アリス・マーガトロイドはフィギュア萌えだったのでメディスン・メランコリーに劣情を抱いていた。
「というわけで、このキャミィ仕様のレオタードを着なさい」
「嫌だ!」
と言って毒まき散らしながら逃げていったのですかさず追いかけた。
おかしい。どういうことだ。女の子ならみんなキャミィは大好きなはずなのに。ストⅣのケツは反則だと思う。
人里の方へ行くと阿求がいたので行きがけの駄賃で手篭めにしながらアリスは急いで後を追った。メディスンは幸い興奮しているようで、体から毒がだだ漏れになっているのに気づいていない。点々と転がっている死体を追っていけば追跡は容易だった。
妖怪としてはそんなに強くもない体をフルに動かしながら、アリスは走る、走る。日課のジョギングが役に立った。毎日鯖缶三つ食べて牛乳五本飲んでいる甲斐があった。牛乳の方は、バストアップ目的でもあったけれど。
「見つけた!」
アリスは叫んだ。何を? 永遠を!
ひまわりが咲き乱れる太陽の畑にメディスンはいた。チェック模様のスカートに泣きすがって、頭を撫でられている。姫海棠はたてだった。
「ズコー」
アリスはズッコケた。幽香はどこへ行った。
「幽香の予定だったけど、それではあまりにもそのまますぎる、ということで私が出てきたのよ!」
そんなん言われても。
アリスは一応警戒した。この時点でなんか何もかもがどうにもならないことはじゅうぶん察知できたが、それはそれとして相手は界隈では新人さんであるし、あまり人付き合いのない身なので目の前のこのツインテール天狗がどのような能力を持っているのかよく知らない。なんとなく自分と同じひきこもり系のにおいがしたが、舐めてかかるのは危険だった。
人形を展開し、得意の弾幕空間を構築する。右に上海、左に蓬莱、倫敦、露西亜、オルレアーン……数々の人形が各々持分の領域を支配し、必要なだけの射撃をおこなう。オプションの緻密な展開による空間支配と、それを苦も無くやってのける驚異的な器用さと視野の広さがアリスの持ち味だった。
カメラで撮られて消された。ズッコケる間もなく自らの周囲に毒が蔓延していることに気づく。アリスは意識を失った。
◆ ◇ ◆
気づくと縛られていた。椅子に座っていて、後ろに手を回されて、手首を結び付けられている。体自体もぐるぐる巻きにされて身動きが取れなかった。人形もどこかに行ってしまったようだ。これはあれか、エロか、エロなんだな、とアリスは思った。
顔を上げると、はたてがにやにやしながらこちらを見ていた。横にはメディスンがいて、これも萌えフィギュアとしては失格なほどの邪悪な笑みを浮かべている。「くっ、卑怯な!」とか言うべきなのかとアリスは感じた。言おうとしたところではたてが手に何かを持っているのに気づいた。銀色で四角くて、何かの容器のようだった。
「これは調理用のバットです」
敬語で解説が入った。ひきこもりでも新聞記者なので、説明は大事だとよくわかっているようだった。読みにくくて何が起こってるかわからないと点がはいりにくいからね、と自分のことを棚にあげてアリスは考えた。
バットの中には何か、薄いクリーム色でたぷたぷしている液体が入っているようだった。鼻から喉に直接入ってくるような、独特なにおいがする。
「中身はとろけてるチーズちゃんよ」
メディスンが言う。表情がどんどん邪神に近くなってきてあんまり可愛くなかったが、アリスはないところに美を見つける匠の変態だったのでこれはこれでいいかなと思ってごくりと唾を飲み込んだ。
靴を脱がされて、靴下もなくって、裸足にされているのに気づいた。
足の下にチーズが置かれる。上から押されて、素足がチーズにとっぷり浸かった。冷たくもないし、激熱でもないし、中途半端な感じだった。拷問としては何かがズレているような。食べたら美味しそうな温度。
「そこでチュー子さんの登場です」
「ちゅー」
ナズーリンが出てきた。ネズ耳をつけててかわいい。つけているんじゃなくって生えているので、つまりはいつもと同じかっこだった。微妙に目付きが悪いのもいつもと同じ。
