注意:このSSは拙作『マスカレード』のサイドストーリーに当たります。なので『マスカレード』をあらかじめ読んでおく事を強くお勧めします。
「香霖! 大好きだ! 付き合ってくれ!!!」
霧雨 魔理沙は持てる勇気を振り絞って告白した。
恥ずかしいのか顔を真っ赤にして息を荒くしている。
ここは香霖堂。魔法の森にある胡散臭い道具屋である。
その店主で掃除中だった告白の相手――森近 霖之助は彼女の突然の告白に驚いている。目を見開き開いた口も塞がらない。
しばし無言が続いた。
その間、緊張している魔理沙には数時間のように思えた。やっと口を開いた霖之助の返事はある意味興ざめのものであった。
「……………はぁ?」
何とも素っ頓狂な声だろうか。
霖之助はそれだけ言って店内の道具の掃除を再開した。
「お、おい、香霖!! 何だその反応は!? 私の言ったことにしっかり応えろ」
当然の言い分であった。
必死の彼女の告白に答えを出さず掃除に移る彼に、魔理沙は癇癪した。
彼女は彼の袖をぐいっと引っ張り、無理矢理面と向かわせた。
そこで霖之助は大きくため息を吐く。魔理沙はこの態度にかちんときた。
そして、彼女は怒ろうとしたが彼女にとっては聞きたくない一言を霖之助はもらした。
「もちろん、ごめんなさい、だ」
「どうして!?」
彼の言葉に彼女は一瞬だが呆けた。決して聞き取れなかったわけじゃない。その証拠に彼女はすぐにしかめた。
まさか、断られるとは思わなかったからだ。
告白をしただけで彼女の表情はころころとよく変わるものである。
それに対して彼の方は何とすまし顔か!
「いや、だって…………まぁ……」
歯切れの悪い霖之助の反応。彼の視線はカウンターの奥、居間へと向けられている。
するとタイミングを計ったかのようにひょっこりと飛び出たのは魔理沙と同じ金色の髪。
「どうした、霖之助?」
躁霊長女ルナサ=プリズムリバーであった。
居間からで彼の方に向かうルナサ。前には白いエプロンをつけている。どうやら料理中だったらしい。
ルナサがとてててと彼の方に近づき、あろうことか魔理沙の前で霖之助の腕を組んだ。体を彼の方に寄せて密着させる。
霖之助は彼女の行動に満更でもない表情をする。ぱっと見すまし顔は以前続行中。けれど頬だけが見る見る赤くなっていく。心なしか視線はあさっての方向に。
要するに彼は恥ずかしがっていた。
魔理沙は思わず言葉を失う。
自分の前でこうもいちゃつきを見せられるとおしゃべりな彼女も開いた口が塞がらない。
「な、な、な、な、な~」
「…………まぁ、そういうことだ」
すまないなと言って霖之助は軽く頭をかく。困り顔の霖之助。隣のルナサも彼と同様に頬を赤く染めていた。
魔理沙は口を震わせ、顔を震わせ、体を震わせながら先ほどの告白以上に大きな声で叫んだ。
「う、うそだぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!」
マスタースパークは撃つのに時間が掛かる
「ああああああ!?」
私は絶叫しながら体を起こした。
息が荒れている。心臓のドクンドクンという音が静かな部屋にはっきりと鳴り響く。
額に手をやるとじゅわっと水が染み込む音がした。かなり汗をかいたようだ。
私は荒れる息を宥めながら時計に目をやる。
午前の2時だった。
草木も眠る丑三つ時ってやつだ。
誰もが深く眠っている時刻に私は最悪の夢で起こされた。
「気持ち悪い」
口の中が粘つく。なのに乾きも感じていた。
台所にある水を飲もうと暗がりの中を歩いていった。
「ふぅ」
一息つけた。
口の中はさっきとはまるで違う。澱んだものがきれいになくなっていた。
出来れば、心まで洗われてほしかったが。
「…………」
無意識に夢の中身を思い出していた。夢なんてものはたいていのことは忘れる。楽しいことも悲しかったことも目が覚めてしまえば、内容なんて頭の中から消えている。
でも、どうやら今日は覚えていたらしい。使えない頭だ。何でよりにもよってこんなものを覚えているんだろうか。
台所の椅子に座る。
季節は雪が降り積もる白い季節。そんな時期なだけあって椅子はひんやりとしていた。
夢の中で香霖を見た。私の中で特別な人。
それは私のよく知っているもう一人の親代わり。そして……
「はっ」
誰もいない空間で軽く笑った。
馬鹿馬鹿しい。
でも、そうは思えない。いつの間にかであった。時間がそういう気持ちにしてくれたのかもしれない。嬉しいのか、嫌なのか……
笑った私はどっちを思ったのか。
彼と出会った日のことが自然と思い出された。
短い間だった。香霖は私の家で働いていたときがあった。奉公人とも言うべきかな。
人里でそれなりに大きな道具屋を営んでいた私の家であいつは勉強をしていた。
道具の識別、扱い方、経営学……これはいまいちだったけど。
とは言え、かなり熱心にやっていた。子供ながらもすごいなとは思っていた。
あいつは私の面倒も見てくれた。
当時の私は高いところが好きで決まって近所の雑木林に出かけては木に登っていた。
家の屋根だと親父が怒るからだ。
「魔理沙。君は何故高いところが好きなんだい?」
ある日、いつもどおり木登りをしていたら香霖が尋ねて来た。
あの時、なんて答えたっかな……
ああ、そうだ。
「だって、星が届きそう」
単純だな。木に登れば星に届くなんてなんて幼いんだろうか。
でもあいつは笑わなかった。むしろ感心していた。
「なるほど、君は星に近づきたかったのか。良い目標を持ってるね」
「えへへ」
「で、今日はどうだい? 届きそうか?」
「うん。昨日より高い木に登った。このまま行けば大人になることには届いてるよ」
確か、登る木は毎回変えていたっかな。少しでも背の高い気を選んではチャレンジしてたな。そうすることで星に近づけると思ったから……
あの時は本気だった。
今は……無理かな。
だって、星は空の向こうにあるって言うことを知ってしまったから。
霊夢やレミリアたちと共に月に行ったことがあった。
月に行くのでさえ、かなりの準備が必要だ。そして人員も重要だ。
それを知って私は、星は届かないものだと気づかされた。
あの旅で得た一番の教訓だった。
「…………」
私はまた水を汲んで飲んだ。
星は届かない。でも、届きたい。
だって、あいつは言ってくれた。『良い目標』だって言ってくれた。届けば褒めてくれるかもしれない。そして私の事を見ていてくれるかもしれない。
だから私はあきらめたくなかった。
でも、それがまた意味がなくなるのかもしれない。
先日、あいつのうちに遊びに行った。朝早くからアリスと一緒にクッキーを作って行った。
アリスは良い奴だ。私のわがままを受け止めてくれる。あいつを香霖に紹介してよかった。お陰で話し相手が増えたからな。
あの日も……楽しくなりそうだった。
私達三人が集まれば何かと楽しい。私が話題をふってアリスが突っ込みを入れてくれる。ケンカしそうになると香霖が止めてくれる。博麗神社にはない楽しさがあそこにはあった。
でもその違った。
なぜなら、夢の中の『あいつ』がいたからだ。
後々、香霖とあいつが付き合っていたのは演技だと分かったが、それもあまり信じられなかった。
香霖があいつとの関係の秘密をばらしてくれたあの日、私はアリスと一緒に遊びに来ていた。そこでいつものような日常――道具を勝手に見たり、喋ったり、おやつを貰ったりしていた。
そこへ文々。新聞が届けられた。
その中に一通の白い封筒が挟んであった。
ああ、あいつからなのだと、気づいた。
それを香霖に見せると、微笑んでいた。私が見たことがないくらい柔らかくて、温かそうな笑顔だった。
そんな笑顔を見たくは無かった。結局、あいつが香霖の中にいたことに気づかされたからだ。
「くしゅん!」
肌寒くなってきた。
今の季節、人間にはたまらないぜ。
口の中もすっきりしたことだし、もう一眠りしよう。
布団の中はすっかり冷たくなっていた。
寝巻きからはみ出た手足がヒヤリと感じる。もぞもぞと動き、寝やすい格好に落ち着いてから目を瞑った。
今度はもっと良い夢が見れますように………
朝になって目を覚ました。とは言え、私が住んでいる魔法の森は薄暗いところで日が差しにくい。加えて夜中に一度目が覚めたお陰で今日はだいぶ時間が経ってから目を覚ました。
「ふわぁ~~~」
時計に目をやると午前の10時を少し回っていた。
中途半端な時間だ。これでは朝食を食べるべきか昼まで待つべきか悩みどころだ。
おなかの状態を確かめるとあまり空いていないようだ。
ここはダイエットもかねて朝抜きにするか。
歯を磨き、顔を洗ってから台所に向かう。
朝抜きとは言え、何も飲まないというのは辛いのでホットミルクを飲むことにした。
椅子に座って落ち着いてからカップに注いだホットミルクに口をつける。
誰もいない無言の空間。一人暮らしなんだから当たり前なのだが、今はそれが妙に辛い。
「…………」
自然と夜中のことが蘇ってくる。
香霖、アリス、ルナサ……そして私。
私はどうしたいんだろう。
あの時――香霖とルナサが付き合っているというのを知った日、私は悔しさがこみ上げた。
何故そう思ったのか?
