Coolier - 新生・東方創想話

東方千一夜~The Endless Night 第三章「悪霊の魔術師・前編2」

2010/12/19 12:39:21
最終更新
サイズ
32.35KB
ページ数
1
閲覧数
1158
評価数
1/34
POINT
560
Rate
3.34

分類タグ


 それは如何なる時代の、如何なる場所であるか
 まるで見当もつかぬ森の中、一人の女性が森の中を走っている

 緑の長い髪を振り乱し、着用しているローブは森の木に引っ掛かりあちこちが破けている
 必死で何かから逃れようとするように、その女性は一心不乱に森を駆ける

「―――!?」

 女性の背後から、数名の兵士が追いつくや、一斉に矢を放ってきた
 異様な風切音を挙げながら、無数の矢が飛来する

「く―――!?」

 女性は懐から取り出した杖を、自分目掛け飛んでくる矢に向けて振った
 その瞬間、杖の先端から炎の塊が飛び出し、それに触れた矢は蒸発するように消えて行く

 しかし、それでも次々に放たれる矢は防ぎきれない
 炎の勢いが弱まるに連れ、矢は炎を突き抜けていく

「くそ、我ながら情け無い威力だね」

 女性は再び逃げ出した。背後から迫る矢が、女性の身体の近くを通過する
 手を、脚を、次々と掠めながら、一瞬も休まることなく矢が飛んでくる

 女性を追う兵士の数も、どんどん増えて行っているようだった

「うぐ―――!?」

 ついに、一本の矢が女性の足に突き刺さってしまった
 女性はその場に倒れ込み、そこに無数の矢が放たれる

 まるでイナゴが空を覆い尽くすように、女性が振り返った空を矢の影が覆い尽くした
 …同時に、女性の身体に無数の矢が突き刺さっていく

「ようし、それまで…!」

 指揮官らしい男の声が響いた
 人を十分に殺傷し得るほどの矢を放ち、男は成果を確かめるべく女性に近づいていく
 それに続く兵士も、矢を番えながら男の後に続く…

「死んだか…」

 男は確かめる。地面に倒れこんだ女性には、全身に無数の矢が突き刺さっている
 これほどの矢を打ち込まれては、流石に生きてはいないだろう…




 例え、彼女がこの周辺の国で最も恐れられる、最強にして最大の魔法の遣い手であったとしても…




 指揮官は手を伸ばした。彼女を慥かに殺害せしめたという証拠が必要だった
 男は彼女が持っていた杖に手を伸ばす。ニワトコの木で造られた杖で、『宿命の杖』と呼ばれる最強の杖である

 彼女を殺害し、その証拠としてこの杖を持って帰ることが彼等の任務だった

 男は杖を掴み、自分に引き寄せようとする

「―――!?。ひぃ!」

 しかし、その瞬間、彼女の切れ長の眼が開き、鋭い視線が男を突き刺した
 男は腰を抜かさんばかりに驚き、こけつまろびつ彼女から離れようとする

 彼女は全身に無数の矢を受けながら、杖を構えて立ち上がる

「どういうつもりだい、私はあんた達の国を何度となく他国の侵略から護って来た
 私に毒を飲ませて、騙まし討ちにするとは、いったいどういう料簡だい!」

 全身の傷口から、血が溢れてくる
 手から魔法の波動を出そうとするが、毒のせいか上手く魔法が使えない

 彼女はこの辺り一帯で、その名を知られた魔法使いだった
 その魔力は強大で、イングランドのマーリン・アンブロジウス、古代イスラエル王国のソロモン王、中つ国のガンダルフにならぶ魔法使いと呼ばれていた
 彼女は人里離れた山の中に住んでいたが、今から数代前のこの国の王は彼女と誼を結び、この国が外敵からの侵略を受けた際はそれを助けるという約束を交わした
 彼女はそれを守り、幾度となく外敵からの侵略を防いできた

 山間の小さな国でありながら、彼女の力を恐れ、周囲の国はどこもこの国に手を出そうとはしなかった
 彼女は特に報酬などは求めなかった。純粋な魔族である彼女は、食事を断っていても死ぬ事はないし、宝飾品や財宝にも興味がなかった

 先代の王が死に、新しい王が即位し、その戴冠式に彼女も呼ばれた
 以前からそういう慣わしになっていたし、特に断る理由もなく彼女は出席した…



 …その席で、彼女は毒を盛られた



 水銀入りのワインを飲まされた彼女は、全身が燃えるような苦しみに喘いでいる所を兵士たちに襲われた
 魔法使いにとって、水銀はもっとも危険な毒である
 肉体へのダメージはもちろんの事、魔法を使うことが出来なくなってしまうのである

 彼女には追手がかかり、この森に追い込まれてしまった
 もはや逃げる力も残っていない

「う、うるさい、お前はあれだけの力を持っていながら、ただ山の中に隠れ住んでいるわけがない
 いずれ我々の国を乗っ取るつもりだったのだろう…!」

 男は恐怖に震えながらも、彼女に言い放った

 彼女は、どれほど国を護る為に戦っても報酬を受け取らなかった
 それは、彼女と誼を結んだ王が、彼女がこの国で暮らすことと、彼女のする事に一切関与しないことを約束したからであった
 それが、彼女がこの国を護る為の契約だったのだ

