「こまちち、あなたは仕事もせずに何をやってるのです」
「こまちちち、あなたには欲がなさすぎる。欲の欠乏は向上心の欠如です」
「こまちちちち、まったくデカいのはちちばかりですか。妬ましい妬ましい」
ついにキレた。
それで、あたいは自分の理想の上司を造ることにした。
仕事の帰り、郷で一番大きな道具屋である道具店に立ち寄った。五十手前の道具店の主人はあたいを見ると露骨に面倒くさそうな顔をして「メロンの苗はそこだよ」と店の入り口を指さし、また『週刊ポスト』の記事を読むのに戻ってしまった。クソ、雄星は一体どうしちまったんだと道具店の主人は三回も言った。あらかた店の中を見回しても目的のものがなかったので、あたいは店主に聞いた。
「ご主人」
「クソ、甲子園の時の剛速球はどこに……何?」
「上司の木、売ってませんか」
道具店の主人は『週刊ポスト』をぽろりと取り落とした。
それから主人は二度ほどオエッとえづき、滲み出てきた汗があっという間に顔中を濡らした。震える手で取り落とした『週刊ポスト』をカウンターの上に拾い上げた主人は、ぶるぶる震えながら化け物を見る視線を寄越した。
「……あるけど、何に使うんだ?」
上司の木。それは幻想郷の中でもとりわけ古参の者しか知らぬ伝説の植物であった。
古来から人間は組織で生きてきた。組織で生きていく限り、横暴な上司や無能な上司は常に一定の問題であり続けた。上司の木はそれを解決するための唯一の方策としてこの世に存在している、秘宝中の秘封なのだ。
あたいは道具屋の主人に顔を近づけて言った。
「あたいの理想の上司を育てようと思うんです」
「理想の上司を?」
道具屋の主人はぎょっとあたいを見た。「どうしてまた、そんなことを?」
あたいは頷いた。
「あたいの上司は凄く厳しいんです。あたいが週に三十時間ぐらいサボっただけでカリカリ説教し出すんです。もうあんな上司はこりごりなんです」
「週に三十時間サボっただけで怒る?」主人は目を剥いた。「そりゃひどい。まるで奴隷扱いだ」
「そうなんです。おまけにあたいを欲がなさすぎると叱るんです」
「欲がない?」主人は脂汗を流しながら歯ぎしりした。「商売人へのあてつけか」
「そうなんです。とどめにあたいの乳が気に入らないって言うんです」
「乳が……」突然、主人は奇声を上げて拳の裏でカウンターの上の物をぶちまけた。『週刊ポスト』や何かの伝票が床の上に散らばると、主人は肩で息をしながら言った。「乳を否定するなんて俺が許さん」
主人は頷いた。あたいも頷き、そしてどちらからともなく歩み寄って固い握手を交わした。分厚い皮に包まれた主人の手は暖かかった。
主人は「ちょっと待っててくれ」と店の奥に引っ込んだ。小一時間しても主人は戻ってこなかったので、あたいは主人が読んでいた『週刊ポスト』をなんとなしに読み始めた。クソ、共和党は一体何をやってるんだ……とあたいが四度呟いた頃、主人がどたどたと戻ってきた。
「悪い悪い。金庫のダイヤル番号を忘れてしまってな」
主人は震える手で手に持っていた和紙の包みを解いた。中には三粒、赤い三角形の種が入っていた。
トウモロコシの種みたいだが、これが噂に聞く上司の木の種らしい。
「上司の木の種ももはやこれだけになってしまった。家宝として娘に伝えるつもりだったものだ」
「凄いですね。三粒もあるとは思いませんでした」
「そうだ。これ一粒で国が傾く」主人は震える手で一粒をつまみ上げた。
「お幾らだい?」
「あんたには必要なものだろう。一粒定価八十万円だが、あんたの動機が不純じゃないことがわかったから、三粒で四百円でいい」
「ありがとうございます」
あたいは蝦蟇口から百円玉を二枚、五十円玉を二枚、十円玉を十枚取り出して主人の掌に置いた。主人はそれをぎゅっと握りしめ、真っ赤になった目であたいを見た。あたいが主人の手から種を受け取ると、主人はあたいの掌を節くれだった手で包み込んだ。長年の労働が祟り、主人の指先には落ちない汚れが染みついていた。思わずあたいの目にも涙がこぼれた。
「これで、理想の上司を手に入れるんだぞ」
道具屋の主人の眼は充血していたが温かかった。こんな眼差しに見守られて育つ子供はきっと幸せ者だろう。
そう言えば、主人に子がいるという話は初耳だった。その子とやらはもうとっくに独立してしまったのだろうか。この道具屋の名前は霧雨道具店だから、子の苗字は霧雨か。はて霧雨……聞いたことがあるようなないような。
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次の日、あたいはマジメに働くフリをして、静かに、そして大胆に計画を実行に移した。
『明日の為にその一。まずは育てたい上司の髪の毛、爪、乃至唾液を用意すべし』
園芸店の主人からもらったメモ書きを読む限り、どうやらDNA的なものがあれば何でもいいらしい。爪も唾液もハードルが高すぎるので、ここはおとなしく髪の毛を用意することにした。園芸店に立ち寄ったその足であたいは是非曲直庁に戻り、四季様の執務室に忍び込んで四季様の髪の毛を一本拝借してきた。むむう、なかなか手入れが行き届いている。結構な長さなのに枝毛どころか痛みすらないではないか。あたいは妙な嫉妬を感じつつ、ちょっとの罪悪感とともにその髪の毛をジップロックつきのビニール袋に仕舞い込んだ。
『明日の為にその二。植木鉢、プランター、鉢およびそれに準ずるものを用意すべし。あまり小さく、浅底の物は使用するべからず』
植木鉢は社宅の狭い庭の一画に萎れた花が植わったままの奴を拝借すればいいし、店主の話によると如雨露や霧吹きは特別必要ないとのことだったので、あたいが身銭を切って用意すべきものはほとんどなかった。
『明日の為にその三。よく肥えた黒土を用意すべし。件の植物の生育には自然界の土は向かない為、人の手によって管理された土が必要不可欠である』
一番困ったのは土の確保だった。なるべく肥えた土とは言うが、さすがに銭を払って土くれを買うのはもったいない気がした。かといって、太陽の畑から土を拝借してくるのは自殺行為でもある。畑の主に肩を叩かれたが最後、駐在所どころか三途の川の向こうに連れて行かれてしまう。迷った挙句、あたいは仕事がてら紅魔館に立ち寄って花壇の土を拝借することにした。
よく晴れた日だった。そっと門柱の陰から門番の様子を覗くと、門番はすらりと美しい足を組んで椅子に座り、一ヶ月前の『週刊SPA!』をけだるそうに読んでいた。アイヤーまた政治献金問題で揚げ足取りですかと門番は独り言を三回も言った。よし、あれならすぐに攻撃されることはないだろう。あたいは堂々と道の真ん中を歩いて花壇まで行き、持ってきたシャベルでシャカシャカと土を集め出した。紅魔館の門番はあたいが花壇に何か爆発物的なものを埋めようとしていたと勘違いしたらしくて慌てて駆け寄ってきたけれど、どうにか上司の木の種を一粒譲ることで話がついた。門番は上司の木を指先で摘まんでまじまじと見た後、感心したようにため息をついた。
「この世が長い私ですけど、実物は初めて見ました。大昔はこれで国が滅びることなんてしょっちゅうでしたよ」
「そうなのか」
「ええ、一説によると十字軍や元寇、第二次世界大戦の勃発もこの種が発端だったと言われています」
「詳しいんだね」
「私が在籍していた頃、国民党もこれを探し求めていてね」
「育て方、わかるかい?」
「えぇ。幸いにしてお話だけは聞いたことがあります」
門番は頷いた。ふと、あたいはこの門番が一体どの上司の木を育てるのだろうか気になったが、訊かなかった。この門番と一番近しい上司が誰であるかぐらい、幻想郷に住まうものなら大概誰でも知っているのだ。
あたいも頷き、あたいたちはどちらからともなくがっちりと握手を交わした。拳法の達人らしくない、やわらかくてしなやかで温かい手だった。門番はあたいの顔をまっすぐに見つめながら言った。
「一か月後、理想の上司とともにお会いしましょう」
あたいも頷いた。絶対に。
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社宅に帰ったあたいは持ってきた植木鉢に土を入れ、そこに四季様の髪の毛と上司の木の種を一緒に埋め、浅く土をかけた。
三日の間、水やりや肥料を控えれば放っておいても芽が出るそうだ。あたいは希望と少しの不安に駆られながらも寝ることにした。
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三日経った。
朝起きると、なるほど植木鉢から小さい人型の物体が芽生えている。あたいは布団から飛び起きて、それをよく観察してみた。
「うおう、これは……」
あたいは思わず感嘆の声を上げた。よく見るとちゃんと四季様の形をしているではないか。上司の木の芽はあたいが顔を近づけると不思議そうな顔であたいを見上げてきた。ナリは四季様だが、あたいの顔を見上げる顔からは本人が持つ凛々しさ、カリカリさが感じられず、代わりにぽわぽわとでも形容すべき穏やかな雰囲気が漂っている。
