「咲夜、今日一日、この子がメイドの仲間入りをするわ。
……まぁ、職場体験みたいなものね」
「は、はぁ……」
とある昼下がり。
お嬢様に呼ばれた私は目の前にいる意外な人物を見て、目を丸くした。
「あたいチルノ! よろしくね!」
「よ、よろしく……」
え、何でチルノがこんなところに?
うーん、理解できないわ。
「とりあえず短い間だけど、あなたが責任もって面倒見て頂戴ね」
「は、はい。わかりました!」
お嬢様にそう言われたら従うしかないわね。
こうなったら、しっかり面倒見てあげるわよ。
「改めまして……よろしくね、チルノ」
「うん、よろしく!」
それじゃあ、まずは形から始めないとね。
確か予備のメイド服がまだ余ってたはず。
「それではお嬢様、失礼します」
「うん、頑張って」
この子がどこまで進化するのか……ふふ、それはそれで楽しみかも。
よーし、しっかり指導してあげるわよ。
お嬢様に一礼してから外に出る。
よし、お仕事開始ね。今日も頑張るわ!
「ふふふ、息抜きに『チルノの運命をいじってみた』けど、面白いことになりそうね……
期待させてもらうわよ、二人とも」
私達がまず向かったのは数ある倉庫の一つ。
ここに服があったはずだけど……
「ねー、何してんのー?」
「あなたが着る制服を探してるのよ……えーと、どこにやったかしら」
お、これかな?
それらしいものを引っ張ってみると……
それはまだ新品のように綺麗なメイド服だった。
「あ、あったあった! でもサイズは合うかしらね?」
見た感じ、合いそうな気はするけど。
ちょっと着せてみましょうか。
「チルノ、これ着てもらえる?」
「うん、わかった。これ着ればいいんだね!」
……って、何してるの!?
いきなりここで着替えだすなんて……驚いたわよ。
あ、でも彼女の裸体が見れたから思いがけない得をしたわね。
ふぅ、眼福眼福。やっぱり小さい女の子っていいなぁ……
はっ!? いや、な、何も言ってないわよ!?
決して私は変態なんかじゃ! 可愛い女の子は好きだけど!
「終わったよー。えへへ、どうかなぁ?」
「うっ、こ、これは……」
可愛い……だと……!?
これは自分の部屋に置いておきたいレベルね……
流石にお嬢様、フラン様には勝てないとしてもこれは可愛い!
「どうかしたの?」
「い、いや、なんでもないわ!」
おっと、取り乱したわ……
ふむ、サイズはちょうどいい感じね。
うん、これでいいかも。
「よし、服はこれでいいわね。さぁ、そろそろ仕事に移りましょうか!」
「うん、あたい頑張る!」
こうしてチルノの奇妙なメイド体験が始まったのだった。
期間も短いし、早速仕事をしてもらうことにしよう。
まぁ、してもらうのはほとんど私の手伝いだけどね。
まずは……お洗濯からかしら。
でも紅魔館では洗い物は各自で済ませるから、
この子に洗わせる物といったらタオルとか自分の服くらいなのよね。
とりあえずタオルくらいは洗わせてみようかな。
「チルノ、付いてきて」
「うん」
そんなことでやってきたのは、洗い場。
ずらーっと並ぶのはタライと洗濯板。
そういえば、早苗から聞いたんだけど、外の世界には勝手に洗濯をしてくれる道具があるらしいわ。
で、霖之助さんのところに行ってみたら……あったわ。「洗濯機」というそのまんまな名前らしいのだけれど。
もらってこようと思ったけど、電気というものがないと動かないとか言われてちょっとショックだったわね。
「まず洗濯の仕方を教えるわね」
「お洗濯ならあたいにでもできるよ!」
「そう? だったらちょっとやってみてよ」
「さいきょーのあたいにかかればこんな物、ちょちょいのちょちょちょいよ!」
……それを言うなら「ちょちょいのちょい」だと思うんだけど。
まぁ、とりあえずちょっとだけ期待させてもらおう。
「はい、とりあえずこのタオルを洗ってみて」
渡したのは籠に入っていた、一枚のタオル。
どうせ洗わないといけないものだったし、ついでに洗ってもらおう。
「任せといて!」
「頼むわよ?」
さて、あなたの腕前を見せてもらうわよ。
でも、洗濯くらいならこの子でも十分できそうな気がするんだけどね。
「えーと、最初は水で濡らして、次に石鹸を……」
うん、ここまでは良しとしましょう。
「石鹸を使ってっと」
うんうん、石鹸をこすり付けて……あれ?
ちょ、ちょっと? 少し付けすぎじゃないかしら?
「うーん……!」
も、もういいから! 十分石鹸付いてるから!
「うん、これで良し!」
あ、あぁ……石鹸の泡でタオルが見えないほどに……
明らかに付けすぎじゃないかしら、これ。
石鹸もかなり磨り減っちゃったし……
「で、あとは洗濯板で擦って、だね」
石鹸のことは見なかったことにしよう、うん。
さて、次は洗濯板を使うところね。
……はい?
「ごしごしっと」
私の目はおかしくなったのかな?
なんかタオルを床に敷いて、その上から洗濯板を押し付けているように見えるんだけど。
う、うん、見間違いよね。 目を閉じてまた開いたらちゃんとなっているはずよ。
目を閉じて……開く!
……やっぱり変わりなかった。
「ちょっとストップ!」
「ほえ? なんで?」
「いや、なんか色々とおかしいわよ!?」
「え、どこが?」
あぁ、この子すごいわ。色々と。
「いやいや、おかしいところばかりよ!
まず石鹸はこんなにつけなくてもいいの!
それに、洗濯板はこう使うのよ!
洗濯板を置いて、その上で洗濯物を擦るの!」
「へぇ、あたい知らなかったなぁ。そうやって使うんだー」
本当に?
それはひょっとしてギャグで言ってるのかしら?
洗濯板の使い方くらい、みんな知ってると思ってたけど、まさかここに知らない子が居たとは。
うん、予想外。
「と、とりあえず全部教えるわよ?
