※全編ギャグです。メタとかキャラ崩壊が含まれます。パルスィが暴走します。妬ましいです。以上を踏まえた上で読んでくれる心が大妖精な方はどうぞ。
↓地底
「妬ましい妬ましいああ妬ましいっ」
水橋パルスィはジェラシーっていた。
年がら年中ずっと妬ましい妬ましいと草葉の影で呟いていたりするが、今回のパルスィは普通ではなかった。
パルスィには一年に一度くらい、嫉妬心が抑えられなくなることがある。
正月が必ず訪れるように、おっちょこちょいのヒロインが必ず塩と砂糖を間違えるように、それは必ずやってくる。
もうお分かりだろう、今日がその日である!
昔作ったオリキャラの設定を晒されたように布団の上でゴロゴロと転がっていたパルスィは、やがてもう我慢ならぬとばかりにすっくと立ち上がる。
「……ジェラシいわ…………」
妙な新語を生み出して、パルスィは発進する。布団を蹴飛ばし下駄を突っかけ壁にグーパンでヒビを入れながら。
ゆけ、パルスィ。嫉妬心の赴くままに!
「お邪魔しまーす!」
「げぇ!嫉妬娘!」
ドガパンと地霊殿の扉を開け放ち、ずんどこ中に侵入する。
くつろいでいた耳が四つある奇妙なネコ耳少女が狼狽える。無理もない。こんな強烈な嫉妬オーラを受けながらうろたえずにいられるのはドイツ軍人くらいなものである。
「ああっ妬ましい!その団欒ぶりが妬ましい!」
さとり妖怪姉妹と地獄鴉、それにさっきの猫が、見せつけるようにくつろいでいた。
そのほのぼのぶりたるや思わずパルスィが舌打ちを忘れるほどである。
「おねーちゃん、知らない人がいるわ」
「さとりさま、なんか怖いのがいるよ」
グリコはともかく核融合する奴には言われたくなかった。放射能とか撒き散らしてないだろうな。
私はいつものように口を開きかけて、そこにさとり妖怪がいたことに気が付く。
「おい、お前なら私が何を考えているか分かるだろう。申せ」
「あいや分かり申した、其方の考えなすっていることは全てお見通しでございやす」
「おねーちゃんがこわれた」
急に凛々しいというかむさい口調になった姉に、グリコ妖怪は哀れむような目線を向ける。
その眼差しはさながら、子供に捕まり狭いカゴに閉じ込められまさに虫の息のセミを見るようであった。
「ふむ…成る程、其方は嫉妬心に狂って我を忘れていらっしゃる」
「して、どうすれば助かるんでござい」
「思うさま、それをぶち撒けてきねェ。出口はそこじゃき」
「恩に着る!」
ウオオと掛け声を上げて、嫉妬狂いは飛び出していく。壁にガオンと穴を開けて。出口は投げ捨てるもの。
「…さて、おくう、燐、壁の修理を始めましょうか」
「おかえりおねーちゃん」
「およよ、どうしたのパルスィそんなに急いで」
「む…土蜘蛛か」
でろりと天井からどこぞの蜘蛛男のようにぶら下がって現れた土蜘蛛に、一瞬誰だお前は!と返したくなったが、今はそれどころではない。
「おお…いつもはそんなに妬ましくなかった貴方も今はちょっと妬ましく見えるわ!」
「それ嫌味だったりする?」
露骨に般若のような顔になる黒谷さんちのヤマメちゃんを尻目に、パルスィは駆け出す!
