いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅう。
「ねえ……いいでしょぉ」
彼女は舌っ足らずな甘い声で僕に語りかけてくる。
果たしてこれは何度目のやりとりだろうか。
「私、もう我慢出来ないよぉ……」
耳元に吐かれる熱い吐息。
「……はぁ」
それと共に放たれるとんでもない酒気に困惑しながら、僕は彼女にこう伝えた。
「駄目だよ、この酒は君には売れない」
「そんなぁー」
彼女――伊吹萃香は酔いの回った淀んだ目で僕を睨みつけてきた。
「普段なら構わないが、この酒には先客がいてね」
僕は趣味で酒造りをやっている。
いつぞや霊夢にこの店は酒造りは向いていないと言われたことがあるが、僕もただの古道具屋ではない。
何を隠そう道具の名称と用途が分かる程度の能力を持っているのである――のだが残念なことにそれは全く関係ない。
それとは別の、マジックアイテムの作成という特技を活かすことで独自の酒を造る事に成功したのである。
特にこの酒は、何度も失敗と研究とを重ねて造った自慢の逸品だ。
その味は目の前の鬼、伊吹萃香が欲しがる程で酒銘は『三歩必殺』という。
この酒の命名者は地底に住まう鬼、星熊勇儀である。
魔理沙に勧められて土産を買いに来た彼女と話している際に、酒造りのアイディアを貰ったのだ。
そうして造り上げた試作品を萃香に呑ませたところ、物凄く喜ばれたので少数ながら生産を続けることにしたのだ。
これは霊夢や魔理沙にもたまに呑ませてやっているが好評で、この味を知っている者は密かに裏メニューとしてこの酒を買いに来たりするくらいだ。
最も前者二名は代金など払った試しが無いので、正式な客としては十六夜咲夜と魂魄妖夢、八雲藍、永江衣玖くらいだろうか。
恐らく買いに来た者らは、仕える物にその酒を献上しているのであろう。
あるいは自らその味を堪能しているのかもしれないが。
どちらにせよ誉れな事だ。
本業である道具の販売よりも儲けているのではないかという点に関しては、この際気にしないことにする。
とにかくそれほどの美味なのだ。この酒は。
「じゃあ次の分はいつになるの~?」
ごろんと店の真ん中でひっくり返った萃香が訪ねてくる。
営業妨害だと言いたくなるが、他に客もいないので言いようがなかった。
「当分予約で埋まっているから……まあ、早くて再来月かな」
「再来月ぅ!」
がばっと跳ね起きる萃香。
「だって酒虫使えばすぐにお酒出来るんだよ?」
「そんな便利なものと一緒にしないでくれ。これでも早いほうだ。酒を造るのには時間がかかるんだよ」
本来ならば、酒の旨味を出すには半年から一年程は熟成期間を置かなくてはいけないのだ。
そこを僕の技術や自作のマジックアイテムなどを使って、かなり短い時間に短縮している。
これ以上を求めるとなると、それこそ酒屋に転職しなければいけなくなってしまうだろう。
それは僕の目指す道ではない。
「じゃあどうすればいいのさ~」
「諦めて帰ることだね」
「嫌だ」
萃香はぶすっとした顔のまま立ち上がり、店の入口近くにいったところで座り込んでしまった。
「そこに居座られてしまうと困ってしまうな」
「これでも鬼なんでね。欲しいと思ったらそれを手に入れないと気が済まないのさ」
「僕にどうしろというんだい」
萃香の淀んでいた目が一瞬、ギラリと鋭いものに変わる。
「森近霖之助。お前に勝負の方法を選ばせてやろう。私が勝ったらその酒は頂いていく」
「断る。僕にその勝負を受ける理由がない」
「そんな選択肢は存在しないよ。それなら強引に奪っていくまでさ」
「……やれやれ」
またずいぶんと性質の悪い酔っぱらいに絡まれてしまったものだ。
「僕が勝った時の褒美は我が身の無事だけかい。褒美のひとつやひたつ欲しいものだがね」
「鬼相手に無事ってのは相当に幸運だと思うんだけどね。ま、いいよ。あんたが勝ったら私が叶えられる範囲で願いを聞いてやろう」
「願いを?」
「そうさ。この幻想郷。まだ見たことのない道具がどこかに落ちているかもしれない。私の能力なら、それを萃めることが出来る」
「……なるほどね」
それならば、僕が勝負を受ける意味はありそうだ。
万が一負けたとしても、失うのは命ではなく酒なのだから。
鬼相手にこんな条件で戦うなんて破格といってもいいくらいだろう。
「ああ、先に言っておくけど、前と同じ方法は通じないからね」
「……まあ、そうだろうね」
いつぞやも、彼女に酒のことで絡まれたことがある。
その時の勝負で僕が勝つために選んだ方法はこうだ。
僕がこの酒を飲む間、君はこの酒を飲むのを我慢してくれ。我慢しきれたら君の勝ちだ。
彼女はそれを承諾した。しかしこの勝負方法は僕の仕掛けた罠だったのだ。
途中で我慢出来なくなったら彼女の負けになり、彼女は酒を飲むことが出来ない。
最後まで我慢したら、僕は酒を飲みきってしまっている。酒は既に無い。
つまり、彼女が酒を飲む方法も勝つ方法も無い勝負だったのである。
「勝負をするのは今すぐでなくても構わないかい?」
残念なことに、今の僕には彼女に勝てるいい方法が思いつかなかった。
「余り気は長いほうじゃないんだ。日が暮れるまでには決めて欲しいね」
「そうかい」
時間は丁度正午を少し過ぎたくらいだった。
「少し出かけてくるよ。それまでには必ず戻る」
「構わないけれど、いいのかい? 店をがら空きにして」
「問題ないさ。これ以上無い程に力強い門番が店頭にいるからね」
「そりゃあ最もだ」
僕の皮肉に萃香はからからと愉快そうに笑っていた。
「こんにちわ」
僕は久々に来た人里で、これまた久々に稗田家を訪れていた。
「お久しぶりですね、森近霖之助さん」
以前訪れたのは果たしてどれくらい前だったか。蝉が大量発生した夏だったのだが。
「ああ、確かに久しぶりだね。元気そうで何よりだ」
九代目御阿礼の子、稗田阿求。
彼女はこの稗田家にある、幻想郷で起きた事柄を収めた膨大な資料の全てを暗記しているという。
そしてその資料の執筆は、彼女によって現在も続けられているのだ。
以前尋ねた時の経験があるので、僕の名前を覚えられていた事にはさほど驚かず、簡単に要件のみを尋ねる事にした。
「今日ここに来たのは他でもない。実は家に鬼が来て困っているんだ。退治する方法はないかい」
「ありませんね」
即答されてしまった。
「鬼に対して貴方は、どのような印象をお持ちですか?」
逆に阿求が訪ねてくる。
「と言われてもね。大して知っていることは無いよ。力が強くて、酒が好き。嘘が大嫌いで、頭には角が生えている」
「ええ、だいたいそのような感じですね」
「それと勝負事が大好きで、人間に勝負を挑んでは、負けた人間をさらっていた……と。これじゃあ丸っきりおとぎ話の知識だけだ」
「普通の人が知っているのは、それくらいでしょう」
鬼という種族はその知名度に反して、不思議なくらいに資料が無いのである。
それこそ本当に、おとぎ話の中だけの存在だと思われていたくらいだ。
僕も萃香に会うまでは、鬼の実在を信じてはいなかった。
「一応鬼の資料はありますので、内容をかいつまんでお話いたしましょうか」
「頼むよ」
「むかーしむかし、幻想郷には鬼がたくさん住んでいて、幻想郷では一番強く恐ろしい妖怪だと言われていました」
何故か阿求はおとぎ話を子供に聞かせるような語り口であった。
「鬼は妖怪の山で天狗や河童を手下にしていました」
そういえば、天狗の文が萃香のことを苦手だと言っていた覚えがある。
「時折人里に降りてきては、人間に勝負方法を決めさせて色々な勝負を挑み、負けた人間を攫っていたりしました」
そう。あくまで鬼は人間に勝負方法を決めさせるのだ。
萃香が僕に、そうしたように。
これはきっと、はるか昔に人間と鬼との間で決められた『約束』なのだろう。
「しかしいつの間にか、幻想郷から鬼は一人残らず姿を消してしまったのです」
「それは何故だい?」
「わかりません。平和な幻想郷に飽きて、どこか別の世界へ行ってしまったのかもしれませんね」
ちなみにいなくなった鬼たちは、地底都市に移り住んでいたようで、偶然の異変によって霊夢たちに発見されることになった。
元々鬼は地底……つまりは地獄に住んでいたものらしいので、鬼達にとっての故郷に戻っていたとも取れる。
そんな鬼たちが今になって見つかったのは、果たして何の因果なのだろうか。
「他には?」
「特にありませんね。それで、おしまいです」
「鬼の退治法なんかは書いてないのかい?」
阿求はふるふると首を振った。
「かつては鬼を退治する方法もあったようですが、幻想郷の長い歴史の中で分からなくなってしまっているんです」
「……そうなのか」
鬼を退治出来る特別な方法を知っていた者も、おいそれと誰かに漏らすわけにはいかなかったのだろう。
ある一族にのみ伝わる、一子相伝の業のようなものだったのかもしれない。
