「みんな元気? こあらじの時間よ!!」
少女の言葉に上がる歓声。静かだった室内は一気に騒がしくなり、少女は満足そうにウンウンと頷いている。
場所は紅魔館地下のとある一室、そこにはテーブルに三人の少女が座っていた。
「はい、みんなこんにちは! まさか続くことになった幻想郷先取りラジオ、『こあらじ』。
この番組はメインパーソナリティーの私、フランドール・スカーレットと、同じくアリス・マーガトロイド、小悪魔の三名でお送りしたいと思うわ!!」
「そんなわけで、アリス・マーガトロイドよ。前回に引き続き、よろしくね」
「レミリアよ、みんなよろしく! ガッチャ!!」
……。
ピタリと、ここにいるはずがない人物の声に思わず静止する一同。
そんな中、まったく持って動じないというか気付いてないというか、件の人物はニコニコと満面の笑顔である。
まさか無視するわけにもいかず、フランは小さくため息をついて問題の人物に視線を向けた。
「お姉さま、なんでここにいるの?」
「あら、ここは私の屋敷よ? 私がいてはいけない理由でもあるのかしら?」
「いやいや、だってそこ本当は小悪魔の席だよ? ていうかこの番組の主役は小悪魔だよ? 小悪魔は?」
「小悪魔ならさっき図書室でパチュリーと一緒にテレビ(八雲紫経由)見ながら『ブルーノォォォォォォォォォォォ!!!?』とか叫んで泣いてたわよ?」
「なにがあったの二人とも!? ていうかブルーノって何!!? 人名!!?」
特に悪びれた風もないレミリアの言葉に何を言っても無駄と悟ったか、もう一度ため息をつくとアリスに言葉を投げかける。
「アリス、視聴者のみんなに訂正お願い」
「……先ほど、メインパーソナリティーの紹介に誤りがありました。正確には、フランドール・スカーレットのみメインツッコミです。重ね重ね、お詫び申し上げます」
「そこかよっ!!? もっと違うところに訂正する場所があるでしょうが!!? 小悪魔の紹介のところをお姉さまに変えてって言ってるのッ!!」
「……なるほど、メインツッコミね。……確かに」
「お姉さま止めてくれないその納得の仕方!? なんかすッごい腹立つ!!」
とまぁ一通り怒鳴りつつ、話が進まないと思ったのかはがきを手に取るフラン。
何はともあれ絶賛生放送中のラジオ番組なのである。多少のトラブルには目を瞑り、さくさく進行するのがパーソナリティの仕事なのだ。
「とにかく、一つ目のはがき読み上げるよ。こあらじネーム『スーパーマリサランド』さんからのお便り。
『最近、新しいスペルカードを作りました。ですが、いい名前が中々思いつきません。一体どんな名前にしたらいいのでしょうか?』だってさ。
そこはかとなくまた誰かわかりそうなラジオネームだけど、アリスは何かある?」
「うーん、そうねぇ。それがどんなスペルカードかわからないとなんとも……」
「ふふ、ここは私の出番のようね!」
「えぇ~……お姉さまがぁ?」
心底胡散臭そうな目を向けるフランにも難のその、なぜか自信満々なレミリア・スカーレット。
フランは心底心配だったのだが、それも無理もあるまい。何しろ、自身の姉の壊滅的なネーミングセンスを知っているのである。
そりゃあ、そんな不満そうな声が上がるというものだろう。
「あら、私の偉大なネーミングセンスが信用できないと?」
「素粒子レベルで信用できない」
「うわぁい、お姉ちゃん泣きそうだわー」
そしてこの妹、口に出すときゃ遠慮しないから困り者である。
思わずくじけそうになったレミリアだったが、そこはグッと堪えて踏みとどまった。
「ならば、見るがいいわ! 姉の生き様を!!」
「んなネーミングで生き様見せられても……」
「反応に困るわよね、普通」
「シャラップ二人とも! いい、『スーパーマリサランド』! お前にふさわしいネームは決まった!」
腕を組んでふんぞり返るレミリアだが、無論この番組はラジオなので視聴者には伝わんない。
けれど、彼女にとってはそんなことは二の次らしい。
