「わはは!」
愉快だ。愉快でたまらん。
何かもう凄い。景色がグルグル回る。
「勇儀ぃ、少し控えなさいよ」
「おやパルスィ、すごい技だなソレ、顔が五つになってるんだけど」
しかもそれぞれがジャイロ回転していた。それで胴体は四つだ。アシュラマンもびっくりだ。
笑える。
「あんたが酔ってるだけよ馬鹿。ほら水」
「わはは、悪い悪い」
ズドンと、二リットル渡して来るのは愛なんかね? せめてコップに注いでほしかった。愛が重い。
それでも、ラッパ飲みすると多少は気分が落ち着いた。
「いやぁ駄目だなやっぱり、つい呑みすぎる」
居酒屋というのは、全くよろしくない。酒を呑むための場所だと思うと、ついつい歯止めが飛ぶ。
いやまあ、居酒屋で呑まないでどうするという話ではあるんだけど。
「全く……肝臓に脳みそ付いてんじゃないの?」
「あ、いいなァそれ。さいわいシワなら沢山刻まれてるよ」
「肝硬変っていうのよ、ソレ」
肝硬変。はて、肝臓の防御力を一時的に上げる技かな? 酔狂な奴も居たもんだね、そうまでして呑みたいか。
「で、どこまで話したっけね?」
ツマミの枝豆をカッ喰らいながら聞く。この店は枝豆が一番うまい。酒じゃなくて。
「どこまでって、どこまでも話してないわよ。アンタいきなり人を引っ張ってこんなとこ連れてくるんだもの。呑み相手ラチっただけだと思ってたわ」
「なに、話なら有るさ、ちゃんとね」
「何」
「『ファッションチェック』って妖怪、知ってるかい?」
ファッションチェック。ここ最近旧都を賑わしている、奇っ怪な輩だ。
賑わすといっても、決して良い意味ではない。だから私も頭が痛いわけで。
「ファッションチェック? 知らない、何それ」
「そうか、知らないかぁ……。じゃあ、ここ一ヶ月そこいらで、あの橋を妙な奴が通ったことは?」
「一ヶ月ねえ……あんまりハッキリとは覚えてないけど、多分無いわ。見てたら覚えてるでしょうよ。あそこ、人通りなんて無いに等しいし」
パルスィは、愚痴るわりに仕事自体は真面目にやる奴だ。曖昧な記憶でも信用には足る。
頭の中で、「外部犯」の項目の順位を下げた。
「いったい何? 尋問受けてる気分なんだけど」
「悪いね。いや実は――」
手前味噌な話になるが、私は鬼の中でも四天王と呼ばれていて、お陰さまで旧都の鬼どものまとめ役なんかをやってたりする。例えば喧嘩が乱闘になったりしたときは、間に入って止めるわけだ。全員ブッ飛ばすことで。
そうやって旧都の治安維持に貢献してる私なわけだが、一ヶ月ほど前、奇妙な話が入ってきた。
「結論から言や、服が急に変わったというんだよ」
「どういうこと?」
「うん、道を歩いてたら、着てた服がいきなり別のものになったって言うんだな。それ以来、似たようなことが度々起きてるわけだ」
「何それ、ホントに妖怪?」
「正直、分からんね。私もそんな妖怪の話は聞いたことが無いよ」
とはいえ、これは自然に起こるようなことじゃない。犯人がいるはずだ。そして、この地底には妖怪しかいないわけで、人間の仕業ではない。
この一ヶ月間、似たようなことが度々起きていた。それらを同じ奴の仕業と仮定して、とりあえず『妖怪・ファッションチェック』と呼んでいる、という寸法だ。
「両手に余る犯行回数で、目撃者無し。姿が分からなきゃ探しようがない。さとりに手伝ってもらって、今までの出現場所から、次の行動を予測しようとしたが――」
「出来なかったの?」
「『予測不可能だということが予測できます』だとさ。そりゃ世間様じゃあ『出来ない』って呼ぶんだけどねぇ。ま、それだけ相手が厄介ってことでもある」
覚の能力でも行動が読めない。これはまさに神出鬼没という奴だった。こういう相手には、折角の怪力乱神も形無しだ。居場所が分からにゃ殴れない。
ぶっちゃけ手詰まりだった。このまま普通に探していてもラチがあかない。というかそもそも探せない。どんな外見かも分からないんだから。
