「パチェ」
紅魔館地下、大図書館。
もちろん日の光は差さず、魔法を使った灯だけが室内を照らす。
膨大な蔵書量を誇るが、埃も多い。
館の主、レミリア・スカーレットは図書館の住人と化している友人、パチュリー・ノーレッジに後ろから抱き着いた。
「珍しいわね、レミィがこっちに来るなんて」
「パチェが上に来るのと同じくらいなものよ」
なんだかんだと言うが、そう低い頻度ではない。
レミリアはパチュリーの腰に回した腕に入れる力を少し強くし、ぎゅっと抱きしめた。
少し離れたところに居た小悪魔は、それを見て何も言わずに二人からさらに遠ざかる。
「何の用かしら?」
「運動不足の魔女とベッドで運動でもしようかと」
「その言い方だとそそられないわ、レミィ」
パチュリーが表情も変えずに振り向いてそう告ると、 レミリアは手を離し、にたりと悪戯っぽく笑った。
「仕方ない、またいつか媚薬入りのワインでも持って誘いにくるよ」
やれやれと肩の高さに手を上げてオーバーなリアクションを取る。
「で、本当は?」
「あいつの紅茶の味がまた変わった」
”あいつ”がこの館のメイド長、十六夜咲夜である事をパチュリーは当たり前に察する。
出すものはよく変わるので味が変わるのはいつもの事だが、レミリアがわざわざ言いに来たのはパチュリーの記憶によると二度目だ。
前回は春が来なかった異変の解決に出かけて、それから帰った後だった。
理由は心境の変化だと仮定した。そもそも、その紅茶の味の変化とやらは私には分からなかったのだ。
と、パチュリーはそこまで記憶から引き出した。
「あの時から変わった事と、最近変わった事は?」
「それが思い付かないから来たんだ」
レミリアはお手上げとばかりに両手の平をパチュリーに見せる。
溜息をついてパチュリーは答えた。
「放っておいたら?人も妖怪も気まぐれなものよ。味が悪いわけじゃないんでしょ?」
「困ったな。味に慣れるまでは気になって魔女も押し倒せないじゃないか」
■■■■■■■■■■
レミリアとの会話の翌日、昼。大図書館に客が来た。
「パチュリー、この前借りた本、返しに来たわ」
アリス・マーガトロイド。人形遣いの魔女で、この図書館の魔導書目当てで紅魔館に出入りするようになった。
「自分で元にあった場所に戻すか、小悪魔に渡しておいて」
本から顔も上げずにパチュリーが返事をしたが、言われる頃にはアリスは本を棚に戻していた。
よく覚えていたものだ、と思い、ついでにアリスが図書館に訪れたのも久しぶりである事をパチュリーは思い出した。
「久しぶりね」
本を閉じ顔を上げて言う。久しぶり、久しぶりだと感じれば使う朝昼晩の時間帯を問わない挨拶。
「えぇ、久しぶり、パチュリー。返すの遅くなってごめんなさい」
「気にして無いわ、どこかの盗賊(シーフ)よりもマシなものよ」
パチュリーの答えに苦笑しながらアリスはパチュリーの前の席に座る。
どうだった、とパチュリーが尋ねれば魔法に関しての話が長々と続けられる。
読んだ魔導書の考察、どう応用できるか等。
一度読んだ本であっても想像していなかった意見が出る。
違った考えを持つ相手との話をすることは研究をする上で有意義だと、パチュリーはアリスと会って思った。
数時間後、外が晴れていれば夕日が眩しいであろう時間。
咲夜の煎れた紅茶の入っていたカップを置いてアリスは立ち上がった。
「じゃあそろそろ帰るわね、楽しかったわ」
「ええ、有意義な時間だったわ。今日は借りて行かないの?」
「そうね、また今度にするわ」
□□□□□□□□□□
「久しぶり、は…さっき言ったかしら」
ノックの音にドアを開け、アリスに微笑いかけた。
また来てくれたという事にほっと安堵する。
初めて彼女が紅魔館に来た時、私の部屋の場所を教えた。
