「ママ、メリークリスマス」
「アリスちゃん、メリークリスマス」
里帰りした私を出迎えたママ、神綺は見るからにご機嫌だ。
それもそのはず、今日はクリスマス。私も帰ってきて、家族みんなで過ごせるのが嬉しいのだろう。ちょっと自意識過剰かもしれないけど……。
でも、余程嬉しかったらしく、魔界神自ら魔界の入口までお出迎えする始末だ。
「魔界はホワイトクリスマスなの?」
ちらちらと降る雪は魔界の空を、大地を、白く染め上げていた。
「えぇ、幻想郷はまだ?」
「うん、降ってきそうではないかなぁ……」
そう言って笑う私の口から白い息が流れ、消える。
「ふ~ん……私は雪降ってる方が好きだから。でもここじゃ寒いわよね、お家に行きましょ?」
私は頷くと、ママと共に白い空へと飛び立った。
幻想郷とはまた違う、神秘的な故郷の風景に私は言い知れぬ満足感を覚えた。
故郷が美しいのはとても誇らしく感じられる。
特に故郷を離れ、他の地で暮らす私にとっては記憶の中と同じ故郷が色褪せること無く、むしろ成長する度に今までとは違う見方を出来るようになりさらに愛おしく感じられるのかも知れない。
なんて、ちょっとロマンチックに考えてみたり。
ルイズ姉さんの影響かな?
雪が積もり飾り付けが施された街は活気に溢れ、人々はどことなく楽しそうにしていた。
「みんな楽しそうね」
「うん……流石ママの子供」
「えへへ、褒めても何も出ないわよ?」
別に褒めた訳じゃ無いのだが、わざわざそれを言う必要も感じられないので私は黙って微笑んだ。
「あ、見えてきた」
二人の前方に大きな建物が見える。
それは言わずもがなパンデモニウム。
魔界神であるママと、ママが幼少期から育て上げた娘達の住まいとなっている場所である。
「みんなアリスちゃんと会うのを楽しみにしてるわよ」
「うん、私も楽しみ」
私は我ながら幻想郷の方では見せることの無いような笑顔を浮かべた。
この笑顔が幻想郷では見られないのは、もちろん幻想郷での日々が私にとってつまらないものだからでは無い。
家族の存在がそれだけ私にとって特別なのだ。
ママの先導でパンデモニウムの入口前に二人は降りる。
ママは「ただいま~」と言いながら扉を開け、私もその後に続く。
「お帰りなさいませ」
入ってすぐに立っていたのはウェーブのかかった長い金髪をなびかせた女性、夢子姉さん。その左右には警備の為の短剣を所持しているメイドが一人ずつ。静かに頭を下げている。
「夢子姉さん、メリークリスマス」
「アリス、久しぶり。元気そうで何よりだわ」
夢子姉さんとの再会を済ませると、ママは夢子姉さんにそっと耳打ちした。
「はい、大丈夫ですよ」
それに夢子姉さんは笑って頷いた。
「そう、楽しみだわ~」
何の話か気になったが、後で明らかになるだろうと思い何も言わずにいた。
「それじゃ、食堂行きましょ~」
「あ、貴方達」
廊下を進んでいくママを追う前に、夢子姉さんは警備のメイドに声をかける。
「今日はもう仕事終わりでいいわ。後は好きなように楽しみなさい。……クリスマスなんだから」
「は、はい!ありがとうございます」
そんな所は相変わらずだと思い、ママの後を追い掛けた。
「あ、アリス!メリークリスマス!」
「メリークリスマス、アリス。また可愛くなったわね」
食堂に入るとサラ姉さんとルイズ姉さんが近寄ってくる。
サラ姉さんはわしゃわしゃと私の頭を撫で、ルイズ姉さんは私の頬をぷにぷに突いている。
「二人とも相変わらずね……」
「おうよ!」
「なんでそこで元気いっぱいなのかが分からないのだけど……」
「おうよ!」
「何そのノリ!?」
私の頭を先程よりも強く撫で、サラ姉さんは快活に笑う。
「痛いから!ハゲるから!」
「はっはっはっ、細かい事は気にするな妹よ。ストレスでハゲるよ」
「つまり、アリスは結局ハゲる運命なのよ」
「ルイズ姉さんまで言いますか……」
このやり取りを見て、ママと夢子姉さんは顔を見合わせて微笑んだ。
「ところでユキマイ姉さんは……」
「待たせたな」
いつの間にやら前方に出現していた段ボールの中からユキ姉さんが現れる。
「毎回よくもまあそんな色々思い付くわね……」
「そう褒めるな、大佐」
「あれ?マイ姉さんは……」
「……待たせたな」
言った直後、マイ姉さんは私のスカートの中から出て来た。
「どんな原理で入ってたの!?」
「……それは簡単には教えられない、大佐」
「だから何で私大佐!?」