答えは簡単だ。香霖は私のことを見ていてくれると思った。これからもずっとだと思ってた。
でも、それは違う。香霖がずっと見ていてくれるはずがない。だって、香霖には香霖の人生がある。それなのに、私は私だけを見ていて欲しいと思った。それは束縛だ。空を飛べるはずの鳥にかごで閉じ込めるのと同じだ。
そう考えると、私の考えを改めさせられたあの出来事はある意味私にとってプラスだったのかもしれない。
じゃあ、私は本当にどうしたいんだ。
………いかん、堂々巡りしたぜ。
「くそっ」
悪態をついてからもう一度考え直した。
私がしたいこと――悔しいって思ったんだから、逆に悔しくなりたくないことかな。だとしたら、香霖とどうしたいのか。
……これ以上考えるのが恥ずかしくなった。そしてそれ以上に怖くなった。
恥ずかしいのは何でか分かる。だって、つまり、アレだから……
じゃあ、怖いのはどうしてか。
今日の夢が原因だろう。即ち、夢が本当に…なったら………
「ぃゃ………」
足がすくむ感じがした。幸い今は椅子に座っているので問題ないが立っていたら倒れていたかもしれない。それぐらい怖く感じた。
考えたくはない。考えてはいけない。そう思うたびに、嫌な方向に意識してしまう。
心の中に黒いもやもやしたものがまとわりつくような気持ち悪さ。
吐きたい、今すぐ吐きたい。
心の中でのギャップ。
悔しくなりたくないための行動とその行動への恐怖。正直、心が参りそうだぜ。
「それもこれも、結局あいつのせいだ」
ルナサ=プリズムリバー。余計なことをしやがって。
……でも、あいつが悪いわけじゃあないということも分かっている。あいつは自分の力を高めたいがためにとった行動だったんだから。
それをうらむなんてお門違いだ――そう無理矢理言い聞かせた。
「出かけるか」
どうやらこの悩みは一人で解決できそうにない。こういうときは素直に誰かに聞くのが一番だ。
指し当たって、この問題はプライベートな悩みだ。適材な人物に相談をしなければならない。
「霊夢は無理だな」
あいつは相談するのに丁度良い人物だ。が、周りが厄介で、幻想郷屈指の困った奴がいる。
もしそいつらに聞かれたらたまったもんじゃない。
「反省して欲しい奴らばっかりで、困った者だぜ」
次の候補としては、
「アリスかな……でもな」
これも却下だ。あいつは相談に親身に乗ってくれるが最悪の方向を歯止めするような意見しか出してくれない。つっこみはうまいくせに…
できれば、もっと建設的な意見を出してくれる奴が良い。でもって、口が堅そうな奴と言うと、
「紅魔館か」
私と同じ魔法系統を使う友人。知識も豊富で寡黙な友人。
「そうと決まったら出発だぜ!」
空は青かった。
最近は天気がくずついていた。昨日も雪が降っていた。けれど今日は快晴。風は冷たいが我慢できなくもない。
空から見下ろすと周囲は赤から白へと変わり始めてる。遠くに見える妖怪の山なんかはかなり変化している。
そんな変化に楽しみを覚えながら飛んでいるうちにやっと見えた目的地。
大概のシーズンは周りの景色と協調できない悪魔の館――紅魔館。今の時期は周りの景色も相まってめでたい感じなのが皮肉に感じる。
湖を越えた頃からゆっくりと降下し始めた。本当なら挨拶の一発をぶち込むところなんだが今日は大人しくしておこう。
「お、あいつまた寝てるな」
白化粧の芝生に降り、ゆっくりと館の門前まで歩く。そこには見慣れた妖怪――紅 美鈴が壁に寄りかかりながら眠っていた。
「いつも思うのだが、こいつこんなところで寝てて寒くないのか?」
毛布や他の暖房具など見当たらない。服も民族衣装が映えるチャイナドレスでスリットが深く生地も薄そう。妖怪の体じゃないからわかんないが取り合えず見てるだけで寒気を感じた。
「お~い、中国。起きろ」
「起きてますよ。マスパを撃たないとはと珍しい思って様子を見てただけですよ」
そう言って目の前の美鈴は大きく伸びをした。本当に起きてたか疑わしいぜ。
「っつうか、マスパって言うな。しっかりと言え」
「なら私のこともしっかりと本名で呼んでください。でない限りこれからもずっとマスパって言わせてもらいます」
中国が服についた雪を払いながら立ち上がると笑顔でそう言ってきた。
珍しかった。大概、こいつは大きく出ないのだが今日は気を大きくしている。
何かおかしいな。
「なんか、態度でかいな、お前。今日いいことでもあったのか?」
「別にありませんよ。ただ今日の魔理沙さん、何か弱気になってるんでちょっと強気に出てるんですよ。あ、お嫌でしたらいつも通りにしますが」
「私が弱気? はっ、言ってくれるじゃないか。いつも私に吹っ飛ばされてるくせに。いつも通りなら今頃お前はマスタースパークでひぃひぃ言ってる頃だぜ」
「それもそうですね」
にこりと笑顔になる中国。なんかむかついた。
とは言え、確かに今の私は弱気だ。というか、心が乱れてるって実感できる。
ま、それを解決するために来たのだがどうやら嫌なやつに引っかかったようだ。
咲夜辺りを注意しておけばよかったかなという考えが甘かったようだぜ。
仮にも門番長というだけはあるな。
「なんなら、私が相談に乗ってあげましょうか、魔理沙さん?」
「何?」
突然思っても無いような言葉が私の耳に届いた。
「今日の貴女はいつもの貴女らしくないですよ。本来なら問答無用で私を吹き飛ばすのにそれをしなかった。これは貴女が悩んでいるんじゃないかって察することぐらい出来ますよ。これでも長い付き合いしてますからね」
「………だから、それをパチュリーに相談しに来たんだ」
私はため息をつきながら、言葉を返した。
そう、ここに来たのは私の友人で、ある意味アリス以上に役に立つパチュリー=ノーレッジに会いに来たのだ。
知識も豊富で口が堅い。条件としては手ごろだ。
パチュリーなら何かしら私の悩みに突破口をこじ開けてくれるかもしれない。そう思ってやってきたのだ。
けれど、この門番はそれを拒否しやがった。
「残念ですが、パチュリー様は本日面会謝絶でございます。貴方であろうとアリスさんであろうと会わせるわけにはいけませんよ」
「面会謝絶!? 何があった、実験の失敗で怪我でもしたのか?」
「本人の名誉によりそれは言えません」
中国が両手でバツをした。
これは困った。まさか、パチュリーが寝込んでいるとは…
日を改めようかどうか迷う。そこで、目の前にいるこいつのことを考えてみた。
知識はパチュリーに比べれば低いかもしれないが結構長生きしてると考えられる。ということは人生、いや妖生豊富なんじゃないだろうか。案外、私の気持ちを上手く汲み取ってくれるかもしれない。
ここはこいつの案に乗ってもいいかもしれない。そういう結論が私の中に生まれ、さっきから何かぶつくさ呟いてる中国に話しかけた。
「なあ、中国。だったら、その………相談に乗ってくれるか?」
「ぶつぶつ……だから……言ったのに……こんな時期に……摩擦なんか駄目だって……あ、すいません。何て言いました?」
「だから……相談に乗ってくれるかって言ってるんだ!」
二度も言わせんなよ!
