Coolier - 新生・東方創想話

カフェ・ド・鬼

2011/02/03 23:53:02
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伊吹萃香は今日が二月三日であることにふと気づくと、一目散に地底の旧都へと向かった。
訪ねる先は、気心知れた旧知の友の住処である。

どんどん!

「んえー? 何、新聞なら取らないよー? 今寝てるんで後にしてくらはいー」
「起きてるじゃないかっ」

どんどん!
渾身の力を込めて扉を叩いていると、寝ぼけ眼の友がぽりぽりと頭を掻きながら顔を出した。

「んあー、なんだいなんだい? こっちは気持ち良く昼寝と洒落込んでいたのに――って、萃香か。どうしたね?」
「うわあ酒臭い。ちょっと勇儀、寝てる場合じゃないよ! 今日が何の日か忘れたわけじゃないでしょ」
「え?」
「節分だよ!!」

節分――その単語を耳にした途端に、勇儀の顔つきが一瞬にして引き締まった。

「せせせ政府が情報を遮断して鬼に節分を気付かせないように脳波をいじっていたのかこれは不覚!
 我々は鬼としてのプライドで鬼による鬼のためのアンチ節分イデオロギーを行わねばならない
 しかし人間の卑劣さのせいで鬼のハートの電気計算機は血まみれの死亡遊戯だってよ!」

いつも飄々としている勇儀にしては珍しく、気が動転したようである。
まあ、寝起きに「節分」などと聞いてしまったなら致し方ないであろう。
アングラ演劇の台詞のような独り言をぶつぶつと呟きながら、凄まじい勢いで壁に頭を打ちつけ始めた。
どうやら悪酔いしているようだ。
激しいヘッドバンギングによって頭からにょっきりと生えた角が見る間に壁にめり込んで、
勇儀は標本箱に貼り付けられた不恰好な昆虫のようにもがき始めた。

「節分……鬼イデオロギー……うぎぎ……」
「Be Cool」

あまりの混乱振りを見かねた萃香の救助によって、ぐいっと壁から引き剥がされる勇儀。
先日久しぶりに掃除をしたばかりだと言うのに、壁には見るも無残な大穴が開いてしまった。
ご愁傷様である。

「ほら勇儀、いい加減シャキッとしなよ……こうしている間にも危機は迫っているんだよ。
 早く準備しないと!」
「そうだそうだ、萃香の言う通り……ちょっと待ってな、助っ人を呼んでくるよ」
「ん、助っ人?」

まだ酔いの残る千鳥足で戸口から出て行く勇儀を見送ってから数分後。
居間で勝手に友の残り酒を頂戴していた萃香の耳に、聞き覚えのある声が届いた。

「――ちょっと、離してよ! 何だって言うの、今日はいつにも増して強引じゃない」
「ういー、今日が何の日か忘れたのかー」
「もうやだ、この酔っ払い……」

困り果てた表情で勇儀に引っ張られて来たのは、緑の瞳の橋姫であった。

「おや、これはこれは。助っ人ってのはパルパルのことか」
「変な渾名で呼ばないで! ちょっと、それよりこの酔っ払いを何とかしてくれない?
 いきなりやって来て、こんな……私のプライベートを完全に無視してるわよ」
「いや、そうは言うけどさ? こればっかりは仕方が無いよ」
「なぜ?」
「節分だから」
「日本語でおk」

パルスィは何の説明もなしに勇儀に連れて来られたらしく、
状況がさっぱり呑み込めないことも手伝って少々ご立腹のようである。

「妬ましいわ。そうやっていつも余裕綽々な態度で相手を煙に巻くのね。これだから鬼って困るのよ」
「でも節分だから」
「……ふぉおおおおおあッ!! (ピー)すぞ酒乱!」
「まあまあ、そんなに怒んないで」

のらりくらりとした足取りで物置から戻ってきた勇儀が、口論する二人を差し置いて玄関に何やら設置している様子。
いったい何を始めようと言うのだろうか?

