Coolier - 新生・東方創想話

博麗神器異変 勾玉の章

2011/02/06 19:40:56
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次に魔理沙が目覚めたのは、何故かベッドの上だった。
目に映る天井も、顔のすぐ隣にある壁も、自分の知らないものだった。
ゆっくりと体を起こしてみると、全身に妙なだるさを感じたが、特に痛むような傷などはないようだった。
部屋はどう見ても和室で、窓は障子張りになっているし、床は畳張り。ベッドが置かれているところだけが何故かフローリングになっていて、自分はそこに寝かされているのだ。

「ここは……どこだ?」
「永遠亭の一室よ」
「うわぁ!?」

目の前にいきなりうにょっとスキマが現れたかと思うと、中から紫が顔だけ出てきて魔理沙の質問に答えていた。
あまりに唐突なその出現に、魔理沙は心臓が止まるかと思った。
紫は、一度スキマを閉じると、今度は全身通れる大きなスキマをベッドの横に開いて優雅に登場した。部屋の中に突然現れることを優雅と表現すべきかどうか、魔理沙は若干悩んだのだが。

「お前なぁ……あんまり驚かせるなよ」
「ふふ、ごめんなさい」

まるで少女のように悪戯っぽい笑みを浮かべる紫を、魔理沙は素直に不気味だと思った。
自分より何百年と生きているはずの妖怪が、それを思わせないくらい幼い笑顔を浮かべるのだから、これは不気味である。
むしろ、いつもの妖艶な笑みの方が何倍もマシに思えた。
それはともかく、と魔理沙は思考を切り替えた。

(なんか紫の機嫌が良すぎないか)

そしてその思考はこういう結論に至る。

「とりあえず何があったか教えろ、全部わかってるんだろ?」
「本物の霊夢の居場所以外はね」

なんだって?と、魔理沙は間の抜けた顔を紫に向けてしまった。
その魔理沙の顔を見て可笑しそうに紫が笑う。
自分が不意をついたはずなのに、むしろつかれたのは自分の方だったのだから、魔理沙が間抜けな顔になるのも、紫がそれを見て笑ってしまうのも仕方が無い。

「いいわ、じゃあまずは、あなたがどうしてここにいるのか話しましょうか」

そうだ、まずはそれを聞かなくてはならないと魔理沙は思った。
確か自分は白玉桜にいて、霊夢、いや偽者の霊夢と交戦して……どうなったんだ?
紫は近くにあった木製の椅子をベッドの隣まで引っ張ってくると、それに腰掛けてゆっくりと口を開いた。

「あなたは『剣』と交戦して、ぎりぎり打ち勝ち、その後気を失ってしまったの。そこで私がスキマを使ってここまで運んできたのよ。ちなみに妖夢も連れてきたから安心しなさい」

それを聞いて、魔理沙の中に徐々に記憶が蘇ってくる。
最後に放ったマスタースパークで魔力を消費し過ぎて、ガス欠になってしまった魔理沙は、地上に落下する寸前で、紫の手により救い出された。
紫はずっと魔理沙や妖夢の様子をスキマから覗いていたのだった。そのため、妖夢が重傷を負ったことにも気がついており、魔理沙と偽者の霊夢が闘っている間に、既に永遠亭まで運びこんでいた。
妖夢は相当重傷だったように思ったが、永琳がついているならおそらく大丈夫だろう、と魔理沙は安心していた。

「永遠亭は『剣』によって怪我をした者達が大勢押し寄せているんだけど、まぁそれは『ここ』の問題だから今はいいわね」

それはちょっとかわいそうじゃないだろうか、と思いつつ、魔理沙は紫の言動に違和感を覚えた。

「なぁ紫、さっきから偽者の霊夢のことを剣という言葉に置き換えて使っているみたいなんだが?」
「よく気がついたわね。というよりも、よくぞあの霊夢が偽者だということを見抜いたわね魔理沙」

紫は魔理沙を抱きしめようと迫ってきたが、魔理沙は遠慮願うとばかりに両腕で紫を押さえつける。しばらく交戦が続いたが、紫もあきらめたらしく、仕方なしとばかりに再び椅子に腰掛けた。
額の汗を拭いつつ、今のこいつは本当にご機嫌だな、と魔理沙は改めて思った。

