*注意書き*
くどいくらい幽アリ。
付き合ってます。
ちゅう表現あります。
事後あります。
ただの甘々。
大丈夫そうでしたらお進みください。
ふらりと来て、ふらりと帰る。
彼女が家に来るのは本当に気まぐれだった。
次いつ来るなどは分からない。
数日後かもしれないし数ヶ月後かもしれない、はたまた数年後か。
それくらい彼女は神出鬼没なのだ。
その季節の花の匂いを纏わせやってきては恐らく幻想郷一綺麗な華を私に贈る。
花言葉も教えてくれる。
そしてまた何処かへ花を咲かせに行き―。
「…はぁ」
物音1つしない部屋で重苦しいタメ息が聞こえた。
部屋中に置いてある人形から―ではなくその人形のマスターである金髪の少女から。
何もする気が起きずただ椅子に座りぼんやりと外を眺めて今日何度目かのタメ息が無意識の内に洩れていた。
「幽香が前に来たのっていつだったかしら」
雪が降り積もりドアがせき止められ開かないからとドアごと破壊してきたから冬か。
もう春をまたぎ今は秋を控えた夏。
森の葉の色も一部が紅色に染まりつつある。
夏がもうすぐで終わろうとしていた。
逢いに行くのなら今だ。
向日葵を咲かせに太陽の畑にいるはず。
今ならあの幽香の居場所が分かっている。
だがアリスが出向くことなくもう夏の終わりに差しかかろうとしていた。
私から逢いに行くなんて…。
くだらないプライドに邪魔される。
自分にさえ素直になれないのに自ら幽香に逢いに行くなんてアリスにはハードルが高過ぎた。
そうして本日も椅子を揺らし考え込んでいると。
ドンドンドン
家の戸が鳴った。
少々荒いノック音。
今開けるわ、と返事をすると戸を叩く音が止んだ。
「御機嫌よう、アリス」
「あ…っ」
蔓延の笑みで挨拶をするのはアリスの待ち人、風見幽香。
嬉しくて思わず花の芳しい香りのする幽香の胸に飛び込みたくなるが先客がいたため思いとどまる。
アリスの視線に気づくと幽香は抱えていた大きな花束を差出した。
やっぱり向日葵だった。
一本一本がとても大きくて元気一杯に育っている。
きっと彼女の愛情をこれでもかというくらい浴びて育ったんだろう。
ありがとう、と告げて受け取り、ぎゅうっと胸元で傷つけない程度に抱きしめる。
何の花を貰っても嬉しい。
幽香が育てている花ならなんでも嬉しい。
だって幽香の愛を形にしたようなものだから。
アリスは出来る限り嬉しさが伝わるように微笑む。
普段無愛想なアリスなだけに幽香の表情も和やかになる。
さっそく大きな向日葵が収まるだけの花瓶を引っ張り出し生けると窓辺の近くに置いた。
途端に部屋の雰囲気が変わる。
存在感のある大きい黄色は全体的に部屋のイメージを明るくさせた。
本当は食事のテーブルに飾りたかったがこれだけ大きいと正面に座る幽香の顔が見えなくなりそうなのでやめた。
いくら素敵な花でも幽香を隠すことは許されない。
「お気に召したみたいね」
ふふ、と可笑しそうに言う幽香。
それが何だかバカにされている気がして幽香に視線を戻す。
「そんな顔しないでアリス、貴女がだらしない顔だから笑ってしまっただけよ」
余計に険しくなるアリスの表情に幽香は口を抑えて上品に笑い続ける。
ポーカーフェイスで無表情。
それが私。
なのに幽香の前だといつも頬が緩む。
表情を変えな過ぎて顔の筋肉が機能しなくなったとかでもなく幽香限定で柔らかい表情になってしまう。
でもそれは花を受け取る時だけで暫くするといつも私に戻る。
もう頃合いか、険しい表情から緩むことはなく無表情へと。
幽香ももう興味を失くしたのか上海が用意してくれた紅茶に口をつけた。
「そういえば今夜、宴会やるって魔理沙が昼間来たわ」
「あぁ、言ってたわね」
「行くの?」
「たまには行こうかしら」
アリスも行くんでしょ?
