Coolier - 新生・東方創想話

冬が嫌いすぎてたまらない霊夢さんのお話

2011/01/16 19:30:56
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「おい霊夢、昨日こんなに雪が降ったおかげで境内も屋根の上も雪がぎっしりだ。雪かきくらいしたらどうだ」
「やだ、寒い。外出たくないもん」
「ギシギシいってるのが聞こえないのか。潰れても知らないぜ?」
「ん~、聞こえないわね。あ、そうだ魔理沙。お鍋食べたいから材料買ってきて。台所使っていいし、今晩はよろしく頼むわ」
「だめだこりゃ」

 現在、神社に時折聞こえるミシミシ、ギシギシという音は、間違い無く雪の重みに神社が必死に耐えている音である。
昨日から幻想郷にも本格的に雪が降り始め、一晩経っただけで雪は積もりに積もった。
それにも拘らず霊夢が動かないのは、壊れないという自身の勘を信じてきっているからだ。
実際に壊れてはいないものの、いつ壊れてもおかしくない状況である。

 このように、雪を見ると霊夢は動くことすら嫌だということが分かる。
しかし、それにはしっかりとした理由があるのだ。

 それはとても簡単なもので、ただ冬が嫌いだからというだけのこと。
至極単純ではあるが、霊夢が動かなかったら神社は大人しく雪の重みで潰れるしかないのだ。
現に雪かきされた痕跡など無く、屋根の上にも雪がどっさりと積もっている。
放っておけばいつの間にか神社がぺしゃんこになっていることであろう。

「よしわかった。私が鍋の材料も買ってきてやるし、作ってやる。だから、その間に霊夢は神社の屋根の雪降ろしをするんだ。どうだ?」
「えー、いやぁん、動きたくないもん」
「じゃあどうしたら動いてくれるんだよ」
「春になったら動く」

 魔理沙は頭が頭痛で痛くなる思いをした。
なんとなく予想はできていたが、少しでも動いてくれると希望を抱いたのがいけなかったのかもしれない。

「なんでそんなに冬が嫌いなんだよ」
「大好きな秋は終わっちゃうし、寒いし、雪とか鬱陶しいし、みんなと外で宴会できないし、大好きな動物も皆活動しなくなっちゃうし、雪かきとか雪降ろししても疲れるだけだし……」
「あー、わかったわかった。そうだよな、霊夢は冬が嫌いだもんなー」
「うん、嫌い」

 魔理沙は思わずため息をついた。
ここまで嫌わなくても冬はいいとこも多いんだけどなぁ、とつくづく思うのだ。
教えてあげようとしても、動かないんじゃ意味が無い。
以前、魔理沙は何度も冬の素晴らしさを伝えようとしたが、どうしようもなかったので諦めた。

(とにかく、紫に早く連絡とって今日から活動させるように呼びかけないとなぁ……)

 冬だし仕方ないぜ、と心の中で魔理沙は呟いた。



 さて、今までは何かが好きすぎる霊夢を観察してきた。
しかし今回は冬が『嫌いすぎる』霊夢を見ていこうと思う。
これほどまで冬が嫌いな霊夢がどうやってここまで冬を乗り越えてきたのか。
今回はそれを例をおってみていこうと思う。



 まず、なぜ霊夢が冬を嫌いになったのか。
それは、数年前のとある出来事から全ては始まる。

 霊夢が今よりまだ幼い頃。
この冬も今年同様、雪がたくさん降った。
その頃の霊夢は、まだ冬の事が嫌いではなかった。
たくさん降り積もった雪で大きな雪だるまを作り、かまくらも作って楽しんでいた。

 不恰好な雪だるまは、石ころで目や口を表現し、枝を胴体に刺して腕とし、頭にはバケツの帽子を被らせて完成。
かまくらは、小さなスコップで雪を集め、手でぱんぱんと叩いて固めながら少しずつ作っていった。
出来上がったかまくらは小さいものの、幼い霊夢には十分な大きさである。

「わぁーい!」

 出来上がったかまくらの中で、はしゃぎまわって喜びを表現する霊夢。
まるで秘密基地ができたような、そんな気持ちに満たされていた。

 そんな時だった。
暴れまわるようにはしゃいだものだから、しっかり固められていなかったかまくらが、突如として崩れ出したのだ。
ボスンと鈍い音を立てながら崩れるかまくらに押しつぶされ、霊夢は叫ぶ。
口の中に雪が入ると共に、寒さが全身を襲い、暴れまわってやっと抜け出した先、何かにぶつかる。