地底の鬼たちの発見は後に記される事になるだろうが、御阿礼の子とて知らない事は書きようがないのである。
「やれやれ、まいったな。炒った豆を投げたり鰯の頭や柊の枝葉を突きつけても駄目かい」
これは民間にも伝わっている、鬼が苦手とされているものだ。
「嫌がるのは間違いないでしょうが、退治は出来ないと思います。そもそも後者は鬼が来る前に用意しなくてはいけないものですし」
「……それもそうか」
「ですが、そういった民間に伝わるおまじないや風習は何かしらの意味があって伝えられているものなのですよ」
「ああ。それは理解出来る」
「灯台下暗しという言葉もありますしね」
既に本来の意味は失われているのかもしれないが、普段している何気ない行為にも実は深い意味があったりするのだ。
『いただきます』という食事の前の挨拶も、食べる生き物や植物に対する感謝の気持ちを表している言葉だという考えがある。
あるいは作ってくれた人物に対しての感謝を示す言葉として『いただきます』と伝えているという説もある。
「あの?」
「おっと」
少し思考が逸れてしまっていた。
僕が考えなくてはいけないのは、鬼退治なのである。
「ですから案外身近なところに、解決方法があるのかもしれませんね」
「……ふむ」
身近なところと聞いて僕は真っ先に霊夢や魔理沙の事を考えた。
成程、彼女たちを頼れば退治は出来ないとしても何とかすることは出来るだろう。
それはもちろん真っ先に考えた事なのだが、それはそれで結局彼女らに酒を求められる事になりそうで、選択肢にしたくはなかったのだ。
「仕方ない。そうするよ」
背に腹は代えられぬという奴だ。霊夢や魔理沙なら、造るのに手間がかかる酒以外のものでも頼みを聞いてくれるだろう。
「ええ。町をゆっくり眺めてお帰りください。今日はいい天気です。外では子供たちも元気に遊び回っていますよ」
「そんな暇があればいいんだがね。早めに帰らないとさらに機嫌を損ねてしまいそうだ」
「貴方ならば気づくことが出来ますよ、きっと」
「うん?」
阿求は何か意味ありげに笑っていた。
「何せ英雄の項目に載っている方ですから」
「……それは君が勝手にやったことだろう」
彼女の纏めている幻想郷縁起では何故か僕は英雄に入れられている。
霊夢や魔理沙が入っているのは納得出来るが、僕が入っていることに関しては首を傾げざるを得ない。
「先程の言葉を思い出して頂ければ理解は出来ると思います」
「わかった。ありがとう」
僕は彼女に礼を言い、稗田家を後にした。
「英雄……か」
彼女が僕を英雄の欄に載せている理由は、なんとなくではあるが予想出来る。
妖怪退治をしている代表者、霊夢や魔理沙の武器、衣類などを整備調達しているのが他ならぬ僕であるからだ。
彼女たちも、全く道具が無い状態で妖怪退治をするのは難しいであろう。
前線で戦う彼女らを、陰ながら支える功労者。
そういった意味で英雄として推してくれたのだと思う。
「まてまて~!」
僕の目の前を童女が走っていき、その後ろを氷の妖精チルノが追いかけていた。
「へへーんだ」
童女がチルノに向かってあかんべぇをしてみせる。
間近で童女の母親らしき人がにこにことその光景を見つめていた。
なんとまあ、平和な光景である。
「むーっ!」
「こっちだよー」
再び童女が僕の前を通り過ぎていく。
次の瞬間、パシャリという音と共に空から放たれた眩い光が彼女たちを包み込んだ。
「?」
不思議そうな顔で光の放たれた方向を見上げる童女。
見上げた空には射命丸文が浮かんでいて、カメラを片手にしてひらひらと手を振っていた。
「やっほー!」
童女は写真を撮られたことはよく分かっていないのだろうが、文に向けて手を振り返してみせる。
「つっかまえたー!」
「あっ」
そこをチルノに捕まえられてしまう。
「やっぱりあたいったら最強ね!」
童女を捕まえたチルノは文に向けてびしっとブイサインをしてみせる。
それを見た文は再びパシャリとシャッターを切り、満足気に笑っていた。
「じゃあこんどはあたいが逃げるからね」
「うん」
童女は壁に向き直り、数を数え始めた。
「いーち、にーい」
「よーし!」
チルノは元気よく駆け出し、童女から離れていく。
「!」
僕はばっと空に浮かぶ文を見た。
「さーん、しーい」
それから、数を数え続ける童女に目線を移す。
「そうか、そういう事だったのか……」
僕はようやっと、それの示す意味を理解出来た。
「あの、どうかしましたか? 何か凄い形相してましたけど」
「ああ、いや」
それに気づいてしまった衝撃を、隠すことが出来なかったのだ。
「文。君は天狗だね」
「あやややや、何を当たり前のことを聞いているんですか?」
「そうかい? 天狗にしては鼻が長くないようだがね」
「それはまた別種の天狗ですよ。天狗と言っても色々いるんですから」
「……」
僕の考えはいよいよ確信へと変わった。
人、妖、そして鬼。
間違いない。そうか。そういう事だったのか。
「ありがとう。君が写真を撮ってくれたおかげで気づくことが出来た」
「え? あ、はい。それはどうも」
僕は走りだした。
目指す場所は香霖堂。
やるべきことはただひとつ。
これから始まるのは――英雄、森近霖之助の鬼退治の話である。
「やあ、おかえり。そんなに息を切らせて来なくてもよかったのに」
鬼。
伊吹萃香は僕が出てきた時と同じように、入り口に座りこんでいた。
「あまり長く待たせてはいけないと思ってね」
彼女の横をひょいとすり抜け店の中に入る。
通せん坊をするつもりはなかったようだ。
「ああ、言っておくけど客なんか誰も来なかったよ」
「……それは残念だ」
彼女は立派に店番をしてくれていたようである。
「さてと」
店の中にある、置きっぱなしにしてあった酒。
彼女はあれだけ欲しがっていたのにも関わらず、手をつけた様子はない。
勝負をしようと言ってきた以上、それを勝手に飲む行為は鬼という種族の実直さを考えるとあり得ない事なのだ。
だから敢えてそれを置いたままで店を出た。
阿求の前ではあまり鬼の知識を語らなかったが、僕はもしかしたら彼女以上に鬼を知っているのかもしれない。
何故ならここは香霖堂。外の世界の商品も取り扱う店だからである。
「で、勝負の方法は決まったのかい?」
「……その前に、少し話をしよう」
「構わないよ」
萃香はぐびぐびと瓢箪の酒を飲みながら答えた。
「稗田の家を尋ねたんだ」
「ああ。御阿礼のなんとかだっけ。それで鬼の退治方法は見つかったかい?」
彼女も見た目からは想像出来ない程に、長い年月を生きている妖怪である。
稗田家の事は知っているようであった。
「いや。見つからなかったよ」
「だろうね。鬼をそう簡単に退治出来るもんか」
「ああ。退治することは出来ない――が」
そもそも、退治をする必要など無かったのである。
「今すぐにここから、君を追い払う方法はある」
「……聞かせてみな」
萃香は口を拭い、ぎっと鋭い瞳で正面から僕を睨みつけてきた。
「ああ、いや、その前に別の話があるんだ」
「何だい?」
「何故、鬼は幻想郷から姿を消したのか。それは不明とされている」
「ああ、そうだね。私は例外だが」
「阿求は平和な幻想郷に飽きたのではないかと言っていた。確かにそうかもしれない」
しかし、幻想郷が今のように平和になったのは極々最近の事である。
それに全ての鬼がそう思ったとは限らない。
「あるいは人間たちが卑怯な手段を使って鬼退治をするから、そんな人間らを見限ったのではという考えもある」
それならば、鬼の退治方法がもっと広まっていてもいいはずだ。
鬼を退治する方法は、幻想郷には残されていないという。
「そもそも、妖怪の山で、天狗や河童を手下としていた鬼ならば……人間が鬼退治に来たとしても彼らを使役することでそれを防ぐ事が出来たはずなんだ」
「……何が言いたいのかね、お前さんは」
阿求の言葉。
あれが無ければ僕は気づかなかっただろう。
「ある人間が、鬼とそれを行った。そして……鬼が鬼だからこそ、幻想郷からいなくならざるを得なかったんだ」
身近なところにこそ、答えはあったのだ。
「それは――『鬼ごっこ』だ」
萃香は、無言だった。
「この遊びは、年端のいかない子どもでも遊ぶことが出来る、非常に単純なものだ」
行うには、最低二人いればいい。
一人の『鬼の役』が数を数え、数え終わったら、逃げる『人間の役』を追いかける。
『鬼の役』が『人間の役』を捕まえることができたら終わり。
「この遊びは、単純だが、それ以上に――酷く曖昧なんだ」
鬼の数える数字。参加する人数。逃げる範囲。
「鬼が捕まえた相手が、さらに鬼になったり、鬼を交代するというルールもある。派生された遊びも多い。しかし」
それらの多くにも、共通する曖昧な部分がある。
「これらの遊びは、『鬼の役』が逃げる相手を捕まえなかった時……追いかけなかった場合に、いつになったら終わるのか。それがまったく決められていないんだ」
子供の遊びであるから?