「もっと妬ましい奴に会いにいく」
「あ、待ちたまえ!このたわけが!」
「キャラ崩壊自重へぶっ!!?」
メゴスという凄まじい炸裂音と共にパルスィの頭にクリティカルを決めたのは、釣瓶落としの妖怪であった。
「キス魔…貴様っ…」
「人違いです」
頭の上に出現しそうになるヒヨコをなんとか振り払いながら、パルスィは一方的なキス魔宣言をする。たぶんキスメのことである。
「ふっ…今すぐにでもその桶を壊してやりたいところだけど……案外その桶は居心地が良さそうね、妬ましいわ!」
「ヤマメ、私褒められてるの?」
「どっちかって言うと桶がね」
折角ジョジョ立ちまで決めて妬ましい宣言したのに、キス魔と土蜘蛛の反応はわりと冷めていた。
冬場のアイスのように。別れた恋人のように。寂しい独りの夜のように。なんだかパルスィは自分で考えてて悲しくなった。
さとり妖怪のようにノってくれる奴の方が少ないのだが、今のパルスィはそんなことでは挫けない。
「ふふん、まあ精々幸せになるといいわ!おお妬ましい妬ましい!」
敗走する悪役のようにおーほほほと捨てゼリフを残し、嫉妬心の塊は地上の入り口に向けてシュタタタと猛ダッシュしていった。
「…ねぇヤマメ、幸せになるってどういうこと?」
「野心を捨てることだよ、キスメ」
「ここが地上ね!青い空!豊かな緑!色付く大自然!妬ましいわ!!」
遂に非生物にも嫉妬できるようになったパルスィはもう止まらなかった。
喩えるならそう、ブレーキの壊れたジェットコースター。あるいは、ホラー映画において心霊現象を絶対に信じない奴の死亡フラグである。
え?原作で光と風に嫉妬してたって?それはそれだ。
「ごめんくださーい!」
「門番仕事しろ!」
寝ていた紅の美鈴さんを華麗にスルーし(寝顔が妬ましかった)、紅魔館にズサンと滑り込む。面識?ゼロです。
とりあえずショーシャッとか言いながら出てきたメイドさんを妬ましがってみる。
「何の用で」
「ああ妬ましい妬ましい!その服が似合ってしまう貴方が妬ましいっ!」
「えっと」
「これでもまだ足りないのね?いいわ、貴方の能力のチートっぷりが妬ましい、厨二心をくすぐる設定が妬ましい、そもそも時間とかナイフとか銀髪赤目とかあげくの果てにメイドさんですってもう詰め込みすぎてあぁーっ妬ましいわっ!」
「咲夜、つまみ出せ」
「御意」
「ここの連中の人気が妬まし…あふっ」
つまみ出た。
門番は相変わらず寝ていた。妬ましいわ。
だがしかし、紅魔館は妬ましかった。この趣味の悪い紅色でさえ、今は人気と権力の象徴である。
パルスィはちょうど、出来が悪くても売れてしまうシリーズ物の映画や何かを思い出して、一抹の寂しさを覚えた。
悲しみと嫉妬心を糧にして、彼女は立ち上がる。負けるなパルスィ、いざ征かん。だいたい最初のがいちばんおもろい。
「…ところで、門番はまた寝てたのかしら」
「眠ったまま門番をする薬でも永遠亭に頼みましょうか」
「妬ましい子はいねぇーがぁー!」
「入門希望者ですか?」
「!?」
まさかの出鼻挫きに流石のパルスィも動揺を隠せない。ここはどこわたしはだれ。
威勢よくバギョムと扉を開いたまでは良かったものの、初めてパルスィは嫉妬の及ばぬ世界を知った。妬ましい。
「命蓮寺へようこそ!」
「とりあえず髪の色が妬ましいわ!」
慈母った笑みを浮かべる僧侶に、パルスィは嫉妬心で対抗を試みる。
そもそもなんで僧侶なのにこう…なんか髪の毛にグラデ入ってるのかに突っ込みたかったが、よくよく考えたら私もかなりペルシャった服装だったので気にしないことにした。ついでにエルフ耳だった。
あの腋巫女二号もなんか言っていた気がする。常識がどうとかメタがどうとか、その幻想をぶち殺すとかなんとか。
「おや、これはこれは…聖の知り合いですか?」
「!!と、寅っ!?妬ましいわ!」
髪の毛の色に関して言えば次に現れた毘沙門天も凄まじかった。なんだこれ。メッシュってレベルじゃねーぞ!黄色に黒がざっしゅざっしゅ。熱烈な阪神ファンだろうか。
コスプレするの大変そうだなぁとか、髪の色はネタ切れ気味なのだろうかとかあらぬ考えが過ぎったが、大洪水で押し流すことにした。方舟に乗る。おにぎりは壺に詰めておく。何の話だ。
「客人かい、ご主人」
「ネズミ耳とは妬ましい!」
「ええ?」
シルエットだけを見たら「ハハッ(甲高い声)」とか笑いそうな姿のネズミが現れた。きっと外の世界のテーマパークでは大人気でそれ以上いけない。
「あー!久し振りじゃんパルスィ」
「私達のこと覚えてる?」
「すごく…妬ましいです……」
どうしてあの根暗船長と天の邪鬼ぬえぬえがこんなに仲睦まじく百合々々いや失礼リア充してるのか、パルスィは不思議でならなかった。
同時に物凄い取り残された感が漂った。これが地上の寒さか。
というか、ここお寺なのに幽霊とかいますよ。いいんですか僧侶さま。そんなお母さんみたいな顔して笑ってないで。ああもう妬ましい。
「貴方達全員妬ましいわ!末永くお幸せに!」
「あー!いつでも来なよー!歓迎するからー!」
かつての友人の声が背中に刺さるのを感じながら、パルスィは夏休みに自分以外の全員が自分の知らない内に一緒にどこかへ遊びにいっていたような疎外感と孤独を感じた。
ヘタに気を遣われてる感じが却って痛々しいんだよぉ!ちくしょう!