「へ?」

 ぶつかった先、そこには顔と胴体とが離れ、感情も篭っていない石でできた目が霊夢を見つめていた。
片目が衝撃で取れ、片方の目がじっと霊夢を捕えて離さない。
何で壊したの? と今にも喋ってきそうな迫力が雪だるまの顔から伝わった。

「うわぁああああああああ!!」

 目を瞑りながら逃げる霊夢は、ツルツル滑る石畳の方へと逃げた。
賽銭箱に近いその場所は、雪が少なくすべりやすい。
凍った石畳の上に足を取られ、激しくこけると共に、神社の柱へと思いきり頭をぶつけた。
ズキズキする痛みにふと我に返り、ハッと上を見上げる。
その、霊夢の柱にぶつかった僅かな衝撃が神社を襲い、屋根から雪と氷柱が霊夢目掛けて降り注ぐ。
雪を被り、氷柱が霊夢の顔面真横に落ちてくる恐怖を味わったのだ。

「もう冬なんか大っ嫌い!!」

 この時から霊夢は冬が大嫌いになってしまい、外に出るのも嫌になってしまったのだった。



 上の出来事を知る者は極少数しかいないが、霊夢が冬を嫌いなことだけは皆が知っている。
冬が嫌いだからという理由で、生命活動すらしなくなるようになるのでは、たまったものではない。
幻想郷になくてはならない博麗の巫女たる霊夢が、冬に活動しなくなるせいで死んでしまったら大問題であるのは当然だ。
死因:冬 とか意味のわからないことを防がなければならない。

 それを阻止すべく、幻想郷の賢者八雲紫は、当番制で一日中霊夢と共に過ごすように命令付けたのだ。
また、もし暇があったら神社に顔を出すようにもさせた。
こうすることによって霊夢が餓死する事無く、そして雪に潰されること無く生きていけるのだ。
それはまるで生活介護を受けているかのようだが、実際そのようなものだから仕方が無い。

「お~い霊夢~、生きてるかぁ~?」
「何とか生きてるわよ」

 今日の当番は萃香だった。
萃香はこれと言って決まった場所に住んでいるわけではないので、当番を喜んで受け入れている。
ならずっと神社で霊夢の世話をしろよと思うかもしれないが、ずっと一緒にいると流石に疲れるとのことだ。
あの鬼でさえも疲れさせるほど、霊夢のめんどうを見るのは大変だというのが分かる。

 当番がすべきことは、生活に必要なことほぼすべてと言っても過言ではない。
食事のみならず、洗濯や掃除、お風呂は沸かすだけではなく一緒に入ってやらなければならない。
また、排泄だってトイレまで一緒について行ってやらなきゃ、寒さでトイレで倒れている可能性だってある。
何もかもを手伝ってあげなければできない体になってしまっているのだ。
まさに駄目人間。

 霊夢は担当の者が頑張っている姿をぼーっと眺めていることが多いのだが、楽しみにしている事も少なからずあった。
その楽しみの中にあるものとして、雪降ろしや雪かきがあった。
しかしそれは自分がやる側ではなく、飽くまで見る側として、である。


 幻想郷には数多くの妖怪や普通の人間とは言いがたい者、幽霊など、様々な者達が暮らしている。
そのような者達がスペルカードルールができる前から今まで生き残ってきたのは、組織力もあるが、各個人が持つ能力のおかげでもある。
しかし、最近では生存競争などは無くなった為か、その能力は戦闘よりも、普段の生活で使う機会の方が多くなった。
そう、霊夢が楽しみにしているのは、こうした能力を使った雪かきや雪降ろしなのだ。

 雪かきの時はこたつから這い出てきて、その様子を輝いた瞳で見つめているのだ。
萃香の場合、能力で雪をかき集め、そのまま大きな雪玉と小さな雪玉の二つ作り、雪だるまにする事が多い。
これは霊夢だけでなく、人里の子供達にも人気である。
他にも、紫だったら隙間を使ってあっという間に雪を一箇所に固め、アリスは人形を使って、咲夜の場合は瞬きをする間もなく消えてるし、文は強烈な風を吹かせて雪を吹き飛ばす。
でも、そういった作業に適していない能力を持つ者はせっせとスコップ片手に雪かきをするしかないのだ。
そういった様子を見ているのも霊夢は好きらしい。