「古来より足の裏にバターを塗って、血が出て骨が見えるまでヤギに舐めさせるという拷問があります。今回はチーズと、チーズ大好きネズ美さんであるナズーリンさんを用意させていただきました。さあ舐めてください」
「何も私じゃなくっても本物の鼠でいいと思うが……」
「はたての敬語口調がだんだんうざくなってきたわ」
げんなりしながらアリスは言う。これでは射命丸と区別がつかない。今回出ないからいいけど。
「もういいでしょ。馬鹿なことはやめましょう。そんなに嫌だったのなら、メディスン、悪かったわね。今度はクイーンズブレイドのナナエルの衣装を用意するわ。ナズーリンも、私の足の裏なんか舐めたくないでしょ。もう、縄をほどいてよ」
「いや、私は人の足の裏を舐めるのは好きだ」
「えっ」
「ちょっと汗をかいていたり、かかとの角質を取り切っていなかったりするとさらにいい。ご主人はきれい好きだからね。大好きなご主人だけど、そこだけは少し不満だったんだ」
「この変態!」
「アリスに言われたくないんじゃないかなあ……」
メディスンが言う。ナナエルはゴスと正反対なのでかわいいけどお気に召さない。
では、と言ってナズーリンが足に顔を近づけてくる。やーめーてー、私の純潔は魔理沙のもの、と言って暴れるがはたてとメディスンに両側からがっちりホールドされて動かせない。マリアリの灯は消えたのか。ナズアリなんて見たことない。
そこまでよ! とパッチェさんが乱入してくるのも期待したが、二代目そこまでガールは目の前でチーズによだれを垂らしている。絶望的かと思われた。
「そこまでだ!」
扉がババァーンと開いた。擬音につられて八雲紫がスキマから顔を出したがすかさず引っ込んだ。描写がなかったのでわからなかったが、この場所はなんか、麻薬の取引をやってそうな港の倉庫チックなところだったようだ。
「よ、横浜市警?」
「いえ、人里の警察です」
警察だった。ファンファンファンファン音がしている。パトカーが三十台くらい集まっていた。刑事らしきスーツの男が銃を構えてこちらに向かってくる。完全に包囲されている。おとなしくしろ。
「ふん。人間風情が生意気な口をきくものね」
はたては携帯電話を構えると、写メのボタンに指を載せた。ぱぁんと音がして銃が撃たれたのがわかった。はたての額の中心に当たった。血を流してはたては倒れた。
「速すぎて撮れない……」
「はたてェーーーッ!」
メディスンがかがんではたてにしがみつく。ドロワ見えた。良かった。
警察の男がアリスに近づき、縄を切って解放した。ナズーリンはチーズの入った調理用バットを持っていち早く逃げていた。
立ち上がって警察から渡されたタオルでチーズまみれの足を拭うと、アリスはお礼を言った。
「ありがとう、助かったわ。警察は市民の味方と言うけど、妖怪の味方でもあるのね」
「どういたしまして。では逮捕します」
がちゃり、とアリスの両手に手錠がかけられた。
アリスは混乱した。
「あんた、人里で稗田のお嬢さんを手篭めにしたでしょう。被害届がでてますよ」
忘れてた。
詰まって読み返さなければスルーされているはずのところだった。でも何とかなって良かった。
ああ、これで私も前科持ちか、次にシャバに出るときはファイブスター物語の新刊が出ていればいいな……とうなだれてパトカーに連れて行かれそうになったときにメディスンから毒がぼわっと出てあたり一面に広がった。
そういえば、死体がいっぱい落ちてたっけ。メディスンも捕まるところだったのか。と思いながらアリスは気を失った。
起きると警察の人がいっぱい死んでいた。妖怪の姿はなかった。ハーブティー毎日飲んでて良かった、とアリスは思った。
そのあと人里に行くと慧音先生にヨガシャングリラをくらっていろいろなかったことになった。
ナズ星は本当にいいですね
確かに見たことない
ナズ星は良いよね!
でてきた名有りキャラが全員捕まりそうな気がしてならないがそんな中でもメディスンがかわいい
警察と聞いて小兎姫を思い浮かべたのは自分だけじゃないハズ。
なぜ横浜市警w