Coolier - 新生・東方創想話

夢現の面影

2011/01/25 03:01:27
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○プロローグ

記憶の正しさを証明するには、どうしたらいいのだろうか。私は友人に尋ねたが返って来た言葉はそっけないものだった。
「そんなものないわ。未来は不確定で過去は曖昧なものよ。だから、記憶もその不確かな上にあるものだから、必ず何処か間違ってしまうものよ。だから、今を大切にするしかないのよ。」
自分よりも頭が良く、経験豊富な彼女が言うと嫌味にしか聞こえない。煙に巻く答えしか出さない友人に私はまるでこの瞬間も否定されるような気持ちになり、思わず拗ねた表情になるのが自分でもわかる。まるで子供だなと幼少の頃の記憶もないのに思った。
「えぇ、記憶なんて必要ないんでしょうね。」
いつも、見透かした目で話す彼女が今だけは、憐憫の情をその瞳に隠すことなく顕にしている。彼女の細く白い指が子供をあやす様に私の髪を梳く。
「今の髪の方が綺麗よ。あなたの儚さがそのままに映し出している。」
 私は、昔の自分と比べられるのが嫌いだ。覚えていないから。
 どうやらそれも顔に出ていてたらしい。また、いつもの見透かした目に戻って語りかける。
「必要のないことよ。」
いつの間にか、彼女の息遣いを感じるほど顔が近づいている。
「ちょっと、近い!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。でも、彼女は目を一瞬も背けず、涼しい顔をしている。
「さぁ、そろそろお祝いを始めようかしらね。」
そう呟くとどこからか出したのか、手には酒瓶が握られている。
「飲める?」
まるで子供扱い。まったく、嫌味な奴。私は声を大にして告げた。
「年齢なら、関係ないはずよ。私は死んでいるのだから。」

これが冥界の管理人となった西行寺幽々子を八雲紫が祝った最初の記憶である。



○八雲紫

小さな川が流れている。澄み切った水面に半月が浮かんでいる。最初はその川の風雅な美しさに目を奪われることだろう。しかし、しばらくすればその川の不気味さに気づく。川の中には生きている物がいない。魚も虫も苔もない。あるのは川の流れで削られて丸くなった石があるだけである。この川の名前は墓石川。冥界に存在する川で所謂、幽霊の川である。川は生き物が住めず、丸くなった墓石のような磨かれた石だけが存在する。
そんな場所に八雲紫は独り、佇んでいる。
彼女の右手には、酒瓶が握られている。その酒瓶の口を川に向け、傾けると中の酒が川に吸い込まれていく。紫は酒と川の水が混じり合い、川から酒の匂いが漂い始める様子を満足そうに眺めると左手を横に払う。するとそこに大きな黒い穴ができる。次に穴の中から、樽が出てた。
その樽に向けて、穴から酒が流れ始めた。辺りの酒気がさらに強くなる。樽は3分もすると満杯になり、立派な酒樽となった。紫は、樽の中を覗き込んだ後に指で酒を舐め採る。濁りのない洗練された味に満足げに頷き、樽に蓋をした。
「これだけあれば充分でしょう。」
呟くと酒樽の下に別の穴が出現し、吸い込まれる。酒樽が消えると辺りの酒気も霧散していた。

白玉楼へと続く石段を登っていく。辺りに光源は無く。高い空に浮かぶ半月の月明かりだけがうっすりと石段を照らしているだけである。けれども、八雲紫の足付きに乱れはない。友人である西行寺幽々子が冥界の管理人になったあの日から、幾度となく歩いて来た道。冥界は変わらない。季節は変わっても、それは一巡するというだけで、また元に戻ってしまうのだ。誰も死なず、何も生まれない。
それが、安らぎを与えてれる。変化の無い生活というのは、退屈だが別れはない。
長く生きる妖怪にとって、友人を失うのは人よりも辛い。人間は精々、何十年間でその後を追えるが、妖怪は何百年、何千年と生き続けるのである。友人と過ごした思い出の場所も消え、いつしか記憶も曖昧になる。でも、忘れはしない。だから、苦しい。人と違い、別の物で心の穴を埋めれらるほど、浅い時間を共に過ごして来たわけではないから。
人ならば、心の痛みに耐え、乗り越えたと勘違いをして死ねる。しかし、妖怪は耐えて、乗り越えたと勘違いしている自分に気づいてしまう。だから、妖怪は人を見下す。代用品で生きられる彼らが薄情者に映る。何より、一番愚かだった時を見せつけられるようで辛いのだ。人と深く交われば、それが避けられない。
それを知っていたのに私は生きていた頃の西行寺幽々子に近づいてしまった。そして、私は彼女を失った。その心の穴は今も埋まることはない。