まず、洗濯板に洗濯物をこうやってこすり付けて……
ある程度汚れが取れたら、水ですすぐ。
取れなかったら、これの繰り返しね。わかった?」
「うん、なんとなく」
なんとなくじゃ困るんだけどなぁ……
とりあえず洗濯は終わりにして、次に進もうかしら。
「それじゃあ次はお掃除ね」
「お掃除ならあたい得意だよ!」
ほう、この自信なら期待してもいいかも?
今度はしっかりしてくれると信じておこう。
「とりあえず、ここでいいかしらね」
やってきたのは私の部屋。
ある程度は綺麗に掃除されてるけど、それでも少しは汚れが残ってるはず。
……べ、別についでに自分の部屋の掃除をしてもらおう何て思ってないわよ?
いや、ほんのちょっとは思ってるけど……
それはともかく!
「さ、始めて頂戴」
「いえっさー!」
イエッサーなんてどこで覚えたのよ、なんて野暮な突っ込みはやめておこう。
さて、洗濯はアレだったけど……掃除はどうなのかしら?
結構自信あるみたいだけどね。
「いくよー!」
サッサッサッ、という箒で床を掃く音が部屋に響く。
うん、掃除はいい感じね。
で、ゴミを一箇所に集めて……あとはちりとりで取るだけ。
「ちりとりは……あったあった。これを二つ使って……」
……二つ?
一応部屋には予備のちりとりを置いてあるけど……どう使うのかしら?
「よいしょ!」
ズコー! という感じにコケそうになってしまった。
何やってるの、この子!?
お好み焼きでも作ってるつもり!?
まぁ、早い話が、二つのちりとりをお好み焼きのヘラみたいに使ってゴミを取ろうとしてるわけで。
「ちょっと待った! 何やってるのあなた!?」
「え? どうかしたの?」
「ちりとりはそう使うんじゃない!」
「えー? あたいの家ではこうやって使うんだけど」
ど、どんな使い方なのよ……
うーん、ゴミを集めるところまではいい感じだったんだけど。
「普通はこう使うのよ」
チルノの前で実演して見せると、なんか感心したような顔を見せてくれる。
「なるほどー、こう使うのかー」
「これが本来の使い方なんだけどね……ほら、やってみて」
まったく、この子の中の常識って一体どうなってるのかしら。
一回この子の家にお邪魔してみたいものだわ。
「なるほど、こうするんだね! ありがと!」
う……この子の笑顔、すごく可愛いじゃない……
ちょっと心を奪われかけたわ。
「ん、結構時間も経ったわね……少し休憩にする?」
「うん、そうする。疲れた!」
流石に初めてメイドの仕事をする子に長々と仕事をさせるのもかわいそうだしね。
軽く休憩でもしよう。
実を言うと私もちょっと疲れちゃったし……主に精神面が。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
そんなこんなで私の部屋で休憩。
とりあえず紅茶を淹れてみたけど……この子、飲むかしら?
多少ぬるめにしておいたから火傷をすることはないだろうけど。
「それじゃ、頂きまーす……」
紅茶を一口飲むチルノ。
だけど、彼女の顔はすぐに歪んでしまう。
「うえー……甘くない……」
「あぁ、ごめんなさいね。はい、お砂糖とミルク」
「お砂糖入れないと飲めないよ……」
そんなことを言いながら、チルノはお砂糖とミルクを紅茶に入れる。
ちょっと量が多い気がするけど。
まぁ、妖精は甘いのが大好きっていうから問題はないのかな?
そういえば、クッキーが余ってたわね。
「一緒にクッキーはどうかしら?」
「クッキー!? 食べる! 甘いもの大好き!」
ふふ、やっぱり甘い物好きなのね。
自然に笑みがこぼれちゃうわ。
さてと、クッキーは確かこの戸棚に……あったあった。
「はい、召し上がれ」
「わーい、クッキーだー!」
嬉しそうに笑うチルノ。
やっぱり小さい子の笑顔は素敵ね。
「おいしい?」
「うん、すごくおいしい!」
「それは良かったわ」
私が作ったクッキーだから、おいしいと言ってもらえてちょっと嬉しい。
彼女の笑顔を見ながら、私も紅茶を頂く。
……そういえば、この子はなんでメイドの仕事をしようと思ったのかしら?
「ねぇ、チルノ。なんで今日はメイドの仕事をしようなんて思ったの?」
「え、それはね……いつも家で迷惑掛けてばかりの人がいるからさ……」
「迷惑を掛けてばかりの人?」
「大ちゃんって言うんだけどね」
あぁ、この子といつも一緒にいるあの子か。
あの子とならよく買い物のときに話をしたりしていたわね。
「あたいさ、大ちゃんに迷惑掛けてばかりで……お掃除とか料理とか任せっきりでさ……」
「なるほど。で、大ちゃんに迷惑を掛けないように出来るだけ仕事を覚えたい、って思ったのね」
「……うん」
確かに相手に迷惑を掛けたくないからしっかりしなきゃ、と思うことはあるわよね。
「ある程度ならあたいにも出来るんだけど、
あたいが何かすると大ちゃんが『私が代わりにやるから休んでて』って……」
「……まぁ、あの仕事ぶりじゃあ、そう言われるわよねぇ」
うん、私も同じような状況になったら「後は私がやるから」って言ってやめさせるかも……
でもそんな彼女の姿勢、嫌いではないわ。
……そうだ、残り時間でアレを教えてあげようかしら。
「チルノ、あなたに特別に教えてあげたいことがあるんだけど」
「え、何?」
「ふふ、とりあえずこの紅茶を飲み終わってからのお楽しみ」
これをマスターしたら、大ちゃんも驚くに違いないわ。
さて、きちんと覚えてくれるかしらね?
「覚えられた?」
「うん、しっかり覚えたよ!」
何とか覚えてくれたみたいね。
……まぁ、覚えるまでちょっと時間がかかったけど。
でも、この子、しっかり教えればちゃんとできるじゃない。
感心、感心。
「あ、もうこんな時間……そろそろ夕食の時間ね」
「ご飯? やったー! もうあたい、お腹ペコペコだったんだー」
「こらこら、まだ仕事は終わってないわよ?