「……ちなみに、これがアリスのパンツです」
「きゃあああ!!!何で脱がしてるの!?返して!」
「サラちゃん!アリスちゃんを押さえて!」
「はい!」
「黒だなんて……アリスったら大人」
「マイ、私にも!」
「……ふぅ、神綺様、ほどほどにして下さいね」
「夢子姉さん!ほどほどとかじゃなくてヘルプ!めくられる!」
「もうお嫁にいけない……」
「この間まで私におむつ取り替えてもらってたのに何言うの」
両手で顔を覆った私の頭をママは優しく撫でた。
「そんな昔の事は忘れたわよ……」
ぷいっとそっぽを向いてやる。
「まぁまぁ、クリスマスなんだし無礼講無礼講」
「無礼講って……いつもは私が何にもされてないみたいな言い方よね……」
いつもこんな感じなのに。
「ま、アリスもそんなに嫌じゃないんでしょう?」
「え?ま、まぁ……久しぶりにみんなでいられるし……」
顔を赤くなる。
それを隠すように俯くと、私の頭をルイズ姉さんはそっと触れた。
「……アリス頭触られてばっかり」
「ハゲるかもね」
「またそれ!?」
ハゲない。断じてハゲない。
「やっぱりアリスをいじめるのは……いやアリスは楽しいわね」
「昔は可愛がってくれたのに!」
「今も可愛がってあげるよ?」
「……性的な意味で」
「こんな姉さん達は嫌!」
「え?私も入ってるの……?」
若干傷付いた様子の夢子姉さん。だが今は構っている心の余裕は無い。
私はママの胸に飛び込む。
「もう私にはママしかいない!」
「性的な……可愛がる……ジュルリ」
「アリスです。母親がジュルリとか言い出しました」
私の安息の地は何処に……
その後、夢子姉さんと共にママを取り押さえ、みんなが落ち着いてきたので、やっとのことで揃って食卓を囲む事が出来た。
「メリークリスマス!」
ママの掛け声と共に一同、手に持ったクラッカーを鳴らす。
そして談笑しながらの食事。
料理は全て夢子姉さんお手製。
いつもの事ながら相変わらず凄い。
中心には豪華なクリスマスケーキも置かれている。
これだけの量を一人でこなして疲れていないはずが無いのに当の本人は涼しい顔をして食事しているのだから尊敬してしまう。
「ほら、アリスちゃんも」
シャンパンを持ったママが私の横に来て、私のグラスにシャンパンを注ぐ。
「うん、ありがとう。ママ」
私はそれを一気に飲み干す。
宴会続きでお酒には強くなったのでこの位なら全然問題無い。
「お、アリス、強いね」
若干顔を赤くしたサラ姉さんが笑いかける。
姉さん達は普段あまりお酒を飲まないみたいだから一杯でも少しは酔うのかな?
「…………」
「マイ、無言で私の体を撫で回さないでよ。あっ!そこはダメっ!」
マイ姉さん、顔がにやけてるよ。
「なんか淫乱な気分になってくるわね……」
私はすぐさまルイズ姉さんから距離を置く。
「あ!ルイズ姉さん、マイを止め……っひゃあ!ルイズ姉さんまで!んっ!ダメだってばぁ!」
「いいぞもっとやれ!」
ユキ姉さん……ご愁傷様……。
「あら、みんなこんなにお酒に弱かったかしら?」
我等が魔界神は顔を少し赤くした位で酔った様子も無い。
「私は姉さん達とお酒飲む機会が無かったから分かんないけど……」
「夢子ちゃんが弱いのは知ってたけど、みんなもかなり弱いのねぇ……」
「そういえば夢子姉さんは?」
ママが苦笑いしながら指差す方向を見ると、顔を真っ赤にした夢子姉さんが椅子に座りながらふらふらしていた。
「夢子姉さん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫ぅ……」
絶対大丈夫じゃない。
とろんとした表情を浮かべた夢子姉さんはふらふらして椅子から落ちる。
「……少し休んでたら?」
「そぉねぇ……そうしましょお……」
夢子姉さんは千鳥足とも呼べない程情けないふらふらした歩きでママの下へと向かう。
「しんきさまぁ……ふらふらしますぅ……」
そのまま抱き着いて、胸に顔を付ける。
「大丈夫?夢子ちゃん」
「しんきさまのそばならへいきですぅ……」
話し方も気が抜けるような感じだ。
普段のきびきびと話す夢子姉さんとは大違い。
「あのねぇ、しんきさまぁ」
「なあに?夢子ちゃん」
「ぎゅって……してぇ?」
「!」
思わず鼻を押さえる。
ヤバい……酔った夢子姉さん可愛すぎる……。
「良いわよ。ぎゅ~っ」
ママの胸で気持ち良さそうにしている夢子姉さん。
あぁ……私がぎゅってしてしまいたい……!