石段を登り詰めると、白玉楼の門の上に桜の木が顔を出している。花が所々、咲き始めている。
門を潜ると屋敷の主人である西行寺幽々子本人が迎えてくれた。
「ご機嫌よう幽々子。いい夜ね。」
「あらあら、どうしたの?かしこまって。」
幽々子の周りには霊魂が飛んでおり、仄かに彼女の顔を照らしている。生きていた頃よりも肌は白く、髪は淡い。桜の下で霊魂を纏い佇む友人を見るたび、西行寺幽々子は死んでいるのだと実感させられる。
「何回目かは忘れてしまったけれど、お祝いですからね。」
それを聞いた幽々子は笑い始めた。
「そうね。私の命日だものね。でも、ご機嫌ようおかしいでしょう。死んでいるのだから、具合が悪くなる身体がないわ。」
そう彼女に言われて、初めて自分でも思った以上に感傷に浸っていたことに気づいた。
その表情が顔に出てしまったのだろう。幽々子はちょっと顔をひそめる。
「ごめんなさい。桜の下で幽霊に話しかけられたから心臓が止まってしまったのよ。」
「ふふふ。繊細な心臓をお持ちなですこと。では、こちらでお休みになってはいかがです?」
幽々子は手を広げ大仰に屋敷の中へと案内をする。
彼女のあとについて行くと玉砂利が敷き詰められた八面玲瓏な中庭へと通される。其処には、一組のテーブルが置かれている。
「いつものように此処でいいんでしょう?」
「えぇ。此処じゃないと渡し難いですし。」
私は境界を弄くり、その中から先ほど作った酒樽と杯を取り出した。
「命日おめでとう。幽々子。」
「ありがとう。紫。」
妖怪と幽霊が月明かりの下で杯を酌み交わす。

「もう、何回目になるのかしね。こうやってお祝いをするの。」
幽々子に聞かれ、瞬時に何回目か頭に思い浮かんだが教えない。死人とはいえ、女性に歳の話は厳禁であろう。
「さぁ、忘れたわ。別に気にする必要はないでしょう。」
「あら、酷い。祝う側が忘れるなんて。」
「現金な性格ね。もう、本人も覚えていなことなのに祝っているのよ。むしろ、褒めてほしいものよ。」
「でも、お祝いを始めたのは紫からでしょう。私は命日を祝うものだとは知らなかった。」
私は幽々子の顔を見つめる。酒が入っているからだろう。頬が仄かに赤く染まり、唇が酒に濡れて艶美さを醸し出している。こんなに美しい死があっていいのだろうか。私は吸い寄せられるように彼女の頬に手を伸ばす。触れた指先から冷たさを感じる。もう、何百年と変わらない冷たい温もりが私の心を落ち着ける。
「そうだったかしら?もう、記憶にないわ。」
幽々子が頬に触れている私の手を包み込むように手を重ねる。
「ねぇ、紫。聞いてもいい?」
幽々子の瞳がを射貫くように見詰める。
「なにを?」
「生きていた頃の私はどんなだった?」
思わず、頬に触れていた手を引き戻そうと動いたが、重ねられていた幽々子の手がそれを拒んだ。答えたくは無いのに彼女の手からはそれを許さない力強さを感じた。
「だめよ。友人の悪口は言えない。」
私がそう返答すると彼女は一瞬、唖然とした表情をしたが次の瞬間には笑いだしていた。
「そんなに酷かったの、生きていた頃の私は・・・。」
幽々子が手を離す。私は重ねられていた手で杯を掴むと気持ちを落ち着かせるために、杯に残っていた酒を一気に飲み干した。幽々子はまだ、クスクスと笑っているが追求はしない。
彼女が笑いが終わるのを待って、私は告げる。
「冥界と幻想郷を隔てる結界が一部、壊れているわ。」
「それじゃ、早く修理しないとね。お願いできる?」
私はしばらく黙っていた。頭上の月が雲に隠れ辺り一面が闇に包まれる。返事がないのを訝しむように幽々子が私の名を呼ぶ。
「紫?どうしたの?」
「ごめんなさい。私、これからは寒いから、余り動きたくないのよ。だから使い魔にやらせるわ。」
西行寺幽々子ならば、わかるだろう。私が何を思っているのか。何千年と付き合って来た私のもっとも親しい友人なのだから。
「あら、じゃあ時間が掛かるかもね。その間に何も起きなければいいのだけれども・・・。」
雲が流れて、月が再び顔を出す。月明かりに照らされた友人の顔は、いつかの友人と同じように微笑んだ。



