「……む、もうこんな時間か」
良く晴れた冬のある日の事であった。
腋から脇腹までのナイスゾーンを大々的に露出しながらの昼寝から覚めた博麗霊夢は、時計を見て呟いた。寒くないのか。
時刻は既に午後五時。外の景色も夕焼けのオレンジ色を殆ど消し去り、夜の暗さを呈した時間帯。
やれやれ、と伸び一つして、彼女は立ち上がった。
「今日こそは晩ご飯の買出しでも行かなきゃか。たまにはおでんでも作ってみようかしら」
昨日神社に遊びに来たチルノが『今日は大ちゃんがおでん作ってくれるんだよ!』なんて言っていたのを唐突に思い出した。
ご飯を作ってくれる者がいるのは、とても幸せな事だと思う。メシ充融けろ。
いやいや他人の幸せを妬む事などあってはならない。今度、大妖精を呼びつけて何か作ってもらうのが人として正しい行いだ、と霊夢は思い直す。
それもどうなんだ、とツッコミを入れてくれる者は今はいない。霊夢の天下だ。
「おでん、うどん、おどん」
無意味な呟きと共に、彼女は防寒着のコートを羽織る。洋装は巫女っぽい服にはちょっと合わないが、温かさには代えられない。楽こそ正義だ。
どてらで外に出るのはちょっと、という彼女なりのファッションに対するこだわりでもある。
「よし」
財布をしっかりポケットに入れ、霊夢は外へ。頭の中では既に大根に蒟蒻、卵に餅巾着なんかがメリーゴーランド。
ヨダレを垂れる寸前で吸い込み、鳥居の前まで。
「さぁて」
頭の中のメリーゴーランドを閉幕へ追い込み、彼女は空を見た。里までは飛んで行けばあっという間だ。
「さぁて」
ワンスアゲイン。霊夢は軽く背伸び。
「さぁて」
トゥワイスアゲイン。霊夢は軽く跳ねる。
「……さぁて?」
彼女はまたしても同じ言葉を呟き、停止した。
一度目、二度目はOnce、Twiceと特別な言い方があるのに、三度目以降は何故普通なんだろう、などと考えているのではない。
「………」
もっかい背伸び。もいっちょ軽く跳ねる。回ってみる。三回回ってパチュリー・ノーレッジのモノマネをしてみる。
「いーち、にーぃ、さーん……むきゅー。本大好きでむきゅー。本と温かいご飯と納豆があれば、仕事なんていらないでむきゅー」
言い終えたが何も変化は無い。
それから暫く呆然と立ち尽くしていた彼女の背後に影。
「よっ、暗くなるのに外なんか出て何してんだ?寒くないのか」
魔理沙登場である。箒から降り、彼女は霊夢の背中をポンと叩く。
しかし彼女は押し黙ったままで、魔理沙は首を傾げた。
「おん?どうしたんだお前……具合でも悪いのか」
「ねぇ、魔理沙……」
ようやく口を開いたので魔理沙は少し安堵する。
しかし、振り返ってこっちを見てきた霊夢の顔を見た瞬間、別の意味で不安に駆られる事となった。
大胆不敵が服着て歩いていると評判のアイツが、冷雨の中身を震わせる捨て犬のような目をしていたからだ。
うるうると目を潤ませ、縋るような目線。
(なんだよなんだよ、ボーナスでこいつをアリスにでも買ってやれってか?)
どうするマリフル。しかし霊夢はそんな彼女の心境など知る由も無く、ただ一言呟くのみであった。
「……飛び方、分かんなくなっちゃった……」
・
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「……なるほど。里まで飛んで行こうとしたら、今までどうやって飛んでたか思い出せなくなったと」
「そうなの……忘れるなんて思ってなかったし、いざ忘れちゃうとどうしていいか分かんなくて」
「ねぇ」
「そうか……空を飛ぶなんて、意識してやる事じゃないしな。私達にとっては。いつの間にかできるようになってた。
歩くなんてのは誰かに教わる事じゃない。それと同じか」
「そうですよね。普段当たり前だったことだからこそ、なくしてしまうとその大きさに気付くんですよね」
「お、なかなか名言チックな言い回しだな」
「いえいえ」
「ねぇってば!」
会話を遮ったのは、幼い少女の声だった。
「何よ?」
霊夢がじとっとした目線を向ける。自分の問題に関する会話を遮られたのが不服なのだろう。
すると、遮った張本人――― チルノは少し頬を膨らませて言った。
「霊夢の事情はわかったよ。けど、なんであたいの家に来て、しかもおでん食べながらその話をするの?」
改めて場を見る。テーブルの中央にはおでんの鍋がどかっと居座り、出汁の芳香を撒き散らしている。
中では一晩経って、ますます良い具合に味の染みた数々の具が所狭しと自己主張してまさに楽園。
オデン鍋改めエデン鍋を遠慮無くつつく霊夢と魔理沙、そんな二人を母親のような優しい目線で見守る大妖精。
チルノは大妖精謹製のおでんをいきなりずかずかやって来た二人組に食われたのだから、こちらも不服そうな顔だ。
「別にいいじゃない。許可はもらってるんだし、あんたもさっきいいって言ったじゃない」
「いきなりだったし、なんかその時の霊夢怖かったし!それにここ、あたいの家だもん!」
「だがおでん食う権利は別にある。大ちゃん、ご相伴に預かってもいいよな?」
「もちろんですよ」
「ほらな!あーウマイ……この大根の味わい深さと言ったらたまらんね。だし汁が小宇宙を描いてやがる」
見せ付けるようにもぐもぐ。噛む度に大根の細胞組織一つ一つから旨みたっぷりの出汁が染み出す。
温かな味わいに自然と顔がほころぶ魔理沙。料理を褒められて嬉しくない訳が無く、大妖精は照れて顔を赤らめる。
「んもう!大ちゃん、『優しくするのと甘やかすのはちがう』ってけーね先生も言ってたじゃない!」
「でも、あんまりお腹すいてたみたいだし、それに落ち込んでる霊夢さんを放ってはおけないよ」
「じゃあ魔理沙はでてけー!」
「やだね!卵もらい!」
「あーーっ!!あたいが食べようと思ってたのにぃ!!魔理沙のバカー!おでんバカー!
魔理沙なんかおでんと結婚して『けっこんウサギ』にあっちゃえばいいのよ!」
「それを言うなら結婚サギ……ってチルノちゃん!そんな言葉どこで覚えたの!?」
「ねえ、カラシある?もぐもぐ」
「あ、ありますよ」
箸が火花を散らし、おでんのダシが砲弾のように飛び交う。紛う事無き”戦場”がそこにはあった。
――― 何故二人がチルノ宅でおでんを頂いているのかと言うと、話は一時間ほど前に遡る。
・
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飛べなくなったショックに空腹が重なり、ダブルパンチでノックアウト寸前な霊夢に肩を貸しながら、神社を出た魔理沙はふらふらと歩いていた。
「あーうー……」
「土着神気取りはいいから、しっかりしろって。さっきはもう少し元気だったじゃないか」
「もうらめなのぉ」
「色っぽく言ってもダメだぜ、ったく……事情は後で聞くが、とりあえず普通に立って歩いてくれ」
飛び方を忘れた、という衝撃的な告白をした後、ふらりと霊夢は倒れてしまった。
それを支え起こした魔理沙に対し、彼女はこう呟いたのである。
「……ああ、飛べなくなったせいでご飯への道のりが遥かに険しいものへ……私のおでんが……」
要約すれば、お腹が空いて力が出ない。流石に不憫に感じ、肩を貸してどうにか近場で何か食わせてやろう、と思い立ったのである。
箒の後ろに乗せて飛ぼうかとも思ったが、今の霊夢だとしがみ付けずに落っこちる恐れがあるので徒歩。
神社を出、暫く歩くと湖の傍へ出る。とりあえず、自分の家か紅魔館、或いは騒霊屋敷辺りに運び込もうか、などと考えていた。
しかしその時、空腹状態でより鋭敏になった霊夢の嗅覚センサーが、空気中に分子レベルで存在していた芳香物質を感じ取る。
「……あゝ、遥か遠くでおでんの香りがするわ……私を迎えに来てくれたのね……」
嗅覚は常人クラスの魔理沙にはそれが分からず、霊夢を揺さぶる。
「お、おい!しっかりしろって!幻覚か!?幻聴か!?」
「だいじょぶよまりさぁ、ほら、私をプリンセスとして迎えに来てくれた王子様がいるわ。
白いはんぺんに乗った大根の王子様よ……さあ、私を土鍋へ連れてって……ロールキャベツの馬車に乗って……」
「霊夢、気を確かに持て!!そんな馬車に乗ったら肉汁でビシャビシャになるぞ!!」
じっとりしたシンデレラストーリーの世界へ旅立とうとする霊夢を、必死に現世へと繋ぎ止める魔理沙。
霊夢の脳内では再びおでんが煌びやかに踊り狂う。メリーゴーランドどころかエレクトリカルパレードへと進化していた。
黒耳ネズミと餅巾着がツーステップのタンゴを踊るなどという構図、幻想郷でもそうお目にかかれまい。
だがやがて、霊夢の身体を半ば引きずるようにして湖沿いを進む彼女の鼻も、その芳香をキャッチした。
「……うん?本当におでんの匂いがするな。紅魔館や騒霊屋敷はも少し先だし、この辺りの家ってーと……」
「ああプリンス・大根……ちくわぶのリング、とてもお似合いですわ……」
「お前そんなキャラじゃないだろ!!第一ちくわぶはちくわと違って穴なんか空いてない!」
眼が虚ろになってきた霊夢の覚醒を促しつつ、魔理沙はもう少し歩く。
すると、小さな木造の家が見えてきた。
「ありゃあ……チルノん家か。発生源はどうやらあそこみたいだな」
「なんですって!?」
瞬間、霊夢は跳ね起きた。虚ろだったその眼は今や肉食獣の如き鋭さを宿している。
「あそこには……ODENと言う名のEDENがある……」
「霊夢、お前まだまだ元気じゃ」
「優しい香りがするぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ちょ、待て!」
飛行手段を失ったとて、何一つ不自由しなさそうなレベルの俊足で彼女はチルノ邸に肉薄。
乱暴にドアを叩き、ノブをガチャガチャ回す。しかし鍵が掛かっていて開かず、業を煮やした彼女はドアノブに噛り付く。
「開けてぇぇ!!あげてぇぇぇぇぇっ!!」
「理性が飛びかけてるぞ!人としての尊厳はどうした!」
魔理沙が野獣の如き霊夢を取り押さえている最中、中からは二人分の会話。
「だ、大ちゃん!もしかしたら強盗かも!下がって!」
「で、でも、何か聞き覚えのある声が……」
大妖精がチルノに作ってあげたのだろう、という事をすぐ理解しつつ、このままだと霊夢が二人を襲いかねない。
霊夢の口を塞ぎ、魔理沙は改めてノックしつつ声を掛けた。
「あ~、いきなりスマン。私だ、魔理沙だ。霊夢もいる。ちょっと開けてもらえないか」
「ど、どうする!?二人のフリした強盗だったら……その時は、あたいが大ちゃんを守るからね!」
「それは嬉しいけど、今のは確かに魔理沙さんの声だったよ……」
会話に続いて開錠音。やはり警戒してか、そーっと開かれるドア。
しかし、ドアの向こうにいるのが見慣れた姿だと分かると、あっさりと開け放たれる。
「どうしたんですか?」
「あー、その……霊夢がな」
「優しい香りがする……澄んだダシが続く……人はこの鍋をまるで楽園のようと言ふ……」
当の霊夢はと言うと、ドアが開け放たれた事で一層強く香るおでんの匂いに、何事かブツブツ呟き始めていた。
「れ、霊夢さん?」
「……この通り、EDEN in to the ODEN 状態なんだ。すまないが、何も言わずに何か食わせてやってくれないか?」
若干の怯えを見せた大妖精だが、魔理沙の言葉にチルノを見やる。
「チルノちゃん、食べさせてあげようよ」
「う、うん……でもなんでいきなり」
「霊夢、いいってよ。好きなだけ食え」
「……黄身だけを愛し続けること選んだから……箸がしゃぶり切れて折れる日まで食べ続けたい……」
許可が出た事は分かったのか、ふら~っと家の中へ進入していく霊夢。
「あ、ちょっと!」
何か嫌な予感がし、チルノは呼び止めようとする。
だが時既に遅く、テーブルの方からガフガフという音が鳴り響き始めた。時折『そう!』とか言いながらこっちを振り向きつつ、また食べる。こっちみんな。( ゚д゚ )彡。
「ああぁ……大ちゃんのおでんが……」
「だ、大丈夫だよ。まだ具はたくさんあるから……多分」
「……なんつーか、東洋の神秘だなコリャ」
検閲が入るレベルの食事風景に、呆然と立ち尽くす三人。
その時、ひっきりなしに漂うおでんの香りに、魔理沙の胃袋もとうとう音を上げた。
「……ところで、私も食べていい?」
「えーっ……なくなっちゃうよ」
チルノは少し嫌がる素振りを見せた。魔理沙が、というのでは無く、霊夢の暴食ぶりを見ての懸念だったようだが、
「いいですよ、どうぞこちらに。チルノちゃん、みんなで食べた方がおいしいよ」
「……大ちゃんがそう言うなら」
大妖精の言葉に素直に従い、自らも席に着いた。
そうして、ある程度空腹が満たされて食事ペースが落ち着いた霊夢の口から説明があり、先の状態に至るという訳なのである。
「で、だ。お前は、このままでいいのか?」
「そりゃ、何とかしたいわよ。不便でしょうがないし、今まで出来てたことが出来なくなった、なんてのを黙って放置する訳もいかないし」
「まあ、そうだよな。明日またお前んとこ行くから、一緒に何か解決策を考えよう」
「うん……」
魔理沙は励ますような語調で言ったが、食事をした事で落ち着きを取り戻し、同時に事の重大さを思い出した霊夢の顔は晴れない。
見かねてか、大妖精が手を上げる。
「あ、あの!もしよろしければ、私にもお手伝いさせて下さい!」
「お、いいのか?夕飯ご馳走になった上に、何だか悪いな」
「大ちゃんがやるならあたいも手伝うよ。それに、霊夢が落ち込んでるなんてモヤモヤするし」
「だってよ。ほら霊夢、早くも美少女三人が味方についたんだ、ちょっとは元気出せ!」
バシンと霊夢の背中を叩く。一旦咳き込んでから、彼女は三人の顔をちら、と見て呟いた。
「……ありがと」
・
・
・
・
翌日、博麗神社。
冷たい空気に若干身を震わせつつ、魔理沙は霊夢に招かれるまま室内へ。
既に炬燵が出してあり、さらにチルノと大妖精も入っていた。
「とりあえず、作戦会議ってコトで」
「魔理沙もおミカン食べる?」
「もらうよ」
チルノから受け取った蜜柑の皮を向きつつ、彼女は霊夢に尋ねた。
「じゃあ、本題に入ろう。飛べなくなった原因とかに、何か心当たりはないのか?」
「そうねぇ、飛べなくなったって言うよりは飛び方を忘れたって方が正しいのかしら。
心当たりは……あるには、ある」
意外な言葉が飛び出したので、一同面食らった表情。心当たりがあるのなら、解決策が見つかるのも早いのでは無いだろうか、と考えるのが自然だ。
そこで、今度は大妖精が訊いてみる。
「その、心当たりっていうのはどんなものなんですか?」
すると彼女は少し考え、思い出すような顔をしながら述べていく。
「冬篭りのために、大量の食料を買出しして備蓄しておいたのね。秋が終わった辺りで。
けどさ、目の前に食料があったら、食べたくなるのが人情ってモンじゃない。
ご飯の買出しに行こうと思っても、目の前に食材はいくらでもあるから『これ使っちゃえばいいや、まだ沢山あるし』ってなるわよね?
で、毎日毎日家の食料使って生活してたから、外に出る必要性がゼロになっちゃって。やたら寒いし、外出たくないなーって」
「……オチが読めてきたぞ。お前、どれくらいの間外に出なかったんだ?」
渋い顔つきの魔理沙が尋ねると、霊夢は可愛らしくペロリと舌を出して答えた。
「……二ヶ月くらい、カナ?てへっ」
こつん、と頭を軽く叩くオプションもセット。
「叩くなら私が叩いてやる」
平手で脳天を一発。ぱかん、と実に小気味良い音が鳴り響いた。
「いったぁ……何するのよ!」
「どうりで最近、外でお前を見かけないと思った!いつ行っても家でゴロゴロしてたし、そういうワケだったのか……」
「第一冬ごもりって、そんなクマみたいな……」
流石の大妖精もフォローの言葉が見つからない。
ここで魔理沙が思い出したように手をポンと打つ。
「もしかして、昨日私が行った時に外に出てたのは、食料が尽きたからなのか?」
「まあそんなトコ。あるにはあったんだけどもう少なかったし、おでんが食べたくなって」
「久々に買出しに行こうとしたが、二ヶ月もの間飛ぶ事はおろかろくすっぽ出歩かなかったせいで、飛び方を綺麗さっぱり忘却したと」
「それでいいんじゃないかしら」
「わかった。お前はアホだ」
「誰がアーボよ!」
「毒蛇だなんて言ってねぇ」
やれやれ、と魔理沙は心底呆れた表情だ。
「ねぇ、本当に飛べないのか、ちょっとやってみようよ。もしかしたら、なんかのはずみで飛べるかもしれないしさ」
手を挙げてチルノ。それ名案、とでも言うように彼女をビシッと指差し、霊夢は立ち上がった。
「いい事言うじゃない。それ、やってみましょ」
「これで飛べたら、お前この二人におでんの分なにかご馳走しろよ」
「べ、別にそんな」
どっこいしょ、と立ち上がる魔理沙に続き、妖精二人も立って外へ。
襖を開けると途端に初冬の冷たい風。一同は忘れずにマフラーを着用した。
・
・
・
「うりゃ!そりゃ!浮け!」
ピョン、と霊夢が跳ねる跳ねる。
「……これっぽっちも浮かないな」
「あああ、全然ダメだわ……何がいけないのかしら」
がっくし膝を着いてしまう彼女に、頭を捻ってチルノがアドバイス。
「もっと気合入れてみたら?なんか、身体中に力が入るような掛け声とかさ」
「それじゃ、コホン……へん……しんっ!とうっ!」
手で弧を描くようにポーズを決め、両手を挙げて決死のジャンプ。
着地するも、霊夢の身体には何の変化も無し。高度はさっきと変わらなかった。
「これでワキミコライダーRXとかになったら面白かったんだがな」
「だったら私、相手の養分吸収できそうなバイオの方がいいわ……じゃなくって!