と、私の眼差しに気が付いたのか、こっちを見て手招きしてきた。
「何、夢子姉さん?」
「アリスも、ぎゅってしてくれる?」
あ、駄目だ鼻血出た。
「も、ももももちろん!」
「アリスちゃん、はいティッシュ」
ママからティッシュを受け取り鼻に詰める。
「じゃあ……ぎゅってして……」
「う、うん……」
夢子姉さんの背中に手を回してそっと抱くと、夢子姉さんが強く抱き着いてきた。
そのおかげで、夢子姉さんの胸に付いている大きな肩凝りの原因になるらしい脂肪の塊が私の無駄の無い完璧なフォルムの胸部付近に押し付けられる。
「ちょっ……夢子姉さん!?」
「どうかしたぁ……?」
上目遣いで見つめられ、さらにどぎまぎしてしまう。
「アリスあったかい……」
その間にも夢子姉さんは私にぴったり抱き着いて来る。
肌寒さを感じる季節だが、夢子姉さんの体温は刺激が強すぎる。
私の理性が……。
「あ!アリス、夢子姉さん、危ない!」
突如聞こえたユキ姉さんの声に目をやると、他の姉さん達が集まっていた所から、ユキ姉さんのであろう靴が勢いよく飛んできた。
大方姉さん達に当てようとして外れたのが飛んできたのだろう。
私は動いて避けようとするが、夢子姉さんが抱き着いているせいでうまく動けない。
「アリス、どうかし……」
そこまで言った所で、夢子姉さんの後頭部に靴が当たる。
夢子姉さんはがくんと私の体に頭を当てると少し呻きながら再び顔を上げた。
「っつぅ……いたたた……え?」
夢子姉さんは目を点にする。
「酔いが醒めた?」
ママが私の後ろから語りかける。
「え、私は、すぐに酔っちゃってそれから……」
かあっと顔が赤くなっていく。ちゃんと覚えてるらしい。
「あ、アリス……」
抱き着いたまま、私の方を見る。
「…………」
「もしかして私……アリスに……」
「か、可愛かった……よ?」
夢子姉さんの目が潤みはじめ、目頭に涙が溜まってきている。
「うっ……ひっく……ぐすっ……」
「わ!ゆ、夢子姉さん、泣かないで!……る、ルイズ姉さん!」
「あーあ、泣かせちゃった」
ルイズ姉さんが意地悪な表情を浮かべて言う。
「サラ姉さ……」
「しかも夢子姉を」
サラ姉さんは私の肩をぽんっと叩く。
「ユキマイね……」
「「なーかせーたーなかせーたーせーんせーにいってやろー」」
ユキマイ両姉さんは見事なハモりで私を責める。
「ママ、どうしよ……」
「うふふ、アリスちゃん頑張ってね」
最後の頼みの綱、ママも笑顔で希望を断ち切るのだった。
「私は長女なのに……みんなの見本にならなくちゃいけないのに……」
夢子姉さんはまだ泣き止まない。
サンタさん……私は悪乗りをしない家庭が欲しいです。
「はぁ……疲れた……」
夕食と夢子姉さんへの励ましを終え、私は廊下を歩く。
自分の部屋まで行き、小さい頃から変わらない部屋の中、ベッドに腰を下ろす。
窓の外、ちらちらと舞う雪を見つめながら私はポケットからプレゼントとかの包装用のリボンを取り出す。
そしてそれを自分の頭に、プレゼントに付けるような感じで巻いていく。
「これで……よし」
結び終えると、私は早々と部屋を後にし、ひんやりとした廊下に出る。
向かう先はママの部屋。
今宵はクリスマス。
クリスマスと言えばプレゼント。
普通なのはつまらないので、ママの部屋に行って「プレゼントは私!」と言う作戦だ。
我ながら完璧だと思う。ママの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
そんな事を考えているうちに、ママの部屋のすぐそばまで来ていた。
扉の前に立ち、ノックしようとした瞬間。
「アリス?」
急に声を掛けられてびくっとする。
「さ、サラ姉さん!?」
もう酔ってはいないようだが、顔を少し赤くしたサラ姉さんが私の後ろに立っていた。
「あ……アリスもしかして、神綺様にプレゼントは私!とか言うつもりだった?」
「うぼぉうえぇ!何で分かったの!?」
「えっ!当たったの!?」
「えっ!あてずっぽうだったの!?」
しまった、墓穴掘った。
しかしサラ姉さんはそれについていじるようなことはせず、頬を掻いていた。
「その……なんだ……やっぱり姉妹なんだね……」
そう言うサラ姉さんをよく見ると、私と同じように胸元にリボンを巻いている。
「え?……もしかしてサラ姉さんも……?」
その問いにサラ姉さんは「あはは」と笑って頭を掻いた。
「あ、あら、二人とも何してるの?」
「ルイズ姉さんまで」
廊下を歩いてきたルイズ姉さんは大きな箱を抱えていた。
人一人くらいなら普通に入れるような大きさだ。
ルイズ姉さんは私達がいるのも気にせず箱を置くと、自ら中に入る。
「……もしかしてルイズ姉さんもプレゼントは私!とか言うつもり?」
「えぇ、もちろんよ」
さも当然と言わんばかりにルイズ姉さんは言った。
「…………」
「……三人で何してるの?」
「あ、わ!わ!ま、マイ!戻ろ!」
振り返ると、マイ姉さんがユキ姉さんを抱き抱えていた。
マイ姉さんはいつもの無表情で、抱き抱えられているユキ姉さんは下着姿で、さらけ出した肌にリボンを巻いていた。そして何故か手足は後ろで縛られている。
顔は真っ赤で若干涙目になってきている。
「ユキマイも自分をプレゼントにする感じ?」
サラ姉さんはユキ姉さんについては視線だけで、触れずに尋ねる。
「……正確には、『神綺様、私をた・べ・て///』作戦。プレゼント・バイ・ユキマイ」
「監修マイ、実行……私」
マイ姉さんは今にも泣き出しそうな感じだ。
