「みんな元気かな? こあらじの時間ですよー!!」
少女の言葉に上がる歓声。静かだった室内は一気に騒がしくなり、少女は楽しげにウンウンと頷いている。
場所は紅魔館地下のとある一室、そこにはテーブルに三人の少女が座っていた。
「はーい、皆さんこんにちわ! 新たに始まりました幻想郷先取りラジオ、『こあらじ』。
この番組はメインパーソナリティーの小悪魔と、同じくアリス・マーガトロイド、メインツッコミのフランドール・スカーレットの三名でお送りしたいと思いマーッス!!」
「そんなわけで、アリス・マーガトロイドよ。よろしく」
「フランドールよ、みんなよろしくね! ……え、あれ、ツッコミ?」
なんか引っかかる言葉でもあったのか、ギリギリと首を軋ませて小悪魔に視線を向けるフラン。
だがしかし、ラジオ番組は生放送。時間が決まっているからにはテキパキと進まないと間に合わなねぇのである。
それでも、フランの言葉に反応した小悪魔は、ある意味で人がいいのかもしれない。
……存在そのものがトラブルの塊と言う事実に、目を瞑ればの話だが。
「ふふふ、私なりに妹様を的確に表現できたと思うんですがいかがですか!?」
「いや、そんな自信満々に言われても……。いや、まぁいいけどさ」
そんなふうに適当に流しつつ、読み上げるための手紙をがさごそと箱の中から漁るフラン。
なんだかんだで、小悪魔との付き合いも長い彼女である。適当な場所で納得した方が面倒がないという事をよくご存知なのだ。
「それじゃ、早速お便りを読むよ。こあらじネーム『スキマdeパワー』さんからのお便り。
『こあらじ、放送開始おめでとうございます。最近悩んでいることがあるのですが、実はお店のゲーム紹介用のチラシを見てとあるキャラに一目惚れしてゲームを予約しました。
ところが、調べてみるとそのキャラが敵キャラだという事が発覚したのです。
仲間キャラと同じところで紹介されていたものですからてっきり仲間になると思っていたのに、今から先行きが不安です。どうしたらよろしいでしょう?』……だってさ。
……ていうか、これどう考えても外の話題なんだけど。なんなのさ、この個人特定できそうなネーミング」
「さすがフラン、流れるようにツッコミ挟んだわね。でもま、それはあなたの調査不足が悪いんじゃない、八雲紫」
「実名サラッと流したよコイツ!!?」
うぉぉぉい!!? とばかりにガバッとアリスに振り向きつつツッコミ入れるフラン。
その瞬間、その場にいたスタッフ全員が小悪魔の言わんとする『メインツッコミ』という言葉の意味を理解した気がした。
「ま、そんな些細なことはさて置いて」
「置くなよ!? 些細でもないし!!? プライバシーぐらい守って!!?」
「小悪魔、この場合あなたならどんな助言をするかしら?」
ものの見事なスルーだった。その代償は頬っぺたを思いっきり吸血鬼の力で抓られるという悪夢の如き所業だったが。
「千切れる!? 千切れちゃうのぉ!!?」などと人形遣いの悲鳴が聞こえる中、話をふられた小悪魔は穏やかな、慈愛の満ちた笑みを浮かべ。
「同士ッ!」
『お前もかよッ!!?』
二人そろっての綺麗なツッコミが飛んでくるのだった。
そんなツッコミにも負けずめげない我等が小悪魔。先ほどのツッコミなど聞こえなかったかのようにグッと手を握り締めていらっしゃる。
「わかります、わかりますよ紫さん! あんな仲間キャラと同じように紹介されてたら仲間になると思いますもんね!!? 思っちゃうよね!!?
まさか敵だなんて思いませんよ! 店先で衝動的に予約しちゃったけどまさかの事態ですよコンチクショー!!
