*注意書き*
・キャラ崩壊
・百合(レイマリ) お前らさっさと結婚しろ
・魔理沙総受け
・ぼくのかんがえたさいきょーまりさ
・無駄に長い
*その他の注意点*
・ガヤ(背後のザワザワ)演出として、誰が喋っているのか分からない台詞をいくつか設置
・投稿日は11月だがクリスマスネタ
・聖は人間ではなく南無三
・設定捏造
・妄想は爆発させるもの
そんな作品でもオーケーという方は、どうぞお付き合い下さい。
***
霧雨魔理沙はマメな人間である。
嘘だと思うのなら、身の回りにある物を見てみるといい。
折りを見て渡された、大小様々な贈り物で溢れている事に驚くだろう。
マフラーやリボンなど形に残る物だけではなく、祝い事の日に届けられたケーキ、
年賀の葉書、暑中見舞い替わりの酒、不調時の永遠亭への送迎等々、数え上げればキリが無い。
とは言え、彼女はそれをひけらかすような真似は絶対にしない。
照れももちろんあるのだろうが、『努力は隠れてこっそりと』を信条とする彼女は、
そんな贈り物ですら何気なく、それでいて当たり前のように渡して来るのだ。
気が付こうと思わなければ気付かない、そんな絶妙な間合いを図れるのが彼女の『普通』たる所以なのかもしれない。
これは、そんな不幸な少女に訪れた、不幸な出来事のお話である。
***
【12月25日 夜 紅魔館の大ホールにて】
「第3回、悪趣味妖怪コンテストー! 行くぞオラァー!」
((( わーっ! )))
異様なテンションを引っさげて壇上に上がったレミリアは、マイクを片手に適当な挨拶をする。
聴衆も同じように妙なテンションで盛り上がっており、レミリアが大袈裟なモーションを振るたびにゲラゲラと笑い転げている。
ありたいていに言えば、全員酔っていた。
12月25日のクリスマス当日、その夜。
今日は紅魔館主催で行われる、クリスマスパーティーの日であった。
外の世界では前日のクリスマスイブの方が盛り上がるようだが、
レミリアの「両日ともやればいいじゃない!」との一言でその通りになった。例年のことである。
二日目に当たる今日は世界一有名な聖人の記念日と言う事で、
『妖怪限定のダークな宴会』と言うことになっている。
実際は、夕方過ぎから人間や半人が締め出される以外に、変わるところは何も無い。
「ここに集まってる奴らには要らない説明かもしれないが、新参者もいるから説明しよう!
悪趣味妖怪コンテストとは!
一年に一度の無礼講の席で、他の妖怪のやっている悪趣味な趣味を真似してみようと言う企画だ!
人間は蚊帳の外、妖怪だけの秘密の集会だ!
ここにいる奴らはみんな共犯者だから、人間どもにバラすんじゃないぞ~」
((( おーっ! )))
「よーし、ノリの良い奴らは大好きだ! 愛してるぞお前達!
うちに来て、メイド妖精達をフoックする権利をやろう!
それはさておき、今回の趣味を真似られる悪趣味野郎は……スキマ妖怪、八雲紫!」
「ふふ、光栄ですわ。今日ばかりは、賢者はお休み。みんなで楽しみましょう!」
「ちなみに、前回はさとりの読心祭りで、初回は私のモケーレ・ムベンベごっこだったな。
私のモケーレごっこが悪趣味だと言うのは納得行かないが、そう言う意見もあるのだろう。
……さて! 今回の犠牲者はみんなご存知、黒白G系魔法使い・霧雨魔理沙だ!」
((( おぉー!? )))
「あの秘密主義な大泥棒の生活を盗み見て、ついでに弱味も握って弄ってやろうと言うわけだ!
もちろんリアルタイム生中継で!……と言いたいところだが、それは技術的に無理だったため、録画になった。許せ。
だから、内容的には『密着24時』になる。それでもいいかなー?」
「「「 いいですとも!! 」」」
「よーしお前ら、微妙に間違ってるが愛してるぞ!うちに来て美鈴をファoクしていい!