「萃香、準備は整った! 今年も元気に始めるぞおー!!」
「おう勇儀、ありがとさん。じゃ、まずは三人からスタートだね」

流石はツーカーの仲。
鬼コンビは阿吽の呼吸でいつの間にかセッティングを終えていた。
流れに置いて行かれたのはパルスィ一人のようだ。

「え? 私も人数に入ってるわけ?」
「そりゃあ勿論」
「頼りにしてるよ、パルパルー」

“解せぬ”といった面持ちで玄関を出たパルスィは、家の前に置かれた看板を覗き込んで首を傾げた。
その背後では、萃香と勇儀がニヤニヤしながらその様子を見つめている。

「カフェ・ド・鬼……? なにこれ」
「たぶん喫茶店だよ」
「どこが?」
「ここが」
「なぜ?」
「節分だから」
「私が連れて来られたのはなぜ?」
「えっ、何をいまさら……パルパルだって鬼じゃないか」
「私は橋姫よ。鬼じゃないわ」
「いやだなあ、とぼけちゃって。立派な鬼だよ」
「え?」
「嫉妬の鬼」
「……え?」
「さあ、一緒にカフェ・ド・鬼を盛り上げていこうよ!」
「帰る」
「あー、聞こえんなあー?」

パルスィはその場に崩れ落ちると、さめざめと泣き始めた。





<開店から一時間後>

パルスィが虚ろな瞳で大豆を炒っていたところ、ふらふらと外へ出て行った勇儀が帰ってきた。

「やあ、助っ人が来たよ!(←拉致してきた、の間違い)」

のろのろと振り返ったパルスィの視線の先には、刀を携えた少女が一人……初めて見る顔だ。

「ここが地底の喫茶店ですか。変わってますね」
「こうして巡り会ったのも何かの縁。今日はここを大いに盛り上げよう!」
「えっと、日雇いということで宜しいのですか?」
「まあ、そうなるね。報酬はウチの物置にある年代ものの地獄漬けの樽でどうかな?」

あっさりと取引を進める二人。少女の只ならぬ順応性の高さを感じさせる。
二人の会話を半分聞き流しながら大豆をジャラジャラと弄んでいたパルスィの元に、彼女がつかつかと歩み寄ってきた。

「あの、初めまして。ここの店員の方でしょうか?」
「断じて違うわ」
「は、はあ……(瞳にハイライトが入ってない! この人、大丈夫かな)」
「ところで、あなたは一体? 地霊殿には出てないわよね、初めて見る顔だもの」
「メタ的な話のし過ぎは命に関わりますよ……初めまして、私は魂魄 妖夢と申します」
「私は水橋パルスィよ。コンゴトモヨロシク」
「よろしくお願いします。大豆がお好きなんですね!」

屈託の無い妖夢の言葉が心の経絡秘孔に刺さったのか、パルスィは大豆の山を見つめたままポロポロと涙をこぼし始めた。

「うっ……うう……妬ましい!! どうして……こんな目に……!!」

☆苗字に「鬼」というパーツが入っていたため、魂魄 妖夢さんが新たな仲間に加わりました。おめでとう!☆





<開店から二時間半後>

「ちょっと呼び込みをしてきます」と元気に出て行った妖夢が、今度はキレイなお姉さんを連れて帰ってきた。

「ただ今戻りました。ウェイトレスをして下さる方をお連れしましたよ」
「おお、でかした!」

ニコニコと微笑みながら、妖夢とお姉さんに歩み寄る鬼コンビ。
いい気なものである。

「日雇いバイトを募集していると聞いて参りました、十六夜 咲夜と申します……って、あらら」
「ご無沙汰してたね、メイドさん!」
「雇い主は貴方だったのね。今度は何を企んでるのかしら?」
「企むなんて人聞きが悪いなあ。今日はほら、節分だから」
「なるほど、節分……そうね、節分なら仕方ないわね」

何が仕方ないというのか。
今の会話で何をどう納得したというのか。
あのメイド、気は確かか。

パルスィは憤懣遣る方無い思いを抑えきれず、大声で「煩悩退散! 煩悩退散!」と叫びながら
大豆の表面にミクロサイズの般若心経を書き込み始めた。
尋常ならざるパルスィの様子に、思わずぎょっとする咲夜。