最初は敵だけどなんだかんだで仲間になるフラグですよね!? そうだよね!!? そうだと言ってよミス○ラル様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「……おーい、小悪魔ー、もしもーし」
ふにゅおぉぉぉぉぉ!! とかなんとかブリッジする勢いで背中を仰け反らせる小悪魔に、なんか異様なものを感じたのかドン引きしながらも声をかけるフラン。
しかしやしかし、どうにも聞こえてないっぽいんで、フランは盛大なため息をつくと彼女の存在を無視することにして次の手紙を取り出すのだった。
「こあらじネーム『静まれ、静まれ私の右腕!』さんからのお便りです。……てか、誰よコレ」
「多くの青少年のトラウマ一直線なネーミングね」
「……ねぇ、アリス。何で私見ながら言うの? え、つまりそういうこと? ……殺すよ?」
ジト目で睨みつけてみるものの、アリスはクスクスと苦笑するのみ。
「冗談よ」なんて手のひらをひらひらさせて、彼女なりのからかいだった事を理解したフランは「まったく」とため息をつきつつ、手紙を読み上げ始めた。
「えっと、『うにゅ……らじお番組おめでとうございます。私は元気にうにゅうにゅしてます。フランさんも小悪魔さんもアリスさんもうにゅうにゅしてらっしゃるでしょうか。
私どももうにゅしてうにゅしてうにゅうにゅな日々でとっても幸せです。
これからも私達もあなた達もうにゅうにゅな日々を送れるといいなと、私は思いました。1年3組れいうじうつ―――』……って、最後に実名書くなよ!!? 危うく言いそうになったじゃないの!!?
つーか何これ作文!!? 小学生の作文なのコレ!!? つーか『うにゅうにゅ』言い過ぎててワケわかんないし!? 私の中で『うにゅ』がゲシュタルト崩壊起こすでしょうが!!?」
「うん、やっぱりあなたはメインパーソナリティーって言うよりは小悪魔の言うとおりメインツッコミだわ」
「違いますぅー! コレはツッコミじゃありませーん! 思ったことをそのまま口にしてるだけですぅー!」
そのまま反論しながら次のはがきを取り出すフランドール。
一方のアリスはそんな彼女の反論に微笑ましそうな笑みを浮かべて「はいはい」と嗜めている。
むーっと頬を膨らませたフランだったが、よしよしと頭を撫でられて「しょうがないなァ」と渋々ながら納得するのだった。
頬がなんとなく赤かったが、それを指摘しなかったのはアリスなりの優しさだろう。
……ちなみに、小悪魔はいつの間にか現われていた八雲紫と件のゲーム談義に移行していたりする。仕事しろ、メインパーソナリティー。
「次のお便りはこあらじネーム『静まれ、静まれサードゥアイッ!!』さんからです。……ねぇ、これはツッコミどころ?」
「さぁ? さっきの人と案外近しい人物なのかもね」
「いや近しいって言うか、なんというか……つーか、こいつら正体隠すきあんのかなぁ」
げんなりとして呟くフランの気持ちも、まぁわからなくはないだろう。
どいつもコイツも自己主張の激しいネーム使いやがってからに、などと心の中で愚痴りつつ、それでも読み上げるフランはなんだかんだで律儀な女の子なのである。
「『こんにちわ、ラジオ番組放送開始おめでとうございます。実は皆さんに相談があるのですが、最近、妹が何を考えているのかわからないのです。
この間も私の姿を見つけた途端『姉さん! 姉さんじゃないかぁぁぁ!! アハハハハハハハハ奇遇だねぇ姉さん!! 今日こそ私と殺しあおうよ! 姉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!』などといって迫ってきます。
初日はその勢いのままにベットイーンされてしまったのですが、もはやワケがわかりません。どうすればいいのでしょうか?』……って、知らんがな!!」
スパァァンっといい音を響かせて、はがきがテーブルに叩きつけられた。
はたしてその威力はいかなものか、テーブルにひびが入るその威力、押して知るべしといったところか。
「もういい、次のコーナー行こう、次のコーナー!!」
「そうね、尺も限られてるし、急ぎましょうか」
「だから、獣耳キャラなら断然ロー○さんですって紫さん!」
「いいえ、獣耳キャラならシャ○メイ一択に決まってるじゃない!」
「小悪魔いい加減戻ってきて!!? あと八雲さんちの紫さんは帰ってくださいお願いします!」
【罵って! フランちゃーん!!】
「はい、罵ってフランのコーナーよ。このコーナーでは、皆さんの失敗談や経験を聞いて、フランドールが罵ってくれるというものね」