 新しく即位した王は、彼女の力を恐れていた
 もしも、彼女が自分に牙を剥けば、王位など簡単に奪われてしまうと思ったのだ



 だから、彼女に毒を盛った…



「はっ…、愚かな!。魔族と人間を同じに考えるんじゃないよ
 魔族はこの世に隠された神秘の秘法を探り当てることが使命なんだ、人間が持つような俗世な欲には興味がないんだ
 帰って王に伝えな、馬鹿なことは考えずに民の事を考えて政治をしな…とね」

 出血が止まらず、彼女の意識も朦朧としてくるなか、彼女は自分を取り囲む兵士に向かって言い放った
 …同時に、彼女は情けなくなった

 どうして自分が毒を盛られなければならないのか…
 どうして自分に追っ手がかかるのか、彼女には皆目見当もつかなかったが、それが、まさかそんな理由だったとは…

「だ、黙れ!、何をしている、射て!、矢を放て!」

 男の号令と共に、再び無数の矢が彼女を襲った
 もはや、彼女にはそれをかわすだけの力はない

 手に、足に、胸に、無数の矢が彼女に突き刺さっていく

 もはや成す術もない…

「おのれ…、愚かな人間共め…
 この私を、貴様等の如き矮小な存在と同じに思うんじゃない!
 この恨みは決して忘れぬ!、いつか必ず蘇り、貴様等を地獄へ叩き落してくれる!」

 悔しかった、心の中に相手に対する憎しみだけが渦巻き、体内を駆け巡っていく
 憎しみが怒りへと変わり、恐ろしいほどの怨念となってどす黒いオーラが彼女を覆った

「私の名を忘れるな!。私の名は魅魔!、貴様等を地獄の果てまでも追い詰め、呪い殺してやる!」

 魅魔の身体から、黒い怨念がオーラとなり天へ昇っていった
 その瞬間、空に黒雲が立ち込め、強烈な暴風が吹き荒れだした

「う、うわぁぁぁ!!!」

 兵士たちは、暴風に吹き飛ばされ、身動きが取れなくなった
 同時に、黒雲からは無数の雷が落ち、兵士たちを黒焦げにしていく

 魅魔の怨念が黒雲に宿り、次々に兵士たちを襲っていった

 兵士たちのほとんどが死に絶えた頃、黒雲は雨雲へと変わり雨を降らせた
 それは、まるで魅魔が流した涙であるかのように、とめどなく降り続けた…







「…っは!?」

 魔法の森の奥深く、ひっそりと佇む家の中で魅魔は目覚めた
 まるで人目を憚るように、魔法の森の奥深くに建てられた家の中は、古びた魔導書と魔法の実験道具で埋められている
 魅魔は、見慣れた自分の家の様子を見て、全てを飲み込んだ

「夢だったのか…」

 悪霊である自分が見る夢は、全て悪夢であるが、今日見た夢は格別だった
 あれは、過去の自分の記憶…。魅魔が悪霊となり、全ての人類へ復讐を誓う事になった出来事だった

 起き上がろうとして、魅魔は体中に、ズキズキと鋭く鈍い傷みを覚えた

「ぐう…。悪霊の私にこれほどのダメージを与えるとは、あの神主め…」

 悪霊である自分には、治癒の魔法も効果が少ない
 そもそも、すでにこの世のものではない自分にダメージを与えることなどできるわけがないのだ
 しかし、実際には、あの博麗の力に触れた魅魔は、とてつもない大ダメージを受けている

 魅魔はすでに死んでしまっている悪霊である。その状態でダメージを受けてしまうとどうなるか…
 魅魔は、この世からも、あの世からも消えてしまうのだ。ありとあらゆる、全ての世界から消えてなくなってしまうのである

 もしも、昨日、何か一つでも間違っていたなら、魅魔は消滅してしまっていたのである

「くそ、忌々しい!」

 魅魔は傷みに堪えながら立ち上がり、数種類の薬草を煎じ始める
 今は少しでも魔力を回復させ、その傷を癒すことが先決である

 身体が癒えたら、再びあの神社を襲う
 あの神主は、五体をバラバラにして地獄の釜に放り込んでくれよう

 魅魔の心に、どす黒い復讐心が沸き起こる
 …同時に、自分の過去の記憶が蘇る



 魅魔は人間に裏切られ、殺された…



 魅魔はなんども自分が救って来た人間に殺されたのだ…
 王は魅魔の力を恐れ、いずれは魅魔が自分に取って代わるのではないかと疑心暗鬼となった
 そして、自分が即位する戴冠式で、魅魔に毒を盛った

 魅魔の怨念は黒雲に宿り、自分を殺した兵士たちを全滅させた
 魅魔は悪霊として復活したが、その頃には、すでにその国は他の国に攻め滅ぼされ、王は一族郎党尽く首を討たれていた
 自分たちを護って来た魅魔を、自ら殺したその国は、魅魔を失った途端に滅ぼされたのだった

 復讐の対象を失った魅魔の心は、憎悪と憤怒と恩讐が吹き荒れ、その対象を全人類へと拡げた
 魅魔は全人類への復讐を果たすため、さらに強大な力を求めた

 ルーン文字の神秘を解き明かし、錬金術の奥義を修めたがそれでも足りなかった

 彼女はやがて幻想郷へと辿り着き、そこに隠された『博麗の力』の存在を知る
 彼女は博麗神社を襲撃し、神主にその力を差し出させた



 しかし、その力に触れた途端、彼女はその力によって大ダメージを受けた



 煎じた薬草を汁に溶かし、その汁を飲み込む
 味はいただけたものではないが、ダメージを受けた優待が癒される

「そういえば、あのガキはどうしたかね」

 ふと、魅魔は昨夜出会った少女の事を思い出す
 名前は魔理沙とか言ったか、ピーピー泣いてるかと思えば、弟子にしろと自分に向かってきたり妙な子供だった

 多少は魔法の力が使えたらしいが、所詮は人間。魔法の力を極めることなどできはしない
 ましてや、魅魔は全人類への復讐の為に力を集めているのだ
 あんな妙なガキに構ってる暇はない。だから、無理難題を押し付けて帰そうとした