本当に、どうしたら飛べるようになるのかしら……」
「今まで、飛ぶ時に意識してたこととか、感覚とか、思い出せませんか?」
大妖精が尋ねるも、霊夢はゆっくり首を振る。
「歩くのに一々コツなんて意識しないわ。それと同じ。だからこそ、分からなくなると本当にもう」
「羽でも生えてれば別なんだがな。身体一つで飛ぶもんだから、どっかを動かしたりはしないし、私のように道具も使わない。
本人にしか、飛行のメカニズムやコツなんてのは分からないのさ。それを忘れちまったらな……」
大妖精とチルノは魔理沙の解説に頷くも、霊夢の顔はますます焦りの色を濃くしていた。
「飛べない巫女なんてただの可愛い女の子じゃない……」
「……そうだな、私としては一度飛ぶ感覚みたいなのを思い出せればいいんじゃないかと思うんだが」
「わたしもそう思います」
「あたいも」
「よし、決定だ。霊夢、お前を空の上まで運ぶぞ」
「なんで私の発言総スルーなのよ……ってはぁ!?空の上!?」
「おうよ。二人とも手伝え~」
「は~い」
「大丈夫でしょうか……」
霊夢を箒の後ろに乗せ、大妖精とチルノが彼女を両脇で支えつつ、魔理沙は地を蹴って空中へ。
「ちょ、ちょっと!何させる気?」
「とりあえずダイビングだ。大丈夫、ヤバそうだったら私達が助ける」
「あたいに任せなさ~い!」
「ちゃんと支えますから」
そうこうしている内に彼女達は神社上空数十mまで上昇。
「わかったわよ、やってやるわ!この程度の高度、今まで何百回、何千回と通ってきた場所なんだから!」
「その意気その意気……さあ行け!」
「トビマス、トビマス!うりゃああああああ!!」
掛け声は勇ましいが、飛び立つと言うより箒からズルリと横向きに落ちた感じでどうにも格好がつかない。
両手を広げてスカイダイビングのような体制になりつつ、霊夢は念じる。
(浮け、浮け、飛べ……っ?)
しかし目を見開き、眼下に迫り来る地面を捉えた瞬間、頭の中からそのような希望的思考は一切消え失せる。
今の自分は浮けないという事実。つまり、このままでは叩きつけられるだけ。
怖い、めっちゃ怖い。このままでは確実にお陀仏。まだ死にたくない、怖い、怖い、怖い―――
「……無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「無理っぽいな、そろそろ支えるぜ!」
自由落下に合わせるように併走していた魔理沙が彼女の胴部を支え、両サイドから妖精二人もがっちりキャッチ。
神社上空10m程度の辺りでブレーキがかかり、5mに到達する頃には完全に静止していた。
「流石に荒療治だったか」
ゆっくりと霊夢の身体を地面へと下ろす。それから、魔理沙はばつの悪そうな顔をして一言。
霊夢はと言うと、ようやく両足で神社の石畳に下り立ち、ふらふらと二、三歩歩いたかと思うとがっくりと膝を折ってしまった。
「……こわい……むり、落ちちゃう……」
「大丈夫?」
涙を浮かべて荒い息。飛ぶ能力を失った彼女にとって、今の自由落下は完全にトラウマ級。移動能力に関しては一般人同様なのだ。
・
・
・
・
その日は霊夢が戦意喪失してしまった為、飛翔実験は諦めてお茶会に。
翌日、再び一堂に会した四人。まず最初に魔理沙が手を挙げた。
「そーだな……生身でダメなら、テクノロジーの力を借りるって手もあるな」
「テクノロジー、ってことは……」
大妖精の言葉に、魔理沙は頷いた。
「そ。みんな、山に行くぞ」
一路、彼女達は妖怪の山へと向かう。
「おや、お揃いでどうしたんだい」
妖怪の山の麓、川沿いに建てられた工房。オーヴァーザプライスなエンジニア、河城にとりが四人を出迎えた。
その後ろには、たまたま遊びに来ていたらしい厄神、鍵山雛もセットだ。
魔理沙は二人に一通りの事情を説明する。
「……って訳なんだ。なんか前、飛べるっぽいの作ってたよな?あれ、霊夢に貸してやってくれないか」
「飛べるっぽいのって……大雑把だね。色々あるよ?」
「え、例えば?」
色々ある、なんて言葉がすっと出てくる部分に期待したか、霊夢は身を乗り出して尋ねた。
ん~、と少し考えてから、にとりは説明を始める。
「じゃあ……まず取り出したるはこの純ニクロム線100%、バネたっぷりジャンプ台シューズ!」
「ごめん、説明もその靴もいらない」
びょんびょん、という音を聞いただけで霊夢は首を振る。
側面に”ドクター・セントラルパイン”と刻まれたその靴を残念そうにしまい、彼女は次の案を出した。
「飛ぶもの、飛ぶもの……この高圧電流放射バッテリー”電撃ウナギナマズちゃん”はどう?」
「意識だけ飛ばされてもしょうがないんだけど」
「そういや、里に新しい家が建つらしいから手伝ってきたら?」
「とび職は”飛び職”じゃないわよ」
「空気が乾燥してるし、手荒れしてないかい?ハンドクリーム塗ったげる」
「塗布?」
いつしかボキャブラ天国の様相を呈し始める川のほとり。
「わ、二人とも漫才師みたいで面白いよ~」
雛はのん気に笑って二人を褒め称える。
一瞬顔を赤らめ、ぶんぶんと首を振ってから霊夢はにとりに詰め寄った。
「ちょっと、本当に飛べるモノ無いの?
ウサミミが生えるニンジンとか、マントになる羽とか、地蔵にもなれるスーツとか!」
「お前さんはコスプレしに来たのか?まあいいや、じゃあこのジェットエンジン付き帽子はどうかな」
言いながら彼女が取り出したのは、ウィングが付いたやや独特な形状の帽子。
全体的にくすんだ水色のそれは、確かにジェットらしき噴射口もついている。
「ジェットで飛べるの!?それちょうだい!」
「ちょうだいって……でも、ちょっとした体格制限があるんだ。まあ大したことはないよ」
そのような事を言うにとりに、霊夢は尋ねてみた。
「制限って、身長とか?」
「それに近いね。これ、一頭身の人を対象に作ってあるから、お前さんじゃちょっと高すぎるね。
装備できないことはないし、ちゃんと飛べるけど、後頭部のあたりから超高温のジェット噴射が起こるから。
服の背中が焼け焦げて、うなじからお尻あたりまでを丸々露出しながらフライトするコトになるけど……」
それだけの説明をとうとうと述べた上で、グッとにとりはサムズアップ。
「霊夢なら大丈夫だよね!」
「あんたの中の私はどんな剛の者なのよ」
霊夢は地上を歩く人の視点になり、想像する。幻想郷の空を、飛行機雲の軌跡と共に滑空する紅白の巫女。
頭上を通り過ぎた可憐な鶴を追いかけるように目線を向ければ、後ろ半分丸出しの絶景。
波紋の浮かぶ広大な砂丘のような、肌色の芸術。
人々の好奇の目線を一心に浴び、満足げな笑みと共に霊夢は腹の底から声を上げるのだ。
『『空を飛ぶ』、それだけよ……それだけが満足感よ!羞恥心や……見た目など……どうでも良いのだァァァァァァーーッ!!』
あ、ダメだこれ。いくら威風堂々としててもお尻丸出しは乙女として耐えられない。
大事なのは見てくれじゃなく心。でも公衆の面前でまる見えでは中どころか外側も見てもらえない。
私は露出魔じゃない、仮に露出魔だったとしても露出魔と言う名のワキミコだ。出すのは腋だけで事足りている。
「やめとく。他にない?もうちょっと安全でお金もかからなくてメンテ不要で私の身体にも実に馴染む!ってなやつ」
「なるほど、ワガママな紅白饅頭だ……えっと、ちょい待ってね」
『だから誰がまんじゅうよ』と呟きつつも、彼女は工房へ引き返していくにとりを見送る。
一方、雛はチルノ、大妖精とのんびり遊んでいた。平和。ピンフじゃなくてね。
「ほいよ、お待たせ。火は危ないから、水の力さ」
帰って来たにとりが手にしていたのは、透明なタンクに液体を溜め込んだ珍妙な装置。よく見るとノズルのような部分もある。
こちらに刻まれている文字は”大山博士”。
「ポンプ?」
「そそ。普段は普通に水を撒くだけなんだけど……ノズルは付け替えが可能でね。
実は、ロケットタイプのノズルがあるんだ。これを使えば、水の噴射による反作用で空へとどかーん!ってワケさ」
「確かに安全でお金もかからず……それもらった!」
霊夢は気に入ったご様子。そんな彼女の背に、にとりは早速ポンプを取り付けてやる。
デフォルトのノズルを取り外し、別の物に付け替えた。
物々しい雰囲気に、外野で遊んでいた雛と妖精組も寄って来る。
「あ、なんか面白そうなことやってるよ」
「ホントだ~。これなに?掃除機?」
「あの機械はしゃべらないんですか?」
「お前ら、ここへ来た目的忘れてるだろ」
「私は最初からいたよ?」
「そういう問題じゃないっての」
首を傾ける雛にため息の魔理沙。そんな彼女達を尻目に、霊夢は準備完了。
「よしオッケー!さあそのハンドルを動かしまくってチャージだ!」
「どりゃあああ!」
がしゃがしゃ、と駆動音。シェイクするように手元のハンドルを動かしてエアーを圧縮する。
十分溜まった所で、にとりは一同に離れるよう命じた。
「離れて、そろそろ飛ぶよ!」
「これでいいわね……グッバイ大地!カモン大空!」
空を抱き締めるように両手を広げ、悦に入る霊夢。次の瞬間、ノズルから圧縮された大量の水流が噴出した。
立ち上る巨大な水柱。そして―――
「へぐっ!!?」
ぼごぉん!と凄まじい音がしたかと思えば、遥か大空へ舞い上がっていた筈の霊夢の身体はまだそこに。
否、上昇どころか瞬時に地面へと半身が埋め込まれるという珍事。高度的にはマイナス。
数秒後には、呆然と見守っていた一同の頭上から降り注ぐ大量の水。ざばー。
「きゃー!」
「ちょ、冷たぁっ?!」
「やー!」
それはまさに局地的集中豪雨。ほんの一、二秒なのでさしたる被害は無かったが、この一帯だけがまるで雨上がり。
「げほ、げほっ……ちょっと、全然飛ばないどころか埋まってるじゃないの!店長を呼びなさい!」
「悪質なクレーマーごっこはいいから。それよりごめん、ノズルを上下逆にしちゃったみたい」
上方向への反作用で逆に叩きつけられた霊夢の身体は見事に胸の辺りまで地面にすっぽり。その光景は妙にシュールだ。
しゃがみ込み、魔理沙は霊夢の頭をなでなで。チルノも興味津々な様子。
「おー。これが噂に聞く、モナー穴ならぬ霊夢穴か。なんかお話でもするか?」
「ねーねー、穴がご飯ってホント?」
「なでるなー!あと勝手にヒトを仙人みたいにすんなー!早く抜いてよ!」
身体と一緒に埋まってまともに動かない腕をバタつかせ、頬を膨らませる霊夢。不憫に、或いは責任を感じてか、にとりは頷いた。
「はいはい。えーと、魔理沙が孫娘で……じゃあ私がおじいさんやるから雛はおばあさんやって。
チルノに大ちゃん、犬と猫どっちがいい?」
「あたい犬!でもネズミがいないよ?」
「誰が大きなカブよ!!」
「霊夢さん、掛け声は『うんとこしょ、どっこいしょ』でいいですか?」
「『ラッセーラー、ラッセーラー!』に一票だな。なんか気合入りそうだし」
「だからカブ扱いするなって言ってるでしょ!!ついでにねぶた祭りを開催しない!!」
饅頭に続き、旬の野菜扱いの紅白。何だかんだでその場に居た全員で引っ張り上げ、無事救助。
「はー、やっと抜けた……」
「正月太りのせいだろうな。二ヶ月も自堕落な生活してりゃそうなる」
「自重で地面が抜けるワケないでしょーが!まったく……それより、ちょっと」
「うい?」
魔理沙に言葉を返してから、彼女はにとりの肩をつついた。
「思ったんだけどさ、仮にあのロケット噴射で空へ飛び上がったとしても……その後、高さを保持する術がないじゃない。
つまり、高く飛びあがるだけ飛び上がって、後はまっ逆さまってコト?」
「そうなるねぇ」
「なんでンなモン勧めるのよ!?何十メートル飛ぶんだか知らないけど、死んじゃうじゃない!」
にとりの肩をがくがく揺さぶる霊夢に彼女と、それに続いて魔理沙も安心させるように言った。
「大丈夫だよ。高く飛びあがった場合でも、お尻から落下すれば無傷で済むっていう文献があるから」
「なんじゃそりゃ!?」
「お尻から落下した際の力で、25mプール並みの大きさのバスタブだって叩き落とせるくらいのパワーが生まれるんだと。
良かったな霊夢、飛べなくなった代わりに新たな特技習得じゃないか!」
「いらんわー!!」
博麗霊夢:尻でバスタブを叩き落す程度の能力。こんなんが主人公になるSTGはまさに前代未聞。
いっそ弾幕では無く尻相撲で戦えばきっと常勝無敗、コンティニュー知らずの快適ヒロインライフ。
だけど、それってもうSTGじゃない。
「あーもう、他にないの?一大事なのよぅ」
じれったそうにばたばたと手足を動かし、霊夢は急かす。発明品もアイディアも気に入ってもらえず、にとりは考え込んでしまう。
すると、ここまで子供組と遊んでいるばかりだった雛が手を挙げた。
「ね、ね。それじゃあさ、私のアイディアも聞いてもらえるかな」
「なんかいいのあるの?厄漬けで気分だけフライハイなんてのはごめんだからね」
「厄はヤクじゃないんだけどなぁ……っと。んとね、回転に伴う浮力で浮くっていうのはどう?」
「ああ、そういやあんたいつも回ってるわね」
ポン、と手を打つ。初めて会った時も、雛はくるくると回っていた。
「霊夢の服もなんかヒラヒラしてるしさ、不可能じゃないと思うんだけど……どうかな」
「そうね、他にいい方法も浮かばないし……やってみる。でもどうやって?