……じゃ、続きの説明はパチェに投げるわ。私もケーキ食べたいし」
普段は苦労して出そうとしているカリスマを全力で投げ捨てて、ぴょこんと壇上を降りるレミリア。
代わりに壇上に上がったのは、パチュリー、アリス、にとりの地霊殿サポート組だった。
その手にはビデオテープが握られており、それを掲げながら説明の続きを開始する。
「今回の企画は、さっきも言った通り魔理沙の私生活を勝手に盗み見ようって企画よ。
私、アリス、にとりの三人組で、映像を録画できる特別な人形を作成。魔理沙に渡したの。
渡したのが23日だから、一昨日の昼から今朝にかけて撮れてるはずよ。
紫の覗き見体験だから、ノーカットで楽しみましょう。私達も中身は見てないわ」
「盟友のプライベートを覗くのは気が引けるけど、企画なら仕方ないね~……と言う口実。楽しかったです!」
「ま、あの黒いのもたまには迷惑を受ければいいんだわ。
こまめに遊びに来るし、こちらも軽く迷惑をしてるからね」
「企画が決まってオファーが来た時、使える機械がビデオデッキとビデオカメラしか無かったから録画のみになったよ。
技術的なってのは、ここかな。次回があったら、今度はマイクもつけたいなぁと抱負を語っておきます。
……お館さん、説明はこんな感じでいいかな?」
「オーケーオーケー、説明ご苦労!
んじゃみんな、手元に酒とつまみと甘い物はあるな?
万が一吹き出しても、他人に毒霧を吐くんじゃないぞー?
毒霧を吐いた奴は不夜城レッドの刑に処するからな。
前置きが長くなったから、さっさと始めるぞ~」
大ホール備え付けのスクリーンが天井から降りてきて、照明が落とされる。
撮影班がリモコンを片手にビデオデッキ前に陣取って、悪夢の上映会は開始された。
***
動画が始まると、パチュリーが映っていた。
クリップボードに日付が提示されて、「魔理沙が来るので撮影スタート」と書かれている。
パチュリーが人形を手に持ち周囲を見回させると、ニヤニヤ笑いを浮かべたアリスとにとりが居る。
2人が本棚の向こうに隠れてしばらくすると、図書館の扉が開かれて、バスケットを片手に下げた魔理沙が入ってくる。
バスケットを机の上に置き、帽子を外してパチュリーに挨拶をしている魔理沙に、パチュリーが鷹揚に返している。
確かに音声は無いものの、画質は非情に鮮明で色もちゃんとついている。
モノクロの可能性があっただけに、参加者はホッと胸を撫で下ろした。
「しばらく雑談しかしてないから、ここら辺は早送りするわよ。
端的に言うと、魔理沙がお土産片手に本を借りに来たのよ」
「人形の名前は……上海型28号だから、単純に上海人形でいいわね。まあ最高の上海人形よ」
ついでに、最近は強奪はしなくなったと説明を加えるパチュリー。
動画内の魔理沙が帰ろうとした辺りでパチュリーが人形を取り出して魔理沙に手渡した。
「アリスの忘れ物って口実で渡したわ。近所だから会えるでしょって。
実際のアリスは図書館にお泊まりをしたから、会えないんだけどね」
上海人形がふわふわと浮き上がり、魔理沙の肩に止まる。
横を向くと、ニカッと笑って上海の頭を撫でる顔がそこにあった。
バスケットを置いて本を数冊持ち出し、今度こそ帰る魔理沙。
ニヤニヤ笑いを魔理沙の背中へと送るパチュリーが扉の向こうへと消えて、人形の視点は正面に戻った。
「お土産の中身は金平糖だったと付け加えておくわね。3人で頂いたわ」
しばし早送り、魔理沙の自宅。
自宅に戻り、帽子と箒、マフラーやコートをハンガーにかけて身軽になる魔理沙。
机の上には大量の紙片が並べられている。ざっと眺めただけでも50枚以上はあるだろうか。
見慣れない紙片に、レミリアを始めとした数人が疑問の声を上げる。
「あれは……葉書かしらね? パチェ、あれは何?」
「年賀状ね。年明けに、新年の挨拶をするための手紙よ。ほら、去年も貰ったでしょう?」
「ああ、そう言えば……って、あれ全部!?」
「レミィにはとても不可能な芸当ね。爪の垢でも舐めさせてもらったら?」