「それが決められていない事には大きな意味があったんだ」
「……」
萃香は依然、無言のままだった。
「そもそも何故この遊びは鬼ごっこと言われているのか。おとぎ話の鬼のように追いかける『鬼の役』が逃げる相手……『人間の役』を捕まえるからと普通は考える」
いや、考えないだろう。
これは単に『鬼ごっこ』という名前の遊び。
ここで使われている『鬼』はただの記号に過ぎないと思われているだろう。
「『鬼』は文字通り鬼そのもの。君たちを指す言葉だった。だがこの後ろに『ごっこ』がつく。つまり『鬼の役』をやるという意味だ」
そして。
「本物の鬼が『鬼の役』を演じたら意味はない。そのままだからね。これは人間がやらないといけない」
この遊びが、民間に広く伝わっている事にも意味がある。
「ある人間が『鬼の役』を演じ、数を数えた後『人間の役』の鬼を追いかける。『人間の役』を捕まえたら終わりとしよう」
繰り返すが、この遊びはどこまでも曖昧である。
決まっているのは追いかける者が、逃げる者を捕まえたら終わり。それだけ。
「だが追いかける『鬼の役』が、逃げる『人間の役』を追いかけなかったら……『鬼ごっこ』は終わらないんだ」
逃げる側の『人間の役』の鬼が出来ることはただひとつ、捕まえてくれる『鬼の役』が追ってくることを待つだけだ。
そしてこれが成立するためには、大前提がある。
それは鬼が人間に勝負の方法を選ばせるという事である。
鬼はそれを破ることを、しなかった。
「この『鬼ごっこ』という遊びが幻想郷に広まることで、鬼は人を捕まえることが出来なくなったんだ」
どんなに力の強い鬼であろうが『鬼ごっこ』の相手をする事になった鬼は、逃げるしかない。
『鬼役の人間』が年端もいかない子供相手だろうが、何だろうが。
「それこそ強引に、自分から捕まりにでも来ない限りね」
何故ならば『鬼ごっこ』には、時間の制限が無いからである。
近くにいればいつでも『鬼役の人間』は『人間役の鬼』を捕まえることが出来る。
幻想郷に住む人間『鬼役の人間』には手を出すことは出来ない。
それならばいっそ、自分たちが姿を消してしまえばいい。
そうすれば『人間役の鬼』を『鬼役の人間』も捕まえられなくなる。
こうして幻想郷から鬼はいなくなってしまった。
「どうだろうか、僕の考えは」
ひと通り話し終えたところで、僕は彼女に問いかけた。
「……くくっ」
ずっと無言だった萃香が、突然笑い出した。
「あっはっはっは。なるほど。巫女や魔女の言っていたとおりだ。お前さんは突拍子も無い考えが好きみたいだね」
「僕は大真面目に言っているつもりなんだがな」
何故なら、今目の前にいる彼女と『鬼ごっこ』をするだけで、彼女は僕に――この店に近づけなくなる。
「おまえさんの言ってる事には肝心な事が欠けてるよ」
「何だい?」
「私はさぁ。割と簡単に負けを認めることが出来るんだ。そしたらそれでもう終わりだろ?」
「……そうか」
「だってそうだろう。鬼は嘘はつかないんだ。勝てないと思ったら、負けを認めるしかないさ」
萃香の表情からは、何も読みとれなかった。
ただただ、どこまでも空虚に見えた。
「……ひとつ、不思議な点があるんだ」
だから僕は話を続けることにした。
鬼ごっこ。
この遊びは追いかける側が、逃げる者を追う気が無かったら決して終わらない。
「何故この追いかけっこは『鬼ごっこ』という名前なんだろうか。人間の視点から見たら、おかしい名前なんだ」
この遊びは『追いかける』のが『鬼の役』である。
「人間が鬼を退治して終わる。つまり『追いかける』のが『人間の役』で『退治されて負ける』のが『鬼の役』ではいけなかったんだろうか」
鬼を忌むべき存在として、見ていたならば。
人の視点から見たら、そのほうが理屈に合っているはずなのだ。
「それではいけない。『追いかける』のが『鬼の役』でなくてはいけない理由があるんだ」
鬼は強力で、恐ろしい存在であると伝えられているが、同時にもうひとつ、伝えられている点がある。
つい今さっき、彼女自身が言ったばかりの言葉だ。
「鬼は嘘をつかない。それはつまり『決まりを守る』事でもある」
鬼は『鬼ごっこ』という『人間の役』の明確な終わりの無い決まりすら、守り続けた。
いやそもそも『人間の役』には終わりは必要が無かったのだ。
「『鬼ごっこ』は『鬼の役』が『鬼ごっこの決まり』……つまり必ず『鬼の役』が『人間の役』を捕まえて終わる事が前提の遊びなんだよ」
『鬼ごっこ』は何故『鬼』『ごっこ』という名前なのか。
「この遊びは、本来勝ち負けを決めるものではなく『人間』が『鬼』を、『鬼』が『人間』を演じることにより、お互いの立場を、気持ちを理解しようとしていたんじゃないだろうか」
それが歪んで伝わった結果が、鬼ごっこであり、今の幻想郷なのではないか。
「……そんな世迷言。信じられるかい」
萃香の口調からは、苛立ちが感じられた。
「あんたの言うことが正しいってんならさ。なんで鬼は姿を消したっていうんだ。人間は鬼を捕まえる気があったんだろう?」
「ああ。少なくともこの遊びの発案者はそうするつもりだったはずだ」
「……だった?」
「その人間は……捕まえたくても、追いたくても追えない状況になってしまったんじゃないだろうか」
鬼は妖怪の中でも最も力が強く、恐ろしい妖怪であると信じられている。
「『鬼ごっこ』の『人間役の鬼』が。『鬼役の人間』が数を数えただけで逃げていく様を見て、他の人間や妖怪は何を思っただろう」
炒った豆に鬼は弱いという。
鰯の頭や柊の枝葉に鬼は弱いという。
それらと同じように。
「『鬼ごっこ』は鬼を追い払うための効果的な手段であると、誤解されてしまったんだ」
鬼を恐れる人間や妖怪にとっては、逃げた鬼を捕まえる必要は無い。
むしろ、別のことを考えたはずだ。
「そして『人間役の鬼』を『鬼役の人間』が捕まえてしまったら『鬼ごっこ』は終わってしまう」
妖怪の山に住まう、天狗や河童ですら、鬼を苦手としていた。
いや、そのあまりの強さに疎んでいたと言ってもいいだろう。
「だから、他の人々には何も知らせず『鬼ごっこ』の発案者を幽閉……あるいは、殺してしまったんじゃないだろうか」
そうすれば『鬼ごっこ』は終わらない。
「そして真実は伝わらずにただ『鬼ごっこ』という遊びが『勝ち負けを決める』ものとして、広まっていく」
『鬼ごっこ』を挑まれた鬼は、逃げて追われずそのままにされるか、捕まえられて負けるかしか無くなってしまった。
そんな世界に、場所に何の未練があろうか。
だから鬼は、今でも幻想郷にいないままなのだ。
「……人間ならば、やりかねないね」
萃香はぼそりと呟いた。
「鬼ならばあり得ない事だけどさ」
鬼は何よりも、卑怯な事を嫌うのだ。
「それで、その話を私にして、どうするつもりなんだい?」
「……僕は君と勝負をする約束をしているはずだ」
「ああ。そうだね。お前さんが勝ったら……私の知ってる事を話せってか?」
「……」
仮に、だ。
僕の考えが概ね正しかったとして。
「鬼が幻想郷から一人残らず姿を消してしまったとしたら、人間は絶対に鬼を捕まえられることが出来なくなってしまう」
それは鬼にとって、人間との『鬼ごっこ』の決まりを破ることになるのではないだろうか。
『鬼役の人間』が『人間役の鬼』を捕まえなければ『鬼ごっこ』は終わることが無いのだ。
例えその約束が忘れ去られてしまっていたとしてもだ。
少なくとも、最初に『鬼ごっこ』を遊ぶことを選んだ鬼はそう考えているはずだ。
『鬼ごっこ』が『勝ち負けを決めるもの』と解釈していたとしても、決着はまだついていないのだから。
「幻想郷には……ただ一人だけ、残っている鬼がいた」
小さな百鬼夜行。
伊吹萃香。
「君は鬼の存在が、忘れられた頃になってようやっと姿を現した」
鬼は忘れられた。
同時に『鬼ごっこ』という遊びの真の意味も忘れられてた。
「長い幻想郷の歴史で……鬼のことが忘れられてしまったからこそ、君は現れたんだ」
忘れられた存在。鬼。
勝てるかどうかは『分からない』が『勝てるかもしれない』と人間は考えた。
人間は、鬼に幻想郷の新たな決まりである『弾幕ごっこ』で勝負を挑んだ。
そして鬼はそれに挑み……敗北した。
「萃香。君は人間との約束を果たすために残っていたんじゃないか?」
「話す義理は私には無いね」
萃香は肯定とも否定とも取れない返事をした。
「ああ。それとたまには嘘をつくこともある。私の言った事が全て正しいだなんて思わない事だ」
「そうかい」
それでも。
「何もかも今更さ。鬼は地底に自分たちの居場所を見つけたからね」
いや、それならば。
それだからこそ。
「僕の半身である人間の血にかけて、君を負かせてみせようじゃないか」
「……鬼ごっこをするつもりかい」
萃香は酷く暗く、冷たい目をしていた。
「いや、それをしたら君はきっと二度とこの店を訪れないだろう」
即座に負けを認め、この場から立ち去ってしまうに違いない。
そして……この幻想郷からすら消えてしまうだろう。
「僕は先ほど『鬼ごっこ』の発案者が殺されたのではないかと言った。だがそれは決して無いと思う」
これは結果論である。
しかし鬼という恐ろしい存在を退ける方法の発案者を、英雄をどうして殺すことが出来ようか。
「その者が自由に身動きを取れなくなったのは間違いないだろうがね」
『鬼ごっこ』は『勝ち負けを決める』ものとして伝わってしまい、鬼はもう、彼女を除いて幻想郷にはいないのだから。
「何でもいい。早く勝負の方法を言いな」
「ああ。ここまで話したんだ。決着は『鬼』という言葉がつく遊びでつけるつもりさ」
鬼という言葉がつく遊びはたくさんある。
高鬼。色鬼。氷鬼。
僕は敢えて鬼の名を冠する遊びで、彼女に勝つ。
いや、勝たなくてはいけないのだ。
僕の想像のように『鬼ごっこ』の発案者が幽閉されて、その場から動けなくなっていたとして。
『鬼の役』をやっていた人間が相手としていた『人間の役』をしていた本物の鬼に『鬼ごっこ』の真の意味に気づいて貰うには、何が出来ただろうか。
その者に出来ることは殆ど無かったはずだ。
だからこそ増やしたのだろう。
『鬼ごっこ』のように鬼の名をつく様々な遊びを。
そしてその中にひとつだけ、答えを残したのだ。
幻想郷の歴史を記憶する少女。
阿求は僕に道標を授けてくれた。
灯台下暗し、と。
「僕が『鬼の役』をやり、君を捕まえよう。ただ、普通に追いかけるんじゃあない。目隠しをして、その状態で君を追いかけるんだ」
この遊びの名は『目隠し鬼』という。
目隠しとはつまり、身動きが出来ないことの暗喩と取れる。