「あなたが確信していたとおり、あの霊夢は偽者だった。あなたのスパークを浴びて、消え去ってしまったのだからね」

あの時、弾幕やスパークでぼろぼろになっていた霊夢は、自分の胸に剣が届く頃には既に消えてしまっていたのを思い出す。いくら全身でマスタースパークを浴びたからと言って、人間の体が消滅してしまうことにはならないと、魔理沙自身がよくわかっていた。

「そしてあの剣だけがそこに残った。私はそれを回収して、少し調べることにしたの。そしてわかったことがある」

紫は自分の目の前に新しくスキマを開くと、そこから一本の剣を取り出す。
それは、紛れもなく偽者の霊夢が持ち、魔理沙が闘ったあの剣であった。
その刀身は銀色に輝いていた。いくつか血の後のようなものも見えるが、おそらく紫がふきとったのだろう。
その剣をベッドの空いているスペースにおいて、スキマを閉じた。

「この剣、何か見覚えがある気がしてね。記憶を辿ってみたら、これは博麗神社のものであることを思い出したの」
「博麗神社の?」
「ええ、通称博麗三神器、これはそのひとつ、剣よ」

その後、紫が話したことをまとめるとこうである。
博麗三神器とは、初代博麗の頃からこの神社に置かれていたものらしい。当時この神器の存在を紫自身が知っていたわけではないのだが、後の博麗の巫女の話によれば、先代の頃には妖怪退治に使われることもあったそうだ。ただ、この博麗三神器はあまりにも強力すぎた。具体的には、少し力を解放しただけで、妖怪を簡単に死に至らしめてしまうくらいには強力だった。
博麗の巫女は妖怪を退治することはあっても、殺すことはしない。稀に、本当にどうしようもないという時だけ殺すことはあるが、余程のことでなければ、博麗の巫女は妖怪を殺さないのだ。
つまり、博麗三神器は巫女にとってむしろ重荷となってしまったのだ。これを使うと、むしろ妖怪を殺さないように力をセーブして戦わなければならないということもあって、巫女はこれを使うことを止めて、封印することを選んだのだという。
それが博麗三神器と呼ばれるものであり、この剣の正体であった。
そこまで話を聞いた時、魔理沙の中にある記憶が蘇った。

「そうだ、霊夢の部屋にあった三つの箱!」
「ええ、それもあなたが寝ている間に私が確認したわ」

おそらくあの中に三つの神器が封印されていたのだろうと紫は推察した。
小さい箱に入っていたのが『勾玉』
中くらいの箱に入っていたのが『鏡』
大きい箱に入っていたのが『剣』
そしてそのひとつは、今ここにある。
魔理沙は服にしまっておいたはずのあるものを取り出して、紫に見せた。

「この御札なんだが、その封印とやらに関係があるんじゃないか?」

紫はそれを受け取ると、部屋の明かりに翳すようにして観察する。

「……おそらくそうね、私は巫女ではないからわからないけれど、博麗の巫女が封印に使うものにこんな御札があった気がする。これをどこで?」
「箱に貼ってあったから勝手に持っていったぜ」

にかり、と良い笑顔をする魔理沙を見て、紫は思わず苦笑してしまった。

「まぁあなたの蒐集癖もたまには役に立つわね。剣からあなたを守ったのもおそらくこれの力でしょう。もう力は使い切っているみたいだけど」

最後の場面で、剣は魔理沙の胸を貫くはずだった。
しかし何らかの力によって剣はその勢いを失ってしまったのだ。
あの時の魔理沙にはその原因がわからなかったが、御札に残されていた封印の力が、剣の力を失わせたのだろう。

「しかし、わからんな。剣の正体は良いとしても、あの霊夢はなんなんだ?」
「その辺り、私の勘でいいかしら?」
「ああ、いいぞ。なんだかお前の勘は霊夢並みにあてになりそうだしな」
「ありがとう。あの霊夢はおそらく神器の力が生み出した実体のある幻影とでも言うべきもの。霊夢を捕えてその姿や力を借りている。おそらくは『鏡』の持つ力だと推測されるわね」

剣はここにあるが、残る2種類の神器はここにはない。
そして紫はまだ霊夢の居場所を見つけられていないのだという。
だとすれば、残る神器によって捕らわれていると考えるのが道理だろう。

「さて、あなたがこれから何をしなければならないか、わかったかしら?」
「残る2種類の神器の居場所を見つけて、霊夢を救い出すってところか」
「大正解」
「なるほど。いや、でも待てよ、神託うんぬんじゃないことはもうわかったんだから、お前が手を出してもいいんじゃないのか?」