この状態では何も知らない赤子にすぎないのだと店主のメモには書いてある。要するに錬金術で言うホムンクルスみたいなものらしい。あたいは興味本位で四季様の芽をつついてみた。あたいが人差し指の先で頭をつんつんとつつくと、極小サイズの四季様はイヤイヤと頭を振った。なかなか可愛らしい。調子に乗ったあたいがさらにつつくと、四季様の芽は顔を真っ赤にしてぷるぷると震え出した。よく見ると小さなお目々が涙目になっている。
あたいは慌てて指を引っ込め、落ち着け落ち着けとなだめながらどうしようか考えた。上司の木だって植物なのだから水をかければ喜ぶんじゃなかろうか。そんな至極単純な思いつきに従い、500mlのペットボトルに水を入れて頭からかけてやる。四季様の芽はまるでシャワーを浴びるように全身で水を吸収していた。おや、水が目に入るのが嫌なようだ。四季様の芽は両手で目を拭っている。
こいつ可愛い。凶悪的な愛らしさだ。そうこうしているうちに出勤の時間が迫ってきた。あたいは四季様の芽に言った。
「あたいが帰ってくるまで、おとなしく待っていてくださいね?」
四季様の芽はこくこくと頷いた。あたいはやけに上機嫌で仕事に向かった。
「こまちち、新しいタオルを下さい」
「はい」
「もっと持ってきてください」
「ムチャ言わないでください。何枚タオル使ってるんだこの腐れ脳ミソってさっき用務員のおばちゃんに怒られましたよ」
「ムムム、そうですか」
「そうなんです」
出勤してみたら四季様はずぶ濡れだった。今日はどういうわけか全身の毛穴という毛穴から水が噴き出るようでして、と四季様は戸惑ったように言った。もうタオルの替えがないので書類にハンコを押すときだけタオルで水気を拭ってはいるものの、水はあとからあとから湧き出てきて四季様をしっとりと加湿している。四季様は大きな金盥の上に座りながら書類にハンコを押しているのだが、漏れ出る水のせいでどうしても書類がフニャフニャになってしまっていた。
ヒジの所に敷いたタオルはもうたっぷり水を吸っていて、吸収しきれない水が執務机の上を濡らしていた。
四季様はハァ、とため息をついた。
「それにしても、今日はやたらと水が出てますね」
「そうですね。この世が長い私もこれほどの出水は初めてです。何かあったんでしょうか」
「あったんじゃないですかねぇ」
神妙な顔で相槌を打ちながらも、あたいは内心爆笑していた。素晴らしき哉、上司の木。ただ水を掛けただけでこの有様だ。
これなら一か月も経たないうちに四季様を理想の上司にすることができるだろう。あたいは仕事が終わるとまっすぐに社宅に向かった。
四季様の芽はあたいが帰ってくると三つ指をついて恭しく礼をして見せた。おおぅ、こういう今時古風なことをしてしまうところはやっぱり四季様だ。DNAレベルでちょっとズレてるところがまた可愛い。
あたいは台所に向かい、四季様の芽に何を上げるかを考えた。水はもう試したし、これ以上水をかけて四季様を汗っかき閻魔にするのは流石に酷というものだろう。それに、第一今回はたまたま四季様が物凄く汗っかきな体質になってしまっていただけかもしれない。
あたいは少し考えた後、冷蔵庫から牛乳を取り出した。それをペットボトルのフタに注ぎ、四季様に出してみた。
植木鉢の上に置かれた牛乳を見て、四季様は首を傾げた。これがなんであるかわからないらしい。
「牛乳です。ささ、飲んでみてください」
あたいに促されて、四季様はちゃぷっと人差し指をつけて牛乳を舐めた。イケるらしい。四季様は両手でペットボトルのキャップを持ち上げると、杯を空ける要領でグビグビと飲み干し始めた。凄い飲みっぷりだ。四季様はキャップの中に入った牛乳を全部飲み干すと、豪快にゲップをしつつ白いヒゲを拭った。
さて、明日四季様がどうなるか楽しみだ。あたいは希望に胸を膨らませながら寝ることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こまちち、見ててくださいね」
「見てますよ」
「うっふん」
「ワォ」
「どうです? セクシーですか」
「犯罪です」
「じゃあこれは?」
「もはやテロリズムです」
次の日、是非曲直庁に来たら四季様が爆乳になっていた。なんか知りませんが今朝起きたらこんなことになってたんです、と喜びに沸く四季様は、それからは半ば執務をほっぽり出してあたい相手にセルフ撮影会を決行している。四季様はノリノリで結構きわどいポーズを決めたりしながら生まれて初めて実感する実りを喜んでいた。
四季様はあたいより一回りも巨大化した乳をしきりに揺らしながら安堵するようなため息を吐いた。
「もうあなたと比較されて枕を濡らす日々にもグッバイですね」
「そんなことしてたんですか?」
「してました。しかし泣き虫だった昨日の私にサヨナラ」
「四季様って意外にアホなんですね」
「アホとはなんですかアホとは。大体あなたはいつもいつもクドクドクドクド」
「きゃんきゃん」
いくら汗っかきになっても、爆乳になっても、四季様の性格だけはやはり四季様のままだった。
このままでは折角の上司の木も宝の持ち腐れだ。あたいはいよいよ目的を果たすことにした。
あたいは四季様の説教が本格化する前に是非曲直庁を抜け出し、社宅の自室に戻った。
四季様はあたいが帰ってくるとあら、早かったのね? というような表情であたいを見た。あたいは適当に頷きつつ、砂糖壺から角砂糖を取り出して植木鉢に持って行った。
四季様の芽の前に角砂糖を置くと、四季様は両手で角砂糖を持ち上げた。つついたり、叩いたりしていたが、不意に舌を出して舐め始めた。
「美味しいですか?」
うんうん、と四季様は凄い勢い良く頷いた。
「そうですか、よかったです。砂糖の甘さでもっともっと甘くなってくださいね」
四季様はあたいの話を聞いているのかいないのか、全身で角砂糖に組み付き、ガリガリとかじり始めた。
物凄い迫力だったが、何はともあれこれで四季様はうんとあたいに甘くなることだろう。
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「四季様すみません。頼まれた仕事を忘れてやっていませんでした」
「あら、そう。仕方ないですね」
「えっ、それだけですか?」
予想していたこととはいえ、どうも俄かには信じられない言葉だった。
思わず訊き返したあたいに、四季様は穏やかな表情で頷いた。
「失敗は誰にでもあること。こまちち、この次は同じ失敗を繰り返してはなりませんよ?」
聖母の笑みだった。あたいは思わずうるっと来て、慌てて四季様から視線を外した。あたいが「本当にすみません」と頭を下げると、四季様はもういいです、済んだことですから……と頷いた。
四季様が甘い――。それはあたいにとって画期的な驚きだった。
思えば死神として四季様の部下になってから、叱られ続け説教され続けの毎日だった。毎日休みなく小言を言われ続けるうちにすっかり慣れっこになっていたけど、いざ褒められるのには慣れていないあたいだった。優しい言葉を掛けられたせいで狼狽するなんて可笑しなことだと思う。
してやったりと思う中に、なんだかちょっと罪悪感もあった。いくらなんでもこれではいけないと思ったあたいは、自分から罪を告白することにした。
「あと、四季様」
「何?」
「昔のことで恐縮なんですが、四季様が執務の間にちょっとずつ進めてたドラクエあったでしょう?」
「あぁ、ドラゴンクエストですね。ぼうけんのしょがよく消えるので困りました」
「四季様がゾーマ戦直前まで進めてたカセットが突然破損したことありましたよね?」
「はい」
「アレ、実はあたいが間違って壊しちゃったんです」
「はい?」
「いやぁ、あの当時はゲームなんてあんまりやったことがなかったんですよ。いろいろ思考錯誤してるうちに間違って四季様のゾーマ戦直前のデータがふっ飛んじゃったんです」
「……」
「それでこれはヤバイと思ったんで、慌ててカセットを水没させてあたかも勝手に壊れたように偽装したんです。いやぁ今まで黙ってましたけど、あのときは本当にすみませんでした」
「……やる」
「はい?」
「……殺してやる」
「え?」
次の瞬間、四季様は机の上にあった万年筆を取り上げるや、机の上に置いていたあたいの掌を串刺しにした……というのはもちろん嘘だけど、キエーッとかヒイィィとか物凄い怒声が執務室に響き渡って、思わず腰が抜けた。四季様は血の涙を流しながら阿修羅の表情を浮かべ、殺してやる、そこに直れと物凄い声で怒鳴った。
こいつはヤバい、逃げなきゃ。あたいが四つん這いになった状態でその場を逃げ出そうとした刹那、後方から物凄い轟音が轟いた。瞬間、全身がカッと熱くなり、あたいの意識が一瞬で途切れた――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局、あの後四季様の弾幕を十発近く浴びたあたいは、半死半生の状態で永遠亭に担ぎ込まれた。特にひどかったのはお尻に受けた弾幕で、おかげで尻の半分近くが青アザになった。永遠亭の八意永琳が半笑いで手当てをしてくれたおかげで痛みは引きつつあるものの、人前で尻を晒し、青胆に湿布をしてもらうという人生最悪の辱めを受けたせいで怒りが有頂天に達した。今のあたいは阿修羅をも凌駕する存在に違いない。