パルスィは走った。しゃにむに走った。邪知暴虐の王様はどちらにいらっしゃいますか。
「…いちりーん」
「そう気を落とすな一輪。無個性はある意味個性に…え、雲山が個性食ってる?ごめん……」
「ジェラシー三人前お届けに参りましたァ!」
「だが断る」
「!?」
守屋神社まで全力疾走したパルスィは障子をメロスと音を立てて開け放ち高らかに宣言した。
しかし返ってきたのは予想外の返答と、ピッシャァーンと閉められる障子の音だけであった。
今のはきっとげんじんしんの仕業だ。そうに違いない。パルスィは自分の無差別嫉妬テロの情報が幻想郷に知れ渡っていることを知り、ただ嘆いた。親に一人エッチを見られたような心境だった。
「……妬ましい、妬ましいわ!
貴方の神社が、妬ましい!」
パルスィはあらん限りの嫉妬心を振り絞って哭いた。一人エッチを見られた少年から、好きな人に告白する時の少年の心境に至った。奇跡である。
「なんだかんだで自機キャラになった東風谷早苗が妬ましい!
外道から清純派までこなせる柔軟さが妬ましい!
さりげなく非想天則に参戦した洩矢諏訪子が妬ましい!
結局みんなロリが好きなのね!でも人妻なんですって!あらやだ妬ましい!
そんな二人を纏めるポジションの八坂神奈子が妬ましい!
ガンキャノンとかなんとか言われて、結局いい感じに保護者ポジじゃないの!あーあ妬ましい!
本っ当、貴方達は妬ましいわ!一生幸せになりなさいよ!この神様家族!!」
それだけ言うと、流石のパルスィも息を切らした。ただでさえセリヌンティウスを助ける勢いで走ってきたのだ。今ので体力を使い果たしていた。
返事は無かった。しばらくパルスィはそこに立ち尽くし、やがて足を震わせて縁側にどすんと腰掛けた。顔面が燃えるように熱い。
自分は一体何をしてるんだろう。そんな思いに駆られた。
やがて、汗が引いて、呼吸が整ってきた。仮にも地底の道先案内人、体力に自信がないはずはない。
まだ日は沈んではいない。パルスィは自分のやるべきことを果たすべく、再び猛然と駆け出した。
「…地底の連中も、悪い奴ばかりではないのかもね。変わり者が多いのは確かだけれど」
「神奈子、顔赤いよ?」
「突撃!隣の永遠亭!」
「案内無しで!?」
竹林を全力で彷徨い続け、
道中のショタっぽい蛍に嫉妬し、
夜雀の歌声に嫉妬し、
青々と伸びる竹に嫉妬し、
侵入者を拒む竹林の意思に嫉妬し、
その他諸々に嫉妬しながらようやく竹林を抜けると、そこは永遠亭でした…………。
「というわけよ!妬ましい!」
「まったく分からなかったけど得体の知れない熱意は認めるわ!」
ウサ耳ブレザーの元祖新参ホイホイのあざとい格好に嫉妬心を燃やしつつ、パルスィはズドドドと永遠亭に侵入していく。
「ん、お客さんウサ?」
「貴方の能力が妬ましいっ!」
幸せウサギとか皆得すぎだろう。
さらにいたずらっ子で永遠亭のムードメーカーを務めつつ、その実かなりの年長者というシリアスにも転換可能な万能ぶり!
その上語尾のお陰で台詞だけでも書き分けが容易だ。こんなに嬉しいことはない。
「あら…貴方、見ない顔ね。地底で熱病でも流行ったのかしら」
「妬まっ……!?ま、眩しい!」
八意永琳──それは、パルスィにはあまりにも強すぎる敵だった。RPGで言うなら序盤の負けイベントだった。
私の手には負えない──そう考えたパルスィは、一目散に永遠亭から駆け出していた。涙がちょちょぎれそうだった。
あんなの、反則だ。みんなもよく考えてみてくれ。パルスィじゃなくても嫉妬すること請け合いだ!