「はは……やっぱ姉妹だわ……」
「そうね……」
それからしばらく話し合い、結局全員で行く事になった。
「じゃあサラは私の入った箱押してね」
「うん。って重……ルイズ姉少し太っ……」
「え?なに……」
「なんでもありませんごめんなさいころさないで」
あははは、やっぱりうちの姉妹は仲が良いわ。
ルイズ姉さんが殺気立って、サラ姉さんが震えてるのは気のせい気のせい。
「それじゃ、行くわよ?」
姉さん達が頷くのを確認すると、扉をノックした。
「ママ、開けるわね?」
「はーい、どうぞ~」
返事を確認し、扉を開ける。
「あら、みんなお揃いで」
そう言ってベッドの上で微笑むママ。
そしてそのママの膝の上には、頭に私と同じようにリボンを巻いた夢子姉さんが。
それこそユキ姉さんを上回るくらい顔を真っ赤にしてこちらを見ている。
「な、ななな……ど、どうしたの……?みんな揃って……」
ばたばたと膝の上から下りて立ち上がる。
動揺が凄くて、いつものクールな面持ちは全く無い。
しかしまぁ……やっぱり私達の姉さん、考える事は同じみたいだ。
「それはもちろん、クリスマスプレゼント」
サラ姉さんに押された箱の中から飛び出したルイズ姉さんは、ママの前に立ち微笑んだ。
「神綺様、プレゼントは私です」
「あら、夢子ちゃんと一緒なの?嬉しいわ~」
「ルイズ姉さんだけじゃないです」
今度はサラ姉さん。頭を掻きながら、
「私はお休みが欲しいかな~、なんて」
「うふふ、その遠慮の無さがサラちゃんらしいわね」
「あ、あの、あの、神綺様……」
マイ姉さんに抱き抱えられたユキ姉さんは、顔を真っ赤にして必死に言おうとしている。
「わ、私……いつまでも子供じゃヤダ……早く大人になりたいの……だからし、神綺様……私を……た、た・べ・て……」
私は鼻を抑える。
ヤバい……天然の恥ずかしがり方であんな事を言われると破壊力が……。
「……私がたべたい」
マイ姉さんもやらせておいてなにか不穏当な発言をしている。
「ユキちゃんあのね、大人になるってことはそれだけじゃないと思うの。もっと別な方法でも大人になれるわよ……」
鼻血垂らしながらだから説得力は皆無。だけど誰も責められない。ユキ姉さんが可愛すぎたから。
「……なら私がいただきます」
「え?ちょっとマイ、今なんて?」
マイ姉さんはそれには答えない。
「神綺様」
先程とは違い、真面目な顔をした夢子姉さんがルイズ姉さんを避けてママの正面に立つ。
「ご無礼、お許し下さい」
「良いのよ、今夜はぶれいこー」
言うが速いか、ママは夢子姉さんを自分の膝の上へと向かい合うように座らせた。
さて、私の番なのだけど……。
私はいつもいないんだし、普段甘えたくてもなかなか甘えられない姉さん達にここは譲ろう。
私からは言葉だけ。
「ママ、今幸せ?」
「これが幸せじゃない訳無いじゃない」
「私もママの幸せの一部になりたかったな……」
「うーん、そうね……なら今夜は私と添い寝してくれる?」
瞬間、姉さん達の周りの空気が凍りついた。
「「「「「アリス……」」」」」
うわっ!全員でハモった!?
「「「「「代わらない……?」」」」」
なんだこの連帯感。
姉さん達は打ち合わせしたようにママの周りから離れると、それぞれがそれぞれ威嚇しながら距離をとる。
「駄目なら力ずくしかないわね……」
「この中で一人だけ……」
「……私とユキは二人で一人分で」
何故か私を無視して話が進む。
けど、こうなったらやるしかない。
「魔界のナンバー2の力、思い知ってみる?」
夢子姉さんが短剣を構える。
「日頃の鍛練に勝るものなんて無いよ」
サラ姉さんはポキポキと腕を鳴らす。
「世界を駆ける私の力、甘く見ないほうが良いわよ」
ルイズ姉さんは帽子を深く被り直す。
「……人肌が恋しい季節、皆様どうお過ごしでしょうか」
「とりあえず服着たいな!」
マイ姉さんと若干自暴自棄気味なユキ姉さんは手を絡め、背を合わせている。
「ちょっと!誰にも添い寝は渡さないわよ!」
一応持ってきていた上海と蓬莱を操り動かす。
負けられない戦いが、ここにある
「やめて!私の為に争わないで!」
「「「「「「添い寝はもらったあああぁぁぁ!!!!!」」」」」」
今、己の全てを賭けた戦いが始まる。
聖なる夜に、姉妹の叫びが響き渡る……。
「アリスちゃん、メリークリスマス」
里帰りした私を出迎えたママ、神綺は見るからにご機嫌だ。
それもそのはず、今日はクリスマス。私も帰ってきて、家族みんなで過ごせるのが嬉しいのだろう。ちょっと自意識過剰かもしれないけど……。
でも、余程嬉しかったらしく、魔界神自ら魔界の入口までお出迎えする始末だ。
「魔界はホワイトクリスマスなの?」
ちらちらと降る雪は魔界の空を、大地を、白く染め上げていた。
「えぇ、幻想郷はまだ?」
「うん、降ってきそうではないかなぁ……」
そう言って笑う私の口から白い息が流れ、消える。
「ふ~ん……私は雪降ってる方が好きだから。でもここじゃ寒いわよね、お家に行きましょ?」
私は頷くと、ママと共に白い空へと飛び立った。
幻想郷とはまた違う、神秘的な故郷の風景に私は言い知れぬ満足感を覚えた。
故郷が美しいのはとても誇らしく感じられる。
特に故郷を離れ、他の地で暮らす私にとっては記憶の中と同じ故郷が色褪せること無く、むしろ成長する度に今までとは違う見方を出来るようになりさらに愛おしく感じられるのかも知れない。
なんて、ちょっとロマンチックに考えてみたり。
ルイズ姉さんの影響かな?
