*このSSは東方三月精第15,16話『天体の悪魔と神』が前提となっています。
すこし文チル風味があります。
雪が降り積もり、しんと冷えた幻想郷の大晦日。
ある者は今年一年を振り返り、またある者は次の一年に想いを馳せる。
里ではご近所が集まって宴会を始め、子ども達は明日貰えるお年玉の皮算用を行なう。
どんどこ!! どんどこ!! どんどこ!! どんどこ!! どんどこ!! どんどこ!!
「「「「せいやっ!!」」」」
そんな大晦日の夜、博麗神社は褌一丁の男達が織りなす漢気(オーラ)に包まれていた。
「「「「せいやっ!! せいやっ!! せいやっ!! せいやっ!!」」」」
彼らは里の男衆である。
日頃農作業で鍛えぬいた筋骨隆々の肉体を思う存分振り回し、
太鼓の音に合わせて一糸乱れぬ踊りを披露している。
どん!! どん!! どん!! どん!!
「「「「はい!! はい!! はい!! はい!!」」」」
血のような汗と威勢のいい掛け声が博麗神社境内に吹き荒れる。
夏もかくやという猛烈な熱気によって雪は全て溶け去っていた。
どどん!!
「「「「せいやっ!!」」」」
びしっと締めのポーズを決め静止する男達。
その顔からはなにかをやり遂げた達成感が見て取れた。
どん!! どん!! どん!! どん!! どん!! どん!! どん!!
だが新たに太鼓が打ち鳴らされると再び踊り出す。
博麗神社はまさに漢祭り真っ最中であった。
霧雨 魔理沙はそんな光景を鳥居の外から呆然と見つめていた。
今年も大晦日と新年は霊夢と一緒に過ごそう。
そんな魔理沙の考えは神社に到着した途端打ち砕かれた。
「……なんだよこれ」
ぼそっと呟く魔理沙。魔理沙の頭の中では博麗神社はいつも人が居らず、
変わりに女の子同士がいちゃいちゃしたり、仲の良い姉妹がちゅっちゅしたりするところだった。
それはそれでだいぶ偏った見方であるが、少なくともこの風景は魔理沙の博麗神社像からは一番遠い風景だった。
「あら魔理沙、来てたの」
「霊夢!!」
目の前の光景を受け入れられない魔理沙に声をかけてきたのは、お目当てだった博麗霊夢である。
「なんだこれは? あんなの神社らしくないだろ」
今も踊り狂う男達を指さして霊夢に問う魔理沙。
指先が小刻みに震えているのは、漢気に気圧されされているからなのか。
「なに言ってるの。これは立派な神事よ」
「神事?」
自信ありげに微笑みながら答える霊夢。
「太陽が天香香背男命を討伐するための神事、その前準備よ」
「おいそれって……」
思わず苦笑いする魔理沙。
天香香背男命とは明星を指し、もし初日の出が昇っても明星が輝いていれば、その年は妖怪の力が強くなってしまうのだ。
故に博麗の巫女としては大事な神事と言える。
「前は失敗してしまったけど、今年こそ絶対に成功させるわ!!」
ぐっと握りこぶしを固める霊夢。
「ほ……ほう」
「そのために里の人達に頼んで神事の手伝いをしてもらってるの」
「へ~そうなのか~」
魔理沙は目を背け曖昧に返事をする。
ものすごく怪しい態度だが、熱気に当てられてるのか霊夢は気にも止めない。
なにを隠そう神事が失敗した原因、正確には霊夢が失敗したと思いこんでる原因は魔理沙にあった。
少し前の大晦日、ちょっとした悪戯心で光の三妖精と共謀して勘違いさせたのだ。
つまりこの状況は魔理沙が作ってしまったともいえる。
「で~あれはどんな意味があるんだ」
誤魔化すように再び男達に目を向ける魔理沙。
「あれは戦いを前に太陽に捧げられる舞なのよ」
「そうなのか~」
そう言われてみればそんな気がしないでもない。
たしかにこの熱気は戦いを前にした勇ましさととることもできるだろう。
さらによく見ると隅っこの方で山の神社の三人組が柱を持って混じっていた。
何でだと思う魔理沙だったが、彼女達の分社が博麗神社にあるのでそんなに場違いというわけではない。
ほかにも里の付き合いで参加しているのか、火の粉をまき散らす蓬莱人とワーハクタクもいた。
ちなみに彼女達はきちんと服を着ているのであしからず。
だがささやかに花が混じっていようとも、神社は異様な漢気に包まれていることに変わりない。