やっぱどこかでこいつに相談するのは恥ずかしいと思ってるんだろう。顔が真っ赤になるのを感じながら私は中国に言った。
すると、一瞬呆けながらもすぐに笑顔になってから頷いてくれた。
「ええ、ええ、喜んで! それが賢明ですよ。ここでは寒いですからね、私の部屋にご案内しますよ」
「……そうか。サンキュー、中国」
「どういたしまして。でも、できれば本名で呼んでください。でないと真剣に相談に乗りませんよ?」
「ああ、わかった。頼むぜ、美鈴」
「ふふふ、お任せ下さい」
私は中国……いや、美鈴に案内されながら部屋へと向かった。こいつが妙に明るい顔で話すことに疑問を持たずについて行った。
美鈴が部下に後のことを任せてから美鈴の部屋に入った私達。中は意外と狭かった。
「ふ~ん、これがお前の部屋か…」
「ええ。狭いと思うかもしれませんが、どうぞそこにおかけ下さい。今お茶を用意しますよ」
ありがとうといってから促されたいすに座る。
ぎしっといすが軋む音がした。年季が入っているのだろう。
美鈴の部屋は門の近くにあり、館内ではなかった。
レンガ式に詰まれた部屋は壁が橙色をしており温かみが感じられる。
中は椅子とテーブル、ベッドにトレーニング器具と簡易式のキッチンがあるだけで質素であった。
「どうぞ。咲夜さんみたいに上手には入れられませんが質は保障します」
「ああ、サンキュー」
受け取ったお茶は霊夢が飲んでいるようなお茶に近い。
ここでは紅茶が主流なだけに緑茶がなかなかに新鮮に見えた。
「うまい」
「それはなにより」
にこりと笑う美鈴。よく笑う奴だ。
自分の分のお茶を用意した美鈴は私の正面に座った。
「では、話してもらえませんか? 魔理沙さんは何をお悩みなんでしょうか?」
「……ああ。ちょっと言いにくいことなんだ。だから誰にも話さないでくれよ」
「ええ、もちろんです」
こいつが他の奴に話すとは考えられないが一応釘を刺しておいた。
美鈴は微笑んだまま私の言葉を静かに待っていた。
私はこいつについて来たんだ、信頼して話そう。
「私には……大切な人がいるんだ。その人は私のことを自分で言うのも変だが大切にしてくれてると思う。迷惑を掛けて嫌な顔はするけど、それでも優しくしてくれる。私が風邪を引いて動くのも億劫なときには付きっ切りで看病をしてくれたこともあった。ずっと一緒にいて嫌にならない、むしろ楽しくなる。私に微笑んでくれる……そんな人なんだ」
「………続けてください」
「でも、その人が別の人に微笑んでいたんだ。しかも、今までに見たことがないくらいの笑顔で。私はそれが悔しかった」
「どうして悔しいんですか?」
「私にじゃないから……だと思う」
「だと思う、ですか。微妙な言い方ですね」
「実際そうなんだ。他の人に微笑んでいたのは悔しい。けど、私だけに微笑んでいてほしいと言うのは私のわがままなんだ。だから……」
「微妙な表現になるのですか」
美鈴はふむと唸ってから、言葉を続けた。
「いやはや、魔理沙さんはだいぶ大人ですね。もっと子供っぽい考えをするかと思っていました。失礼でしたけど、魔理沙さんの苦しさはよく分かります」
「悪かったな。普段から子供っぽくて」
「あははは、まあ、そう怒らないで下さい。でもね」
そう言って美鈴が私の方に顔を乗り出してきた。
「それが別に本題じゃないんでしょ?」
「………ああ。私が本当に悩んでいるのはこれからその人とどうしたいんだろうってとこなんだ」
心臓の波が早くなる。この言葉を言いたくて言いたくてやっと言えた。
家で考えていたら結局、堂々巡りで終わった。それは私自身しっかりと疑問に向き合えていなかったからだと思う。
でも、口にすることで、そして人に聞いてもらえたことでやっと向き合えたと思う。
抽象的な疑問で美鈴には悪いが私はどうすれば言いか教えて欲しい、そう真剣に考えた。
やがて美鈴が難しい顔をほぐし、口を開いた。
「………貴女はここに来る前にそれを考えましたよね? そのときはどんな結論がでました?」
「堂々巡りだった。悔しくなりたくない、その繰り返しだったぜ」
「悔しくなりたくない、では今は悔しい気持ちが貴女の心を占めているんですね?」
「ああ、その通りだ。でもそれはさっきの笑顔とかって意味、じゃないと思う」
「でしょうね。貴女の悔しいという気持ちは別のものであって、もっと大きな概念だと思います」
「大きな概念? それは何なのだ?」
「私の推測ですが、その人への躊躇い、じゃないでしょうか?」
「躊躇い?」
鸚鵡返しに聞いた私の言葉に美鈴は大きく頷いた。
「その躊躇いが何なのかは私には分かりません。ですが、その躊躇いがあるために貴方の行動や考えが制限されているのだと思います。そのことが今日の調子を反映しているのではないのでしょうか?」
「でも、そうだったとしても、どうして躊躇っているのが悔しいに繋がるのだ?」
「躊躇っていると無意識に嫌の方向に考えてしまうものです。例えば、曇り日に傘持ってこなかったけど雨が降るのかなってね。そういう風に凝り固まった考えしか出せないが故に本当なら考えたいこと――例えば、良い方向への考えが出来ないから悔しく思ってるんじゃないでしょうかね」
「良い方向に持っていけてない……って言いたいのか?」
「私の推測ではですけどね」
美鈴は一度お茶を口に含んだ。美鈴が口休みをしているうちに今一度整理してみた。
こいつが言うには私は何か躊躇っていることがあるらしい。そのために悪い方向だけを考えてしまう。だから私の心の中は悔しさが溜まっている。
だったらこいつの言葉を借りるとするなら私は基本的に良い方向への考えをしているらしい。
「なあ、美鈴。私の中に躊躇いがあるとしたら何に躊躇っているんだ?」
「さぁ……そこまでは知りませんよ。ただ、その大切な人に関することだというのは間違いないとは思いますが」
何だろうな…私が香霖に対して躊躇っていることって。怒ることならすぐ思いつくんだがなぁ。
「少し時間を掛けて考えてみてください。その間私は門のところでぶらついていますんで」
そう言って美鈴は静かに部屋から出て行った。
私はあいつに返事をしないままずっと『躊躇い』を探していた。
どっぷりと深みに浸かりながら考えていたので最後に美鈴が言った言葉に反応できなかった。
「大いに悩みなさいな。恋の魔法遣いさん」
夕日のように温かい色を放つ美鈴の部屋。
どれだけ時間が過ぎたのか私には分からなかったが、長くいたのは分かる。そのお蔭でゆっくりと自分と見詰め合うことが出来た。
ため息をつく。大きく吐いた息に自分は深刻に考えていたんだなと改めて実感した。
すると、部屋のドアが二回ノックされた。
「美鈴か?」
「はい、そうですよ。答えは出ましたか?」
「ああ」
「それは良かったですね」
そう言って美鈴が部屋に入ってきた。
開けられたドアからは夕日が見えた。やはり結構時間が流れていたようだ。
かちゃりとドアを閉め美鈴が私の正面に座る。
「もし良かったらお聞かせ願えないでしょうか? 貴女が何に躊躇い、そしてこれからどうしたいのかを」
「ああ、良いぜ」
私は自然と笑えた。今日一日が始まって初めて笑顔になれたんじゃないだろうか。
「私が躊躇っていた理由、それは今日の夢が原因だと思う」
「夢ですか?」
「ああ。今日の夢は最悪でな、私夢の中で告白したんだ。私の大切な人にな。それがすっごく勇気が要ったんだ。私が生きてきた中で一番勇気を振り絞ったんだ。フランや紫やこいしなんかと弾幕ごっこするより頑張った」
