※百合表現のようなものが出てきます。苦手な方は注意してください
「分社の点検に参りましたぁ」
「んー」
博麗神社に東風谷早苗がやってきた時は必ずと言っていいほどこの会話が繰り広げられる。
神社の主、博麗霊夢はいつも縁側に座っている。だから神社にやって来ればほぼ確実に霊夢に会える。
分社の点検というのは早苗にとって神社に来るいい口実で、そんな頻繁に来なくても
どうせ一日中掃除をしているフリをするほど暇で何かやることを欲している霊夢が分社の掃除をサボるはずがないのだが、
早苗は三日にいっぺん程度のペースでやってくるのだった。
何せ早苗にとって博麗霊夢は現在気になる人物ランキングぶっちぎりの第一位だから。
「終わりましたぁ」
「んー。お茶でも飲んでく?」
「はい、いただきます!」
ここまでが早苗と霊夢が交わす会話のいつもの流れである。
霊夢は(意外にも)わざわざ神社まで来た相手をただで帰すほど無神経ではなく、相手にお茶を出す習性がある。(ただしお茶菓子は持参したほうがよい)
狡猾な早苗はそこを突いて神社に入り浸るのだった。
しかしいつも通りの会話を繰り広げたのはよかったが、今日は少しだけ状況が違った。
霊夢は台所に早苗の分の湯のみを取りに行き、その場に残されたのは早苗一人……
ではなく、霊夢が座っていたポジションのすぐ隣に座っている金髪の少女と早苗の二人だ。
黒白魔法使い、吸血鬼、鬼、ブン屋、その他諸々と、ここに毎日のようにやってくる人物はたくさんいる。
しかしこの時間帯はいつも、早苗と霊夢の二人きりになることが多く、早苗もそれを承知でこの時間帯を選んでいるつもりだった。
早苗にとって霊夢と二人でいる時間は居心地がよくて信仰集めに従事する毎日の中の数少ない癒しの時間だったからだ。
何度も神社にやってきてようやく見つけ出した霊夢のフリータイム。
だというのにこの始末である。
その少女が悪いわけではないと分かっていながらもムッとした感情を抑えつつ、少女を見据える。
早苗のよく知っている、神社にいそうな金髪といえば魔理沙だがどう見ても彼女とは違う。
赤いカチューシャ。青い服とロングスカート。白いケープ。落ち着き払ったその表情。
早苗はその少女に見覚えがあった。
(確か宴会で何度か……名前は何ていったかな)
なんとなく聞いたことがあると思うが名前が思い出せない。
幻想郷のパワーバランスの一角である守矢の神様トリオは博麗神社の宴会に毎度参加しているので、そこそこ他勢力との交流がある。
しかし宴会に参加する者全員の名前や詳細を知っているわけではなく、何度も会うが名前は知らないということも多い。
そういう場合はその場の勢いで適当な愛称をつけて呼び合うのが主流である。
ちなみに早苗は『緑頭』、『青い方の巫女』等と呼ばれている。その度に忙しく自己紹介しているのだがまだ定着していないようだ。
特に氷精あたりは覚える気がないのではないだろうかと言いたくなる。
人付き合いが比較的上手な早苗も何十人もいる宴会の常連全員と親しく話すわけではない。
人間が学校のクラス、集団の中でいくつかのグループに自然と分かれるのがいい例で、宴会も同じようにグループ分けがある。
例えば、森に住む者は森に住む者同士、地底に住む者は地底に住む者同士で一緒にいることが多い。
早苗の場合、主に神奈子、諏訪子に付いていることがほとんどで、主に話すのは霊夢や魔理沙、咲夜、妖夢等だ。
例外として霊夢や魔理沙のように決まったグループに属さず、複数のグループに顔を出している者もいれば、
グループに入ろうとせず、ちびちびと一人酒に浸っている変わり者もいる。
その中の一人が早苗の前にいる少女だ。
今も早苗には目もくれず魔導書のようなものに読み耽っている。
そういうときは自分から自己紹介してさりげなく名前を聞き出すことが有効だろうと早苗は考える。
「はじめまして。私は東風谷早苗と申します」
「そう」
「……」
「……」
「……」(え?終わり?)