私たちは夕食の準備をしないと」
「えー、まだあるのー?」
そう、メイドである私たちはお嬢様たちの分の夕食を運んだり、配膳したりしなければいけないのよ。
まぁ、それが終わったらみんなで夕食を食べることになるんだけど。
ここではお嬢様の方針により、基本的にはメイドも仲良く大きな食堂で食事を取ることになっているわ。
たまには病気だったりして、自室で食べたりする子もいるけどね。
本来メイドは自分の部屋で食べることになっているらしいのだけれど……
まぁ、細かいことを気にしてはいけないわね。
「まぁ、あとちょっとの辛抱よ」
「うーん、早く食べたい……でもあたい、頑張る!」
「そうそう、その意気よ」
さて、厨房に行きましょうか。
今日の夕食がもう出来ているはずだし。
そんなわけで私たちは厨房へ向かう。
あ、ちなみに紅魔館にはいくつかの厨房があるのよ。
一番大きい厨房がみんなの食事を作る厨房。
その他にはお菓子や軽食を作ることが出来る小さい厨房がちょっとある。
こういった厨房ではメイド妖精たちが、夜食を作ったりしてる。
あとは一つの厨房じゃまかないきれない時とかに使ったりとかね。
私たちもさっきまでそんな厨房の一つにいたんだけれど……何をしていたのかは秘密。
「今日の夕食はもう出来ているかしら?」
厨房の入り口から中をうかがうと、妖精メイドたちが夕食の準備をしているのが見えた。
「あ、咲夜さん、もう出来てますよ。今日のメニューはクリームシチューにしてみました」
「へぇ……うん、これはおいしそうね」
メイドのうちの一人がにこやかに笑いながら、私にシチューを見せてくる。
白い湯気が立ち上っているわね。出来たてみたい。
厨房に置かれたテーブルの上には人数分の食事が置いてある。
「さぁ、みんな、持っていくわよ」
「はい、わかりました!」
厨房にいたメイドたちは小さな手押しワゴンに食事を乗せて、準備をする。
「さ、チルノもやってみなさい」
「え、あたいも?」
「当たり前でしょ? えーと、誰かこの子と代わってくれないかしら?」
「あ、はい、それでしたら私が」
そう一人のメイドが言って、ワゴンから離れる。
「あなた、楽したいから代わるんじゃないでしょうね?」
「いやいや、そんなのじゃないですよ」
軽く笑いながらそう冗談を言うと、彼女もそう言って笑い返してきた。
「さ、チルノ。みんなの後について行って」
「う、うん……」
緊張した面持ちでワゴンを押すチルノ。
ふふ、可愛いわねぇ……おっと、そんなことより今は仕事!
私はみんなを先導しながら、食堂へ向かう。
食堂のドアの前に着くと、みんなを待たせてから先に食堂に入った。
「お待たせしました」
「お疲れ様。今日の夕食は何かしら?」
お嬢様が笑いながら聞いてくる。
ふふ、お嬢様はシチューが好きだから、シチューなんて言ったらどんな顔をするかしら?
「今日はお嬢様のお好きなクリームシチューですよ」
「やったぁ! 早く、早く持ってきて!」
あぁ、可愛い……このたまに見せる子供らしい一面がたまらないのよね。
「お姉様はシチュー大好きだよねぇ。私も好きだけど」
「だよね! 美味しいわよね、シチュー!」
さて、早く用意しないと冷めちゃうわね。
「それでは今お持ちいたします」
ドアの外に控えているメイド達に声をかけて、中に入れる。
メイドたちが運んできたシチューを見るとお嬢様は目を輝かせた。
「あぁ、シチュー……早く食べたいわ……」
「レミィ、よだれ、よだれ」
「あ、ごめんパチェ」
お嬢様は横にいるパチュリー様に指摘されて、よだれが垂れていることに気づいた。
うぅ、か、可愛い……
でも今は仕事に集中しないと……!
「あれ、チルノちゃん? いつの間に来てたの?
しかもメイド服なんて着てるし……」
仕事をしているチルノの存在にフラン様が気づいた。
「あ、こんばんは、フラン!」
「こら、今は仕事中でしょ! 仕事に集中しなさい!」
……今の私がそう注意してもあんまり説得力無い気がするんだけどね。
「あ、ごめん」
「お話しするなら仕事が全部終わってからにしてね?」
「う、うん、わかった」
「仕事って?」
あ、フラン様は事情を知らないのよね。
「チルノはメイドの仕事を体験してみたいということで、今メイドの仕事をしているんですよ」
「へぇ、そうなんだ。頑張ってね、チルノちゃん!」
「うん、あたい頑張るよ! ありがとね、フラン!」
さて、仕事の続きをしないと。
……ふぅ、やっと終わったわ。
数分かけて、全員分の配膳が終わった。後は食べるだけね。
後からやってきたメイドたちも一人、また一人と席に着く。
……うん、みんな座ったわね。
「みんな揃ったかしら?」
私がそう問いかけると「大丈夫です」とそこここから声が上がる。
「大丈夫みたいね。それでは頂きましょう」
私がそう言うと、食堂に「頂きまーす!」という声が響き渡る。
そして、静かだった食堂がすぐに騒がしくなった。
メイドとお嬢様が仲良く話す。紅魔館では当たり前の光景。
そういえばお嬢様やフラン様は、メイドたちとも積極的に仲良くしようとしてるわね。
うーん、やっぱりお嬢様はいいご主人様だ。
「ねぇ、咲夜」
「ん、どうかした?」
「あとでさ、フランと一緒に遊んでいい?」
「駄目よ。あなたにはメイドの仕事があるじゃない」
「えー、遊びたいよー」
……ふぅ、仕方ないわね。
「それじゃあ、食事の後片付けが終わったらいいわよ」
まぁ、あとそのくらいしかこの子にできそうな仕事は無いし。
それに……遊んであげればフラン様が喜んでくれるしね。
「本当に!?」
「ええ、後片付けが終わったら、だけどね。」
「やったぁ!」
喜ぶチルノを見ていると、自然に笑みがこぼれてくる。
ふふ、可愛いわね。
「それじゃあ、後片付けまで頑張ってね」
「うん!」
大きく頷くチルノの顔を見てから、私は食事に戻ることにした。
「ごちそうさまでした!」
そんな声が食堂のあちらこちらから聞こえてくる。
ほとんどの人は食べ終わったみたいね。
……ふぅ、私もやっと食べ終わったわ。
うん、今日のシチューも美味でした。
えーと、お嬢様達は……食べ終わったみたいね。
「お嬢様、お下げいたします」
「あ、ありがとね、咲夜」
お嬢様とフラン様、パチュリー様、小悪魔、美鈴の分のお皿を回収する。
メイドたちは自分達でお皿をワゴンに持っていくから、もう下げるお皿は無いわね。
「さ、チルノ、行くわよ」
「うん!」
数人のメイドと一緒にワゴンを厨房へと運ぶことにする。
チルノも私のすぐ後ろを付いてきた。
もちろんワゴンの中の一つを押しながら、ね。
「美味しかった?」
「うん、大ちゃんの作るシチューも美味しいけど、ここのシチューもすごく美味しかった!」
「そう、良かったわ」
満足してくれたみたいね。良かった、良かった。
「さ、中に入ったら、お皿を流し台に載せてちょうだい」
「流し台に乗せるのね。わかった!」
チルノが先陣を切って、厨房内に入る。
彼女の後ろには数人のメイドたち。
……食器洗いまでさせてみようかしら?