リボンから厄の竜巻を放出して空中に私の身体を固定し、スピンでぶち抜くなんて言わないわよね」
「できないよ、そんなの……これこれ」
生憎、雛はヨーヨーもツインランサーもロックファイターも装備していない。
霊夢が頷いたのを見て、雛がポケットからずる~りと取り出したのは長いリボン。彼女が身につけているものと同じデザインだ。
「ちょっと失礼……細くてうらやましいなぁ」
「そ、そうかしら」
「二ヶ月だらけてたクセにな」
彼女は霊夢の腰から腹の辺りに、そのリボンをぐるぐると巻いていく。
霊夢は照れつつも、横合いから挟まれた魔理沙の言葉はスルー。
リボンを巻き終え、雛は彼女の背中を叩いた。
「準備完了!いい?」
「いいわよ、くるくるしておしまいなさい!」
「よっしゃー!」
合図と共に、雛は思いっきりリボンを引っ張った。
巻かれたリボンが解けていくのと同時に、霊夢の身体もくるくると回転。
「あ~れ~」
「ぬははは、よいではないかよいではないか~!」
「ああ、いけません厄神様……困ってしまいますわぁ」
「そんなことを言わず、ほれほれ~」
「きゃ~」
川のほとりで”よいではないかごっこ”に興じる神様と巫女。
「すげー楽しそうだな……」
「雛が悪代官って似合わないねぇ」
「大ちゃん、あたいもあれやりたい!」
「だ、ダメだよチルノちゃん!あれは大人になってからじゃないと……」
見守る人間とそれ以外。さらさらと川のせせらぎ。
平和且つ異常な光景も、全て解けたリボンと共に終焉を告げた。
「う~ん、ちょっと楽しかったけど浮かなかったね……」
雛はどこか申し訳無さそうだが、霊夢は首を振ると、ドンと胸を叩く。
「なぁに、アイディアは良かったと思うわよ。楽しかったし。ただ、ちょっと馬力が足りないわね」
「え、それって」
「そう、次はもっと強力に引っ張ってちょうだい!超高速スピンで遥か天空までぶっ飛ぶのよ!」
彼女の要求で、雛は再びリボンをぐるぐると巻き始める。
先よりもややきつめに巻き終えたが、彼女はどこか心配そうな面持ちだ。
「本当にいいの?」
「今更怖いものなんてないわ。これで飛べるようになったら、あんたを神社に祀ってあげる」
一神社の巫女にあるまじき発言である。先代以前の者達も草葉の陰でむせび泣いているだろう。
「そ、それじゃ……いくよ!」
「いつでも!」
霊夢の返事に合わせ、雛は自らも回転しながらリボンを思いっきり引っ張った。
リボンが片方からもう片方へ巻き取られていく様は、ビデオテープを思わせる。
「よいではないかぁぁぁぁぁ」
「あぁぁぁぁれぇぇぇぇ」
妙なエコーのかかる互いのテンプレ発言。それを見つめる魔理沙とにとりの目線は先よりも訝しげだ。
一方、先を上回る高速回転にチルノはますます目を輝かせている。子供は回るモノが好き。独楽竜巻回転寿司ゲッター2超級覇王電影弾etc。
「もっと回しなさぁぁぁい!」
「りょ、了解ぃぃぃ!」
雛のスピン速度がさらに上昇。一回目より遥かに短い時間でリボンは完全に巻き取られた。
リボンが無くなった後も、霊夢の身体は独楽のように高速回転を続けている。地面に軌跡を残しながら少しずつ横へと移動していく彼女の立ち位置。
「とべぇぇぇぇ、いまこそあいきゃんふらぁぁぁぁい!」
酔っ払ったような声を発しつつ段々右へ、右へとズレていく霊夢。掘られていく地面。
しかし―――
「あっ、危ない!」
唐突に雛が叫んだ。霊夢の身体が向かう先に、何があるのか。それに気付いたからだ。
彼女の発言でその場にいた全員もそれに気付き、一斉に彼女を止めにかかる。
「霊夢、止ま……」
魔理沙の発言は、二秒遅かった。いや、発言が間に合っていてもスピンは急に止まれない。
「おろ?」
がつん、という足元への衝撃。どこぞの剣豪のような呟きと共に、霊夢の身体はいきなり空中に投げ出された。
足元の小さな岩に躓いた彼女は、往年のフィギュアスケート選手も真っ青なレベルのフォームで空中をくるくると回転。
そのまま地上一メートル程度の高さでほんの少し滞空してから―――
「きゃあああああ!?」
どぼーん。巻き起こる水飛沫、立ち上る水柱。
足元が疎かになっていた霊夢は見事にウォーターハザード。だから5番アイアンはやめとけって言ったのに。
「こんな時期に泳ぐと風邪引くよ~?」
「バカなコト言ってないで引き上げるんだよ!!」
「”I can fly!!”は川へ落ちるフラグだって知らなかったのか……」
チルノの発言を訂正しつつ、川へ飛び込もうとするにとり。魔理沙は隣でそんな独り言。
しかし、川が浅い事も幸いして霊夢はすぐ、自力で這い上がってきた。
「霊夢、大丈夫!?」
髪の先、顎、指先、スカートの裾など、あらゆる部分から水を滴らせる霊夢は、彼女らの心配そうな声にも応えず。
暫し俯いたままだったが、不意にぶるぶると肩を震わせ始めた。
「寒いのかい?とりあえずウチに……」
にとりが言いかけたが、その続きは飲み込まれてしまった。
「――― もういいっ!!」
肩を震わせていた霊夢が、急に地団太を踏みながら叫んだからである。
そのままの勢いで、彼女は誰にとも無くまくし立てる。
「なんで私ばっかりこんな目に遭うのよ!?飛べなくなるわ、落っこちるわ、地面に埋まるわ、川に落ちるわ!!
落ちてばっかりじゃ、これから迎える受験シーズンにも縁起が悪いったらありゃしないわ!!」
「受験って、何の」
「もういい!もういいもん!!飛べなくたって人は生きていけるもん!!
私には立派な足があるんだから!!飛んでばっかのやつなんかUFOと間違われてMRIとかいう変な研究クラブに捕まっちゃえばいいのよ!!」
「それは磁気共鳴画像装置……」
「みんなバカーーーーーッ!!」
喉が枯れるくらいに霊夢は叫びをぶつけ、不意に走り出した。
「霊夢さん!」
大妖精の言葉にも振り返らず、霊夢は泣きながら全力疾走。
走って、走って、走って、先のポンプ実験で濡れた岩場で足を滑らせ、再び川へ転落し、どんぶらこと流されていった。
雛がすぐに追いかけようとしたが、魔理沙がそれを制する。
「やめとけ。しばらくはそっとしておいた方がいい。
見た感じではボケたりおちゃらけたりであんま深刻じゃなさそうでも、心の中じゃ本気で落ち込んでるんだ。
あんまり飛べるようになる兆しが見えないんで、とうとうプッツン来ちまったんだろうな」
「……私のせいかな」
「それは違う。ともかく、二、三日したら私は様子を見に行ってみる。お前らはどうする?」
彼女の言葉に、一同は頷いた。
「そうするよ。ここまで手伝ったんだ、私も行かなきゃ」
「あたいもそうするよ。何か考えてくる」
「わたしは……明日には、ちょっと様子を見てきます。なんだか心配で」
「私も……」
魔理沙はそれぞれの言葉に頷き返し、そのまま流れ解散。
当事者がいなくなった川のほとりは、何とも重々しい空気に包まれていた。
・
・
・
・
それから三日後、魔理沙はにとりと共に博麗神社を訪れた。
この三日間できちんと、霊夢の為になるような作戦も練ってきた。
一刻も早く、彼女の力になってやりたい。その一心を秘め、縁側から上がり込む。
見ると、靴が三足。どうやら、他の三人は既にいるようだ。
「お邪魔するぜ」
早速霊夢を探そうとした二人。しかしその時、彼女達の耳がどこからか声が聞こえてくるのをキャッチ。
「……霊夢さぁん、出てきて下さいよぉ……」
「うるさいわねぇ、もっとおミカン持ってきなさぁい!」
弱々しい声と、対照的な強く、そしてどこか投げやりな声での会話。
「魔理沙、今の……」
「霊夢と……大ちゃんか」
声のした方向へ向かうべく、魔理沙は障子を開ける。
数枚の障子を経て、霊夢がいつもいる炬燵のある部屋へ。案の定、全員がそこにいた。
いるにはいる、のだが―――
「……なんだこれ」
二人は同時に呟いた。ハッピーアイスクリーム。
だがまあ、そう呟きたくなるもの無理は無い。
和室の中央に置かれた炬燵。その片側の布団を捲くり上げ、大妖精がミカンを転がし入れる。
すると、それからものの数秒で反対側の布団が内側から捲くり上がって、ミカンの皮がぽーんと飛び出すのだ。
うず高く積まれた皮の山。雛がそれを片付け、ゴミ箱へ。
時折、『次!』という声がするので、そうすると大妖精が再びミカンをコロコロ。反対側から皮がぽーん。以下繰り返し。
まるで工場のラインのような、完成された工程がそこにはあった。
「何やってんだ?」
「あっ、魔理沙!霊夢がね、全然出てきてくれないの」
魔理沙の言葉に答えたのはチルノ。彼女の話によれば、今朝来た時からずっとこの状態らしい。
「やっぱり私の責任が大きいと思って、一昨日の午前中にはここに来たんだけど。
ずっと炬燵で丸まってる霊夢の世話をしてる内に、二日も経っちゃった。来た日の夜からは大ちゃんも手伝ってくれてね」
「で、昨日の夜からずっと、おミカンしか食べてないんです。霊夢さん……」
雛はしょぼくれた表情でそう言い、大妖精も口を動かしながらミカンを転がす手も休めない。
再び皮が飛び出してきた炬燵を見て、どうやら業を煮やしたらしい魔理沙は箒を投げ出し、炬燵に近付く。
「だー!こんのダラけ巫女めが!いつまでも拗ねてねぇで起きろ!!」
まくし立てながら、魔理沙は炬燵布団をむんずと掴んで捲り上げる。
その時、驚愕の事実が明らかとなるのであった。
「うわっ!霊夢、なんでお前素っ裸なんだよ!?」
炬燵の中の霊夢は、一糸纏わぬ生まれたままの姿。ボロは着てても心は主人公。ボロすら着てないけど。
「……お風呂入って、そのまま炬燵に入ったから……だって寒いんだもん」
言い訳がましい霊夢の呟き。魔理沙はそのまま炬燵に手を突っ込み、彼女を引きずり出そうと試みる。
「そんなサービスシーン誰も望んでないっての!おら、さっさと出ろ!!」
「きゃー!!魔理沙サンドウェッジー!!」
「誰がゴルフグラブだ!!」
「魔理沙さんのえっち、って言いたかったのでは?」
「ああ、なるほ……ってンなことはどーでもよくてだな!出ろっての!!」
「いやー!寒いー!!死んじゃうー!!」
再び霊夢を引きずり出そうとする魔理沙だが、三日間篭っていただけあって霊夢もそう簡単に出てこない。
まるでしつこいバンカーに引っかかったゴルフボールのようで、いかに魔理沙が優秀なサンドウェッジでも発掘作業は困難を極める。
その時、立ち上がって何やら箪笥を漁っていた雛が炬燵に近付き、腰を下ろす。
「霊夢、服持って来たから。これに着替えて、ね?」
言いながら彼女は、炬燵の中に霊夢の服一式をそっと差し入れてやる。
入れてから数秒、中からは衣擦れの音が。
「やれやれ」
魔理沙はほっと一息。それから数分もすると、炬燵からいつもの紅白がのそのそと這い出してきた。
「霊夢、良かったよ」
「霊夢さん!」
「お、おミカン食べ飽きただけなんだからね。勘違いしないでよね!」
喜びの表情で迎える一同に、顔を赤らめつつそう返す霊夢。すると、魔理沙が彼女の肩を叩く。
「テンプレ的ツンデレはいいから。それより、お前がいない間に作戦を考えてきた」
「作戦?なんの?」
「決まってるだろ、飛べるようになる方法だ」
彼女の言葉に、霊夢の瞳が揺れる。
「なんか、あるの?」
「ああ。一番原始的というか、基本に立ち返った方法だけどな」
外に行くぞ、と呟き、魔理沙は部屋を出ていく。
残された一同も、一拍間を置いてから彼女の背中を追った。
・
・
・
・
外へ出た一同。気付けばもう夕方、空も微かにオレンジ色。鳥居の前で、魔理沙は霊夢を向いた。
「さてと。霊夢、私が前に言った事、覚えてるか?」
「えっとぉ……霊夢の穴?」
「違う、もっと前。つか”の”を挟まないでくれ」
「ワキミコライダーアマゾン?」
「今度は行き過ぎだ。つかお前を野生児にした覚えもないんだが」
「腋の一号、痴態の二号……」
「言ってもいない。お前大丈夫か?糖分の取りすぎで頭が……」
脳漿がミカンの汁になってしまったのか、ボケた返答しかしない霊夢。
代わりにと、大妖精が口を挟んだ。
「飛ぶ感覚を思い出す……ですか?」
「そう、それ。一番基本的というか、特別な方法を用いない……お前自身の能力に依存した方法だ。
私が思うに、最初にやった自由落下実験……あれじゃ不足なんだ。だって、お前はいつも落ちてるんじゃない。飛んでるんだからな。
だから……」
「だから?」
一度言葉を切った魔理沙に彼女が尋ね返すと、魔理沙はおもむろに箒に跨り、親指で背の方を指した。
「……乗りな」
「え、それって」
「一緒に飛ぶんだ。これなら怖くないだろ?」
ニヤリと自信ありげに笑う魔理沙の顔を見て、霊夢も頷いた。
「わかった……じゃ、失礼して……よっと!」
「わぎゃッ!?」
だが彼女が次の瞬間にとった行動は、魔理沙の肩に手を乗せ、ぴょんと跳ねつつ全体重をかけるというものであった。
両手を箒に添えていた為バランスのあまりよろしくなかった魔理沙は、そのまま霊夢もろともすってんころりん。
背中を強か打ちつけ、霊夢は唇を尖らせる。
「いたたた……魔理沙ぁ、ちゃんと支えてよぅ」
「ふつー箒に乗るって分かるだろ!?頭脳がマヌケか!?」
「誰が呪いのデーボよ!それに”マヌケ”じゃなくて”まぬけ”!!」
「なんでそれは分かるんだよ!」
脳漿がミカン果汁なら海馬は”ガ○ンとみかん”か。
ようやく霊夢も箒の後ろに跨り、準備完了。
「それじゃ、飛ぶぞ!しっかり掴まってろよ!」
「う、うん!」
少しばかり緊張した様子で頷く彼女を見て、魔理沙は何となく微笑ましい気持ちになる。
そのまま地面を蹴ると、二人の身体はふわりと舞い上がり、あっという間に神社の上空十数メートル。
「あたいたちも行くよ!」
チルノの声に下を見やれば、残りの全員も一斉に飛び上がって二人の横へ。
霊夢は下を覗き込むのが少し怖かったようだが、魔理沙はそんな彼女を笑い飛ばす。
「ははは、このくらいの高度ならいつも飛んでるんじゃなかったのか?大丈夫だ心配すんな!」
その言葉に、霊夢は魔理沙の腰に回した腕の力を少しだけ強くする。
ぎゅっ、としがみ付く事で、背中に彼女の体温がはっきりと伝わってくる。
「それなら落ちないな……よし、行くぜ!」
「おー!」
魔理沙の号令にチルノが応え、五人は一斉に風を切って加速、前方へと飛び出していった。
「!!」
むき出しの足に吹き付けてくる、強く、冷たい風。その感触に、思わず霊夢は息を呑む。
寒いのでは無く、怖い。思わず縮こまってしまう。
額を押し当てた、自分と変わらない筈の魔理沙の背中がとても大きく思えた。
耳にも強風がぶつかってきて、頭の中にまでノイズを響かせてくる。
「おいおい、まだまだスピードは上がるぞ?そのリアクションは早いんじゃないか」
魔理沙は茶化すように言ったが、霊夢の怯えぶりが予想以上だったのでスピードを落とす。
かなりの安全運転、歩行速度とさして変わらないレベルまで落とした所で再び声を掛けた。
「ほら、遅くしたぞ。これなら怖くない。ゆっくり、顔を上げてみな」
「……うん」
背中に顔をつけたまま喋るので、くすぐったい。ゆっくりと霊夢の顔が背中から離れるのが分かった。
「じゃ、少しずつ速くする。慣れるのが大事だからな」
「ん……」
小さく頷くのを見て、魔理沙は段々速度を戻していった。
顔を上げた事で、鋭い冷たさの逆風が顔に直接ぶつかってくる。だが、顔を下げようとはしなかった。
今はまだゆっくりで、段々速くされても慣れのせいかあまり怖くない。
周りを見渡す余裕も出来た。右を見ればチルノと大妖精が、左にはにとりと雛が。マラソンで併走するかように、飛んでくれている。
そして、魔理沙の肩越しに前方を見やる。そこには、久しく忘れていた空からの景色が広がっていた。
眼下に広がる草原。風になびく草花、ざわめく木々。陽光を反射し、キラキラと輝く湖。その水面は、まるで宝石箱を覗き込んでいるかのよう。
視野を広く持っている為か、眼下の景色も怖くなかった。気付けばスピードは結構上昇していたが、平気。
(あれ……?)