クスクスと得意げな笑みを浮かべ、吸血鬼の少女はその口を開いた。
「名づけて、虚無『エターナルフォースブリ――」
「はい、こあらじネーム『人斬り庭師抜刀斎』さんからのお便りです」
「って、ちょっとフラン!!?」
みなまで言わせてもらえず、フランのはがきの読み上げで台詞をさえぎられたレミリアは抗議の声。
しかし、フランはと言うと心底めんどくさそうな視線を彼女に向けると、これ見よがしにため息をついた。
ちょっと怯んだのはレミリアだけの秘密である。腰が完全に引けていたが、それはさておき。
「何、お姉さま?」
「何? じゃないわよ! なんで台詞全部言わせてくれないわけ!? なんか変なとこで途切れちゃってるし!?」
「どーせ『エターナルフォースブリザード』なんでしょ? 相手は死ぬんでしょ?」
「違うわよ! 正確には『エターナルフォースブリザード・レクイエム∞(インフィニティ)』よ!」
『あいたたたたたたー』
現場のスタッフみんなの思いが一つになった瞬間だった。「これはひどい」と。
まさかの予想の斜め上をすっ飛んでいったレミリアはこれ以上にないくらい得意げなのだから尚の事いたたまれない。
不意に、優しい笑顔を浮かべたアリスがフランの肩に手をポンッと置いた。涙がちょちょ切れそうだった。
「えーっと、『こんにちはフランドールさん。私、人斬り庭師抜刀斎こと魂魄――ゲフンゲフンですが、最近家のお嬢様が食べすぎで困っています。
なんとか食事量を減らす工夫はないものでしょうか?』だってさ。
……こういうの小悪魔向きの質問だよねぇ。つーか、なんでどいつもコイツも個人特定できそうなラジオネーム使うのさ。今回も危うく名前言いかけたし」
「うーん、私も思いつかないわねぇ。魔法使いって本来は食事必要上に、私は元々小食だもの」
「面倒ねぇ、冥界の方も」
「お姉さま、個人特定できそうな単語禁止」
あーでもないこーでもないと、質問に答えようとするが明確な答えが出てこなくて悩む一同。
そんな時である。部屋の外のほうからドドドドドと地鳴りにも似た音が近づいてきたのは。
一体何事かと全員が其方に向いた瞬間――
「クリアマインドォォォォォォォォォ!!」
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』
――クマのきぐるみ着た小悪魔が、なぜかクリアレッドのサングラス装備で壁をぶち抜いて登場なさったのであった。
一連の意味不明な登場にさすがのレミリア達も驚きの声を上げ、そんな彼女たちなど露知らず、小悪魔は空中でムーンサルトを決めると華麗な着地を披露なさったのである。
「話は聞かせてもらいましたよ魂魄妖夢さん!!」
「だから実名さらすなって言ってんでしょうが!!? 何この番組、プライバシーゼロか!!?」
「大丈夫よフラン、後で編集すれば何とか――」
「ならないよ!!? アリスこれ生放送だから!!」
「いいですか、よく聞いてください人斬り庭師抜刀斎さん。不可能なこと言っちゃいけません!!」
「諦めたしッ!!?」
さすがに連続のツッコミに疲れたか、フランがげんなりとため息を一つ。
そして、改めて小悪魔の格好を見てみればまぁ素っ頓狂な格好だなァと心底思うわけで。
いやまぁ、可愛いけど。などと言う本音はとりあえず隠しつつ、ジト目で小悪魔に視線を向ける。
「ていうか、なんなのその格好。クマのきぐるみはまぁシャレだとわかるけど、そのグラサン何?」
彼女の素朴な疑問に、小悪魔は何を思っただろう。
遠くを見つめるような視線は哀愁を漂わせ、今にも崩れ落ちてしまいそうな雰囲気を放っている。
これがクマのきぐるみ来てなければ様になっていたことだろう。きぐるみ一つで色々台無しだった。
「このグラサンはね、ブルーノなんですよ妹様」
「いや、意味わかんないから。ていうか誰だブルーノ」
【罵って! フランちゃーん!!】
「はい、始まりました『罵って! フランちゃーん!!』のコーナーです!」