「チルノ、食器を洗ってみる?」
「え、お皿を洗うの?」
「いや、やりたかったらでいいんだけどね」
「うん、やらせて!」
やる気一杯のチルノ。
それじゃ、やらせてみようかしら。
「それじゃあ、ワゴンはここに置いてていいわ。
さ、そこの台に乗りなさい」
メイドの中には身長が低くて、洗い物や調理が出来ない子がいるから、厨房には踏み台が置いてある。
チルノはさすがにあれに乗らないと届かないわね。
「はーい!」
「頼むから割ったりしないでよ?」
「大丈夫、大丈夫! 泥舟に乗った気持ちで安心しておいて!」
それを言うなら「大船に乗った気持ち」よ……
ちょっと不安になってきたんだけど。
「よーし、じゃあ始めるよー!」
メイドたちが流し台に置いていくお皿を洗っていくチルノ。
あら、意外……上手いじゃない!
「へぇ、上手いわねぇ……」
「へへ、そう? 洗い物はいつも大ちゃんと一緒にやってたから、自信があるんだ!」
これは見事だわ。
うん、十分綺麗になってる。
「あなた達も彼女に負けないように頑張らないとね」
「もちろんですよ!」
メイドたちも彼女の仕事ぶりに触発されたようで、急いで厨房内にいくつか設置された流し台へと向かう。
さて数分が経過して、洗い物も半分終わったわね。
チルノはもうこのくらいで十分ね。
「チルノ、あなたはもういいわよ。あとはこの子達がやってくれるから」
「あ、うん」
「チルノは今日だけのお試しのようなものだから抜けさせるわね。
すまないけど、あとはみんなで頑張ってもらえる?」
「ええ、大丈夫ですよ。それじゃあね、チルノちゃん!」
「ありがとうね、チルノちゃん!」
「えへへ……」
メイドたちにいろいろと声をかけられて、嬉しそう。
「さ、行きましょ」
「うん!」
長居はこの子達の邪魔になるだけね。
さっさと外に出ることにしよう。
「そういえば、チルノはフラン様と遊ぶんだったわよね?」
「あ、そうだった! すっかり忘れてたよ!」
忘れてたって……あんなに遊びたがってたのに。
「それじゃあ、フラン様の部屋まで送ってあげる」
「ありがと、咲夜!」
う、今の感謝の言葉と笑顔でちょっと失神しそうになったわ……
くぅ、やっぱり小さい子の笑顔は強力な武器ね。
「そ、それじゃ……行くわよ」
「はーい!」
フラン様の部屋とお嬢様の部屋は同じだから、お嬢様とも遊ぶ羽目になるけど……ま、いいか。
お嬢様もなんだかんだで人と遊ぶのが好きだし。
「ふふふ、楽しみだな! フランやレミリアと遊ぶのは久しぶりだし!」
「何して遊んだりしてるの?」
「えーと、お話したり、おままごとしたり、人形遊びしたり、かな?」
へぇ、そんなことしてるんだ。
ちょ、ちょっと私も混ざってみたいかも……
おままごとや人形遊びをするお嬢様たち、か。
うーん、想像しただけで鼻血出そう……
「あれ、二人の部屋ってここじゃなかったっけ?」
「あ、ごめん! ちょっと考え事をしててね……」
おっと、通り過ぎるところだった。
あれこれ妄想しすぎたわね。
「お嬢様、入ってもよろしいでしょうか?」
ノックをしてからそう聞くと、中から「いいわよ」と返事が返ってくる。
「失礼します」
「あ、チルノちゃん! 待ってたんだよ?」
中に入るやいなや、フラン様がそう言いながら駆け寄ってくる。
「ごめんごめん、色々忙しかったからさー」
「早く一緒に遊ぼうよ!」
「そうよ。私もフランもずっと待ってたんだからね?」
二人に手を引っ張られるチルノ。
あぁ、天狗のカメラがあれば今写真を撮っていたのに……!
「えーと、それでは私は失礼しますね」
「あ、ありがとね、咲夜!」
チルノからお礼を言われた。
「頑張ってね、咲夜!」
「仕事はほどほどでもいいんだからね? 体にだけは気をつけてよ?」
おぉ、お嬢様とフラン様からもありがたいお言葉……
「はい、ありがとうございます。 それでは」
一礼してからゆっくりとドアを閉める。
……ふふ、あの三人から働く気力をもらったわ。
さ、あともうちょっと頑張ろっと!
「それじゃあ、お休み。頑張ってね」
「はい、お休みなさい、咲夜さん」
今日の見回り当番の子に挨拶をしてから、自分の部屋に向かう。
ふぅ、今日もやっと仕事が終わったわ。
さて、寝ましょうかね。
それにしても、チルノはどうするのかしら?
お嬢様たちと一緒に寝るのかな?