「よぉし、誰も雪かきしてないみたいだし、萃香ちゃん頑張っちゃうよぉ!」
「頑張って萃香!」
「任せとけー」

 腕をぶんぶん回し、まずはお賽銭箱にまで続く道の雪をどかす作業に取り掛かった。
ふわふわと屋根の辺りまで浮かぶと、両手を上に掲げ、能力を発動させる。
すると、萃香の上にまるでブラックホールがあるかのように雪は吸い寄せられ、一つの雪の球になった。
ぎゅっと力を込めて固めると、雪玉を地面へとゆっくりと落とし、次に屋根の上の雪をどかす作業に移る。
先ほどと同じように雪を集め、球体にして固めると、先ほど作った雪玉の上にそれを重ねた。
するとどうだろう、あっと言う間に巨大な雪だるまが博麗神社の隣に出来上がった。

「どうだ! 萃香ちゃん特製雪だるま!」 
「わぁい! やっぱり凄いわね!」

 小さな子供のように瞳をきらきらと輝かせて嬉しがる霊夢。
冬が嫌いな霊夢が見せる、珍しく可愛らしい一面である。



 霊夢が冬の間装備していなければならないもの、それは炬燵である。
博麗の巫女が初代からずっと愛用してきた掘り炬燵は、実際肌で感じる暖かさと共に、またそれとは違った温かさも感じることができた。
そんな掘り炬燵が霊夢は大好きで、冬の寒い中炬燵が無かったら死んでいると豪語するくらいである。
他の暖房器具としてストーブも紫に用意して貰い、あとはみかんを食べて最強装備の完成。
以前、魔理沙が霊夢に問いかけた事があった。

「霊夢は冬で好きな事とか無いの?」
「暖房器具で暖まる事と、暖まりながらみかん食べる事以外は大体敵」
「深刻だな。鍋とかは嫌なのか?」
「別に鍋は暑い時でも食べられるじゃない。暖かいものだから冬に食べるとは限らないでしょう?カレーとか味噌汁とかスープとかは何時でも食べるでしょう? だから鍋は何とも思わないの。でもね、みかんは違うの。この寒い時期にこたつに入って食べるから美味しいの。鍋もそうだって思ったんでしょ? 甘いわねぇ、魔理沙、そんなんだからいつまでたっても――」
「もういい、分かったから黙ってろ」
「えぇ、これからがいいところなのにぃー」

 上のように、とにかく暖房器具とみかんは大好きらしい。
秋の時は季節の食べ物があれほど好きだったのに、冬だからこそおいしく食べられる鍋は特別だと感じないらしい。
とにかく、冬の暖房器具とみかんについて語らせると長くなる事はよくわかる。

 そんな霊夢は、今日も神社の中でストーブの前で暖まりながら、生活の補助を受けている。
霊夢がストーブで暖まり、炬燵に入っていないのは、掘り炬燵の熱源がまだ出来上がってないからである。
今日の当番の射命丸が、寒くて凍えているかもしれないと、霊夢の大好きな炬燵の熱源を入れるべく、早朝から神社で木炭を暖めに来ていた。

「ほら、霊夢さんの好きな炬燵の熱源を持ってきましたよ~」
「やったー! ほら、はやく炬燵の中に入れてよ!」
「その前にちょっと布団どけてくれませんか、入れるときに邪魔になるので」
「うん」

 まるで餌付けをするかのような風景である。
待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる霊夢を見て、射命丸は満たされた気持ちになるのだった。

 神社にある掘り炬燵は、熱源として木炭や炭団(練炭や豆炭等も)などを用いる。
これらは、昔の人々も熱源として用いており、今も昔も変わっていない。

 掘り炬燵は電気炬燵と違い、木炭等を用いるため、酸素を必要とするのだ。
そのため、換気を怠ると死に直結するので気をつけなければならない。
こたつに入ってればおとなしいから放置しとけばいいという考えは、霊夢を殺す行為に等しく、絶対にやってはいけない。
こたつだけでなく、ストーブもつけているため、換気はこまめにしないといけないのだ。
例え外が寒く、風が強くて吹雪こうとも。