普通相手が名乗ったら名乗り返すだろうという早苗の常識カテゴリに当てはまらないリアクション。
戸惑いを隠しきれない。
「あ、あの……貴女のお名前を」
「ああごめんなさい。本を読むのに集中してしまって。私はアリス。アリス・マーガトロイドよ。よろしく」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
「……」
「……」(え?終わり?)
アリスは挨拶を終えるとさっさと視線を本に戻してしまう。横から見るとまつ毛が長いのがよく分かった。
ただ無愛想なのか本の虫なのかは置いておいて、本を読みながら右手で髪をかき上げるその仕草を見て
(綺麗だなぁ)
と、ついつい思ってしまった。
とりあえずアリスの横に少しだけ間隔を空けて腰を下ろす。
「……」
「……」
沈黙が気不味い。
話題を作らなければと色々考えた末に、自分が持ってきた風呂敷包みが目に入った。
これは霊夢と二人で食べるはずだったお茶菓子だがこの際仕方あるまいと取り出し、アリスのほうに差し出す。
「あ…あの、私お茶菓子持ってきたんですけど食べます?」
「今はいいわ。そこに置いといて」
「あ、はい」
「……」
「……」
ジーザス!と早苗は内心でアメリカン(笑)に舌打ちをした。
初対面の相手がこう寡黙だとどうもやりにくい。厳密には初対面ではないのだが早苗はもうそんなことはどうでもよかった。
早苗は人付き合いは得意な方だが普段からフランクな神様の相手をしているからだろうか、自分からグイグイ来てくれる者には
めっぽう強くともこのアリスのような性格の者にはあまり免疫がなかった。
それに該当する早苗の身近な人物が一人いる。霊夢だ。
彼女もまた早苗がいくら話しかけてもボンヤリしていて、たまに口を開いても「ふーん」とか「へー」とか薄いリアクションしか返してこない。
『アリスと霊夢は似ている』
二人と最も付き合いの長い人物の一人である魔理沙はよくそんなことを漏らす。
弾幕ごっこに対する姿勢、面倒ごとを嫌いつつも面倒ごとに首を突っ込むその性格。
類友ってやつだな、と魔理沙は二人を指さして笑うのだった。
しかし霊夢も魔理沙とアリスは類友だ、アリスも霊夢と魔理沙は類友だ、と三人全員が自分以外の二人を類友と言っている。
なんだか不思議なこの関係。
そんなこと早苗は知りもしないのだが、少なくともこのアリスに霊夢と似た空気は感じ取ったようだ。
「ほいお茶」
「……あ。ありがとうございます」
気まずい沈黙を破るように霊夢が台所から戻ってきた。
同時に早苗の緊張が解れ、ほっと肩の力が抜けた。
「アリスにもお茶のおかわり淹れといたわよ」
「ん、ありがと」
適当に返事をしてまた本に目を戻すアリス。誰に対してもこんな感じなのか。
自分だけを無視していたわけではないみたいなので内心ちょっと安心する早苗であった。
・・・・・
「あー。なんか眠たくなってきた」
しばらくアリスは本を読み、霊夢は早苗が持ってきたお茶菓子をボリボリと食べ、
早苗は二人に適当な世間話を投げかけているうちに、霊夢がそんなことを言い出した。
「……じゃあ寝たら?」
するとアリスは本をパタンと閉じて横に置いた。
「そうしようかしら。最近寝付きが悪くて。んじゃ貸してね」
「はいはい」
「?」
『貸すって何を?』と思った早苗は霊夢とアリスの方に目を向けた直後にぎょっとした。
霊夢が腰掛けているアリスの太ももに頭をそのまま落としたのだ。
「ななな何をしてるんですか!」
「何って……」
「膝枕だけど」
当然のように答える二人に早苗はわなわなと震える。
「そういうのはその……こ、ここ恋人同士とかでするものでは?」
「そうなの?」
「あー早苗はアレよ。幻想郷に来て年季入ってないからまだ常識がちょっとずれてるのよきっと」
「私は誰だってするものだと思ってたけど」
ねぇ?と顔を見合わせてうんうんと頷き合う二人。
膝枕の体勢のままなので顔を見合わせるとアリスがキスを落としているようにも見え、見ているこっちまでドキドキしてしまう。