「分かりますよ。告白ってすごく緊張しますよね。あれほど人生の中で勇気を力一杯振り絞ることなんて滅多にないですからね」
「そうなんだ………でもな、結局は受け入れてもらえなかった。その人にはもう別の人がいたんだ」
「………」
「悔しかったよ……何で私じゃ駄目なんだって。例え夢であっても、どうして私じゃ駄目なんだって思ったよ。…っ何で私じゃ…………ないのさ」
私は知らず知らずに声が詰まっていた。
目がぼやける。おかしいな、一人で考えてた時はこんなんじゃなかったのに。
取り合えず、袖で顔を拭いてからまた話し始めた。
「悪い…みっともないところ見せて」
「いえ、素直な気持ちで話しているから涙は流れるんですよ。今の魔理沙さんは自分に正直でいられている証拠です」
「そうか……ありがとう、美鈴」
「どういたしまして。それで、蒸し返すようですが、その夢が原因で貴女は躊躇っているってことでしょうか?」
「ああ。あんな夢を見たからもう一度勇気を振り絞っても駄目なんじゃないかなって思うんだ。だから、躊躇っている」
私は見た夢が正夢になるのが怖かった。
なってしまえば、私は香霖と一緒にいられない。顔もまともに見られなくなってしまう。
だから、思いは告げないでおこうと考えた。
……でも、それは無理だった。そう決めていたけど、心の調子がおかしくなり、美鈴からは変だと指摘された。
私はどうやら顔に出やすいタイプらしい。
告白することに躊躇っている。我慢すると心の調子がおかしくなる。なぜなら『負ける』イメージがついているから。だから、本来の考えが浮かべず、悔しさが溢れる。
じゃあ、私がするべき行動は、悔しくなりたくないための行動は……
「私は告白しようと思う。それが私の出した結論だぜ」
口に出した。私がこれからどうするべきかという考えを口に出した。
短い言葉だったのに私の心臓はばくばくしている。口から心臓が飛び出そうなくらい跳ね回っている。これで、告白となったらどうなるんだろうか。
「良いんじゃないでしょうか。魔理沙さんが考えに考えた結論なら私はとやかく言うつもりはありません。ただ、成功するように祈るだけですよ」
「…! 分かった、今言ってくる」
美鈴の言葉に後押しされながら私は部屋を出た。
冷たい風、されど私の心は温かい。
真っ赤な夕日、今の私の心も真っ赤に燃えている。
単純かもしれない。けど、実際そうだった。
美鈴に相談したのは間違いなかった。
だから私は部屋から出てきたあいつに大きく手を振った。
「ありがとな~!!! それじゃあ、行ってくるぜ!!!」
向こうも大きく手を振ってくれた。
待ってろよ、香霖!
―――かつて幼い頃の私と香霖はこんなことを話したことがあった。
いつものように木登りに勤しんでいたある日。それは星空がきれいで、手を伸ばそうとついつい枝の上で何回も背伸びをしていたときだった。私は下にいる香霖に話しかけた。
「香霖には好きな人がいるのか?」
「……さあね。ついでに言えば、こんな唐変木を好きになる人なんてそうそういないよ」
香霖は笑いながら私のほうを見上げていた。
だから私は言ってやった。
「なら、私が好きになってやる。私が香霖の恋人だ」
それは私のある意味初めての告白だった。とは言え、子供の言うことだ。私自身そんなに意識して言ったつもり………ではなかったはずだ。
でも、そのときの香霖の表情と言葉は覚えている。
「そうだね。君が星に手が届く頃まで僕のことを好きでいてくれたらその言葉を嬉しく受け取るよ」
香霖の笑顔は素敵だった。
あのときから私は香霖の笑顔が好きになっていた。
まだ星には届いていない。でも、私は星を使えるようになった。
だからこれで許してほしい。いつか絶対に、絶対に星に届いてみせるから―――
「おーっす、香霖! 魔理沙さんが会いに来たぜ!!!」
終
おまけ
「命短し、恋せよ乙女、か……あの娘はそれを体現したような存在ね」
魔理沙が見えなくなるまで振っていた手を下ろす。魔理沙がずっと考え、悩みに悩んだ答え。相談した甲斐があったものだ。
最初はただの気まぐれだった。
ぼーっと門番をしているのも退屈だし、何より寒い。仕方がなかったので昼寝をしていたら、華がやってきた。
前から、純で愛い奴だとは思っていたがあそこまで行動に表すとは思っていなかった。一人で解決する性格の彼女が相談に来たのだ。それだけ、今回は深刻だったのだろう。
私が彼女にしてあげることは一緒に悩みを解決することではない。先にも言ったが魔理沙は一人で解決する性格なのだ。私があれこれ言っても話が複雑になってしまう。
こういう場合は、一人でじっくりと自問自答したほうが答えは出やすい。
お茶でも飲んでもらって、一人っきりにしてあげるのが私の役目。
そして、出した答えを後押ししてあげる。それだけで十分なのだ。
「うまくいくと良いですね」
夕日が沈みかけている。今日も一日が終わる。
今からは主の時間だ。私の役目はこれでお終い。
すっかり固まった体を伸ばしてほぐしていると、買い物に出ていた咲夜が戻ってきた。
「あら、珍しく寝てないわね? 何かあったの?」
「お帰りなさい、咲夜さん。ちょっと、華が飛んできましてそれの対応をしてたんですよ」
「花? 風見 幽香がやってきたの? 珍しいこと」
てんでおかしなことを言う咲夜。ま、私が誤解させるようなことを言ったのが悪かったんだけどね。
今から咲夜は主たちのために食事の用意に取り掛かるのだろう。この娘もいつかはここを離れるのだろうか。
そう思うとしんみりした。
「ねえ、咲夜さん? 貴女は恋してますか?」
私の言葉に咲夜は驚きながら私の方に振り向いた。
普段はすまし顔なのにこういう話には過敏に反応する。この変化はいつ見ても面白い。だからついつい弄ってしまう。
(ああ、やっぱり咲夜さんも乙女なんだな)
私はけたけたと笑いながら彼女のナイフを甘んじて受け入れた。
「香霖! 大好きだ! 付き合ってくれ!!!」
霧雨 魔理沙は持てる勇気を振り絞って告白した。
恥ずかしいのか顔を真っ赤にして息を荒くしている。
ここは香霖堂。魔法の森にある胡散臭い道具屋である。
その店主で掃除中だった告白の相手――森近 霖之助は彼女の突然の告白に驚いている。目を見開き開いた口も塞がらない。
しばし無言が続いた。
その間、緊張している魔理沙には数時間のように思えた。やっと口を開いた霖之助の返事はある意味興ざめのものであった。
「……………はぁ?」
何とも素っ頓狂な声だろうか。
霖之助はそれだけ言って店内の道具の掃除を再開した。
「お、おい、香霖!! 何だその反応は!? 私の言ったことにしっかり応えろ」
当然の言い分であった。
必死の彼女の告白に答えを出さず掃除に移る彼に、魔理沙は癇癪した。
彼女は彼の袖をぐいっと引っ張り、無理矢理面と向かわせた。
そこで霖之助は大きくため息を吐く。魔理沙はこの態度にかちんときた。
そして、彼女は怒ろうとしたが彼女にとっては聞きたくない一言を霖之助はもらした。
「もちろん、ごめんなさい、だ」
「どうして!?」
彼の言葉に彼女は一瞬だが呆けた。決して聞き取れなかったわけじゃない。その証拠に彼女はすぐにしかめた。
まさか、断られるとは思わなかったからだ。
告白をしただけで彼女の表情はころころとよく変わるものである。
それに対して彼の方は何とすまし顔か!