魔理沙はその漢気(オーラ)に圧されて、思わず森の方に目をやった。
「……んっ?」
そこで珍しい人影を見た。
「どうしたの魔理沙?」
「いや……何でもないぜ。私は端の方で見てるから頑張ってくれ。じゃあな」
そう言うと魔理沙は森の方に歩いてゆく。
「??」
少し首を傾げる霊夢だったが、神事の途中だったことを思い出し祭儀場に戻っていった。
「お前がこんなところにいるなんて珍しいな」
魔理沙が声をかける。
「そうかしら……まあこの辺に来る物好き天狗は文ぐらいだしね」
そう返してきたのは姫海棠はたて、新聞業を生業とする鴉天狗である。
彼女はよく神社に姿を見せる射命丸文の友達である。もっともはたて自身はライバルと主張しているが。
「神社の取材にでもきたのか」
「そうよ」
確かにあの神社の光景は取材の価値があるだろう。
だが魔理沙には一つ不可解なことがあった。
「そういえばチルノ新聞編集長殿はどうした? こういう場にいないなんて珍しいじゃないか」
チルノ新聞編集長、とは他でもない文のことである。
最近チルノとつき合い始めたせいか、『冬のチルノさん特集』とか
『チルノさんお勧めスポット』とか惚けた記事ばかり書くようになったので密かにそう呼ばれていた。
とはいえ他の記事を書かなくなったわけではない。こんな変事があれば一番で駆けつけるはずである。
「あいつなら『霊夢さんが悔しがる顔を撮ってきてくださいね~』なんていって私にネタを寄越したのよ。ああ気に食わない」
情けをかけられたと思ってるのか、不機嫌そうに歯ぎしりするはたて。
それでも来てるあたりネタを見逃せない新聞記者の性なのだろう。
だが魔理沙にはそんなことより聞き捨てならないことがあった。
なぜ霊夢が悔しがるのだろうか?
あの漢祭りの取材ならそんなことは言わないはずである。
ならば……顎に指を添え頭を回す魔理沙。
もっとも答えは簡単に出てきた。なんせ少し前に自分がやったことなのだから。
「なあ文の奴他に何か言ってなかったか?」
推理を確信に変えるため、情報を引き出そうとする魔理沙。
「他に~……そういえば
『写真はサニーさん達に見せる約束なので焼き増ししてくださいね』
とか言ってたわね」
魔理沙の予想通りである。
文はいつぞやの魔理沙と同じことをしようとしているのだ。
三妖精と文、どこでどう繋がっているのかはわからないがチルノの件もあるし、
それなりに妖精とのつき合いも深いのだろう。
このままでは神事は確実に失敗する。
そうなればおそらく霊夢は来年も漢祭りを続けるだろう。
いや、さらにエスカレートさせる可能性が高い。
そんなことになれば来年から大晦日は博麗神社に近づくこともできないだろう。
あの漢苦しい漢気を思い出して背筋にぞっと冷たいものを感じる魔理沙。
そして彼女は決意した。いつもの平和な博麗神社の大晦日を取り戻さなければならない、と。
「こうしちゃいられない!!」
箒にまたがり空に駆け出してゆく魔理沙。
「何なのよ一体?」
はたてはそんな魔理沙を訳も分からず見送った。
もうすぐ年が変わる空を駆け抜ける魔理沙。
目指すは博麗神社から光が明星に見える場所。そこに三妖精がいるはずである。
そのとき、魔理沙を妨害するように一陣の風が吹いた。危うくバランスを崩しそうになる。
「そんなに急いでどこに行かれるので」
「出やがったな……文!!」
「いや~そんな敵意むき出しで呼ばれると照れますね~」
大口開けてわざとらしい笑いをする文。
もっとも目は笑っておらず魔理沙を睨んだままだが。
「ちょっと急ぎなんでな。道を開けてくれないか」
「それがですね~この先には通すなと頼まれてますので迂回してくれませんか」
そう言いつつも構えをとる文
すでにやる気満々だ。
「お前にしちゃ真面目なことだな。そんなに霊夢が悔しがる顔を見たいのか」
「まあそれもありますが知り合いがどうしても見たいと仰いまして。
何でもこの前はある魔法使いに誘われてやったのに結局自分達は何も見ることが出来なかった、と」
「へっ?」
「いや~意地の悪い魔法使いもいたものですね~」
「おっ……そうだな……」