「いや、罵るって……つか需要あるの、このコーナー?」
「ふふふ、世の中を甘く見てはいけませんよ妹様。何しろこのコーナーは一番人気でして、ほら、お便りもこんなに!」
「……世の中ドMばっかりか!!? 絶望した!!? 世のマゾ率の高さに絶望した!!?」
世の不条理にフランが頭を抱えてテーブルに突っ伏すが、そこをフォローするのは付き合いの長い小悪魔である。
「まぁまぁ」などと言葉を零しながら背中をさすりつつ、即興で傍にあった紅茶のダージリンを用意する辺り、何かと気を使うのは彼女らしいのかもしれない。
「そろそろはがき紹介したいんだけど、いいかしら?」
「……うん、オーケー。心の準備は出来た。あとでこの企画を思いついた人ぶっ飛ばしに行くから」
「え、思いついたのお嬢様なんですけど……」
「あんにゃろうっ!!?」
まさかの人物発案の企画にフランが怒りを燃やしている最中、アリスは呆れたようにため息をつきつつ「なんだかねぇ」などと言葉を零してはがきを読み上げ始めた。
「こあらじネーム『妹のハートに運命両断剣! LOVE!!』さんからです」
「お姉さまでしょそれ絶対!!?」
「『フランドールへ、最近私が失敗してしまったことがあるのです。
それは、妹が大事に大事にとっていた風見屋特性プリンを食べてしまったのです。どうか、私を罵りなさい我が妹よ!!』」
「お嬢様、もはや後半は隠す気も無くなってますね、コレ」
「へぇー、そっかぁー。あれ、お姉さまが食べちゃったんだぁ。ふぅーん」
ゾワリと、その場にいた誰もが背筋に薄ら寒いものが駆け上った。
恐る恐るといった風にスタッフが其方に視線を向ければ、クツクツと凄惨な笑みを浮かべるフランドールの姿。
誰もが恐れおののく最中、平然としているのはアリスと小悪魔の二人のみ。
そんな中、小悪魔は何を思いついたのかポンッと手のひらを叩き。
「こちょこちょこちょこちょー!」
「プアっひゃっはっはっはっはっは!!?」
緊張をほぐすかのように、フランの脇腹をくすぐり始めた。
先ほどの威圧感は霧散し、誰もが安堵の息を吐く中で、アイも変わらずくすぐられ続けるフランドール。当然ながらそんな時間が長く続くはずも無く。
「あ、あははは、あははははははっていい加減にしろ!」
「まぞっぷ!!?」
フランの綺麗な肘打ちが小悪魔の顔面に命中し、くすぐり地獄から介抱されるのだった。
もっとも、肘打ちが綺麗に決まったせいか、小悪魔の顔面が綺麗さっぱり内側にめり込んでしまっていたが、それでもなおも言葉を続ける小悪魔クオリティ。
「そんな怖い顔はダメですよ妹様。コレはみんなに親しみを持ってもらうラジオ番組なんですから、皆さんを怖がらせるのはダメダメですっ!!」
「……ごめん、小悪魔。真面目な話してるところ悪いけどどうやって喋ってるの?」
「気合と根性と愛です!」
「気合と根性と愛ってすごい」
いやまぁ、冗談はともかくなどと呟きながら、フランはコホンと一息。
確かに、先ほどのには自分に非があっただろうとフランは思う。
あそこで小悪魔が止めてくれなければ、自分でも何をしていたかわからなかったぐらいだし。
こんなことだから、自分は情緒不安定なんだと気持ちを引き締める。プリンぐらいで大人気ないではないか。
お礼の一つでも言いたいところだったが、今は番組中。あとでお礼を言おうと心に決めて、彼女は言葉を紡ぎだした。
「お姉さま、確かに許せないと思うけど、別に罵るほどのことではないわ。私は、全然気にしないから」
「あら、意外と良心的な反応ねぇ。もうちょっと怒るかと」
「アリスさん、なんだかんだで二人は姉妹という事ですよ」
そんな小悪魔の言葉に、アリスは「なるほどね」と納得したように微笑んだ。
一度頭が冷えたという事もあるのだろう。フランはいたって冷静で、どこか親しみさえ感じる言葉を紡いでいる。
普段は毛嫌いしているように見えて、やはり心のどこかで姉として慕っているという事なんだろう。
それが、なんだかフランらしくて、アリスや小悪魔にはそれが微笑ましく映ったのだ。
「ただし、お姉さまをミンチにしたあとでだけどねっ!」
『やっぱ根に持ってた!!?』
微笑ましく映ったのだけれど、最後の一言で色々台無しにされた気がした小悪魔とアリスだった。
後日、メイド長の口から「罵られてあんなに嬉しそうなお嬢様は初めて見ました」などと語られるのだが、それはこの際置いておこうかと思う。
【小悪魔のポ・エ・ム】
今日は、満天の星空。
キラキラ輝くお星様が、今日も私を祝福してくれるの。
あのお星様達に私のお願いを言ったら、かなうのかな?