「いや、だって…………まぁ……」
歯切れの悪い霖之助の反応。彼の視線はカウンターの奥、居間へと向けられている。
するとタイミングを計ったかのようにひょっこりと飛び出たのは魔理沙と同じ金色の髪。
「どうした、霖之助?」
躁霊長女ルナサ=プリズムリバーであった。
居間からで彼の方に向かうルナサ。前には白いエプロンをつけている。どうやら料理中だったらしい。
ルナサがとてててと彼の方に近づき、あろうことか魔理沙の前で霖之助の腕を組んだ。体を彼の方に寄せて密着させる。
霖之助は彼女の行動に満更でもない表情をする。ぱっと見すまし顔は以前続行中。けれど頬だけが見る見る赤くなっていく。心なしか視線はあさっての方向に。
要するに彼は恥ずかしがっていた。
魔理沙は思わず言葉を失う。
自分の前でこうもいちゃつきを見せられるとおしゃべりな彼女も開いた口が塞がらない。
「な、な、な、な、な~」
「…………まぁ、そういうことだ」
すまないなと言って霖之助は軽く頭をかく。困り顔の霖之助。隣のルナサも彼と同様に頬を赤く染めていた。
魔理沙は口を震わせ、顔を震わせ、体を震わせながら先ほどの告白以上に大きな声で叫んだ。
「う、うそだぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!」
マスタースパークは撃つのに時間が掛かる
「ああああああ!?」
私は絶叫しながら体を起こした。
息が荒れている。心臓のドクンドクンという音が静かな部屋にはっきりと鳴り響く。
額に手をやるとじゅわっと水が染み込む音がした。かなり汗をかいたようだ。
私は荒れる息を宥めながら時計に目をやる。
午前の2時だった。
草木も眠る丑三つ時ってやつだ。
誰もが深く眠っている時刻に私は最悪の夢で起こされた。
「気持ち悪い」
口の中が粘つく。なのに乾きも感じていた。
台所にある水を飲もうと暗がりの中を歩いていった。
「ふぅ」
一息つけた。
口の中はさっきとはまるで違う。澱んだものがきれいになくなっていた。
出来れば、心まで洗われてほしかったが。
「…………」
無意識に夢の中身を思い出していた。夢なんてものはたいていのことは忘れる。楽しいことも悲しかったことも目が覚めてしまえば、内容なんて頭の中から消えている。
でも、どうやら今日は覚えていたらしい。使えない頭だ。何でよりにもよってこんなものを覚えているんだろうか。
台所の椅子に座る。
季節は雪が降り積もる白い季節。そんな時期なだけあって椅子はひんやりとしていた。
夢の中で香霖を見た。私の中で特別な人。
それは私のよく知っているもう一人の親代わり。そして……
「はっ」
誰もいない空間で軽く笑った。
馬鹿馬鹿しい。
でも、そうは思えない。いつの間にかであった。時間がそういう気持ちにしてくれたのかもしれない。嬉しいのか、嫌なのか……
笑った私はどっちを思ったのか。
彼と出会った日のことが自然と思い出された。
短い間だった。香霖は私の家で働いていたときがあった。奉公人とも言うべきかな。
人里でそれなりに大きな道具屋を営んでいた私の家であいつは勉強をしていた。
道具の識別、扱い方、経営学……これはいまいちだったけど。
とは言え、かなり熱心にやっていた。子供ながらもすごいなとは思っていた。
あいつは私の面倒も見てくれた。
当時の私は高いところが好きで決まって近所の雑木林に出かけては木に登っていた。
家の屋根だと親父が怒るからだ。
「魔理沙。君は何故高いところが好きなんだい?」
ある日、いつもどおり木登りをしていたら香霖が尋ねて来た。
あの時、なんて答えたっかな……
ああ、そうだ。
「だって、星が届きそう」
単純だな。木に登れば星に届くなんてなんて幼いんだろうか。
でもあいつは笑わなかった。むしろ感心していた。
「なるほど、君は星に近づきたかったのか。良い目標を持ってるね」
「えへへ」
「で、今日はどうだい? 届きそうか?」
「うん。昨日より高い木に登った。このまま行けば大人になることには届いてるよ」
確か、登る木は毎回変えていたっかな。少しでも背の高い気を選んではチャレンジしてたな。そうすることで星に近づけると思ったから……
あの時は本気だった。
今は……無理かな。
だって、星は空の向こうにあるって言うことを知ってしまったから。
霊夢やレミリアたちと共に月に行ったことがあった。
月に行くのでさえ、かなりの準備が必要だ。そして人員も重要だ。
それを知って私は、星は届かないものだと気づかされた。
あの旅で得た一番の教訓だった。
「…………」
私はまた水を汲んで飲んだ。
星は届かない。でも、届きたい。
だって、あいつは言ってくれた。『良い目標』だって言ってくれた。届けば褒めてくれるかもしれない。そして私の事を見ていてくれるかもしれない。
だから私はあきらめたくなかった。
でも、それがまた意味がなくなるのかもしれない。
先日、あいつのうちに遊びに行った。朝早くからアリスと一緒にクッキーを作って行った。
アリスは良い奴だ。私のわがままを受け止めてくれる。あいつを香霖に紹介してよかった。お陰で話し相手が増えたからな。
あの日も……楽しくなりそうだった。
私達三人が集まれば何かと楽しい。私が話題をふってアリスが突っ込みを入れてくれる。ケンカしそうになると香霖が止めてくれる。博麗神社にはない楽しさがあそこにはあった。
でもその違った。
なぜなら、夢の中の『あいつ』がいたからだ。
後々、香霖とあいつが付き合っていたのは演技だと分かったが、それもあまり信じられなかった。
香霖があいつとの関係の秘密をばらしてくれたあの日、私はアリスと一緒に遊びに来ていた。そこでいつものような日常――道具を勝手に見たり、喋ったり、おやつを貰ったりしていた。
そこへ文々。新聞が届けられた。
その中に一通の白い封筒が挟んであった。
ああ、あいつからなのだと、気づいた。
それを香霖に見せると、微笑んでいた。私が見たことがないくらい柔らかくて、温かそうな笑顔だった。
そんな笑顔を見たくは無かった。結局、あいつが香霖の中にいたことに気づかされたからだ。
「くしゅん!」
肌寒くなってきた。
今の季節、人間にはたまらないぜ。
口の中もすっきりしたことだし、もう一眠りしよう。
布団の中はすっかり冷たくなっていた。
寝巻きからはみ出た手足がヒヤリと感じる。もぞもぞと動き、寝やすい格好に落ち着いてから目を瞑った。
今度はもっと良い夢が見れますように………
朝になって目を覚ました。とは言え、私が住んでいる魔法の森は薄暗いところで日が差しにくい。加えて夜中に一度目が覚めたお陰で今日はだいぶ時間が経ってから目を覚ました。
「ふわぁ~~~」
時計に目をやると午前の10時を少し回っていた。
中途半端な時間だ。これでは朝食を食べるべきか昼まで待つべきか悩みどころだ。
おなかの状態を確かめるとあまり空いていないようだ。
ここはダイエットもかねて朝抜きにするか。
歯を磨き、顔を洗ってから台所に向かう。
朝抜きとは言え、何も飲まないというのは辛いのでホットミルクを飲むことにした。
椅子に座って落ち着いてからカップに注いだホットミルクに口をつける。
誰もいない無言の空間。一人暮らしなんだから当たり前なのだが、今はそれが妙に辛い。
「…………」
自然と夜中のことが蘇ってくる。
香霖、アリス、ルナサ……そして私。
私はどうしたいんだろう。
あの時――香霖とルナサが付き合っているというのを知った日、私は悔しさがこみ上げた。
何故そう思ったのか?