 換気をする時は、例え炬燵の中に入ってみかんを食べてるという最強装備の状態でも必死に抗う。
大嫌いな寒気が部屋を襲ってくるのは霊夢としてはたまらない。

「霊夢さん、そろそろ換気しないと。部屋の空気が悪くなってます」
「いやぁ! 寒いの嫌だもん!」
「駄々をこねてもいけません。死んでしまったら私の責任でもありますし、幻想郷にとって大ダメージです。ひんしが表示されてしまいます」

 一緒に炬燵でみかんを食べていた射命丸は、換気をすべく立ち上がろうとするも、必死に腕にしがみついて抗う霊夢。
やめてぇ! と小さな悲鳴を上げながら抵抗する姿は、どこかおもちゃを買ってと泣き叫ぶ子供と被る。
それでも仕事は仕事、やらなくてはならないのだ。

「手を離して下さい霊夢さん。嫌でもやらなきゃいけないことなんですっ」
「嫌ならやらなくてもいいじゃない!」
「そういうわけにはいかないのが社会というものです。ほら、手を離し――」
「あ! あれ!」
「へっ?」

 霊夢が指差す先、そこには何の変哲も無い、いつもの風景、屏風があった。

「何もないじゃないです――っ!?」
「わぁい! 引っかかったー!」

 射命丸が振り向いたその瞬間、霊夢の手にあったみかんの皮から汁が噴出した。
その汁は見事射命丸の目に被弾し、目を押さえながら喚き声をあげる。

「ははは、ほらほら、反撃してきてみなさいよ」

 煽るように霊夢は手をひらひらと振るも、射命丸はそれを無視して無言で立ちあがる。
無表情の射命丸を見てきょとんとし、思わず握っていた腕を離してしまう。
射命丸が進む先は、部屋と外とを仕切る戸。
霊夢は最初、驚きを覚えたものの、次いで焦りを感じ始めた。

「え、あ、ごめんなさい文。ちょっとした悪戯じゃない、そんな怒らなくてもいいでしょ?」
「……」

 取っ手に手をかけ、思い切り力を入れて開くと、ガラッという音と共に冬の寒気が部屋に流れこむ。
しかし、今は寒気など霊夢にとって二の次であった。
無言の射命丸をどうにかしなければならないのが、今の霊夢の一番の仕事である。
しかし、焦りに焦る霊夢は行動に移す事ができず、ただ口元に手をやる事しかできない。
そんな、どうにかしようとする霊夢の気持ちなど知らず、射命丸は壁にかかった長い金具を持ち出した。

「あの、文さん? ほんとすみませんでしたって。あの、何でその金具を……え、あ、ちょっとまって! 熱源は取らないで下さい、ほんとお願いします」
「嫌です。これはちょっとした霊夢さんへの罰です」
「いやぁ! ほんとうにいやなのぉ! 寒くてしぬ!」
「そんな簡単に死ぬほど人間は柔じゃありません」
「だめ、だめぇ!!」

 必死に足にしがみついて抵抗する霊夢を無理やり振り解き、木炭を取っていってしまった。
そのまま戸の方へと向かうと、木炭を雪の中に放り投げる。
戸の外では、小さく虚しいジュゥという、命が消える音が聞こえた。

 残る暖房器具は、燃料が残り僅かなストーブだけ。
普通なら射命丸が給油しなければならないのだが、今はそういう気持ちにもならない。
金具を壁に立て掛けると、恐ろしいほどの笑顔で霊夢に言った。

「それでは霊夢さん、私は夕飯の買出しに行ってきますので。失礼します」
「え、あ、あやぁ!! 木炭どこにあるのぉ!? 自分で少しはするから教えてよぉ!」
「嫌です。皆さん霊夢さんを甘やかせ過ぎなんです。少しはこれくらいしないと駄目です」
「んもぉ! 文の馬鹿! 人でなしぃ、ろくでなしぃ!!」
「なんとでも言ってくださいな。それでは行ってきます」

 颯爽と飛んで行った射命丸を、ただ霊夢は戸の隙間から眺めているしかなかった。
悔しい思いをひしひしと感じながらも、戸をゆっくりと閉めた。

 自分が動かなければとは思ったものの、冬場は任せっきりなため、どこに何があるかも分からない。
とにかく台所の方面にあるのではないかと、霊夢は足を運ぶ。
冬の廊下はとにかく冷たくて、裸足の霊夢は震えながら探し回る。
しかし、木炭らしきものは見当たらず、ストーブに入れる燃料さえも見つからなかった。
もしかしたら外の小屋にあるかもしれないと裏の勝手口を開けるも、その途端霊夢に襲いかかるは激しい寒気と雪。
木炭、燃料を探すことを諦め、十分に換気され、冷えきった部屋に戻る。
ストーブを炬燵の近くに寄せ、僅かに残る炬燵の熱で寒さを凌ぐ事にした。