天才で主人より強くて不老不死でしかもその薬を作れて……才色兼備に毛が生えまくったようなおぞましい存在。それが八意永琳なのだ。妬ましい。
「…となると私は別に妬ましくないのかしらね」
「全世界のニートからは羨望の眼差しを浴びているかもしれません」
「これから毎日嫉妬しようぜ!」
「! 誰だ!」
竹林の途中に小屋を見つけてバシュルと転がり込むと、どうやらもこけーねだった。なんだか食べてもいないのに口の中が砂糖の味である。
というか、なんというかすごくまずい場面に遭遇してしまった感じがする。
具体的にはハリウッドの映画を家族で見ている時にエッチなシーンなっちゃった時みたいな気まずい感じがする。誰か早送り押して。
「えっと、その…ね、妬ましい、わ!」
「……あ、ああ」
「そ、そうか。それで、何か私に用」
「結婚式には呼びなさいよね!」
ゆっくり、音を立てないように戸を閉めた。この胸のドキドキはきっと疲れている所為だ。
パルスィは結構純情派だった。
「な、なんだったんだ…」
「それよりもさ、けーね。続き」
「ぜぇ、はぁ、冥界遠いわぁ!」
「不審者ァーッ!」
突如として斬りかかってきた辻斬りをギリギリで回避し、パルスィは吼える。
「ああ妬ましい!貴方も自機だったのね!っておおぅ!?」
「そりゃぁぁぁ!」
鬼の形相で問答無用で斬りかかる。それは俗に言う萃夢想妖夢だった。もっと言うならキャラがいまいち固まってなかった妖夢。あいつは話を聞かないからな。
「お止めなさい、妖夢」
「っ!幽々子さま!」
「主従妬ましい!」
パルスィは思う。周りに、身近に、信頼を置ける存在がいることはとても素晴らしいことだ。
特に、この白玉楼には無数の魂の他には、彼女ら二人しかいない。
「もう、妖夢はすぐ剣に頼るんだから」
「し、しかし…私には、剣を振るうことしか」
パルスィは、去り際に何も言わなかった。
──失踪しちゃったあの人も、戻ってくるといいわね。
原作的にまずないが、それでもパルスィは、嫉妬心から彼女らの幸せを願ったのだった。最近はゲーム以外の媒体にも幻想郷が現れているし、もしかしたらもしかするかもしれない。
全く、妬ましい。いい喩えも思い付きやしない。
さあ、次はいよいよ最後だ。
どんな嫉妬が待っていようと、パルスィは嫉妬し抜ける。そう確信していた。
「…私だって、強くなってるんですから」
「ふふふ、本当、妖夢は可愛いわね」
「緑眼のジェラシー!」
「…斬新な登場演出ね」
博麗神社を目指しひたすらにバビュンと降下し続けていたら、何時の間にか槍のように頭から地面に刺さっていて、パルスィは久し振りに土のにおいを感じた。
「おん?なんだ、また珍しいのがすごい方法で来たな」
「あ!貴方はフラグハンターの霧雨魔理沙!妬ましいわ!」
「そんな称号をかざした覚えはないんだがな」
顔をなんとか引き抜き、ブルンと土を払って刮目する。よく見れば結構な面子が揃っていた。
「人形遣いに、鬼に、主人公に…あ、氷精!貴方も自機ね!妬ましいわ!」
「なんだかよく分からないけど、褒められた!あたいったら最強ね!」
自機、特に主人公。それには特別な意味が込められている。
そう、自分のような一面を担当するに過ぎないキャラクターとは一線を画する、揺るぎない想いが込められている。
──この幻想の世界からの、愛である。
愛。それはどんなにパルスィが妬んでも、欲しがっても、決して手の届かないものだった。
まあぶっちゃけた話が原作者の愛である。
「…とりあえず、顔拭きなさいよ」
「その優しさが妬ましい!」
布を差し出したのは、主人公張本人だった。さながら物語はクライマックス、永遠のライバルと決着をつけ、互いに健闘を称え合う……そんな場面が、パルスィの脳裏に浮かぶ。
ああ、自分が地上に出てきたのは、こうやって彼女らと並ぶ為だったのかもしれない。
「ま、せっかく来たんだし…お茶でも飲んで、ゆっくりしていくといいわ」
腋巫女──博麗霊夢は、そう言って笑った。
周りの連中も、同じとはいかないにしても、笑った。笑顔になった。
瞬間、パルスィは理解した。
ああ、そうか。
だから、ここには皆が集まるんだ。
巫女が有象無象を寄せるのも、私がそれを妬ましいと思うのも。
きっと、何の混じりけもない感情が、そこにあるからなのだ。
気付けば、嫉妬という心は、何か別のものに変わっていた。
茶を受け取りながら、パルスィは今度の博麗神社の宴会には参加してみようかなと、そう思ったのだった。
鬼が、氷精が、魔法使いが、人形遣いが、巫女が。
妖怪が、妖精が、人間が。
みんなが、笑顔でいられるこの場所にいる。
パルスィは、はじめて自分のことを妬ましいと感じた。
こういう暴走ギャグというのはさじ加減が難しいと思うんですが、楽しく読ませて頂きました。
パルスィ可愛いよパルスィ。
一面担当という言い方より一つの面といった方がいいのでは・・・
自分は一瞬2ボスじゃないっけ?と思ってしまった物で・・・w
エルシャッダァ……イ!
この子はとても真っ直ぐで気持ちいいな、
とても清清しい気分だぜ
それにしてもさとりんノリいいなwww
はーい☆とか言ってくれそうだなwww