何か、小さなことでも良いから情報が欲しい。パルスィを呼んだのはそういう次第だった。あと、地上から怪しい奴が来ないか監視を頼むためでもある。
「なるほどね。まあ監視は常からやってるようなものだし別にいいんだけど、効果が上がるかは分からないわよ」
「ま、いっちょ頼むよ」
「失礼しやす! 姐さんは居られやすか!」
何やら騒がしいのが入ってきたと思ったら、どうやら私が普段から小突き回してる鬼らしかった。
いかにも走ってきたと言わんばかりの表情だ。息が荒い。
「どうしたんお前、何か有った?」
「出ました、また出やがりましたよ!」
「……くそっ、ファッションチェックか!?」
思わず椅子から立ち上がる。
またしても犯行を防げなかったのか。
「へえ、こっから五分くらいのとこで」
「よし分かった、すぐ行く……あ、パルスィ」
「私も行くわよ、乗りかかった船だわ」
「いやそうじゃなくて、財布忘れたからここの支払いは任せた! じゃ!」
言い残して、私は手下と店を出た。
この瞬間の私は鴉天狗に負けない速さだった気がする。計画通り。
「いやはや、さとりのとこのペットが被害者とは」
渾身の左フックに痛む右頬を押さえながら、半泣きの火車を見る。
パルスィも案外良いグーを持ってたんだな。出来れば今度からは平手で済ませてほしいものだけども。いや自業自得か。
「勇儀さん、何が何でも犯人を捕まえとくれよ。こんな生き恥、あたいの火車人生で一度も無い」
「ああ、勿論。……にしても、ずいぶんとまァ可愛らしい格好になったもんだ」
「……できれば言わないでもらえる……?」
ファッションチェックのやってることは、しょせん悪戯だ。
たかだか悪戯程度で何故わざわざ私が歩き回らなきゃいけないって、チェンジ後の服がいちいち微妙にキワドいからだ。公序良俗に反する。
いや待て、猫耳メイドさんは公序良俗に反するのだろうか? ――いやそれ以前に、どこの世界に死体集めに心血を注ぐメイドさんが居るんだ!
「んで、お燐、犯行を受ける直前直後で何か変わったことは無いか?」
「ううん、変わったことと言われてもね……いつも通り死体集めに夢中になってたから、何かあっても気づかないんじゃ無いかなあ」
「そうか……」
また振り出しだ。
野次馬の処理に手間を取られなければ、現場から逃げ出すファッションチェックを現行犯で取っ捕まえられたかもしれないのだけども、今更言っても仕方ない。
「とりあえず、子分に替えの服を買いに行かせてるから。それ着て今日は帰んな」
「そうさせてもらうよ、ごめんね勇儀さん」
「いや別にいいさ。とっとと捕まえられない私が悪いんだから」
「ちょ、うわッ……!?」
パルスィの奇声が聞こえた。
何事かと思って振り返る。
「な――ッ!?」
そこには、無残に変わり果てた姿のパルスィが居た。
「なんてこった、ぱ、パルスィ……ブホッ」
「ちょっとオオオ何笑ってんのォォォ!?」
パルスィは変わり果てていた。
元々着ていた、あのペルシャチックな服は消滅している。
その代わりに、緑を基調とした民族衣装が着せられていた。スカートなのだけど男物で、腰のベルトには剣が結わえ付けられている。
ファッションチェックの仕業か。いやそれより大事なことが。
「いやお前ソレ、どう見てもゼル伝――」
「やかましいわよ! 悪かったわねエルフ耳金髪で!?」
「いやいや似合ってる。良いコスだ」
外見が外人じみてるから尚更。
「いや、フォローになってないんだけど……」
「二人ともそんなこと言ってる場合じゃないよ! ファッションチェックが近くにいる!」
お燐の言葉で我に返った。確かにそうだ。一時は取り逃がしたかと思ったが、パルスィにちょっかいを出すためだけにわざわざ戻ってきてくれたことになる。まさに千載一遇のチャンスという奴だった。
だが、周りにそれらしい気配は無い。影も形も見えない。