答えは簡単だ。香霖は私のことを見ていてくれると思った。これからもずっとだと思ってた。
でも、それは違う。香霖がずっと見ていてくれるはずがない。だって、香霖には香霖の人生がある。それなのに、私は私だけを見ていて欲しいと思った。それは束縛だ。空を飛べるはずの鳥にかごで閉じ込めるのと同じだ。
そう考えると、私の考えを改めさせられたあの出来事はある意味私にとってプラスだったのかもしれない。
じゃあ、私は本当にどうしたいんだ。
………いかん、堂々巡りしたぜ。
「くそっ」
悪態をついてからもう一度考え直した。
私がしたいこと――悔しいって思ったんだから、逆に悔しくなりたくないことかな。だとしたら、香霖とどうしたいのか。
……これ以上考えるのが恥ずかしくなった。そしてそれ以上に怖くなった。
恥ずかしいのは何でか分かる。だって、つまり、アレだから……
じゃあ、怖いのはどうしてか。
今日の夢が原因だろう。即ち、夢が本当に…なったら………
「ぃゃ………」
足がすくむ感じがした。幸い今は椅子に座っているので問題ないが立っていたら倒れていたかもしれない。それぐらい怖く感じた。
考えたくはない。考えてはいけない。そう思うたびに、嫌な方向に意識してしまう。
心の中に黒いもやもやしたものがまとわりつくような気持ち悪さ。
吐きたい、今すぐ吐きたい。
心の中でのギャップ。
悔しくなりたくないための行動とその行動への恐怖。正直、心が参りそうだぜ。
「それもこれも、結局あいつのせいだ」
ルナサ=プリズムリバー。余計なことをしやがって。
……でも、あいつが悪いわけじゃあないということも分かっている。あいつは自分の力を高めたいがためにとった行動だったんだから。
それをうらむなんてお門違いだ――そう無理矢理言い聞かせた。
「出かけるか」
どうやらこの悩みは一人で解決できそうにない。こういうときは素直に誰かに聞くのが一番だ。
指し当たって、この問題はプライベートな悩みだ。適材な人物に相談をしなければならない。
「霊夢は無理だな」
あいつは相談するのに丁度良い人物だ。が、周りが厄介で、幻想郷屈指の困った奴がいる。
もしそいつらに聞かれたらたまったもんじゃない。
「反省して欲しい奴らばっかりで、困った者だぜ」
次の候補としては、
「アリスかな……でもな」
これも却下だ。あいつは相談に親身に乗ってくれるが最悪の方向を歯止めするような意見しか出してくれない。つっこみはうまいくせに…
できれば、もっと建設的な意見を出してくれる奴が良い。でもって、口が堅そうな奴と言うと、
「紅魔館か」
私と同じ魔法系統を使う友人。知識も豊富で寡黙な友人。
「そうと決まったら出発だぜ!」
空は青かった。
最近は天気がくずついていた。昨日も雪が降っていた。けれど今日は快晴。風は冷たいが我慢できなくもない。
空から見下ろすと周囲は赤から白へと変わり始めてる。遠くに見える妖怪の山なんかはかなり変化している。
そんな変化に楽しみを覚えながら飛んでいるうちにやっと見えた目的地。
大概のシーズンは周りの景色と協調できない悪魔の館――紅魔館。今の時期は周りの景色も相まってめでたい感じなのが皮肉に感じる。
湖を越えた頃からゆっくりと降下し始めた。本当なら挨拶の一発をぶち込むところなんだが今日は大人しくしておこう。
「お、あいつまた寝てるな」
白化粧の芝生に降り、ゆっくりと館の門前まで歩く。そこには見慣れた妖怪――紅 美鈴が壁に寄りかかりながら眠っていた。
「いつも思うのだが、こいつこんなところで寝てて寒くないのか?」
毛布や他の暖房具など見当たらない。服も民族衣装が映えるチャイナドレスでスリットが深く生地も薄そう。妖怪の体じゃないからわかんないが取り合えず見てるだけで寒気を感じた。
「お~い、中国。起きろ」
「起きてますよ。マスパを撃たないとはと珍しい思って様子を見てただけですよ」
そう言って目の前の美鈴は大きく伸びをした。本当に起きてたか疑わしいぜ。
「っつうか、マスパって言うな。しっかりと言え」
「なら私のこともしっかりと本名で呼んでください。でない限りこれからもずっとマスパって言わせてもらいます」
中国が服についた雪を払いながら立ち上がると笑顔でそう言ってきた。
珍しかった。大概、こいつは大きく出ないのだが今日は気を大きくしている。
何かおかしいな。
「なんか、態度でかいな、お前。今日いいことでもあったのか?」
「別にありませんよ。ただ今日の魔理沙さん、何か弱気になってるんでちょっと強気に出てるんですよ。あ、お嫌でしたらいつも通りにしますが」
「私が弱気? はっ、言ってくれるじゃないか。いつも私に吹っ飛ばされてるくせに。いつも通りなら今頃お前はマスタースパークでひぃひぃ言ってる頃だぜ」
「それもそうですね」
にこりと笑顔になる中国。なんかむかついた。
とは言え、確かに今の私は弱気だ。というか、心が乱れてるって実感できる。
ま、それを解決するために来たのだがどうやら嫌なやつに引っかかったようだ。
咲夜辺りを注意しておけばよかったかなという考えが甘かったようだぜ。
仮にも門番長というだけはあるな。
「なんなら、私が相談に乗ってあげましょうか、魔理沙さん?」
「何?」
突然思っても無いような言葉が私の耳に届いた。
「今日の貴女はいつもの貴女らしくないですよ。本来なら問答無用で私を吹き飛ばすのにそれをしなかった。これは貴女が悩んでいるんじゃないかって察することぐらい出来ますよ。これでも長い付き合いしてますからね」
「………だから、それをパチュリーに相談しに来たんだ」
私はため息をつきながら、言葉を返した。
そう、ここに来たのは私の友人で、ある意味アリス以上に役に立つパチュリー=ノーレッジに会いに来たのだ。
知識も豊富で口が堅い。条件としては手ごろだ。
パチュリーなら何かしら私の悩みに突破口をこじ開けてくれるかもしれない。そう思ってやってきたのだ。
けれど、この門番はそれを拒否しやがった。
「残念ですが、パチュリー様は本日面会謝絶でございます。貴方であろうとアリスさんであろうと会わせるわけにはいけませんよ」
「面会謝絶!? 何があった、実験の失敗で怪我でもしたのか?」
「本人の名誉によりそれは言えません」
中国が両手でバツをした。
これは困った。まさか、パチュリーが寝込んでいるとは…
日を改めようかどうか迷う。そこで、目の前にいるこいつのことを考えてみた。
知識はパチュリーに比べれば低いかもしれないが結構長生きしてると考えられる。ということは人生、いや妖生豊富なんじゃないだろうか。案外、私の気持ちを上手く汲み取ってくれるかもしれない。
ここはこいつの案に乗ってもいいかもしれない。そういう結論が私の中に生まれ、さっきから何かぶつくさ呟いてる中国に話しかけた。
「なあ、中国。だったら、その………相談に乗ってくれるか?」
「ぶつぶつ……だから……言ったのに……こんな時期に……摩擦なんか駄目だって……あ、すいません。何て言いました?」
「だから……相談に乗ってくれるかって言ってるんだ!」
二度も言わせんなよ!