霊夢は気付いていた。
ぶつかる風。耳を塞ぐノイズ。増える瞬き。服の隙間から進入し、肌を刺す冷たさ。地上より、ずっと広い景色。
――― 何もかも、覚えがあった。
最初は恐怖の対象でしかなかった、その小さな身をますます縮こまらせた逆風。
しかし今や、霊夢は胸を張るようにしてその風を自ら一身に受け止めていた。とは言っても、魔理沙の身体が大半を防いでくれてはいたのだが。
「慣れた?」
雛が近寄ってきて尋ねる。霊夢は、空へと上がってから初めての笑顔で、それに頷いて応えた。
いつしか湖は真下に来ており、足の下に薄く広がる霧に、夕陽が作り出した自分達の影が映る。
段々と、山の向こうへ姿を隠しつつある太陽。それを見つける彼女の眼から、先程までの怯えは消えていた。
代わりに、じわじわと胸中に広がりつつあったその”想い”を、思わず彼女は口にする。
「……飛んで、みようかな」
「お?」
魔理沙は、まるで待ってましたと言わんばかりに振り向く。
「やっとその気になったか。つっても湖の上じゃちとアレだな……みんな、動くぞ!」
彼女が箒の先を180°旋回させたのを見て、残りの一同もその場でUターン。何があったのかなんて、すぐに分かった。
先程通過したばかりの草原を真下に、にとりが霊夢の肩を叩く。
「やるんだね。頑張って、霊夢ならきっとできるよ。けど……万が一ってコトも考えなきゃね。
魔理沙、私と雛は下の方で待機してるよ。保険はかけなきゃね」
「頼む」
「あたいと大ちゃんは、こないだとおんなじでいいね」
「ああ。ま、出番が無いのが一番だけどな……」
そう呟き、魔理沙は霊夢を見やる。その顔は、どうしても微かな不安を拭い切れてはいない。
もし、ここで失敗したら霊夢は二度と立ち直れないんじゃないだろうか―――そう思っているのがありありと見えたので、霊夢は彼女の頬をちょん、とつつく。
「なーに怖がってるのよ、当事者がやるって言ってんだから、信用しなさい」
「……そうだな」
彼女は頷き、少し帽子を深く被り直した。
ここで、霊夢はふと思いついた事を口にする。
「あ、そうだ。飛ぶ時なんだけど、前に向かって動きながら飛び出したいの。いい?」
「いいよ、慣性の法則とかいうヤツだな。感覚的にはそっちの方が近くなるだろうし」
もう一度頷いた魔理沙は、地上2,3メートルで低空飛行しつつ待っている二人に合図を送る。
それから、左右で待機している妖精二人にも。
「……心の準備はいいか?」
「いつだって私はスクランブルよ」
「よく言うぜ……じゃ、行って来い!」
あくまで強気の霊夢にニヤリと笑みを返し、魔理沙は前方へと箒を発進させた。
すぐに普段の飛行スピードへと達し、霊夢の耳にはあの風がぶつかるノイズサウンドが鳴り響く。
それすらも、彼女の勇気を称えるファンファーレのように思える。それくらい、今の彼女には自信があった。
今度こそ、飛べると。
「霊夢、ファイト!」
「頑張って下さいね!」
左右から応援が飛んでくる。右手を挙げてそれに応え、ぐっと足を持ち上げて箒に乗せると、彼女は魔理沙の肩に両手を置いた。
そして体重をかけ、そっと箒の上で立ち上がる。強い風にバランスを崩しかけ、足の裏に力を込めてそれを凌いだ。
上半身だけを前方に向け、下半身を90°捻った状態。魔理沙の肩を掴む手に力を込め、足をそっと前へ向ける。綱渡りのようだ。
その状態で深呼吸。肺の奥底まで冷たい空気を取り込み、代わりにぐつぐつ煮えたぎったかのような熱い息を吐き出す。
微かに手を浮かせ、今まさに支えてくれている魔理沙の肩を、ポンと叩いた。
「……飛べッ!」
その言葉が合図だった。次の瞬間、霊夢の身体を支える物はもう何も無い。
100%、遮る物の無い逆風が吹き付ける。まだ遠い眼下には、風になびく草原と輝く湖。
先日とは違い、彼女は自然な姿勢をとっていた。足を伸ばし、両手も下ろす。
落下に合わせて真下からぶつかってくる冷たい風は、まるで自分を支えようとして、叶わず手放してしまっているかのよう。
直前まで前に向かって飛んでいたお陰で、逆風は前からも押し寄せる。
今、まさに彼女は落ちると同時に、前へ、前へと向かっていた。
まだ、浮かない。
(大丈夫……この風。目の乾き。遠い地面……みんな、みんな知ってる)
確実に自分は、空を飛んだ事があるのだ。頭では分かっていたけれど、霊夢は今それを身体でもって確信した。
なら後は、それをもう一度やるだけ。何も難しくなんて無い。
ぶつかってくる逆風にも慣れた頃、新たな感触。それは、自分自身が風になったかのような錯覚。
流れる風と一つになり、前へ。空を飛ぶとはそういう事。自分が当たり前にしてきた事。
(そうだ、私は飛ぶんだ。私は風だ……)
買い物に行く時。ちょっとした空中散歩の時。弾幕ごっこの時。異変解決の時。いつだって、自分は空を飛んでいた。
いつも、そんな事を考えていた訳じゃない。けれど、無意識の下には必ず意識がある。
知らない間にやっていた事。考えていた事。それを今、改めてもう一度やる。ただ、それだけでいい。
――― 風が、止んだ。
(……私は自由だ!!)
理屈なんて、分からない。だが、感覚で分かる。
己の身体が、風を蹴るようにして舞い上がる、その瞬間を。
自由落下するばかりじゃない、慣性にも頼らない、自分自身の意思で前へ進む。風を切る。空を翔る。
今の今まで、忘れていた感触。何もかも思い出した。
求めていたのは――― これだったんだ。
「……飛べ、た……?」
最初に出てきたのは、そんな呟きだった。
本当は今も落下を続けているんじゃないか。そう思って高度を上げる。地面が遠くなった。
速度を上げる。湖がすぐ傍まで近付いてきた。
(本当に、私は……)
「おいこら、どこまで行く気だよ!」
「ひゃい!?」
不意にがしっと肩を掴まれ、心底驚いた霊夢は空中で静止し、振り返る。無意識に出来るようになっていた。
箒に乗った魔理沙が、長い付き合いの中でも一番と言えるくらいの笑顔を向けてくれていた。
「お前、このままほっといたらどこまで行くつもりだったんだ?」
「だってぇ……本当に飛べるようになったのか、確かめたくなって」
「今浮いてるだろ。箒に乗って飛んでる私と目線を合わせて会話してるだろ。それで十分だ。
ま、何にせよ……よくやったよ。霊夢」
「おーい!」
ふっ、と笑って肩を竦める魔理沙。続いて、遠くから呼び声。
「おめでとう、信じてたよ!」
「おめでとうございます!」
「それでこそ霊夢だ!」
併走、そして下で待っていた皆から一斉に賞賛の言葉を浴びせかけられ、瞬時に染まる霊夢の頬。
飛ぶなんてここに集まった連中からすれば当たり前の事なのに、これほどまで喜んでくれている。
それこそ、自分の事のように。
「べ、別に元通りになっただけじゃない、大げさな……でも、ありがと」
だから彼女は、紅潮した顔のまま敢えてぶっきらぼうに答えた。だがお礼は忘れない。
「ね、ね。久々に飛んでみて、どうだった?」
チルノが尋ねてくるので、霊夢は興奮冷めやらぬまま、少し考えてから答える。
「……草原を渡る風は、自分がどこで生まれたのかは知らぬ。
だが風は、誰にも束縛されず、支配されない……人、それを『自由』と言う!」
凛、という漢字がぴったり似合う声色で、いきなりそう言い放った霊夢。静まり返る場。
数秒の間を置いて、霊夢はふにゃっと笑顔に戻った。
「……って感じかしら。どっかで見た台詞の受け売りだけどさ」
どっ、と笑いが巻き起こった。
「あっはっはっは、やっぱ霊夢は霊夢だ!良かったよ、本当に」
「なんかすごいカッコよかった気がする……霊夢なのに」
「最後のそれ、余計じゃない?」
にとりは特に、そんな彼女を見て安堵したようだ。
一方、チルノの呟きにずいっと詰め寄る霊夢。そんな二人に、魔理沙が割って入った。
「はいはい、そこまでだ。飛べるようになったと思ったらこれだ……何だか、本気でお前の事を考えてた昨日までがバカバカしくなるぜ」
「そうなの?」
すると霊夢は彼女に向き直る。
「……ありがと、魔理沙」
かと思えばいきなり目を見つめて霊夢がそう言うので、魔理沙は顔を赤くする。
「なっ……な、なんだよいきなり。べ、別にそんな……」
しどろもどろな魔理沙を見て、霊夢はくすりと笑み。
「ほら、ちゃんと言ったら言ったでこうなるじゃない」
「ま、いつも通りが一番ってことで……ね!」
二人の肩に手を置き、雛がそう言って締め括った。
気付けば、太陽は殆ど山の向こうへ姿を隠し、辺りは薄暗い。
「はぁ、ほっとしたら何だかお腹空いちゃった。あんたらみんな暇よね?
里においしいおでん屋さんがあるんだけどさ、みんなで行かない?お夕飯ってことで」
「お、いいね!付き合わせてもらおっかな」
「行く行く!けど、今度はあたいの分とらないでよね」
「勿論、霊夢がおごってくれるんだよな?」
彼女の言葉に、しゃっきり背筋を伸ばす一同。外で動き回った分、腹の虫も敏感だ。
しかし魔理沙のそんな言葉に、霊夢はさも当然との如く言い切った。
「ワリカンに決まってるじゃない」
「だと思った。じゃ、私が代わりに出そう。霊夢の分以外」
「何でよ!?私、今日一番頑張ったじゃない!」
「だったらこの二人に先日のおでんの分何かおごってやれ」
「い、いいんですよもう……」
二人の漫才に、大妖精が割って入る。
「私がいても大丈夫かな……」
厄神という立場上、一般の人間を怯えさせはしないかと少しばかり心配そうな雛。しかし、
「もっとおっかない連中が連日酒飲みに来てるから心配ないわよ」
という霊夢の言葉に、苦笑しつつも安堵したようだ。
「じゃ、しゅっぱ……」
「ちょぉっと待った!せっかく飛べるようになったんだから私が言うの!」
「えー」
チルノの号令を無理矢理遮る霊夢。『子供かお前は……ああ、子供か』と呟く魔理沙に、唇を尖らせるチルノ。
そんな彼女をまあまあ、と宥める大妖精に、肩を竦めるにとり、苦笑いの絶えない雛。
いつも通りの光景が、そこにはあった。
「よし、それじゃ……目標・里のおでん屋さん!作戦開始!捕虜はいらんぞ同志!」
霊夢のよく分からない号令と共に、一斉に中空へ舞い上がる一同。
先程まで五人で飛んでいた空を、今度は六人で滑空する。
当たり前の事が、当たり前に出来る。空を走る霊夢は、心の底から楽しそうな顔をしていたそうな。
・
・
・
・
・
・
・
・
あれから、暫く経って。
「へろーう」
「ヘイロー?」
「いや、バカでかいわっかならあの土着神に任せておけばいいと思うの」
どこからともない気の抜けた挨拶に気の抜けた返事、気の抜けたツッコミ。
気だるい空気の漂う博麗神社の炬燵部屋に、八雲紫が突如として現れたのはその日の昼下がりだった。
「何の用よ、いきなり。乙女の気だるい午後のくつろぎタイムを割くだけの理由なんでしょうね」
炬燵から顔だけを出したまま言う霊夢。そんな彼女の顔に、紫はぺたりと一枚の紙をくっつける。
「これ書いて欲しいの」
「なんじゃこりゃ」
ふぅー、と息で紙をめくり、手にとって眺める。
「幻想郷における、特殊能力者名簿。ほら、私って一応管理者みたいな役割もあるじゃない。
だから、異変があってもすぐ原因と絞れるようにと、なんか特異な能力もってる輩をまとめようと思って」
「っへぇー……あんたも割と考えて行動してんのね」
「ま、たまにはね。私の欄はめんどくさいから藍に書かせたけど」
見やれば、確かに”八雲紫”の名前の横にある能力欄は何度か修正した跡が。
大方”全て従者に押し付ける程度の能力”とか書いたんだろう。
他の欄も見ていくと、なるほど確かに自分の知り合いの名前は大体ある。見当たらない名前はこれから書いてもらうのだろう。
紅魔館は”運命を操る”だの”時間を操る”だのと、アブない能力ばかりだ。実際その通りなのだから仕方ないが、これではどこぞの海外ドラマだ。
魔理沙の欄にはでかでかと”魔法!”としか書いてない。らしいと言えば、らしい。
「わかった。で、何を書きゃいいの?」
「名前、性別、年齢、スリーサイズ、好みのタイプ、見てると思わずドキッとしちゃう八雲紫の仕草」
「名前以外の欄がないから、あんたの顔に書くけどそれでいい?」
「名前と能力を」
言われた通り、霊夢はまず自分の名前を書く。
しかしそこで手が止まり、彼女は尋ねた。
「ねぇ、能力って何を書けばいいのかしら」
「そうね……あなたなら結界を張るとか妖魔を退けるとか、言いようはいくつかあるけれど。
自分にとって、一番自信のある、誇れる事を書けばいいんじゃないかしら。
私にとって、境界を操るというのは唯一無二、誰にも真似の出来ない誇れる能力。だからそう書いた。書かせたんだけどね。
まあこれはあくまでも一例だけど、さっき言った通り。自分にとって”これだ!”と思う特技を書けばいいのよ」
今度は真面目に答えてやる紫。ふんふんと頷き、彼女は筆を走らせた。
「はい、書いたわよ」
「まいどっ!じゃ、引き続き八雲紫のトークショーを……」
「そう言えば、おミカンの皮を潰すと汁が飛ぶのよね。これって目に入ると痛いのよ。あー誰か試させてくれないかしら」
「引き続き午後の優雅なおくつろぎタイムをどうぞ。ていうかまだいくつか回んなきゃだし」
「あらそう?湯呑みもう一個持ってこようかと思ったのに」
嘘ではないらしく、彼女は立ち上がりかけていた身体を再び炬燵へ戻す所であった。
「あなたのそういう所、私は好きよ。じゃ、またね」
「ふ~い」
ひらひらと手を振る霊夢に別れを告げ、紫は再び隙間を利用して神社を去った。
次の目的地、守矢神社の前まで来た所で、ふと気になって紙に目を走らせる。
真新しい、一番下の文字が目に飛び込んできた。
「へぇ……」
紫は少しばかり驚き、しかしどこか感心したような顔で一人頷く。
顔を上げ、彼女は玄関の戸を叩いた。
「へろ~う」
「エコール?」
「いや、せっかくだから赤いものを選ぶのは紅魔館の連中に任せておけばいいと思うの」
・
・
・
・
・
・
・
・
.
.
.
紅美鈴 : 気を使う程度の能力。門も守ります。
チルノ :さいきょうれいきをあやつる
大妖精 : 特にありませんけど大丈夫です。強いて言うなら空間移動でしょうか。
ルーミア : やみをあやつるのかー
霧雨魔理沙 : 魔法!
博麗霊夢 : 空を飛ぶ程度の能力。
良く晴れた冬のある日の事であった。
腋から脇腹までのナイスゾーンを大々的に露出しながらの昼寝から覚めた博麗霊夢は、時計を見て呟いた。寒くないのか。
時刻は既に午後五時。外の景色も夕焼けのオレンジ色を殆ど消し去り、夜の暗さを呈した時間帯。
やれやれ、と伸び一つして、彼女は立ち上がった。
「今日こそは晩ご飯の買出しでも行かなきゃか。たまにはおでんでも作ってみようかしら」
昨日神社に遊びに来たチルノが『今日は大ちゃんがおでん作ってくれるんだよ!』なんて言っていたのを唐突に思い出した。
ご飯を作ってくれる者がいるのは、とても幸せな事だと思う。メシ充融けろ。
いやいや他人の幸せを妬む事などあってはならない。今度、大妖精を呼びつけて何か作ってもらうのが人として正しい行いだ、と霊夢は思い直す。
それもどうなんだ、とツッコミを入れてくれる者は今はいない。霊夢の天下だ。
「おでん、うどん、おどん」
無意味な呟きと共に、彼女は防寒着のコートを羽織る。洋装は巫女っぽい服にはちょっと合わないが、温かさには代えられない。楽こそ正義だ。
どてらで外に出るのはちょっと、という彼女なりのファッションに対するこだわりでもある。
「よし」
財布をしっかりポケットに入れ、霊夢は外へ。頭の中では既に大根に蒟蒻、卵に餅巾着なんかがメリーゴーランド。
ヨダレを垂れる寸前で吸い込み、鳥居の前まで。
「さぁて」
頭の中のメリーゴーランドを閉幕へ追い込み、彼女は空を見た。里までは飛んで行けばあっという間だ。
「さぁて」
ワンスアゲイン。霊夢は軽く背伸び。
「さぁて」
トゥワイスアゲイン。霊夢は軽く跳ねる。
「……さぁて?」
彼女はまたしても同じ言葉を呟き、停止した。
一度目、二度目はOnce、Twiceと特別な言い方があるのに、三度目以降は何故普通なんだろう、などと考えているのではない。
「………」
もっかい背伸び。もいっちょ軽く跳ねる。回ってみる。三回回ってパチュリー・ノーレッジのモノマネをしてみる。
「いーち、にーぃ、さーん……むきゅー。本大好きでむきゅー。本と温かいご飯と納豆があれば、仕事なんていらないでむきゅー」
言い終えたが何も変化は無い。
それから暫く呆然と立ち尽くしていた彼女の背後に影。
「よっ、暗くなるのに外なんか出て何してんだ?寒くないのか」
魔理沙登場である。箒から降り、彼女は霊夢の背中をポンと叩く。
しかし彼女は押し黙ったままで、魔理沙は首を傾げた。
「おん?どうしたんだお前……具合でも悪いのか」
「ねぇ、魔理沙……」
ようやく口を開いたので魔理沙は少し安堵する。
しかし、振り返ってこっちを見てきた霊夢の顔を見た瞬間、別の意味で不安に駆られる事となった。
大胆不敵が服着て歩いていると評判のアイツが、冷雨の中身を震わせる捨て犬のような目をしていたからだ。
うるうると目を潤ませ、縋るような目線。
(なんだよなんだよ、ボーナスでこいつをアリスにでも買ってやれってか?)