雪が積もり飾り付けが施された街は活気に溢れ、人々はどことなく楽しそうにしていた。
「みんな楽しそうね」
「うん……流石ママの子供」
「えへへ、褒めても何も出ないわよ?」
別に褒めた訳じゃ無いのだが、わざわざそれを言う必要も感じられないので私は黙って微笑んだ。
「あ、見えてきた」
二人の前方に大きな建物が見える。
それは言わずもがなパンデモニウム。
魔界神であるママと、ママが幼少期から育て上げた娘達の住まいとなっている場所である。
「みんなアリスちゃんと会うのを楽しみにしてるわよ」
「うん、私も楽しみ」
私は我ながら幻想郷の方では見せることの無いような笑顔を浮かべた。
この笑顔が幻想郷では見られないのは、もちろん幻想郷での日々が私にとってつまらないものだからでは無い。
家族の存在がそれだけ私にとって特別なのだ。
ママの先導でパンデモニウムの入口前に二人は降りる。
ママは「ただいま~」と言いながら扉を開け、私もその後に続く。
「お帰りなさいませ」
入ってすぐに立っていたのはウェーブのかかった長い金髪をなびかせた女性、夢子姉さん。その左右には警備の為の短剣を所持しているメイドが一人ずつ。静かに頭を下げている。
「夢子姉さん、メリークリスマス」
「アリス、久しぶり。元気そうで何よりだわ」
夢子姉さんとの再会を済ませると、ママは夢子姉さんにそっと耳打ちした。
「はい、大丈夫ですよ」
それに夢子姉さんは笑って頷いた。
「そう、楽しみだわ~」
何の話か気になったが、後で明らかになるだろうと思い何も言わずにいた。
「それじゃ、食堂行きましょ~」
「あ、貴方達」
廊下を進んでいくママを追う前に、夢子姉さんは警備のメイドに声をかける。
「今日はもう仕事終わりでいいわ。後は好きなように楽しみなさい。……クリスマスなんだから」
「は、はい!ありがとうございます」
そんな所は相変わらずだと思い、ママの後を追い掛けた。
「あ、アリス!メリークリスマス!」
「メリークリスマス、アリス。また可愛くなったわね」
食堂に入るとサラ姉さんとルイズ姉さんが近寄ってくる。
サラ姉さんはわしゃわしゃと私の頭を撫で、ルイズ姉さんは私の頬をぷにぷに突いている。
「二人とも相変わらずね……」
「おうよ!」
「なんでそこで元気いっぱいなのかが分からないのだけど……」
「おうよ!」
「何そのノリ!?」
私の頭を先程よりも強く撫で、サラ姉さんは快活に笑う。
「痛いから!ハゲるから!」
「はっはっはっ、細かい事は気にするな妹よ。ストレスでハゲるよ」
「つまり、アリスは結局ハゲる運命なのよ」
「ルイズ姉さんまで言いますか……」
このやり取りを見て、ママと夢子姉さんは顔を見合わせて微笑んだ。
「ところでユキマイ姉さんは……」
「待たせたな」
いつの間にやら前方に出現していた段ボールの中からユキ姉さんが現れる。
「毎回よくもまあそんな色々思い付くわね……」
「そう褒めるな、大佐」
「あれ?マイ姉さんは……」
「……待たせたな」
言った直後、マイ姉さんは私のスカートの中から出て来た。
「どんな原理で入ってたの!?」
「……それは簡単には教えられない、大佐」
「だから何で私大佐!?」
「……ちなみに、これがアリスのパンツです」
「きゃあああ!!!何で脱がしてるの!?返して!」
「サラちゃん!アリスちゃんを押さえて!」
「はい!」
「黒だなんて……アリスったら大人」
「マイ、私にも!」
「……ふぅ、神綺様、ほどほどにして下さいね」
「夢子姉さん!ほどほどとかじゃなくてヘルプ!めくられる!」
「もうお嫁にいけない……」
「この間まで私におむつ取り替えてもらってたのに何言うの」
両手で顔を覆った私の頭をママは優しく撫でた。
「そんな昔の事は忘れたわよ……」
ぷいっとそっぽを向いてやる。