○西行寺幽々子

桜の下を無数の薄紫色の蝶が舞う。蝶達は夜空に向かい飛んで行く。しかし、月を見ることはない。その前に極彩色の輝きを放つ5個の光弾にすべて掻き消された。光弾はそのまま、蝶を出した西行寺幽々子に向かい突き進む。避けられない距離まで迫った光弾を幽々子は笑って迎える。手のひらから一匹の蝶が生まれ、蝶の羽が光弾が迫るよりも速く、巨大化し、扇の形へと変化する。
ドンと立て続けに五回、爆発音が響いた。爆発の周囲に咲いていた大量の桜の花が衝撃で散った。
扇で光弾を防いだ幽々子は、その光景を見てため息を付いた。
「もったいないわね。」
手に持っていた巨大な扇を一振りすると地面に落ちた桜の花びらが宙に舞った。花びらは一際、大きい桜の木に集まるように舞っていく。巨木に触れた花びらは砕けて染みこむように吸い込まれる。すると幾つかの蕾が花を咲かせた。しかし、その桜の木だけがまだ、満開ではなく蕾を多く残していた。
「まだ、満開にならないわねぇ。」
「させないって言っているでしょうが!」
目の前を紅白の巫女が飛ぶ。自分が起こした異変の解決にわざわざ幻想郷から来た巫女。名前はなんて言ったかしら?
巫女が針を飛ばしてくる。先ほどから繰り返されている攻撃だ。避けるのも面倒なので扇で防ぐ。
「針千本飲まされる様なことはしていないのだけれども。」
お返しに光弾を放つ。巫女を直接に狙うのではなく、標的のいる空間全体に向けて無差別に撃ち込む。
巫女はその場を動かず、身体だけを捻り最小限の動きで交わしていく。
「そんな胡散臭い笑顔を浮かべてれば、嘘つきに決まってるわよ。」
「まぁ、乱暴者に言われたくないですわ。」
返答と一緒に大量の蝶を飛ばす。巫女はそれも最小限の動きで避けているが、このまま続ければそれほど時間も掛からずに力尽きるだろう。相手は人間なのだから。
少しずつ巫女の表情に余裕がなくなっていく、直撃はしなくとも、精神と体力の疲労は目に見えて表れ始める。自分の出した弾幕で、標的の姿が見えなくなるまで撃ち続ける。辺りに自分の出す弾幕の音だけが響く。
もう、巫女の姿は覗えない。
あぁ、終わってしまった。久しぶりに、楽しい夜だった。西行妖を満開にし、封印を解くという私の願望を止めに来るものと戦う。生者の足掻く姿を見たのは何時ぶりだろう。
その姿は、滑稽で麗しい。
蝶の弾幕を撃つのを止める。すでに飛んでいた蝶は、周囲に咲く桜の木に当たり溶けて消える。
すると、先ほどまで巫女の戦いの衝撃で散った桜の木にまた、花が咲いた。
その光景を見て幽々子はどこか物足りなさを感じてしまう。
殺風景なのだ。此処にはもう、足掻くものが存在しない。巫女と戯れていた時の命の躍動感を冥界の桜だけでは出せないのだ。