バン、と物凄い勢いで社宅のドアを開けると、自分の葉っぱではたきを掛けるマネをしていた四季様の芽がビクッと震えた。
あたいは四季様の芽に近づくや、傍に置いてあった砂糖壺から角砂糖を取り出し、四季様に突き出した。
「食べてください」
四季様の芽がきょとんとした表情を浮かべたものの、すぐに笑顔になって角砂糖を舐め始めた。角砂糖がよっぽど気に入ったらしく、文字通り角砂糖にかじりついて舐めている。木の芽の方はこんなに可愛いのになぁ、とぼんやりそれを見ていると、上司の芽は十分と経たずに角砂糖を食べ終わった。
とにかく、きっとまだ砂糖が足りないのだろう。四季様にはもっと甘くなってもらう必要があった。糖尿病になろうが構うもんか。あたいは手に入れるのだ、理想の上司を。
満腹になったのか、すやすやと寝息を立て始めた四季様の芽を一瞥したあたいは、万年床に不貞寝を決め込むことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どうも最近、上司の木が元気を失っている。まるで恋煩いのようにポーッと窓の外を見ていたかと思えば、はぁ、と青色吐息を吐いたりしている。最初のうちは砂糖に飽きたのかと思い、代替物としてクッキーやあんこを与えては見た。それでも上司の木は四季様の顔でぼけーっとしている。どこかしら具合が悪そうにも見えるが、身体的な病気と言うよりは心の病気のような気がした。
それと同時に、本物の四季様の方にも影響が出始めた。
「うあー」
「四季様、書類が溜まってますよ」
「あぁ、そうでしたね。では、書類を、取って、ください」
「はい」
「ハンコ、が、重いです、重い。こまち、手を、支えて、くださいませんか」
「はい」
「ありがとう。あー。仕事、面倒、くさい」
「四季様、今日の午後からの仕事はどうします?」
「あー。全部キャンセルで。なんだか、面倒、ですからねぇ。うあぁー」
「そんな。四季様、閻魔王が仕事を放り出しちゃダメですよ!」
「だって、面倒、じゃないですか。もう嫌だ、家に帰りたい。海の底でクジラの死骸にたかって生きる貝みたいな暮らしがしたい」
「……!!」
どうも四季様も、体調、というより精神状態がよろしくないようだ。
四季様は二日酔い開けのような顔をしながら、四六時中お仕事を面倒くさがっている。わずかな身じろぎも面倒くさがる四季様の代わりに、大半の書類にあたいがハンコを捺した。ともすれば仕事を放り捨てて家に帰ってしまいそうな四季様をあたいが宥めすかした。四季様はときどき、嗚呼どうして地上から戦争がなくならないのでしょう、とか、嗚呼どうして人はあくせく働かなければならないのでしょう、とか、やたら哲学的な独り言をつぶやくようになった。
五月病が五か月ほど遅れてやってきたのかと思ったが、それが三日も続くと流石に不気味になってきた。これはあたいの知っている四季様ではない。
流石に、もうアレコレ過去の罪を開陳して四季様の反応を見る気にはなれなかった。これはきっと心の病気とか、そういう類のものだろう。
あたいはともすれば呼吸さえやめてしまいそうな四季様を背負い、永遠亭で一日入院させることにした。この間は部下で今日は上司か……とにやにや笑った永琳は、あたいが四季様の症状を説明すると見る間に真剣な顔になった。そりゃそうだろう、四季様が仕事を面倒くさがるなんて、銀河系の星が全部直列するよりもあってはならない事態なのだから。
なんとか四季様を入院させて、あたいは社宅に帰ることにした。
社宅までの道のりをあちこち道草をしながら歩いた。甘味処を覗き、貸し本屋で立ち読みして、着物屋で靴下を買った。靴下が入っている袋を振り回しながら道を歩いていると、「あら、この間の」という声に呼び止められた。
見れば、紅魔館の門番だった。門番の隣には紅魔館のメイド長が立っている。二人して買い物の帰りだろうか、門番は買い物袋を提げたままこちらに駆け寄ってきた。
「お久しぶりですね、死神さん。それで、どうです?」
「どう、って?」
「やだなぁ忘れちゃったんですか? そろそろ約束の一ヶ月ですよ」
声を潜めてそう言われて、あ……とあたいは思い出した。そう言えば、この種を分けたときに『一か月後、理想の上司とともに』と固い握手を交わしたのだった。あたいは妙に気恥ずかしい気分になって頭を掻いた。
「で、どうなんです? その閻魔王……四季映姫さんとやらは」
「いやははは、それがさ……」
言葉を濁したあたいに、門番は表情を曇らせた。
「もしかして、ダメになっちゃったとか?」
「いや、なんかうまくいかなくてね。難しいよ、理想の上司ってのは」
「そう……」
「まぁいいってことさ。それで、あんたはどうなんだい?」
あたいが問い返すと、門番は「そりゃバッチリですよ!」と声を上げて胸を反らした。
「こちらには中国四千年の含蓄がありますからね! 私はバッチリと咲夜さんの木を使って思う通りのことをしました!」
「ちょ、声が大きいって……」
「何を言いますか。理想を誇らないで一体何を誇れと言うの? 見てくださいよ、あの完成された上司の素晴らしさ……」
「へぇ、もっと聞かせてくれるかしら?」
すぐ横で聞こえたその声に、二人して三センチほど飛び跳ねた。何やら親しげにしているあたいたちを怪訝な目で見ていたはずのメイド長が、怪しい笑みを湛えて門番の肩に腕を回していた。赤から青、そして最後に真っ白になった門番の顔を見て、メイド長はにっこりと笑った。
「さ、咲夜さん、時を止めて盗み聞きはやめてくださいよ……」
「あら、盗み聞きされるようなことをしてたのかしら?」
「そそそそそそそんなわけないですよ……ハハ……」
「そう……。じゃあ紅魔館に帰ったらたっぷり聞き出してあげる。先に帰ってるわね?」
最後ににっこりと笑ったメイド長の顔は、「覚悟しとけ」と言っていたような言っていなかったような。
門番の顔から笑顔が消えた刹那、まるでフィルムのコマ落としのようにメイド長の影が消えた。
真っ青になって地面に頽れてしまった門番に、あたいは遠慮がちに声を掛けた。
「なぁ門番さんよ、あんた一体何をしたんだい?」
「なにを、って……」門番は下唇を突き出しながら言った。「なにもしてませんよ」
「でもあの木はそういうことをするための木だろ?」
「うぐ」
「何もしてないとか言って、結局は何かしたんじゃないか」
「むう」
「例えばドッグフード食わせて犬耳にしたりだとか、めいっぱい油飲ませて太らせたとか?」
「そんなことしてませんっ!」
怒った、というよりは釈明するような声を出して、門番は勢いよく立ちあがった。
「私はただ、上司の木を介して咲夜さんに気を送り続けてただけです!」
はぁ、気。
その何の気? 気になる気。
「まさか能力を悪用して陰気とか瘴気とかを……うわ、あんたって意外に腹黒いんだねぇ」
「勘違いしないでくださいよ! 正真正銘、元気の気ですよ! 生命維持に必要な部類のっ!」
「そうかい。しかし、なんでまたそんな遠回りなことを」
全く話が見えない。気を送りたいなら直接送ればいいではないか。いつも一緒に働いているわけだし。
あたいがそう問うと、門番は首を力なく振った。
「それが出来たら苦労しませんよ。知ってるかもしれませんが、咲夜さんは絶対に人に弱みを見せないんですよ。しかもあの人は多少の無理してでも仕事を完璧にこなそうとするんです」
「そりゃ常々聞いてる。完全で瀟洒なメイドって二つ名があるぐらいだし」
「でもあれじゃ体が持たないわよ。しかしいざ私が直接気を送って咲夜さんの体調を気遣おうとしても、人の事でなくて自分の心配をしろーとか余計なお世話よーとか門番の仕事に戻れ―とか言ってちょこまか逃げるに決まってるんです」
「よくわかってるねぇ」
「そりゃそうですよ。咲夜さんがこんな小っちゃかった時から一緒に暮らしてますからね」
こんな小っちゃいとき、と言ったところで門番は二センチほど親指と人差し指を広げて見せた。どんだけ小さかったんだ。
それでも、あたいは小刻みに頷いた。
「なるほど。だから種を介して気を送り続けてたってことかい」
「そうなんです。だからほら、髪の艶とか肌のハリとか胃腸の動きとか、全然健康的になってたでしょ、咲夜さん」
だらしなく表情を弛ませ緩ませて、普通まじまじと確認しない点を褒める門番。こいつ、どこまで上司馬鹿なんだ。
「いや、それは知らんけど……そもそもなんでそんなことを?」
「なんで、って……」
門番が怪訝な表情をしたが、あたいに言わせればその表情こそ怪訝というものだ。目の前の門番はあたいと似てサボリ癖があり、いつも侵入者そっちのけで居眠りをしたり太極拳をしたりしてシフトを潰しているという話はよく聞いていた。それをメイド長に見つかって、よく門柱の前で「黒ひげ危機一髪」ならぬ「赤髪危機一髪」になっているとも聞いている。そんな仕打ちをされながらも健気に上司を気遣う部下。変えてほしい、直してほしいと思うことはあっても、気遣わさせてほしいとは普通思わないだろう。それはよくわからないというより、いっそ理解に苦しむ行動原理と言えた。