どうするマリフル。しかし霊夢はそんな彼女の心境など知る由も無く、ただ一言呟くのみであった。
「……飛び方、分かんなくなっちゃった……」
・
・
・
・
・
「……なるほど。里まで飛んで行こうとしたら、今までどうやって飛んでたか思い出せなくなったと」
「そうなの……忘れるなんて思ってなかったし、いざ忘れちゃうとどうしていいか分かんなくて」
「ねぇ」
「そうか……空を飛ぶなんて、意識してやる事じゃないしな。私達にとっては。いつの間にかできるようになってた。
歩くなんてのは誰かに教わる事じゃない。それと同じか」
「そうですよね。普段当たり前だったことだからこそ、なくしてしまうとその大きさに気付くんですよね」
「お、なかなか名言チックな言い回しだな」
「いえいえ」
「ねぇってば!」
会話を遮ったのは、幼い少女の声だった。
「何よ?」
霊夢がじとっとした目線を向ける。自分の問題に関する会話を遮られたのが不服なのだろう。
すると、遮った張本人――― チルノは少し頬を膨らませて言った。
「霊夢の事情はわかったよ。けど、なんであたいの家に来て、しかもおでん食べながらその話をするの?」
改めて場を見る。テーブルの中央にはおでんの鍋がどかっと居座り、出汁の芳香を撒き散らしている。
中では一晩経って、ますます良い具合に味の染みた数々の具が所狭しと自己主張してまさに楽園。
オデン鍋改めエデン鍋を遠慮無くつつく霊夢と魔理沙、そんな二人を母親のような優しい目線で見守る大妖精。
チルノは大妖精謹製のおでんをいきなりずかずかやって来た二人組に食われたのだから、こちらも不服そうな顔だ。
「別にいいじゃない。許可はもらってるんだし、あんたもさっきいいって言ったじゃない」
「いきなりだったし、なんかその時の霊夢怖かったし!それにここ、あたいの家だもん!」
「だがおでん食う権利は別にある。大ちゃん、ご相伴に預かってもいいよな?」
「もちろんですよ」
「ほらな!あーウマイ……この大根の味わい深さと言ったらたまらんね。だし汁が小宇宙を描いてやがる」
見せ付けるようにもぐもぐ。噛む度に大根の細胞組織一つ一つから旨みたっぷりの出汁が染み出す。
温かな味わいに自然と顔がほころぶ魔理沙。料理を褒められて嬉しくない訳が無く、大妖精は照れて顔を赤らめる。
「んもう!大ちゃん、『優しくするのと甘やかすのはちがう』ってけーね先生も言ってたじゃない!」
「でも、あんまりお腹すいてたみたいだし、それに落ち込んでる霊夢さんを放ってはおけないよ」
「じゃあ魔理沙はでてけー!」
「やだね!卵もらい!」
「あーーっ!!あたいが食べようと思ってたのにぃ!!魔理沙のバカー!おでんバカー!
魔理沙なんかおでんと結婚して『けっこんウサギ』にあっちゃえばいいのよ!」
「それを言うなら結婚サギ……ってチルノちゃん!そんな言葉どこで覚えたの!?」
「ねえ、カラシある?もぐもぐ」
「あ、ありますよ」
箸が火花を散らし、おでんのダシが砲弾のように飛び交う。紛う事無き”戦場”がそこにはあった。
――― 何故二人がチルノ宅でおでんを頂いているのかと言うと、話は一時間ほど前に遡る。
・
・
・
飛べなくなったショックに空腹が重なり、ダブルパンチでノックアウト寸前な霊夢に肩を貸しながら、神社を出た魔理沙はふらふらと歩いていた。
「あーうー……」
「土着神気取りはいいから、しっかりしろって。さっきはもう少し元気だったじゃないか」
「もうらめなのぉ」
「色っぽく言ってもダメだぜ、ったく……事情は後で聞くが、とりあえず普通に立って歩いてくれ」
飛び方を忘れた、という衝撃的な告白をした後、ふらりと霊夢は倒れてしまった。
それを支え起こした魔理沙に対し、彼女はこう呟いたのである。
「……ああ、飛べなくなったせいでご飯への道のりが遥かに険しいものへ……私のおでんが……」
要約すれば、お腹が空いて力が出ない。流石に不憫に感じ、肩を貸してどうにか近場で何か食わせてやろう、と思い立ったのである。
箒の後ろに乗せて飛ぼうかとも思ったが、今の霊夢だとしがみ付けずに落っこちる恐れがあるので徒歩。
神社を出、暫く歩くと湖の傍へ出る。とりあえず、自分の家か紅魔館、或いは騒霊屋敷辺りに運び込もうか、などと考えていた。
しかしその時、空腹状態でより鋭敏になった霊夢の嗅覚センサーが、空気中に分子レベルで存在していた芳香物質を感じ取る。
「……あゝ、遥か遠くでおでんの香りがするわ……私を迎えに来てくれたのね……」
嗅覚は常人クラスの魔理沙にはそれが分からず、霊夢を揺さぶる。
「お、おい!しっかりしろって!幻覚か!?幻聴か!?」
「だいじょぶよまりさぁ、ほら、私をプリンセスとして迎えに来てくれた王子様がいるわ。
白いはんぺんに乗った大根の王子様よ……さあ、私を土鍋へ連れてって……ロールキャベツの馬車に乗って……」
「霊夢、気を確かに持て!!そんな馬車に乗ったら肉汁でビシャビシャになるぞ!!」
じっとりしたシンデレラストーリーの世界へ旅立とうとする霊夢を、必死に現世へと繋ぎ止める魔理沙。
霊夢の脳内では再びおでんが煌びやかに踊り狂う。メリーゴーランドどころかエレクトリカルパレードへと進化していた。
黒耳ネズミと餅巾着がツーステップのタンゴを踊るなどという構図、幻想郷でもそうお目にかかれまい。
だがやがて、霊夢の身体を半ば引きずるようにして湖沿いを進む彼女の鼻も、その芳香をキャッチした。
「……うん?本当におでんの匂いがするな。紅魔館や騒霊屋敷はも少し先だし、この辺りの家ってーと……」
「ああプリンス・大根……ちくわぶのリング、とてもお似合いですわ……」
「お前そんなキャラじゃないだろ!!第一ちくわぶはちくわと違って穴なんか空いてない!」
眼が虚ろになってきた霊夢の覚醒を促しつつ、魔理沙はもう少し歩く。
すると、小さな木造の家が見えてきた。
「ありゃあ……チルノん家か。発生源はどうやらあそこみたいだな」
「なんですって!?」
瞬間、霊夢は跳ね起きた。虚ろだったその眼は今や肉食獣の如き鋭さを宿している。
「あそこには……ODENと言う名のEDENがある……」
「霊夢、お前まだまだ元気じゃ」
「優しい香りがするぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ちょ、待て!」
飛行手段を失ったとて、何一つ不自由しなさそうなレベルの俊足で彼女はチルノ邸に肉薄。
乱暴にドアを叩き、ノブをガチャガチャ回す。しかし鍵が掛かっていて開かず、業を煮やした彼女はドアノブに噛り付く。
「開けてぇぇ!!あげてぇぇぇぇぇっ!!」
「理性が飛びかけてるぞ!人としての尊厳はどうした!」
魔理沙が野獣の如き霊夢を取り押さえている最中、中からは二人分の会話。
「だ、大ちゃん!もしかしたら強盗かも!下がって!」
「で、でも、何か聞き覚えのある声が……」
大妖精がチルノに作ってあげたのだろう、という事をすぐ理解しつつ、このままだと霊夢が二人を襲いかねない。
霊夢の口を塞ぎ、魔理沙は改めてノックしつつ声を掛けた。
「あ~、いきなりスマン。私だ、魔理沙だ。霊夢もいる。ちょっと開けてもらえないか」
「ど、どうする!?二人のフリした強盗だったら……その時は、あたいが大ちゃんを守るからね!」
「それは嬉しいけど、今のは確かに魔理沙さんの声だったよ……」
会話に続いて開錠音。やはり警戒してか、そーっと開かれるドア。
しかし、ドアの向こうにいるのが見慣れた姿だと分かると、あっさりと開け放たれる。
「どうしたんですか?」
「あー、その……霊夢がな」
「優しい香りがする……澄んだダシが続く……人はこの鍋をまるで楽園のようと言ふ……」
当の霊夢はと言うと、ドアが開け放たれた事で一層強く香るおでんの匂いに、何事かブツブツ呟き始めていた。
「れ、霊夢さん?」
「……この通り、EDEN in to the ODEN 状態なんだ。すまないが、何も言わずに何か食わせてやってくれないか?」
若干の怯えを見せた大妖精だが、魔理沙の言葉にチルノを見やる。
「チルノちゃん、食べさせてあげようよ」
「う、うん……でもなんでいきなり」
「霊夢、いいってよ。好きなだけ食え」
「……黄身だけを愛し続けること選んだから……箸がしゃぶり切れて折れる日まで食べ続けたい……」
許可が出た事は分かったのか、ふら~っと家の中へ進入していく霊夢。
「あ、ちょっと!」
何か嫌な予感がし、チルノは呼び止めようとする。
だが時既に遅く、テーブルの方からガフガフという音が鳴り響き始めた。時折『そう!』とか言いながらこっちを振り向きつつ、また食べる。こっちみんな。( ゚д゚ )彡。
「ああぁ……大ちゃんのおでんが……」
「だ、大丈夫だよ。まだ具はたくさんあるから……多分」
「……なんつーか、東洋の神秘だなコリャ」
検閲が入るレベルの食事風景に、呆然と立ち尽くす三人。
その時、ひっきりなしに漂うおでんの香りに、魔理沙の胃袋もとうとう音を上げた。
「……ところで、私も食べていい?」
「えーっ……なくなっちゃうよ」
チルノは少し嫌がる素振りを見せた。魔理沙が、というのでは無く、霊夢の暴食ぶりを見ての懸念だったようだが、
「いいですよ、どうぞこちらに。チルノちゃん、みんなで食べた方がおいしいよ」
「……大ちゃんがそう言うなら」
大妖精の言葉に素直に従い、自らも席に着いた。
そうして、ある程度空腹が満たされて食事ペースが落ち着いた霊夢の口から説明があり、先の状態に至るという訳なのである。
「で、だ。お前は、このままでいいのか?」
「そりゃ、何とかしたいわよ。不便でしょうがないし、今まで出来てたことが出来なくなった、なんてのを黙って放置する訳もいかないし」
「まあ、そうだよな。明日またお前んとこ行くから、一緒に何か解決策を考えよう」
「うん……」
魔理沙は励ますような語調で言ったが、食事をした事で落ち着きを取り戻し、同時に事の重大さを思い出した霊夢の顔は晴れない。
見かねてか、大妖精が手を上げる。
「あ、あの!もしよろしければ、私にもお手伝いさせて下さい!」
「お、いいのか?夕飯ご馳走になった上に、何だか悪いな」
「大ちゃんがやるならあたいも手伝うよ。それに、霊夢が落ち込んでるなんてモヤモヤするし」
「だってよ。ほら霊夢、早くも美少女三人が味方についたんだ、ちょっとは元気出せ!」
バシンと霊夢の背中を叩く。一旦咳き込んでから、彼女は三人の顔をちら、と見て呟いた。
「……ありがと」
・
・
・
・
翌日、博麗神社。
冷たい空気に若干身を震わせつつ、魔理沙は霊夢に招かれるまま室内へ。
既に炬燵が出してあり、さらにチルノと大妖精も入っていた。
「とりあえず、作戦会議ってコトで」
「魔理沙もおミカン食べる?」
「もらうよ」
チルノから受け取った蜜柑の皮を向きつつ、彼女は霊夢に尋ねた。
「じゃあ、本題に入ろう。飛べなくなった原因とかに、何か心当たりはないのか?」
「そうねぇ、飛べなくなったって言うよりは飛び方を忘れたって方が正しいのかしら。
心当たりは……あるには、ある」
意外な言葉が飛び出したので、一同面食らった表情。心当たりがあるのなら、解決策が見つかるのも早いのでは無いだろうか、と考えるのが自然だ。
そこで、今度は大妖精が訊いてみる。
「その、心当たりっていうのはどんなものなんですか?」
すると彼女は少し考え、思い出すような顔をしながら述べていく。
「冬篭りのために、大量の食料を買出しして備蓄しておいたのね。秋が終わった辺りで。
けどさ、目の前に食料があったら、食べたくなるのが人情ってモンじゃない。
ご飯の買出しに行こうと思っても、目の前に食材はいくらでもあるから『これ使っちゃえばいいや、まだ沢山あるし』ってなるわよね?
で、毎日毎日家の食料使って生活してたから、外に出る必要性がゼロになっちゃって。やたら寒いし、外出たくないなーって」
「……オチが読めてきたぞ。お前、どれくらいの間外に出なかったんだ?」
渋い顔つきの魔理沙が尋ねると、霊夢は可愛らしくペロリと舌を出して答えた。
「……二ヶ月くらい、カナ?てへっ」
こつん、と頭を軽く叩くオプションもセット。
「叩くなら私が叩いてやる」
平手で脳天を一発。ぱかん、と実に小気味良い音が鳴り響いた。
「いったぁ……何するのよ!」
「どうりで最近、外でお前を見かけないと思った!いつ行っても家でゴロゴロしてたし、そういうワケだったのか……」
「第一冬ごもりって、そんなクマみたいな……」
流石の大妖精もフォローの言葉が見つからない。
ここで魔理沙が思い出したように手をポンと打つ。
「もしかして、昨日私が行った時に外に出てたのは、食料が尽きたからなのか?」
「まあそんなトコ。あるにはあったんだけどもう少なかったし、おでんが食べたくなって」
「久々に買出しに行こうとしたが、二ヶ月もの間飛ぶ事はおろかろくすっぽ出歩かなかったせいで、飛び方を綺麗さっぱり忘却したと」
「それでいいんじゃないかしら」
「わかった。お前はアホだ」
「誰がアーボよ!」
「毒蛇だなんて言ってねぇ」
やれやれ、と魔理沙は心底呆れた表情だ。
「ねぇ、本当に飛べないのか、ちょっとやってみようよ。もしかしたら、なんかのはずみで飛べるかもしれないしさ」
手を挙げてチルノ。それ名案、とでも言うように彼女をビシッと指差し、霊夢は立ち上がった。
「いい事言うじゃない。それ、やってみましょ」
「これで飛べたら、お前この二人におでんの分なにかご馳走しろよ」
「べ、別にそんな」
どっこいしょ、と立ち上がる魔理沙に続き、妖精二人も立って外へ。
襖を開けると途端に初冬の冷たい風。一同は忘れずにマフラーを着用した。
・
・
・
「うりゃ!そりゃ!浮け!」
ピョン、と霊夢が跳ねる跳ねる。
「……これっぽっちも浮かないな」
「あああ、全然ダメだわ……何がいけないのかしら」
がっくし膝を着いてしまう彼女に、頭を捻ってチルノがアドバイス。
「もっと気合入れてみたら?なんか、身体中に力が入るような掛け声とかさ」
「それじゃ、コホン……へん……しんっ!とうっ!」
手で弧を描くようにポーズを決め、両手を挙げて決死のジャンプ。
着地するも、霊夢の身体には何の変化も無し。高度はさっきと変わらなかった。
「これでワキミコライダーRXとかになったら面白かったんだがな」
「だったら私、相手の養分吸収できそうなバイオの方がいいわ……じゃなくって!
本当に、どうしたら飛べるようになるのかしら……」
「今まで、飛ぶ時に意識してたこととか、感覚とか、思い出せませんか?」
大妖精が尋ねるも、霊夢はゆっくり首を振る。
「歩くのに一々コツなんて意識しないわ。それと同じ。だからこそ、分からなくなると本当にもう」
「羽でも生えてれば別なんだがな。身体一つで飛ぶもんだから、どっかを動かしたりはしないし、私のように道具も使わない。
本人にしか、飛行のメカニズムやコツなんてのは分からないのさ。それを忘れちまったらな……」
大妖精とチルノは魔理沙の解説に頷くも、霊夢の顔はますます焦りの色を濃くしていた。
「飛べない巫女なんてただの可愛い女の子じゃない……」
「……そうだな、私としては一度飛ぶ感覚みたいなのを思い出せればいいんじゃないかと思うんだが」
「わたしもそう思います」
「あたいも」
「よし、決定だ。霊夢、お前を空の上まで運ぶぞ」
「なんで私の発言総スルーなのよ……ってはぁ!?空の上!?」
「おうよ。二人とも手伝え~」
「は~い」
「大丈夫でしょうか……」
霊夢を箒の後ろに乗せ、大妖精とチルノが彼女を両脇で支えつつ、魔理沙は地を蹴って空中へ。
「ちょ、ちょっと!何させる気?」
「とりあえずダイビングだ。大丈夫、ヤバそうだったら私達が助ける」
「あたいに任せなさ~い!」
「ちゃんと支えますから」
そうこうしている内に彼女達は神社上空数十mまで上昇。
「わかったわよ、やってやるわ!この程度の高度、今まで何百回、何千回と通ってきた場所なんだから!」
「その意気その意気……さあ行け!」
「トビマス、トビマス!うりゃああああああ!!」
掛け声は勇ましいが、飛び立つと言うより箒からズルリと横向きに落ちた感じでどうにも格好がつかない。
両手を広げてスカイダイビングのような体制になりつつ、霊夢は念じる。
(浮け、浮け、飛べ……っ?)