「あやぁ、早く帰ってきてよぉ……」

 この後、文が帰ってきて許すまで、炬燵に顔以外入り込み、一人ぷるぷる震えていた。
ようやく許してもらえた霊夢は、文にまた炬燵の熱源を入れてもらい、ストーブの燃料も入れてもらった。

「私も少々幼すぎました。すみませんね、霊夢さん」
「もういいの。私も悪かったからいいの。こうして暖かい炬燵でみかんが食べられるから幸せなの」
「それはよかったです」

 辛い事も、炬燵とみかんで乗り越える冬である。



 また、季節を問わず生きていくには必要なのは、なんといっても食事である。
妖怪なら何日か食べなくても生きていけるが、人間はしっかりと食を取らないと生きていけない。
しかも、ちゃんとバランスを考えて作らなければならないところが大変だ。
霊夢の為にバランスを考える者もいれば、考えない者だっている。
料理は、雪かきよりも様々なパターンがあるのだ。

 料理は作る人物によって変わるので、霊夢はご飯を純粋に楽しみにしている。
特に楽しみにしているのは、外の世界の物が食べられる藍・紫の料理であったり、幻想郷では珍しい中華を食べる事ができる美鈴、美味しい洋食を作る咲夜・アリス、美味しい和食を作る妖夢・幽々子が来た時だ。
逆に大雑把な料理だったり毎回鍋になるのは萃香・文で、精進料理ばかりであまり面白みが無いのが命蓮寺の連中だ。
他の者達は霊夢にとって、普通というランク付けになっている。



 冬の夕暮れは早く、既に太陽が山に飲まれ始めた頃だった。
お腹が空いてきた霊夢は、一緒に炬燵でみかんを食べる紫に問う。

「紫、今日のご飯はなに?」
「そうねぇ。蟹にしようかしら。あとは……そうね、湯豆腐とか」
「蟹って去年も食べたあれよね? 赤くてはさみがあるやつ。足いっぱい生えてるやつよね?」
「えぇ、それよ」

 去年の冬に一度だけ、紫は蟹を持ってきて食べた事がある。
とても美味しかった事を思い出し、僅かに口の中によだれが滲み出る。
これ美味しいね、また食べたいと去年霊夢が言ったとき、紫はじゃあまた来年もね、と約束していたのだ。
その約束を忘れていなかった紫は、蟹を事前に用意しておいたのだ。

「わぁーい! 紫大好き!」
「やめなさい霊夢」

 抱きつく霊夢を制止させ、いかにも冷静さを醸し出している様に見えるが、紫の顔にはだらしの無い笑顔が貼り付いていた。
全くもって台無しである。

 冬が嫌いな霊夢は誰かに頼るしかなく、自分にとってプラスになってくれる者に対しては可愛らしい態度を見せる。
嫌われてしまっては美味しい物が食べられないかもしれないし、炬燵もつけてもらえないかもしれない。
そんな危機感も一応持ちながら、霊夢は冬を生きているのだ。

 一方、精進料理ばかりの聖に対する態度は、紫とは違う。

 台所を借りて聖が料理を作っていると、珍しく霊夢が炬燵から出てきた。
割烹着を着た聖の横、僅かな期待を胸にひょこっと覗くも、すぐさまそれは落胆に変わった。

「ねぇ、お肉食べようよ、お肉。今日はそんな気分なの」
「残念ながらお肉はありませんよ。今晩は田楽と根菜の澄まし汁に、焼いた油揚げとご飯です」

 聖の時は毎回お肉が食べたい気分になる霊夢。 
十分美味しそうなメニューではあるが、お肉には勝てない。
別に嫌いと言うわけではないが、一日を通して肉が一品もないと霊夢は気に入らないのだ。

「う~……。別に聖はお肉食べなくていいの。私だけでもいいからお肉食べたい」
「残念ながらお肉を扱う料理を作った事がないので作れませんわ」
「じゃあ来年はお肉料理できるように頑張ってください」
「考えておきますね」