それを聞くと紫は静かに首を振った。
そして魔理沙にこう告げたのだ。

「現状を教えてあげましょう。今、幻想郷中に偽者の霊夢が大量に出現している。白黒の衣装をした魔法使いを探してね」

突拍子もないことを言い始める紫に、魔理沙はもう頭がどうにかなってしまいそうだった。
なぜこうも訳のわからないことばかりを平然と言えるのかと、魔理沙は紫を恨めしく思った。

「そういうわけで、迂闊に私が手を出すよりは、魔理沙が出向いたほうがいいと思うのよ」

ただでさえ謎ばかりだった状況がようやく改善したかと思ったら、今度は幻想郷中に偽者の霊夢が現れたなんて、もうほんとに勘弁して欲しいと魔理沙は思った。紫の家に訪ねた当初の、勢いに溢れていた自分が、最早遠い昔のことに思えた。
しかし、それは自分の中に確かな安堵感が生まれたからだろうということもわかっていた。
やはりあれは霊夢ではなかったのだ。霊夢が妖怪を笑いながら斬りつけるなんてことは有り得ない。もっとあいつを信じていればよかったのだ。友人を信じていてよかったのだ。
まだ何も終わってはいない。
だから、あいつに会って謝るためにも、この異変、絶対に解決してやろうじゃないか。

「オーケー、紫、今その偽者とやらが最も多いのはどのあたりなんだ?」

決意の篭った瞳をむけてそう聞くと、紫は久しぶりに、その妖艶な笑みをたっぷりと披露して見せた。










外に出てわかったのは、今が夜中であるということと、そして今日は綺麗な満月であるということだった。
ここは、魔法の森。霧雨魔理沙邸のすぐ近く。永遠亭から、スキマを使って紫に転送された場所はここだった。どうやら霊夢の偽者は、私の家を突き止めていたらしのだ。各地で霊夢に聞き込みをされたという様々な証言が得られている。ただひとつ気になったのは、その霊夢は話を聞くと、たちどころに姿を消してしまったのだという。まるで、幻であったかのように。そして、紫が調べた限り、偽者の霊夢はしばらく私の家の周りに集まっていたのだが、いつの間にか一斉にその姿を消したのだそうだ。

(剣の時は実体があったんだよな、ということは、それとは違う原理なのか?)

魔理沙がそれを考えていると、いつの間にか、あたりの闇が一層濃くなり、木々がやけにざわつき始めていた。
そういえば、魔法の森にはアリスも住んでいるのだが、あえてこのことは知らせていない。
教えたら、なんだかんだで協力してくれるんだろうが、誘拐犯の気持ちとしては自分一人でいた方がいいだろうと考えてのことだった。
後で知ったら、怒るだろうなぁと思いつつ、魔理沙はそこで思考を打ち切った。

「さぁて、隠れてないで出てきたらどうなんだ?博麗三神器さん」

微かに、遠くの木の向こうで何かの影が動くのを感じた。
それからしばらくそちらを見つめていると、その影はあきらめたように姿を現す。
月明かりに照らされたその姿は、やはり魔理沙の知る霊夢そのものだった。

「お前が霧雨魔理沙か?」

喋った!?と、魔理沙は若干焦ってしまった。
剣とは一切会話をしていないし、そもそも人間味が感じられなかったので、残る神器も同様かと思っていたが、こいつはきちんとした意識があるようだ。

「その質問はイエスだが、お前は『勾玉』か?それとも『鏡』か?』
「ふん。いかにも、我は博麗三神器のひとつ、『勾玉』である」

霊夢の声で、独特の口調を使うものだから、どうにも魔理沙は心地が悪かった。
剣とは違って、恐ろしい瞳はしていないのだが、その目にはやはり憎しみのようなものが混ざっているのを感じるし、顔は険しい感じで、怒っているようでもあった。そのどれもこれも霊夢とは程遠いもので、どうしてあんなものが霊夢ではないとわからなかったのかと、魔理沙はショックを受けていた。
しかし、相手の正体は判明したし、紫の読みも正しかったとわかったのは大きい。

「お前らが霊夢を拉致したのか?」
「そのとおり、今は『鏡』の下にいる」
「やけに素直に話すじゃないか」
「お前はここで我が倒すのだから、教えようと教えまいと同じことだ」
「はっ、三流の悪役の台詞だな」

『剣』と比べれば、ずいぶんと人間らしい会話をする。おかげで魔理沙もいつもの調子が戻ってくるのを感じていた。
剣の時も冷静さを保とうとはしていたが、それほど余裕もなかった。
でも、今は違う。