あとは西行妖が満開にして封印を解くだけ。きっと、今まで、冥界では見たことのない美しい桜が見えるだろう。封印をされていたものの答えも判るだろう。それは、西行寺幽々子が求めていたこと。だけど、心が躍らない。巫女との戦闘で満足してしまった訳ではない。
もう少し、戯れていたかったのだ。

幻想郷。

冥界とは違い、死を恐れる者が集まる世界。その中から来たあの巫女は、死を恐れてはい
なかった。目の前が死の弾幕に包まれても最後まで背を背けることなく対峙していた。
その姿は美しかったが、私を気鬱させた。
だから、その姿掻き消すように死で押し流した。
そして、巫女はその姿を消した。今頃は、三途の川だろう。この冥界に来るかも知れないが、その頃には生きていた記憶をなくし、私が見惚れた姿ではないだろう。
夜空を仰ぎ見る。満月の浮かぶ空。きっと、西行妖が咲き誇るには今宵は相応しいのだろう。月の清冽な光が桜の淡い花びらを照らす情景を考えるだけでも壮美だ。
しかし、この亡霊の目が望むのは曼珠沙華の鮮烈な紅だった。

突如、月が欠ける。
心が騒ぎ始める。
欠けた部分が赤く光り始め、周囲に捻れが生じる。
紅白の巫女が夜空に浮かんでいた。傷を負っているのだろう。袖の白かった部分が赤く染まっている。
私は巫女と同じ高さまで昇る。
「あなた、綺麗ね。」
思いがけない言葉を言われた。先ほどまで、私が巫女に対して思っていたことを逆に言わるとは考えてもいなかった。
「あなたは、汚れてるわね。」
「お陰様で。」
「でも、とても艶やかな立ち姿よ。」
巫女が照れ笑いを浮かべる。穏やか間が生まれる。それは、嵐の前の静けさだ。
何故なら、巫女は生きているのだから。
「次で最後にしましょう。私も限界だし、休みたい。」
「あら、生きてるのに生き急がなくてどうするのよ。」
「のんびりと花見でもするわよ。この春を取り戻してね。」
巫女が手を広げるとさらに輝きを増す。その求めていた鮮烈な紅に私は手を伸ばす。
蝶が幾重へにも群がり、その輝きを求めた。


桜の花びらが舞っている。満開を迎えることなく、西行妖は散り始めた。
私はそれを桜の木の下で仰向けに寝転び、見上げていた。
「お疲れ様。幽々子。」
不意に名を呼ばれた。聞き慣れた友人の声だ。
「負けちゃったわ。」
私は巫女が望んでいた花見に興じる。
巫女は最後まで死に誘われることは無かった。死者の手ではあの輝きを掴むことは出来なかった。
「どうだった?楽園の巫女、博麗霊夢の実力は?」
そうか、あの巫女は博麗霊夢というのか。
「強いわ。人間としては反則よ。反則。」
「ふふふ。そうでしょう。」
私は紫が人間である少女を誇る姿を見ていると何故か腹が立つ。
「友人を傷つけた相手を自慢するなんて、酷い友人もいたものね。」
「あら、怪我なんかしてないでしょう。」
亡霊である私は傷つくことはない。倒れてはいるが、実際には動けるし、まだ戦える。
「そうね。怪我なら、霊夢の方が酷い。袖とか血に染まって、まるで人を殺した姿だった。」
初めて、巫女の名前を呼んだが、実に不思議な響きだった。
『霊』の『夢』。確かに、あの巫女と飛んだ桜吹雪の中は幻想的だった。亡霊である私が本来なら戯れることのない生者との遊戯。
「夢のようだった。」
「亡霊は夢を視るの?」
紫が訪ねる。私は答えることができなかった。
死に誘う亡霊には夢と記憶は同義語だ。過去の夢を見せて死を受け入れさせる。人が記憶を頼りに生きている限り、記憶を辿れば死を受け入れるしかない。ある者は幸福であったからと満足して死ぬ。ある者は不幸であったと生を呪い、死を望む。
すべての者は記憶を夢として見ることで自然に死を受け入れる。
だから、沈黙するしかない。生きていた頃の記憶のない私には夢を見ることはできない。
「あの子と遊んでいる時に何を想った?」
紫の声が夜に木霊する。何故かその質問が耳に何時までも残る。
「綺麗だった。生に媚びず、死を忌避しない。ただ、自分の使命を全うするために在る姿は本当に・・・。」
「そうでしょう。力のある人間は必ず何かに縛られる。使命に・・・運命に・・・自由に・・・。だからこそ、美しく映る。」
妖怪の手が亡霊の髪を撫でる。その手が邪魔で妖怪の顔を見ることはできない。もしかしたら、隠すために撫でているのかもしれない。子供が安心して眠りにつけるように優しく撫でるのだ。子供役の私は目を瞑り、その感触に身を委ねた・・・。