とたんに目をそらす魔理沙。
大本の元凶であるが故に立場がない。
「まあそんなわけなので、諦めて家にでも帰ってください」
だがここで引き下がる訳にもいかない。
このままでは博麗神社は漢神社街道まっしぐらである。
「こちらにも事情があるんでな。道を開けてもらうぜ!!」
真っ正面から突破しようとする魔理沙。
それを鼻で笑いながら文は八手の葉を振るった。
数時間後……
「あけましておめでとうございます魔理沙さん」
「ああ、おめでとさん!!」
年もかわり、もうすぐ日の出という頃合いになっても魔理沙は文を突破できていなかった。
文は風を操り魔理沙を足止めする一方、自分は距離をとって守りに徹していた。完全に時間稼ぎである。
なんせ風の壁によって中々進むことはできず、文を攻撃しようにもそのスピードと小回りの良さで簡単に避けられる。
かといって無理矢理突破しようと隙を見せれば即座に攻撃に転じてくるのだ。
これを正面から突破できるのは文と同種の速さを持つ天狗か、
常識外れた力を持つ鬼か、はたまたその両方を持つ吸血鬼ぐらいなものだろう。
残念ながら魔理沙は普通の人間である。速さに自信はあっても小回りは利かないし鬼のような馬鹿げた力はない。
「どうしましたか魔理沙さん!! 動きが鈍いですよ」
「うるせぇ!!」
それに加えて冬空を飛び続ければ体は冷え体力も消耗する。
風が噴きつけてくるのならなおさらだ。文も条件は同じはずなのだが、やはり人間と妖怪という種族の差を感じざるえなかった。
「もうすぐタイムリミットですね~」
「くっ……」
すでに勝ちを確信して得意顔の文。
反面苦い顔をする魔理沙。
そしてついに空に一点の光が灯った。
「ふふふ、私達の勝ちですね」
それを見た文は胸を張り勝利宣言をする。だが同じものを見た魔理沙の頭には、一つの閃きが灯っていた。
なにも文を突破する必要などなかったのだ。なぜなら、ここからだってあの光を落とす術を魔理沙は持っているのだから。
「おい文!!」
「なんですか魔理沙さん」
にやにやと勝ち誇った笑みで魔理沙を見る文。
だが次の魔理沙の言葉でその表情はあっさり崩れた。
「チルノに浮気したって言いつけるぞ!!」
「はっ?」
「文はあの三人組と仲良くやってましたってチルノに言ってやる!!」
「ちょちょちょちょちょっと待ってください。
あのお三方はあくまでお友達ですよ。私はチルノさん一筋です!!」
「仲良くしてたのは本当だしあいつ単純だからあっさり信じるんだろうな。
まあ新年早々言い訳頑張ってくれ」
「そんなっ!!」
チルノの名前が出たとたん先ほどの余裕はどこへやら。
文は頭を抱え悲鳴のような声をあげる。
そのせいで魔理沙がニヤリと笑ったことを見逃してしまった。
「隙ありだぜ!!」
「しまっ……!!」
気づいたときには時すでに遅し。
一瞬の、だが決定的な隙をついて魔理沙は八卦炉を光の方に向けると、
「マスタァァァスパァァァァク!!」
残された全ての力を解放した。
所変わって博麗神社。
神事を終えた霊夢は日が昇る空を眺めていた。
そこに光る星一つ。
「そんな……また失敗だというの……」
呆然とする霊夢。
後ろの男達にもがやがやと動揺が広がっていく。
その瞬間を捕らえて密かにシャッターを切るはたて。
だが次の瞬間、虚空からのびた光が星を飲み込んだ。
「……」
あまりの展開に言葉もない霊夢達。
だが我に帰った霊夢は、
「やったわ。神事は成功よ!!」
と一転笑顔になって歓声を上げる。
「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
男達も歓声をあげその勝鬨は大きなうねりとなって幻想郷中に響きわたった。
「ふぅ、これで成功したのなら次からもこれでいきましょ」
魔理沙が聞いたら卒倒しかねないことを口走る霊夢。まあ冷静に考えれば当たり前の発想なのだが。
「皆さん来年もよろしくお願いします!!」
「「「「おう、任せておけ霊夢ちゃん!!」」」」
こうして魔理沙の頑張りとは裏腹に、漢祭りは博麗神社の大晦日定例行事となるのだった。
めでたしめでたし?
