「……なぁ、ルーミア。私の髪は美味しいか?」
空を気ままに飛んでいた魔理沙、その金髪に齧り付いていたのはルーミアだった。
箒から落ちないように魔理沙にしがみつきながらはむはむとついばむ。
「んー? 悪くないかなー」
「なら、やめてくれ」
鬱陶しいとルーミアを引き離し、地上に降りる。
涎でべたべたになった髪に溜息を付き、ルーミアをみる。
くるくると踊るように身体を回す姿はただの少女のように見えても彼女は妖怪。
ならば、人を喰ったことはあるのだろうか。
髪だけではなく、肉までも。
「ルーミア」
「なにー?」
「人を喰ったことはあるのか?」
訊ねられたルーミアは、あるよ、と一言で応える。
ちょっと散歩に行ってくる。
それくらい気楽な態度だった。
「その時の話、聞きたい?」
「そうだな、興味はある」
わかった、とルーミアは話し始めた。
「あの日は気持ちのいい夜だったの。霧がかかった夜でぼんやりとした月明かりがきれいな」
日の光が眩しいのか、周囲に薄い闇を出しながらルーミアは続ける。
「いつもと同じに空を飛んでいたら、金色の髪をした女の子を見つけたの。月の光を浴びた金色がすっごくきれいで見とれちゃうくらいに可愛かった」
その時を思い出したのか、ルーミアは少し顔を赤らめた。
「胸が苦しくて息が詰まってドキドキして、だけど嫌な感じはしなかった。ああ、これが一目惚れなのかなって思った」
ルーミアが一目惚れするとは。
魔理沙は意外な展開に驚いていたが、同時にそれが叶わなかったであろうことも予想が付いていた。
何しろ、彼女が話しているのは人を喰った話なのだから。
「だから、『人』を食べずにはいられなかった」
やはり、妖怪と人の愛情表現は異なるだろう。
好きな相手を支配したいのが人間なら、食べてしまいたいのは妖怪か。
「……それで、喰ったのか」
「うん」
「それからは?」
「その子に話しかけたの。『「聖者は十字架に磔られました」っていってるように見える?』って」
「は?」
何を言っているんだ、と魔理沙はルーミアをみる。
それを言われたのは
「私じゃないか」
「そだよ」
喰われたんじゃなかったのか?
声に出ない疑問を読んだようにルーミアは語り続ける。
「まだ気がつかないの? 魔理沙はもう私に食べられて、私の闇の一部になっちゃったの」
「そ、そんなわけ」
ないだろう。それだけの言葉が言えなかった。
周囲はいつの間にか深い闇に包まれていて、そのなかで輝く二つの紅色に見つめられた身体は動かない。
そっと喉元に触れる指先は冷たく、瞳には無邪気さの色しかなくて、それが余計に恐怖を煽る。
「嘘だろ! 嘘だと言ってくれ!」
寒くもないのに震える身体を抱きしめ叫ぶ。
ルーミアは静かに微笑み、
「嘘だよ」
あっさり言うと、周囲の闇が晴れ眩しい光が差し込んだ。
「え、あ、う……あ……?」
「魔理沙と会ったのと『人』を食べたのは本当だよ」
「じゃ、じゃあ、誰を喰ったって……」
「食べたのは『人』だってば」
そう言ってルーミアは呆けたままの魔理沙の手を取り、指で手のひらをなぞる。
そして、口元に近づけると咀嚼するように口を動かした。
「緊張したって言ったでしょ?」
「あ……」
おまじないの一種。
手のひらに書いた『人』を食べる。
そうすれば緊張が解れる。
「そういうことかよ……」
魔理沙は馬鹿みたいだと自嘲したように呟き、幹に背を預ける。
ルーミアはクスクスと笑いながら、脱力しきった様子の彼女に言う。
「また、人を食べちゃった」
「ったく、人をバカにして」
ため息混じりの魔理沙の言葉に、
「だって私、人食い妖怪だもん」
人を食った笑顔を浮かべて、ルーミアは楽しそうに言った。
空を気ままに飛んでいた魔理沙、その金髪に齧り付いていたのはルーミアだった。