○八雲紫 2

血に染まる身体がある。白い肌と赤い血は混じりあっても、桜色に変わることはない。

少女が泣いている。

しかし、どこか誇らしげであった。

少女に出来ることをやり遂げたのだ。

少女にしか出来ず、それ以外の方法がない。

だから、誰も文句は言えない。そういう類のことを成したのだ。

泣かないで欲しかった。

あなたに独り残される、私の方が辛いのだから。


目を開けると幽々子が上から見下ろしていた。いつの間にか私も寝てしまい、先に幽々子が目覚めて寝顔を観察されていたようだ。
「綺麗な寝顔だった。まるで死んでいるみたいに。」
幽々子の発言に一瞬、鼓動が早くなる。先ほど見ていた夢の少女と重なる。
私は上半身だけを起き上がらせると、髪から桜の花びらが落ちた。
「結構、寝ていたのね。」
自嘲の笑みを浮かべて、幽々子を見詰めると彼女が楽しそうに笑う。
「春が過ぎてしまうぐらい寝てた。」
どちらともなく、散る桜を眺める。沈黙が生まれ冥界に相応しい静寂が辺りを包む。
私はこの静寂が好きだ。いつかの少女が勝ち取った平穏であった。
「夢を観てるみたい・・・。」
幽々子の呟きはどこ夢現のように聞こえる。
「そんなに霊夢との勝負が楽しかったの?妬けるわ。」
幽々子は首を横に振ると私を正視する。その瞳は、今にも涙がこぼれ落ちそうなほど潤びていた。
彼女の頭が私の肩にもたれる。右の袖端を幽々子の華奢な手で握られる。顔を隠して消え入りそうな声で囁く。
「あなたと一緒に居ること・・・。」
私は何も答えることができなかった。
「ねぇ、紫。」
肩から、幽々子が顔離す。私達はお互いの顔を見ようとはしなかった。
「私は誰?」

「西行寺幽々子。私の・・・昔からの友人よ。」

そう、私が答えるといつかの少女と同じ顔で、いつかの少女ができなかった笑顔を西行寺幽々子が浮かべていた。

「今日が紫と出会って、ちょうど二千十一年目よ。」
彼女の記憶は正しかった。出会ってからの時間を私が頭の中で計算して出した時間と同じだった。
今、こうして私の隣に居てくれる幽々子を掛け替えのない人と想えた・・・。





○エピローグ 博麗霊夢


桜も葉桜となり、見慣れた静閑さを博麗神社は取り戻していた。あの賑やかな宴会の日々も、今は境内に散っている桜の花びらだけが思い出させる。しかし、それも神社の巫女である博麗霊夢の手によって時期に片付けられることだろう。境内の端には纏められた花びらの山がいくつも摘んである。集めた本人は神社裏側の縁側で休憩中である。