やっぱどこかでこいつに相談するのは恥ずかしいと思ってるんだろう。顔が真っ赤になるのを感じながら私は中国に言った。
すると、一瞬呆けながらもすぐに笑顔になってから頷いてくれた。
「ええ、ええ、喜んで! それが賢明ですよ。ここでは寒いですからね、私の部屋にご案内しますよ」
「……そうか。サンキュー、中国」
「どういたしまして。でも、できれば本名で呼んでください。でないと真剣に相談に乗りませんよ?」
「ああ、わかった。頼むぜ、美鈴」
「ふふふ、お任せ下さい」
私は中国……いや、美鈴に案内されながら部屋へと向かった。こいつが妙に明るい顔で話すことに疑問を持たずについて行った。
美鈴が部下に後のことを任せてから美鈴の部屋に入った私達。中は意外と狭かった。
「ふ~ん、これがお前の部屋か…」
「ええ。狭いと思うかもしれませんが、どうぞそこにおかけ下さい。今お茶を用意しますよ」
ありがとうといってから促されたいすに座る。
ぎしっといすが軋む音がした。年季が入っているのだろう。
美鈴の部屋は門の近くにあり、館内ではなかった。
レンガ式に詰まれた部屋は壁が橙色をしており温かみが感じられる。
中は椅子とテーブル、ベッドにトレーニング器具と簡易式のキッチンがあるだけで質素であった。
「どうぞ。咲夜さんみたいに上手には入れられませんが質は保障します」
「ああ、サンキュー」
受け取ったお茶は霊夢が飲んでいるようなお茶に近い。
ここでは紅茶が主流なだけに緑茶がなかなかに新鮮に見えた。
「うまい」
「それはなにより」
にこりと笑う美鈴。よく笑う奴だ。
自分の分のお茶を用意した美鈴は私の正面に座った。
「では、話してもらえませんか? 魔理沙さんは何をお悩みなんでしょうか?」
「……ああ。ちょっと言いにくいことなんだ。だから誰にも話さないでくれよ」
「ええ、もちろんです」
こいつが他の奴に話すとは考えられないが一応釘を刺しておいた。
美鈴は微笑んだまま私の言葉を静かに待っていた。
私はこいつについて来たんだ、信頼して話そう。
「私には……大切な人がいるんだ。その人は私のことを自分で言うのも変だが大切にしてくれてると思う。迷惑を掛けて嫌な顔はするけど、それでも優しくしてくれる。私が風邪を引いて動くのも億劫なときには付きっ切りで看病をしてくれたこともあった。ずっと一緒にいて嫌にならない、むしろ楽しくなる。私に微笑んでくれる……そんな人なんだ」
「………続けてください」
「でも、その人が別の人に微笑んでいたんだ。しかも、今までに見たことがないくらいの笑顔で。私はそれが悔しかった」
「どうして悔しいんですか?」
「私にじゃないから……だと思う」
「だと思う、ですか。微妙な言い方ですね」
「実際そうなんだ。他の人に微笑んでいたのは悔しい。けど、私だけに微笑んでいてほしいと言うのは私のわがままなんだ。だから……」
「微妙な表現になるのですか」
美鈴はふむと唸ってから、言葉を続けた。
「いやはや、魔理沙さんはだいぶ大人ですね。もっと子供っぽい考えをするかと思っていました。失礼でしたけど、魔理沙さんの苦しさはよく分かります」
「悪かったな。普段から子供っぽくて」
「あははは、まあ、そう怒らないで下さい。でもね」
そう言って美鈴が私の方に顔を乗り出してきた。
「それが別に本題じゃないんでしょ?」
「………ああ。私が本当に悩んでいるのはこれからその人とどうしたいんだろうってとこなんだ」
心臓の波が早くなる。この言葉を言いたくて言いたくてやっと言えた。
家で考えていたら結局、堂々巡りで終わった。それは私自身しっかりと疑問に向き合えていなかったからだと思う。
でも、口にすることで、そして人に聞いてもらえたことでやっと向き合えたと思う。
抽象的な疑問で美鈴には悪いが私はどうすれば言いか教えて欲しい、そう真剣に考えた。
やがて美鈴が難しい顔をほぐし、口を開いた。
「………貴女はここに来る前にそれを考えましたよね? そのときはどんな結論がでました?」
「堂々巡りだった。悔しくなりたくない、その繰り返しだったぜ」
「悔しくなりたくない、では今は悔しい気持ちが貴女の心を占めているんですね?」
「ああ、その通りだ。でもそれはさっきの笑顔とかって意味、じゃないと思う」
「でしょうね。貴女の悔しいという気持ちは別のものであって、もっと大きな概念だと思います」
「大きな概念? それは何なのだ?」
「私の推測ですが、その人への躊躇い、じゃないでしょうか?」
「躊躇い?」
鸚鵡返しに聞いた私の言葉に美鈴は大きく頷いた。
「その躊躇いが何なのかは私には分かりません。ですが、その躊躇いがあるために貴方の行動や考えが制限されているのだと思います。そのことが今日の調子を反映しているのではないのでしょうか?」
「でも、そうだったとしても、どうして躊躇っているのが悔しいに繋がるのだ?」
「躊躇っていると無意識に嫌の方向に考えてしまうものです。例えば、曇り日に傘持ってこなかったけど雨が降るのかなってね。そういう風に凝り固まった考えしか出せないが故に本当なら考えたいこと――例えば、良い方向への考えが出来ないから悔しく思ってるんじゃないでしょうかね」
「良い方向に持っていけてない……って言いたいのか?」
「私の推測ではですけどね」
美鈴は一度お茶を口に含んだ。美鈴が口休みをしているうちに今一度整理してみた。
こいつが言うには私は何か躊躇っていることがあるらしい。そのために悪い方向だけを考えてしまう。だから私の心の中は悔しさが溜まっている。
だったらこいつの言葉を借りるとするなら私は基本的に良い方向への考えをしているらしい。
「なあ、美鈴。私の中に躊躇いがあるとしたら何に躊躇っているんだ?」
「さぁ……そこまでは知りませんよ。ただ、その大切な人に関することだというのは間違いないとは思いますが」
何だろうな…私が香霖に対して躊躇っていることって。怒ることならすぐ思いつくんだがなぁ。
「少し時間を掛けて考えてみてください。その間私は門のところでぶらついていますんで」
そう言って美鈴は静かに部屋から出て行った。
私はあいつに返事をしないままずっと『躊躇い』を探していた。
どっぷりと深みに浸かりながら考えていたので最後に美鈴が言った言葉に反応できなかった。
「大いに悩みなさいな。恋の魔法遣いさん」
夕日のように温かい色を放つ美鈴の部屋。
どれだけ時間が過ぎたのか私には分からなかったが、長くいたのは分かる。そのお蔭でゆっくりと自分と見詰め合うことが出来た。
ため息をつく。大きく吐いた息に自分は深刻に考えていたんだなと改めて実感した。
すると、部屋のドアが二回ノックされた。
「美鈴か?」
「はい、そうですよ。答えは出ましたか?」
「ああ」
「それは良かったですね」
そう言って美鈴が部屋に入ってきた。
開けられたドアからは夕日が見えた。やはり結構時間が流れていたようだ。
かちゃりとドアを閉め美鈴が私の正面に座る。
「もし良かったらお聞かせ願えないでしょうか? 貴女が何に躊躇い、そしてこれからどうしたいのかを」