「折角手に入った上司の木なんだ。もっと有効に使えばよかったんじゃないのかい? 砂糖食わせて自分に甘くするようにしたり、なんなら本当にドッグフード食わせて犬耳にしてもいい」
「砂糖?」
「そう、あんただってあのメイド長にいつもピーピー叱られてるだろ? 上司の木に砂糖を食わせれば少しは甘くなるよ?」
「なるぞ、って、やったの? その、閻魔様の木に砂糖を」
「やったよ。結構甘くなった。でも、なんだか上司の木も元気なくなっちゃってね、四季様もなんだか様子が変になっちゃって困ってた」
なんでそんなことを訊くんだろう。誰だって厳しい上司には優しく、甘くなってほしいはずだ。
しかし、門番はあたいに同意するどころかアイヤーなどと呟きながら首を振った。
「そりゃ当たり前ですよ。砂糖だけ与え続けて木が元気になるわけないでしょう?」
「なんでだい? 結局は糖分だし、これ以上ない肥料だろ。実際に木自体は元気なんだ。四季様があんな風になる理由がない」
「あの、ねぇ。上司の木だって生物なんですよ?」
門番は腰に手を当て、あきれ果てたように言った。
「甘さだけで人が育つわけないじゃないですか」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あの後、門番に説教されたあたいの心中は少なくとも穏やかではなかった。
甘さだけで人は育たない? 本当にそうなのだろうか。誰だって少しぐらい上司から愛情を傾けられることを望んでいるはずだ。
いや、実際門番の言う通りなのかもしれなかった。元気を失った上司の木と、今の四季様がそれを証明してもいる気がする。
あー面倒くさい。あたいは嘆息した。生来、小難しいことを考えるのは得意ではない。特に、自分の対人関係について考えるのは何だかイヤなのだった。自分は何かとんでもないことをしでかしてしまっているのではないか。そう考えると……億劫というよりも怖くなった。
なんだかやるせなくなったあたいは煙管で気持ちを落ち着かせようと懐に手を突っ込んだ。おや、煙管がない。代わりに何かの粒が指先に触った。取り出してみて、あたいは嘆息した。
それは上司の木の種だった。道具屋の主人にもらったのが三粒、一粒はあたいが植え、一粒は門番に上げたから、これは最後の一粒だ。
上手く育てられる自信がなくなっていたし、何だか面倒になっていた。かといって、誰かにタダで譲るのも何だか癪だった。
そう言えば、道具屋の親父はこれを家宝として娘に相続するつもりだったと言っていたっけ。ならば、この種はあの親父にとっては本当の宝に違いない。それなのにこの種をくれたということは、あたいがそれだけ、主人に信頼されたことの裏返しでもある。
そう思うと、いくらなんでも種を売り払ったり、捨てたりするのは憚られた。あたいは少し迷った後、この一粒を道具屋に返すことにした。
人里まではここから半里ぐらいだし、日が没する前には社宅に帰りつけるだろう。あたいは踵を返し、元来た道を戻り始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
人里につくと、なんだかやたらと喪服姿の人間が多いことに気がついた。いつもは賑やかな人間の里も、今日は火が消えたように静かだった。
なんだかよからぬ雰囲気を察したあたいは、妙な胸騒ぎを感じて道具屋に急いだ。
道具屋の前まで走って、嫌な予感が的中した。黒白のくじら幕が道具屋をぐるりと取り囲い、決して広くはない道を喪服の集団がぎっしりと埋め尽くしていた。人垣に見え隠れする『忌中』の提灯を見つけたあたいは、どっと滲んできた汗を拭うこともせず、道具屋の前に立ち尽くした。
道具屋で誰かが死んだらしい。しかし、もし番頭やら丁稚が死んだとしてもこれほどの弔問客がやってくるわけがない。となると、この店の中核的な人物が死んだことは間違いない。あたいは焦って、店の前の通路を埋め尽くす喪服の集団の中に見知った姿を探した。
一分としないうちに、地蔵のように無表情な喪服集団の中に見知った顔を見つけた。
「香霖堂の旦那」
あたいが呼びかけると、香霖堂の店主――森近霖之助とかいったっけ――がはっと顔を上げた。店主はいつもの性別不詳の着物ではなく、黒一色の喪服を着て、店の中に吸い込まれていく弔問客の受付をしていた。香霖堂の店主は隣に座っていた御阿礼の子に何か言い置いた後、あたいの前にやってきて店の裏を顎でしゃくった。店の裏で話そう、ということらしい。
路地を抜け、物置小屋があるだけの庭に来たところであたいは聞いた。
「おい、一体何の騒ぎだ? 誰が死んだんだ?」
問い詰めると、香霖堂の店主は薄いレンズの向こうで真っ赤に充血している瞳をゆっくりと伏せ、ぼそりと呟いた。
「店主だ。霧雨の親父さんが死んだ」
「なんだって? ここの親父が?」
そうは言いつつも、まさか、というより、やはり、という思いの方が強かった。あたいに上司の木の種を握らせたときの店主の優しい顔が、あっという間に死に顔へ変化した。青白くなった顔、肌の張りが失われて伸びたヒゲ。真っ青な表情。
あまり感情を表に出さないはずの香霖堂の店主の声は、聞いたこともないほどに無様に震えていた。
「亡くなったのはついさっきだ。店番をしながら高校野球の中継を見ているときに倒れた」
「医者は。医者はなんて言ってた」
「脳溢血だと。永遠亭の薬師が到着したころにはすでに手の施しようがなかったそうだ」
「そんな馬鹿な」
「同感だ、同感だよ、こんなことは馬鹿げてる、ひどい、あんまりだ、不条理だ、有り得ない、狂ってる、めちゃくちゃだ。もう全部が全部、めちゃくちゃだ。彼はいい人だった、早死にする理由なんてどこにもなかった、他に死ぬべき人間なんて掃いて捨てるほどいる、けれどどうして彼が先に死ぬんだ、親父さんが、なんでだ、僕の、僕の、し、師匠だった。こっ、これ以上ない、う、うう、友人だった」
必死に押しとどめていた激情が決壊したらしかった。香霖堂の主人の顔がぐしゃっと歪み、店主が言葉を紡ぐ傍からとめどない涙が溢れ出した。歯を食い縛った中から、ヒギィ、ウッグ、エッグというような嗚咽が漏れる。あたいは香霖堂の店主が取り乱すところを初めて見た。
あたいが何か慰めの言葉をかけようとした瞬間、店の表の方から「親父ぃ!」という悲鳴が聞こえて、あたいと店主は同時に顔を上げた。
「魔理沙だ……」
店主が呆然と言い、あたいははっと気がついた。そうだ、あの白黒魔法使い。あいつの苗字は霧雨、ならば上司の木を相続するつもりだった道具屋の主人の娘というのは、あの白黒の事か……。
そう思うのと同時に、香霖堂の店主はあたいを突き飛ばすようにして走り出した。突き飛ばされてたたらを踏んだあたいは、謝ることもなく店の表へ走ってゆく店主の背中をとりあえず追いかけることにした。
店の前の路地に出ると、白黒ではなく紅白の衣装を着た博麗の巫女が眼に入った。見たこともないほどに沈痛な面持ちをした博麗の巫女は、深々と礼をする弔問客の誰にも応えることなく、重い足取りで道具店の中へと入っていった。やけに小さく見える紅白の後ろ姿が店の中へと消えてゆく。あたいも思わずその背中について店の中へと入っていこうとした刹那、黒白の悲鳴が店の前にまで響き渡って、あたいは思わず足を止めた。
「親父、親父! 私だ、魔理沙だぜ! 霧雨魔理沙だぜ! 娘が帰ってきたんだぜ!! 何寝てるんだ! 寝てないで叱ってくれよ、馬鹿野郎って怒鳴ってくれよ!!」
聞くに堪えない、とはまさにこのことだろう。それは声じゃなかった。人間の喉のどこかが壊れて、そこから漏れ出した空気が奏でているような、人の心をざっくりと切り裂くような悲鳴だった。
思わず足を止めたあたいに、黒白の慟哭が続いた。
「親父、親父! 縁を切ったまま置いていくなんてひどいぜ! あんまりだぜ! う、うう……! 親父、親父、私が悪かったよ、あんたが私を追い出したのは私が子どもだったからなんだ……! 魔法使いになりたいなんて言ってあんたを困らせたから……だから……だから……! ずっとわかってたんだ……あっ、謝るぜ、勝手に出て行って悪かったよ、あっ、謝るから、だから目を開けてくれよぉ……!!」
狂を発したような悲鳴に、受付に立っていた御阿礼の子が堪らず泣き出した。啜り泣きは喪服の集団にも伝染し、やがて嗚咽の声が重なり合って、一つの沈痛な旋律を奏で始めた。ウウッ、ズズッ、ヒグッという亡者の呻きにも似た声が喪服の集団全体に伝染するころには、黒白の悲鳴はてんで意味をなさない懺悔の言葉になっていた。
悲鳴と懺悔。啜り泣きと同情。その重奏を訊いているうちに、掌の中で忘れていた種の感覚を思い出した。あたいはそれを握りつぶしてしまうほどに手を強く握りしめた後、振り返ることなく彼岸へ帰る道を走り出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こまちち、遅かったですね」
社宅に帰ると四季様が正座で座っていた。あたいは四季様に感づかれないよう、上司の木に視線を移した。