「……小悪魔、相変わらずこのコーナーの有用性がさっぱり理解できないんだけど?」
「私が喜ぶわフラン!」
「スタッフー! このお姉さま外に放り出して頂戴! ワリと大真面目に!!」
フランが大声でスタッフに呼びかけるが、残念ながら妖精メイドのスタッフではレミリアをつまみ出すなど到底出来ないわけで。
そんな姉と妹の口論が始まった最中、ちゃっかり手紙を取り出すあたりアリスの司会進行能力は高いのかもしれない。
「こあらじネーム『うっかりトラさん』からのお便りね」
「……だから、なんでこう個人特定できそうなネーミングばっかり……」
「『フランドールさんこんにちは。私はとあるお寺で毘沙門天の代理などをしているのですが、実は過去に大切な人が封印されるのを黙ってみていたことがあります。
その事を数百年の間ずっと悔いて生きてきましたが、そのかいあったのか大切な人の封印を最近になってようやく解くことが出来ました。
ですが、私の心は一向にはれる気配がありません。その人は私を笑って許してくれましたが、私の心が納得できないのです。
妖怪とばれるわけにはいかなかったとはいえ、当時の自分自身がふがいないのです! どうか、どうか私を――寅丸星を罵ってください!!』」
「罵れるかぁぁぁぁぁぁ!!? 罵る内容が重過ぎるでしょうが!!? 私の心が罪悪感に苛まれるわ!!
ていうか本名さらすなってさっきからいってるでしょ!!? なんでどいつもこいつも本名さらっと書いてるの!!? プライバシー舐めとんのか!!?」
むきぃぃぃぃ! といわんばかりに頭をかきむしるフランの姿は、それはそれで不憫なものを感じさせるには十分だったかもしれない。
そんな彼女をポツーんと眺める影二つ。小悪魔とレミリアの二人である。
「……結果的に罵ってますよね、アレ」
「……さすが私の妹だわ。ナチュラルSね」
「シャラップそこの二人!!」
【小悪魔のポ・エ・ム】
ぽかぽかのお日様が空に昇る。
暖かい陽気に誘われて、お庭でお昼寝している子猫さんたち。
可愛い可愛い寝顔に、私の顔も満面の向日葵さんになっちゃうの。
そっと、そっと近づいて頬をなでてあげれば、ゴロゴロと擦り寄ってくれる君は、まるで天使みたい。
にゃあにゃあ。
にゃあにゃあ。
みんな仲良し日向ぼっこ。私もその中、混ざってもいいかな?
ふんわりふわふわ暖かな、小猫さん達おしくらまんじゅう。
みんなみんな、立派な大人になってね。
子猫ちゃんだぁい好き!
「小悪魔ー! いい材料あったから三味線作ったんだけどどうかな!? 血まみれだけど!」
子猫ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!?
【エンディング】
「さて、こあらじも終わりが近づいてきたけど、あなた達は楽しんでいただけたかしら? 飛び入り参加だったけど、中々楽しかったわ」
「最後は、お休みなさいのエンディング曲と共に、皆さんとお別れね。人形達も悲しそうだわ」
「それでは、最後に私、小悪魔から重大発表があります」
そんな小悪魔の発言に、「へ?」と首をかしげるフランドール。
他のみんなも同じ気持ちなのか、不思議そうな表情で小悪魔に視線を向けていた。
「こあらじ、今回で打ち切りです」
『嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?』
まさかの言葉に全員から驚きの声が上がった。
あんまりな事実にぽかーんと口をあける一同を他所に、いち早く正気に戻ったフランが小悪魔に問い詰める。
「な、なんで!? まだ二回しか放送してないよ!?」
「遺憾ながら、『実名晒しすぎ!』という苦情が各地から相次ぎまして」
「ですよねっ!!?」
むしろ納得できすぎて困る打ち切りの理由だった。
そんな中、小悪魔は「でもね」と言葉を続けてフランに笑みを向ける。
「本当はね、もっと別の理由もあるんです」
「別の理由?」