顔見知りから友人に変わったのはその時点か、しばらく後か。とにかく彼女は帰る前に私の部屋に訪れる事を習慣化してくれた。
どうしても忙しい時には私はいない事もあるけれど、ノックして返事が無ければ帰ってる、との事だった。
「さっきはこんにちは、だったわよ、咲夜」
アリスも微笑んだ。
私がドアを押さえている内にアリスが部屋に入る。
鍵は閉めなかった。
私の理性はどうも頑固らしく、一度も実行した事は無い。
「魔理沙が喚いてたわよ」
アリスが椅子に座るのを横目に見ながらカップに紅茶を注ぐ。手は震えない。きっと私はポーカーに向いている。
「霊夢をアリスに取られた、って。パチュリー様は右から左だったけど、あの調子じゃ他でも言ってるんじゃないかしら」
テーブルにカップを置く。図書館で出したものとは違うものを選んだ。ついでに熱めだ。
声も震えたりはしない、いたって普段通り。
普段通りの他愛のない会話。
「知ってたのね。あんまり言い触らされたくも無いんだけど」
照れたように笑った。
見覚えの無い笑顔だ。
自分から言って助かった。
この笑顔が自発的に出されたものだったなら、堪え切れなかったかもしれない。私に涙は似合わない。
嫉妬の感情は押し殺すにかぎる。
あの時、タイミングは良かったのだろう。
あの日、魔理沙が来た日、紅茶を出しに行った際に聞いていてよかった。
耳を疑ったが、妙に納得した。
確かにお似合いかもしれないと、思ってしまった。
思った言葉が口から出る。
「お似合いだと思うわ」
平淡過ぎたかもしれない。
心音がアリスにも聞こえてしまうのではないか。
表情が崩れてはいないか。
この感情が伝わってはならない。
「ありがとう」 微笑わないで。
「なんか…」 ダメ。
「咲夜に言われると」 耳を塞げ。
「嬉しいわ」
私は時間を止めた。
「私に言われると嬉しい、か」
止まった世界で呟いた。
テーブルを殴りつけたい気持ちを抑える。
落ち着く時間が欲しい。だから作った。
落ち着くには、まず深呼吸だ。
息を深く吸ってゆっくりと吐く。
数回繰り返して目の前のアリス・マーガトロイドを見る。
なるほど、嬉しそうな顔をしている。
初めてこの綺麗な瞳に魅入ったのは、深く雪の積もった春だった。
色鮮やかな弾幕をくぐりながら、見蕩れたのを覚えている。
お嬢様に魅了された時に感じたものとは違う何かだったが、近い気もした。
一目惚れなど…と、笑われるかもしれないが、有無を言わせない程に惹かれた。
まさか二度会うとは思っていなかった。
そのせいで惚れているのだと自覚せざるを得なかった。
少し冷たい態度。話していれば私達は似ていると錯覚した。気が合うと錯覚した。
話の無い二人きりの時間も心地好いとさえ感じた。
相性はよかったと思う。
思いを伝えていれば、私は霊夢になれていたかもしれない。
未練がましい事この上ない。
そうでは無いと、さっき聞いた。
時間は進んでいない。今聞いたようなものだ。
私はアリスにとって、その対象では無かった。
彼女が選んだのは曇り空でなく晴れなのだ。
どんなに信頼を得て、好意を受けても、彼女の恋愛感情は私に向いてはいなかった。
霊夢が消えたら、アリスは私に見向いてくれるだろうか。
そんな頭の悪い考えが浮かぶ。
私が妖怪であったなら、霊夢の後釜を狙えるだろうか。
これも馬鹿な考えだ。十六夜咲夜は人間であるから十六夜咲夜たる私なのだ。
浮かび上がる馬鹿な私の考えを私は否定し続ける。
違う。違う。違う。違う。違う。そうではない。そうじゃない。そんなわけがない。
落ち着けるまで…考えが出尽くして答えが残るまで、否定した。
止まった世界で、私はアリスの頬に触れた。
瞳を閉じ、アリスの額に唇を当てた。
私は、アリスの友達だ。
「そろそろお嬢様を起こさなくちゃ」