なんと、植木鉢にはタバスコの瓶が空になって刺さっていた。チリに真っ赤に染め上げられて、植木鉢の中の四季様の芽はずいぶん凛々しくなっている。あのほんわかした空気はどこへやら、今は眼光どころか発せられる雰囲気までもが四季様そのものになってて、四季様の真似をするように膝をついている。まるで二人分の四季様があたいの目の前にいるかのようだった。
あぁやっぱり。あたいは思った。バレたのだ、上司の木のことが。
かといって、今更焦る気にも弁明する気にもなれなかった。焦る代わりにため息をつき、弁明する代わりに頷いたあたいは、「……ここはプライベートですよ」との言葉を投げつけてみた。
四季様は無表情でその言葉を受け流した。
「プライベートもクソもあったものですか。半日も仕事をサボって。それにこの鉢です。どうも最近、自分が自分自身でなくなったような気がしていました」
「そんなことを今更咎めに来たわけじゃないでしょう。四季様こそ、どうしてここにいるんです? 永遠亭から抜け出してきたんですか?」
「そうです、逃げ出してまいりました。あんなことがあったら戻ってこないわけには行きませんでしたから」
あんなこと、という言葉で、さっきの光景を思い出した。あたいはフォーとため息をついた後、無言で玄関へと上がった。四季様は靴下が入った袋を放り投げたあたいを一瞥して、「あなたも聞いたのですね?」と探るような声で言ってきた。
あたいは頷いた。
「脳溢血だったそうですね」
「そうらしいです」
「プッツン、ですね」
「そう、プッツンらしいです」
「まだ若かったようですね」
「まだ若かったようです」
「娘も、いたようですね」
「白黒の魔法使いがね」
「里に彼女の父親がいるとは聞いていましたが、よもや勘当されていたとは」
「ねぇ四季様」
「はい」
「あの主人は極楽へと行けるでしょうか」
「それを言ったら服務規程違反です」
「ここは職場じゃありません」
「それでも責任は残ります」
あたいが無言を通すと、四季様はため息交じりに言った。
「あの主人は人々から慕われていた。あのような人が極楽浄土へ行けなければ、一体誰が極楽へ行くというのです?」
「それだけですか」
あたいが言うと、四季様は頷いた。
「地獄か浄土か、いずれにせよ行くことができる行き先は少なくなる。死ぬということはそういうことです」
「そうでしたね」
「忘れていましたか?」
「いえ」
「なら何故」
「理解したくなくなったんです」
「そうでしょうね」
「そうでしょうか」
「そうです」四季様は再び頷いた。「誰しもそう思うに決まっています」
なんだか妙に的を得ない言葉だった。あたいは大きくため息をついてから、四季様をまっすぐ見返した。
「何か言いたいことがあるんでしょ? クビ宣告とか減給の通達とか異動命令とか」
「言いたいことがあるのは認めますが、後半は全部間違いです」
「なんです?」
「私はあなたに汚職の相談にやってきたのです」
あたいはびっくりして四季様を見た。四季様はふう、とため息をついて横のほうに視線を逸らした。
「汚職、っていうとアレですか? 誰かから銭金受け取って寿命を延ばしてやったりという」
「金銭の収受は魅力的ですけれど、それだとつまらないでしょう。三文悪役みたいでカッコ悪い」
「ならば何を」
「私は今まさに目の前から落ちたものぐらいは拾おうと思ったのですよ、ヒーローっぽく」
私はしばらくその言葉の意味を考えてから、あの聞くに堪えないような白黒の悲鳴を思い出した。
まさか、と四季様を見ると、四季様はそこで初めてニヤリと笑った。
「あの、ということは……」
「そうです。父親を返してやりたいのです、あの白黒の魔法使いに」
あたいはその言葉に驚いたり、怒ったり、慄いたりするより先に、まず笑ってしまった。
「本気ですか?」
「あの魔法使いにはなかなかお世話になったでしょあなたも私もねそれ以上に異変解決という分野において幻想郷に彼女の力はもはや不可欠ですし私も一度手合わせしてみましたがなかなか筋がよろしくて結構驚いたこともありましたよねまぁあの巫女ほどでもないんですがまぁ認めてやってもいいっていうぐらいでねぇさてあの娘がもしこのまま父親の死をずっと気にして食事とか睡眠とかあまり取れなくなるといけませんよねやっぱり睡眠不足はお肌の敵ですしきっと魔法の研究もやめてしまってそれ以来例えばリストカットとかしないとは思いますけど自殺未遂とかしてしまったら一体誰が異変を解決するんだって言う話になってしまってそれは当然幻想郷の秩序を守るという点から見てもやはりマイナスにしかならないわけです」
四季様はそこまで一息に言ってあたいに「おわかり?」と目線を寄越した。
まるで嘘だと看破してくれと言っているような言い訳の羅列だったけど、それでも言いたいことがなんとなくわかってしまったのは、一緒にいた時間の長さがなせる業だ。
「要するに、白黒が悲しむのを見たくないって話でしょ?」
「失礼な。20パーセントぐらいは真剣に幻想郷のことを思ってます」
「しかし、大事ですよその汚職は。汚職と言うよりも単なる生命に対する著しい冒涜ってヤツです。特定個人の死をなかったことにするなんて」
「そうですね。でも私だって職場から上がれば単なる美少女なわけですし、生命に対する冒涜なんて難しい言葉はわかりません」
「美少女ってわざわざつけるところが何となく不安なんですけど」
「お黙り。……でも、勘当された娘に仲直りすべき家がないなんて、寂しいでしょう?」
四季様はそれからちょっとだけ頭を下げた。
「しかし、あなたを巻き込むことになります。それでも良いというなら、協力していただけませんか?」
あたいは苦笑した。
「何をあらたまってるんですか、あんたはあたいの上司でしょう? ……四季様の策、信じていいんですよね?」
「ええ」四季様は頷いた。「生涯ただ一度の汚職にするつもりですからね。外しゃしませんよ」
私たちは悪代官と、それにへつらう越後屋のように意味深な笑いを漏らした。ふと横を見ると、上司の木も不敵な笑みを漏らしていた。
二人と一輪の笑い声が狭い部屋の中にこだました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なぁ死神さん、そろそろ船を出しちゃくれないか」
「断る」
「なんでだい?」
「人を、待ってる」
「人?」
「そうだ」
「もしかして船賃が足りなかったのか?」
「そんなことないさ」
頭に三角の布キレを当てた白無垢姿は不安そうに言う。中有の道の中ほどにある半分崩れたようなベンチに座り、屋台を経営する霊たちの視線を浴びながら、あたいはぶっきらぼうに否定した。中有の道で極道の霊たちが経営する屋台はいつもなら結構盛況しているのだけれど、今日は主だった人妖が霧雨の親父の葬式に出払っているためなのか、珍しく閑古鳥が鳴いていた。
あたいは手の上で金ぴかに光り輝く金貨でコインロールをしながら時間を潰していた。この金貨は霧雨の親父が船賃として差し出したものだ。死神のあたいにとっては、これ一枚で向こう半年分の生活費になるぐらいの額面である。出来ればそのままネコババにしたいぐらいだったけれど、これを盗ったら霧雨の親父は現世に帰れなくなる。
中有の道を抜けてしまえば幽霊は「語るなかれ、聞くなかれ」で口が利けなくなってしまう。それぐらいは知っているらしい霧雨の親父は多少急き込んだ様子であたいに聞いた。
「なぁ死神さん」
「なんだい?」
「あんた、私が死んだ後に私の家に来たかい?」
「ああ」とあたいは言った。「通夜の席に偶然居合わせたよ」
「そうか」
「香霖堂の店主や、御阿礼の子も来てた」
「そうか、霖之助君や阿求が……」
「博麗の巫女も来てたよ」
「あの子もか。博麗の巫女が参列客にいるなんて光栄なことだ」
「もちろん、白黒の魔法使いも来てた」
もちろん、の部分を強調してあたいが言うと、項垂れるようにベンチに座っていた霧雨の親父が顔を上げた。
「魔理沙が……?」
「あぁ、泣いてた。凄い声で」
霧雨の親父は何かを言おうとしたけれど、もちろん言葉なんかになるはずはなかった。白無垢の袖から出た手が、ぐっ、と膝の上で拳を握り締めた。
それは正の感情の表し方じゃなかった。後悔とか、反省とか、そういう負の感情がさせたことだった。あまりにも言い足りないことが多すぎた。あまりにもしてやれないことが多すぎた。自分が死んでもなお、他者をこれほど思いやることができる人間の心。それはきっと悪いことではない。
あたいは親父から受け取った金貨でコインロールをしながら親父に言った。
「なぁ、霧雨の旦那」
「なんだい?」
「なんであんたは、あたいに上司の木の種を売ってくれたんだい?」
霧雨の親父は静かに頷きながら言った。
「なんでだろうね。動機が不純でもなかったし、それ以上にあんたの目があんまりにも真剣だったからかもしれない」
「そんなに真剣だったかい?」
「そうだな、不渡り手形を出しそうなファリサイ派ユダヤ人みたいな顔だった」
「要するに思いつめたような顔だね」
「そうだ」
「あれは」
「ああ」