「可哀相かもしれないが、自分が生まれた世界で暮らすのが一番幸せなんだ…
 下手に魔法が使えるからと、魔法の世界に関わるとロクな事がない…」

 そういって、魅魔はもう一度汁に口をつけた
 この広大な魔法の森で、たった一枚のコインを見つけ出すことなど至難の業だ
 ましてや、限られた時間の中では、探せる場所も限られてくる

 今頃は、コインを探し出せずに、家に帰っているだろうか…

 魅魔は汁を飲み干すと立ち上がった
 壁にかけてあるボロボロのローブに、指先から魔法を飛ばす
 ボロボロになっていたローブが、一瞬で新品同様に変わった

 薬草を取りに行くため、魅魔は着替え、玄関を開いた

「コイツ―――!?」

 玄関を開けるや、魅魔は驚愕した
 そこには、昨日出会った魔理沙が、軒先で蹲るように座り込み、寝こけていたからだ

「まだ帰っていなかったのか」

 なんとしつこいヤツだろうか、あれほど言ったのに分からなかったのか…
 家まで知られた以上、もはやこのままにはしておけない

 せめて、眠っている内に、何も分からないままに死なせてやろうか…



 魅魔がそう思った、その矢先―――!!



「む、これは…!?」

 魅魔は、魔理沙が手に握り締めているコインを見つけた
 それは、間違いなく、魔理沙に昨夜見せたコインである

「コイツ、本当に見つけてくるとは…」

 魔理沙が握り締めていたコインを掴み、そのコインをじっと見つめる
 そのコインに描かれている女性の横顔…、それは、かつての魅魔の顔だった
 それは、かつてあの国と誼を結んだ時、王がそれを感謝して作った物だった

 コインには、『偉大なる魔術師・魅魔に奉げる』と刻まれている
 すでにその国は滅び、貨幣としての価値はなくなってしまったが、魅魔はまだ、そのコインを持っていたのだ

「これも、『運命』というヤツなのかねぇ…。いいだろうさ、約束は約束だ
 お前にそこまでの覚悟があるのなら、稽古をつけてやろうじゃないか…
 死んだほうがマシだと思えるほどのね…
 そして、立派な魔族にしてやる…」

 そうして、魅魔は軒先で寝こける魔理沙を、自分の家に招きいれた
 こうして、魔理沙は魅魔の弟子となり、彼女の元で修行することになった









~博麗神社~






 神社の参道に朝日が差し、敷き詰められた石畳を照らしていく
 しかし、本来は静謐で穏やかなはずの神社の朝も、今日と云う日は騒然としていた
 無理もない。この幻想郷で唯一の神社である博麗神社が何者かに襲われ、神主も大怪我を負ったのだ
 鳥居も狛犬も、石灯籠も周囲を囲む木々も、あちこちが破壊され、無残な姿を衆目に晒している

 その中でも、最も惨い姿をしているのは、他ならぬ神主自身であった
 身体の半分以上に包帯が捲かれ、四肢のほとんどが自分で動かせぬありさまであった

「まったく、酷いことをするのう。異国から来た物の怪であろうが、この結界で護られた博麗神社をここまで破壊するとは…」

 人間の里の村長が、戸板に乗せられた神主に向かって言った
 この博麗神社を護る結界は、妖怪の賢者が工夫を凝らして張ったもの
 物理的な攻撃には勿論、簡単に綻ばぬ様に複雑な術を使って幾重にも張り巡らされているのだ

 その結界を破った上、神社も神主もこれ以上にないほど破壊されている
 神主など、生きているのが不思議なくらいだ。彼が死んでしまえば、幻想郷は消滅してしまうというのに…

「あの者は、実に恐るべき力を持っていた。撃退できたのも偶然に過ぎん
 やつは力を回復すれば、再びここを襲うだろう
 もはや、この身体では、この博麗神社を護りきることはできん…」

 神主は力なく言った。魅魔の攻撃を受け、神主はほぼ全身が付随となってしまった
 魅魔と戦うことはおろか、日常生活もままならぬ身体になってしまっている

「時間はない。早急に新しい巫女を探し出さねばならん…
 それも、並みの巫女ではダメだ。博麗の力を駆使し、あの者が再び襲来した時にそれを撃退できるものでなければ…」

「うむ…」

 神主の言葉に、村長も頷いた
 一旦は魅魔を撃退したものの、魅魔は消滅したわけではない
 力を取り戻せば、再びこの神社を狙うであろう

 もはや、今の神主は戦えぬ。当たらし巫女が、それも、魅魔を撃退するだけの力を持つ巫女が必要だった

「霊夢しか…おりますまい…」

 神主が小さな声で言った
 村長は、聞こえているのか聞こえていないのか、なんの反応もない

「博麗の巫女は、代々、村の娘の中から神託で選ばれる
 だが、霊夢は龍神様が直々に遣わした娘。その力は歴代の巫女とは比較にならぬ…
 あの者と互角に戦えるだけの素質を持つものは、霊夢しかおらぬ」