フランの戸惑いの言葉に「えぇ」と優しげな声で小悪魔が告げた。
そして、彼女は静かに目を瞑る。
何かを祈るかのように、何かに思いを馳せるように、ただただ静かな声で言葉を紡いでいく。
「なんていうかね、もう飽きてきたんで」
「ふんっ!!」
ズドン、ズドンッ! と半端無い打撲音が響き渡る。
それと同時に小悪魔の「おぅふっ!?」だの「ボディッ!?」だのと言う悲鳴も聞こえてきたが、アリスとレミリアは何も見ていない振りをして笑顔を浮かべた。
決して「捻り込むように打つべし」などとぶつぶつ呟きながらボディブロー打ち込むフランが怖かったとか、そんなことは無い。多分、きっと。
「それじゃ、みんなこれまでね。さようなら」
「気が向いたら、私達の館に遊びに来るといい。歓迎するわ、うん」
「ちょ、二人とも助け……あ、やっぱ気持ちイイ!! 妹様もっと!!」
「やかましいわ!!」
結局、最後の最後までグダグダのまま打ち切りで終わりを迎えたラジオ番組。
二人が笑顔で視聴者に別れを告げる中、最後の最後まで打撲音と小悪魔の悲鳴だか悦びだか判断つかない声が聞こえ続けたとか何とか。
こうして、番組はなんともまぁ絞まらない最後を迎えたのである。
しかし、忘れてはいけない。人々の望む声がある限り、こあらじは何度でも甦るのだと!
……甦ると、いいなぁ。
少女の言葉に上がる歓声。静かだった室内は一気に騒がしくなり、少女は満足そうにウンウンと頷いている。
場所は紅魔館地下のとある一室、そこにはテーブルに三人の少女が座っていた。
「はい、みんなこんにちは! まさか続くことになった幻想郷先取りラジオ、『こあらじ』。
この番組はメインパーソナリティーの私、フランドール・スカーレットと、同じくアリス・マーガトロイド、小悪魔の三名でお送りしたいと思うわ!!」
「そんなわけで、アリス・マーガトロイドよ。前回に引き続き、よろしくね」
「レミリアよ、みんなよろしく! ガッチャ!!」
……。
ピタリと、ここにいるはずがない人物の声に思わず静止する一同。
そんな中、まったく持って動じないというか気付いてないというか、件の人物はニコニコと満面の笑顔である。
まさか無視するわけにもいかず、フランは小さくため息をついて問題の人物に視線を向けた。
「お姉さま、なんでここにいるの?」
「あら、ここは私の屋敷よ? 私がいてはいけない理由でもあるのかしら?」
「いやいや、だってそこ本当は小悪魔の席だよ? ていうかこの番組の主役は小悪魔だよ? 小悪魔は?」
「小悪魔ならさっき図書室でパチュリーと一緒にテレビ(八雲紫経由)見ながら『ブルーノォォォォォォォォォォォ!!!?』とか叫んで泣いてたわよ?」
「なにがあったの二人とも!? ていうかブルーノって何!!? 人名!!?」
特に悪びれた風もないレミリアの言葉に何を言っても無駄と悟ったか、もう一度ため息をつくとアリスに言葉を投げかける。
「アリス、視聴者のみんなに訂正お願い」
「……先ほど、メインパーソナリティーの紹介に誤りがありました。正確には、フランドール・スカーレットのみメインツッコミです。重ね重ね、お詫び申し上げます」
「そこかよっ!!? もっと違うところに訂正する場所があるでしょうが!!? 小悪魔の紹介のところをお姉さまに変えてって言ってるのッ!!」
「……なるほど、メインツッコミね。……確かに」
「お姉さま止めてくれないその納得の仕方!? なんかすッごい腹立つ!!」
とまぁ一通り怒鳴りつつ、話が進まないと思ったのかはがきを手に取るフラン。
何はともあれ絶賛生放送中のラジオ番組なのである。多少のトラブルには目を瞑り、さくさく進行するのがパーソナリティの仕事なのだ。
「とにかく、一つ目のはがき読み上げるよ。こあらじネーム『スーパーマリサランド』さんからのお便り。
『最近、新しいスペルカードを作りました。ですが、いい名前が中々思いつきません。一体どんな名前にしたらいいのでしょうか?』だってさ。