しかし目を見開き、眼下に迫り来る地面を捉えた瞬間、頭の中からそのような希望的思考は一切消え失せる。
今の自分は浮けないという事実。つまり、このままでは叩きつけられるだけ。
怖い、めっちゃ怖い。このままでは確実にお陀仏。まだ死にたくない、怖い、怖い、怖い―――
「……無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「無理っぽいな、そろそろ支えるぜ!」
自由落下に合わせるように併走していた魔理沙が彼女の胴部を支え、両サイドから妖精二人もがっちりキャッチ。
神社上空10m程度の辺りでブレーキがかかり、5mに到達する頃には完全に静止していた。
「流石に荒療治だったか」
ゆっくりと霊夢の身体を地面へと下ろす。それから、魔理沙はばつの悪そうな顔をして一言。
霊夢はと言うと、ようやく両足で神社の石畳に下り立ち、ふらふらと二、三歩歩いたかと思うとがっくりと膝を折ってしまった。
「……こわい……むり、落ちちゃう……」
「大丈夫?」
涙を浮かべて荒い息。飛ぶ能力を失った彼女にとって、今の自由落下は完全にトラウマ級。移動能力に関しては一般人同様なのだ。
・
・
・
・
その日は霊夢が戦意喪失してしまった為、飛翔実験は諦めてお茶会に。
翌日、再び一堂に会した四人。まず最初に魔理沙が手を挙げた。
「そーだな……生身でダメなら、テクノロジーの力を借りるって手もあるな」
「テクノロジー、ってことは……」
大妖精の言葉に、魔理沙は頷いた。
「そ。みんな、山に行くぞ」
一路、彼女達は妖怪の山へと向かう。
「おや、お揃いでどうしたんだい」
妖怪の山の麓、川沿いに建てられた工房。オーヴァーザプライスなエンジニア、河城にとりが四人を出迎えた。
その後ろには、たまたま遊びに来ていたらしい厄神、鍵山雛もセットだ。
魔理沙は二人に一通りの事情を説明する。
「……って訳なんだ。なんか前、飛べるっぽいの作ってたよな?あれ、霊夢に貸してやってくれないか」
「飛べるっぽいのって……大雑把だね。色々あるよ?」
「え、例えば?」
色々ある、なんて言葉がすっと出てくる部分に期待したか、霊夢は身を乗り出して尋ねた。
ん~、と少し考えてから、にとりは説明を始める。
「じゃあ……まず取り出したるはこの純ニクロム線100%、バネたっぷりジャンプ台シューズ!」
「ごめん、説明もその靴もいらない」
びょんびょん、という音を聞いただけで霊夢は首を振る。
側面に”ドクター・セントラルパイン”と刻まれたその靴を残念そうにしまい、彼女は次の案を出した。
「飛ぶもの、飛ぶもの……この高圧電流放射バッテリー”電撃ウナギナマズちゃん”はどう?」
「意識だけ飛ばされてもしょうがないんだけど」
「そういや、里に新しい家が建つらしいから手伝ってきたら?」
「とび職は”飛び職”じゃないわよ」
「空気が乾燥してるし、手荒れしてないかい?ハンドクリーム塗ったげる」
「塗布?」
いつしかボキャブラ天国の様相を呈し始める川のほとり。
「わ、二人とも漫才師みたいで面白いよ~」
雛はのん気に笑って二人を褒め称える。
一瞬顔を赤らめ、ぶんぶんと首を振ってから霊夢はにとりに詰め寄った。
「ちょっと、本当に飛べるモノ無いの?
ウサミミが生えるニンジンとか、マントになる羽とか、地蔵にもなれるスーツとか!」
「お前さんはコスプレしに来たのか?まあいいや、じゃあこのジェットエンジン付き帽子はどうかな」
言いながら彼女が取り出したのは、ウィングが付いたやや独特な形状の帽子。
全体的にくすんだ水色のそれは、確かにジェットらしき噴射口もついている。
「ジェットで飛べるの!?それちょうだい!」
「ちょうだいって……でも、ちょっとした体格制限があるんだ。まあ大したことはないよ」
そのような事を言うにとりに、霊夢は尋ねてみた。
「制限って、身長とか?」
「それに近いね。これ、一頭身の人を対象に作ってあるから、お前さんじゃちょっと高すぎるね。
装備できないことはないし、ちゃんと飛べるけど、後頭部のあたりから超高温のジェット噴射が起こるから。
服の背中が焼け焦げて、うなじからお尻あたりまでを丸々露出しながらフライトするコトになるけど……」
それだけの説明をとうとうと述べた上で、グッとにとりはサムズアップ。
「霊夢なら大丈夫だよね!」
「あんたの中の私はどんな剛の者なのよ」
霊夢は地上を歩く人の視点になり、想像する。幻想郷の空を、飛行機雲の軌跡と共に滑空する紅白の巫女。
頭上を通り過ぎた可憐な鶴を追いかけるように目線を向ければ、後ろ半分丸出しの絶景。
波紋の浮かぶ広大な砂丘のような、肌色の芸術。
人々の好奇の目線を一心に浴び、満足げな笑みと共に霊夢は腹の底から声を上げるのだ。
『『空を飛ぶ』、それだけよ……それだけが満足感よ!羞恥心や……見た目など……どうでも良いのだァァァァァァーーッ!!』
あ、ダメだこれ。いくら威風堂々としててもお尻丸出しは乙女として耐えられない。
大事なのは見てくれじゃなく心。でも公衆の面前でまる見えでは中どころか外側も見てもらえない。
私は露出魔じゃない、仮に露出魔だったとしても露出魔と言う名のワキミコだ。出すのは腋だけで事足りている。
「やめとく。他にない?もうちょっと安全でお金もかからなくてメンテ不要で私の身体にも実に馴染む!ってなやつ」
「なるほど、ワガママな紅白饅頭だ……えっと、ちょい待ってね」
『だから誰がまんじゅうよ』と呟きつつも、彼女は工房へ引き返していくにとりを見送る。
一方、雛はチルノ、大妖精とのんびり遊んでいた。平和。ピンフじゃなくてね。
「ほいよ、お待たせ。火は危ないから、水の力さ」
帰って来たにとりが手にしていたのは、透明なタンクに液体を溜め込んだ珍妙な装置。よく見るとノズルのような部分もある。
こちらに刻まれている文字は”大山博士”。
「ポンプ?」
「そそ。普段は普通に水を撒くだけなんだけど……ノズルは付け替えが可能でね。
実は、ロケットタイプのノズルがあるんだ。これを使えば、水の噴射による反作用で空へとどかーん!ってワケさ」
「確かに安全でお金もかからず……それもらった!」
霊夢は気に入ったご様子。そんな彼女の背に、にとりは早速ポンプを取り付けてやる。
デフォルトのノズルを取り外し、別の物に付け替えた。
物々しい雰囲気に、外野で遊んでいた雛と妖精組も寄って来る。
「あ、なんか面白そうなことやってるよ」
「ホントだ~。これなに?掃除機?」
「あの機械はしゃべらないんですか?」
「お前ら、ここへ来た目的忘れてるだろ」
「私は最初からいたよ?」
「そういう問題じゃないっての」
首を傾ける雛にため息の魔理沙。そんな彼女達を尻目に、霊夢は準備完了。
「よしオッケー!さあそのハンドルを動かしまくってチャージだ!」
「どりゃあああ!」
がしゃがしゃ、と駆動音。シェイクするように手元のハンドルを動かしてエアーを圧縮する。
十分溜まった所で、にとりは一同に離れるよう命じた。
「離れて、そろそろ飛ぶよ!」
「これでいいわね……グッバイ大地!カモン大空!」
空を抱き締めるように両手を広げ、悦に入る霊夢。次の瞬間、ノズルから圧縮された大量の水流が噴出した。
立ち上る巨大な水柱。そして―――
「へぐっ!!?」
ぼごぉん!と凄まじい音がしたかと思えば、遥か大空へ舞い上がっていた筈の霊夢の身体はまだそこに。
否、上昇どころか瞬時に地面へと半身が埋め込まれるという珍事。高度的にはマイナス。
数秒後には、呆然と見守っていた一同の頭上から降り注ぐ大量の水。ざばー。
「きゃー!」
「ちょ、冷たぁっ?!」
「やー!」
それはまさに局地的集中豪雨。ほんの一、二秒なのでさしたる被害は無かったが、この一帯だけがまるで雨上がり。
「げほ、げほっ……ちょっと、全然飛ばないどころか埋まってるじゃないの!店長を呼びなさい!」
「悪質なクレーマーごっこはいいから。それよりごめん、ノズルを上下逆にしちゃったみたい」
上方向への反作用で逆に叩きつけられた霊夢の身体は見事に胸の辺りまで地面にすっぽり。その光景は妙にシュールだ。
しゃがみ込み、魔理沙は霊夢の頭をなでなで。チルノも興味津々な様子。
「おー。これが噂に聞く、モナー穴ならぬ霊夢穴か。なんかお話でもするか?」
「ねーねー、穴がご飯ってホント?」
「なでるなー!あと勝手にヒトを仙人みたいにすんなー!早く抜いてよ!」
身体と一緒に埋まってまともに動かない腕をバタつかせ、頬を膨らませる霊夢。不憫に、或いは責任を感じてか、にとりは頷いた。
「はいはい。えーと、魔理沙が孫娘で……じゃあ私がおじいさんやるから雛はおばあさんやって。
チルノに大ちゃん、犬と猫どっちがいい?」
「あたい犬!でもネズミがいないよ?」
「誰が大きなカブよ!!」
「霊夢さん、掛け声は『うんとこしょ、どっこいしょ』でいいですか?」
「『ラッセーラー、ラッセーラー!』に一票だな。なんか気合入りそうだし」
「だからカブ扱いするなって言ってるでしょ!!ついでにねぶた祭りを開催しない!!」
饅頭に続き、旬の野菜扱いの紅白。何だかんだでその場に居た全員で引っ張り上げ、無事救助。
「はー、やっと抜けた……」
「正月太りのせいだろうな。二ヶ月も自堕落な生活してりゃそうなる」
「自重で地面が抜けるワケないでしょーが!まったく……それより、ちょっと」
「うい?」
魔理沙に言葉を返してから、彼女はにとりの肩をつついた。
「思ったんだけどさ、仮にあのロケット噴射で空へ飛び上がったとしても……その後、高さを保持する術がないじゃない。
つまり、高く飛びあがるだけ飛び上がって、後はまっ逆さまってコト?」
「そうなるねぇ」
「なんでンなモン勧めるのよ!?何十メートル飛ぶんだか知らないけど、死んじゃうじゃない!」
にとりの肩をがくがく揺さぶる霊夢に彼女と、それに続いて魔理沙も安心させるように言った。
「大丈夫だよ。高く飛びあがった場合でも、お尻から落下すれば無傷で済むっていう文献があるから」
「なんじゃそりゃ!?」
「お尻から落下した際の力で、25mプール並みの大きさのバスタブだって叩き落とせるくらいのパワーが生まれるんだと。
良かったな霊夢、飛べなくなった代わりに新たな特技習得じゃないか!」
「いらんわー!!」
博麗霊夢:尻でバスタブを叩き落す程度の能力。こんなんが主人公になるSTGはまさに前代未聞。
いっそ弾幕では無く尻相撲で戦えばきっと常勝無敗、コンティニュー知らずの快適ヒロインライフ。
だけど、それってもうSTGじゃない。
「あーもう、他にないの?一大事なのよぅ」
じれったそうにばたばたと手足を動かし、霊夢は急かす。発明品もアイディアも気に入ってもらえず、にとりは考え込んでしまう。
すると、ここまで子供組と遊んでいるばかりだった雛が手を挙げた。
「ね、ね。それじゃあさ、私のアイディアも聞いてもらえるかな」
「なんかいいのあるの?厄漬けで気分だけフライハイなんてのはごめんだからね」
「厄はヤクじゃないんだけどなぁ……っと。んとね、回転に伴う浮力で浮くっていうのはどう?」
「ああ、そういやあんたいつも回ってるわね」
ポン、と手を打つ。初めて会った時も、雛はくるくると回っていた。
「霊夢の服もなんかヒラヒラしてるしさ、不可能じゃないと思うんだけど……どうかな」
「そうね、他にいい方法も浮かばないし……やってみる。でもどうやって?
リボンから厄の竜巻を放出して空中に私の身体を固定し、スピンでぶち抜くなんて言わないわよね」
「できないよ、そんなの……これこれ」
生憎、雛はヨーヨーもツインランサーもロックファイターも装備していない。
霊夢が頷いたのを見て、雛がポケットからずる~りと取り出したのは長いリボン。彼女が身につけているものと同じデザインだ。
「ちょっと失礼……細くてうらやましいなぁ」
「そ、そうかしら」
「二ヶ月だらけてたクセにな」
彼女は霊夢の腰から腹の辺りに、そのリボンをぐるぐると巻いていく。
霊夢は照れつつも、横合いから挟まれた魔理沙の言葉はスルー。
リボンを巻き終え、雛は彼女の背中を叩いた。
「準備完了!いい?」
「いいわよ、くるくるしておしまいなさい!」
「よっしゃー!」
合図と共に、雛は思いっきりリボンを引っ張った。
巻かれたリボンが解けていくのと同時に、霊夢の身体もくるくると回転。
「あ~れ~」
「ぬははは、よいではないかよいではないか~!」
「ああ、いけません厄神様……困ってしまいますわぁ」
「そんなことを言わず、ほれほれ~」
「きゃ~」
川のほとりで”よいではないかごっこ”に興じる神様と巫女。
「すげー楽しそうだな……」
「雛が悪代官って似合わないねぇ」
「大ちゃん、あたいもあれやりたい!」
「だ、ダメだよチルノちゃん!あれは大人になってからじゃないと……」
見守る人間とそれ以外。さらさらと川のせせらぎ。
平和且つ異常な光景も、全て解けたリボンと共に終焉を告げた。
「う~ん、ちょっと楽しかったけど浮かなかったね……」
雛はどこか申し訳無さそうだが、霊夢は首を振ると、ドンと胸を叩く。
「なぁに、アイディアは良かったと思うわよ。楽しかったし。ただ、ちょっと馬力が足りないわね」
「え、それって」
「そう、次はもっと強力に引っ張ってちょうだい!超高速スピンで遥か天空までぶっ飛ぶのよ!」
彼女の要求で、雛は再びリボンをぐるぐると巻き始める。
先よりもややきつめに巻き終えたが、彼女はどこか心配そうな面持ちだ。
「本当にいいの?」
「今更怖いものなんてないわ。これで飛べるようになったら、あんたを神社に祀ってあげる」
一神社の巫女にあるまじき発言である。先代以前の者達も草葉の陰でむせび泣いているだろう。
「そ、それじゃ……いくよ!」
「いつでも!」
霊夢の返事に合わせ、雛は自らも回転しながらリボンを思いっきり引っ張った。
リボンが片方からもう片方へ巻き取られていく様は、ビデオテープを思わせる。
「よいではないかぁぁぁぁぁ」
「あぁぁぁぁれぇぇぇぇ」
妙なエコーのかかる互いのテンプレ発言。それを見つめる魔理沙とにとりの目線は先よりも訝しげだ。
一方、先を上回る高速回転にチルノはますます目を輝かせている。子供は回るモノが好き。独楽竜巻回転寿司ゲッター2超級覇王電影弾etc。
「もっと回しなさぁぁぁい!」
「りょ、了解ぃぃぃ!」
雛のスピン速度がさらに上昇。一回目より遥かに短い時間でリボンは完全に巻き取られた。
リボンが無くなった後も、霊夢の身体は独楽のように高速回転を続けている。地面に軌跡を残しながら少しずつ横へと移動していく彼女の立ち位置。
「とべぇぇぇぇ、いまこそあいきゃんふらぁぁぁぁい!」
酔っ払ったような声を発しつつ段々右へ、右へとズレていく霊夢。掘られていく地面。
しかし―――
「あっ、危ない!」
唐突に雛が叫んだ。霊夢の身体が向かう先に、何があるのか。それに気付いたからだ。
彼女の発言でその場にいた全員もそれに気付き、一斉に彼女を止めにかかる。
「霊夢、止ま……」
魔理沙の発言は、二秒遅かった。いや、発言が間に合っていてもスピンは急に止まれない。
「おろ?」
がつん、という足元への衝撃。どこぞの剣豪のような呟きと共に、霊夢の身体はいきなり空中に投げ出された。
足元の小さな岩に躓いた彼女は、往年のフィギュアスケート選手も真っ青なレベルのフォームで空中をくるくると回転。
そのまま地上一メートル程度の高さでほんの少し滞空してから―――
「きゃあああああ!?」
どぼーん。巻き起こる水飛沫、立ち上る水柱。
足元が疎かになっていた霊夢は見事にウォーターハザード。だから5番アイアンはやめとけって言ったのに。
「こんな時期に泳ぐと風邪引くよ~?」
「バカなコト言ってないで引き上げるんだよ!!」
「”I can fly!!”は川へ落ちるフラグだって知らなかったのか……」
チルノの発言を訂正しつつ、川へ飛び込もうとするにとり。魔理沙は隣でそんな独り言。
しかし、川が浅い事も幸いして霊夢はすぐ、自力で這い上がってきた。
「霊夢、大丈夫!?」
髪の先、顎、指先、スカートの裾など、あらゆる部分から水を滴らせる霊夢は、彼女らの心配そうな声にも応えず。
暫し俯いたままだったが、不意にぶるぶると肩を震わせ始めた。
「寒いのかい?とりあえずウチに……」
にとりが言いかけたが、その続きは飲み込まれてしまった。
「――― もういいっ!!」
肩を震わせていた霊夢が、急に地団太を踏みながら叫んだからである。
そのままの勢いで、彼女は誰にとも無くまくし立てる。
「なんで私ばっかりこんな目に遭うのよ!?飛べなくなるわ、落っこちるわ、地面に埋まるわ、川に落ちるわ!!