「まぁまぁ、クリスマスなんだし無礼講無礼講」
「無礼講って……いつもは私が何にもされてないみたいな言い方よね……」
いつもこんな感じなのに。
「ま、アリスもそんなに嫌じゃないんでしょう?」
「え?ま、まぁ……久しぶりにみんなでいられるし……」
顔を赤くなる。
それを隠すように俯くと、私の頭をルイズ姉さんはそっと触れた。
「……アリス頭触られてばっかり」
「ハゲるかもね」
「またそれ!?」
ハゲない。断じてハゲない。
「やっぱりアリスをいじめるのは……いやアリスは楽しいわね」
「昔は可愛がってくれたのに!」
「今も可愛がってあげるよ?」
「……性的な意味で」
「こんな姉さん達は嫌!」
「え?私も入ってるの……?」
若干傷付いた様子の夢子姉さん。だが今は構っている心の余裕は無い。
私はママの胸に飛び込む。
「もう私にはママしかいない!」
「性的な……可愛がる……ジュルリ」
「アリスです。母親がジュルリとか言い出しました」
私の安息の地は何処に……
その後、夢子姉さんと共にママを取り押さえ、みんなが落ち着いてきたので、やっとのことで揃って食卓を囲む事が出来た。
「メリークリスマス!」
ママの掛け声と共に一同、手に持ったクラッカーを鳴らす。
そして談笑しながらの食事。
料理は全て夢子姉さんお手製。
いつもの事ながら相変わらず凄い。
中心には豪華なクリスマスケーキも置かれている。
これだけの量を一人でこなして疲れていないはずが無いのに当の本人は涼しい顔をして食事しているのだから尊敬してしまう。
「ほら、アリスちゃんも」
シャンパンを持ったママが私の横に来て、私のグラスにシャンパンを注ぐ。
「うん、ありがとう。ママ」
私はそれを一気に飲み干す。
宴会続きでお酒には強くなったのでこの位なら全然問題無い。
「お、アリス、強いね」
若干顔を赤くしたサラ姉さんが笑いかける。
姉さん達は普段あまりお酒を飲まないみたいだから一杯でも少しは酔うのかな?
「…………」
「マイ、無言で私の体を撫で回さないでよ。あっ!そこはダメっ!」
マイ姉さん、顔がにやけてるよ。
「なんか淫乱な気分になってくるわね……」
私はすぐさまルイズ姉さんから距離を置く。
「あ!ルイズ姉さん、マイを止め……っひゃあ!ルイズ姉さんまで!んっ!ダメだってばぁ!」
「いいぞもっとやれ!」
ユキ姉さん……ご愁傷様……。
「あら、みんなこんなにお酒に弱かったかしら?」
我等が魔界神は顔を少し赤くした位で酔った様子も無い。
「私は姉さん達とお酒飲む機会が無かったから分かんないけど……」
「夢子ちゃんが弱いのは知ってたけど、みんなもかなり弱いのねぇ……」
「そういえば夢子姉さんは?」
ママが苦笑いしながら指差す方向を見ると、顔を真っ赤にした夢子姉さんが椅子に座りながらふらふらしていた。
「夢子姉さん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫ぅ……」
絶対大丈夫じゃない。
とろんとした表情を浮かべた夢子姉さんはふらふらして椅子から落ちる。
「……少し休んでたら?」
「そぉねぇ……そうしましょお……」
夢子姉さんは千鳥足とも呼べない程情けないふらふらした歩きでママの下へと向かう。
「しんきさまぁ……ふらふらしますぅ……」
そのまま抱き着いて、胸に顔を付ける。
「大丈夫?夢子ちゃん」
「しんきさまのそばならへいきですぅ……」
話し方も気が抜けるような感じだ。
普段のきびきびと話す夢子姉さんとは大違い。
「あのねぇ、しんきさまぁ」
「なあに?夢子ちゃん」
「ぎゅって……してぇ?」
「!」
思わず鼻を押さえる。
ヤバい……酔った夢子姉さん可愛すぎる……。
「良いわよ。ぎゅ~っ」
ママの胸で気持ち良さそうにしている夢子姉さん。
あぁ……私がぎゅってしてしまいたい……!