早苗のこれまでの人生経験から考えると普通、膝枕という行為は仲睦まじいカップルや夫婦、母子がするもので、多めに見積もっても友人同士でやるようなことではない。
この異常者が群れを成す幻想郷において比較的、自分は常識人だと思い込んでいた早苗は自分がずれていると言われたのも今までにないことだったので更に戸惑った。
「私はレミリアとか魔理沙によくさせられるし」
「私は別に気にならないし」
「いやいやいや……霊夢さんに至っては騙されてるだけですよそれ」
「そう?」
「そうですよ!いいから離れてください!私の前では許しませんよそんな不潔な行為は!」
「何をそんなに怒ってるのよ」
「どこが不潔なのかしら」
霊夢はたまに天然の時があるが、このアリスも同様のようだ。ますます似ている。
仕方なそうに居間から座布団を持って来ると折り曲げて簡易即席枕を作り寝転んだ。
「これじゃちょっと硬いのよねー」
なんて言いながら。
そんな一悶着があった後、しばらくして霊夢はすやすやと眠りに入ってしまった。
またアリスと二人きりになってしまい、視線を宙に彷徨わせている早苗を他所に、アリスはゆっくりとお茶を啜る。
暖かさに、ほぅ…と息を吐いて目を細めるといった、ただそれだけの仕草もアリスがすると色っぽく見えてしまい、
一瞬ドキリとしてしまう早苗であったが、首をブンブンと振って邪念を払う。
とにかく何か話そうと早苗、
「ア、アリスさんは霊夢さんとどんな関係なんですか?」
「……はぁ?」
何か話そうと焦るあまり咄嗟に出してしまったとはいえ、我ながら何だ今の質問はと早苗は頭の中で自分の頭にげんこつをした。
変な目で見るアリスに慌てて補足する。
「いえその、何と言いますか。アリスさんは宴会で何度か見かけましたから何となく気になってですね……」(自然に膝枕はするし)
「霊夢と私の関係……」
「ほら、友達とかライバルとか」
「……友達、なのかしら?」
「いや、私に聞かれても……」
「少なくともライバルってことはないと思うけど。貴女からはどう見える?」
「アリスさんからここに来られるということはやはり友人、なのではないでしょうか。神社にはいつも来られるんですか?」
「いつもではないわ。なんとなく来たくなったら来るし気が向かなければ来ないし。逆に霊夢がウチに来ることもあるわね。お茶菓子をたかりに」
(あの霊夢さんが自分から出向くなんて。私が守矢神社に誘っても来ないのに……)
ちなみにそれは弾幕ごっこにハマっている諏訪子につき合わされ、酒豪の神奈子に酒を無理やり飲まされ潰されてと
散々な目にあうのを霊夢が巫女の勘で察知したからである。
「友達だとか仲間だとか、そういうのを特別意識したことはない。それに」
「それに?」
「貴女も似たようなものじゃない。貴女と霊夢は友達?」
「私と霊夢さんは……」
確かに友達というのは少し違う気がする。
異変の時に初めて会って、弾幕ごっこして、撃墜されて……
そう考えると霊夢と早苗は決していい関係ではないのかもしれない。
でも何故だろう。
暴走気味だったとはいえ、こちらの目的の邪魔をした相手のはずなのに異変が終わったら神奈子も諏訪子も神社の宴会に足を運ぶようになって、
気づいたときには霊夢に魅かれる自分がいた。
きっと皆こうなのだろう。異変に関わり霊夢に関わった者は彼女に魅かれ、その集いが宴会の時に集まる人間、妖怪、妖精、神。
宴会が行われている時の神社は、間違いなく幻想郷で最も危険な場所だ。考え方によっては最も安全な場所なのかもしれない。
冷静に考えてみると、とんでもない集会を開く巫女だ。
そんな霊夢と自分がどんな関係かと聞かれても答えようがなかった。
「分からないでしょ。それと同じ」
「……」
「不思議よね。みんな霊夢に負かされて痛い目見てるはずなのに、事が終わったら誰とでも仲良くなっちゃう。霊夢だけじゃない、
魔理沙に咲夜、それに貴女も。人間は不思議よねぇ。元人間の台詞じゃないけど」
魔法使いという種族には大きく分けて二種類いる。