ま、どっちでもいいか。
「ふぅ、ただいまー」
自分の部屋だから誰もいないけどね。
さて、着替えて寝よう。
よいしょ、っと。
「咲夜ー、いるー?」
「きゃっ、ち、チルノ!?」
び、びっくりしたぁ……
振り返ると、パジャマ姿のチルノがドアを開けて立っていた。
彼女が着ているのは見覚えのあるパジャマ……
どうやら、パジャマはフラン様に借りたものみたいね。
腕の中には彼女がいつも着ている服と、今日着ていたメイド服が抱かれている。
「も、もう……人が着替えている最中に入ってこないでよ!」
「えー? だって分からなかったし」
「こういうときはノックして、入ってもいいか聞くの!」
「あ、なるほどね」
はぁ、しょうがないわね……
「とりあえず呼ぶまで外で待っててもらえるかしら? 寒いけど我慢してて」
「あ、うん」
とりあえず、急いで着替えよ。
あ、今見てみると、かなり危ない格好をしてるわね私。
スカートは履いてるけど、上は下着だけじゃない……
おっと、それよりもさっさとパジャマを着ないと。
……うん、よし。
「入ってもいいわよ」
「はーい」
私が呼ぶと、チルノがさっきと同じようにドアを開けて入ってきた。
何か用かしら?
「どうかしたの?」
「あ、えっとね、今日は咲夜と一緒に寝ようと思って……」
「へ? なんで? お嬢様たちと寝ればよかったのに」
「いや、それも考えたけどさー。咲夜とも一緒に寝たかったんだよね。
レミリアとフランとは前に何度か一緒に寝たことあったし、今日は咲夜と一緒に寝ようと思って」
そういえば何度か泊まりに来たことがあるわね。
その度にお嬢様やフラン様と一緒に寝てたけど。
「えーと、もしかして駄目?」
「だ、駄目なんて言う訳無いじゃない! もちろん大歓迎よ!」
まさか一緒に寝ることになるなんて……
へ、変な事は流石にしないからね?
「あ、とりあえずベッドに入りなさいよ。
持っている服はそこのテーブルの上にでも置いておきなさい」
「うん、それじゃ入るねー」
チルノが服を置き、ベッドの中に入ったのを見届けてから、私も中に潜り込む。
ベッドの中で彼女の肌が私の手に触れた。
あ、ちょっと冷たい。やっぱり氷の妖精だからかな。
「チルノの体って冷たいのね」
「うん、まあね」
「熱いところにいたら駄目なの?」
「うーん、熱いのは駄目なわけじゃあないけど、苦手かなぁ」
「へぇ、そうなんだ」
「だってあたいはさいきょーなんだもん! 熱いのなんてへっちゃらよ!
……あ、でもやっぱり熱いのは苦手」
つまり、熱いところにいたりしても命に別状は無いけど嫌いではある、ってことね。
ん、それじゃあ、ベッドの中にいるのも嫌なのかしら……?
「じゃあ、ベッドの中で私と一緒に寝るのも駄目なの?」
「あ、それくらいなら大丈夫!
あたいが耐えられないのは……夏の暑い日とかそのくらいだもん」
……どこまで耐えれるのか、いまいち分かりづらいわね。
とりあえず、これ以上考えちゃうと眠れなくなっちゃうからやめよう。
「とりあえず寝ましょうか。今日は疲れたでしょ?」
「うん、すごく疲れた。ちょっとは大ちゃんの気持ちが分かったよ」
「それは良かったわ。だったら明日からは大ちゃんの手伝いをしなくちゃね?」
「うん!」
今日の教えたことを明日以降の生活に活かしてくれるといいのだけれど。
そうしてくれないと、私が今日色々教えた意味が無いわ。
「それじゃ、あたいは寝るね。お休みなさい」
「ええ、お休み、チルノ」
ゆっくりと目を閉じたチルノは、数分も経たないうちに寝息を立てて寝てしまった。
よっぽど疲れていたのね。
「今日は一日ご苦労様」
すーすー、と寝息を立てるチルノの頭を優しく撫でながら、声をかける。
まぁ、いろいろと問題はあったけど、この子はこの子なりに頑張ってくれたわ。
ふふ、お疲れ様、チルノ。
「さて、私も寝よっと」
もう一度だけチルノの頭を優しく撫でてから、私も目を閉じる。
チルノと同じくらいに私も疲れていたみたい。
すぐに私は深い眠りに落ちて行ってしまった。
「ん……もう朝か……」
部屋の明るさで目を覚ます。
うん、今日もいい天気のようね。
小鳥も外でさえずっている。
「さて、チルノは……」
上半身を起こして、顔だけを真横に向けると、だらしない格好をしたチルノが寝ていた。
「まったく……お腹を出してたら風邪を引くわよ?」
私は静かに微笑みながら、チルノの服を直してやる。
うん、これでいいわね。さてと、起きて着替えようかな。
ベッドから降りて、服がしまってあるタンスへ向かう。
「うぅ、やっぱりちょっと寒いわね……」
出来れば一日中パジャマでいたいくらいだけど……
さすがにそんな訳にはいかないしね。
よし、着替え終了。
さて、あとは……
「チルノ、起きて。もう朝よ」
「んー……もう朝……?」
軽く揺さぶると、チルノは目を覚ました。
彼女はそのまま上半身を起こすと、寝ぼけ眼を手で擦る。
「ええ、朝よ。さ、起きて」
「んー、まだ眠い……」
「朝ごはんを食べれば目が覚めるわよ。ほら、着替えて着替えて!」
テーブルの上に置かれていたチルノの服を渡してあげる。
もうこのメイド服は必要ないわね。あとで洗ってから倉庫に直しておこう。
「ほら、あなたが今着ている服はフラン様のでしょ?
あとで洗濯するから、早く脱いでよ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ……!」
慌てて服を脱ぐチルノ。
私は彼女が脱いだ服を集めて、部屋に置いてある、脱いだ服を入れるためのかごに入れる。
「ふぅ、着替え終わったよ!」
「それじゃあ、朝ごはんを食べに行きましょうか」
「うん!」
大きく頷くチルノの手を引いて、食堂へと向かう。
「あ、咲夜さん、おはようございます!」
「おはよう」
メイドたちもぞろぞろと起き出して来たみたい。
朝食のほうはもう出来てるかしら?