そこはかとなくまた誰かわかりそうなラジオネームだけど、アリスは何かある?」
「うーん、そうねぇ。それがどんなスペルカードかわからないとなんとも……」
「ふふ、ここは私の出番のようね!」
「えぇ~……お姉さまがぁ?」
心底胡散臭そうな目を向けるフランにも難のその、なぜか自信満々なレミリア・スカーレット。
フランは心底心配だったのだが、それも無理もあるまい。何しろ、自身の姉の壊滅的なネーミングセンスを知っているのである。
そりゃあ、そんな不満そうな声が上がるというものだろう。
「あら、私の偉大なネーミングセンスが信用できないと?」
「素粒子レベルで信用できない」
「うわぁい、お姉ちゃん泣きそうだわー」
そしてこの妹、口に出すときゃ遠慮しないから困り者である。
思わずくじけそうになったレミリアだったが、そこはグッと堪えて踏みとどまった。
「ならば、見るがいいわ! 姉の生き様を!!」
「んなネーミングで生き様見せられても……」
「反応に困るわよね、普通」
「シャラップ二人とも! いい、『スーパーマリサランド』! お前にふさわしいネームは決まった!」
腕を組んでふんぞり返るレミリアだが、無論この番組はラジオなので視聴者には伝わんない。
けれど、彼女にとってはそんなことは二の次らしい。
クスクスと得意げな笑みを浮かべ、吸血鬼の少女はその口を開いた。
「名づけて、虚無『エターナルフォースブリ――」
「はい、こあらじネーム『人斬り庭師抜刀斎』さんからのお便りです」
「って、ちょっとフラン!!?」
みなまで言わせてもらえず、フランのはがきの読み上げで台詞をさえぎられたレミリアは抗議の声。
しかし、フランはと言うと心底めんどくさそうな視線を彼女に向けると、これ見よがしにため息をついた。
ちょっと怯んだのはレミリアだけの秘密である。腰が完全に引けていたが、それはさておき。
「何、お姉さま?」
「何? じゃないわよ! なんで台詞全部言わせてくれないわけ!? なんか変なとこで途切れちゃってるし!?」
「どーせ『エターナルフォースブリザード』なんでしょ? 相手は死ぬんでしょ?」
「違うわよ! 正確には『エターナルフォースブリザード・レクイエム∞(インフィニティ)』よ!」
『あいたたたたたたー』
現場のスタッフみんなの思いが一つになった瞬間だった。「これはひどい」と。
まさかの予想の斜め上をすっ飛んでいったレミリアはこれ以上にないくらい得意げなのだから尚の事いたたまれない。
不意に、優しい笑顔を浮かべたアリスがフランの肩に手をポンッと置いた。涙がちょちょ切れそうだった。
「えーっと、『こんにちはフランドールさん。私、人斬り庭師抜刀斎こと魂魄――ゲフンゲフンですが、最近家のお嬢様が食べすぎで困っています。
なんとか食事量を減らす工夫はないものでしょうか?』だってさ。
……こういうの小悪魔向きの質問だよねぇ。つーか、なんでどいつもコイツも個人特定できそうなラジオネーム使うのさ。今回も危うく名前言いかけたし」
「うーん、私も思いつかないわねぇ。魔法使いって本来は食事必要上に、私は元々小食だもの」
「面倒ねぇ、冥界の方も」
「お姉さま、個人特定できそうな単語禁止」
あーでもないこーでもないと、質問に答えようとするが明確な答えが出てこなくて悩む一同。
そんな時である。部屋の外のほうからドドドドドと地鳴りにも似た音が近づいてきたのは。
一体何事かと全員が其方に向いた瞬間――
「クリアマインドォォォォォォォォォ!!」
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』
――クマのきぐるみ着た小悪魔が、なぜかクリアレッドのサングラス装備で壁をぶち抜いて登場なさったのであった。
一連の意味不明な登場にさすがのレミリア達も驚きの声を上げ、そんな彼女たちなど露知らず、小悪魔は空中でムーンサルトを決めると華麗な着地を披露なさったのである。
「話は聞かせてもらいましたよ魂魄妖夢さん!!」