「娘に継がせなくてよかったのか?」
上司の種はもはや幻想郷においても希少品のはずだ。それに人間の人生は短い。土台、あのまま霧雨の親父が金庫の中に保管しておくわけにも行かなかっただろう。
親父は少し迷った後、頷いた。
「あの子には……今の魔理沙には、そういう楽は身の助けにはならない」
「楽?」
「そうだ。あの種は人の運命に少なからず干渉することが出来る。あれを使えば、魔理沙は少なくとも三人までは思いのままに操ることが出来るということだ。しかし、あの子には夢がある。偉大な魔法使いになるという夢だ」
「家業を継がせたい親としては複雑だね」
「違いないがそれはそれだ。あの種を継がせたら、あの子はこの大事な時期に大切なものを失う。不当な手段で楽をすることを、卑怯を働くことを覚えただろう。あの子が何者になろうとしてるとしても、そんな子に育ってほしくなかった」
「勘当した娘に?」
「勘当した娘だから、だ」
あたいの脳裏に博麗の巫女の顔が浮かんだ。確かに親父の言うことは一理ある、と思う。あの白黒だってそこまでクソ野郎ではないだろうけれど、好奇心は強い。博麗の木や人形遣いの木、あるいは香霖堂店主の木が誕生したら、あの魔理沙ならどうするだろう。いいことにはならない気がする。
「ってことは、あの白黒が大人になって、それなりに分別がついて、ある程度落ち着いてきて、なおかつ家に戻ってきたら継がせるつもりだったのかい?」
「それもどうせ親の話で、子は知らなくていい話だ。だから忘れるつもりであんたに売ったんだ」
「失礼を承知で言うけど、なんだかもったいない話だね」
「そうだな」と親父は素直に頷いて、言った。「ただ、そういうことでしか教えることができない人間の姿もある。そう信じてたんだよ」
厳しさにこそ潜む愛情。霧雨の親父がそんなことを言った気がして、あたいははっとした。
何か、途轍もなく重大なヒントを教えられた気になったあたいは、浅黒い親父の顔を注視した。
霧雨の親父は照れくさそうに頭を掻いた。
「……というようなことを言ってた。『週間ポスト』が。あ、いや違う、昔の育児書だったかもしれん」
ちょっと慌てた様子で首を振った霧雨の親父は、娘によく似た舌足らずな喋り方をしていた。
勘当されても親子は親子なんだなぁ、と妙に感心したあたいは、霧雨の親父と顔を見合わせて何となく笑いあった。
そのとき、あたいは背後に人の気配を感じて立ち上がった。
来たか。霧雨の親父が振り向いた先をあたいも振り向いた。
「こまちち、何をやってるのです?」
四季様がいた。地の底からはるか上の天界を睨み付けるような、途轍もなく底意地の悪そうな目をして。
思わぬビッグゲストの登場に、霧雨の親父だけでなく、屋台を経営する極道までもが当惑した顔を浮かべた。
あたいはコインロールをしていた金貨を親父に返して立ち上がった。
「何って、サボタージュですよ。サボリじゃありません」
「サボタージュというと、破壊活動ですね?」
「だからそう言ったじゃありませんか」
「悪意に基づいた意図的な破壊活動ですね?」
「そうです」
「ゆるせない」
「ええ、ゆるしてもらおうともおもってませんよ」
くう、この演技力のなさ。四季様のセリフはびっくりするぐらいに棒読みだった。あたいも似たようなもんだろうけれど。
「こまち、それはわたしがえんまおうとしってのろうぜきですか」
「ええ、そうですよ。あたいはもうしごとなんてまっぴらです。ここでいっしょうさぼっていようときめたんですよ」
「そうですか。わるいこにはおしおきをしなければいけませんね」
「あたいはまけませんよ」
「いいましたね?」
「いいました」
打ち合わせどおり、ゴゴゴ……と音がするぐらいの勢いで四季様が殺気を放ち始める予定だった。けれど実際四季様が放ちだしたのは打ち合わせ通りの殺気じゃなくて食い気だった。四季様それ殺気と違います、なんでアンタそんなに演技力ないんですか。四季様は全身から食い気を発しながらにじり寄ってきた。霧雨の親父が何だかよくわからないような顔であたいと四季様を見た。真剣なシーンなのにどうもカッコつかん。ああ、ちょっと腹が減ってきた。あとで奢ってもらいますからね。
「こまち」
「しきさま」
あたいたちは待った。あたいたちの間に張り詰める何かが自動的に切れるのを。
「小町」
「四季様」
「こまち?」
「しきさま?」
「こぉまちぃ……!」
「しきさまぁ……!」
「こおおおおおまちぃぃぃぃ!!」
「しきさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あたいと四季様は同時に地面を蹴り、互いの顔に思い切り拳を見舞った。
ドゴッ、という衝撃があたいの頬を貫いたと思った瞬間、あたいの右拳にも重い衝撃が突き抜けた。その一発でぐらりと視界が揺らいで、あたいと四季様は同時に踏ん張った。
うおっ、と霧雨の親父が悲鳴を上げ、ざわっ、と極道たちの人垣が揺れた。
だらっ、と、鼻から何か液体が流れ落ちるのがわかった。
「……なかなかいいの持ってますね、四季様」
「……あなたこそ、小町」
頭の中で鐘が鳴っていた。ぐわんぐわんと鳴り響くのは、祝福の鐘か、それとも葬式の鐘か。
そんな不吉な想像を吹き飛ばすかのごとく、あたいたちは同時に咆哮した。
「……そのキレイな顔、今すぐ二目と見れん顔にしてやらぁぁぁぁ!!」
「……私こそ、お嫁にいけないような顔にしてやりますからぁぁぁぁ!!」
ヒィ、と霧雨の親父が顔を背けた瞬間、あたいと四季様は拳を見舞いあった。あたいの一撃は四季様の下腹部に入り、四季様の拳はあたいの顎下を捉えた。返す刀で振るったローキックは四季様の脛に激突し、四季様の掌底はあたいの肝臓のあたりにめり込んだ。
そこから先は、もう数えなかった。バギッ、ゴッ、グワシャ、という衝撃音がひたすら連続して鼓膜を打ち震わせ、平衡感覚さえも麻痺させて肉体を痛めつけた。あたいの蹴りで吹き飛んだ四季様が屋台のひとつに突っ込み、お好み焼きの揚げ玉が散った。
うおおおお! と極道たちが気勢を上げた刹那、屋台の残骸から飛び出してきた四季様の左フックがあたいを吹き飛ばし、あたいはヨーヨー屋に突っ込んだ。大量にある水ヨーヨーのおかげで衝突の衝撃が吸収される……なんてことはなく、それどころか水槽の角に後頭部を強打して、目から火花が散った。
上等だ。あたいがフラフラになりながらも立ち上がると、あたいたちを囲んでいた極道たちが物凄い歓声を上げた。地獄ではプロレスなんぞ見れるはずがないし、どういうわけかここのヤクザ者には武闘派が多い。切った張ったはすぐ伝染し、中有の道は異様な熱気に包まれた。
がああああああああ! という獣のような怒声が口から漏れた。あたいたちは互いの攻撃をいなし、防ぎ、ボディを打たせて力を奪った。また同時に、急所を狙って徒手空拳を繰り出し、顔中の穴という穴から血を噴き出させながら、互いに敵意の視線を投げつけ合った。
「しきさまぁ……!」
「こぉまちぃ……!」
あたいの膝が四季様の胃を潰した。
四季様の爪先があたいの顎下を捉えた。
「しぃきぃさぁむぁぁ……!」
「こぉぉぉまちぃぃぃ……!」
パンチを繰り出そうと右足に体重を乗せた瞬間、中途半端に延びた左手首を捕まれて引っ張られた。
つんのめったあたいが転びそうになるのを何とか踏みとどまった刹那、四季様の拳が脳天に落ちてきた。
「まったくあなたという死神はっ! いつもいつもサボリにサボって!」
四季様があたいの顎に思い切りアッパーカットを見舞った。
「説教しても聞いてるんだか聞いてないんだかっ! 非凡なのは乳だけですか!!」
四季様の両手があたいの両耳をしたたかに叩き、聴覚が奪われた。
「挙句に上司の木なんか使って私をいいように操ってッ!! 言いたい事があるなら口で言えばよかったでしょう!!」
四季様があたいの後頭部の髪の毛を掴み、ベンチに叩きつけた。
「私はそんなに嫌な上司でしたか……!!」
あたいの額を何度もベンチに叩きつけながら四季様が言った。
「私は……あなたに……!」
あぁ、わかっていますとも。
本当の愛情。
そんなつまらんものを、今さっきそこの冴えない親父から教えられたところなんですよ。
それは角砂糖のような甘さじゃない。
それはむしろ、チリソースのように、甘さとは対極にあるべきもので……。
そのときだった。まったく斟酌しない四季様の頭突きが鼻にメガヒットし、ぱっと鼻血が飛び散った。物凄い衝撃が脳天に突き抜け、一瞬意識が飛んだ。
これが愛情の重みか。あたいの視界が揺らいだ。けれど、すべては計算ずくだった。あたいはよろけたフリを装い、霧雨の親父がいるベンチに崩れ落ちるようにして背中を預けた。
ベンチの上に蹲り、頭をかばうようにして震えていた霧雨の親父に顔を寄せ、「霧雨の親父……!」と耳打ちする。その言葉に正気を取り戻したように、はっと霧雨の親父が顔を上げた。
「い、いいか、黙って聞け。ここからまっすぐに来た道を戻れば現世に帰れるはずだ。どさくさに紛れて家に帰れ……!」
「えっ? でっ、でも……! あ、あんたは……!?」
