空を見上げると今日も冬の晴れ空が広がっていた。
「霊夢、少しお願いがあるの」
声が聞こえ、顔を下げると咲夜が居た。
「挨拶も抜きに突然ね。急用?」
いつもの澄ました表情とは違い、今日は少し困った表情を出していた。
「ええ、そうね。実は明日、お嬢様がパーティーを開くの。
その時、私が手品をすることになって…」
どうやら咲夜は、その時に脱出劇と言う手品をやることになったのだが
脱出の手口が、時間を止めて脱出しか思いつかないらしい。
けれど、時間を止めると、どうしても気配が出てしまうから
困っているらしい。
「それで?私にどうしろと?」
霊夢は腕を組み、咲夜の目を見る。
「サクラ…を頼みたいの」
「サクラ?グルになれってこと?」
咲夜は、困ったように手を顔に当てた。
「考えたのだけど、どうしても脱出方法が時間を止めて脱出しか思いつかないの。
でも、どうしても気配が出るから、そこで霊夢に咲夜は時間を止めてないって言ってほしいの。
そしたら、気のせいか、で済むかもしれないから…」
この案を考えた咲夜もイマイチ自信がないらしい。
「そうかもしれないけど、それでもなぜ私?」
咲夜はその問いが来ることがわかっていたように即答する。
「それはね、これをやる人は、それなりの力と影響力が居るの」
その点、霊夢なら申し分ない。と、咲夜は付け加える。
「どう?やってくれない??」
なるほど。霊夢は考え込む。そこまで言われたら断りにくい。
まぁ、明日の食事にありつけるだけでもいいか。
「いいわよ。でも、失敗しても恨まないでね」
「ありがとう、霊夢。それでは、明日の7時パーティーに来て下さいな」
咲夜は一礼し、そして時間が揺れたと思うと、
そこに彼女うはいなかった。
次の日、霊夢は久々の食事にありついていた。
「皆様、ようこそお越し下さいました」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットが、その容姿には似合わぬ
ゆったりと、落ち着いた声で挨拶をした。
「今宵は、我がメイド長十六夜 咲夜が、ひとつおもしろい手品を披露したいと思う」
手をひろげ、偉大さを前面に出そうとしているが、やはり小さい。
そして、レミリアは庭の中央を指差した。
「それでは、皆様、庭の中央にある箱をご覧ください」
そこには、さっきまでなかった紅い箱と、その隣に銀髪をなびかせている咲夜が立っていた。
明りがあるとはいえ、夜の暗さに染まる庭。
それが、銀色を一層際立たせていた。
騒がしかった庭の中が、火を消したように静かになった。
ここで霊夢は、ようやく目の前の食事から顔を上げ、周りを見渡した。
魔理沙、文、アリス、早苗など、様々な実力者が顔をそろえていた。
この中で時間を止めたのをばらさないと言うのは確かに無理そうだ。
それでも、自分の言葉が一体どこまで通用するかどうか…。
「失敗しても恨まないでよ…」
昨日言った言葉を、再度誰にも言う出なく呟いた。
「それじゃあ咲夜、箱の中には行ってちょうだい」
「はい」
静かな庭の中では、ふたりの声がよく響く。
銀色が紅に吸い込まれ、やがて消えた。
「さて、これで皆様が見ての通り四方八方出口はありません」
出るも何も、時間を止めるのだから関係ないでしょ?レミリア。
ひとりそんなことを考え、紅い箱の方を見る。
「わ~、どうなるんでしょうか」
目を輝かせ、カメラのシャッターを切っている文が居た。
「イカサマは、なしだぜ…」
その隣で、マジマジと箱を見る魔理沙もいた。
「それじゃあ、フラン」
レミリアが指を鳴らす音と共に、レーヴァテインを持ったフランが屋根から現れる。
「やりなさい、フラン」
それを合図にフランは屋根から飛び降りレーヴァテインを振りかざす。
「ちょっ!?えっ??あやややややっ!?」
「うっ嘘だぜ…」
近くで写真を撮っていた文、イカサマがないか調べようとしていた魔理沙が、レーヴァテインの陰に呑まれる。
「こんなとこで、焼き鳥になるのはごめんですよっ!」
「それは、人間だって同じだぜっ!」
ふたりは必死にレーヴァテインの影から逃れようとする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
空気の流れが変わった。時間が止まったのだ。
かと思うと、爆音と共に紅い箱の周りが炎に包まれる。
「ふぅ…、死ぬかと思いました」
「あっ危なかったぜ…」
さすがは、幻想郷最速と元幻想郷最速。
前のめりになりながらも助かっている。
魔理沙はよっぽど大切なのか、帽子をしっかり押さえていた。
文はカメラを胸に抱えて、守っていた。
「ああ、そうだったわ。えっと、なお、レーヴァテインは範囲が広いため箱からは少し離れて下さい」
「遅いですよ」「遅いぜ」
同じタイミングで二人が言葉を放つ。
霊夢も、そういう所は相変わらずだ、と思わず苦笑する。
ふたりの無事を確認すると、霊夢は咲夜の姿を探した。いない。
黒こげになった箱、フラン、人、妖怪。咲夜がいない。
無事なのはわかっているのだけど、目の前の惨状を見ると
少し心配になってくる。
「皆様、いかがでしたでしょうか?」
漆黒の空から、不意に咲夜の声が響く。
霊夢は咲夜を一目見る。よかった。やっぱり無事だったわね。
そして、ここで私の出番か。みんなの反応が出る前に。
「そうね…良かったは。時間は止めてなさ「時間は止めてなかったぜ」
威勢のいい魔理沙の声にさえぎられる。
「魔理沙?」
気付かなかったの?あんたが?