「だから実名さらすなって言ってんでしょうが!!? 何この番組、プライバシーゼロか!!?」
「大丈夫よフラン、後で編集すれば何とか――」
「ならないよ!!? アリスこれ生放送だから!!」
「いいですか、よく聞いてください人斬り庭師抜刀斎さん。不可能なこと言っちゃいけません!!」
「諦めたしッ!!?」
さすがに連続のツッコミに疲れたか、フランがげんなりとため息を一つ。
そして、改めて小悪魔の格好を見てみればまぁ素っ頓狂な格好だなァと心底思うわけで。
いやまぁ、可愛いけど。などと言う本音はとりあえず隠しつつ、ジト目で小悪魔に視線を向ける。
「ていうか、なんなのその格好。クマのきぐるみはまぁシャレだとわかるけど、そのグラサン何?」
彼女の素朴な疑問に、小悪魔は何を思っただろう。
遠くを見つめるような視線は哀愁を漂わせ、今にも崩れ落ちてしまいそうな雰囲気を放っている。
これがクマのきぐるみ来てなければ様になっていたことだろう。きぐるみ一つで色々台無しだった。
「このグラサンはね、ブルーノなんですよ妹様」
「いや、意味わかんないから。ていうか誰だブルーノ」
【罵って! フランちゃーん!!】
「はい、始まりました『罵って! フランちゃーん!!』のコーナーです!」
「……小悪魔、相変わらずこのコーナーの有用性がさっぱり理解できないんだけど?」
「私が喜ぶわフラン!」
「スタッフー! このお姉さま外に放り出して頂戴! ワリと大真面目に!!」
フランが大声でスタッフに呼びかけるが、残念ながら妖精メイドのスタッフではレミリアをつまみ出すなど到底出来ないわけで。
そんな姉と妹の口論が始まった最中、ちゃっかり手紙を取り出すあたりアリスの司会進行能力は高いのかもしれない。
「こあらじネーム『うっかりトラさん』からのお便りね」
「……だから、なんでこう個人特定できそうなネーミングばっかり……」
「『フランドールさんこんにちは。私はとあるお寺で毘沙門天の代理などをしているのですが、実は過去に大切な人が封印されるのを黙ってみていたことがあります。
その事を数百年の間ずっと悔いて生きてきましたが、そのかいあったのか大切な人の封印を最近になってようやく解くことが出来ました。
ですが、私の心は一向にはれる気配がありません。その人は私を笑って許してくれましたが、私の心が納得できないのです。
妖怪とばれるわけにはいかなかったとはいえ、当時の自分自身がふがいないのです! どうか、どうか私を――寅丸星を罵ってください!!』」
「罵れるかぁぁぁぁぁぁ!!? 罵る内容が重過ぎるでしょうが!!? 私の心が罪悪感に苛まれるわ!!
ていうか本名さらすなってさっきからいってるでしょ!!? なんでどいつもこいつも本名さらっと書いてるの!!? プライバシー舐めとんのか!!?」
むきぃぃぃぃ! といわんばかりに頭をかきむしるフランの姿は、それはそれで不憫なものを感じさせるには十分だったかもしれない。
そんな彼女をポツーんと眺める影二つ。小悪魔とレミリアの二人である。
「……結果的に罵ってますよね、アレ」
「……さすが私の妹だわ。ナチュラルSね」
「シャラップそこの二人!!」
【小悪魔のポ・エ・ム】
ぽかぽかのお日様が空に昇る。
暖かい陽気に誘われて、お庭でお昼寝している子猫さんたち。
可愛い可愛い寝顔に、私の顔も満面の向日葵さんになっちゃうの。
そっと、そっと近づいて頬をなでてあげれば、ゴロゴロと擦り寄ってくれる君は、まるで天使みたい。
にゃあにゃあ。
にゃあにゃあ。
みんな仲良し日向ぼっこ。私もその中、混ざってもいいかな?
ふんわりふわふわ暖かな、小猫さん達おしくらまんじゅう。
みんなみんな、立派な大人になってね。
子猫ちゃんだぁい好き!
「小悪魔ー! いい材料あったから三味線作ったんだけどどうかな!? 血まみれだけど!」
子猫ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!?