「君が『人間の役』をやってくれ。そして手を叩きながら、ある言葉を言うんだ。その音と声を頼りにして『鬼の役』は『人間の役』を捕まえる」
この遊びに関してだけは『鬼』という言葉が表すのは『鬼の役』ではなく本物の鬼だったのではないか。
身動きが取れず、鬼に会うことが出来ない。
そんな人間が鬼に、自分の場所を、存在を気づいて貰う為の言葉。
「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ」
鬼さん、どうか手の鳴るほうへ来て下さい。
そう。
この遊びは唯一『鬼』を『人間』が招いているのだ。
「……っ!」
びしり、と萃香が拳を置いていた床にヒビが入った。
「さて目隠しをしなくちゃいけないな。君はちゃんと僕の言ったとおりにしてくれよ」
「……ああ」
目線のおぼつかない、ややうなだれた様子で答える彼女。
布を巻いた僕の視界からは、何も見えなくなった。
「一応、数を数えようか。十でいいかな」
「……ああ。それで、いい」
「分かった」
言われたとおり、数え始める。
いーち。
にーい。
さーん。
しーい。
ごーお。
ろーく。
しーち。
はーち。
きゅーう。
じゅう。
僕が数えている間、彼女が動いた様子はないようだった。
ぱんぱん、と二回手を叩く音。
それから萃香の声が聞こえる。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
「ええと、こっちかな」
僕はそれを頼りに歩き始めた。
ぱん、ぱん。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
「……おっと」
歩いている途中で何かにぶつかってしまった。
がしゃりと大きな音がしたが、気にしないことにしよう。
「……」
しかし、それから萃香の声が聞こえなくなってしまった。
手を叩く音も、聞こえない。
「萃香?」
「……っくっ……えぐっ……っ……うっ」
「……萃香」
鬼の涙。
それが何に対してなのか。
真実は僕には分からないが――
「……おに、さん、こちら、ての、なる、ほう、へ……う……えうっ」
――僕の腕は、確かに少女を。
鬼、伊吹萃香を。
「捕まえた」
抱きしめてやることが、出来た。
『鬼ごっこ』は『鬼の役』が『人間の役』を捕まえて終わる。
そう。
『退治』ではなく『捕まえて』こそ終わるのだ。
「う……ぐっ……えぅっ……ぁっ……うああああっ……!」
その瞬間、泣き声は嗚咽から慟哭へと代わり――僕は彼女をただずっと抱きしめて続けてやった。
「……完全に私の負けだよ」
まだ赤い目をしたままの萃香は、曖昧な笑みを浮かべて僕にそう告げた。
「約束は守る。願いを言いな。森近霖之助」
「そうだな。僕の願いは……」
願いはあった。
しかし今はそれはもう、どうでもいい事だった。
「また気が向いたら店に来てくれ。その時は、何か買ってくれると嬉しいね」
「……っ!」
萃香は一瞬大きく目を見開き、その瞳が潤みかけていたが、ぶんぶんと首を振りぷいと僕に背を向けてしまった。
「……バッカ野郎。せっかく収まったってのさ」
「ああ、いや、すまない」
「だが、有難う。本当に」
「僕はただ、君と鬼ごっこをしただけさ」
「……あんたは……」
くるりと向き直った彼女は口を開き、何か言いかけた。
一瞬の間。
「……本当に大馬鹿野郎だね。一攫千金の好機だったのかもしれないのに」
「ああ、そうだね」
それは彼女が本当に今言いたかった言葉だったのだろうか。
「じゃあ、帰るよ……その」
僕は彼女の肩を叩き、出来る限りの笑顔で言った。
「ここは香霖堂。人も妖も、もちろん鬼もいつでも歓迎しているよ。またおいで」
「……もちろんさ!」
最後に力強く答え、彼女は去っていった。
静寂。
「さてと。そろそろ来る頃じゃないかな」
僕は誰もいない空間にひとりごちた。
カランカラン。
すると狙い済ましたかのように、ドアベルの音が鳴った。
「まだやっていらっしゃいますか?」
「……待っていたよ、紫」
やってきたのは偶然にも、僕の造った酒の次の購入予定者である。
「わざわざ入り口から入ってくるなんて、珍しいことだ」
「いえいえ、極々普通の事ですわ」
それは訪れるのが彼女で無ければ、の話だ。
隙間妖怪――八雲紫。
彼女が玄関からやって来たことなんて、今まで一度足りともない。
それも式神を使わずに、紫自身が入口から訪ねてきたのである。
「どこから聞いていたのかな」
「何の話かわかりませんわ」
扇で口元を隠した彼女の表情からは、何も読みとれなかった。
「私はただ、お酒を受け取りに来ただけです」
「そうかい」
「入り口から入ってきたのは、礼を示すためですわ」
「礼……ね」
「それに私とて、全てを知るわけではありませんもの」
「ああ」
この世に起きた全ての事を知っている者など、いやしないのだ。
「ところで、貴方は源義経という人物を知っているかしら」
「……外の世界の物語の人物だね。実在していた人物らしいが」
「この人物は、書かれている書物によって人柄も、背丈も、全く異なっているそうですわ」
「それはそうだろうね。書いた者の視点や考えによって、どうとでも変わってくる」
源義経の味方であれば、よく書こうとするだろうし、敵であったならば悪く書こうとするだろう。
そして書く側の『都合の悪いこと』は書かない……あるいは『知っていても書けない』場合もある。
「まあ、どうでもいい話ですわね」
「ああ、どうでもいい話だ」
幻想郷には、鬼についての資料はほとんど残されていない。
鬼はあまりにも、強力すぎたのだ。
そのものが以上に、人や妖怪達の『想像上の鬼』が。
皮肉なことに、幻想郷はその名の通り幻想こそを強く受け入れる世界であったのだ。
「……ここからはただのひとりごとよ。聞きたくなければ適当に聞き流してくださるかしら」
「ああ。構わない」
僕は椅子に腰掛け本を開いた。
そうして目を本へ向け、読んでいる振りを始める。
「知ることが幸福とは限らない。過ぎてしまった時も、戻る事は決して無い」
ぺらり。
ページをめくる。
「けれど、きっと彼女は救われた」
続けてページをめくる振りをして……僕は動きを止めてしまった。
八雲紫が、僕に向けて深々と頭を下げていたのだ。
「有難う。私の友人を救ってくれて」
「……さあ、何の事だか。すまないね。本に夢中で全く何も聞いていなかったよ」
僕は、かろうじてそう告げるのが精一杯だった。
「そう」
姿勢を戻した紫はまたいつもの、胡散臭い笑みを浮かべていた。
「せっかく想いを込めた熱烈な告白をいたしましたのに」
「そういうのは他の相手にしてやってくれ。君みたいな大妖怪相手に僕じゃ役不足だ」
僕は冗談のつもりで彼女にそう伝えた。
この『役不足』も誤って伝わり、本来とは異なって使われる事が多い言葉なのだ。
「ええ役不足ですわ」
紫はくすくすと笑っている。
それは僕がわざと誤って使っている事を見透かしているのだろうか。
「ひとつだけ、教えてあげる」
「何だい?」
「蛙の子は――蛙よ」
「は?」
「それじゃあ、代金はここに置いて行くわね」
「あ、こら、ちょっと……」
それだけ言って、紫は酒と共に隙間の中へと消えてしまった。
「……結局、何も分からないな」
全ては僕の想像であり、真実は闇の中だ。
そして、真実を知る必要も無いだろう。
彼女はもう救われたというのだから。
理解出来ないことは考えないに限る。幻想郷で長く生きる為の秘訣だ。
ただ、ひとつ、紫の言葉を元に大胆な予想を付け加えるならば。
「英雄の子は――英雄ということかい」
鬼ごっこを始めたのは、僕の……いや。もう止めよう。
何せあの隙間妖怪の言うことだから、適当に流しておいたほうがいい。
だがこれで楽しみも増えた。
僕はこれから先の事。未来のことを考えるとしよう。
「酒の肴話としては、ちょっとしたものになるだろう」
また萃香がこの店に来た時は、語ってやろうじゃあないか。
僕はこの鬼、伊吹萃香と鬼ごっこをした英雄なんだぞと。
それを聞いたら彼女は僕に『勝負』を挑んでくるだろう。
その時はどんな勝負をしようか。
それは自分の中ではほとんど決まっていた。
問題は条件だけである。
今度はお互いがきちんと終わるための、決まりを作ればいい。
『弾幕ごっこ』は人と妖の新しい遊びとして幻想郷に受け入れられた。
新たに始めようじゃないか。
この、幻想郷で。
人と妖と鬼による、新しい『鬼ごっこ』を。
完璧でした。お見事です
古今東西老若男女、本当に意味があるのです。
社会形成と廃除、信頼と裏切りの天秤、未知への挑戦、美しい物の模倣……
世界とは、そうした遊びにより出来ているのかもしれません。
そして 今大きな悲しみを産んだ一つの遊びが、終わったのですね。
でも萃香って地底にちゃんと居なかったか?勇儀がそんな事を言っていたような。・・・まぁいいか
話の構成が素晴らしかったです。
霖之助が萃香を捕まえる感動のシーン。鬼つながりで脳裏に浮かべた言葉、「私はおまえをつかまえた」
文句無し
八雲紫ですら頭を下げる彼こそ、阿礼乙女も認める真の英雄。
素晴らしき霖之助と作者様に最大限の感謝を。
霖之助も格好良かったし、GJがいくつあっても足りない
本当はもっとたくさん感想書きたかったけど、書いているうちになんだかよくわからなくなったので、あきらめました。ごめんなさい。
とにかく良かったです。ありがとうございました。
貴方の書く作品は好みの作品が多いけど、今作はその中でも特に好きです
次回作も期待してます
ごっこ遊びも由来を考えたことはなかったなぁ・・・
あと軽い誤用を指摘しておきますが、役不足は自分の力量より下の物を指す言葉なので、この場合は力不足が正しいです
無粋かもというか知っているかもしれませんが、一つだけ・・・役不足ではなく役者不足です。
役不足だと人に対してその役が不足していることになってしまいます。
現在はごちゃ混ぜになって逆の意味として使われているようですが、一応物書きとして。
文句なし。
コメントにレスするようで申し訳ないのですが、文脈から考えて役不足は敢えて誤用しているのでは?
こーりんが語ると惹かれる物語になるのはなんだろうw
つーかコメント102さんも誤用してるじゃんw
コメント読んでいる人が誤解しないように書きますが、「役者不足」は力不足的な意味はありません。
むしろ「役者不足」は造語です。単に役者の数が足りない程度の意味しかないですよ。
役不足の対義語は「力不足」ですね。
あ、このコメント削除していただいて結構ですよ。
素晴らしかったです。
身近な遊びをここまで掘り下げるとは…まずはその発想に天晴れ!