ああ、そうか。フランの餌食になりそうだったんだ。
そう不意に思い当たる。
見てみると、今でも冷や汗が止まって無いようだった。
ならここは、便乗するだけ。
「そうね、止めてないわね」
「霊夢っ!?」
「?」
「いや、何でもないぜ」
彼女にしては珍しく、歯切れの悪い答え。
その時、拍手が一斉に庭の中に鳴り響く。
どうやら上手くいったみたいね。よかったわね、咲夜。
拍手を浴びている、咲夜に一度だけ視線を送った。
それに気づいたようで、微笑みを少し返してくれた。
そして、この後も夜通しパーティーは続いた…。
数日後
お茶をすすっていると、庭に二つの影が彗星のごとく降りてきた。
「今のは、私の勝ちだぜ」
「いいえ、私です」
文と魔理沙が、競争の勝敗について争っている。
「何やってるのよあんたたち。今、私はお茶を楽しんでいるのだけど」
このお茶の時間を邪魔されてはたまらない。
さっさと帰れ。という意図を込めて行った。
「競争だぜ」「競争ですよ」
幻想郷最速をかけて、文が付け加える。
「いや、わかってるんだけど…」
やっぱりこの二人には通じない。
お茶の味が妙に苦く感じる。その苦さに思わず霊夢は顔をしかめた。
「霊夢さん、今のは霊夢さんの神社の賽銭分くらいだけ、私の方が速かったですよね?」
判定を決めかねて文が霊夢に尋ねる。
「…ええ、そうね。これで決まったわ。文の方が早いって」
「…?何か言い方変ですね。でも、やっぱり私の方が速いんですよっ」
魔理沙に、にやり、と笑い、喜びだす。
「私にお仕置きされるのがどっちが早いかって言うのを言ってるのよ」
跳びはねて喜んでいた文から、顔の血が引ける。
「その後、魔理沙ね」
立ち上がり、魔理沙を睨む。
「まっ、待ってくれ、おもしろい話を聞かせてやるから」
睨まれた魔理沙は、両手を前に出し後ずさりしながら助かる活路を探している。
「おもしろい話ね…まぁ話してみなさい」
この隙に文がそっと逃げ出そうとしたが、それを魔理沙が捕まえる。
「死ぬ時は道ずれだぜ」
文の耳元で魔理沙がつぶやく。
「それはないでしょう…」
諦めたように、がっくり肩を落とし、魔理沙の腕に顔を埋める。
「数日前の咲夜の手品があるだろう?」
文を捕まえ、覚悟を決めたのか話しだす。
「実はあれ、咲夜とグルだったんだ」
思わず目を丸くして魔理沙を見た。それは、文も同じだった。
そんなことおかまいなしに、魔理沙は続ける。
「実はな、咲夜に頼まれて、時間は止めてないって言ってくれって言われてな。咲夜がめずらしく困っていたから、ついつい受けたけど、
正直霊夢たちをだませるとは思わなかったぜ。
これはもう、私の迫真の演技ってやつかな」
霊夢のお仕置きは忘れたかのごとく、
どうだ!と言わんばかりに胸を張る。
文はそんな魔理沙を見て、すみません。と呟き、
「実は私もなんです…、でも二人が気付かなかったみたいだから、
拍手だけでいいか、と思って黙って拍手してました」
今度は、魔理沙が目を丸くする。
まさか?
自然と二人の視線は霊夢に集まる。
「れっ霊夢も…」「霊夢さんも…」
ふたりの視線に思わずため息をつき、そしてふっと笑い
「…私もよ」
やられた。道理でうまくいきすぎると思ったわ。見事にやられた。
「楽しんでいただけましたか?」
その時、ふと咲夜の声が聞こえたような気がした
「ええ、とっても」
空を見上げると、今日は冬の晴れ空と三人の笑い声が広がっていた。
もっと描写を大事にした方が吉ですよ。