問いに迷わず頷いた。
今夜は不参加しようという考えは一瞬にして頭の中で消えていた。
* * * * *
2人が着いた頃にはすでに始まっていた。
神社に近づくにつれ騒がしさが強まっていったが本拠地はそれを超えて賑やかだった。
すぐに魔理沙がアリスに気付き大声で手を振って来る。
中に入ると霊夢と魔理沙で迎えてくれた。
辺りは酒を飲むのに夢中で気付かない。
いや、気付いた者がいてもアリスと幽香にわざわざ話しかけるような人はあまりいない。
「アリスより珍しい奴が来たわね」
「そう?」
「お願いだから暴れないでよ?」
不敵に笑うだけで否定しない幽香に霊夢は額に手を添えた。
そんな霊夢を気に止めず1番お酒が多く置いてあるテーブルに行く幽香の後を追うアリスだが魔理沙に腕を掴まれ逆方向に強制連行される。
「アリスは私たちと飲むんだぜ」
さっきまで魔理沙が座っていた場所に連れられ幽香とは話せそうにない。
幽香も幽香で気にしてる様子もなく飲み始めたのを見て仕方なくここで飲むことにする。
霊夢と魔理沙と咲夜とレミリアとアリスで次々と酒瓶を開ける、主に霊夢と魔理沙が飲んでるが。
あくまでもアリスはちびちびと自分のペースを保つ。
右隣はアリスとは対照的にドバドバと飲むというよりお腹に流すようにお酒を煽る魔理沙。
左隣は魔理沙ほどではないが明らかにペースの早い霊夢。
人間2人に挟まれ正面には更に人間。
主人であるレミリアは日本酒ではなくワインを片手に優雅にグラスを傾けて霊夢と話しこんでいる。
「おらぁ、アリスも咲夜ももっと飲めよ!」
手元疎かな魔理沙は震える手でアリスのコップに酒を次ごうとするので手を重ねて瓶を落とさないよう支えてあげる。
「飲みすぎよ、魔理沙」
「何言ってんだ余裕だぜ」
にいっと笑う魔理沙の顔は赤いけど耳までは赤くないし確かにまだまだいけそうに見える。
しかし彼女は引き時を知らないしペースを考えない。
アリスに酌んだお酒も結局は自分で飲み干してしまった。
魔理沙の飲みっぷりに盛り上がる周りとは対照的にアリスの中で確実に冷めていくものを自覚する。
少し酔いがまわってきたのかべったり絡んでくる魔理沙がトイレに行ったのを機に席を外した。
夜風が涼しい縁側で新しいコップを片手に月を眺める。
がやがやとうるさいはずなのに耳に届かない。
それくらい冷めてるのか。
紛らわすように上海を膝の上に乗せそっと撫でる。
「隣いい?」
いつから背後にいたのか少し顔の赤い咲夜が声をかけてきた。
そういえばさっき彼女も魔理沙やレミリアに無理矢理飲まされていたから涼みにきたのかもしれない。
黙ってるアリスの隣に座ると咲夜も月を見上げた。
つられてアリスも再び月に視線を戻す。
満月ではなかったけど綺麗だった。
「魔理沙が心配してたわよ」
「…そう」
「少し酔った?」
「いいえ、自粛してるから平気。貴女こそ酔ってる?」
「どうして?」
「私のところにわざわざくるから」
「あら、私これでも結構貴女のこと好きよ?」
酔ってる。
にこにこ顔で言ってのける咲夜に上海を撫でている手とは逆に持っていたコップを渡してあげた。
酒かと思ったのか一気に飲み干し不服そうに眉を寄せる。
「これ水じゃない」
「酔ってるみたいだったから」
「お嬢様がいるのに酔っぱらったりしないわ」
「じゃあどうしてここに来たの?」
「アリスが急に席を外したから具合でも悪いのかと思っただけよ」
「体調は至って普通かしら…でもそうね少し寒いかもしれないわ」
「寒い?夏よ今」
私の中の何かが冷めていて寒い。
ふと上海を撫でていた手を握られる。
「温かい?」
「暑い」
嫌そうな顔が表に出てしまっていたらしい。
咲夜は直ぐにパッと手を離し困ったように笑った。
「人間の体温じゃ暑いかしら」
「……体が寒いじゃなくて、心なのかも」
「アリス?」
「心配してくれてありがとう、私もう帰るわ」
足に力を込めて立つ。