生まれながらにして生粋の魔法使いである者。そして修行を積んで人間から魔法使いという種族に変化する者。
アリスは後者であるらしいが、彼女の人間時代のことは霊夢や魔理沙も知らない。触れてはいけないところなのかもしれない。
ちなみに前者には紅魔館の動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジが当てはまる。
「霊夢は特にね。昔から変なやつだったわ」
「あの、アリスさんは霊夢さんといつから?」
「私は小さい時、魔界ってところにいたの。そこで霊夢に会ったわ。でも霊夢はそのことを覚えてないらしくてね。
だから霊夢に私と始めて会ったのはいつだったか聞いても、幽々子達が異変を起こした時だと言うと思うわ。……まぁどちらでもいいけど」
「何故でしょうね。思い出したくないことでもあるとか?」
「酷いわよね。私にあんなことしておいて」
クスっと笑って意味深なこと言い出すアリス。
「い、一体何をされたんですか?」
「……内緒よ」
言うことがいちいち意味深すぎるよこの人、と早苗は思った。
「それでも私は忘れない……霊夢との出会い」
そうポツリと呟いてアリスは俯いてしまった。
その時アリスがどんな表情をしていたのかは早苗からは見えなかった。
この話を聞いて霊夢との付き合いが最も長いと予想される魔理沙よりも、このアリスは霊夢を知っているような、早苗にはそう感じられた。
彼女の物言いだけでなく、ここに来てから霊夢とアリスがいるこの空間の雰囲気がそう言っているような気がするのだ。
何より先ほどまで黙っていたアリスが、霊夢のことを話し出すとよくしゃべる。
もしアリスが魔界という場所で霊夢と初めて会ったというのが本当ならば、霊夢がそれを忘れてしまっていることはきっとすごく悲しいことだろう。
二人を繋ぐ大事な思い出が、片方で欠落してしまっているのだから。「どちらでもいい」なんて嘘だ。
そんな会話をしているうちに日も暮れ、巫女が昼寝から目を覚ました。
「あーもうこんな時間か。悪かったわねあんまり相手できなくて」
「大丈夫ですよ」
「いつものことじゃない」
ボリボリと頭を掻きながら欠伸を殺すことなく口を全開する霊夢。その仕草は完全におっさんのソレだ。品性もクソもない。
早苗は思う。やっぱり霊夢とアリスが似ているなんて気のせいだったかもしれないなぁ、みたいなことを。
「そうだ。折角だから二人とも晩御飯食べてく?」
「そうね、いただくわ」
「私も。八坂様と洩矢様にはもう晩御飯作っておきましたから」
一応、神奈子や諏訪子といった『神』も飯は食べる。
食べなくても信仰がある限り死ぬことはないのだが、味は分かるのでそれを楽しむことはできる。
ようするに守矢の神は飯を食べる趣味のある神様なのだ。
そんなわけで三人で晩飯を手分けして作ることになった。
「じゃあ私はこの野菜切るから。早苗は火起こして、アリスは食器の準備とそこの芋の皮剥き頼むわ」
「分かったわ」
「分かりました」
早苗は料理は割と得意だが、火を起こすという作業はあまりやったことがない。
外の世界はガスコンロがあるし、妖怪山でも河童の技術でそれに近いものは開発されている。
だから幻想郷で主流の方法である木を擦ったり火打石を打ったりしての火起こしをしたことはあまりなかった。
早苗がしばらく火を起こすのに悪戦苦闘していると
「痛っ」
霊夢の小さな悲鳴が台所に響いた。
早苗とアリスは何事かと霊夢に駆け寄る。
「どうしました霊夢さん!?」
「指先を少し切っただけだから大丈夫よ」
「少しって……すんごい血出てますよ」
今霊夢が切ったのはひとさし指だが親指にもすでに絆創膏が張ってあった。
(結構不器用なんだ。何でもできる人だと思ってたからちょっと意外だなぁ……)
万能な人間などいない。
確かに霊夢は高い能力を持った人間であるが、全てにおいてというわけにはいかない。
異変解決や妖怪退治をしている時以外はご飯を食べ、掃除をし、昼寝をしたりする一人の人間の少女なのだ。