恋の願いも、愛の囁きも、きっと星たちは聞いてくれるよね。
だって、こんなに綺麗で、美しくて、見惚れるほどの、星空なんだもの。
だから、お願い、お星様達。
私のお願いを聞いてください。
私の心を、聞いてほしいの。
これからも先、ずっとずっと、あなた達の光で、私達を祝福してね!
私の大切な、愛しい愛しい人たちを。
お・ね・が・い!
「小悪魔ー、あの星、なんか蒼白く輝いてるよー?」
死兆星ッ!!?
【エンディング】
「はい、こあらじも終わりが近づいてまいりましたが、皆さんお楽しみいただけたでしょうか?」
「楽しめたとしたら、私達も感無量だわ。最後は、お休みなさいのエンディング曲と共に、皆さんとお別れね」
「いや、小悪魔、アリス。それはいいんだけどさぁ」
エンディングの曲が流れる最中、フランが二人に問いかける。
それで二人がどうしたのかと彼女の方に視線を向けると、なんだか複雑そうな表情をしたフランは頬を掻き。
「この曲、何?」
『あなたと合体したいで有名なロボットアニメの遠藤○明さんVerだけど?』
「眠れるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
熱血ソングと共にフェードアウトして行くフランのツッコミという名の絶叫。
結局、最後の最後までグダグダのまま終わりを迎えたラジオ番組。
次回があるのかどうか、それは誰にもわからねぇのであった。マル。
やっぱりいつも通りの方がよんでて安心しますw
フランの突っ込みは流石ですね。ラジオ、小悪魔いなくてもアリスとフランの二人でやってけるんじゃないかな……ボケ役がいないかw
すみません、フランちゃんに罵って貰いたいんですが、宛先はどこですか?
大人げないとはフランもまだまだだな。食べ物の恨みって怖いんだぞ。似た様なことをされて二ヶ月近く喋らなかった記憶が今でも蘇る。
そして小悪魔自重しろwww
これは是非続いて欲しい
毎回読ませてもらっていますが、このスタイルを無理に変えることもないと思いますよ。
応援してます。
元ネタはブレ○ブルーか
面白かったです
はちくまのw
是非とも続きを!
次の回は是非元ネタのあのコーナーやあのコーナーとか入れましょうぜ!
たぶんこのこいしはお燐やお空に障害とか言ってると思う
小悪魔が主役でフランがツッコミなチョイスが面白かったです
妙に冷静と言うか、淡々と事実を述べているだけのような感じがして
読んでいて会話で盛り上がって合間で冷めての繰り返しだった。
地の文を丁寧な普通の文体にするのではなく、他のギャグ作家さんが
書かれているみたいにツッコミを入れているような軽妙な感じにして
くれた方が自分は読みやすいかな。
ここの小悪魔とフランのからみがとても良いです。
あとフランのコーナー、天子が来るかと思ったらレミリアとは……
いい意味で期待を裏切られました。
応援しますので、今後とも頑張ってくださいませ。
そしてハガキ送った連中はまとめて自重しろwww
そして腹筋がやばい
今回もいいものでした。
「うにゅ……わたしは固茹で派なんですよぅ」
「お空、こいし様は半熟派だって、この前も教えたじゃないか」
毎回豪華ゲストを呼んでシリーズ化決定!www
全体的に非常におもしろかったですっていうか腹筋がヤバイ誰か助けてwwww