当番のメイドはみんなより早く起きて朝食作りに取り掛かっているから、もう出来ているはずだけど。
「あ、チルノは先に椅子に座ってなさい」
「え、何で?」
「あなたのお仕事は昨日だけだから、今日はもういいわよ」
「……うん、わかった」
「さ、早く行ってお嬢様たちとお話でもして来なさい」
「それじゃあ、先に行ってるね!」
さて、もうちょっとでお別れだけど……
残り時間で紅魔館のお客様としておもてなしさせて頂くわよ。
「朝食の準備は出来た?」
「おはようございます。もう出来てますよ」
「うん、それじゃあ、行きましょうか」
「はい!」
私が先導すると、後ろからメイドたちがワゴンを押しながらついてきた。
そのまま食堂のドアを静かに開け、中に入る。
中では、お嬢様たちはすでに席について、朝食が目の前まで運ばれるのを待っていた。
「お待たせいたしました」
「お、来たわね」
ちらりとお嬢様のほうを見ると、チルノがちょこんと座っているのが見えた。
「今日の朝食はパンに目玉焼き、サラダとベーコンです。
飲み物はコーヒー、紅茶、牛乳、オレンジジュースから好きなものを選んでください」
説明をしている間に、メイドたちが食事を配膳していく。
うん、テキパキと働いてくれて嬉しいわ。
「私、オレンジジュース!」
「私は……紅茶」
「私も紅茶でお願いします」
「あ、咲夜さん、牛乳もらえます?」
えーと、フラン様がオレンジジュース、パチュリー様と小悪魔が紅茶、美鈴が牛乳っと。
お嬢様とチルノは何かしら?
「私も紅茶でいいわ」
「あたいはオレンジジュースね!」
お嬢様も紅茶、チルノはジュースね。
「かしこまりました。しばらくお待ちください」
紅茶が四つにジュースが二つ、牛乳が一つ……
さて、注ぎ終わったし、これを運ぼう。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、咲夜」
「パチュリー様、どうぞ。こっちは小悪魔の分ね」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
一人ずつに飲み物を配っていく。
この時に言われる感謝の言葉が嬉しいのよね。
「はい、チルノ」
「ありがと!」
「どういたしまして」
チルノにジュースを渡すと、太陽のように素敵な笑顔を見せてくれた。
ふふ、朝からいい物を見たわ。
さて、もう食事は回ったかしら?
……大丈夫みたいね。
「それでは……頂きましょう」
「頂きます」
頂きますの声とともに、みんながフォークとナイフに手をつける。
朝食の時は夕食の時と違って静かな時間が流れる。
話す人はいるけど、夕食のときみたいに騒がしくはならないわね。
「チルノ、後で湖まで送っていくわ」
「え?」
隣に座っていたチルノに声をかける。
首を傾げているってことは、聞こえてなかったみたいね。
「湖まで送っていってあげる」
「あ、うん。ありがと!」
うん、いい笑顔ね。さ、私も食べよ。
こうして、爽やかな朝の空気の中、私達は静かに食事を取ったのだった。
「それじゃあ、私はチルノを送って行くから、後はお願いね」
メイドの一人にそう言いつけてから、チルノの手を引いて外に出る。
ふぅ、外はまだまだ寒いわね。
晴れてるからお昼くらいには多少暖かくなりそうだけど。
「さ、行きましょうか」
「うん!」
しっかりと手をつないでから、私達は湖に向かって歩き出した。
「それにしても、チルノは頑張ったわね。偉いわよ」
「えへへ、そうかな?」
「ええ、偉いわよ」
褒めてあげると、元気な笑顔を見せてくれる。
うん、やっぱり小さい子の笑顔は素敵ね。
……変な意味じゃないわよ?
「私が教えたこと、忘れないでよ?」
「大丈夫! 忘れないよ!」
「本当かしら?」
「本当だってば!」
少し怪しいけど、ここは信じてあげよう。
「わかった、わかったわよ」
「おうちに帰ってもきちんとできるもん!」
「それじゃあ、帰ったら大ちゃんを驚かせてあげなさい」
「うん、そうする!」
成長したチルノを見たら、大ちゃんはきっと驚くわね。
特別にアレも教えたし。
アレを見たら、腰を抜かすくらいに驚きそう。
……あれ、もう湖か。紅魔館の目と鼻の先にあるから、あっという間ね。
寂しいけど、ここでお別れ、ね。
「チルノ、ここでお別れね。一日だけだったけど、楽しかったわ」
「あ……ほんとだ。うん、お別れだね……」
少しだけ寂しそうな表情を見せるチルノ。
「またいつでも遊びにいらっしゃい。
お嬢様も、フラン様も……もちろん、私も待ってるから!」
「……うん、また遊びに行くよ!
咲夜もあたいの家に遊びに来てね!」
「うん、約束するわ」
「絶対だよ?」
「ええ、絶対行くわ」
少ししゃがんで、チルノを目を見ながら笑うと、彼女も笑い返してくれた。
最後に一回だけ彼女の頭を優しく撫でてやる。
「それじゃあ、まだお仕事があるから、私はもう行くわ。じゃあね」
「うん、また今度ね!」
握手をしてから、元来たほうへと戻る。
道の途中で振り返ると、チルノは手を振っていた。
私も彼女に大きく手を振ってから、紅魔館に戻ることにした。
別れを悲しんでいる暇はないわ。早く仕事に戻らないといけないし。
……今度チルノが来たら、美味しいお茶に美味しいお菓子を準備しよう。
そんなことを考えると、自然に笑みが漏れた。
よし、みんなが待ってるし、急ぎましょ!
咲夜に色々教えてもらってから、何日か経った日のお昼。
大ちゃん、買い物に行ったのはいいけど、まだ帰ってこないなぁ。
もうすぐ帰ってくると思うんだけど。
「ただいまー!」
あ、あの声は大ちゃんだ! やっと帰ってきた!
今日は大ちゃんを驚かそうと思って、咲夜に教えてもらったアレを作ってたんだよね。
買い物に行ってる間に急いで準備してたんだけど、後は焼くだけってところまで作れたよ。
「ごめんごめん、いろいろお話ししたりしてて遅くなっちゃった……ってうわ、何作ってるの?」
ふふ、やっぱり驚いてる。
「あ、これ? クッキーだよ!」
「へぇ、チルノちゃん、クッキーなんて作れたんだ!」
「へへ、咲夜に教えてもらったんだ!」
「咲夜さんに?」
「うん!」
あの休憩のあと、咲夜に教えてもらったんだよねー。
ちょっと難しかったけど、咲夜が親切に教えてくれたし、こんな物ももらったからね。
クッキーの作り方とか材料を書いたメモ。
ものすごく細かく書いてあるから、これを見ればクッキーなんてちょちょいのちょいよ!