「あの……あちらの方は一体……?」
「ああ、私たちの友達だよ。ちょっと気難しい所もあるけど、良い奴だから。仲良くしてやってね」
「は、はあ……」

豆写経に勤しむパルスィの傍らでは、妖夢が一心不乱に豆腐を斬り続けている。

「そんじゃまあ、形式的なものだけど一応面接をしようかな」
「はあ。面接って、いったい何を……?」

どこから引っ張り出したのか、いつの間にかピシッとしたスーツ姿に変身していた鬼コンビ。
長机とパイプ椅子が置かれている。
咲夜は一礼すると、いそいそと椅子に腰掛けた。

「卒業してから今までの間は、何をしていらっしゃったのでしょうか」
「主人のドロワーズを凝視していました」
「コホン。えー、資格はお持ちですか?」
「資格ですか? そうですね、“お嬢様の寝室への潜伏1級”、“美鈴のチャイナのスリットに手を突っ込む準2級”を所持しております」
「なるほど。それは頼もしいですね」

(BGM:パルスィの般若心経)

「あなたをカフェ・ド・鬼で雇用するとして、我々にどのようなメリットが有りますか?」
「基本ボム数が四個になります。他には、かすり有効範囲が広がる・ミスしてもCherry減少が少ない……などが挙げられます」
「なるほど……では最後の質問です。あなたはどんな“鬼”ですか?」
「夜霧の幻影殺人鬼です!」
「よし、合格!」

――つつがなく進行する面接の傍らでは、パルスィが奇声を発しながら大豆の山に頭を何度も何度も打ち付けている。

☆夜霧の幻影殺人「鬼」、十六夜 咲夜さんが新たな仲間に加わりました。おめでとう!☆





<開店から三時間半後>

「たのもー! ここで鬼を募集してるらしいわね。私に声を掛けないなんて水臭いわよ!」
「はいはい、当店での勤務を希望……って、おや?」
「やっぱりね。元気してた? チビッ子鬼さん」
「そういうあんたも小さいじゃないの……って、どこでこの話を?」
「咲夜の服に仕込んだ無線から聞こえてきたから、急いでここに」

もはや世界観などお構いなしである。

「情緒不安定な妹も社会見学をかねてここに置いて欲しいんだけど、良いかしら?」
「妹さんも吸血鬼なんだっけ?」
「ええ、そうよ。さあフラン、こっちへ」

レミリアの呼びかけに応えるように、焦点の定まらぬ瞳をした少女が四つんばいで走りこんできた。

「土足で窓から失礼します。今日からあなたの娘になります」
「……情緒不安定にもほどがあるだろ」
「私は腐乱ドドドドールスススカカカkレットトトトtt」
「フラン。久しぶりに窓の無い部屋から外へ出たとは言え、はしゃぎすぎよ。ちょっとは落ち着きなさい」
「はい、わかりましタニシ」

見た目は可愛いのに、脳に積まれたCPUが少々バグっているようだ。
萃香と勇儀は急に不安になったが、「見た目は可愛いんだし良いだろう」とそのまま放置することにした。

首を不自然な角度に傾けて、ヘラヘラと嗤いながら大豆を撒くパルスィ。
活き活きと愛刀を振り回して豆腐を斬り続ける妖夢。
客が一人も入っていないというのに、やる気満々でウェイトレス姿に着替えている咲夜。
そんな咲夜のコスプレ姿を楽しそうに撮影し始めたレミリア。
その傍らで、ケタケタと嗤いつつ猛スピードで反復横跳びを続けるフランドール。
まだスーツ姿のままの萃香と勇儀。

店内の鬼レベルは急上昇している。
このままでは幻想郷が危ない。

と、そこへ……

「ちわーっす。橙のスペカに入ってる赤鬼&青鬼というもんですがー」

店内の鬼レベルは(ry

☆吸血「鬼」、レミリア・スカーレットさんが新たな仲間に加わりました。おめでとう!☆
☆吸血「鬼」、フランドール・スカーレットさんが新たな仲間に加わりました。おめでとう!☆
☆橙さんのスペカに住む赤鬼さん&青鬼さんが新たな仲間に加わりました。おめでとう!☆