【エンディング】
「さて、こあらじも終わりが近づいてきたけど、あなた達は楽しんでいただけたかしら? 飛び入り参加だったけど、中々楽しかったわ」
「最後は、お休みなさいのエンディング曲と共に、皆さんとお別れね。人形達も悲しそうだわ」
「それでは、最後に私、小悪魔から重大発表があります」
そんな小悪魔の発言に、「へ?」と首をかしげるフランドール。
他のみんなも同じ気持ちなのか、不思議そうな表情で小悪魔に視線を向けていた。
「こあらじ、今回で打ち切りです」
『嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?』
まさかの言葉に全員から驚きの声が上がった。
あんまりな事実にぽかーんと口をあける一同を他所に、いち早く正気に戻ったフランが小悪魔に問い詰める。
「な、なんで!? まだ二回しか放送してないよ!?」
「遺憾ながら、『実名晒しすぎ!』という苦情が各地から相次ぎまして」
「ですよねっ!!?」
むしろ納得できすぎて困る打ち切りの理由だった。
そんな中、小悪魔は「でもね」と言葉を続けてフランに笑みを向ける。
「本当はね、もっと別の理由もあるんです」
「別の理由?」
フランの戸惑いの言葉に「えぇ」と優しげな声で小悪魔が告げた。
そして、彼女は静かに目を瞑る。
何かを祈るかのように、何かに思いを馳せるように、ただただ静かな声で言葉を紡いでいく。
「なんていうかね、もう飽きてきたんで」
「ふんっ!!」
ズドン、ズドンッ! と半端無い打撲音が響き渡る。
それと同時に小悪魔の「おぅふっ!?」だの「ボディッ!?」だのと言う悲鳴も聞こえてきたが、アリスとレミリアは何も見ていない振りをして笑顔を浮かべた。
決して「捻り込むように打つべし」などとぶつぶつ呟きながらボディブロー打ち込むフランが怖かったとか、そんなことは無い。多分、きっと。
「それじゃ、みんなこれまでね。さようなら」
「気が向いたら、私達の館に遊びに来るといい。歓迎するわ、うん」
「ちょ、二人とも助け……あ、やっぱ気持ちイイ!! 妹様もっと!!」
「やかましいわ!!」
結局、最後の最後までグダグダのまま打ち切りで終わりを迎えたラジオ番組。
二人が笑顔で視聴者に別れを告げる中、最後の最後まで打撲音と小悪魔の悲鳴だか悦びだか判断つかない声が聞こえ続けたとか何とか。
こうして、番組はなんともまぁ絞まらない最後を迎えたのである。
しかし、忘れてはいけない。人々の望む声がある限り、こあらじは何度でも甦るのだと!
……甦ると、いいなぁ。
打ち切りとか言っちゃって、そのうちポッと復活しそうなのがここの小悪魔クオリティですね。
余談だけどTGハルバードキャノンのOCGでの弱体化が結構キツイよね
子猫ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!?ww
こあらじ春のSPとかやらないんですか?
こあらじ復活を切に願いつつ白々燈さんには,もっともっと暴走してほしいw
にしてもハガキの割に皆実名晒しすぎでしょうw
きっと、春休みSPとかで復活するって信じてます。小悪魔ならやってくれるぅ!
>本来は食事必要上に
本来は食事必要ない上に、ですかね?
というか打ち切り撤回よろしく!
子猫ちゃあああああああああああああああああああん?!
ああそうか、今度は前にパッチェさんディレクターでやったテレビ番組「小悪魔のお悩み相談教室」が始まるんですね。
それはそうと、ブルーノは死なないで欲しかった・・・。
想像してみるとなんか微笑ましい
しかしこのノリだと「打ち切りしないでー」って言うと、
だが「こあらじ」はレアだぜ (続けるには)報酬は高くつくぞ
とか言われそうw
ブルーノちゃん、さよなら・・・。
なお血まみれの三味線は 褌一丁だったこーりんを討伐する際に手元にあったものです
何度でも甦るさ!
そう信じて待ちます。
やっぱり、フランのコーナー需要があるなぁ……
こあらじに続く新番組に期待してますw
紅魔館はいつも通りだなあ