すこし文チル風味があります。
雪が降り積もり、しんと冷えた幻想郷の大晦日。
ある者は今年一年を振り返り、またある者は次の一年に想いを馳せる。
里ではご近所が集まって宴会を始め、子ども達は明日貰えるお年玉の皮算用を行なう。
どんどこ!! どんどこ!! どんどこ!! どんどこ!! どんどこ!! どんどこ!!
「「「「せいやっ!!」」」」
そんな大晦日の夜、博麗神社は褌一丁の男達が織りなす漢気(オーラ)に包まれていた。
「「「「せいやっ!! せいやっ!! せいやっ!! せいやっ!!」」」」
彼らは里の男衆である。
日頃農作業で鍛えぬいた筋骨隆々の肉体を思う存分振り回し、
太鼓の音に合わせて一糸乱れぬ踊りを披露している。
どん!! どん!! どん!! どん!!
「「「「はい!! はい!! はい!! はい!!」」」」
血のような汗と威勢のいい掛け声が博麗神社境内に吹き荒れる。
夏もかくやという猛烈な熱気によって雪は全て溶け去っていた。
どどん!!
「「「「せいやっ!!」」」」
びしっと締めのポーズを決め静止する男達。
その顔からはなにかをやり遂げた達成感が見て取れた。
どん!! どん!! どん!! どん!! どん!! どん!! どん!!
だが新たに太鼓が打ち鳴らされると再び踊り出す。
博麗神社はまさに漢祭り真っ最中であった。
霧雨 魔理沙はそんな光景を鳥居の外から呆然と見つめていた。
今年も大晦日と新年は霊夢と一緒に過ごそう。
そんな魔理沙の考えは神社に到着した途端打ち砕かれた。
「……なんだよこれ」
ぼそっと呟く魔理沙。魔理沙の頭の中では博麗神社はいつも人が居らず、
変わりに女の子同士がいちゃいちゃしたり、仲の良い姉妹がちゅっちゅしたりするところだった。
それはそれでだいぶ偏った見方であるが、少なくともこの風景は魔理沙の博麗神社像からは一番遠い風景だった。
「あら魔理沙、来てたの」
「霊夢!!」
目の前の光景を受け入れられない魔理沙に声をかけてきたのは、お目当てだった博麗霊夢である。
「なんだこれは? あんなの神社らしくないだろ」
今も踊り狂う男達を指さして霊夢に問う魔理沙。
指先が小刻みに震えているのは、漢気に気圧されされているからなのか。
「なに言ってるの。これは立派な神事よ」
「神事?」
自信ありげに微笑みながら答える霊夢。
「太陽が天香香背男命を討伐するための神事、その前準備よ」
「おいそれって……」
思わず苦笑いする魔理沙。
天香香背男命とは明星を指し、もし初日の出が昇っても明星が輝いていれば、その年は妖怪の力が強くなってしまうのだ。
故に博麗の巫女としては大事な神事と言える。
「前は失敗してしまったけど、今年こそ絶対に成功させるわ!!」
ぐっと握りこぶしを固める霊夢。
「ほ……ほう」
「そのために里の人達に頼んで神事の手伝いをしてもらってるの」
「へ~そうなのか~」
魔理沙は目を背け曖昧に返事をする。
ものすごく怪しい態度だが、熱気に当てられてるのか霊夢は気にも止めない。
なにを隠そう神事が失敗した原因、正確には霊夢が失敗したと思いこんでる原因は魔理沙にあった。
少し前の大晦日、ちょっとした悪戯心で光の三妖精と共謀して勘違いさせたのだ。
つまりこの状況は魔理沙が作ってしまったともいえる。
「で~あれはどんな意味があるんだ」
誤魔化すように再び男達に目を向ける魔理沙。
「あれは戦いを前に太陽に捧げられる舞なのよ」
「そうなのか~」
そう言われてみればそんな気がしないでもない。
たしかにこの熱気は戦いを前にした勇ましさととることもできるだろう。
さらによく見ると隅っこの方で山の神社の三人組が柱を持って混じっていた。
何でだと思う魔理沙だったが、彼女達の分社が博麗神社にあるのでそんなに場違いというわけではない。
ほかにも里の付き合いで参加しているのか、火の粉をまき散らす蓬莱人とワーハクタクもいた。
ちなみに彼女達はきちんと服を着ているのであしからず。
だがささやかに花が混じっていようとも、神社は異様な漢気に包まれていることに変わりない。
魔理沙はその漢気(オーラ)に圧されて、思わず森の方に目をやった。