<開店から五時間後>

「こんにちはー、文々。新聞です! なにやら奇妙な喫茶店モドキが現れたとのことで、取材を……」

なんと、ここへ来てやっと鬼ではない人(人でもないけど)が入店した。
どうやら純粋に取材をしに来たようである。
開店した当日にマスコミからの取材……これは幸先が良い。
鬼コンビは満面の笑みを浮かべて「やあやあ」「どうもどうも」などと口にしつつ文を出迎えた。

「えー、ここはどういった趣旨のお店なのでしょうか?」
「鬼カフェだよ」
「初めて聞きますね。メイドカフェみたいなものですかね?」
「んー、そんなに生易しいものじゃないんだね、これが。メイドカフェは……こう言っちゃなんだけど、
 軟弱だよ。鬼カフェはもっと剛毅で素朴だよ」
「そうそう、萃香の言う通り。メイドカフェは正直、外国でもできるだろう?
 だけど鬼カフェは一味違うからね。純和風な地産地消だね」
「なるほど(よくわからん……)。どのようなサービスや特徴があるんですか」

ぱぁっ! という効果音が付きそうなほどに勇儀の表情が明るくなった。
聞いて欲しくてうずうずしていたのだろうか。

「よくぞ聞いてくれたね! カフェ・ド・鬼が誇る唯一無二のサービス、それは!」
「……おさわりOKとかですか!?」
「そんないかがわしい要素はウチの店にはないよ! あれを見てごらん」

勇儀の指し示すほうを文が見てみると、ウェイトレス姿の咲夜が片手に赤い杯を持って歩み寄ってきた。
そしてもう片方の手には、山盛りの大豆が入った枡が載ったトレーが……一体何をするのだろうか。

「おや、咲夜さん。ここで働かれてるんですか?」
「日雇いのバイトよ。さあ、カフェ・ド・鬼の真髄をその目に焼き付けて!」

咲夜は真剣この上ない表情で、片手に持った赤い杯(どうやらお酒が入っているようだ)を水平にキープしたまま
文の座っているテーブルに大豆の枡をコトリと置いて見せた。

「…………どう?」
「いや、その……どう? と申されましても」

何が起きたのか今ひとつ把握できなかった文は、首を傾げて鬼コンビを見つめた。

「あの、このお店が誇る唯一無二のサービスって言うのは?」
「えっ、今のだけど?」
「えっ」
「酒を一滴もこぼさずにお客に尽くす。ハイレベルだろう?」
「……………………」
「あ、あれ?」
「わ、話題を変えましょうか。お店のメニューとか見たいなー、なんて(明らかにそわそわしている)」

どうやらカフェ・ド・鬼の崇高なスタンスはミーハーなマスコミには難しかったようだ。
鬼コンビは気を取り直して、メニュー表を意気揚々と文に向けて差し出した。



『カフェ・ド・鬼 おしながき』

・生の大豆
・よく炒った大豆
・大豆(嫉妬の鬼edition 般若心経つき)
・豆腐(滅多斬り)



文はひどく悲しそうな表情を浮かべると、すっくと立ち上がった。

「あの……お邪魔しました」

☆殺人鬼……改め、撮人鬼・射命丸 文さんがお店を後にしました☆





―― カフェ・ド・鬼 閉店 ――
節分に間に合えばそれでよかった。
今は反省している。
しかばね
http://
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コメント



0.720簡易評価
5.100奇声を発する程度の能力削除
>パルスィが奇声を発しながら
ピクッ
色々笑いながら楽しく読ませて頂きましたwww
12.100名前が無い程度の能力削除
なんかもぉカオスwww
14.100名前が無い程度の能力削除
タイトルを読んだ時点で吹き出しました。
ただそれを、伝えたくて……。
17.50名前が無い程度の能力削除
顔と科学はー?
18.100名前が無い程度の能力削除
これは面白い。
大豆を使用したスイーツも結構ありますよ。
19.無評価名前が無い程度の能力削除
女はしびれて感電死~
22.90名前が無い程度の能力削除
腐乱ドドドドールルルちゃんキ○ガイかわいい。
パルパル般若心経かわいい。
寝起き勇儀電波かわいい。
28.90名前が無い程度の能力削除
豆腐のメッタ斬りが妙にツボに入った
電気グルーウ゛は偉大ですな