時を戻すと、私はそう言った。笑顔を浮かべて。
自分で煎れた紅茶一気に飲み干してカップを置く。
東窓のこの部屋からは夕日は見えないが、もうすぐ沈みきるだろう。
「せっかく煎れたんだからゆっくり飲んでね、好きに居座ってかまわないから」
アリスが口を開く前に言っておく。
勝手を知った友人関係にそんな気遣いは不要だ。見送りだなんて他人行儀は必要無い。館から出る者の見送りは美鈴の役目だ。
さて、お嬢様を起こしたら何をしようか。
掃除は済ませた。
やはりお嬢様のお食事からだ。少食なので作り過ぎないようにしなけれぱ。
妹様はどうするだろう?いらないとおっしゃられるだろうか、事前に聞くか、とりあえず作るか。
パチュリー様は捨食したと言っても嗜好品としての食事をお好みになられる。
美鈴は上品なものよりも味と量だろう。なんだかんだでちゃんと働いている。
図書館の小悪魔はいつ何を食べているのだろうか。
立ち上がると、これからの仕事を考えながらドアに手をかける。
私はそこで一度振り向いた。
「貴女が幸せそうで私も嬉しいわ」
私はメイドである。
完璧な、瀟洒な、メイド。
主の事を1番に考える働き者。
それがこの紅魔館のメイド長。
紅茶に毒を入れるのはご愛嬌。
レミリア・スカーレットにとっての従者。
フランドール・スカーレットにとって姉の従者。
パチュリー・ノーレッジにとって親友の従者。
紅美鈴にとって同じ主に仕える身内。
アリス・マーガトロイドにとっての、友達。
さぁ、仕事を始めよう。
お嬢様を起こしたらきっと忙しくなる。
もしかしたら何かしら余興を計画しているかもしれない。
それでもまずは、お食事だ。
その後の予定は未定。
とりあえず紅茶を出そう。
とびっきり美味しい紅茶を出そう。
紅魔館地下、大図書館。
もちろん日の光は差さず、魔法を使った灯だけが室内を照らす。
膨大な蔵書量を誇るが、埃も多い。
館の主、レミリア・スカーレットは図書館の住人と化している友人、パチュリー・ノーレッジに後ろから抱き着いた。
「珍しいわね、レミィがこっちに来るなんて」
「パチェが上に来るのと同じくらいなものよ」
なんだかんだと言うが、そう低い頻度ではない。
レミリアはパチュリーの腰に回した腕に入れる力を少し強くし、ぎゅっと抱きしめた。
少し離れたところに居た小悪魔は、それを見て何も言わずに二人からさらに遠ざかる。
「何の用かしら?」
「運動不足の魔女とベッドで運動でもしようかと」
「その言い方だとそそられないわ、レミィ」
パチュリーが表情も変えずに振り向いてそう告ると、 レミリアは手を離し、にたりと悪戯っぽく笑った。
「仕方ない、またいつか媚薬入りのワインでも持って誘いにくるよ」
やれやれと肩の高さに手を上げてオーバーなリアクションを取る。
「で、本当は?」
「あいつの紅茶の味がまた変わった」
”あいつ”がこの館のメイド長、十六夜咲夜である事をパチュリーは当たり前に察する。
出すものはよく変わるので味が変わるのはいつもの事だが、レミリアがわざわざ言いに来たのはパチュリーの記憶によると二度目だ。
前回は春が来なかった異変の解決に出かけて、それから帰った後だった。
理由は心境の変化だと仮定した。そもそも、その紅茶の味の変化とやらは私には分からなかったのだ。
と、パチュリーはそこまで記憶から引き出した。
「あの時から変わった事と、最近変わった事は?」
「それが思い付かないから来たんだ」
レミリアはお手上げとばかりに両手の平をパチュリーに見せる。
溜息をついてパチュリーは答えた。
「放っておいたら?人も妖怪も気まぐれなものよ。味が悪いわけじゃないんでしょ?」
「困ったな。味に慣れるまでは気になって魔女も押し倒せないじゃないか」
■■■■■■■■■■