と、私の眼差しに気が付いたのか、こっちを見て手招きしてきた。
「何、夢子姉さん?」
「アリスも、ぎゅってしてくれる?」
あ、駄目だ鼻血出た。
「も、ももももちろん!」
「アリスちゃん、はいティッシュ」
ママからティッシュを受け取り鼻に詰める。
「じゃあ……ぎゅってして……」
「う、うん……」
夢子姉さんの背中に手を回してそっと抱くと、夢子姉さんが強く抱き着いてきた。
そのおかげで、夢子姉さんの胸に付いている大きな肩凝りの原因になるらしい脂肪の塊が私の無駄の無い完璧なフォルムの胸部付近に押し付けられる。
「ちょっ……夢子姉さん!?」
「どうかしたぁ……?」
上目遣いで見つめられ、さらにどぎまぎしてしまう。
「アリスあったかい……」
その間にも夢子姉さんは私にぴったり抱き着いて来る。
肌寒さを感じる季節だが、夢子姉さんの体温は刺激が強すぎる。
私の理性が……。
「あ!アリス、夢子姉さん、危ない!」
突如聞こえたユキ姉さんの声に目をやると、他の姉さん達が集まっていた所から、ユキ姉さんのであろう靴が勢いよく飛んできた。
大方姉さん達に当てようとして外れたのが飛んできたのだろう。
私は動いて避けようとするが、夢子姉さんが抱き着いているせいでうまく動けない。
「アリス、どうかし……」
そこまで言った所で、夢子姉さんの後頭部に靴が当たる。
夢子姉さんはがくんと私の体に頭を当てると少し呻きながら再び顔を上げた。
「っつぅ……いたたた……え?」
夢子姉さんは目を点にする。
「酔いが醒めた?」
ママが私の後ろから語りかける。
「え、私は、すぐに酔っちゃってそれから……」
かあっと顔が赤くなっていく。ちゃんと覚えてるらしい。
「あ、アリス……」
抱き着いたまま、私の方を見る。
「…………」
「もしかして私……アリスに……」
「か、可愛かった……よ?」
夢子姉さんの目が潤みはじめ、目頭に涙が溜まってきている。
「うっ……ひっく……ぐすっ……」
「わ!ゆ、夢子姉さん、泣かないで!……る、ルイズ姉さん!」
「あーあ、泣かせちゃった」
ルイズ姉さんが意地悪な表情を浮かべて言う。
「サラ姉さ……」
「しかも夢子姉を」
サラ姉さんは私の肩をぽんっと叩く。
「ユキマイね……」
「「なーかせーたーなかせーたーせーんせーにいってやろー」」
ユキマイ両姉さんは見事なハモりで私を責める。
「ママ、どうしよ……」
「うふふ、アリスちゃん頑張ってね」
最後の頼みの綱、ママも笑顔で希望を断ち切るのだった。
「私は長女なのに……みんなの見本にならなくちゃいけないのに……」
夢子姉さんはまだ泣き止まない。
サンタさん……私は悪乗りをしない家庭が欲しいです。
「はぁ……疲れた……」
夕食と夢子姉さんへの励ましを終え、私は廊下を歩く。
自分の部屋まで行き、小さい頃から変わらない部屋の中、ベッドに腰を下ろす。
窓の外、ちらちらと舞う雪を見つめながら私はポケットからプレゼントとかの包装用のリボンを取り出す。
そしてそれを自分の頭に、プレゼントに付けるような感じで巻いていく。
「これで……よし」
結び終えると、私は早々と部屋を後にし、ひんやりとした廊下に出る。
向かう先はママの部屋。
今宵はクリスマス。
クリスマスと言えばプレゼント。
普通なのはつまらないので、ママの部屋に行って「プレゼントは私!」と言う作戦だ。
我ながら完璧だと思う。ママの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
そんな事を考えているうちに、ママの部屋のすぐそばまで来ていた。
扉の前に立ち、ノックしようとした瞬間。
「アリス?」
急に声を掛けられてびくっとする。
「さ、サラ姉さん!?」
もう酔ってはいないようだが、顔を少し赤くしたサラ姉さんが私の後ろに立っていた。
「あ……アリスもしかして、神綺様にプレゼントは私!とか言うつもりだった?」
「うぼぉうえぇ!何で分かったの!?」
「えっ!当たったの!?」
「えっ!あてずっぽうだったの!?」
しまった、墓穴掘った。
しかしサラ姉さんはそれについていじるようなことはせず、頬を掻いていた。
「その……なんだ……やっぱり姉妹なんだね……」
そう言うサラ姉さんをよく見ると、私と同じように胸元にリボンを巻いている。
「え?……もしかしてサラ姉さんも……?」
その問いにサラ姉さんは「あはは」と笑って頭を掻いた。
「あ、あら、二人とも何してるの?」
「ルイズ姉さんまで」
廊下を歩いてきたルイズ姉さんは大きな箱を抱えていた。
人一人くらいなら普通に入れるような大きさだ。
ルイズ姉さんは私達がいるのも気にせず箱を置くと、自ら中に入る。
「……もしかしてルイズ姉さんもプレゼントは私!とか言うつもり?」
「えぇ、もちろんよ」
さも当然と言わんばかりにルイズ姉さんは言った。
「…………」
「……三人で何してるの?」
「あ、わ!わ!ま、マイ!戻ろ!」
振り返ると、マイ姉さんがユキ姉さんを抱き抱えていた。