縁側でお茶を飲んでいるときに一番厄介と思う妖怪が八雲紫である。物事の境界を操るという一妖怪が持つ能力としては破格の力。それをお茶請けを盗むという、三流妖怪でもしないようなことに使う。本当に迷惑な妖怪である。
「紫。出てきなさい。」
最後にとって置いた大福が皿から消えていた。お茶を飲むときに目を瞑る私の癖の最中に紫は盗む。
「油断しているからよ。精進しなさいな。」
横を見るといつの間にか八雲紫が座っていた。神出鬼没が売りの妖怪だから、この程度では驚いていられない。
「油断も何も、防げないじゃない。あんたのそれは。」
事実だが、負け惜しみにしか聞こえないであろう反論をする。
「この大福、随分とあんこが少ないのね。」
無視された。勝手に食べて、いつの間にか消えるこいつを相手にするのは、本当に馬鹿馬鹿しい。私は、お茶を継ぎたそうと急須を持ち上げると横から紫が湯飲み茶碗を差し出してきた。
「私も。」
「帰れ。」
差し出された湯飲み茶碗を無視して、自分の湯飲み茶碗に急須を傾けるも出てこない。
「ありがとう。でも、少し薄すぎない?このお茶。」
また、境界をいじったようだが気づくことができなかった。目を離さなくてもこれなのだ。
嫌になる。
私の苦い顔を見て満足したのか、八雲紫がにこやかに笑う。
「そんな顔をしない。今日はあなたを労いに来たのだから。」
「気持ち悪い。」
思わず本音が出てしまった。隠すつもりは無かったけれども。
「あら、本当よ。今回の異変解決を感謝しているの。ありがとう霊夢。」
不気味だ。彼女はいつも胡散臭いので、裏があるように見えてしょうがない。
「あんたが結界の修理をちゃんとしていないから、こんなことになったのよ。ちゃんとしなしさいよ。」
「ごめんなさい。気をつけるようにする。」
絶対に嘘だ。現に冥界と幻想郷との結界は直っていない。おかげで幽霊が冥界から博麗神社に桜の見物にくる始末で、人里からの参拝客が今年も減った。
私は相手をするのに疲れ、境内を掃除すべく立ち上がる。もう、休憩の気分ではない。
「せめて、片付けて行きなさいよね。」
返事も待たずに境内に向けて歩き出す。その背に八雲紫にしては、優しい声で訪ねてきた。
「ねぇ、霊夢から見て西行寺幽々子はどう映った?」
私は振り返る。縁側に独り座る紫の姿が妖怪というよりは幽霊のようにどこか儚げに見えた。
「あんたに似て胡散臭い奴だったわ。戦っている間中、ニヤニヤと笑っていて不気味だし。」
私は、西行寺幽々子に感じたことを嘘、誇張無く伝えた。そして、紫の顔を見て思ったことを付け加える。
「あんたと友達と聞いて納得した。似たもの同士って感じだもん。」
それを聞いた紫の顔は、私が見てきた中で一番、綺麗な笑い顔をしていた。


胡散臭いけどね。


ここまで、読んでいただきありがとうございます。

本当は紫を霊夢と幽々子が取り合いするのを書こうと思ったのに( ^ω^ )どうしてこうなった!?

最近、私生活で書き物をする時間ができたので、せめて人に読ませられるよな物を書ける様になりたいので、改善点や注意点があればお願いします。

とりあえず、次は秘封倶楽部書きたい・・・。
鳴風
[email protected]
http://
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コメント



0.810簡易評価
11.80コチドリ削除
紫様が結界を壊した、又は壊れているのを放っておいたのは何故でしょう。
幽々子様が誘いと知りつつも異変を起こしたのは何故でしょう。

二千十一年目の再会。
過去を認識することで今を意識する。
亡霊嬢の鎖を断ち切った、優雅に舞う紅白の蝶に乾杯。


──なんという香ばしいコメント。もはや悪臭防止条例に違反するレベル。
あ、物語の最後の一文、この締め括り方はとても素敵だ。
17.80名前が無い程度の能力削除
とても良い雰囲気のお話でした。
幽々子も紫も霊夢も、それぞれキャラが立っていて良かったです。