 神主が言った。村長はまだ黙っている

 あれは今から十数年前、梅雨の終わりを告げる落雷が博麗神社に落ちた
 幸い、火災も起きず、死傷者もでなかったが、その時、神社の賽銭箱の前に一人の女の赤ン坊が見つかった

 その娘は、霊夢と名づけられ、龍神が遣わした子として育てられた
 彼女には生まれつき霊的な力が宿っていたらしく、その力は幼くして博麗神主をも凌ぐものだった

「いま幻想郷は、彼の者によって破滅を迎えつつある。この危機を乗り切れるのは、霊夢をおいて他にありますまい」

 神主がそこまで喋ると、ようやく村長は口を開いた

「しかし、霊夢はまだ十二歳だ。そのような幼い子供に、幻想郷の命運を託して戦わせねばならぬのか」

 村長が言った。博麗の巫女になるのは、数えで十六歳を迎えた少女からである
 どれほど霊夢が素晴らしい力を持っていたからといって、それはあまりに酷ではないか…

「確かに…。しかし、博麗の巫女は、幻想郷を護るのが務め…
 年が幼いからといって、その運命からは逃げられぬ
 霊夢が真実、龍神様が遣わした運命の子なら、霊夢は初めから戦う運命を背負っているのです」

 神主の言葉を聞いて、村長は沈痛な面持ちになる
 両親が居ない霊夢は、人間の里のみんなで育ててきた
 村長にとっても、実の娘のようなものなのだ

 あの恐ろしい悪霊と、愛する霊夢を戦わせねばならぬ事に、村長は心が引き千切られる思いだった

「恐ろしいのは、他の誰も同じです。霊夢があの者を倒さぬ限り、我々は滅びてしまうのです
 他の誰が巫女になったとしても、彼の者と戦わねばならぬのは同じはず
 今は霊夢に早急に巫女としての作法を伝授し、彼の者に備えなければならぬのです」

「うむ、そうだな…」

 神主の言葉に、村長は少し励まされた
 霊夢だけに、運命を背負わせているわけではない。霊夢が魅魔に敗れたなら、自分たちも破滅を迎えるのだ

「分かった、霊夢にはわしから伝えよう。それから博麗神社の復旧も急がねばならぬ
 そうじゃ、神社の修繕の差配は霧雨道具店に任せよう。あの道具屋は大工や左官とも通じておるゆえ、仕事も早かろう」

 そうして、神主と村長は今度の段取りの打ち合わせを話し合った
 まずは霊夢を新しい博麗の巫女として迎える事、霊夢に博麗の姓を与える事
 霊夢はまだ幼いゆえ、博麗のしきたりや作法を学ばせねばならない
 普通は、一年以上かけて伝授されるものだが、いつ魅魔が襲ってくるとも分からない

 それは、できるだけ急ぐ必要があった

 それは、博麗神社の復旧も同じである
 村長は、人間の里きっての大店である霧雨道具店にそれを依頼することにした
 それは、魔理沙が父と喧嘩して飛び出した実家でもあった…









~魔法の森・魅魔の家~







「それでガードしているつもりかい!。私はあんたを殺したくてウズウズしてるんだよ!」

 ローブを脱ぎ、足を生やした魅魔がその拳を繰り出す
 その速さ、重さは悪霊といえど強い!
 魔理沙は必死でブロックしているものの、人間の子供である魔理沙にはとても防ぎきれない

 とても受けきれなくなった魔理沙が、反撃の正拳を魅魔に放つ!
 しかし、その拳は甲斐もなく、魅魔に簡単に防がれる

「もっとパワーを集中させな、一瞬でも気を抜くとあの世行きだよ!」

「―――!?」

 魅魔の深く、思いパンチが魔理沙の腹部を捉えた
 魔理沙の呼吸が一瞬止まり、魔理沙はその場に蹲る

「どうした、まだまだ地獄の修行はこんなもんじゃないよ」

 蹲る魔理沙に、魅魔が近づく
 蹲っていた魔理沙の目が、魅魔を捉えた

「食らえ―――!!」

 魅魔が自分の間合いに入ったと思うや、魔理沙は一気に飛びあがり、渾身の不意打ちの飛び蹴りを放った
 魔理沙の蹴りが、魅魔を捉えた―――

「―――!?。え!?」

 …と思った瞬間、魅魔の身体は魔理沙の視界から消え失せた

「後ろだ」

 不意に、着地した魔理沙は後ろから蹴られ、倒れこんだ

「何度も言わせるんじゃないよ、眼で私の動きを捉えようとするんじゃない
 全身の感覚を研ぎ澄ませ、ほんの小さな空気の流れや気配を捕らえるんだ」

 魔理沙を見下しながら、魅魔が言った
 魅魔は約束通り、魔理沙に稽古をつけていた
 文字通り、血の滲む様な特訓である

「そんな事言ったってさ、言われてすぐに出来るわけないよ
 こんなことより、早く魔法を教えてくれよ」

 服についた土を払いながら、魔理沙が言った
 その瞬間、魅魔の目が光り、放たれた光線が魔理沙の足元の地面を抉った

「うひゃあ!!」

「ヒヨっ子が、そんな未熟な身体で私の高度な魔法を習得できると思ってるのかい!
 口答えするヒマがあったら、どうすればいいか考えてみな!」

 自分の足元に開いた穴を見て、魔理沙が震える
 魅魔の力は、まだダメージが癒えていないとはいえ強大であった

「言っとくが、逃げ出したきゃいつでも逃げていんだよ
 ただし、ここにいる限りは私に従ってもらう
 これからは食事と睡眠の時間を除いて、すべて私との特訓だ
 少なくとも、あんたが私に一撃を入れられるようになるまではな」