マイ姉さんはいつもの無表情で、抱き抱えられているユキ姉さんは下着姿で、さらけ出した肌にリボンを巻いていた。そして何故か手足は後ろで縛られている。
顔は真っ赤で若干涙目になってきている。
「ユキマイも自分をプレゼントにする感じ?」
サラ姉さんはユキ姉さんについては視線だけで、触れずに尋ねる。
「……正確には、『神綺様、私をた・べ・て///』作戦。プレゼント・バイ・ユキマイ」
「監修マイ、実行……私」
マイ姉さんは今にも泣き出しそうな感じだ。
「はは……やっぱ姉妹だわ……」
「そうね……」
それからしばらく話し合い、結局全員で行く事になった。
「じゃあサラは私の入った箱押してね」
「うん。って重……ルイズ姉少し太っ……」
「え?なに……」
「なんでもありませんごめんなさいころさないで」
あははは、やっぱりうちの姉妹は仲が良いわ。
ルイズ姉さんが殺気立って、サラ姉さんが震えてるのは気のせい気のせい。
「それじゃ、行くわよ?」
姉さん達が頷くのを確認すると、扉をノックした。
「ママ、開けるわね?」
「はーい、どうぞ~」
返事を確認し、扉を開ける。
「あら、みんなお揃いで」
そう言ってベッドの上で微笑むママ。
そしてそのママの膝の上には、頭に私と同じようにリボンを巻いた夢子姉さんが。
それこそユキ姉さんを上回るくらい顔を真っ赤にしてこちらを見ている。
「な、ななな……ど、どうしたの……?みんな揃って……」
ばたばたと膝の上から下りて立ち上がる。
動揺が凄くて、いつものクールな面持ちは全く無い。
しかしまぁ……やっぱり私達の姉さん、考える事は同じみたいだ。
「それはもちろん、クリスマスプレゼント」
サラ姉さんに押された箱の中から飛び出したルイズ姉さんは、ママの前に立ち微笑んだ。
「神綺様、プレゼントは私です」
「あら、夢子ちゃんと一緒なの?嬉しいわ~」
「ルイズ姉さんだけじゃないです」
今度はサラ姉さん。頭を掻きながら、
「私はお休みが欲しいかな~、なんて」
「うふふ、その遠慮の無さがサラちゃんらしいわね」
「あ、あの、あの、神綺様……」
マイ姉さんに抱き抱えられたユキ姉さんは、顔を真っ赤にして必死に言おうとしている。
「わ、私……いつまでも子供じゃヤダ……早く大人になりたいの……だからし、神綺様……私を……た、た・べ・て……」
私は鼻を抑える。
ヤバい……天然の恥ずかしがり方であんな事を言われると破壊力が……。
「……私がたべたい」
マイ姉さんもやらせておいてなにか不穏当な発言をしている。
「ユキちゃんあのね、大人になるってことはそれだけじゃないと思うの。もっと別な方法でも大人になれるわよ……」
鼻血垂らしながらだから説得力は皆無。だけど誰も責められない。ユキ姉さんが可愛すぎたから。
「……なら私がいただきます」
「え?ちょっとマイ、今なんて?」
マイ姉さんはそれには答えない。
「神綺様」
先程とは違い、真面目な顔をした夢子姉さんがルイズ姉さんを避けてママの正面に立つ。
「ご無礼、お許し下さい」
「良いのよ、今夜はぶれいこー」
言うが速いか、ママは夢子姉さんを自分の膝の上へと向かい合うように座らせた。
さて、私の番なのだけど……。
私はいつもいないんだし、普段甘えたくてもなかなか甘えられない姉さん達にここは譲ろう。
私からは言葉だけ。
「ママ、今幸せ?」
「これが幸せじゃない訳無いじゃない」
「私もママの幸せの一部になりたかったな……」
「うーん、そうね……なら今夜は私と添い寝してくれる?」
瞬間、姉さん達の周りの空気が凍りついた。
「「「「「アリス……」」」」」
うわっ!全員でハモった!?
「「「「「代わらない……?」」」」」
なんだこの連帯感。
姉さん達は打ち合わせしたようにママの周りから離れると、それぞれがそれぞれ威嚇しながら距離をとる。
「駄目なら力ずくしかないわね……」
「この中で一人だけ……」
「……私とユキは二人で一人分で」
何故か私を無視して話が進む。
けど、こうなったらやるしかない。
「魔界のナンバー2の力、思い知ってみる?」
夢子姉さんが短剣を構える。
「日頃の鍛練に勝るものなんて無いよ」
サラ姉さんはポキポキと腕を鳴らす。
「世界を駆ける私の力、甘く見ないほうが良いわよ」
ルイズ姉さんは帽子を深く被り直す。
「……人肌が恋しい季節、皆様どうお過ごしでしょうか」
「とりあえず服着たいな!」
マイ姉さんと若干自暴自棄気味なユキ姉さんは手を絡め、背を合わせている。
「ちょっと!誰にも添い寝は渡さないわよ!」
一応持ってきていた上海と蓬莱を操り動かす。
負けられない戦いが、ここにある
「やめて!私の為に争わないで!」
「「「「「「添い寝はもらったあああぁぁぁ!!!!!」」」」」」
今、己の全てを賭けた戦いが始まる。
聖なる夜に、姉妹の叫びが響き渡る……。
本当にありg(ry
↓
ユキ姉さんは~の間違えだと思います。
それ以外は魔界組の仲の良さが伝わってきて良かったです。
皆可愛かったです。