「かまうこたぁ……ないよ……! あんな、ペチャパイ閻魔、か、かならず、ぐおお、た、たおして、みせるさぁ……」
「そんな……閻魔王相手にタイマンなんてムチャクチャだ……! それに私はもう死んだ! 今更帰れる訳が……!」
そうだ。霧雨の親父は間違いなく死んだ。しかし、それは十数時間前までの話だ。霧雨の親父が死んだという情報は、手はずどおりすでに四季様が是非曲直庁の記録保管庫から廃棄している。つまりあの世の制度上、今の霧雨の親父は死んでいるわけでもないし、生きているわけでもない中途半端な存在ということになる。後は中有の道をまっすぐ帰れば、霊魂は肉体に引かれ、おのずと元通りに戻るはずだった。
「だいじょう、ぶ、だよ、あたいたちが、うごご、て、手を打ったんだ、あんたは帰れる、帰れるんだよ……!」
「そんな……! そんなことをして何になるんだ!? あんたたちはどうしてそこまで……!」
「い、いいから早く、行けったら……! あたいを、殴られ損にする、気、か?」
「しっ、しかし……!」
あたいは霧雨の親父を睨みつけ、最小限の動きで懐を探ってそれを取り出し、親父の顔面に突き出した。
血に塗れた掌にぎょっと驚いた親父に構わず、あたいはそれを親父の手に握らせた。
幽霊になっても相変わらず暖かい手だった。あたいの手の中にあったものを感じて、親父の目が丸くなった。
血でがさがさになった唇で精一杯の笑みを作って、あたいは親父に言った。
「これ、渡すんだろ? かえって、きたら、あんたの娘に……!」
言った瞬間、霧雨の親父の目から困惑が消え、新たな意志の炎が燃えたのをあたいは見た。親父は小刻みに頷いて、しっかりと「それ」を握り締めた。
あたいが笑みを返すと、親父は転がるようにベンチを飛び出し、極道たちが作る人垣を掻き分け、その向こうに見えなくなった。
これでよし。あとはどうやってこの騒ぎを落ち着かせるかだった。
ぺっ、と口から血を吐き出しながら、あたいは立ち上がった。やりましたね、小町。四季様はお岩さんみたいになった顔でそう笑ったようだったけど、膝から下が二、三秒置きに痙攣していて、喜んでるんだか呪ってるんだかわからなかった。よく見ると前歯が吹き飛んでいる。自分の右拳を見てみるとそこに前歯の破片が刺さっていた。神経に障ってさぞスースーすることだろう、あとで差し歯にしてやらにゃ。
「こまち……こまちぃ……!」
四季様がフラフラとこちらに歩いてくる。お岩さんみたいになった目の奥で四季様は何らかの合図を寄越したらしく、ちょっとだけ光ったようだった。それでようやく、あたいは打ち合わせの内容を頭の片隅から引っ張り出すことができた。
そうだ、確かここでお互いにクロスカウンターを叩き込み、結果あたいの方がバッタリと倒れるんだった。四季様は勝者になり、あたいは敗者になる。
そうすれば一応、極道たちにも示しがつく。仕事をサボった死神に私的制裁を加えたことで、是非曲直庁からあたいへの更なるお咎めはなくなる。
愛を感じた。部下である死神に汚職の罪を擦り付けないための痛みある幕引き。
あぁ、なんと美しい。あたいの目に涙が零れそうになった。
部下への愛情のの美しさに、一瞬、別次元に意識が飛んでいた。
気がつくと、あたいの両手は四季様の腰をがっちりとホールドしていた。
「あ、あの、こま、ち?」という声が耳まで聞こえた、あたいの体は勝手に動いて、四季様の体を思い切り抱きしめた。
バカ、一体何をしようとしてるんだ、あたいは。
そう言い聞かせたけれど、体は言うことを聞いてくれなかった。
「しきさま、ごめんなさい」
四季様の服を掴む手の力を強くすると、四季様がちょっと動揺するのが気配でわかった。
そして次の瞬間、あたいの全身はまるで機械仕掛けのように正確に動作し、為すべきことを為した。
瞬間、あたいの裂帛の怒声と共に極まったバックドロップは、あたいが生涯極めたバックドロップの中でも一番キレイなバックドロップだった。
四季様の後頭部が大地に叩きつけられ、あたいが見ている世界の上下が逆転した。それと共に、四季様が頭から落ちた。
ゴフッ、という断末魔の悲鳴を後頭部に聞いたあたいは、そのまま両手を解き、四季様の体を上に乗せたまま、地面に仰臥した。
頭がぐらぐらしていた。
極道たちから割れるような拍手と歓声が上がった。
世界そのものが揺れていた。
もう意識を保っていられそうになかった。重力が、圧倒的な力であたいの意識を闇の底に引きずり込もうとしていた。
意識の底に生じた亀裂に落ちてゆく直前、あたいは霧雨の親父の顔を幻視した。
娘の下に帰ろうとする父親。その背中がやたらとたくましく見えたところで、意識が途切れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
文々。新聞で号外が配られることは少なくないが、一週間に渡って号外が出るなどという事態は、おそらく後にも先にも今回だけだろう。
一日目。『霧雨道具店の店主、葬式中に突如蘇生 開口一番「雄星はどうなった?」と意味不明の発言』
二日目。『霧雨魔理沙 極度のファーザーコンプレックスが明るみに 「うるせーばか」と捨て台詞を残して本人は再び家出』
三日目。『霧雨道具店店主の蘇生事件、医学的には解明できず 一方、是非曲直庁は庁内職員の関与を否定』
四日目。『閻魔王 四季映姫・ヤマザナドゥが頚椎を捻挫 「関取の亡霊に張り手を喰らった」と真偽不明の供述』
五日目。『中有の道の屋台街 突然のプロレスブームで賭け試合が横行 全員が地獄へ強制送還される事態に』
六日目。『紅魔館の門番紅美鈴が涙ながらの告白 「私は上司にナイフで刺された」 一方、上司側はノーコメント』
七日目。『隙間妖怪・八雲紫 博麗神社での盗撮容疑で九度目の御用 「空中のホコリを撮影していた」と今回も苦しい言い訳』
あたいはしばらくの間、言い訳としての「空中のホコリを撮影する」という発言の有効性を考えたけど、あの隙間妖怪の考えていることだから詮無いことだ。そのどこにも小野塚小町の名前が出ていないことに安心すべきなのだろう。あたいはそのまま文々。新聞を屑篭に放り投げた。
結局、全てが元通りになった。あのバックドロップを極めた後、さすがにクビを覚悟したあたいだったけど、四季様はベッドの上でコルセットだし、お互いに言いたいことを言い切ったのがよかったのか、四季様はあの日のバックドロップについては何も言ってこなかった。幻想郷は不可思議な蘇生騒ぎで持ち切りだし、一刻も早く事態の幕引きを図りたい是非曲直庁の意向も相俟って、あたいのところにお咎めは来ていない。この事件が残した影響といえば、幻想郷における紙とインクの年間消費量をちょっぴり多くし、とある親子の関係修復に新しい道筋を提供したということだけだろう。
あたいはほっぺたに引っ付いた絆創膏を慎重にはがした。よし、傷跡も残っていないし、青タンはあと数日すれば消えるだろう。折れた歯のほとんどは差し歯にしたし、この傷が治ればこの事件があたいに残した影響も消え去る。それは何だか寂しいような、嬉しいような、複雑な暖かさをあたいの胸に残した。
……と、ここまで言っておいてなんなんだけれど。
あたいは後ろを振り返り、本棚の上においてある鉢植えを見た。四季様の芽と目が合った。四季様の芽はあたいの顔を見て頷いた。
なんでもお見通しか。あたいは苦笑しつつ、立ち上がって外出の支度を始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
人里を突っ切り、風が吹く小高い丘の上まで来た。
空が広い。青く輝く秋空は、遠く、高く、はるか大気圏の外まで見渡せそうなほどに澄み切っていた。
あたいの左手にはシャベルが握られている。これはさっき、人里の道具屋で買ってきた奴だ。親父は自分が死んだことを覚えていないらしく、上司の種のことを執拗に聞いてきた。あたいはその質問全てを愛想笑いでごまかした。きっと親父は、家の金庫の中に上司の木の種がたった一粒だけ、戻っていることも忘れてしまっているのだろう。
あたいは丘の上の地面を適当に見繕い、土が軟らかそうな地点を見つけてそこに穴を掘った。それから地面に胡坐をかいて座り、四季様の芽が植わった鉢植えを取り上げた。
四季様の芽があたいの顔をじっと見つめた。
「四季様、いえ、四季様の芽様。ここでお別れです」
四季様の芽は頷いた。あたいはそっと四季様の芽を植木鉢から取り出し、穴の中に埋めて浅く土をかけてやった。
霧雨の親父から貰ったメモによると、四季様の芽に預けた四季様の髪の毛が養分として吸収され尽くせば、四季様の芽から四季様の人格はなくなるという。その後、上司の木は本当の植物としてこの地に根を張り、植物として生きることになるそうだ。そしてそれはいつか花を咲かせ、実を結び、遥かな未来の先にまで命を繋げてゆくのだと。
あたいは最後の言葉をなんとかけようか迷って、どうでもいいことを口にした。
「ここなら太陽の光もたくさん届きますし、空気もあたいの部屋よりキレイでしょう。水は空からもらってください。光はお天道様から受け取ってください。肥料はミミズや動物から、風は、ええっと……」
それだけ?