「うるせー。そう言うのは咲夜にやらせるからいいんだよ!」
参加者の中にも、そろそろ準備しなきゃなぁと言った顔がチラホラと見える。
作業机の端に人形を置き、そのうちの一枚を手に取る魔理沙。
表面を軽くなぞってインクの乾きを確認し、満足したように一つ頷くと、
全てを丁寧に仕舞い、手提げに入れてハンガーにぶら下げた。
「どうやら、年賀状は既に作り終わったようね。
床に置いては汚れるから、風通しの良い所にまとめて保管したんでしょう」
「見た目と性格に寄らず、マメだねぇ」
「四季様もあれくらいマメならなぁ……」
「あれ、あの閻魔様は違うの?」
「ああ。仕事はかっちりやるけど、私生活はダルダルだよあの人は。
それだけ激務って事なんだろうけどさぁ、買い物をジャージでこなすのはやめて欲しいね」
「うわー、引くわー」
「小町ー、何の話をしているのですかー?」
「何でもないっすよー」
音声の無い画像だけの動画だと、必然的に雑談が増える。
その様子を見て、次回も音声は無しでいいかもしれないとにとりは考えていた。
「雑談もいいけど、話が進むぞー」
それからは、特に動きは無かった。
葉書を仕舞った魔理沙は、エプロンを取り出して台所へと向かい、食事を作り、食器を洗って、借りてきた本を読み始めた。
しばらくは、早送りをしてもページをめくったり、本棚から資料を手に取るなどの動作しかしておらず、
見ている側としては退屈なシーンが続いた。
パチュリーとアリスには興味深い所があるのか、時折動画を止めたり巻き戻したりして魔理沙の行動について軽い議論をかわしている。
しかし、残りの面子は雑談に余念が無い。
「人は見かけによらないって言えばさ。魔理沙って、お菓子作りが上手だよね」
「編み物とかもするよね。魔理沙がつけてるマフラーとか手袋って、全部手製でしょ?」
「あれ、アリスさんが作ったんじゃないんだ。てっきりそう言うのかと」
「ほら、人里の霧雨道具店ってあるじゃない? あそこの一人娘だったらしいよ」
「だった……って事は、家出?」
「いや、魔法使いになりたいって言ったら勘当されたんだって。何かに書いてあったよ」
「求聞史記かな? 作者も出典はうろ覚えだってね」
「まあ、手先は器用だと思うよ。あの店って評判良いし。小さい頃から仕込まれてるんじゃ……」
「あら? お、お、お、おぉぉぉぉぉー!!?」
「やった、やったわよ! 素晴らしい成果だわ!」
突如として、動画を食い入るように見ていた魔女2人組から歓喜の声が上がる。
そこには、居間の机の下に潜りこみ、床板をそっと外す魔理沙の姿があった。
床板によって隠されていた場所には隠し階段があり、ランプを片手に魔理沙が下へと降りていった。
「「「 おおー!! 」」」
魔法使いの隠し部屋!
和やか雑談ムードだった者達も、身を乗り出して動画に釘付けとなった。
「隠し階段、隠し部屋よ! つまり、あの先は魔理沙が持って行った物の貯蔵庫になっているはず!」
「上海、行け!行くのよ!」
「こいつは楽しくなって来たね!」
録画された動画なのだから指示はできないのだが、上海人形はその命に従うかのようにフラフラと魔理沙の後を追って行く。
先を行く魔理沙の肩に掴まると、驚いたような顔をした後、「仕方ない奴だな」と言った感じの表情をして、更に先へと歩を進めた。
地下数メートルほどの場所にあったのは、書庫だった。
本を湿気その他の劣化から防ぐ魔法がキッチリとかかっているのを確認し、パチュリーは胸を撫で下ろした。
「本は大事に保管されてるらしいわね。ほっとしたわ……」
魔理沙は据え付けられた本棚の中から数冊の本を取り出すと、踵を返して退出した。
隠し部屋への扉が開き、閉じるまでは僅か数十秒程度の時間に過ぎなかったが、
参加者の興奮はその短い時間で鰻登りに上昇していた。
「隠し部屋はいいねぇ。男の子のロマンだよ。もちろん、女の子にもね!」
「女の子って年かい!でも、何というか……他人の秘密をスキマから覗くのって、楽しいね!」
「ええ、止められませんわ。幻想郷の監視にもなりますし、一石二鳥です。