こんな凡ミスをすることだってある。
「とにかく救急箱取ってきま……」
「こんなの唾でも付けときゃ治るでしょ」
パクッ
「ちょ、ちょっとちょっと何してるんですかちょっとぉー!!」
早苗は仰天した。「ちょっと」という言葉を一行に三回使うくらい仰天した。
指を切ってしまったとき、その指を口にくわえるのは人間の習性に近いものと言える。そして霊夢もそれをやった。
その事実は驚くことではないのだが、(少なくとも早苗から見たら)これはどう考えてもおかしい。
血が出ている指をくわえたのが霊夢の口ではなくアリスの口だったのだから。
「いきなり大声出さないでよ。吃驚するじゃない」
「吃驚したのはこっちですよ!一体何をしてるんですか!?」
「だから唾を付けてるのよ」
「それは分かりますよ!なんでアリスさんが舐めるんですか!?私を舐めてるんですか!?」
「いや、指を舐めてるんだけど」
「そういう意味じゃなくて……ってそんなことはどうでもいいでしょう!霊夢さんも霊夢さんです!何を黙って舐めさせてるんですか!」
「指をよ」
「だからそういう意味じゃなああああああい!」
指を差してギャーギャーと喚く早苗を前にきょとんとする二人。
「だって他人の唾の方が効くって聞いたことあるし」
「うんうん。昔からの言い伝えとかなんとか」
「ありませんよそんな言い伝え!」
「えーウソぉ?聞いたことないの?」
口元を袖で隠しながら「ププ、そんなことも知らないの?」とでも言いたげな半笑いで早苗を見る霊夢。
何か馬鹿にされたような気分になった早苗は更に声を荒げる。
「誰ですかそんなインチキ話を持ち込んだスカタンは!!」
「スカタンって……私は確か魔理沙から聞いたわ」
「あ、私も魔理沙から聞いた」
「魔理沙さんが言う意味不明な理論をホイホイ信じないでください!まったくあの人は!」
(そんなことこの二人に教え込んで……ま、まさか!)
・・・・・
「霊夢ー。外で弾幕してたら指切っちゃったぜ。舐めてくれ」
「ったく仕方ないわねぇ」
「アリスー。魔法の実験の素材の仕分けしてたら指切っちゃったぜ。舐めてくれ」
「あーもう。さっさと出しなさい」
・・・・・
(とかやってるんじゃ……。こ、これはひどい!これはひどい!!)
魔理沙がこの場にいたら「私はそんな変態じゃないぜ」なんて言うだろうが、もしそう言われても早苗は疑うだろう。
それほど彼女はしれっと嘘を吐く少女なのだ。
「何一人でブツブツ言ってんの?」
「よだれ垂れてるわよ」
「はっ!?……い、いえ、何でもありません」
ジュルリ
「と、とにかく!んなもん嘘に決まってるでしょう!」
「あーアレって嘘だったの」
「どうりでみんなに変な目で見られるわけね」
「人前でしたんですか!」
「だから今だって普通にしてたじゃない」
「恐ろしい!無知というのは本当に恐ろしい!」
ヒィィ!と頭を抱えてブンブン振り回す早苗。知らない人が見たら普通に変な人である。
霊夢達から見ても十分変な人だが。
「そんなことを誰にでもやるんですか貴女達は!」
「誰にでもってワケではないけどまぁ親しい仲なら……」
「いけません!不潔です不潔!許しませんよそんな不潔な行為は!」
「さっきから何をそんなに怒ってるのよ不潔……じゃなくて早苗」
「どうやったら『不潔』と『早苗』を言い間違えるんですか!いい加減怒りますよ!?」
「だって早苗が何度も言うから……」
「にしてもあり得ないでしょその間違い!私が不潔とでも言いたいんですか!?」
「落ち着いてよ。魔理沙から貰ったこのビック●マンシールあげるから……」
「いらんわ!」
そんなこともありつつも、晩御飯は無事にできました。そしておいしくいただきましたとさ。
しかしその日、早苗はあまり食が進まなかった。
・・・・・
「霊夢さんアリスさん大変です!外が真っ白です!」
「本当だ。全然気づかなかった」
「どうりで寒いはずだわ」
突然雪が降り始めた。
昼間はそんな様子はなかったのだが、突然の猛吹雪である。幻想郷にはよくある異常気象だ。