「何だ……? まさか、ファッションチェックは遠くからの着せ替えができるのか?」
そうだとして、その距離はどれくらいなのか、今はどこに潜んでいるのか、どう追えばいいのか。相手に関する情報を殆ど持たない私らには、まるで見当もつかない。
闇雲に走ったって駄目だ。私は喧嘩こそ滅法強いものの、相手の追跡だなんてやったためしが無い。その辺は、奴のほうが上手だろう。なにせ今まで目撃すらされてない。
――いや、こんな話はするだけ無駄だ、相手はすぐ近くにいる。
「甘いんだよド阿呆」
後ろからの奇襲。パルスィの次は私狙いか。全く、わかりやすい。
奇襲という手法そのものは常道だけども、警戒している相手に効果は薄い。まして私だ。それくらいの気配は簡単に感知できる。なん喧嘩だけは滅法強いんだから。
すぐさま振り返り、そいつを掴む――そこには誰もいない気がしたけれど、とにかく掴んだ。
「やっ!?」
相変わらずそこには誰もいない――気がする。それでも何かは掴めた。声も聞こえた。つまり何かが居る、はず。得体の知れないそれを、ぐいと引き寄せる。
引き寄せたそいつは、意外に軽くて小さかった。
「うぅん……あれぇ? 何でばれたのかなぁ」
「――あ? こいし?」
間違いなく、そいつはこいしだった。
ただ、いつもと違う服を着てたもんだから、すぐには気づけなかった。
「え? こいし様?」
身内の登場はさすがに予想外だったのか、お燐の開いた口はふさがっていない。
「あ、お燐。似合ってるよそれ」
「はあ、どうも」
「いや、似合ってるよじゃなくて。こいし、あなたが犯人なの?」
「ん、パルスィ。シェアアアアアア」
「いや回転斬りとかやらないからね?」
シェアアアアアには少し噴いたが何でもない振りをする。今はそんなことよりも大事なことがある。
「こいし、お前がファッションチェックなのか?」
「ファッショ……? そういう名前で呼ばれてたの? 知らないけど、うん、そうだよ」
頷いたのを見て合点がいった。
そりゃ目撃例が無いわけだ。こいつならできる。無意識とやらへ訴えかけて、相手に自分を意識させなければいい。
実際、私もこいしを見て掴んだわけじゃない。怪しい気配や空気の動きを察知して、勘で手を出しただけだ。
「あの、こいし様? なんでこんなことを?」
「そうだな、聞かせてもらおうか、動機を」
怖ず怖ず切り出したお燐に同調する。
移り気なこいしのことだ、一ヶ月も続いたこれが、ただの悪戯とは思えない。必ず何か理由があるはずだった。
「うん、これは革命なの」
「革命」
返答は予想以上に電波だった。
「勇儀、おかしいと思ったことはない?」
「何を?」
「私たちの服装よ。あまりにもワンパターンに過ぎる。ハレの日もケの日も、冠婚葬祭いつでも同じ意匠の衣装を着てる。クローゼットは何かのギャグみたいな光景。違う?」
「ん……いわれてみりゃ、私の衣装箪笥も同じやつばっかりだな」
そんなことは今まで、考えたこともない。しかし確かに、こいしの言う通りだ。
私らはいつも同じ服装だ。まるで何かに決められたように。そしてそれを、先程までの私のように、疑問にも思わない。
「服装はその人のパーソナリティを決める重要な要素の一つだわ。パンクな服ならパンクな人、みたいな風にね。じゃあどうして私たちは同一の服装ばかりなの? 一面的なパーソナリティしか持ち合わせていないと、そう言ってるようなものじゃない。これはおかしい。いろんな面があっての人のはずでしょ。人じゃないけど」
「で、それがあんたのやってくれたコレと、何の関係を持つのよ」
自分のコスを見ながら突っ込むパルスィ。
こいしはその言葉を受けて、瞳の輝きを強くした。
「これは圧倒的におかしい。まるで何かに操られてるみたいじゃない? そんなの駄目、だから根から変えないと。そういう意味での革命ってことね」
「で? なんでその革命とやらがこんな手段になるんだ」