そしてそれを無理なくすんなりと伝えるテクニック、脱帽としか言いようがありません。
正直、同じ物書きとしてちょっと嫉妬しちゃいました
とにもかくにもすばらしい作品をありがとうございます!
童話に残酷な元があるように様々な遊びにも思いがけない…それも残酷な理由から出来た物もあるのか…等と思考が変な方向に進んでしまいました…
変な感想で申し訳ない。
作品は大変素晴らしかったです。
Figmaも出たし!
軽く鬱になりながら読みました。
残酷さとかは童話とかの考察話とかでもあるような気がしますけど、こういう真偽が曖昧な話を霖之助にさせるとすごい引き立ちます。
素晴らしいSSを読ませてもらえた作者さんに最大限の賛辞を
萃香が随分重たい役どころを背負わされて大変な存在になってたところも
またなんというか新鮮でよかったし
素直に泣いて喜べるというところはちゃんと萃香らしくてこれもよかった
これはまた来年も期待していいのだろうか、などと萃香が笑いそうなことを言ってみる。
衣玖さん遊びにきてくれたんですね。いつか衣玖さんと霖之助の絡みも見たいなあ。
いいキャラしてるよ、ホント
鬼ごっこをして勝つという最短の勝利を見つけたのに選ばなかった。
目隠し鬼かぁ。。かっこよすぎるよ霖之助。
萃香や鬼ごっこの設定等、実に読み応えのある作品でした!
しかし、証拠も無いただの推測にしては、霖之助があまりに都合よく、一息に真実に辿りついてしまっているのが残念でした
少し間違えれば萃香やその他の鬼たちに対する侮辱にもなりかねない事柄なだけに、結論だけでなく過程の部分も、もう少し丁寧に書いて欲しかったです
100点以上つけられないのが惜しまれます。
面白かったです。
結果的にを萃香を救った霖之助は、萃香からみれば正に英雄なのでしょうね。
良作をありがとうございます。
じゃないの??もう私らの下らない話即消したくなったわww
また帰りが遅くなっちゃったけど構わない!! お嬢様
霖之助様超カッコイイ。ブラボ~ゥ!!ブラボ~~~ウ!! 冥途蝶
この霖之助様に捕まえてもらいたいです・・
もう何て言うか、言葉がないですよぉ・・!!感動を超えて逆に冷静になってしまいまし
たよ。格の違いを見せ付けられたって感じで、揃って全力で土下座したいです。 超門番
萃香はこの霖之助の行動を許したのでしょうか?
何も語られていないため、その件について二人がどう考えているのかが気になりました。
萃香は騙されたと気づかないほど愚鈍ではないはずだし、実際に今の時点では気づいている。
それなのに嘘をついた人間の前に再び姿を見せた。何のわだかまりも無い様子は不気味でした。鬼はともかく、霖之助が特に。
鬼を謀り勝利したのが本当であるのなら、なぜ鬼が再度店に来たのかについて触れるほうが自然な気がします。
当たり前のように萃香が店内にいて、しかも彼女が騙された事をどう思っているのか霖之助の推測が何もなかった。
鬼は嘘が大嫌いである事は存じているのに。一度の嘘では怒らないのか、酒の魅力に負けたのか、別の理由があるのか思考をしない。
この説明不足のせいで、以前に勝ったというのが事実ではないように感じてしまいました。
彼の考えた方法はきっと正しい。けれど、それが現在と繋がっている様子が無い。
「こうしていれば勝てた」と、後で言っているように思えてしまうのです。
……さすがに何かがおかしいと気づいて、過去の作品集を探してみると96番の中にこの作品の前提の話を見つけました。
明言されていませんが『だんまりくらべ』が共通している事からしても、これはその話の続編という位置づけなのだと思います。
あの話の続きであると考えて読むとすんなり受け入れる事はできたのですが、どうも腑に落ちないのです。
前作を読んでいると更に楽しめる物と、前作を読んでいないと理解できない物はまるで違うと思います。
霖之助の要約は意味を損ない過ぎていて、本作品を単独で読ませるようには機能していませんでした。
これでは触れる意味がありません。むしろ逆効果ではないでしょうか。
もし彼に想起をさせて過去作品と関連付けるのであれば、続編である事をタグや前書きなどに明記して欲しかったです。
などと、冒頭から不満はあったものの、外出する霖之助が萃香と交わした会話は快かったです。
阿求に会って情報を求める場面は幻想郷縁起(求聞史紀)や設定のおさらいだけかと思っていたら、何やら伏線らしきものが。
しかし、後で考察を開始するために必要であった言葉よりも、強調されている一つの単語への疑問が心に残り続けました。
>そう。あくまで鬼は人間に勝負方法を決めさせるのだ。
>これはきっと、はるか昔に人間と鬼との間で決められた『約束』なのだろう。
後にも約束という単語が出てきますが、それは鬼ごっこか、あるいは霖之助と萃香の勝負の約束を意味するだけでした。
この約束についてこれ以降では触れられません。絶対に出てくると予感していただけに、しこりが残りました。
「鬼ごっこ」等、遊び毎にルールの取り決めをするのとはちがって、これは手加減そのものを保障しているようです。
人間がハンデを貰う事は何故か約束であって、鬼から常に押し付けられるものではない。少なくとも霖之助はそう考えた。
彼の論理を支える大前提として破約の否定があります。鬼は決まりを守る、嘘をつかない、約束を反故にしない。
それではどうして手加減をする約束になったのか……その経緯が抜け落ちているのです。
(歩く人物ではなく地面の方を気にかける事など普段はありませんが、彼の言葉によって意識を向けさせられてしまったのです。)
そのため、鬼ごっこを創始したのよりも遥かに大きな功績を残した偉人が忘却されているように感じました。
この話に出てくる英雄が、鬼ごっこと同時にこの約束も取り付けたとは思えません。
語られていないし、何よりその場合は英雄からは鬼を排除しようとする害意が溢れ出てしまうので、ありえないはず。
今回の英雄と無関係で語るつもりの無い話なら、この場面で前提条件に纏わる話を意識させないで欲しかった。
鬼が人間に勝負を決めさせる事そのものが約束であると言われなければ、鬼はそういう存在だと納得できていたと思うのです。
>萃香の真面目な話はいくつか書きたいものがあったのですが
後書きにて仰ったその中のひとつに、今回は語られなかった偉人の話が含まれている事を願います。
>『いただきます』という食事の前の挨拶も~
ところでこれはさすがに単純すぎるというか、どちらもまだ失われていない一般的な考え方だと思います。
深い意味があると言ったのですから、後の考察に見合うような意外性のある意味の発見をして欲しかったです。
子供が人を指差した際に窘められるのは古代の呪術と酷似していたからなのに、今では単に「失礼」ゆえとなったとか。
白無垢やオニギリの由来、七夕と精霊送りの混同とか。これらも大して驚ける話ではないかもしれませんが、それでも……。
いっそ思いつかなかったのなら無理に例を挙げずとも良かったのではないでしょうか。
この後の霖之助には感心させられたのに、その箇所とのギャップが大きすぎるのが非常に残念でした。
>「文。君は天狗だね」
この付近はよくわからなかったのですが、射命丸が鬼の一種ではないのかという確認だったのでしょうか?
よく鬼と混同される天狗達がもし本当に鬼であったなら、自分の説を組み立てなおす必要が出てくるために。
鬼ごっこの考察については感心しきりでした。とても良かったです。
大衆の願望が遊びの本質を歪めても、変異する前の原型を見出そうとする人間は確かにいて、そのおかげで萃香が救われるなんて。
読み始めたときには、こんなに感動的な展開になるとは想像もしていませんでした。
特に驚いたのは目隠し鬼。鬼ごっこの亜種としては知っていたけれど、人が鬼を呼ぶという部分に着目した事は無かったです。
霖之助が萃香を救うために語る場面では、彼の激しい情熱を感じて胸が熱くなりますね。
>『鬼ごっこ』は『鬼の役』が『人間の役』を捕まえて終わる。
>『退治』ではなく『捕まえて』こそ終わるのだ。
それなのに「鬼退治の話」と言ってしまう感性は理解できませんでしたが、鬼を救おうとするひたむきな姿勢には好感が持てました。
ところで、二つの遊びについての解釈には気になる点もありました。
萃香が気がつかないまま納得しているのであれば語るべきではない、けれども後書きや紫との会話で補ってもらいたかった疑問点が。
発案者とは違う目的で鬼ごっこを悪用して人は鬼を追い出した、霖之助はそう言います。
しかし、この「鬼を駆逐する手段」はどのようにして他人に伝わったのか、なぜ発覚したのかが語られていない。
発案者が他人にこの遊びを教えたりはしないと思うんです。鬼にさえ話していない真意を、自分から他の人間に話すとは思えない。
そして目的を秘匿した鬼ごっこは鬼達を永久に追放する呪術でしかないため、悪意を持つ者に形だけを模倣されては困る。
本人からの伝播が無いとすると、盗み聞きや偶然見た者によって模倣されたのでしょうか。その後、真実を知る者は幽閉された。
英雄が人間を信じていなかったと考えるとそうなります。しかし、信じていたのであれば話は変わる。
鬼ごっこの考案者は人間を信じていたために理想と手段を話した。賛同する者もいれば、反対する者もいたはずです。
鬼ごっこをする者の中にも鬼退治を目的にした輩がきっといて、その者達によって英雄は幽閉され、檻の外には彼の理解者が残る。
鬼と理解し合う理想に共感を示した者達によって、目隠し鬼と、その存在を隠すための無数の「鬼ごっこ」の派生を後世に残した?