全然飲んでいなかったので思った通りに動いた。
じっとアリスを見ていた咲夜も立ち上がると「送るわ」と言ってくれたが丁寧に断る。
霊夢に一応一言告げて部屋を抜けた。
「もう帰るの?」
「あ、幽香」
見ないなぁと思っていたらどうやらずっと外にいたらしい。
「帰ったのかと思った」
「熱くなってきたから涼んでいただけよ」
「そう…私は寒くなってきたから帰るわ」
「アリスと私を足したら丁度良いのね…私も帰るわ」
貴女の家に。
* * * * *
家に帰ると幽香は近くのソファーに座り、向かい合うようにアリスを膝に座らせた。
「寒いんでしょ?暖めてあげる」
腕を伸ばしアリスの体を引き寄せると抵抗なく腕の中に収まった。
「貴女が私を放ってメイドと遊んでるから嫉妬して体が熱いの、覚悟しなさい?」
「勝手ね」
「今更でしょ?それでもアリスの恋人よ」
「…ねぇ、寒いの…早くして」
幽香は素直に言葉を紡ぎだせないアリスの口を塞ぐ。
ほんのりとお酒の匂いがした。
首にアリスが腕を絡ませたことで重なり合っていた部分が少し深くなる。
久しぶりの感触。
最後に幽香とキスしたのは冬より前だ。
でも変わらず柔らかくて、高潔な感じがする。
確かにアリスよりは熱い唇。
でもすぐに変わらないくらい自分も熱くなるとアリスは分かっていた。
心の寒さを暖められるのは幽香だけ。
離れていても待っていられるのは花を持ってここに帰ってきてくれると分かってるから。
でも近くにいるのに傍にいてくれないのは、手が届く範囲にいるのに触れられないのは―遠くにいるより遠い。
「アリス、貴女いつから私に命令できるほど偉くなったのかしら?」
「え?」
「暖めてほしいならお願いしなさい」
突然唇を離さされ突きつけられた言葉がこれ。
ポカンとしているアリスを突き放す。
きゃ、と小さく悲鳴を上げて床に落ちるアリスをソファーに深く腰掛け見下す幽香。
「さぁアリス、どうして欲しいの?」
「ど、どうして私がそんなこと言わなきゃなんないのよ」
「する気ないの?じゃあ帰るわ」
「え?!」
「次はいつ来ようかしら?1年後?10年後?」
「ま、待って!幽香、行かないで!」
座り込んでいたアリスに見向きもしないで素通りする幽香の背中に慌てて抱きつく。
「言うから、お願い…行かないで」
「ならさっさと言いなさい?」
腰に廻していた腕に力が入る。
ここで帰られるくらいならお願いしたほうが良いに決まってる。
でもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしくて。
悔しいものも悔しくて。
アリスは額を幽香の背中にぐりぐり押し付けた。
絶対に顔だけは見られたくない。
「…して…さ、ぃ…」
「聞こえない」
「う……キ、キスしてください…っ」
「なめてるの?やっぱり帰るわ、さようなら」
「嫌ぁ、ゆうかっ!お願い…幽香にしてほしいの、幽香が好きなの!大好きなの、愛してるの…だからお願い」
気付いたら泣いていた。
無様に思いながらもアリスは必死だった。
こんなの無理矢理素直にさせられているだけでまるで屈してるみたい。
それでも幽香への愛しさのほうが大きいのだから仕方ない。
幽香は体を反転させアリスと向き合うと顎を掴み視点を合わせた。
大きな蒼い瞳からはぼろぼろ涙が零れ出てるにしても幽香を捉えて離さない。
眉を寄せて瞳を潤ませ泣くアリスの表情は幽香を煽るのに効果覿面だった。
しかしアリスには自分で嗜虐心をそそってる自覚がないのだろう。
幽香が顔を近づけるとアリスは瞼を閉じ受け入れる。
焦りからか唇を気持ち的突き出すというおまけ付きに幽香の気分も高まってくる。
それに応えるように幽香が噛みつく勢いで口付けを交わした。
「んっ…ふぅん…ゆ、うか…」
啄む合間にアリスの声が漏れる。
熱に浮かされたような声音に幽香の熱もまた上がる。
後ろのドアにアリスを押し付け体勢を安定させると角度を変えて何度も何度も口付ける。