「……んっ?」
そこで珍しい人影を見た。
「どうしたの魔理沙?」
「いや……何でもないぜ。私は端の方で見てるから頑張ってくれ。じゃあな」
そう言うと魔理沙は森の方に歩いてゆく。
「??」
少し首を傾げる霊夢だったが、神事の途中だったことを思い出し祭儀場に戻っていった。
「お前がこんなところにいるなんて珍しいな」
魔理沙が声をかける。
「そうかしら……まあこの辺に来る物好き天狗は文ぐらいだしね」
そう返してきたのは姫海棠はたて、新聞業を生業とする鴉天狗である。
彼女はよく神社に姿を見せる射命丸文の友達である。もっともはたて自身はライバルと主張しているが。
「神社の取材にでもきたのか」
「そうよ」
確かにあの神社の光景は取材の価値があるだろう。
だが魔理沙には一つ不可解なことがあった。
「そういえばチルノ新聞編集長殿はどうした? こういう場にいないなんて珍しいじゃないか」
チルノ新聞編集長、とは他でもない文のことである。
最近チルノとつき合い始めたせいか、『冬のチルノさん特集』とか
『チルノさんお勧めスポット』とか惚けた記事ばかり書くようになったので密かにそう呼ばれていた。
とはいえ他の記事を書かなくなったわけではない。こんな変事があれば一番で駆けつけるはずである。
「あいつなら『霊夢さんが悔しがる顔を撮ってきてくださいね~』なんていって私にネタを寄越したのよ。ああ気に食わない」
情けをかけられたと思ってるのか、不機嫌そうに歯ぎしりするはたて。
それでも来てるあたりネタを見逃せない新聞記者の性なのだろう。
だが魔理沙にはそんなことより聞き捨てならないことがあった。
なぜ霊夢が悔しがるのだろうか?
あの漢祭りの取材ならそんなことは言わないはずである。
ならば……顎に指を添え頭を回す魔理沙。
もっとも答えは簡単に出てきた。なんせ少し前に自分がやったことなのだから。
「なあ文の奴他に何か言ってなかったか?」
推理を確信に変えるため、情報を引き出そうとする魔理沙。
「他に~……そういえば
『写真はサニーさん達に見せる約束なので焼き増ししてくださいね』
とか言ってたわね」
魔理沙の予想通りである。
文はいつぞやの魔理沙と同じことをしようとしているのだ。
三妖精と文、どこでどう繋がっているのかはわからないがチルノの件もあるし、
それなりに妖精とのつき合いも深いのだろう。
このままでは神事は確実に失敗する。
そうなればおそらく霊夢は来年も漢祭りを続けるだろう。
いや、さらにエスカレートさせる可能性が高い。
そんなことになれば来年から大晦日は博麗神社に近づくこともできないだろう。
あの漢苦しい漢気を思い出して背筋にぞっと冷たいものを感じる魔理沙。
そして彼女は決意した。いつもの平和な博麗神社の大晦日を取り戻さなければならない、と。
「こうしちゃいられない!!」
箒にまたがり空に駆け出してゆく魔理沙。
「何なのよ一体?」
はたてはそんな魔理沙を訳も分からず見送った。
もうすぐ年が変わる空を駆け抜ける魔理沙。
目指すは博麗神社から光が明星に見える場所。そこに三妖精がいるはずである。
そのとき、魔理沙を妨害するように一陣の風が吹いた。危うくバランスを崩しそうになる。
「そんなに急いでどこに行かれるので」
「出やがったな……文!!」
「いや~そんな敵意むき出しで呼ばれると照れますね~」
大口開けてわざとらしい笑いをする文。
もっとも目は笑っておらず魔理沙を睨んだままだが。
「ちょっと急ぎなんでな。道を開けてくれないか」
「それがですね~この先には通すなと頼まれてますので迂回してくれませんか」
そう言いつつも構えをとる文
すでにやる気満々だ。
「お前にしちゃ真面目なことだな。そんなに霊夢が悔しがる顔を見たいのか」
「まあそれもありますが知り合いがどうしても見たいと仰いまして。
何でもこの前はある魔法使いに誘われてやったのに結局自分達は何も見ることが出来なかった、と」
「へっ?」
「いや~意地の悪い魔法使いもいたものですね~」
「おっ……そうだな……」
とたんに目をそらす魔理沙。
大本の元凶であるが故に立場がない。