「服装を選ぶことは楽しい。それを覚えてもらうのが第一歩だと思うの。でもほら、真正面から『他の服着ない!?』なんて言ったって駄目だと思ったから。いろんな服を着る楽しみっていうのを、手っ取り早く覚えてもらうためなのよ」
こいしの主張は理解できた。まあそれなりに地底のことを考えてるんだろうということも分かる。
「やっぱり方法が大問題だな。もう少し穏便にできないのかと」
「うーん……」
「まあいい、手伝ってやろうじゃないか」
こいしの表情が明るくなる。
「ちょっと勇儀、いいの?」
パルスィはどこか不満げだった。
とはいえ、それは心底嫌がっているというわけではなさそうだ。多分、さんざっぱらゼル伝ネタで弄られたせいで、拗ねてるんだろう。
「私も確かに、今の状況はおかしいと思うからね。四天王が手ぇ出しゃ、多少なりとも楽に進むだろうさ」
「ありがとう勇儀!」
そうして、こいしは革命を起こした。衣服多様主義(おしゃれイズム)に基づく革命である。
地霊殿の面々や勇儀、パルスィらが積極的にキャンペーンを行い、おしゃれというものを地底世界に浸透させていった。特に勇儀の協力は大きい。何せ、旧都の人口の殆どは鬼が占めている。その実質のトップが率先して動いたわけだから、感化される者も多数だった。
しかしここで困ったことがある。服飾店が足りないのだ。おしゃれという概念が希薄だった地底世界では、服を選ぶという行為が無かった。必然的に、服飾店は珍しい店となる。
そこでこいしが行ったのは、ブランドの立ち上げだ。用途、価格、デザインなどによって複数のブランドを立ち上げ、多様なおしゃれを供給、皆が好みや予算に応じて楽しめるようにしたのだ。たとえば白玉楼の妖夢は安価さを売りにしたブランドにハマった。
自分のブランドの運営、天狗の新聞のインタビューなど、こいしは精力的に活動した。特にその中でも、文々。新聞で行われたファッションチェック企画は大人気となった。
まさにおしゃれ界のカリスマとなったのである。激辛なファッションチェックを行うこいしを、人々は、尊敬を込めてこう呼ぶようになった――。
ドンこいし。
してやられたぜ……wwwww
ピクッ
ちょwwwwwwwww
シェアアアアア!
負けたwww
画像どうにかしろよwwwwwwwwwww
ここで耐えられなくなったwwww
完
敗
こんな風にネタを作り、書いていくのは私にはできないことですので、素直に羨ましく思います。
今回のお話も、いつものお話のように、軽く楽しいテンポで読むことができました。
ただ、以下からは苦言となりますが、オチの画像は色々とまずいと思います。
どうまずいかは、具体的には場違いですので述べませんが、削除をおすすめします。
下手をすると、作者さんだけではなく、Coolierにも迷惑がかかってしまいますから。
最終的な判断を下すのは管理人のMarvs氏ですので、ここまでとさせていただきますが、一読者からの提言と思っていてください。
次回作も楽しみにさせていただきます。頑張ってください。
もうオチに勝てる気がしないwwwwww
シェアアアアアアアで笑ってしまったので
ナアアアアアア!
そんなことより白タイツのパルスィとはなかなか
またしてもやられたwもう尊敬できる領域だわww
更衣室で来ると読んでたさ
くっそwwww
しまむら妖夢をさりげなく使うなw
ただ勇儀のおしゃれ服描写が無かったので90点。
笑わせてんですよ
シェアアアアアア!
シェアアアアアア
シェアアアアアア!
画像があったら俺の腹筋はゼルダ城まで吹っ飛んでた。
の圧倒的破壊力wwww
でも、ゼル伝に負けたよwwwww
その画像、自分のサイトに貼れませんかね。
想像してみると
…あぁ。なかなか可愛いんじゃないか…
話も面白かったです
ところで画像と言えば、メイドおりんりんの画像も早急に……。
と思ったが元は画像があったのかよ
見たかった
まあつまらなかったのでこの点数で