役をはたてさんにやってもらったんですが、書いてるうちにはたてさんが不憫すぎて、うん、まあ、こんなカンジに。
個人的にはあやもみの気分で。

はたてさんにはヤンデレの素質があると思います。


最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
梔子
http://
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コメント



0.390簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
仲悪すぎワロタ
2.80名前が無い程度の能力削除
うーん…途中までは良かったんだけどなぁ…
何なの?作者の間ではキャラ虐めが流行ってるの?虐めれば点数貰えると思ってるの?
マジで不愉快
11.90名前が無い程度の能力削除
なんだこれ。面白いな。
てか二人の口が悪すぎてwww
はたてさんはいじられキャラの称号を手に入れた。
15.100名前が無い程度の能力削除
前に携帯で読んで、PCにブックマークしましたw
・・・どうしてこうなった!?w

ほたてに幸あれ・・・(ん? 何か間違えたな・・・
17.10名前が無い程度の能力削除
これはない