 聖との言い合いに勝てる事ができず、しぶしぶ炬燵へと引き下がっていく。
その背中は悲しみに満ちていて、とても小さかった。



 何から何まで面倒を見なくてはいけない霊夢を、何故ここまで幻想郷の民は手を尽くすのか。
それは、幻想郷の重要な人物だからという点ももちろんあるが、なんだかんだ言ってみんな霊夢が大好きだからである。
冬の間世話をしなくちゃいけないのは大変ではあるが、それだけ霊夢と近くで一緒にいる事ができる。
そう考えれば、なんと幸せな一日であろうか。

「ねぇ、魔理沙」
「なんだ」
「なんで皆私の為なんかに必死になってくれるのかな。めんどくさいはずなのに」

 みかん入れと化した籠のみかんが無くなったため、補充していた魔理沙にそう言った。
ずっと介護のようなものをされっぱなしで、霊夢も申し訳無く思ったのか、少し悲しげな顔にも見える。
そんな表情を見て、魔理沙は笑った。

「何がおかしいのよ」
「んなこと気にしなくてもいいじゃないか。それだけお前が愛されてるってことだよ」
「……そう」

 静かに、消え入るような声で呟いた。
その様子にふむと小さく呟いて、今度は魔理沙が問う。


「なぁ霊夢」
「なによ」

 新しいみかん手に取り、もう既にみかんの皮でいっぱいになったゴミ箱に追撃を開始し始めた霊夢。
めんどくさそうに目線だけをそちらに向けると、魔理沙の柔らかい笑みが映った。

「暖かくなってきたら。また春が来たら一緒に呑もうな」
「えぇ、そうね」
「私だけじゃない。いろんな奴と一緒に楽しくやろうな」
「まぁ、冬が終わったら、ね」

 春がくれば、いつもの霊夢に会えるのだ。
そう思えば、寒い冬の季節だって辛くない。
春の暖かさを求め冬眠する動物達のように、幻想郷の皆は待っているのだ。
冬を越え、暖かくなった時に見られる、元気な霊夢の姿を。



 換気の為に魔理沙は戸を開く。
視界に広がる風景から感じ取れるのは、僅かな温かさ。
雪は次第に解け始めて、温かくなってきたなぁと心の中で呟く。
そして後ろを振り向けば、寒いと短く愚痴をこぼす霊夢の姿があった。

「春はもうすぐ、だな」
「え?」
「いんや、なんでもない」


 ふと柔らかな笑みをこぼしながら。
少しずつ迫り来る春の気配に、魔理沙は小さく背伸びをした。
 様々な私情があって書くのが遅くなってしまいました、へたれ向日葵です。
もうちょっと早めに書ければよかったなぁと後悔しているのですが、まだ冬でいいよね、雪あるし。

 最後まで読んで下さった方々には、最大級の感謝を……。
へたれ向日葵
[email protected]
http://twitter.com/hetarehimawari
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コメント



0.4090簡易評価
3.100名前も財産も無い程度の能力削除
なんという…なんと可愛らしいあいされいむ…ご馳走様でした!!

ぅむ、1日でも構わない、冬の間にこんな霊夢の世話人になってみたいものです…!!
5.100名前が無い程度の能力削除
へたれ向日葵氏の霊夢は相変わらず可愛すぎて鼻血必至だ!!!
7.90奇声を発する程度の能力削除
霊夢可愛いよ!
13.90ぺ・四潤削除
死因:冬 がなんかじわじわきたww
ちっちゃい霊夢のコンボ発動を想像したら可愛い。一緒に雪だるま作ってあげたい。
21.100スポポ削除
霊夢、これ確信犯だろ
23.100がま口削除
霊夢さん、なんとうらやましい生活なんだ……
しかし世話したい、いや世話をせねばとも強く思うこの不思議な感情は何なのでしょうね(苦笑)
冬が嫌いだけどみんな大好き霊夢さん、堪能させて頂きました。
31.100名前が無い程度の能力削除
死因:冬 に吹いたwww
しかし、へたれ向日葵さんの霊夢は可愛すぎる
俺も世話したい
32.100名前が無い程度の能力削除
いやぁ~
霊夢がかわいすぎる
43.100名前が無い程度の能力削除
可愛いぜ
53.100名前が無い程度の能力削除
この要介護巫女、めっちゃ可愛いじゃないですか。
太らないかちょっと心配です。
54.100名前が無い程度の能力削除
ずるいけどかわいいから仕方ないね
58.100名前が無い程度の能力削除
自分も当番担当したいです
61.100名前が無い程度の能力削除
「ランク:普通」の方々にすら霊夢かわいい。動物が好きというところにも好感を持ちました。程度雪かき……面白そうです。