冬の妖怪はさぞ喜んでいるであろう。横殴りの風に辺りの木がこれでもかってくらいしなっている。
「ってのんきなこと言ってる場合じゃないでしょコレ!吹雪ですよ吹雪!」
「大丈夫よ。毎年このくらい降るし」
「その度に雪かき手伝わされるのよね」
「いいじゃないどうせ暇でしょ?」
「私は私で忙しいのよ」
「グダグダ言ってないでとっとと雨戸を閉めましょう!私はあっちやるからお二人はそっちお願いします!」
「えーめんどくさい」
「別にそんな焦らなくても」
「いいから早く急いで早急に!のんびり構えてたら死にますよ!」
「「へーい」」
・・・・・
「はぁ……なんとか終わりましたね」
五分程度経った頃に、三人で手分けして雨戸を閉めおえた。
「でもどうしましょう。これじゃ帰れないですね」
この分だと風神がいる妖怪山はもっとすごいことになっているだろう。
そんな中を飛んで帰るなんて自殺行為だ。しかし歩いていては夜が明けてしまうだろうし、
吹雪に乗じて襲ってくる妖怪がいるかもしれないので危険だ。
「なら泊まってく?」
「え?」
「何よ早苗。嫌なら別にいいけど。この吹雪の中を飛んで帰るがいいわ」
「い、いえ。嫌じゃありませんけど……」
早苗は友人達とお泊り会的なことをしたことがなかった。
外の世界にいた頃の早苗は神に仕える者としての使命感から、友人と遊んで神社を空けることをできるだけしないようにしていたから。
もちろん神奈子や諏訪子はそんな早苗を心配し、友人関係を大切にしろと言ったのだが、一度言い出すと早苗は意外と頑固で、
幻想郷に来てやっと博麗神社に行くようにまでなったのだ。
そんなわけで早苗にとって初めてのお泊り会。増してやここは他でもない霊夢の家だ。ドキドキは三割増しである。
「暇ねぇ……」
特に話すことがあるわけでもなく、コタツの中で暖をとる三人だったが、酒もちょうど切らしていたらしくやることが全くなかった。
そんな状況の中、そんなことを霊夢がもらしだした。
「そうだ。この前魔理沙に貰ったアレを使っていろいろやりましょう」
『アレ』という曖昧な表現は現代人の癖なのかもしれない。
咄嗟にいい表現が思いつかなかった時などに便利な言葉だ。
しかし当然、アレというのは代名詞でしかなく、その人間が何を指してアレと言っているのか分かるのはごく少数の限られた人物だろう。
早苗にはその暇つぶしのための『アレ』が何なのかさっぱり分からなかった。
トランプか何かかな?とか色々考えても見るがそういう雰囲気でもない。
「あぁアレね。いいわ。折角だし早苗も一緒にしましょ?」
「???」
どうやらアリスには分かるタイプの『アレ』だったらしい。
首を傾げる早苗を他所に二人は何かの準備を始めた。
・・・・・
そして遂にその『アレ』は開始される。
「ア、アリスぅ……そこはダメ……こっちよこっち」
「あら、こっちってどっちのことかしらね」
「あの……」
「あぁもう意地悪しないで……こっちだってばぁ」
「分かったわよ。全く霊夢は慌てんぼさんねぇ」
「あの~……霊夢さん?アリスさん?」
「あぁ……そこ……」
「じゃあそろそろイくわよ?」
「……お二人とも聞いてます?」
「あっそんなに急に……落ちちゃう、落ちちゃうよぅ……」
「大丈夫よ霊夢。私に任せて……」
「ちょ……」
・・・・・
「……だぁーもう、やめです!やめぇーっ!」
ガシャーン
「あぁ、いいところだったのにっ……何するのよ早苗!」
「久々の投稿なのにまたこのジェ●ガネタですか!いい加減にしないと怒られますよ!?」
「え、誰に?」
「いろんな人にですよ!さっさとこのジェ●ガをしまってください!」
「早苗、鼻血出てるわよ?唾、付けてあげましょうか?」
「え、マジですか?……っていらんわ!」
ツッコみつつもちょっと考えてしまう早苗だった。
早苗が何度も言ってくれているが三人がしていたのはジェ●ガだ。
霊夢の言っていた暇つぶしのための『アレ』とはジェ●ガのことだったのだ。
決して不純な『アレ』ではない。
「だいたいどこからこんなもん持ってきたんですか!」