四季様の芽はあたいの心の底を見透かすように、少しだけ首を傾げた。
苦笑した、思わず。本当に四季様には敵わん。それがたとえ植物であっても。
「……この一ヶ月、すみませんでした。自分の考えが甘かったんです。人様を自分の好きなように改造しようなんて、そんなことはすべきじゃなかった」
よろしい、それで? というように四季様の芽が頷いた。
「まだ言わなきゃいけないですかね?」
「当然です」
あたいの背後から人間の声が聞こえた。あたいは後ろを振り向かないまま、ぶっきらぼうに吐き捨てた。
「ドS」
「うるさい」
「やれやれ、ここで言ったことは秘密ですからね?」
「はいはい、それで?」
「……四季様があたいを怒ってくれてたのは、あたい不真面目だからじゃないんですよね。あたいが部下だから、それなりに期待しててくれたから。……そうでしょう?」
にっこり。四季様の芽が笑顔を作った。
「だから、あたいはあなたにはもう頼りません。仕事しながら、ときどきサボりながらでも、あなたの期待に応えられるよう努力する所存ですよ」
「本当ですか?」
「本当ですとも」
「そうあってくれることを望みますね」
「ちょっとはカッコつけさせてくださいよ、もう」
あたいが後ろを振り返ると、首にコルセットをつけた四季様が立っていた。やれやれ、また永遠亭から抜け出してきたらしい。脱獄の才能があるのかもしれない。それなら閻魔王なんかやらずに怪盗百面相でもやったらいいんだ。
まぁ、そうは思っても口にはすまい。万が一にでもあたいの意見に賛成されたら、あたいはこの上司を失ってしまう。
「全く、なんであのときバックドロップなんかしたんですか。打ち合わせと違いましたよ」
「あ、いや、ごめんなさい、なんかあの時はあたいもパンチドランカー状態だったというか」
「何がパンチドランカーですか。明らかに潰す気のバックドロップだったくせに」
「むく……」
「おまけに上司の木なんか育てて。私の説教がそんなにイヤでしたか?」
「……」
「本当にあなたという死神は」
四季様は大仰なしぐさで腰に手を当て、ため息をついた。
「……もぅ、そんな顔しないでくださいよ、悪かったって言ってるじゃないですか」
意地悪な四季様にあたいが抗議すると、四季様はんーどうしようかなぁーなどとわざとらしく迷ったようなフリをしてから、頷いた。
「やれやれ、今回の件は今の反省に免じて多目に見てやりましょう」
「あは、ありがとうございます。四季様大好き」
「調子に乗るな。罰としてこれから私にみたらし団子を十本奢ること、いいですね」
「ちぇ、鬼上司、鬼閻魔、鬼団地妻」
「やかましい、行きますよ。美味しいお団子屋を知っていますから、そこでね」
「はいはい」
あたいは四季様の後をついていった。あたいがもう一度だけ四季様の芽を振り返ると、四季様の目は双葉の両手で必死に両手を振っていた。あたいも小さく手を振ってから、もう振り返ることも無く歩き出した。
もう一人の四季様とあたいの付き合いは、それで終わった。
それでも、本物の四季様はどこか楽しそうだった。いや、やっぱりみたらしではなくワラビ餅がいいでしょうかなどと真剣に思案しているのを見ると、四季様が上司であるということを忘れてしまう。あたいら二人は、親友とか、腐れ縁とか、親子とか、そういうもっとフレンドリーな言葉で表現できるような、そういう類の関係になれている気がした。
上司の木が無くても、とあたいは思った。上司の木が無くとも、こんな四季様とだったらもっといい関係が築いてゆけそうな気がする。
言いたいことははっきり言い、お互いに我慢も忍耐もせず、認め合っていけるような関係に。一方的に甘えるだけじゃない。一方的に甘えさせるだけでもない。あの渾身のバックドロップは、もしかしたらそういう決意の表れだったのかもしれない。
そう思ったら、なんだかあたいも無性に嬉しくなった。
そんなあたいは、歩きながらつい口を滑らせた。
「ねぇ四季様、もうひとつ謝っておかなけりゃならないことがあるんです」
「何でしょう?」
「四季様が昔、ちょっとずつ進めてたMGS4のデータありましたよね?」
「ああ、ありましたね。BIGBOSSのフェイスカムを入手するのに丸三年かかりました」
「実はあのクリアデータ、二週間前にあたいが間違って消しちゃったんです」
「はい?」
「いやね、ちょっとBIOHAZARD5を進めようかなーなんて思ってセーブデータを弄くってたらうっかりMGS4のデータを消しちゃって。あ、でも安心してください。ラーフィングオクトパスのところまでは自分でもう一度進めておきましたから。いやぁ本当にすみません」
「……てやる」
「はい?」
「……殺してやる」
「え?」
ヒィィィィ、というヤカンが沸騰したような悲鳴が四季様から発して、あたいは思わず腰を抜かした。四季様は血の涙を流しながら阿修羅の表情を浮かべ、殺してやる、そこに直れと物凄い声で怒鳴った。
こいつはヤバい、結局こんなオチか、折角いい関係になったのに。あたいがやるせなさにむせび泣きそうになった刹那、四季様は悔悟棒を懐から取り出したのが見えて、あたいの頭から後悔が消えた。ヤバい、今の状態の悔悟棒で殴られたら頭蓋骨が陥没するだろう。逃げよう、逃げるんだ。
四つん這いになった状態でその場を逃げ出そうとした刹那だった。
あたいの尻の穴に灼けるような痛みが走った――。
了
だがこのギャグと中途半端なシリアスが混ざった状態…良いです
言いたい事は色々あるけど、上手く言葉に出来ないから点数だけ置いていきます。
ほどよく打算的で、腹黒くもあって、でも大切なものは視界に収めている。そんな感じが。
しかし親父……雄星なのか娘なのか、あんたの期待してるのはどっちなんだw
でもおもしろかったです。
四季様が汚職に手を染めた理由がちょっと説得力うすかったかな?
あと、誤字でしょうか。
>四季様は勝者になり、あたいは歯医者になる。
乳のために一粒八十万を三粒四百にまで安くするとはwww親父とはいい酒を飲めそうだw
てっきり砂糖をあげすぎて切れやすい子供になったかと思いや元からでしたか、そうですか。
取り敢えず四季様は乳に拘り過ぎです。貴方の胸も、満更ではないですよ?
少しばかり気になったところを。
> 飛宝中の飛宝
秘宝中の秘宝
> 小さなおめ目が
お目目 / お目々 / おめめ
> 部下への愛情のの美しさに
部下への愛情の美しさに
「歯医者になる」は差し歯の点から洒落だろうなあと。
闇鍋の様相を帯びた台所からシェフがすき焼きをもってきやがった。
あの食材からどうやってこんな美味いものを…?
兎に角、ごちそうさまでした。卒論もこの調子で頑張ってください。
おう書いてやるよ。次はめーさくで書くよ。
前作の続編も期待してます
戸惑いながらも笑いながら一気に最後まで読んでしまったので
100点付けときますw
こと、が抜けてました~。
今回も素晴らしいものでした。
この二人は上司と部下だけど、親友だとか腐れ縁だとか、そういうくくり方が似合う二人であってほしい。
しかし美鈴の上司バカときたら微笑ましいww
シリアスのような、ギャグのような、どっちでもないようなこの感じ・・・w
とにかくこいつは傑作だ。それは間違いない。
小町は殺されても仕方のない大罪を犯したのだ
読み進めていくうちに自己キャラ像が崩壊し、
読み終えて新たなコスモが誕生したんだぜ……。
花巻市民は未来永劫菊池雄星の味方なんだぜ。宮沢賢治以来の有名人だからだぜ
所どころで笑わせてもらいましたし、一本筋の通っているストーリーに心躍りました。
定価八十万円の種で国が傾くんですねw
よかったです。
あれですよね、前作は泣けるぐらいいいコンビでしたよね畜生。
よもやこんな超展開になるとは。最高に面白かったです。
この路線で突っ走ってもらいたいです。
霧雨の親父さんよかったのう…。
こまえーの関係もなかなか。
めーりんもいいね!
しかし、ゲームのデータをシレッと消すのは犯罪だぞ!
こまっちゃんはもっと映姫様にやさしくするんだ!
それがあなたに出来る善行です。
ふはって声出して笑った
魔理沙かわいいよ魔理沙
面白かったです!
きっと傑作でした