……まあ、見たくないものもたまに見えるのですが」
「例えば?」
「宴会の最後に待っていたマスターリバースだとか、バカップルのいちゃつきだとか、クリオネ妖怪の食事シーンだとか……
見ていて、あんまり気分は良くないですね。ええ」
「うへぇ……」
再び雑談タイムに突入する。
動画内の魔理沙は、のほほんと日常を過ごしている。
夕方になって部屋が暗くなってきた辺りで、再び料理をして食べて、
何やら仕込みをして、お風呂に入り、寝間着姿で本を読み、いくつかの実験をして、ベッドへと入って行った。
「意外と、あったわね」
「そうね、意外とね」
「数年後が、楽しみかもしれないな」
「魔理沙って、部屋着はドロワじゃないんだね」
思わず見えたお色気シーンに興奮するバカに対して、レミリアから叱責が飛ぶ。
「こら、そこのエロオヤジども!そう言う話題は酒を飲みながらにしろ! 飲んでるかーい?」
「「「 飲んでまーす! 」」」
「ならよろしい。猥談でも何でもするがいい! が、今までのはあくまでも前哨戦。
クリスマスイブ当日、つまり昨日が本番だ! まだ酔いつぶれるんしゃないぞ!」
「「「 おー! 」」」
そして、動画内で夜が明けた。
朝、日が登る前に起き出した魔理沙は、軽くシャワーを浴びて歯を磨いた後、いつもの格好に着替えて台所に向かった。
そこには前日に仕込みをされていたケーキとクッキーの生地が置いてあり、炉に火を灯せば菓子作りができる状態になっていた。
意外と可愛らしい黄色の花柄ミトンを取り出し、作業を開始する魔理沙。
その手つきは熟達しており、菓子作りを趣味にしている妖怪達を唸らせた。
複数のコンロを同時に使い、まるで魔法を使っているかのように次から次へと作業を進めて行く。
朝食も同時に作っているらしく、米を研ぐ、砂糖を煮詰める、味噌を溶かす、
カラメルを型に流し込む、米を炊く、クッキーをオーブンに入れると、八面六臂の行動をしている。
その様子は、メイド長さながらだった。
「魔理沙って、こんなに料理が上手かったのねぇ……」
「神社の宴会とかだと、食べて飲む側にいたから分からなかったね」
「以前、宴会の台所でヘルプを出した時に来てくれたんですけど、霊夢さんに追い出されてました。
てっきり、下手だからかと思ったんですけど……」
「霊夢が? 何で?」
「さぁ?」
「その謎も、今日解けるかもね。動くわよ」
料理が終わり……早送りにすると、本格的に訳が分からない……冷蔵庫に焼き菓子を入れて一息をつき、朝食を食べた後のこと。
机を綺麗に拭いてから取り出したのは、トランプ大のカード数枚だった。
上海人形がそれを確認する前に懐へと収めて、本と袋詰めにしたクッキーをバスケットに入れると、魔理沙は元気良く家を飛び出した。
向かう先は、昨日と同じ紅魔館だ。
鼻歌混じりに機嫌良く飛び、門の前に着地。門番に挨拶をして入ろうとして……止められた。
「昨日は、招待状が無い客は入れちゃダメと厳命しておいたわ。
招待状をしつこく確認されたでしょう?」
ああそう言えば、と言う声がチラホラと上がる。
これも仕掛けの一部だ。
「元々、妖怪主催のパーティーだしね。あえて魔理沙にだけ招待状を送らなかったの。
こうすれば、色々見れるでしょう?」
「つまり、意図的にハブにしたってわけか。酷いなー」
「鬼ー、悪魔ー、人でなしー、吸血鬼ー、かりちゅまうー☆」
「最後のはマテやゴラァ!……とにかく、これで面白い絵が取れるでしょ」
「レミィ、口調が安定してないわよ」
「男口調はカリスマ感があって好きだけど、疲れるのよ」
画面の中では、魔理沙と美鈴が押し問答を繰り広げていた。
魔理沙がミニ八卦炉を構えたかと思えば、美鈴も真剣な表情で構えを取る。
画面越しにも現場のピリピリと緊迫した雰囲気が伝わってきて、一同はごくりと息を飲んだ。
その緊張感が最高潮に達し、すわ一戦交えるか!? と思った瞬間、魔理沙がふっと肩の力を抜いた。
「美鈴。魔理沙には何と言ったの?」
「『今日のあなたは招かれざる客です。早急にお帰りを!』と。