「ああ、良いぜ」
私は自然と笑えた。今日一日が始まって初めて笑顔になれたんじゃないだろうか。
「私が躊躇っていた理由、それは今日の夢が原因だと思う」
「夢ですか?」
「ああ。今日の夢は最悪でな、私夢の中で告白したんだ。私の大切な人にな。それがすっごく勇気が要ったんだ。私が生きてきた中で一番勇気を振り絞ったんだ。フランや紫やこいしなんかと弾幕ごっこするより頑張った」
「分かりますよ。告白ってすごく緊張しますよね。あれほど人生の中で勇気を力一杯振り絞ることなんて滅多にないですからね」
「そうなんだ………でもな、結局は受け入れてもらえなかった。その人にはもう別の人がいたんだ」
「………」
「悔しかったよ……何で私じゃ駄目なんだって。例え夢であっても、どうして私じゃ駄目なんだって思ったよ。…っ何で私じゃ…………ないのさ」
私は知らず知らずに声が詰まっていた。
目がぼやける。おかしいな、一人で考えてた時はこんなんじゃなかったのに。
取り合えず、袖で顔を拭いてからまた話し始めた。
「悪い…みっともないところ見せて」
「いえ、素直な気持ちで話しているから涙は流れるんですよ。今の魔理沙さんは自分に正直でいられている証拠です」
「そうか……ありがとう、美鈴」
「どういたしまして。それで、蒸し返すようですが、その夢が原因で貴女は躊躇っているってことでしょうか?」
「ああ。あんな夢を見たからもう一度勇気を振り絞っても駄目なんじゃないかなって思うんだ。だから、躊躇っている」
私は見た夢が正夢になるのが怖かった。
なってしまえば、私は香霖と一緒にいられない。顔もまともに見られなくなってしまう。
だから、思いは告げないでおこうと考えた。
……でも、それは無理だった。そう決めていたけど、心の調子がおかしくなり、美鈴からは変だと指摘された。
私はどうやら顔に出やすいタイプらしい。
告白することに躊躇っている。我慢すると心の調子がおかしくなる。なぜなら『負ける』イメージがついているから。だから、本来の考えが浮かべず、悔しさが溢れる。
じゃあ、私がするべき行動は、悔しくなりたくないための行動は……
「私は告白しようと思う。それが私の出した結論だぜ」
口に出した。私がこれからどうするべきかという考えを口に出した。
短い言葉だったのに私の心臓はばくばくしている。口から心臓が飛び出そうなくらい跳ね回っている。これで、告白となったらどうなるんだろうか。
「良いんじゃないでしょうか。魔理沙さんが考えに考えた結論なら私はとやかく言うつもりはありません。ただ、成功するように祈るだけですよ」
「…! 分かった、今言ってくる」
美鈴の言葉に後押しされながら私は部屋を出た。
冷たい風、されど私の心は温かい。
真っ赤な夕日、今の私の心も真っ赤に燃えている。
単純かもしれない。けど、実際そうだった。
美鈴に相談したのは間違いなかった。
だから私は部屋から出てきたあいつに大きく手を振った。
「ありがとな~!!! それじゃあ、行ってくるぜ!!!」
向こうも大きく手を振ってくれた。
待ってろよ、香霖!
―――かつて幼い頃の私と香霖はこんなことを話したことがあった。
いつものように木登りに勤しんでいたある日。それは星空がきれいで、手を伸ばそうとついつい枝の上で何回も背伸びをしていたときだった。私は下にいる香霖に話しかけた。
「香霖には好きな人がいるのか?」
「……さあね。ついでに言えば、こんな唐変木を好きになる人なんてそうそういないよ」
香霖は笑いながら私のほうを見上げていた。
だから私は言ってやった。
「なら、私が好きになってやる。私が香霖の恋人だ」
それは私のある意味初めての告白だった。とは言え、子供の言うことだ。私自身そんなに意識して言ったつもり………ではなかったはずだ。
でも、そのときの香霖の表情と言葉は覚えている。
「そうだね。君が星に手が届く頃まで僕のことを好きでいてくれたらその言葉を嬉しく受け取るよ」
香霖の笑顔は素敵だった。
あのときから私は香霖の笑顔が好きになっていた。
まだ星には届いていない。でも、私は星を使えるようになった。
だからこれで許してほしい。いつか絶対に、絶対に星に届いてみせるから―――
「おーっす、香霖! 魔理沙さんが会いに来たぜ!!!」
終
おまけ
「命短し、恋せよ乙女、か……あの娘はそれを体現したような存在ね」
魔理沙が見えなくなるまで振っていた手を下ろす。魔理沙がずっと考え、悩みに悩んだ答え。相談した甲斐があったものだ。
最初はただの気まぐれだった。
ぼーっと門番をしているのも退屈だし、何より寒い。仕方がなかったので昼寝をしていたら、華がやってきた。
前から、純で愛い奴だとは思っていたがあそこまで行動に表すとは思っていなかった。一人で解決する性格の彼女が相談に来たのだ。それだけ、今回は深刻だったのだろう。
私が彼女にしてあげることは一緒に悩みを解決することではない。先にも言ったが魔理沙は一人で解決する性格なのだ。私があれこれ言っても話が複雑になってしまう。
こういう場合は、一人でじっくりと自問自答したほうが答えは出やすい。
お茶でも飲んでもらって、一人っきりにしてあげるのが私の役目。
そして、出した答えを後押ししてあげる。それだけで十分なのだ。
「うまくいくと良いですね」
夕日が沈みかけている。今日も一日が終わる。
今からは主の時間だ。私の役目はこれでお終い。
すっかり固まった体を伸ばしてほぐしていると、買い物に出ていた咲夜が戻ってきた。
「あら、珍しく寝てないわね? 何かあったの?」
「お帰りなさい、咲夜さん。ちょっと、華が飛んできましてそれの対応をしてたんですよ」
「花? 風見 幽香がやってきたの? 珍しいこと」
てんでおかしなことを言う咲夜。ま、私が誤解させるようなことを言ったのが悪かったんだけどね。
今から咲夜は主たちのために食事の用意に取り掛かるのだろう。この娘もいつかはここを離れるのだろうか。
そう思うとしんみりした。
「ねえ、咲夜さん? 貴女は恋してますか?」
私の言葉に咲夜は驚きながら私の方に振り向いた。
普段はすまし顔なのにこういう話には過敏に反応する。この変化はいつ見ても面白い。だからついつい弄ってしまう。
(ああ、やっぱり咲夜さんも乙女なんだな)
私はけたけたと笑いながら彼女のナイフを甘んじて受け入れた。
本当に素晴らしいシリーズでした。次回の作品も楽しみにしてます。
中ご…もとい美鈴、善人だなあ
ところでパチェさんには何があったんだろうか
>3氏
ありがとうございます。ひねくれてはいるが、結構純情なのが魔理沙だと思うのでそういう風であるように意識して創りました。
>奇声を発する程度の能力
次からもがんばっていきます。応援ありがとうございます。
>7氏
そんな貴方には…
つ塩
>9氏
美鈴出してよかった…彼女は絶対年上的対応が出来る気さくな妖怪ですよね。
>13氏
パチェさんはね、ふふふ…アレをしてたんですよ。