落ちてばっかりじゃ、これから迎える受験シーズンにも縁起が悪いったらありゃしないわ!!」
「受験って、何の」
「もういい!もういいもん!!飛べなくたって人は生きていけるもん!!
私には立派な足があるんだから!!飛んでばっかのやつなんかUFOと間違われてMRIとかいう変な研究クラブに捕まっちゃえばいいのよ!!」
「それは磁気共鳴画像装置……」
「みんなバカーーーーーッ!!」
喉が枯れるくらいに霊夢は叫びをぶつけ、不意に走り出した。
「霊夢さん!」
大妖精の言葉にも振り返らず、霊夢は泣きながら全力疾走。
走って、走って、走って、先のポンプ実験で濡れた岩場で足を滑らせ、再び川へ転落し、どんぶらこと流されていった。
雛がすぐに追いかけようとしたが、魔理沙がそれを制する。
「やめとけ。しばらくはそっとしておいた方がいい。
見た感じではボケたりおちゃらけたりであんま深刻じゃなさそうでも、心の中じゃ本気で落ち込んでるんだ。
あんまり飛べるようになる兆しが見えないんで、とうとうプッツン来ちまったんだろうな」
「……私のせいかな」
「それは違う。ともかく、二、三日したら私は様子を見に行ってみる。お前らはどうする?」
彼女の言葉に、一同は頷いた。
「そうするよ。ここまで手伝ったんだ、私も行かなきゃ」
「あたいもそうするよ。何か考えてくる」
「わたしは……明日には、ちょっと様子を見てきます。なんだか心配で」
「私も……」
魔理沙はそれぞれの言葉に頷き返し、そのまま流れ解散。
当事者がいなくなった川のほとりは、何とも重々しい空気に包まれていた。
・
・
・
・
それから三日後、魔理沙はにとりと共に博麗神社を訪れた。
この三日間できちんと、霊夢の為になるような作戦も練ってきた。
一刻も早く、彼女の力になってやりたい。その一心を秘め、縁側から上がり込む。
見ると、靴が三足。どうやら、他の三人は既にいるようだ。
「お邪魔するぜ」
早速霊夢を探そうとした二人。しかしその時、彼女達の耳がどこからか声が聞こえてくるのをキャッチ。
「……霊夢さぁん、出てきて下さいよぉ……」
「うるさいわねぇ、もっとおミカン持ってきなさぁい!」
弱々しい声と、対照的な強く、そしてどこか投げやりな声での会話。
「魔理沙、今の……」
「霊夢と……大ちゃんか」
声のした方向へ向かうべく、魔理沙は障子を開ける。
数枚の障子を経て、霊夢がいつもいる炬燵のある部屋へ。案の定、全員がそこにいた。
いるにはいる、のだが―――
「……なんだこれ」
二人は同時に呟いた。ハッピーアイスクリーム。
だがまあ、そう呟きたくなるもの無理は無い。
和室の中央に置かれた炬燵。その片側の布団を捲くり上げ、大妖精がミカンを転がし入れる。
すると、それからものの数秒で反対側の布団が内側から捲くり上がって、ミカンの皮がぽーんと飛び出すのだ。
うず高く積まれた皮の山。雛がそれを片付け、ゴミ箱へ。
時折、『次!』という声がするので、そうすると大妖精が再びミカンをコロコロ。反対側から皮がぽーん。以下繰り返し。
まるで工場のラインのような、完成された工程がそこにはあった。
「何やってんだ?」
「あっ、魔理沙!霊夢がね、全然出てきてくれないの」
魔理沙の言葉に答えたのはチルノ。彼女の話によれば、今朝来た時からずっとこの状態らしい。
「やっぱり私の責任が大きいと思って、一昨日の午前中にはここに来たんだけど。
ずっと炬燵で丸まってる霊夢の世話をしてる内に、二日も経っちゃった。来た日の夜からは大ちゃんも手伝ってくれてね」
「で、昨日の夜からずっと、おミカンしか食べてないんです。霊夢さん……」
雛はしょぼくれた表情でそう言い、大妖精も口を動かしながらミカンを転がす手も休めない。
再び皮が飛び出してきた炬燵を見て、どうやら業を煮やしたらしい魔理沙は箒を投げ出し、炬燵に近付く。
「だー!こんのダラけ巫女めが!いつまでも拗ねてねぇで起きろ!!」
まくし立てながら、魔理沙は炬燵布団をむんずと掴んで捲り上げる。
その時、驚愕の事実が明らかとなるのであった。
「うわっ!霊夢、なんでお前素っ裸なんだよ!?」
炬燵の中の霊夢は、一糸纏わぬ生まれたままの姿。ボロは着てても心は主人公。ボロすら着てないけど。
「……お風呂入って、そのまま炬燵に入ったから……だって寒いんだもん」
言い訳がましい霊夢の呟き。魔理沙はそのまま炬燵に手を突っ込み、彼女を引きずり出そうと試みる。
「そんなサービスシーン誰も望んでないっての!おら、さっさと出ろ!!」
「きゃー!!魔理沙サンドウェッジー!!」
「誰がゴルフグラブだ!!」
「魔理沙さんのえっち、って言いたかったのでは?」
「ああ、なるほ……ってンなことはどーでもよくてだな!出ろっての!!」
「いやー!寒いー!!死んじゃうー!!」
再び霊夢を引きずり出そうとする魔理沙だが、三日間篭っていただけあって霊夢もそう簡単に出てこない。
まるでしつこいバンカーに引っかかったゴルフボールのようで、いかに魔理沙が優秀なサンドウェッジでも発掘作業は困難を極める。
その時、立ち上がって何やら箪笥を漁っていた雛が炬燵に近付き、腰を下ろす。
「霊夢、服持って来たから。これに着替えて、ね?」
言いながら彼女は、炬燵の中に霊夢の服一式をそっと差し入れてやる。
入れてから数秒、中からは衣擦れの音が。
「やれやれ」
魔理沙はほっと一息。それから数分もすると、炬燵からいつもの紅白がのそのそと這い出してきた。
「霊夢、良かったよ」
「霊夢さん!」
「お、おミカン食べ飽きただけなんだからね。勘違いしないでよね!」
喜びの表情で迎える一同に、顔を赤らめつつそう返す霊夢。すると、魔理沙が彼女の肩を叩く。
「テンプレ的ツンデレはいいから。それより、お前がいない間に作戦を考えてきた」
「作戦?なんの?」
「決まってるだろ、飛べるようになる方法だ」
彼女の言葉に、霊夢の瞳が揺れる。
「なんか、あるの?」
「ああ。一番原始的というか、基本に立ち返った方法だけどな」
外に行くぞ、と呟き、魔理沙は部屋を出ていく。
残された一同も、一拍間を置いてから彼女の背中を追った。
・
・
・
・
外へ出た一同。気付けばもう夕方、空も微かにオレンジ色。鳥居の前で、魔理沙は霊夢を向いた。
「さてと。霊夢、私が前に言った事、覚えてるか?」
「えっとぉ……霊夢の穴?」
「違う、もっと前。つか”の”を挟まないでくれ」
「ワキミコライダーアマゾン?」
「今度は行き過ぎだ。つかお前を野生児にした覚えもないんだが」
「腋の一号、痴態の二号……」
「言ってもいない。お前大丈夫か?糖分の取りすぎで頭が……」
脳漿がミカンの汁になってしまったのか、ボケた返答しかしない霊夢。
代わりにと、大妖精が口を挟んだ。
「飛ぶ感覚を思い出す……ですか?」
「そう、それ。一番基本的というか、特別な方法を用いない……お前自身の能力に依存した方法だ。
私が思うに、最初にやった自由落下実験……あれじゃ不足なんだ。だって、お前はいつも落ちてるんじゃない。飛んでるんだからな。
だから……」
「だから?」
一度言葉を切った魔理沙に彼女が尋ね返すと、魔理沙はおもむろに箒に跨り、親指で背の方を指した。
「……乗りな」
「え、それって」
「一緒に飛ぶんだ。これなら怖くないだろ?」
ニヤリと自信ありげに笑う魔理沙の顔を見て、霊夢も頷いた。
「わかった……じゃ、失礼して……よっと!」
「わぎゃッ!?」
だが彼女が次の瞬間にとった行動は、魔理沙の肩に手を乗せ、ぴょんと跳ねつつ全体重をかけるというものであった。
両手を箒に添えていた為バランスのあまりよろしくなかった魔理沙は、そのまま霊夢もろともすってんころりん。
背中を強か打ちつけ、霊夢は唇を尖らせる。
「いたたた……魔理沙ぁ、ちゃんと支えてよぅ」
「ふつー箒に乗るって分かるだろ!?頭脳がマヌケか!?」
「誰が呪いのデーボよ!それに”マヌケ”じゃなくて”まぬけ”!!」
「なんでそれは分かるんだよ!」
脳漿がミカン果汁なら海馬は”ガ○ンとみかん”か。
ようやく霊夢も箒の後ろに跨り、準備完了。
「それじゃ、飛ぶぞ!しっかり掴まってろよ!」
「う、うん!」
少しばかり緊張した様子で頷く彼女を見て、魔理沙は何となく微笑ましい気持ちになる。
そのまま地面を蹴ると、二人の身体はふわりと舞い上がり、あっという間に神社の上空十数メートル。
「あたいたちも行くよ!」
チルノの声に下を見やれば、残りの全員も一斉に飛び上がって二人の横へ。
霊夢は下を覗き込むのが少し怖かったようだが、魔理沙はそんな彼女を笑い飛ばす。
「ははは、このくらいの高度ならいつも飛んでるんじゃなかったのか?大丈夫だ心配すんな!」
その言葉に、霊夢は魔理沙の腰に回した腕の力を少しだけ強くする。
ぎゅっ、としがみ付く事で、背中に彼女の体温がはっきりと伝わってくる。
「それなら落ちないな……よし、行くぜ!」
「おー!」
魔理沙の号令にチルノが応え、五人は一斉に風を切って加速、前方へと飛び出していった。
「!!」
むき出しの足に吹き付けてくる、強く、冷たい風。その感触に、思わず霊夢は息を呑む。
寒いのでは無く、怖い。思わず縮こまってしまう。
額を押し当てた、自分と変わらない筈の魔理沙の背中がとても大きく思えた。
耳にも強風がぶつかってきて、頭の中にまでノイズを響かせてくる。
「おいおい、まだまだスピードは上がるぞ?そのリアクションは早いんじゃないか」
魔理沙は茶化すように言ったが、霊夢の怯えぶりが予想以上だったのでスピードを落とす。
かなりの安全運転、歩行速度とさして変わらないレベルまで落とした所で再び声を掛けた。
「ほら、遅くしたぞ。これなら怖くない。ゆっくり、顔を上げてみな」
「……うん」
背中に顔をつけたまま喋るので、くすぐったい。ゆっくりと霊夢の顔が背中から離れるのが分かった。
「じゃ、少しずつ速くする。慣れるのが大事だからな」
「ん……」
小さく頷くのを見て、魔理沙は段々速度を戻していった。
顔を上げた事で、鋭い冷たさの逆風が顔に直接ぶつかってくる。だが、顔を下げようとはしなかった。
今はまだゆっくりで、段々速くされても慣れのせいかあまり怖くない。
周りを見渡す余裕も出来た。右を見ればチルノと大妖精が、左にはにとりと雛が。マラソンで併走するかように、飛んでくれている。
そして、魔理沙の肩越しに前方を見やる。そこには、久しく忘れていた空からの景色が広がっていた。
眼下に広がる草原。風になびく草花、ざわめく木々。陽光を反射し、キラキラと輝く湖。その水面は、まるで宝石箱を覗き込んでいるかのよう。
視野を広く持っている為か、眼下の景色も怖くなかった。気付けばスピードは結構上昇していたが、平気。
(あれ……?)
霊夢は気付いていた。
ぶつかる風。耳を塞ぐノイズ。増える瞬き。服の隙間から進入し、肌を刺す冷たさ。地上より、ずっと広い景色。
――― 何もかも、覚えがあった。
最初は恐怖の対象でしかなかった、その小さな身をますます縮こまらせた逆風。
しかし今や、霊夢は胸を張るようにしてその風を自ら一身に受け止めていた。とは言っても、魔理沙の身体が大半を防いでくれてはいたのだが。
「慣れた?」
雛が近寄ってきて尋ねる。霊夢は、空へと上がってから初めての笑顔で、それに頷いて応えた。
いつしか湖は真下に来ており、足の下に薄く広がる霧に、夕陽が作り出した自分達の影が映る。
段々と、山の向こうへ姿を隠しつつある太陽。それを見つける彼女の眼から、先程までの怯えは消えていた。
代わりに、じわじわと胸中に広がりつつあったその”想い”を、思わず彼女は口にする。
「……飛んで、みようかな」
「お?」
魔理沙は、まるで待ってましたと言わんばかりに振り向く。
「やっとその気になったか。つっても湖の上じゃちとアレだな……みんな、動くぞ!」
彼女が箒の先を180°旋回させたのを見て、残りの一同もその場でUターン。何があったのかなんて、すぐに分かった。
先程通過したばかりの草原を真下に、にとりが霊夢の肩を叩く。
「やるんだね。頑張って、霊夢ならきっとできるよ。けど……万が一ってコトも考えなきゃね。
魔理沙、私と雛は下の方で待機してるよ。保険はかけなきゃね」
「頼む」
「あたいと大ちゃんは、こないだとおんなじでいいね」
「ああ。ま、出番が無いのが一番だけどな……」
そう呟き、魔理沙は霊夢を見やる。その顔は、どうしても微かな不安を拭い切れてはいない。
もし、ここで失敗したら霊夢は二度と立ち直れないんじゃないだろうか―――そう思っているのがありありと見えたので、霊夢は彼女の頬をちょん、とつつく。
「なーに怖がってるのよ、当事者がやるって言ってんだから、信用しなさい」
「……そうだな」
彼女は頷き、少し帽子を深く被り直した。
ここで、霊夢はふと思いついた事を口にする。
「あ、そうだ。飛ぶ時なんだけど、前に向かって動きながら飛び出したいの。いい?」
「いいよ、慣性の法則とかいうヤツだな。感覚的にはそっちの方が近くなるだろうし」
もう一度頷いた魔理沙は、地上2,3メートルで低空飛行しつつ待っている二人に合図を送る。
それから、左右で待機している妖精二人にも。
「……心の準備はいいか?」
「いつだって私はスクランブルよ」
「よく言うぜ……じゃ、行って来い!」
あくまで強気の霊夢にニヤリと笑みを返し、魔理沙は前方へと箒を発進させた。
すぐに普段の飛行スピードへと達し、霊夢の耳にはあの風がぶつかるノイズサウンドが鳴り響く。
それすらも、彼女の勇気を称えるファンファーレのように思える。それくらい、今の彼女には自信があった。
今度こそ、飛べると。
「霊夢、ファイト!」
「頑張って下さいね!」
左右から応援が飛んでくる。右手を挙げてそれに応え、ぐっと足を持ち上げて箒に乗せると、彼女は魔理沙の肩に両手を置いた。
そして体重をかけ、そっと箒の上で立ち上がる。強い風にバランスを崩しかけ、足の裏に力を込めてそれを凌いだ。
上半身だけを前方に向け、下半身を90°捻った状態。魔理沙の肩を掴む手に力を込め、足をそっと前へ向ける。綱渡りのようだ。
その状態で深呼吸。肺の奥底まで冷たい空気を取り込み、代わりにぐつぐつ煮えたぎったかのような熱い息を吐き出す。
微かに手を浮かせ、今まさに支えてくれている魔理沙の肩を、ポンと叩いた。
「……飛べッ!」
その言葉が合図だった。次の瞬間、霊夢の身体を支える物はもう何も無い。
100%、遮る物の無い逆風が吹き付ける。まだ遠い眼下には、風になびく草原と輝く湖。
先日とは違い、彼女は自然な姿勢をとっていた。足を伸ばし、両手も下ろす。
落下に合わせて真下からぶつかってくる冷たい風は、まるで自分を支えようとして、叶わず手放してしまっているかのよう。
直前まで前に向かって飛んでいたお陰で、逆風は前からも押し寄せる。
今、まさに彼女は落ちると同時に、前へ、前へと向かっていた。
まだ、浮かない。
(大丈夫……この風。目の乾き。遠い地面……みんな、みんな知ってる)
確実に自分は、空を飛んだ事があるのだ。頭では分かっていたけれど、霊夢は今それを身体でもって確信した。
なら後は、それをもう一度やるだけ。何も難しくなんて無い。
ぶつかってくる逆風にも慣れた頃、新たな感触。それは、自分自身が風になったかのような錯覚。
流れる風と一つになり、前へ。空を飛ぶとはそういう事。自分が当たり前にしてきた事。
(そうだ、私は飛ぶんだ。私は風だ……)
買い物に行く時。ちょっとした空中散歩の時。弾幕ごっこの時。異変解決の時。いつだって、自分は空を飛んでいた。
いつも、そんな事を考えていた訳じゃない。けれど、無意識の下には必ず意識がある。
知らない間にやっていた事。考えていた事。それを今、改めてもう一度やる。ただ、それだけでいい。
――― 風が、止んだ。
(……私は自由だ!!)