割といつも通りの口上ですが、気合を篭めてみました」
「中々格好良いわね。よくやった、見直したわ」
「ありがとうございます。
その後、パーティーに出るのにも招待状が要るのか? と聞かれたので、そうだと答えました。
あと、参加者についてもいくつか。それを聞いて、諦めてくれたようです。
パチュリー様に本を渡してくれれば、バスケットの中身を好きにしていいと言われたので、門番隊のみんなで有り難く頂きました」
「そうか、ご苦労」
「ちょっと心苦しかったですけどね……途中で霊夢さんが来たので、通しましたし」
動画をよく見てみると、確かに先ほどの睨み合いの横を何も気にせずに霊夢が通過していた。
門の内側で睨み合いの様子を眺めていた霊夢だったが、魔理沙が諦めたのを見て一瞬驚いたような表情をしている。
普段はクール、と言うか冷淡な巫女だけに、意外なリアクションが拾えたものだ。
「朝っぱらから、霊夢は何をしに来たの?」
「暇だからって、図書館で本を読んでいたわ。途中で帰ったけど」
「霊夢も本を読むのねー……さて、魔理沙のリアクションはっと」
激昂するか、マスパをぶちかますかと思われた魔理沙だったが、意外や意外。矛を収めて踵を返した。
上海人形の視点からは、魔理沙の背中に対して本気の威嚇をしている美鈴の姿と、
こちらを無表情に眺めている霊夢しか見えず、魔理沙の表情は見えなかった。
「上海、そこは魔理沙の顔を映すところでしょ! 何やってるの!」
「まあまあ、落ち着いて。これはこれで面白いし?」
そのまま自宅に帰った魔理沙は、机に頬杖をついてしばらくボンヤリとしていた。
予定が無くなり、時間を持て余しているようだ。
料理の本を片手に煮詰めた砂糖で飴細工を作ったり、昼食を作ったり、魔法の実験をしたりするが、全くはかどらない。
昼を過ぎて手帳を取り出した魔理沙は、冷蔵庫の中身を見ながらサラサラとメモを取り、箒を片手に外出した。
行き先は人里だ。
「買い物、でしょうね。お金はどうしているのかしら?」
「あ、私知ってるよ。幻想郷各地から拾ってきた金属を、ミニ八卦炉を使って錬成して、香霖堂経由で鍛冶屋に売ってるの!
幻想郷は金属が貴重だから、生活費に困らないくらいにはなるらしいよ!」
「それは……真似しようにも、ちょっと難しいわね」
「資金源のかすめ取りは無理か……」
そんな会話をしているうちに、魔理沙は手早く買い物を終わらせて帰途についた。
時刻はもう夕方前、日が傾き始める頃合だ。
移動中にもチラホラと紅魔館に向かう人妖が見え、それを遠くから眺めては遠い目をしている。
「意外とさみしんぼなのね~」
「今度会ったら、思う存分からかってやりましょう。もう、ネチネチねちねちと」
「悪趣味だね~」
「次回の悪コンはこれで決まりかな?」
悪コンとは、悪趣味妖怪コンテストの略である。悪斬コントロールの略ではない。
動画内の魔理沙は一度帰宅して荷物を置いてから、クリームが完全に固まったケーキを冷蔵庫から取り出し、
予め作って会ったらしいトッピングや、小さなサンタとトナカイなどを置いてゆく。
白いクリームの端々にイチゴを乗せれば、オーソドックスなクリスマスケーキの完成だ。
完成品をノートに写生した後、切り分けて包装して箱に詰める魔理沙。
どうやら、森近霖之助の元におすそ分けをしに行くらしい。
外ではおりしも雪が降り始めており、ホワイトクリスマスと洒落込めそうな天気になっていた。
「あの店主さんも、クリスマスに独り身なのかな?」
「何か、クリスマスそのものを理解していなさそうでもあるわね。
単に、偉い聖人の記念日程度に考えているんじゃない?」
「有り得る! あの朴念仁に、ロマンチックなクリスマス何て期待しちゃいけないよ!」
香霖堂に到着した魔理沙は、挨拶もそこそこに雑談を開始した。
雰囲気は非常に楽しげで、魔理沙の頬も軽く朱がさしている。距離も近い。
それはまるで、恋人同士の語らいのようだった。
予期せず唐突にやってきた面白そうな場面に、黄色い歓声と一緒に会場のテンションも上がる。