「だから最初に言ったじゃない。この前魔理沙にもらったのよ。『私には向かないゲームだから』って」
「その台詞……昔どこかで聞いたような……」
「えー?そうだったかしら」
「まったく、油断の隙もない!」
ジェ●ガを箱の中に片しながらプンスカという擬音を発する早苗に二人はついていけないといった表情だ。
「さっきからあんたは何の話をしてるのよ。今日の早苗変よ?」
「ムカッ……変なのはそっちでしょう!」
「二人ともやめなさい」
ついに『ムカッ』という擬音をついつい口に出すほどにキレた早苗と霊夢の間にアリスが割って入った。
そして諭すように早苗の顔を覗き込む。
「落ち着いて早苗。何が気に入らないのか説明してくれれば私達も頑張るから……」
「えぇい触らないで下さい!」
早苗がアリスの差し伸ばした手をぺチンと弾き返して後方に激しく立ち退いた。
「あ、早苗そこあんまり近寄らないほうが……」
メキ…
「何を言って……ってぎゃああああああ!」
メキメキ…ドガシャーン
いきなり早苗の近くの雨戸が外の吹雪で外れ、早苗にブチ当たり鈍い音を立てた。
「あーあ……遅かったか」
「うぐぐ……な、何なんですかこれ……」
「いやね、そこの雨戸がだいぶガタが来てたからさっきビック●マンシールで補強しておいたんだけど」
「ちゃんと補強してくださいよ!手抜き工事ってレベルじゃないでしょそれ!」
そもそも雨戸をシールで補強しようなんて考え方は常識じゃありえない。
一日の間に何度も何度も己の常識を覆されて早苗のハートはもうギザギザハートだった。あ、意味わかんねえ。
「もういいです!私帰ります!」
「えぇ?」
「外、すごい雪よ?やめたほうが……」
「うるさいうるさい!私に構うなぁー!」
「落ち着きなさいって。ビック●マンシールあげるから」
「もうビック●マンはいいってんだよぉーっ!」
壊れた雨戸のところから吹雪いている外に飛び出した早苗は振り向きざまにアリスに向かって叫んだ。
「確かにライバルでも友達でもありませんね!誰がどう見ても恋人同士じゃー!」
その時、東風谷早苗はちょっと泣いていたという。
そしてものすごいスピードで走ってどっか行った。
「お二人のアホンダラァーーーーーッッ!!」
アホンダラァー……
アホンダラァー……
早苗の心底からの叫びが吹雪いている夜の雪山全体に虚しくこだまし、その姿はやがて吹雪の中に消えていった。
二人はそれをただ見送ることしかできなかった。
・・・・・
翌日、早苗は凍死寸前の状態で雪の中から掘り出されたらしい。
この事件を境に、東風谷早苗は徐々に常識に捕らわれなくなっていったという。
そりゃ早苗さんも暴れますわな。
霊夢と一番付き合いが長い、っていうとやっぱり魔理沙かアリスですかね…
紫はなんだろう。付き合いが長い、というよりずっと昔から知ってる、っていう感じかなと自分は思ってます
紫との初対面が妖々夢PHだとしたらっていう前提ですけど…。
本人達はしっかりしてるように見えて天然なので気づいてないようですがw
腐れ縁ってやはりなんと言うか…周りからすると仰天してしまうことを平然とやってのけるっ!関係になっちゃうんですねぇ…(遠い眼で夕日を見つめる)
読んでる間ずっと笑いっぱなしでしたww
某烏と違って見分けがつくだけマシだろうにww
やってしまいそうですね。
アリスと霊夢のコンビが最高にマッチしていました。
早苗さんいい味だしてるわw
「指を舐めてるんだけど」
がやけにツボったw
すごくいい天然二人組ですね。
このレイアリはデフォルメ絵だと常に白目に違いない
これが原因だったのか…。だとしたら、あの投げ捨てっぷりも致し方ない…。
アリスと霊夢は天然だなw
これは常識を捨てても仕方がない
霊夢とアリスの出会いのくだりがちょっと切ない感じで好きでした。
ギャグもおもしろかったですw
早苗さんが可哀想だ。
クーデレ(?)な二人がかわいいし、振り回される早苗もまた可愛い!
早苗さんツッコミお疲れ様w
吹いた紅茶返してw
おいしく頂きました。