 魅魔の冷たい、冷酷な眼が魔理沙を見下す
 魔理沙は体温が2~3℃下がった気がした

「恨みたきゃ、自分の運命を恨みな、この私のように…」

 そういうと、再び魅魔は魔理沙に拳を繰り出した





「あ~あ、魅魔様、厳しすぎるぜ」

 二人の様子を、物陰から見ていた魔理沙が言った
 結局、何がなんだか分からなかったが、魔理沙は二人を見守ることにした
 この頃は、まだ魔法の森に魔理沙の家も、アリスの家もない
 人間の里にも頼る者がいないし、どこに厄介になることもできなかった

 しかし、それ以上に、魔理沙にとっては二人の様子が気になっていた
 過去の自分と、過去の魅魔…

 まるで、自分の姿を撮ったテープを見ているような、そんな気分である
 少し気恥ずかしい気もするし、懐かしくもある

 自分がどうして過去に飛ばされたのか、それはさっぱり分からないことである

 だが、それよりも、魔理沙にとっては、今目の前にいる二人の事が気にかかってしょうがなかった



「バカタレが!、何度も言わせるんじゃないよ!
 力任せに魔法を使っても、魔法の威力は上がらない。自分の心を、魂を燃やすんだ!」



 目の前では、魅魔が魔理沙を打ちのめしながら稽古をつけている
 魅魔の修行は、手取り足取り、丁寧に教えるような物ではなかった
 全てが実戦形式だった。実際に魅魔の魔法を受けて、魔理沙はそこから魅魔の魔法を習得していった

「あの頃の魅魔様は、本当に鬼のように厳しかったな…」

 魔理沙の目の前で、過去の魔理沙は盛大に吹き飛ばされていく
 魅魔は徹底したスパルタ方式だった。甘やかすと言うことをしなかった
 その上、礼儀作法や魔法のマナーにも五月蝿かった

「しようがない子だね!、食事をする前にはキチンと手を洗いな!」

 目の前に出された食事にガッつこうとした魔理沙に、魅魔の熱い教育的指導が入った
 魔理沙は渋々と手を洗いに行く…

「でも…、今からこうして見ると…」

 手を洗った後も、箸の持ち方から醤油のかけ方まで、魅魔は事細かく魔理沙に指導した
 指導のたびに、魔理沙に傷が増えていく…

「まるでお母さんみたいだ…」

 ふと、魔理沙の口から漏れた
 目の前で繰り広げられるのは、自分自身の過去の姿だ
 魔理沙の母親は、すでに死んでしまっている
 顔など、ほとんど覚えてもいない

 魔界にいる母親と話すアリスの姿を見て、羨ましく思ったこともある
 魔理沙は、その母の姿を魅魔の中に見ていた…

「まったくだねえ」

「―――!?」

 不意に、魔理沙は背後から声を掛けられた
 完全に虚を突かれる形で、魔理沙は身体が硬直しそうになった
 無理やりに身体を捻じ曲げ、背後を振り返った

「み、み…魅魔様!」

 魔理沙は、一瞬にして世界がグラついたかのように感じた
 緑の長い髪、三角の被り物、異国の呪い師のようないでたち…
 切れ長の眼で魔理沙を見据える…

 背後に立っていたのは、まごうことなき、魔理沙の師匠、魅魔である

「おやおや、数年ぶりの再会だというのに、随分とつれないじゃないか」

 驚いた魔理沙の顔に、ニヤニヤと笑いながら、魅魔は言った
 完全に魔理沙を驚かせて愉しんでいる。そんな事をするのは、世界でたった一人、魅魔しかいない

「み、魅魔様、どうしてここへ…」

 魔理沙は完全に混乱している
 魔理沙がさっきまで覗いていた場所では、未だに魅魔が魔理沙に教育的指導をしている

 つまり、今目の前にいる魅魔は、さっきまで見ていた魅魔とは別人であり、この魅魔こそ、魔理沙の知っている魅魔で…
 魔理沙の脳内で、魅魔の文字がグルグルと回り始める

「ふふふ、痩せても枯れても、私はあんたの師匠だからね
 あんたが幻想郷からいなくなれば、すぐに気付くさ…
 色々とあちこちを探していたが、まさか過去の世界に行っていたとはね」

 魅魔は、霊夢と魔理沙と幽香とで魔界へ行った後、放浪の旅へ出てしまった
 魅魔と会うのは、それ以来だが、魅魔は別の世界にいながらも、魔理沙の事を気にかけていたのだ

 魔理沙を探している内に、魅魔は時空のひずみを見つけた
 それこそ、この時代につながっている時空のひずみだった
 そうして、魅魔は魔理沙を見つけたのだ

「むぅ~、その口ぶりからして、もっと早くから私を見つけてたんだろう」

 ようやく事態を飲み込めた魔理沙は、魅魔を問い質す

「人聞きが悪いねえ、自分の過去の姿を見ておセンチになってる魔理沙ちゃんを見てると、つい可愛くなってねえ
 つい一部始終を覗いちまっただけさ」

 魅魔は悪びれもせずに言った
 魔理沙が、過去の自分を見つけた時から、魅魔は魔理沙を見つけていた
 それをずっと物陰から覗いていたのだ

「我が師匠ながら人が悪いぜ。気付いたなら、もっと早く教えてくれればよかったんだ」

 魔理沙が口をへの字に曲げて抗議する
 魅魔の悪戯好きは今に始まったことではないが、さっきまで目の前で地獄の指導をしていた人物と同一人物とは思えない

「ふふふ、本当はもっと見ていたかったんだがね、どうやらそうもいかなくなった
 あんたを探しに、黒髪のお嬢ちゃんと貧乳のお嬢ちゃんが来ていたが、二人の記憶を探った
 どうやら、時間の流れに異変が起きちまうと、あんたは元の時間に戻れなくなっちまうらしいからね」