「後は焼くだけだから、ちょっと待っててね!」
「うん、楽しみにしてるね! あ、早く買ってきた物をしまわないと」
これをかまどに入れて……あとは焼けるまで待つだけ!
焼けるまで大ちゃんとお話でもしてよっと。
「それにしても咲夜さんに教えてもらったんだね」
「うん! 他にお掃除とかも咲夜に教えてもらったからねー。もうばっちり!」
「すごいなぁ。私ももっと頑張らなくちゃ!」
「あたいも大ちゃんと一緒に頑張るよ!」
「うん、チルノちゃん、よろしくね!」
えへへ、大ちゃんの邪魔だけはしないようにしないとね。
「こんにちは、チルノ。いるかしら?」
しばらく大ちゃんと話していると、外からそんな声が聞こえてきた。
あれ、あの声は……もしかして咲夜!?
でも、何でこんなところに?
「チルノちゃん、早く行かないと」
「あ、うん」
ドアの近くまで駆けて行って、ドアを開ける。
すると、予想した通りに咲夜がいた。
「こんにちは。あれからしっかりやってる?」
「こんにちは! うん、ちゃんとやってるよ!」
「じゃあちょっとお邪魔させてもらうわ。あ、後二人いるからよろしくね」
へ? 後二人いるって?
「お邪魔させてもらうわねー」
「お邪魔しまーす!」
うわっ、レミリアにフラン!?
「遊びに来させてもらったわよ」
「私も遊びに来たよー」
あれれ、咲夜だけじゃなくて二人も一緒に来ちゃったよ……
でも大歓迎! 人はたくさんいたほうが楽しいしね。
「あ、大ちゃん、こんにちは」
「咲夜さん、こんにちは!」
「チルノの変わりっぷりに驚いたんじゃないかしら?」
「ええ、すごく驚きましたよ! まさかチルノちゃんがここまで出来るなんて!
咲夜さんの教え方がよかったんでしょうね」
「そーじゃなくて、あたいがすごかったんだよ!」
「はいはい、チルノはすごいわねー」
むー、何よその棒読みはー……
でも確かにここまで出来るようになったのは咲夜のお陰なんだけどさ。
「ん、この匂いは……もしかしてクッキーを作ってるのかしら?」
「うん、その通り! ちゃんと渡されたメモを見ながら作ったよ!」
「それじゃあ、後でしっかり作れてるかチェックさせてもらうわよ?」
「どーぞどーぞ! 完璧に作れてるから、問題ないもんね!」
ふふ、このクッキーには自信あるよ?
頑張って作ったんだもん、あるに決まってるじゃん!
「うーん、色的にはもう十分焼きあがってるはずね。チルノ、かまどから出してみて」
「はーい」
熱いから分厚い手袋を着けてっと。
うーん、よいしょ!
うわぁ、綺麗に焼きあがってる!
「ほう、これは美味しそうに焼けたわね」
「え、なになに? ……わぁ、クッキーだ! お姉様、ほら、クッキー!」
「へぇ、これは美味しそうだわ。味が楽しみね!」
「うわぁ、綺麗!」
ふふふ、どうだ! このさいきょーチルノ様にかかればこのくらい簡単よ!
「お嬢様、手を伸ばすのは構いませんが、まだ熱いですよ?」
「う、うー……早く冷めて欲しいわね……」
「お姉様、あとちょっとの辛抱だよ!」
まだ熱々だから誰も食べれないね。
……あ、こんな時には!
「あたいにお任せ! あたいの能力を使えば冷やすことなんて簡単よ!」
「凍らせないでよ?」
「大丈夫、大丈夫! 下の鉄板を氷で冷やせばいいでしょ?」
「チルノちゃん、気をつけてね」
「大丈夫だよ、大ちゃん。それじゃ、行くよー!」
うーん、よいしょっと。うん、氷の板が出来ました!
この板に鉄板を乗せて……うわっ、なんか霧みたいなのが出てきた!
じゅーじゅーうるさいし!
「あー、熱々の鉄板をいきなり冷やしたらそうなるわよねぇ」
「まぁ、大丈夫でしょう」
へ? どういうこと? ……ま、いいや。
「もういいんじゃないかしら、咲夜?」
「あ、そうですね」
氷の上に板を置いてから数分は過ぎた。これで冷えたよね。
そろそろ食べても大丈夫なはず。
「もう冷えたよね?」
「ちょっと待ってね……うーん、まぁ、十分に冷えたとは思うわ」
お、それじゃあ食べられるんだね。
じゃあ、食べようっと。
「おっと、ちょっと待って。
私がおいしい紅茶を入れてあげるわ。いい茶葉を持ってきているから。
それまでお預け。私がお茶を入れている間にチルノはクッキーをお皿に移しておいて」
「わかったー」
お預けかぁ……でも、おいしい紅茶も飲めるし、我慢しよっと。
「台所借りるわね」
「うん、いいよ」
そう言いながら咲夜は手に持っていたバッグから箱を取り出した。
あれが紅茶なんだろうな。
「さ、出来たわよ」
「早っ! まだ1分も経ってませんよ!?」
大ちゃんがすごい驚いてる。わ、私もびっくり……
そこでレミリアが口を挟んできた。
「あぁ、今のは咲夜が時を止めていたから一瞬で出来たように見えただけよ」
「ええ、そんな感じですね」
咲夜ってすごいんだなぁ、って改めて感じたよ……
「さ、お茶も入ったし……クッキーを頂きましょうか」
「うん、クッキー食べる! チルノちゃんのクッキー、どんな味がするかな?」
「あ、私ももらうね!」
お皿に盛ったクッキーをテーブルに置く。
うーん、自分で言うのもなんだけど、いい出来!
ついでに、みんなにお茶が配られる。
「それじゃ、頂きまーす!」
さくり、というクッキーを口に入れた音が聞こえる。
ど、どうかな? おいしく出来たかな……?