箒から落ちないように魔理沙にしがみつきながらはむはむとついばむ。
「んー? 悪くないかなー」
「なら、やめてくれ」
鬱陶しいとルーミアを引き離し、地上に降りる。
涎でべたべたになった髪に溜息を付き、ルーミアをみる。
くるくると踊るように身体を回す姿はただの少女のように見えても彼女は妖怪。
ならば、人を喰ったことはあるのだろうか。
髪だけではなく、肉までも。
「ルーミア」
「なにー?」
「人を喰ったことはあるのか?」
訊ねられたルーミアは、あるよ、と一言で応える。
ちょっと散歩に行ってくる。
それくらい気楽な態度だった。
「その時の話、聞きたい?」
「そうだな、興味はある」
わかった、とルーミアは話し始めた。
「あの日は気持ちのいい夜だったの。霧がかかった夜でぼんやりとした月明かりがきれいな」
日の光が眩しいのか、周囲に薄い闇を出しながらルーミアは続ける。
「いつもと同じに空を飛んでいたら、金色の髪をした女の子を見つけたの。月の光を浴びた金色がすっごくきれいで見とれちゃうくらいに可愛かった」
その時を思い出したのか、ルーミアは少し顔を赤らめた。
「胸が苦しくて息が詰まってドキドキして、だけど嫌な感じはしなかった。ああ、これが一目惚れなのかなって思った」
ルーミアが一目惚れするとは。
魔理沙は意外な展開に驚いていたが、同時にそれが叶わなかったであろうことも予想が付いていた。
何しろ、彼女が話しているのは人を喰った話なのだから。
「だから、『人』を食べずにはいられなかった」
やはり、妖怪と人の愛情表現は異なるだろう。
好きな相手を支配したいのが人間なら、食べてしまいたいのは妖怪か。
「……それで、喰ったのか」
「うん」
「それからは?」
「その子に話しかけたの。『「聖者は十字架に磔られました」っていってるように見える?』って」
「は?」
何を言っているんだ、と魔理沙はルーミアをみる。
それを言われたのは
「私じゃないか」
「そだよ」
喰われたんじゃなかったのか?
声に出ない疑問を読んだようにルーミアは語り続ける。
「まだ気がつかないの? 魔理沙はもう私に食べられて、私の闇の一部になっちゃったの」
「そ、そんなわけ」
ないだろう。それだけの言葉が言えなかった。
周囲はいつの間にか深い闇に包まれていて、そのなかで輝く二つの紅色に見つめられた身体は動かない。
そっと喉元に触れる指先は冷たく、瞳には無邪気さの色しかなくて、それが余計に恐怖を煽る。
「嘘だろ! 嘘だと言ってくれ!」
寒くもないのに震える身体を抱きしめ叫ぶ。
ルーミアは静かに微笑み、
「嘘だよ」
あっさり言うと、周囲の闇が晴れ眩しい光が差し込んだ。
「え、あ、う……あ……?」
「魔理沙と会ったのと『人』を食べたのは本当だよ」
「じゃ、じゃあ、誰を喰ったって……」
「食べたのは『人』だってば」
そう言ってルーミアは呆けたままの魔理沙の手を取り、指で手のひらをなぞる。
そして、口元に近づけると咀嚼するように口を動かした。
「緊張したって言ったでしょ?」
「あ……」
おまじないの一種。
手のひらに書いた『人』を食べる。
そうすれば緊張が解れる。
「そういうことかよ……」
魔理沙は馬鹿みたいだと自嘲したように呟き、幹に背を預ける。
ルーミアはクスクスと笑いながら、脱力しきった様子の彼女に言う。
「また、人を食べちゃった」
「ったく、人をバカにして」
ため息混じりの魔理沙の言葉に、
「だって私、人食い妖怪だもん」
人を食った笑顔を浮かべて、ルーミアは楽しそうに言った。
カラいね
短いけど、良くまとまっていますね。
いい掌編でした。ルーミア可愛い。
全然アリだな。
百点余裕です(笑)
いいですね、技ありです。
小傘ちゃんにもこれぐらいの機転がありゃあ……
いやあ面白かった…!
良かったです。
掌編の良作ですねこれは。