 魅魔が言った
 魅魔にとっては初対面だが、魅魔は輝夜と妹紅の存在にも気付いていた
 魅魔は二人の記憶をさぐり、今回の異変とその解決方法を知った

 もしも、昨夜、魔理沙が過去の自分の姿を見て、人間の里に戻るように諭していたら…
 時間の流れに異変が生まれ、魔理沙は元の時代に戻れなくなっていたのだ

「そういう訳で、さっさとあんたを元の時間に戻させてもらうよ
 このままだと、面倒なことになりそうだからね」

 そういうと、魅魔の指先が光り出した
 魅魔が、時空間移動の魔法を掛けようとしている

「ま、待ってくれよ!。もう少しくらいいいだろ!」

 魔理沙は、そういって魅魔の魔法を止める
 魔理沙はもう少し見ていたかった。自分自身の過去の姿を

「馬鹿なことをいうんじゃないよ。さっき説明しただろ、これはお前の過去の姿さ
 このまま自分の過去を見ていたら、お前は自分の過去をきっと変えようとする
 一生、時空の迷子になって過ごすつもりかい?」

 魅魔の目が、急に真剣な物に変わった
 その表情に、魔理沙は一瞬たじろいだ

「私はそんなことはしない!。いいだろ、ほんの少しだけだよ!」

 それでも、魔理沙は引き下がらなかった
 今の魅魔の表情には、怨念の塊だった頃と同じような恐ろしさを感じる
 だが、それでも、魔理沙は見てみたかった

 自分自身の過去の姿を…

「何を言っているんだい。これ以上見ていたら、あんたは必ず時間の流れに干渉するに決まっている
 自分自身だって分かってるんだろ。これから先、何が起こるのか」

「え…!?」

 魅魔の言葉に、魔理沙は心臓を射抜かれたような気がした

「そ、それはどういうことだよ!」

 食って掛かるように、魔理沙は魅魔に問い詰めた
 魔理沙には、変えたい過去などない。人間の里を棄て、魔法使いになったことも、父と音信不通になった事も
 なにもかも、自分自身で納得して決めたことだ

 せいぜい、魅魔の元に居た頃にしたおねしょの記憶を消したいくらいだ

「ふざけてるのかい?。まさか忘れちまった訳じゃないだろう
 この後、あんたに何が起こるか…」

 魅魔の目が、ますます冷酷に光る
 いつもの魅魔には見られない、真剣な表情…

「なんだよ、私に何が起こるっていうんだ!。さっぱり分からねえよ!」

 それでも、魔理沙は魅魔に抗った
 魔理沙は嘘つきだが、嘘をついていると自覚はしていない
 魔理沙は少なくとも、自分が本当だと思っていることを喋っているだけだ

 魔理沙がそういった瞬間、魅魔は魔理沙の頭に手を当てた
 初めて会った時にそうされたように、魅魔の手はひんやりとして冷たい

 魅魔は魔理沙の記憶を探っていく…

「なんとまあ、驚いたね…。自分自身の忌まわしい過去を、自分自身の記憶の中に封印しちまってるのかい!」

 魔理沙の頭から手を離し、魅魔は驚愕の声を挙げた
 魔理沙は、この後起こる出来事を、忌まわしい記憶として抹消してしまっているのだ
 記憶の奥深く、深層心理の奥の奥まで、その記憶は固く閉ざされていた