「……おいしい! おいしいよ、チルノちゃん!」
「そう!? ありがと、大ちゃん! み、みんなはどう?」
「うん、十分おいしいと思うよ!」
フランまで褒めてくれた!
「流石に咲夜には負けるけど……うん、おいしいわよ」
「ちょ、ちょっとー! それって褒めてるのー?」
「褒めてるわよ。しっかりと」
うーん、なんか納得いかない。
と、その時フランが耳元でささやいた。
「お姉様はあれでも褒めてるんだよ?
ただね、素直じゃないからはっきり美味しいって言えないんだ」
へー、そーなんだ。
「ちょっと、フラン! あなた今、変なこと言わなかったでしょうね!?」
「んーん。何も言ってないよ」
「本当に……?」
「うん、本当に」
「そ、それならいいんだけど……」
あー、レミリア真っ赤だー。なんか可愛い。
さて、あとは咲夜の感想だけだね……
うぅ、緊張するなぁ。他の三人には美味しいって言ってもらえたけど。
「……うん、上出来よ。流石ね、チルノ」
「あ、ありがとう!」
ほ、褒められた! 咲夜に褒められた! すっごく嬉しい!
「うん、とっても美味しいわ。私が教えたことは無駄にはならなかったみたいね」
「えへへ……」
頭まで撫でてくれたよ……嬉しい!
「チルノちゃん、色々と頑張ったんだね! チルノちゃん、凄いよ!」
「大ちゃん、ありがとう!」
「うん、私もよく頑張っていたと思うわよ」
「チルノちゃんは凄い頑張ってたよねー」
レミリアもフランも……ありがとう!
「さ、お茶もクッキーも冷めちゃいますよ? 温かいうちにいただきましょう」
「あ、そうだね。それじゃ、あたいももーらおっと!」
……うん、おいしい! 自分で作ったクッキーはやっぱり美味しいなぁ!
たくさん焼いたから、みんなでわいわい食べれるね。
「それにしても、私の教育が無駄にならなくてよかったわ。
心配だったから様子を見に来たんだけど……もう心配は要らないわね」
「へ、何か言った?」
「いや、何も」
なんか言った気がするんだけどな。ま、いいか!
「二人とも、今度は紅魔館にいらっしゃい。私達が精一杯おもてなしさせていただくわ」
「あ、うん。また今度行くね!」
「えーと、私もいいんですか?」
「ええ、二人でいらっしゃい。美味しいお菓子も用意して待ってるわ」
うん、また暇が出来たら紅魔館のみんなに会いに行こう。
短い間だったけど、みんなと仲良くなれたし。
「ふふ、それじゃあクッキーを食べ終わったらみんなで何かして遊びましょ。
もちろん咲夜も一緒にね?」
「あ、私トランプがいいな!」
「トランプなら持って来てますよ」
「流石は咲夜、準備がいいわね」
「お褒め頂きありがとうございます、お嬢様」
トランプかぁ。ババ抜きとかしたいな。
大ちゃんはどうだろう?
「大ちゃんは何したい?」
「私は……チルノちゃんがやりたいものならなんでもいいよ」
「それじゃあババ抜きがいいな!」
「ババ抜き……いいわね! それじゃあ食べ終わったらババ抜きね!」
「お姉様、やる気満々ね。私も負けないからね!」
お、みんなやる気になった。
よーし、それじゃあババ抜きに決まりだね!
楽しみだなぁ!
「さ、お嬢様、お茶のお代わりをどうぞ」
「ん、ありがとう」
あ、早く食べないとクッキー無くなっちゃう。
急いで食べないと!
クッキーを食べ終わってから、私達は仲良くトランプをしたり、おしゃべりをしたりした。
そんなことをしているうちにもう夕方。時間が経つのって早いなぁ。
「それじゃあ、私達はそろそろ帰るわね」
「今日は色々と楽しかったわ」
「うん、クッキーご馳走様!」
分かれるのはちょっと寂しいけど、また遊べるもんね。
「それじゃあ気をつけてくださいね」
「ええ。あなた達も紅魔館に遊びに来てね」
「はい、必ず行きます!」
大ちゃんと咲夜がそんなことを話している。
「暇さえあればあたいも大ちゃんと遊びに行くよ」
「ふふ、楽しみに待ってるわ」
「咲夜、それじゃあ帰りましょうか。早くしないと真っ暗になっちゃうわ」
「はい、分かりました、お嬢様」
あ、確かにもう暗くなり始めてるもんなぁ。そろそろ真っ暗になっちゃうね。
「それじゃあね、みんな!」
「また遊ぼうね、チルノちゃん!」
「うん、また今度ね!」
「それじゃ、さようなら。もし良かったらまた色々教えてあげるわよ?」
「へへ、また教えてもらうかも」
「ふふふ、じゃあ、またいろいろなことを教えてあげるわ。じゃあね」
「うん、さようなら!」
お辞儀をしてから三人は紅魔館のほうに向かって歩いていく。
……あーあ、行っちゃった。
「行っちゃったね、チルノちゃん」
「うん……それじゃあ、夜ご飯にしようか?」
「そうだね。今日のご飯は何?」
「うーん、カレーでいいかな?」
やったぁ! あたい、カレー大好き!
「カレー! カレーがいい!」
「ふふ、チルノちゃんはカレーが大好きだよね」
「へへへ……あ、手伝うよ」
「あ、お願いしてもいい?」
「任せといてよ!」
まぁ、役に立てるかどうかは分からないけどね……
でも咲夜に色々教えてもらったし、大丈夫! ……たぶん。
「それじゃあ、お願いするね」
「うん、精一杯頑張るよ!」
大ちゃんはありがとう、って微笑んでから家の中に入った。
あたいは家の中に入る前に、紅魔館のほうを振り返って呟く。
「咲夜、色々ありがと。これからもいろいろなことを教えてね」
「チルノちゃーん? どうかしたのー?」
「あ、なんでもない! すぐ行くね!」
また今度いろいろなことを咲夜に教えてもらおう。
もっともーっと、いろんな仕事が出来るようになりたいもん。
だからね、これからもあたいに色々なことを教えてね、咲夜?
和ませていただきました。
でも咲夜さんは本当に小さい子好きそうだったから・・・あ、いや、なんでもないです。
でも年下の面倒を見るのは好きそうですね。
コメントありがとうございます!