理屈なんて、分からない。だが、感覚で分かる。
己の身体が、風を蹴るようにして舞い上がる、その瞬間を。
自由落下するばかりじゃない、慣性にも頼らない、自分自身の意思で前へ進む。風を切る。空を翔る。
今の今まで、忘れていた感触。何もかも思い出した。
求めていたのは――― これだったんだ。
「……飛べ、た……?」
最初に出てきたのは、そんな呟きだった。
本当は今も落下を続けているんじゃないか。そう思って高度を上げる。地面が遠くなった。
速度を上げる。湖がすぐ傍まで近付いてきた。
(本当に、私は……)
「おいこら、どこまで行く気だよ!」
「ひゃい!?」
不意にがしっと肩を掴まれ、心底驚いた霊夢は空中で静止し、振り返る。無意識に出来るようになっていた。
箒に乗った魔理沙が、長い付き合いの中でも一番と言えるくらいの笑顔を向けてくれていた。
「お前、このままほっといたらどこまで行くつもりだったんだ?」
「だってぇ……本当に飛べるようになったのか、確かめたくなって」
「今浮いてるだろ。箒に乗って飛んでる私と目線を合わせて会話してるだろ。それで十分だ。
ま、何にせよ……よくやったよ。霊夢」
「おーい!」
ふっ、と笑って肩を竦める魔理沙。続いて、遠くから呼び声。
「おめでとう、信じてたよ!」
「おめでとうございます!」
「それでこそ霊夢だ!」
併走、そして下で待っていた皆から一斉に賞賛の言葉を浴びせかけられ、瞬時に染まる霊夢の頬。
飛ぶなんてここに集まった連中からすれば当たり前の事なのに、これほどまで喜んでくれている。
それこそ、自分の事のように。
「べ、別に元通りになっただけじゃない、大げさな……でも、ありがと」
だから彼女は、紅潮した顔のまま敢えてぶっきらぼうに答えた。だがお礼は忘れない。
「ね、ね。久々に飛んでみて、どうだった?」
チルノが尋ねてくるので、霊夢は興奮冷めやらぬまま、少し考えてから答える。
「……草原を渡る風は、自分がどこで生まれたのかは知らぬ。
だが風は、誰にも束縛されず、支配されない……人、それを『自由』と言う!」
凛、という漢字がぴったり似合う声色で、いきなりそう言い放った霊夢。静まり返る場。
数秒の間を置いて、霊夢はふにゃっと笑顔に戻った。
「……って感じかしら。どっかで見た台詞の受け売りだけどさ」
どっ、と笑いが巻き起こった。
「あっはっはっは、やっぱ霊夢は霊夢だ!良かったよ、本当に」
「なんかすごいカッコよかった気がする……霊夢なのに」
「最後のそれ、余計じゃない?」
にとりは特に、そんな彼女を見て安堵したようだ。
一方、チルノの呟きにずいっと詰め寄る霊夢。そんな二人に、魔理沙が割って入った。
「はいはい、そこまでだ。飛べるようになったと思ったらこれだ……何だか、本気でお前の事を考えてた昨日までがバカバカしくなるぜ」
「そうなの?」
すると霊夢は彼女に向き直る。
「……ありがと、魔理沙」
かと思えばいきなり目を見つめて霊夢がそう言うので、魔理沙は顔を赤くする。
「なっ……な、なんだよいきなり。べ、別にそんな……」
しどろもどろな魔理沙を見て、霊夢はくすりと笑み。
「ほら、ちゃんと言ったら言ったでこうなるじゃない」
「ま、いつも通りが一番ってことで……ね!」
二人の肩に手を置き、雛がそう言って締め括った。
気付けば、太陽は殆ど山の向こうへ姿を隠し、辺りは薄暗い。
「はぁ、ほっとしたら何だかお腹空いちゃった。あんたらみんな暇よね?
里においしいおでん屋さんがあるんだけどさ、みんなで行かない?お夕飯ってことで」
「お、いいね!付き合わせてもらおっかな」
「行く行く!けど、今度はあたいの分とらないでよね」
「勿論、霊夢がおごってくれるんだよな?」
彼女の言葉に、しゃっきり背筋を伸ばす一同。外で動き回った分、腹の虫も敏感だ。
しかし魔理沙のそんな言葉に、霊夢はさも当然との如く言い切った。
「ワリカンに決まってるじゃない」
「だと思った。じゃ、私が代わりに出そう。霊夢の分以外」
「何でよ!?私、今日一番頑張ったじゃない!」
「だったらこの二人に先日のおでんの分何かおごってやれ」
「い、いいんですよもう……」
二人の漫才に、大妖精が割って入る。
「私がいても大丈夫かな……」
厄神という立場上、一般の人間を怯えさせはしないかと少しばかり心配そうな雛。しかし、
「もっとおっかない連中が連日酒飲みに来てるから心配ないわよ」
という霊夢の言葉に、苦笑しつつも安堵したようだ。
「じゃ、しゅっぱ……」
「ちょぉっと待った!せっかく飛べるようになったんだから私が言うの!」
「えー」
チルノの号令を無理矢理遮る霊夢。『子供かお前は……ああ、子供か』と呟く魔理沙に、唇を尖らせるチルノ。
そんな彼女をまあまあ、と宥める大妖精に、肩を竦めるにとり、苦笑いの絶えない雛。
いつも通りの光景が、そこにはあった。
「よし、それじゃ……目標・里のおでん屋さん!作戦開始!捕虜はいらんぞ同志!」
霊夢のよく分からない号令と共に、一斉に中空へ舞い上がる一同。
先程まで五人で飛んでいた空を、今度は六人で滑空する。
当たり前の事が、当たり前に出来る。空を走る霊夢は、心の底から楽しそうな顔をしていたそうな。
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あれから、暫く経って。
「へろーう」
「ヘイロー?」
「いや、バカでかいわっかならあの土着神に任せておけばいいと思うの」
どこからともない気の抜けた挨拶に気の抜けた返事、気の抜けたツッコミ。
気だるい空気の漂う博麗神社の炬燵部屋に、八雲紫が突如として現れたのはその日の昼下がりだった。
「何の用よ、いきなり。乙女の気だるい午後のくつろぎタイムを割くだけの理由なんでしょうね」
炬燵から顔だけを出したまま言う霊夢。そんな彼女の顔に、紫はぺたりと一枚の紙をくっつける。
「これ書いて欲しいの」
「なんじゃこりゃ」
ふぅー、と息で紙をめくり、手にとって眺める。
「幻想郷における、特殊能力者名簿。ほら、私って一応管理者みたいな役割もあるじゃない。
だから、異変があってもすぐ原因と絞れるようにと、なんか特異な能力もってる輩をまとめようと思って」
「っへぇー……あんたも割と考えて行動してんのね」
「ま、たまにはね。私の欄はめんどくさいから藍に書かせたけど」
見やれば、確かに”八雲紫”の名前の横にある能力欄は何度か修正した跡が。
大方”全て従者に押し付ける程度の能力”とか書いたんだろう。
他の欄も見ていくと、なるほど確かに自分の知り合いの名前は大体ある。見当たらない名前はこれから書いてもらうのだろう。
紅魔館は”運命を操る”だの”時間を操る”だのと、アブない能力ばかりだ。実際その通りなのだから仕方ないが、これではどこぞの海外ドラマだ。
魔理沙の欄にはでかでかと”魔法!”としか書いてない。らしいと言えば、らしい。
「わかった。で、何を書きゃいいの?」
「名前、性別、年齢、スリーサイズ、好みのタイプ、見てると思わずドキッとしちゃう八雲紫の仕草」
「名前以外の欄がないから、あんたの顔に書くけどそれでいい?」
「名前と能力を」
言われた通り、霊夢はまず自分の名前を書く。
しかしそこで手が止まり、彼女は尋ねた。
「ねぇ、能力って何を書けばいいのかしら」
「そうね……あなたなら結界を張るとか妖魔を退けるとか、言いようはいくつかあるけれど。
自分にとって、一番自信のある、誇れる事を書けばいいんじゃないかしら。
私にとって、境界を操るというのは唯一無二、誰にも真似の出来ない誇れる能力。だからそう書いた。書かせたんだけどね。
まあこれはあくまでも一例だけど、さっき言った通り。自分にとって”これだ!”と思う特技を書けばいいのよ」
今度は真面目に答えてやる紫。ふんふんと頷き、彼女は筆を走らせた。
「はい、書いたわよ」
「まいどっ!じゃ、引き続き八雲紫のトークショーを……」
「そう言えば、おミカンの皮を潰すと汁が飛ぶのよね。これって目に入ると痛いのよ。あー誰か試させてくれないかしら」
「引き続き午後の優雅なおくつろぎタイムをどうぞ。ていうかまだいくつか回んなきゃだし」
「あらそう?湯呑みもう一個持ってこようかと思ったのに」
嘘ではないらしく、彼女は立ち上がりかけていた身体を再び炬燵へ戻す所であった。
「あなたのそういう所、私は好きよ。じゃ、またね」
「ふ~い」
ひらひらと手を振る霊夢に別れを告げ、紫は再び隙間を利用して神社を去った。
次の目的地、守矢神社の前まで来た所で、ふと気になって紙に目を走らせる。
真新しい、一番下の文字が目に飛び込んできた。
「へぇ……」
紫は少しばかり驚き、しかしどこか感心したような顔で一人頷く。
顔を上げ、彼女は玄関の戸を叩いた。
「へろ~う」
「エコール?」
「いや、せっかくだから赤いものを選ぶのは紅魔館の連中に任せておけばいいと思うの」
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紅美鈴 : 気を使う程度の能力。門も守ります。
チルノ :
大妖精 : 特にありませんけど大丈夫です。強いて言うなら空間移動でしょうか。
ルーミア : やみをあやつるのかー
霧雨魔理沙 : 魔法!
博麗霊夢 : 空を飛ぶ程度の能力。
時系列の入れ替えを交えての構成に感心しました。
言葉にすると一瞬だけど、実際はすごい事ですよねぇ。
つまりは巫女最強。
ネタが懐かしすぎて吹いたwww
後書きにもありましたが
空を飛ぶ程度の能力
幻想郷では当然のそれが霊夢の能力ってところがいいですね
ところで、ちくわぶって穴あいてね?
もしかして少数派?
それは実績でなく努力目標では…
面白すぎる
霊夢の能力はいたってシンプルかつ幻想郷の異能者達にとって普通のこと。しかしそれに誇りをもてるのが彼女のいい性格を表してますね♪
…いや、「いい」のか?←
そしてEDEN替え歌が上手いと思ったのは私だけでしょうか?ww
振り向き厨が幻想入りということはFBIや3y3sさんも入り込んでますかねwww
(゚Д゚)彡そう!
地上というしがらみを抜けて宙に浮く……想像するだけで素晴らしく、ゆえに恐ろしくもあるものです。
ところで、咲夜さんってどんな手段を使って飛んでるんでしょう?
今回はネタが多くて思わず吹いたwwwww
ネタなのはわかっているけど地元の祭りが幻想入りしてたのは
なんだか忘れ去られている祭りと言われているようで悲しかった青森県民な私←
それをふまえて90点で
ちなみにThriceです、Slice(切る)では有りません。
それにつけても霊夢の可愛さよ。
この能力は霊夢の在り方そのものなんでしょうかね。
やはり霊夢は飛んでこそ、ですね。
ネタが多くて笑ったwww
ラストの『空を飛ぶ程度の能力。』も、ストーリーと相まってぐっと来ました。面白かったです。
空色の背景も素敵な感じ。
今ならレティさんが跋扈できる!
テンションが高く、終始楽しみながら読ませていただきました。
雛が一番可愛かったです。
もちろん本編の方も読んでて楽しかったです。
楽しいお話をありがとうございます。
自分が空を飛んでいるような感覚がしました
>>通りすがる程度の能力様
コメディなんだからテンションBUCHIAGEなくちゃというコトで一つ。その方が書いてて楽しいですし。
読みづらくならないか不安でしたが、どうやら効果的に働いてくれたようで何よりです。>時系列
>>3様
ひなかわいいよひなー。地味にかなり好きなキャラです。
少々久しぶりに書いたのですが、可愛いと言って頂けて一安心。近々また書きます。
>>4様
何かもう幻想郷では羽があろーとなかろーと飛びまくりな輩ばかりなのでこちらが麻痺してしまいそうです。
しかし空を飛ぶのは人類共通の憧れであり、それを軽々と行える幻想郷の連中はやはり夢の住人。ウラヤマシス。
むしろ、この懐かしいネタを分かって下さる皆様方に噴いたと言いますか……いやしかし嬉しい。
>>奇声を発する程度の能力様
少々ネタチョイスが偏りがちかな?とも思ったのですがストライクしたようで何より。
やっぱり笑えるお話が書きたいんです。
>>7様
満足なツッコミなんてさせねぇぜ!と言える位の波状攻撃を目指しましたハイ。
最も基本に立ち返った部分を誇りとする、そんな霊夢がとてもカッコ良く見えたので……。
>>10様
どちらもかなり好きなキャラなので、可愛いと感じて頂けてとっても嬉しい。
ちくわぶは、自分が最後に食べたのがかなり昔で曖昧+ちくわぶは穴空いてない、という話をどこかで聞いたのでああなりました。
ググってみたら普通に穴空いてますね。少数派はこちらですごめんなさい。何か代替ネタを思いついたら修正しておきます。
>>14様
『守ってます』と書くべきだったのかも。そこは美鈴の謙虚さかしら。
まあ実際門を突破されたのは紅魔郷の時くらいですし、優秀である事は変わりませんネ。
>>17様
その言葉がワタクシの糧となり燃料となり……どうも有難う御座います。
次にコメディ作品を書いた時も、同じ事を言って頂けますように。
>>キャリー様
前作に引き続き、有難う御座います。
とりあえず主人公っぽい感じではあります。気取らない、自分の持っている確かな能力を端的に表していると言いますか。
EDEN改めODEN、分かって下さる方が居て何より。振り向き厨が入り込んだとて、幻想郷に弐寺はあるのかしら?
>>藍色狐様
空を飛ぶ……一般人には縁遠い話。代替手段は自転車をかっ飛ばすくらいでしょうか。
見果てぬ夢、しかしだからこそ追いかけたくなるものです。いつか、ほんの少しでも彼女達の感覚を理解出来る日が来るといいなァ。
咲夜さんは……ううむ。原理的には霊夢と同じな気はしますが。空間を調整する能力とかも併用してるのかも。
>>ナナミ様
これまた前作に引き続きまして、どうも有難う御座います。
時々こういったお話が書きたくなるのです。みんなで笑い合ってバカやっちゃうような。
ねぶた祭りは、あくまでネタの一環ですのでそういうつもりでは……申し訳御座いません。
>>25様
なんと!と思って少しいい英語辞書を引いてみたら確かに載っておりました。
ちょっぴり賢くなれました、どうも有難う御座います。三枚下ろしはスライススライス?絶対違うな。
>>30様
キャーロムニイサーン!!分かる方がいて嬉しい。どうしても一度使ってみたいネタでした。
ズバッと異変を解決する霊夢もいいのですが、やっぱり縁側でごろごろしたりしてる可愛い霊夢が好きです。
>>ユウ様
自由の象徴、確かにその通りですね。霊夢はまさに幻想郷における”天衣無縫”の代名詞。
飛べない巫女はただの可愛い女の子なのです。空にいなきゃ、工房に勤めてる少年に見つけて親方を呼んでもらえないし。
>>39様
一番驚いたコメントです。まさか、モナー穴を解する方がいらっしゃるとは……。
や、書いてる以上は誰にも分かんないとまでは思いませんでしたが、いやしかしビックリ。書いてよかった。
>>とーなす様
また読んで頂けて嬉しいであります。振り向き厨は思ったより有名なのかしら。
ラストは自分なりに少々考えましたので、気に入って頂けて嬉しいです。背景はホラ、やっぱり”in the Sky”。
とりあえず振り向いておきますね( ゚д゚ )彡 ジュルリ>
>>41様
これもパロネタなんですけど、上手い具合にハマって良かった。言い間違いって面白いよね。
また何か面白い言い間違いを考えてみる事にします。しかしこれを越える自信はあまりない……。
>>50様
れちーさんが跋扈って、それはつまりお寒いというコトかッ!?
冗談はともかく、有難う御座います。小ネタが自分の主力武器です故、これからも磨いていきます。
>>ワレモノ中尉様
いつもいつも有難う御座います。ありそうで無かった、そんな感じのネタをやってみようかなーと。
実際は誰かがもうやってるのを自分が知らないだけな気もしますが……ええい、そこはテンションで押し切れ!
>>57様
キャラを魅力的に、は自分が一番気をつけている事であり、永遠の課題です。
雛が好評で嬉しい。自分のイメージがやや濃い目な感じかも知れませんが、可愛いならいっか。
>>60様
締め方同様、あとがきも少し考えましたので同意が得られてはっぴー。
本編、あとがき、或いはコメント返しまでも良かったと言って頂ける、そんな作品をこれからも目指します。たい焼きは尻尾の先まであんこが詰まってなきゃ。
>>66様
空を飛んでるかのようにふわふわ。分かりやすくて読みやすい、読み心地の良い作品を目指しております。
そして何より楽しい作品。読み終えた方が笑顔になってくれるようなね。
>>67様
小ネタ過積載と後味の良い締め方は自分のポリシーであります。せっかく読んで頂くんだもの、いい気分になって欲しい。
空を飛ぶ描写、当然ながら自分にも覚えは無いので必死に想像したのですが、伝わったようで何よりです。