「剣の仇、討たせてもらおうか」
「私は人間だぜ?妖怪を殺すために作られたお前達が人間を殺しても良いのか?」
「黙れっ!我等の邪魔をするものは妖怪の味方も同然だ!!」
「ずいぶんと勝手な論理だぜ」
「ふんっ、理屈などいらぬ!我らは我らの道を進むのみ!!」

その叫びを皮切りに、霊夢の胸のあたりが輝きはじめる。
夜の闇に、その光は少々眩しかった。
おそらく、あの光は勾玉によるものなのだろう。魔理沙は勾玉について知識を持っているわけではなかったが、状況からそう推察した。
魔理沙は箒を片手に、状況を見守っていた。『剣』の時は妖夢との闘いを見ていたし、攻撃方法が剣であることは容易く想像もできた。しかし勾玉というとどんな攻撃方法か見当もつかない。まさか勾玉を投げつけてくるというわけではあるまい。では弾幕を使うのか。『剣』は弾幕を全く用いてこなかったが、こいつもそうとは限らない。
そうして、あらゆる攻撃に身構えていた魔理沙は、しかし『勾玉』の攻撃を回避することが出来なかった。
瞬時に接近し、殴りかかるという、ただそれだけの、単純明快な攻撃を。

「ぐはっ……くそっ!」

気がつけば、目の前に霊夢の、『勾玉』の体が出現していたのだ。
魔理沙は胴体に強い一撃を受けて、一瞬呼吸が止まった。
その魔理沙にもう一度強烈な一撃を叩きつけようとする『勾玉』の拳を紙一重で避けると、魔理沙は空に向かって飛び始めた。呼吸が問題なくできていることを確認して、魔理沙はほっと息をつき、飛行しながら箒にまたがって、その速度を上げた。
今のは油断していたと言わざるを得ない。身構えていたつもりが、余裕が出てきていたせいで、あんな単純な攻撃に対処することができなかった。

(会話が成立するからって、人間的な動きをするとは限らない、か)

痛む体に鞭を打ち、魔理沙は夜の空を駆け、金色の髪が月の光に照らされる。
連続であれを受けてしまうと体がもたない。魔法を使うことはできても、普通の人間でしかない魔理沙にとって、ただの強力なパンチというのは、単純故に恐ろしいものでもあった。
しかし、勝機がないわけではない。
それを確認するために、こうして魔法の森の上空を飛んでいるのだ。振り返ると、『勾玉』も空を飛んで魔理沙を追っていた。さっきのような瞬間移動をしてくる気配はない。
その様子を見て、魔理沙は予想を立てた。
『勾玉』の攻撃方法、それはおそらく『筋力の強化による打撃』辺りなのだろう。霊夢の細い腕からは考えられないような威力の拳も、全く目視することができなかった高速の移動も、おそらく勾玉の力を使っているからだ。だとすれば、こうして空を飛び、距離をとっている限り攻撃を受けることはない。飛行は筋力の問題ではない。そしていくら筋力を強化しても、足場がなければ勢いをつけることができない。
さらに言えば、弾幕を放ってこないということも確認できた。本当なら慣れ親しんでいる魔法の森の中を飛んで、木々や暗闇によるかく乱を狙うという選択肢もあったのだが、あえて開けた空を選ぶことで、向こうが弾幕を使うのかどうかを確認していたのだ。

(もう十分か……?)

おそらく『剣』の時と同じように、弾幕を使えば対処することは可能だ。そう思った魔理沙の後ろで『勾玉』が動きを見せた。
魔理沙を追うのを止めて、下に向けて『飛行』しはじめたのだ。降下しているわけでも、落下しているわけでもなく、垂直方向に『飛行』していく。そして、木々の中にその姿を消した。
その様子をちらりと確認した魔理沙は、『勾玉』の狙いがなんなのかを理解した。
それとほぼ同時とも言えるタイミングで、飛行する魔理沙の少し前に『勾玉』は姿を現したのだ。
目の前で拳を振り上げる『勾玉』に対して、魔理沙は速度を落とそうとはしなかった。
拳の一撃を繰り出そうとする、『勾玉』に向かって魔理沙は咆哮した。