みんな無条件に霊夢を甘やかしているようでいて、文のようにしっかりしつける者もいるのがよかったです。あと割烹着の聖に感動した。かわいいとかかわいくないとか以前に感動した。

文章も滑らかで、キャラクターの描写が上手で、ほぼ文句なしの作品でしたが、強いて言うなら段落の最初にスペースを空けたり空けなかったりする部分が「ん?」という感じで少し気になりました。どちらかに統一するとよいと思います。
63.100名前が無い程度の能力削除
なんという愛されいむ…
これが幻想郷か
65.90名前が無い程度の能力削除
これはずるくてかわいらしい…
66.100名前が無い程度の能力削除
春夏秋と何十回も宴会の準備と後片付け、
異変解決はボランティアなんだからこれくらい
役得あってもいいよな。
68.100名前が無い程度の能力削除
何というか、とても、良かった
70.100名前が無い程度の能力削除
貴方の霊夢は、反則級に可愛いです!
77.100名前が無い程度の能力削除
もう紫と一緒に冬眠しちゃえよ
79.無評価名前が無い程度の能力削除
幽々子が春雪異変をやめた真の理由である
80.100名前が無い程度の能力削除
フリーレス失礼
84.90名前が無い程度の能力削除
霊夢さんかわええ(^q^)
85.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
87.100名前が無い程度の能力削除
あなたの作品の霊夢は本当にかわいいw
ごちそうさまでした
92.無評価へたれ向日葵削除
>名前も財産も無い程度の能力 様
評価ありがとうございます。
霊夢は皆の愛の標的です(キリッ
私も霊夢さん世話してみたいです~。

>5 様
評価ありがとうございます。
可愛いは作れる!!
鼻血拭いてくださいね。

>奇声を発する程度の能力 様
評価ありがとうございます。
人気投票1位が可愛くないはずがない!

>ぺ・四潤 様
評価ありがとうございます。
死因:冬はちょっと狙ったので嬉しい限りです。
私も一緒に作ってあげたいです。

>スポポ 様
評価ありがとうございます。
冬が嫌いなんです、ゆるしてあげてください><

>がま口 様
評価ありがとうございます。
霊夢さんも羨ましいけど介護してる人達も羨ましいです。

>31 様
評価ありがとうございます。
世話をする権利は幻想郷に住む人にしか与えられないのです。
ですから私にはその権利がありますね^q^

>32 様
評価ありがとうございます。
霊夢が可愛くなかったら……いや、それもありか。

>43 様
評価ありがとうございます。
れいむちゃんかわいいよね。

>53 様
評価ありがとうございます。
なんかほんと何もできない子供みたいで可愛らしいですよね!
冬はちょっと太っちゃうかもしれないですね~。

>54 様
評価ありがとうございます。
可愛さは罪ですからね。

>58 様
評価ありがとうございます。
私が許しません!

>61 様
評価ありがとうございます。
全員が甘やかしてたら霊夢さん冬が終わった頃には太っちゃって悲しみに暮れることになりそうですからね。
割烹着聖は何と言うかロマン。
嬉しいお言葉です、ありがとうございます。
最後の見直しが甘かったようです、修正しました。

>63 様
評価ありがとうございます。
これが幻想郷だ(キリッ

>65 様
評価ありがとうございます。
ずるい女は可愛いのさ……。

>66 様
評価ありがとうございます。
いつも大変ですからね。
まぁ、いつも一人で準備とか後片付けしてるとは思ってはいませんが。

>68 様
評価ありがとうございます。
嬉しいお言葉ですわ。

>77 様
評価ありがとうございます。
人間が冬眠なんて許されないよ!!

>79,80 様
評価ありがとうございます。
幽々子さん……、そんな理由やったんか。

>84 様
評価ありがとうございます。
霊夢さんはてんしやね^q^

>85 様
評価ありがとうございます。
そう言っていただけると幸いです。

>87 様
評価ありがとうございます。
そそわは可愛い霊夢さんもいっぱいですね!!
97.100名前が無い程度の能力削除
この霊夢は世話せざるを得ない