語られず曖昧に終わってしまったけれど、そんな可能性もあったのだろうかと思いました。
鬼ごっこの遊びは鬼退治のために盗まれたのか、鬼と手を取り合うために伝えられたのか。
どちらの可能性もありえたと感じてしまうし、どちらでも良かった。たぶん、私は書かれていた方を受け入れたはずでした。
霖之助の説明がどちらを前提にしているのか不明であったのが、彼の解釈を素直に認められない最大の原因なのかもしれません。
彼の想定した「英雄」が愚者であるのか、不運であったのか、鬼は信じられても人は信じられなかったのか、知りたかったのです。
そこまで語ってしまうと萃香が細部の間違いから物語を受け入れられないとしても、地の文で語ればよかったわけですから。
結局、考案者は鬼ごっこにこめた真意を萃香に話さなかったというのが最後まで気になっているんです。
もしかすると「言葉にせずとも、この遊びを通じて自分から真意に気づいて欲しい」と考えたのかもしれません。
けれど、そのせいで問題が複雑になってしまった。萃香がずっと苦しむ事になった。そのため理由が無ければ許せないのです。
理由を想像できる言葉が何一つ無いのでは、目隠し鬼もその罪を消すだけの行為になってしまう。マイナスとプラスで総和は零に。
萃香が英雄の真意を想像した事があるのかは不明です。
騙されたと思い込んで昔から怒っていたようにも見える。
また、考えたことはあるけれど、ありえないと自分で否定した解釈を再度突きつけられて受け入れられないようにも見えます。
鬼は何も語らず、読者にも真実はわからない。英雄への感情移入を妨げているけれど、萃香の気持ちは二つともわかる。
きっと霖之助の想像した話が真実ではなくても構わなかったのだと思います。
たとえ遊びを始めたのが萃香自身ではなくとも、本人だけど細部が違っても、そんな事実は存在しなくとも。
あるいは互いを理解するという目的などなく、英雄が鬼を謀るつもりで考案した罠であったとしても問題は無い。
彼の想像には証拠が無くとも、萃香にとって信じられる程の、鬼を幸せにできるだけの熱意がこもっていたのは間違いない。
森近の態度が口先だけではなく本心から鬼を理解しようと努めているようで、過去の誰かと重ね合わせたのだろうと感じました。
互いを理解しようと言った言葉は嘘だったはずなのに、今こうして真実になってしまったと思ったのかもしれませんね。
脇道の存在に目を向けない猪突猛進は、理知という言葉とは程遠いけれど情熱的なで、とても格好が良かったです。(このときは)
>しかし鬼という恐ろしい存在を退ける方法の発案者を、英雄をどうして殺すことが出来ようか。
たとえばここ。これは感情的な言葉です。冷静な分析者は存在しない。
自分の信じたい事だけを信じているかのような態度は賛否が分かれそうで、私も好きであると同時に不満も抱いていました。
感情的な論者が当たり前のように言い切って終わったことについて、第三者であるために納得がいかなかったせいです。
人は英雄を殺せたか、殺せなかったのか。彼は否定したけれど英雄を殺す事はありえると思います。
害する者に悪意か破滅への願望か、あるいはその者なりの論理があれば足りる。
おそらく遊びの決まりごとを誰もが等しく知っていたわけでは無いのでしょう。
いかに如才がない性格であっても、このゲームの発案者は多くを語らない。というより、語れなかった。
相手を疑わずに勝負をする事が前提の、信頼という曖昧なものを底に持つ遊びに細かい規則は相応しくありません。
開始地点から何里まで離れてよいのか、息を潜めて隠れるのは反則か、鬼の役が追わなかったら、もし暴力があったら……?
このような複雑な事を決めてしまうようでは、鬼ごっこは成立しないはずです。
何故なら、人と鬼はそのような関係ではなかった。そのため発案者も細やかな規則を設定できなかったのでしょう。
おそらく人間から見た鬼の横暴さを再現するために人間の役は保護されず、鬼の役の自由ばかりが拡張されてしまった。
しかし、他の人間は詳しい取り決めの内容を求めたでしょうね。ルール違反で遊びが終わりになるのが恐れるがゆえに。
ともかく、知らぬ者は知らぬなりに『鬼ごっこ』で鬼を退ける呪力を保つための最良の策が何かを考えるしかない。
鬼を信じぬ者であれば英雄を殺すことは出来ません。
真面目に追いかける者を殺したせいで鬼が激怒して約束を反故にされるかもしれないと思ったなら、人殺しは集落殺しになる。
鬼と交わした約束はいつまで効力を持つものなのか。曖昧な約束に不安を感じていても、発案者を生かさなければならない。
反対に、鬼を信じる者であれば殺しうる。鬼が約束を違えぬと信じるのであれば英雄の存在は安定を乱す存在でしかない。
鬼の役が勝利条件を満たす前に、この退魔の遊びを終わりとされるより先に、鬼を捕まえる者を殺せば恒久の平和となる。
鬼ごっこを単なる技法として見ると、鬼と約束を結ぶための代表者は不要である事に気がつきます。
英雄の死によって全ての鬼ごっこが終わるという考えは杞憂であって、殺害を戸惑う理由にはならない。
鬼を追う者さえ消えればこの遊びは人によって永続できる――これを信じて行動した者もいるのでしょう。
幽閉をしたのは殺そうとする人間の手から英雄を守るという側面もあったのかもしれない……などと考えたり。
どれだけ想像をしても飛躍した解釈を補いきれたようには思えず、納得している二人に置いてきぼりにされているようだったのです。
英雄が不自由を強いられたという説は支持しますが、その過程にはあまり説得力を感じられませんでした。
「鬼ごっこ」の創始は一人の盲目的な理想によるもので構わない。一人分の思想でいい。
けれどそれを利用する存在には、総意ではない、複数の思惑があったと思うのです。
幽閉されていたという可能性を提示しておきながら、何の前置きも無く彼が残した遊びかもしれないと語るのは納得がいきません。
後世に伝える価値がある呪術であると説明できたからこそ残っているとか、英雄にも味方がいた可能性などの説明が欲しかった。
あるいは子供達を通して残そうとしたとか、幽閉といっても鬼と会わないように見張りがいるだけで牢獄に入ってはいないのだと。
それらを考慮せずには、鬼ごっこの発案者が残した遊びであると言う事は出来ないように思います。
そのため別の人間と鬼とが創った「遊び」を奪い取ったように感じました。
めくらの鬼は、この二人とは無関係の遊びでも良かったのに……強くそう思います。
誰か別の鬼と人が残した丕績によって救われるのでも同じくらいに感動できたはずでした。
鬼を探しにいけない人間が鬼に自分を見つけてもらう。これを幽閉という要素だけで関連付けて一緒くたにされるのは心外です。
こんな風に言われなくとも、この遊びが発見された奇跡だけでも満足でした。だからこそ。
全てが必然で繋がっているかのように描かれなくとも、鬼という言葉がついた遊びが偶然にも鬼と人間を救うだけで十分なのに。
それまでの想像と地続きではないエピソードであるために、物語を奪われた別の二人の存在を感じてしまいました。
鬼ごっこの最中に別の遊びを始めると鬼が困らないか心配をした、などの空想があっても良かったのではないでしょうか。
深くは考えないけれど幽閉された、英雄は真意を表すものとして鬼を呼ぶ遊びをつくった……残し方などについては不明。
さすがにこれでは信憑性が足りていないように思えます。深い亀裂で隔てられた二つの話に橋が架けられていない。
考察をする霖之助や話を聴く萃香が疑問を挟めなかったのなら、本編では語りつくせなかった事を後書きに記して欲しかったです。
本編以外で作品の解説をする行為を忌避する人も多いですが、本作では絶対に必要な補足であると感じました。
最後に紫が登場した時には期待をしたのですが、正直なところ……どうして出てきたのか分かりませんでした。
霖之助の考察には天才がよくするような飛躍があり、そして彼が感情的であった分、どこかで誰かが補ってくれると期待をした。
その役割を担う存在だと思い込んで歓迎し、そうではないと分かって落胆したのです。
霖之助には試練が足りなかったように思います。萃香の反論は彼の用意した説明を先へと促すだけの言葉でしかなかった。
萃香は救われたかったのだから本気で彼を論破しようとするはずが無いのかもしれません。
しかし、森近の解釈を否定する者が存在しなかったせいで、彼は論理の穴を塞ぐ機会をもらえなかったように思うのです。
彼は冷徹な思索をするのではなく、感情のために理性を動員して肯定する論理を構築しているようでした。
せめて、萃香が帰った後にはあらゆる可能性を考える自由を彼に与えて欲しいと願いました。たとえ冗長な印象を生むとしても。
と、二つの遊びの解釈までを読んでこのように考えていたのですが、眩暈(dizziness?)を感じるような遣り取りに遭遇しました。
(前半にあった『約束』という無意味な強調のように、ここも無意味な強調であると思いこみたいのですが……さすがに無理でした)
>そして書く側の『都合の悪いこと』は書かない……あるいは『知っていても書けない』場合もある。
今までの彼を否定するような発言です。鬼ごっこの解釈が好きだからこそ、この部分は大嫌いです。なかった事にして欲しい位に。
この一言で終わらせてしまい、霖之助が他の解釈もしていたと示唆するだけなのには悪意さえ感じました。
萃香を救えない非情の解釈も彼は組み立てていたのか、考える事さえしないように努めたのか。
冷静と情熱のどちらに身を委ねたのか、判断がつかないというよりどちらの描写もされていない。それが納得いかないのです。
八雲紫はなぜか脈絡の無い言葉を発しました。これは「森近の解釈した以外にも可能性はあるという忠告」ではないはずです。
彼女は別の解釈の存在に霖之助が気づいていたような態度を見せても驚かず、彼の答えを当たり前のものとして受け取っている。