「私の前に立つなぁあああああああ!!!」

箒に跨る魔理沙の体が、光と星の弾幕に包まれていき、その速度が急激に上昇した。
その予想もしない行動にも『勾玉』はひるむことなく拳を繰り出していく。

「ブレイジングゥーースタァーーーーーー!!!!」

しかし、魔理沙の纏う弾幕に阻まれた拳は魔理沙に届くことはなく、黄金の突撃が『勾玉』の体を吹き飛ばしていった。
魔理沙はなんとか急ブレーキをかけて、自らが吹き飛ばした『勾玉』の姿を探す。
すると、森の中に落下していくその姿を見つけた。
『勾玉』が再び瞬間移動をしてくる可能性を考慮しつつ、魔理沙はその後を追った。
落下地点に降り立つと、『勾玉』がどうにか体を起こしているところだった。
おそらく、地面に強く打ち付けられたのだろう。突撃と落下、それらの衝撃を受けても立ち上がることが出来るのは、勾玉の力で強化されているからか。

「……やってくれたな」

それでもやはり肉体へのダメージは深かったらしく、体はぼろぼろで、切れた唇からは血が流れ出していた。
霊夢の体が傷つくところを魔理沙は見たくはないのだが、そういった考えはできる限り押し殺していた。そんな甘いことを言っていると、また一撃をもらってしまう。そんな不安があるからだ。

「止める気はないのかよ?」

しかし魔理沙は降伏を提示した。傷つけずに済むのなら、その方がずっといい。
それに魔理沙は、神器達が何故こんなにまで闘おうとするのかを疑問に思い始めていた。
『剣』は妖怪を斬りつけていた。妖怪を殺すために作られたのだから、そうする意味は分からないではない。
『勾玉』は剣の仇を取りにきたのだと言った。彼らに意思があるのならば、それも分からないではない。
しかし、何故霊夢を拉致して、霊夢の体でこんなことをするのか。それは紫も口にしていなかった。そもそも封印を解かれた彼らが、いきなりこんな凶行に走る理由も良くわからない。

「……我らはな、ずっと恨みを溜め込んできたのだ……」
「恨みって……」
「許せぬ……許せぬっ!!妖怪も、博麗の巫女も、そして、『剣』を倒した貴様もだっ!!」

瞬間移動、魔理沙の目の前に再び『勾玉』が出現する。
不意をついたつもりのその一撃。
しかし魔理沙は会話をしつつも、気を抜いていたわけではなかった。
片手に握った箒に力を込めると、箒が勢いよく後ろに飛んでいき、それを持つ魔理沙の体が、一気に後ろに引っ張られる。『勾玉』の拳は空を切り、魔理沙の体を捉えることができなかった。

「悪いけどな、私だってやられるわけにはいかないんだよっ!!」

そして、箒の力を反転させて、前へと進むそれに飛び乗ると、『勾玉』目掛けて魔理沙はもう一度『ブレイジングスター』を放った。
森の暗闇を引き裂くように輝く魔理沙の体が、体勢の崩れていた『勾玉』の体にぶつかり、そのまま森の奥までその体を吹き飛ばしていった。











『ブレイジングスター』で吹き飛ばした『勾玉』の姿を探して、森を彷徨っていた魔理沙は、ようやくそれを見つけた。
月明かりを浴びて輝く、勾玉の姿を。
それを拾い上げて、魔理沙は強く握りしめる。
もう少し話をしてもよかったはずだった。
それでもあの状況では、こちらも反撃して打ち倒すしかなかったのだ。
ここで負けて、霊夢を取り戻せなくなるわけにはいかないのだから。
でも、もう少しだけ話がしたかった。あいつが何を考えて、神器達がどう思っているのかを知りたかった。

(ちくしょう……なんで私はこんなこと考えてんだ)

霊夢を取り戻すことだけに集中すればいいはずなのに、何故か『剣』や『勾玉』の顔が浮かんでくる。あの憎悪を潜ませた瞳が頭から離れない。あれが、何に対して向けられているものなのか、どうしても知りたかった。

「ならば、それを教えようか?」

暗闇から不意に聞こえてきた声に、魔理沙はそちらを見た。
近づいてくる足音に、立ち上がって身構える。
少しずつ、少しずつその姿が明確になっていった。
月明かりを反射するようにきらきらと輝くガラスのような物体。それを手にした霊夢の姿。
それが『鏡』であると、魔理沙が理解するのは難しくなかった。

「教えよう、我等のことを全て」

鏡が強い輝きを放ちはじめる。
剣や勾玉と同じ輝き。
その輝きが膨れ上がり、辺りを包み込んだかと思った次の瞬間
そこにはもう魔理沙の姿はなかった。
鏡の章に続きます。
ビーン
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