口端から溢れる唾液は幽香のかアリスのか不明。
酸欠ぎりぎりまでアリスもそれに応えた。
「ぷはっ」
やっと離れると透明の掛け橋が繋がって切れた。
荒い呼吸音だけが響く。
同じだけ口付けを交わしていたはずなのに何故か幽香は余裕そうに微笑を浮かべている。
もっと見ていたい魅力的な笑みなのにがくっと足の力が抜ける。
幽香にもたれかかる形になり頭までぼーっとしてきた。
長くキスしすぎたかも。
抱きかかえられる感覚がしたけど反応するだけの余裕もなくされるがままになっていた。
* * * * *
意識がはっきりしたのは翌朝だった。
そんなに飲んでなかったはずなのに何処か気だるい。
ぐーっと体を伸ばして気付く。
「私、服着てない?!」
がばっと布団をかき寄せてもう1つ気付いた。
「ゆ、幽香!」
「ぅ、ん…うるさいわね…」
幽香も服着てないんだから騒ぎたくもなる。
昨日確か…幽香とキスして…それでそのままベットに運ばれて…。
一気に顔が火照る。
脳裏には情緒の記憶がはっきりと残っていて。
あぁ、これなら記憶が飛ぶくらい飲めば良かったわ。
別に幽香としたのは初めてじゃないけど終えた朝の気恥ずかしさは何度迎えても慣れない。
それに昨日は自分から色々強請った気がして拍車がかかってる。
久々だったから止められなくなって結局気を失うまでお互いの熱を分け合った。
自分で見える位置のあらゆる所点々と幽香の所有の証と噛み痕が刻まれていて暫くの間は薄手のものは着れそうにない。
「シャワー浴びたいわ」
「ちょっと待ってて」
そそくさと逃げるように床に散乱している服を拾い寝室を出た。
幽香の体にも自分がつけたであろう所有の証がたくさん散りばめてあって見てられなかった。
面倒なので2人一緒にシャワーを浴びてソファーに肩を並べて座った。
傍に幽香がいるのはやっぱり安心する。
「今日は何をするつもりでいるの?」
「特に決めてない、幽香がここにいるならこのままでいる」
「素敵ね」
「ここにいる?」
「えぇ、いるわ」
これだけ幽香とくっついていたら私にも花の匂いが漂うようになるかな。
幽香と同じ芳しい花の香りを漂わせることができたら嬉しい。
すり寄るアリスの髪を愛おしそうに梳いてやる幽香。
そんな束の間の甘い雰囲気は窓ガラスの割れる音と共に壊れた。
「よぉ、アリス!昨日早くに帰っちまったから心配して来てや…」
掠れた声で「ったぜ」と続きの言葉が聞こえる。
アリスは急なことで幽香に甘えた体勢のまま動けない。
幽香は驚きはしたもののアリスの髪の毛を撫でる手を止めず冷たい視線で魔理沙を見ていた。
金色の瞳をパチパチとさせる魔理沙。
普段あのクールで他人に無関心なアリスと、あの容赦なく無慈悲に攻撃してくるため恐れられている幽香が2人で身を寄せ合っているのだ。
驚くなというほうが無理な話。
「魔理沙、また窓割って…ちゃんとドアから入ってっていつも言ってるでしょ?」
事態を理解したアリスが幽香から離れ呆れ顔で魔理沙に近づく。
あまりにも普段と変わらぬ態度に魔理沙もつい「悪い」と謝ってしまった。
「っじゃなくて!お前ら何してんだよ!」
「相変わらず粗野ね、恋人同士の逢瀬を邪魔しないでもらえるかしら?」
「こ、ここ、こいびとお?!アリス、幽香が変なこと言ってるぞ?!」
「変なことって事実だけど?」
「え!」
今度こそ魔理沙の時が止まった。
その後勿論魔理沙と幽香の弾幕ごっこが始まりアリスの和やかな時間が潰されたのは言うまでもない。
>幽香は素直に言葉を紡ぎだせないアリス口を塞ぐ。
アリスの口かと
甘いです。
アリス受けいいですね
次回も楽しみにしてます
個人的には幽香のSが…
そして甘々なのは正義です。
他のキャラのこと考えない
アリス厨の描くSSですね
さりげない気遣いのできる瀟洒な彼女が好き。
幽香は随分とSですねw 面白かったです。
さりげない咲アリもよかったです。