「どういうことだよ、私の封印された記憶って!」

 魔理沙はいきり立った
 魅魔と云う人は、いつもこうだ
 自分だけが分かったようなことを言って、肝心なことは教えてくれない

「まあいいさ、知っても意味のないことだよ
 ともかく、これ以上、この時代に居ることはない
 元の時代に帰るよ」

 そういうと、魅魔はパチンと指を鳴らした
 その瞬間、景色が一変し、空間が歪みだした

 空の青も、森の緑も、雲の白も、なにもかもが綯い交ぜとなり、混沌とした空間に変わっていく…










「さあ!。捕まえたぞ!」

 そういうと、妹紅はルナを両脇から抱え込むようにして捕まえた
 三人と二人は、一晩中、捕まえては逃げ、逃げては捕まりを繰り返した

「キャー離して!」

 ルナはジタバタと暴れるが、妹紅の力は強い、そう簡単に外れるものではない

「ふふふ、手こずらせてくれちゃって、さあ、大人しく永琳の居所を話なさい」

 輝夜は真っ赤に充血した大きな瞳を見開き、ルナに迫った
 とてもお姫様には見えない。異常者か狂犬のような眼だ

「だから、そんな人知らないってば!」

 ルナが大声を張り上げながら言うが、輝夜は受け付けない

「ふふふ、誤魔化そうったってそうは行かないわよ。あんたを剥製にして里の好事家に売ってもいいのよ」

「ヒィー!。助けて~!!」

 異常者の目をした輝夜が、舌なめずりをしながらルナを見定める
 金髪の巻髪に、人間の幼女のような体型

 高く買ってくれる好事家は多いだろう

 輝夜の魔の手が、ルナに伸びる

「なんだ―――!?」

 突如、妹紅が声を挙げた
 その瞬間、空間が歪みだした。眼に映る全てが形を失っていく
 同時に、空を飛んでいる二人の身体が激しく震えだす

 この感覚には覚えがあった

 次の瞬間には、二人は大きな光りに吸い込まれていった











~時の最果て~







「わきゃん!!」

 何もない空間から、輝夜と妹紅が落っこちてきた
 同時に、光りの輪のような物が出来、魔理沙と魅魔が姿を現した

 魅魔の魔法で、四人とも元の時の最果てに戻ってきたのだ

 パチュリーがあれほど苦労して成功させた時空間移動魔法を、魅魔は指先一つ鳴らすだけでやってしまった
 これが、幻想郷最強の魔法使いの力なのか…

「あ、あなたは!」

 突如、姿を現した二人に、優曇華と慧音は驚きの視線を送った
 輝夜と妹紅はともかく、二人のうち一人はよく見知っている魔理沙

 そして、もう一人は…

「よう、ハクタクの先生」

 魅魔は慧音を見るなり、その正体を言い当ててしまった
 少なくとも、二人は初対面なはずである

「お初にお眼に掛かる。魅魔殿とお見受けしますが…」

 慧音も、魅魔の正体を当ててしまった
 少なくとも、輝夜が永夜異変が起した時、魅魔はすでに放浪の旅に出ていたはずである

「ははは、私も有名になったもんだね」

 魅魔は照れくさそうに笑った

「幻想郷で魔法の知識のある者なら、貴方を知らぬ者はいないでしょう
 幻想郷随一の魔法の使い手、まさかこのような場所で…」

 慧音はひとしきり感激しているようだった
 魔理沙は知らなかったが、幻想郷では魅魔は最高の魔法使いとして尊敬を集めていた
 魔理沙にとっては、意地悪で口の悪い師匠でも、幻想郷においては、並ぶべき物のない魔法使いといわれ敬愛されているのだ

「今回はウチの馬鹿弟子が迷惑を掛けたね、すまなかったよ」

 そういうと、魅魔は魔理沙の頭を無理やり下げさせた

「とんでもない。迷惑を掛けたのは、輝夜と妹紅の方だ…」

 慧音は二人をそっちのけで魅魔と話し始めた

「離してくれよ、魅魔様!」

 魅魔に頭を抑え付けられていた魔理沙が、魅魔の手を払いのけた

「どういうことなんだ、説明しろ!。私の封印された過去の記憶ってのはなんだ!」

 魔理沙が魅魔への怒りを剥きだしに吼える
 だが、その怒りは簡単に魅魔にすかされる

「何度も言っているだろう。お前が知っても意味がないことさ
 自分が無自覚の内に封印しちまった記憶なんて、思い出さないほうが善いことなんだ
 それがあんたの為なんだよ」

 まるで親が子に言い聞かせるように、魅魔は魔理沙に言った

「ふざけるなよ!。私の為かどうかなんて私が決めるぜ!
 私を戻せ、もう一度あの時代に送ってくれ!」

 魔理沙は駄々っ子のように喚くが、魅魔はまったく取り合おうとはしなかった
 一体、魔理沙の封印された記憶とはなんなのか…?

「まったく、思い込んだら一直線なのは変わらないね
 根が単純と云うか、とにかく、今のあんたには必要のない物さ
 私はもう帰るよ、旅の途中だったからね…
 じゃあな、ハクタクの先生。今度幻想郷に戻ったら、一杯やろう」