おそらく萃香に対して別の可能性を語らなかった事への賛辞なのでしょう。
しかし、彼が気づいていたと知れたなら、彼女は賞賛の言葉を送るべきではなかったように思うのです。
他の可能性について霖之助はどこまで考えていたのでしょうか。
彼は別の解釈に向かって伸びていく枝葉を見ようとさえしていない。これを気づいていない振りだとは考えられませんでした。
注意を向けさせた後で切り離すことだって出来たはずなのに、心の中で別の解釈の存在がちらつく事もなかった。
不幸と幸福の両方について語られていたような印象もあったのですが、読み返してみるとそれは英雄の生死の話でした。
この人間が死んでいても、生きていても、霖之助の解釈に大した影響はありません。その情報は別の道に繋がってはいない。
今回の解釈と真に対立していたのは、鬼ごっこの発案者が鬼を追放するという悪意をもってルールを設定した可能性です。
森近がこの可能性に気づいていたのなら少しも考えずに話を終えられたとは思えません。
考えてはいけないと思うと却って考えてしまうものなのに、浮かんでくる別の展開を消そうとする描写が一度もありませんでした。
森近の「台詞」として記述されているわけではない、内心を記した部分でさえ悲劇の可能性にまったく触れられていなかった。
そして萃香が帰った後も、霖之助には救済に偏った思考から解放されたという雰囲気が微塵もなかったのです。
そのため霖之助の言葉が矛盾というのか、事実と食い違っているような感じがありました。
解釈が他にもあると知っていたのなら、彼は絶対に最後まで考えるべきだったと思うのです。
そうしなければ論破されるかもしれない。別の解釈への入り口を封鎖しておかなければ不幸な迷い子が出る危険性があった。
反論への回答を用意しておかなければ、萃香が質問をしてきた時に納得させられる答えを出せずに終わる心配があります。
自分の行動がすべて上手くいくという根拠の無い自信を持っているのならともかく、彼はそこまで浅慮な性格ではないはずです。
手を抜いた行動にさえ自信を持つというのは、もはや自信と呼ぶべき感覚ではないと思います。口先だけという印象。
萃香との勝負で、一つの解釈のみを考える男を演じていたとは考えられません。演技だったと示す言葉も無いので当然ですが。
森近の「台詞」として記述されているわけではない、内心を記した部分でさえ悲劇の可能性にまったく触れられていなかったのです。
しかし、鬼を論理ではなく感情で負かすつもりで演技していたのでなければ、彼のこの言葉はおかしいのではないかと思います。
八雲との会話を見ると、霖之助が別の可能性を考えていなくてもこれをきっかけに、新しい考察を始めるか判断しなければおかしい。
そうしないのは、やはり彼が複数の解釈がある事に気づいていたために思えます。
紫が彼の返答に不満を見せなかった事からも、彼女にとってこの答えで正解であったようなのです。
八雲の言葉に端を発した仄めかし(霖之助が異なる可能性に気づいていたとらしい事)は誰のためだったのでしょう。
彼の認識を確認するためでは無いらしい、というのは既に語りました。けれどそこから次の質問に進むわけでもなかった。
八雲の台詞は唐突で不自然です。頼光などではなく、鬼との関係が薄い義経の名前が出てくるのも不思議でした。
天狗と鬼を別の種族として扱っているので、鬼一法眼が鬼だと言っているわけでもないようですし、何一つ関連が無いのでは。
これらの異物感のため、彼女の言葉は霖之助にではなく読者に向けて言っているような感じがあったのです。
正確に言うなら、霖之助が自分の偉業を自慢するために一人芝居をしている印象でした。
こんな事を突然言われても彼が凄いとは感じません。むしろ彼の英雄的行為を貶める最悪の言葉です。
「他人に知ってもらおうとする行為」は萃香を救った熱情とは正反対の、自分自身への賛美を求める欲望に見えました。
鬼の前では報酬を受け取らない無欲の態度でありながら、八雲が出てきてから彼は変わってしまった。
異なる解釈の存在について、萃香との勝負が終わるまで彼が気づかないのなら、それはそれで良かったのだと思います。
終わってからようやく冷静になって別の可能性があると気がつくけれど、もうそれは必要ないと結ぶのであれば良かった。
(作中での順番を考慮して解釈の内容への不満は先に纏めましたが、その中にはこの場面を読んだことで生まれた不満もあります)
二つの遊びについて霖之助は語りました。その重さと語らなかった事がある描写とが釣り合っていないのです。
あれだけの文章の量が必要というのではなくて、単一の解釈のみを語った事への不安や、その正当性を信じる心などが足りなかった。
複数の可能性があったのは確かです。
しかし、それを考えているのと考えていないのでは、考えている方が当然優れている、と言われているような不快感がありました。
思惟を尽くそうとしなかった今の彼に、複数の解釈をしなかった霖之助が否定されているようだった。
比較をして複数の解釈をする方に軍配を上げたいのであれば、色々と考えていたと言い張るだけでは足りないはずです。
鬼に自分の説を受け入れさせる勝負では、論理を使って勝つ事と、感情に訴えかけて勝つ事の二通りの方法がありました。
本来この二つは同等で、相手によって論理が良い、感情が良いと傾くけれど、その傾きは期待される効果の度合いで決まります。
解釈の時の霖之助と並ぶには、全ての可能性を網羅するつもりで思索をしてもまだ足りないかもしれない。
先に述べたような開放感もなく、異なる解釈のことを真剣に考えていた様子が無い森近が前半の彼に勝てるとは思えませんでした。
同じ内容を繰り返しますが、鬼を救うために一つの展開のみを進む説明は、彼の語った過去の英雄の面影を感じて素晴らしかった。
これは「ちゃんと萃香を救えたじゃないか」という結果論とは違うと思っています。
あの場面では人格と語りが一体となっているため、感情に訴える力が格別に強かった。
感情で判断する事そのものを否定でもしていない限り、彼の言葉を無視するなんて出来なかったことでしょう。
しかし、森近が盲目の熱血漢であるのなら問題にならなかった箇所が、別の可能性に気づいていたとすると問題になる。
彼はどうして理詰めで解釈をせずに途中で思考を止めたのでしょうか。なぜ紫は何も文句をつけなかったのでしょうか。
八雲紫が真に萃香の友人であるのなら、彼女は霖之助に確かめなければいけなかったはずです。
不確かな空想で終えてしまったせいで鬼が信じてくれなかったら大変な事になっていた。
彼は不完全な解釈で勝負に臨んだ事の危険性を非難されるべきでした。紫の指摘か、あるいは内省によって。
多数の可能性を考慮した上で最善の解釈(末端から悲劇に派生してしまう可能性の低い説明)を選んだのなら素直に褒められる。
けれど、そうではなかったらしいのに、本作品での八雲紫は結果だけで満足をしてしまう。過程を軽んじている。
今度こそ鬼が永久に姿を隠してしまう可能性さえあったのに、霖之助への怒りがまるで見えなかった。
ありふれた賛美のように結果にのみ言及していたのです。森近のほうも考察の不足に気づいて悔やむ様子が無い。
この二人はどちらも、鬼ごっこの解釈を信じてくれた萃香に対して礼を失しているようだと感じました。
『役不足』『英雄の子は英雄』『弾幕ごっこ』
他に注意を向けさせる言葉を配置して彼らの態度を有耶無耶にしているのは大変に不誠実だと思われます。
鬼ごっこ解釈は凄くよかったけれど、後の振る舞いで台無しにされてしまったのが非常に残念でした。
蛙の子は蛙も、直接言わずに霖之助から眼鏡を奪い取って目隠し鬼(もどき)をやれば良かったのにと思うのもあります。
ただ、萃香に別の解釈を提示しなかった事はけっして間違いではないと思いました。
自分の説明を信じる事を求めていながら霖之助は萃香を信頼していなかった、初めはそのように見えました。
しかし、よく考えてみるとそうではない。別の解釈を提示しない事は萃香を子ども扱いしているわけではなかった。
彼が最良の手段について本当に考えていたとしても、冷たく全てを語るのは失敗しそうに思えます。
論理だけで救えるのなら、萃香は紫や他の誰かによって既に救われていたのでしょう。
きっと鬼を救えるのは人間だけで、そして理性という道具ではなく感情に基づく言葉である必要があった気がします。
ただ、時間制限があった事は承知していますが、走って香霖堂へ戻らず、少しでも長く考えれば良かったのにと感じました。
考えた上でどう語るのか、演技をするのかなどを決める、もしくは別の可能性を考えない事を決めて欲しかったです。
萃香が帰った後に彼が誇るとしても、それは知っていても語らなかった事ではなく、知っていても考えなかった事ではないかと。
彼が考えた末に秘密にしようと決めたように描かれていたら、鬼ごっこの解釈だけではなく作品全体を好きになれたと思います。
ところで、最初の願いは叶えられたのかが気になりました。
霖之助は終わらない遊びから萃香を解放しました。彼の考察したところで言う第二の願いは、文字通りの目的は達成された。
では第一の目標は、人と鬼が相手を理解する事はどうなったのか。
人の立場を演じる事や、あるいは想像をめぐらせて他者の心を感じて欲しいという願いは叶ったのでしょうか。
森近はひとりの人間の思想について語り、萃香はそれに共感しました。ひとりの「人間」を理解したようにも思えます。
人の役が鬼の役を呼ぶ行動は萃香が鬼ごっこで感じた悲しみと繋がっていました。
だから目隠し鬼の話によって心が動くのは自然な流れです。追放された鬼を慰撫するために考案された遊びは見事に役目を果たした。
しかし、萃香は一度も人間にならずに終わってしまったのではないでしょうか?