レミリアとの会話の翌日、昼。大図書館に客が来た。
「パチュリー、この前借りた本、返しに来たわ」
アリス・マーガトロイド。人形遣いの魔女で、この図書館の魔導書目当てで紅魔館に出入りするようになった。
「自分で元にあった場所に戻すか、小悪魔に渡しておいて」
本から顔も上げずにパチュリーが返事をしたが、言われる頃にはアリスは本を棚に戻していた。
よく覚えていたものだ、と思い、ついでにアリスが図書館に訪れたのも久しぶりである事をパチュリーは思い出した。
「久しぶりね」
本を閉じ顔を上げて言う。久しぶり、久しぶりだと感じれば使う朝昼晩の時間帯を問わない挨拶。
「えぇ、久しぶり、パチュリー。返すの遅くなってごめんなさい」
「気にして無いわ、どこかの盗賊(シーフ)よりもマシなものよ」
パチュリーの答えに苦笑しながらアリスはパチュリーの前の席に座る。
どうだった、とパチュリーが尋ねれば魔法に関しての話が長々と続けられる。
読んだ魔導書の考察、どう応用できるか等。
一度読んだ本であっても想像していなかった意見が出る。
違った考えを持つ相手との話をすることは研究をする上で有意義だと、パチュリーはアリスと会って思った。
数時間後、外が晴れていれば夕日が眩しいであろう時間。
咲夜の煎れた紅茶の入っていたカップを置いてアリスは立ち上がった。
「じゃあそろそろ帰るわね、楽しかったわ」
「ええ、有意義な時間だったわ。今日は借りて行かないの?」
「そうね、また今度にするわ」
□□□□□□□□□□
「久しぶり、は…さっき言ったかしら」
ノックの音にドアを開け、アリスに微笑いかけた。
また来てくれたという事にほっと安堵する。
初めて彼女が紅魔館に来た時、私の部屋の場所を教えた。
顔見知りから友人に変わったのはその時点か、しばらく後か。とにかく彼女は帰る前に私の部屋に訪れる事を習慣化してくれた。
どうしても忙しい時には私はいない事もあるけれど、ノックして返事が無ければ帰ってる、との事だった。
「さっきはこんにちは、だったわよ、咲夜」
アリスも微笑んだ。
私がドアを押さえている内にアリスが部屋に入る。
鍵は閉めなかった。
私の理性はどうも頑固らしく、一度も実行した事は無い。
「魔理沙が喚いてたわよ」
アリスが椅子に座るのを横目に見ながらカップに紅茶を注ぐ。手は震えない。きっと私はポーカーに向いている。
「霊夢をアリスに取られた、って。パチュリー様は右から左だったけど、あの調子じゃ他でも言ってるんじゃないかしら」
テーブルにカップを置く。図書館で出したものとは違うものを選んだ。ついでに熱めだ。
声も震えたりはしない、いたって普段通り。
普段通りの他愛のない会話。
「知ってたのね。あんまり言い触らされたくも無いんだけど」
照れたように笑った。
見覚えの無い笑顔だ。
自分から言って助かった。
この笑顔が自発的に出されたものだったなら、堪え切れなかったかもしれない。私に涙は似合わない。
嫉妬の感情は押し殺すにかぎる。
あの時、タイミングは良かったのだろう。
あの日、魔理沙が来た日、紅茶を出しに行った際に聞いていてよかった。
耳を疑ったが、妙に納得した。
確かにお似合いかもしれないと、思ってしまった。
思った言葉が口から出る。
「お似合いだと思うわ」
平淡過ぎたかもしれない。
心音がアリスにも聞こえてしまうのではないか。
表情が崩れてはいないか。
この感情が伝わってはならない。
「ありがとう」 微笑わないで。
「なんか…」 ダメ。
「咲夜に言われると」 耳を塞げ。
「嬉しいわ」
私は時間を止めた。
「私に言われると嬉しい、か」
止まった世界で呟いた。
テーブルを殴りつけたい気持ちを抑える。
落ち着く時間が欲しい。だから作った。
落ち着くには、まず深呼吸だ。