「あ!、待ちやがれ!」

 魔理沙が最後まで言い切らぬ内に、魅魔の身体が希薄になり空間に溶ける様に消えていった

「くそ~、相変わらず勝手だぜ」

 魔理沙は拳を握りしめて悔しがる

「イタタ…、どうなってるんだ…」

 腰を強打し、痛みを堪えながら輝夜と妹紅が立ち上がった

「ここは、永遠亭なのか…?」

 周囲を見渡しながら、妹紅が言った
 ルナを捕まえた時に感じたあの感覚は、やはり時間のズレが解消された時に感じた感覚だったらしい

「魔理沙、あんたどうしてここへ…」

 魔理沙の姿を見つけた輝夜が、思わず声を挙げた
 魔理沙は虚空を見つめながら、悔しそうに拳を握っている

「気付いたか、二人とも…」

 立ち上がった二人に、慧音が駆け寄った
 慧音は、二人が戻った経緯を話した

 二人が向かった時代が、魔理沙の過去の時代であったこと…
 魅魔によって助けられたこと…

「魅魔…、あの悪霊の魔術師が…」

「まったく別の場所に居た私たちまで一緒に時空間移動させるなんて、噂以上の力の持ち主ね」

 輝夜と妹紅が顔を見合わせる
 魅魔が魔理沙に接触した時、二人はまだ三妖精を追いかけていたのだ

 これほど高度な魔法を、指先一つで成功させる魅魔の力とは…

「輝夜!、これはどういうことなんだ!」

 魔理沙がいきり立ちながら、三人に近寄ってきた

「あの白い光りはなんだったんだ!、私はどうして過去の時代に行けた!
 答えろ!」

 魔理沙も、あの日の例月祭に参加していたのだ
 そして、白い光りを目撃している

「落ち着け、魔理沙。私から説明してやろう」

 そう言ったのは慧音だった

 慧音は話した。あの例月祭の夜に現れた白い光からの攻撃により、あの場にいた全員が違う時代に飛ばされた事
 霊夢と永琳がまだ見つかっていないこと、事細かに説明した

「なんだと、じゃあ霊夢もまた違う時代に飛ばされているっていうのか!」

 慧音の言葉に、魔理沙は衝撃を受けた
 別の時代に飛ばされたのは、自分だけじゃなかった

 あの日、あの場にいた全員が違う時代に飛ばされていたのだ

「くそ…、なんなんだよ、あの白い光りはよ!」

 魔理沙は黒いとんがり帽子を地面に叩きつけた

「くそ、私は行くぜ!」

 そういうと、魔理沙は駆け出した
 自分の過去の世界に繋がった時の光へまっすぐ駆け寄る

「馬鹿、やめなさい!」

「その時の光りは、穢れのある地上の人間は通ることができない
 その時の光りを通れるのは、私たちだけだ」

 輝夜と妹紅が、時の光に飛び込もうとした魔理沙を止めた
 魔理沙は時の光を通ることはできない。もしも、このまま飛び込んだら、永遠に時空の迷子になってしまう

「じゃあ、お前達が見てきてくれよ、私の過去を…!」

 魔理沙が叫ぶ。魔理沙はどうしても知りたかった
 自分自身の、封印された過去を…

「馬鹿な事を言わないで、まだ永琳も霊夢も別の時代に飛ばされたままなのよ
 そんな事をしているヒマはないわ」

 輝夜が至極尤もな意見を言った
 いまだ、霊夢も永琳も見つかっていないのだ、ここで余計な道草を食っているわけにはいかない

 二人は、すぐにでも次の時代に飛ばなければならないのだ

「まあまて、落ち着け魔理沙。そんなに自分の過去が見たいのなら、方法はある」

「―――!?。ほんとうか慧音!」

 慧音の言葉に、一同が驚き、慧音を見た

「なぁに、簡単なことだ…



『蓬莱の薬』を飲めばいいんだ―――」



「―――!?」

 一同が、一瞬呼吸をするもの忘れたように身体を硬直させた

 輝夜も妹紅も、『蓬莱の薬』を飲んだから時の光を通ることができるのだ
 妹紅も、元は地上の人間である
 魔理沙も地上の人間である以上、『蓬莱の薬』を飲んだなら、確かに時の光を通ることができる

「イヤ、それは無理よ」

 正気に戻った輝夜が言った

「『蓬莱の薬』を作れるのは、永琳だけよ。私と永琳が飲んだ物以外は、永琳が地上に降りてきた時に帝とお爺様に渡した…
 帝に渡した物は、このえぐれ乳娘が飲んじゃったし、お爺様は飲まずに死んでしまった…
 もう、この世に『蓬莱の薬』は残っていないわ。永琳が新しく作ってしまわない限りは…」

「誰がえぐれ乳娘だ」

 さりげなく妹紅の貧乳をアピールした輝夜の喉を、妹紅は万力で締め上げた

「私は本当の事を申し上げたまで…」

 輝夜の言葉に、さらに妹紅は締める力を上げる

「と、とにかく、もうこの世に『蓬莱の薬』は存在しないわ…
 私はあんたの過去になんか興味はないし、魅魔が言った通り、諦めることね」

 ようやく妹紅から開放された輝夜が言った

「………」

 二人のやりとりを見ながら、てゐは何が言いたげであった
 しかし、結局何も言わないまま、黙って成り行きを見守った

「聞いた通りだ、魔理沙。気持ちは分かるが、今はそれよりも優先しなければ成らないことがある
 それに、『蓬莱の薬』を飲むことだって、本当はあまり奨めたくはないんだ
 妹紅のようなすれっからしになってしまうからな」

 慧音が魔理沙の肩に手をやった
 魔理沙の肩が震えているのが分かる。よほど悔しいのだろう

 魔理沙のようなタイプにとって、自分に封印してしまわなければならないような過去があるということは悔しいだろう
 いや、それを自分の中で忘れようと隠してしまっていることに対して、魔理沙は腹を立てているのだ

「わかってくれるか?。時間の流れが正常に戻っている。もう、この時の最果てから魔法の森へは通行ができるようになっているはずだ
 自分の家に戻れ、そして、ゆっくりと休むんだ」

 魔理沙は、うんとも、へいとも言わなかった
 地面に叩きつけていた黒いとんがり帽子の土を払い、それを被ると黙って魔法の森へ向かって行った

「………」

 その寂しそうな後姿を見ながら、てゐは黙って魔理沙を見送っていた…
引越ししてたので一月ぶり以上の投稿です

今回は、あまりてるもこは活躍しません。魔理沙中心で話が進んでいきます
魔理沙の封印された過去とは?、魔理沙を見るめるてゐの真意とは?

いま繁忙期なので、あまり更新できないと思うけど、またよろしくね

東方以外のパロディ・オマージュがあります
文章構成は作者独自のものです
このリンクから第三章・中編に飛べます
ダイ
http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1295717738&log=136
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.460簡易評価
9.100名前が無い程度の能力削除
序章読んでないし読むつもりもないから話全く分からないけど
魅魔と魔理沙のエピソードが良い
こういうのはテンプレのはずなんだが、妙に新鮮なのは
多分、誰も魅魔を書かないからだろうねぇ