霖之助は最後までそこには触れてくれませんでした。
鬼と人間という記号は一致していても、この遊びは鬼ごっことは異なり両者の立場を交換する意味が込められていない。
発案者は自身のことを理解して欲しいと願ったのであって、人を知る足がかりとして個人を理解させるのではなかった。
鬼ごっこを考案した段階では、目標の達成は鬼を人間に近づける事を意味していたし、英雄もそれを目標にしていました。
しかし、萃香が共感をできたのはその時の人間ではなく、幽閉をされた後の人間でした。
当時の人が鬼を呼ぶはずがありません。萃香が同化できたのは「幽閉された英雄」であって、人間に対してではなかった。
同一人物ではあるけれど、互いを理解しようと考えていた頃よりもずっと鬼の側に寄っているはずです。
鬼は涙を流したけれど、彼女が共感をした「死んでしまった仲間」は、本当に鬼ではなく人間だったのでしょうか。
博麗神社の近辺では通用しそうだけれど、それだけでは本来の願いには届いていない気がします。
霊夢や咲夜を一般人とは呼べないでしょう。彼女達は人間と言うよりは妖怪に近い。
たとえ鬼よりは弱くとも、鬼と妖怪の両方を同じように脅威と感じてしまう人間ほどではないはずです。
だからその少女達と通じ合えたからといって、あまり人間には近づいていないように思えるのです。
小さくても進歩だとは言えますが、せっかくの機会を生かして人間の事をもっと鬼に伝えて欲しかったです。
そしてなにより、最初の目標がどうなったのかが曖昧なままで終わってしまった感じがありました。
これを語らないのは原作のほうで既に解決している問題として扱われているかのようで、それが納得できなかった。
初めの鬼ごっこは終わったけれど、それは本当に終わったと言えるのか、私は未だに信じられないでいるのです。
過去の目的に拘った考え方をすると、萃香はまだ優勢と対等だけしか経験できていないように思えます。
鬼が人間に与えたハンデは「勝負の方法を決めさせる」というものでした。
霖之助がその条件で萃香と再び勝負をする約束を交わしていたらわかりやすかったけれど、そうはならなかった。
では彼が何を考えていたのかというと、次のように述べている箇所がありました。
>その時はどんな勝負をしようか。
>それは自分の中ではほとんど決まっていた。
鬼が勝負の方法を提案する事はない……人間が鬼に対して同じ手加減をするつもりは無いらしいと分かります。
過去に鬼がしてきたのと同じやり方である必要はないのかもしれません。古いやり方に固執しなくても全員が幸せになれるなら良い。
そうは思っても、霖之助には説明をするか欠陥を修正した新しい鬼ごっこ(これについては後述)をする責任があると感じるのです。
鬼ごっこの真意について考察をしたけれど、それを鬼に信じてもらいたいのなら「最初の願い」についても語らなければ片手落ち。
初期の願いを叶えようとしないのでは英雄の罪を消しただけに過ぎないように思います。彼には第一目標に言及して欲しかった。
鬼が人心を理解できたのか判断を下してこそ、萃香は過去を過去に、霖之助は想像したものを真実にできるのではないでしょうか。
ここは萃香が英雄に共感をできたのなら十分だとは言えない、説明不足であったと言うほかありません。
鬼が人を理解するために、英雄の考えた手法を使わなかったのではないかとも考えました。
形式に囚われないで見れば、鬼は人間の役を演じていたも同然であるかもしれないと思ったためです。
鬼の「約束」を人間は信じるしかなかった。暴力で争うよりは別の勝負をして勝てば鬼が退いてくれるのなら分が良い。
たとえ鬼が約束を違える可能性があってでも、腕力で競うほど不利な勝負は無いので仕方なく信じるしかなかった。駄目で元々。
つまり鬼と人の立場を逆転させるというのは、鬼が一方的に人間を信じるしかない状態にするということです。
ちなみに「人間を信頼するしかない状態」は大前提の『約束』の時点で達成していると考える事も出来ます。
人間に勝負を決めさせるという、最初の約束の話です。しかし、後述しますがそれは一番ありえない可能性だと思いました。
おそらく霖之助の空想はまったくの見当違いだったのでしょう。
鬼ごっこを始める前から目標が達成されているし、彼も稗田家から帰った後はこの可能性について一言も触れようとしなかった。
閑話休題。鬼の役が追いかけてくると信じて鬼ごっこを継続するのは、この条件を満たしているようにも感じます。
(自分が勝っても人間が裏切る可能性があっても相手を信じるしかない状況よりは弱く、自主的な行いという要素も加わりますが。)
人間が追いかけてくれると信じるしかない。彼女は裏切られたと気づいてからも、人を信じて人間の役を続けていた。人間だった。
このような思考の下に、最初の目標は「鬼ごっこ」で達成済みと考えられたのでしょうか?
しかし、その解釈だけは受け入れられないのです。その場合、鬼は人間に対して怒る事ができたのに怒らなかった事になる。
怒らないのは残酷な行為です。謝罪をさせてくれない鬼なんて、嘘をついた人間よりも忌むべき存在でしょう。
萃香にも問題があった事になる。けれど、私はそうは思えなかったのです。彼女に落ち度はなかったように感じた。
大前提の約束については推測で語るしかないので触れたくないのですが、怒らない鬼というものについて考えました。
鬼ごっこの取り決めの中に、人間が鬼を追いかけるという規則は無かった。しかし、だから怒ってはいけないと言うのでしょうか。
ペテンに掛けられたと気づいて憤慨しても、鬼は人間に対しては何も言えなかった……?
いいえ、鬼は怒るべきでした。人間の裏切りに対して。そうしなければ、そうできないのであれば両者は対等になれない。
萃香たちが怒りに任せたりはせず、勝負の方法を人間に決めさせる約束を反故にしなかったのは大きな情報です。
これを重視して読むと、太古に人間が鬼と結んだ約束が鬼の誠実さの象徴ではなく、現代まで続く呪いとして機能している事になる。
鬼ごっこを考案した人間が思いもよらない悲劇を生み出してしまったように、大前提の約束を結んだ者達も同じ事してしまった。
しかも全ての遊びに通じているために、人と鬼の関係に他と比較できない悪影響を与えていると考えなければいけない。
鬼が『約束』を守るのが個人の性格に依拠しているわけではない本作品は、非常に根が深い問題を抱えているように感じられます。
霖之助が阿求のところで想像をした、最初の約束という思想が単なる妄想であるのなら何も問題は無いのですけどね。
その場合はもっと単純な話になって、萃香が怒らなかった事のみが疑問として残るだけで済みます。
どちらにせよ、鬼は人間に裏切られたことによって人の立場を経験したと解釈する事は出来ませんでした。
裏切られたのには寂しさを感じても、怒りまでは感じなかった。それが鬼の気質。裏切り者に復讐をする程ではなかったのでしょう。
>それを聞いたら彼女は僕に『勝負』を挑んでくるだろう。
全部が終わったわけではないけれど、彼は再戦を考えているので、いつか最初の願いも叶えられると信じてもいいのですよね。
次の勝負と最初の願いがもっと強く繋げられていたら、淡い期待ではなく、確信が持てて更に良かったのですが……。
最後にもう一つ。結びに置かれている「新しい鬼ごっこ」という言葉がわからず、読み返す間ずうっと気になっていました。
弾幕ごっこを意味しているのか、それとも霖之助が考える新しい遊びなのかという二つの可能性がありました。
けれど、本当はそれはどうでもよかったのです。どちらを指す言葉であるのかが曖昧なせいではなかった。
前提が固まっていなかったために長らく思考を進められないでいたのですが、ようやく辿り着きました。
霖之助が「新しい鬼ごっこ」に求めた条件を、弾幕ごっこは全て持ち合わせているようだと感じていた事による疑問でした。
弾幕ごっこについて語っている箇所を見てみると異常なくらいにあっさりとしています。関連付けるつもりは無いらしいのです。
終わるための規則を制定する段階であるとも言っていますし、新しい鬼ごっことが弾幕ごっこの話ではないのは確実でしょう。
彼は弾幕ごっこと異なる遊びを考えていて、しかも大体のかたちが決まりつつあると言う。
しかし、新規の遊びを考えるよりも前に、身近にある遊びに目を向けていないのは不思議です。
弾幕ごっこは鬼ごっこに存在した欠陥を修正したものだと捉える事ができます。
人間の役は(鬼の役が回避可能な)反撃が許されているし、鬼の役に勝負をする気持ちがなくても人間の役は攻撃が出来る。
攻撃が無視されるという悲劇はありえなくて、被弾と回避のどちらもこの遊びに参加をしている事になる、そういうルールです。
異変を起こした犯人が負けるのは元と同じだけれど、それでも終わりの時間さえ決められていないわけではない。
改良が加えられて人間の立場を演じさせる効果が薄れたようにも見えるけれど、そこは時代の変化に合わせている。
人間は恐怖に怯えるだけではなくなってきた。そうした推移に合わせて鬼ごっこは弾幕ごっこに進化をしたという可能性。
鬼を役を務める側も、それくらいはやれるようになった。人は鬼に、鬼は人に。
先程は否定気味に語ってしまった歩み寄りについても、双方が相手に近づいている点では元の理想よりも良いのかもしれません。
霖之助は弾幕ごっこを肯定的に見ているようでした。
それならそのまま認めて使ってしまえばいいのに、どうして彼はそうしなかったのでしょう。
自分には合わないと感じたのか、あるいは鬼ごっこと関連付ける価値がないと考えたのか、それとも別の理由なのか。
いずれにせよ、弾幕ごっこについて碌に考えないまま新しい遊びを考える姿は受け入れられませんでした。
彼は英雄の子孫らしいと仄めかされていましたが、弾幕ごっこで異変を解決する者こそ英雄の心を受け継いでいる気がします。
たとえ血統は違っていても、命名決闘法の発案者のほうこそが英雄の後継者であるように思えたのです。
幻想郷に受け入れられた人と妖の遊びについて、森近がもっと語ってくれたなら関連付けがなくとも印象はまた違っていた。
だからこそ、この新しい「ごっこ遊び」について彼が考えなかったのは、かなり勿体無いように感じました。
すごく不満も多かったけれど、面白い部分はとても惹かれるものがありました。
萃香の真面目な話の案が他にもいくつかあるとの事なので、それらがいつか書かれるのを楽しみにして待っています。
どうすればこんな思考の転換ができるんでしょうか?
霖之助が霖之助らしく、さらに話が素敵すぎます。
ごちそうさまでした!!
月姫の話になってしまいますが、琥珀さん短編やキャプテン琥珀、ななこSGK、屋根裏部屋の姫君、貴方のSSは私にSSの存在を教えてくれたと同時に、素晴らしい刺激を与えてくれました。
創想話はつい最近知ったのですが、ここでも貴方のSSに会えたことが、偶然とは思えないほどです。
貴方の作品を手にとって読みたいとずっと思っていますが、なかなか機会がありません。
いつか、例大祭などでお会いしたいと存じます。
これからも頑張ってください、心から応援しています。
いつもトンデモなところに落着する霖之助だから、きっと明後日の方向を走っているんだろうという気がします。
だからこそ救いに話を持っていったことに価値があるのではないでしょうか。
最高でした。
もらい泣きしちゃったよ
いい話じゃないか
泣いちまったぜw
ありがとう