「まあそんなわけなので、諦めて家にでも帰ってください」
だがここで引き下がる訳にもいかない。
このままでは博麗神社は漢神社街道まっしぐらである。
「こちらにも事情があるんでな。道を開けてもらうぜ!!」
真っ正面から突破しようとする魔理沙。
それを鼻で笑いながら文は八手の葉を振るった。
数時間後……
「あけましておめでとうございます魔理沙さん」
「ああ、おめでとさん!!」
年もかわり、もうすぐ日の出という頃合いになっても魔理沙は文を突破できていなかった。
文は風を操り魔理沙を足止めする一方、自分は距離をとって守りに徹していた。完全に時間稼ぎである。
なんせ風の壁によって中々進むことはできず、文を攻撃しようにもそのスピードと小回りの良さで簡単に避けられる。
かといって無理矢理突破しようと隙を見せれば即座に攻撃に転じてくるのだ。
これを正面から突破できるのは文と同種の速さを持つ天狗か、
常識外れた力を持つ鬼か、はたまたその両方を持つ吸血鬼ぐらいなものだろう。
残念ながら魔理沙は普通の人間である。速さに自信はあっても小回りは利かないし鬼のような馬鹿げた力はない。
「どうしましたか魔理沙さん!! 動きが鈍いですよ」
「うるせぇ!!」
それに加えて冬空を飛び続ければ体は冷え体力も消耗する。
風が噴きつけてくるのならなおさらだ。文も条件は同じはずなのだが、やはり人間と妖怪という種族の差を感じざるえなかった。
「もうすぐタイムリミットですね~」
「くっ……」
すでに勝ちを確信して得意顔の文。
反面苦い顔をする魔理沙。
そしてついに空に一点の光が灯った。
「ふふふ、私達の勝ちですね」
それを見た文は胸を張り勝利宣言をする。だが同じものを見た魔理沙の頭には、一つの閃きが灯っていた。
なにも文を突破する必要などなかったのだ。なぜなら、ここからだってあの光を落とす術を魔理沙は持っているのだから。
「おい文!!」
「なんですか魔理沙さん」
にやにやと勝ち誇った笑みで魔理沙を見る文。
だが次の魔理沙の言葉でその表情はあっさり崩れた。
「チルノに浮気したって言いつけるぞ!!」
「はっ?」
「文はあの三人組と仲良くやってましたってチルノに言ってやる!!」
「ちょちょちょちょちょっと待ってください。
あのお三方はあくまでお友達ですよ。私はチルノさん一筋です!!」
「仲良くしてたのは本当だしあいつ単純だからあっさり信じるんだろうな。
まあ新年早々言い訳頑張ってくれ」
「そんなっ!!」
チルノの名前が出たとたん先ほどの余裕はどこへやら。
文は頭を抱え悲鳴のような声をあげる。
そのせいで魔理沙がニヤリと笑ったことを見逃してしまった。
「隙ありだぜ!!」
「しまっ……!!」
気づいたときには時すでに遅し。
一瞬の、だが決定的な隙をついて魔理沙は八卦炉を光の方に向けると、
「マスタァァァスパァァァァク!!」
残された全ての力を解放した。
所変わって博麗神社。
神事を終えた霊夢は日が昇る空を眺めていた。
そこに光る星一つ。
「そんな……また失敗だというの……」
呆然とする霊夢。
後ろの男達にもがやがやと動揺が広がっていく。
その瞬間を捕らえて密かにシャッターを切るはたて。
だが次の瞬間、虚空からのびた光が星を飲み込んだ。
「……」
あまりの展開に言葉もない霊夢達。
だが我に帰った霊夢は、
「やったわ。神事は成功よ!!」
と一転笑顔になって歓声を上げる。
「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
男達も歓声をあげその勝鬨は大きなうねりとなって幻想郷中に響きわたった。
「ふぅ、これで成功したのなら次からもこれでいきましょ」
魔理沙が聞いたら卒倒しかねないことを口走る霊夢。まあ冷静に考えれば当たり前の発想なのだが。
「皆さん来年もよろしくお願いします!!」
「「「「おう、任せておけ霊夢ちゃん!!」」」」
こうして魔理沙の頑張りとは裏腹に、漢祭りは博麗神社の大晦日定例行事となるのだった。
めでたしめでたし?
しかし、文の公然としたのろけっぷりが清々しいw