息を深く吸ってゆっくりと吐く。
数回繰り返して目の前のアリス・マーガトロイドを見る。
なるほど、嬉しそうな顔をしている。
初めてこの綺麗な瞳に魅入ったのは、深く雪の積もった春だった。
色鮮やかな弾幕をくぐりながら、見蕩れたのを覚えている。
お嬢様に魅了された時に感じたものとは違う何かだったが、近い気もした。
一目惚れなど…と、笑われるかもしれないが、有無を言わせない程に惹かれた。
まさか二度会うとは思っていなかった。
そのせいで惚れているのだと自覚せざるを得なかった。
少し冷たい態度。話していれば私達は似ていると錯覚した。気が合うと錯覚した。
話の無い二人きりの時間も心地好いとさえ感じた。
相性はよかったと思う。
思いを伝えていれば、私は霊夢になれていたかもしれない。
未練がましい事この上ない。
そうでは無いと、さっき聞いた。
時間は進んでいない。今聞いたようなものだ。
私はアリスにとって、その対象では無かった。
彼女が選んだのは曇り空でなく晴れなのだ。
どんなに信頼を得て、好意を受けても、彼女の恋愛感情は私に向いてはいなかった。
霊夢が消えたら、アリスは私に見向いてくれるだろうか。
そんな頭の悪い考えが浮かぶ。
私が妖怪であったなら、霊夢の後釜を狙えるだろうか。
これも馬鹿な考えだ。十六夜咲夜は人間であるから十六夜咲夜たる私なのだ。
浮かび上がる馬鹿な私の考えを私は否定し続ける。
違う。違う。違う。違う。違う。そうではない。そうじゃない。そんなわけがない。
落ち着けるまで…考えが出尽くして答えが残るまで、否定した。
止まった世界で、私はアリスの頬に触れた。
瞳を閉じ、アリスの額に唇を当てた。
私は、アリスの友達だ。
「そろそろお嬢様を起こさなくちゃ」
時を戻すと、私はそう言った。笑顔を浮かべて。
自分で煎れた紅茶一気に飲み干してカップを置く。
東窓のこの部屋からは夕日は見えないが、もうすぐ沈みきるだろう。
「せっかく煎れたんだからゆっくり飲んでね、好きに居座ってかまわないから」
アリスが口を開く前に言っておく。
勝手を知った友人関係にそんな気遣いは不要だ。見送りだなんて他人行儀は必要無い。館から出る者の見送りは美鈴の役目だ。
さて、お嬢様を起こしたら何をしようか。
掃除は済ませた。
やはりお嬢様のお食事からだ。少食なので作り過ぎないようにしなけれぱ。
妹様はどうするだろう?いらないとおっしゃられるだろうか、事前に聞くか、とりあえず作るか。
パチュリー様は捨食したと言っても嗜好品としての食事をお好みになられる。
美鈴は上品なものよりも味と量だろう。なんだかんだでちゃんと働いている。
図書館の小悪魔はいつ何を食べているのだろうか。
立ち上がると、これからの仕事を考えながらドアに手をかける。
私はそこで一度振り向いた。
「貴女が幸せそうで私も嬉しいわ」
私はメイドである。
完璧な、瀟洒な、メイド。
主の事を1番に考える働き者。
それがこの紅魔館のメイド長。
紅茶に毒を入れるのはご愛嬌。
レミリア・スカーレットにとっての従者。
フランドール・スカーレットにとって姉の従者。
パチュリー・ノーレッジにとって親友の従者。
紅美鈴にとって同じ主に仕える身内。
アリス・マーガトロイドにとっての、友達。
さぁ、仕事を始めよう。
お嬢様を起こしたらきっと忙しくなる。
もしかしたら何かしら余興を計画しているかもしれない。
それでもまずは、お食事だ。
その後の予定は未定。
とりあえず紅茶を出そう。
とびっきり美味しい紅茶を出そう。
咲夜さんには新しい恋を見つけて貰いたい!
咲夜さんが嫉妬の色を見せることなく祝福してきたことで自棄になったアリスの演技だったとか
そうでなくとも、せつなくて瀟洒でした。
気が向いたら作者さんの咲アリも読んでみたいです。