「……と思ってた時期が、私にもありました」
「なになになに、やっぱりあの2人ってそういう関係なの!?」
「ひゃっはー!こいつは明日から取材祭りを敢行するしかねぇー!」
「記事ができたら買うわ! 早く取材に行きなさい! Hurry Hurry Hurry!」
「みんな静かに!2人の会話が止まったわ!」
会話が止まった頃合を見計らってか、霖之助の方から何かを催促するような動作をする。
それを受けて少し神妙そうな表情になった魔理沙は、帽子の中からケーキの包みを取り出した。
視線だけで開けてもいいかと問いかけた霖之助に、魔理沙がこくりと頷く。
箱を開けて中身を確認した霖之助に、魔理沙が何事かを問いかけると、その頭に手が乗せられた。
また顔を赤らめながら、魔理沙もそれを享受している。
「いいねいいね~ 外の世界ではとんと見なくなった、まさしく青春ってやつだよ。応援したくなるね~」
「その発言、ちょっとおばさん臭くないかな?」
「なにおー!」
「はいはい、痴話喧嘩はまた後日やってね」
『もういいだろう!』と言った感じでの、少し怒って見せたような動作でそれを振り解いた魔理沙は、もう一つの箱を取り出す。
霖之助がそれも受け取って備え付けの冷蔵庫に入れたのを確認し、魔理沙は席を立った。
少し不安そうな、それでいて寂しそうな表情が垣間見えたが、深く被った帽子で細かな表情は見えない。
「回り込め、回り込むんだ上海! そこで顔を映さないでどうすると言うのだ!」
「上海! 顔よ、顔を狙うのよ! 顎を狙って、掬い上げる様に打つべし、打つべし、打つべしぃぃぃぃ!」
「まっくのうちっ! まっくのうちっ! まっくっのっうっちっ!」
「お前ら、落ち着け」
動画の中の魔理沙は、帰ろうとして箒を掴んだ辺りで霖之助に呼び止められたらしく、
疑問顔でクルリと振り返って、霖之助の方に視線を送る。
その魔理沙の手を取り、霖之助が小さな小箱を握らせた。
大きさは手に平に収まる程度の大きさで、白い包み紙で丁寧な包装をされている。
魔理沙が目線で問いかけると、霖之助が大きく頷く。
包装をそっと剥がすと、中には小さな指輪が入っていた。
魔理沙の表情が、驚愕に歪む。
会場の空気も、熱狂に歪んだ。
「「「 キター!!!!!! 」」」
「指輪、指輪よ! メイン指輪来たわ!」
「ただの贈り物じゃないわよね! そうよね! これってそうよね!」
「妬ましい、妬ましい、妬ましい!」
「ひゃっほーう! テンション上がって戻ってこないぃぃぃぃぃ!」
「はたて、私1人では無理だわ! 手伝いなさい!」
「もちのロンよ文! ロンどころかフリテンツモしてくれるわ!」
「こりゃあ、天狗の新聞もミリオンヒット達成かな?」
「リア充死ね! 氏ねじゃなくて死ね! 爆発四散しろ!」
画面の中の魔理沙も、泣き笑いのような表情で霖之助の胸に飛び込んでいる。
その魔理沙の頭を優しく撫でて、彼女が落ち着くまで待っている霖之助。
動画が一時停止されて、そのシーンを流し続ける。
虹川三姉妹の演奏も相まって、会場のテンションは収まるところを知らず、雑談と黄色い悲鳴は留まるところを知らなかった。
「ま、まさか、魔理沙に先を越されるとは……」
「くっくっく……今度図書館に来たら、弄り倒してくれるわ……」
「手伝うよ、盟友もどき……ふはははは……」
パルパルする者もいたりいなかったり。
十数分後。全員が酒なりお茶なりで喉を濡らし、真冬にも関わらず窓を全開にして熱気を冷ました辺りで上映再開となった。
全員の期待は、もちろんこの後に続くであろう濡れ場である。
「いやー、さっきエロオヤジ発言は酒を飲んでからにしろって言ったけど……」
「耐え切れなかったわね~ ま、酒を飲んでエロビデオでも見ますか~」
「うちの姉ちゃんが!……じゃなくて、うちの友達が、AVに!」
「気まずいわね~ でも悪趣味でいいわね~」
「紫は趣味は本当に悪趣味だなぁ~」
「紫の服装は悪趣味だなぁ」
「紫は悪趣味の塊だなぁ」
「紫って悪趣味だよねー」
「……怒ればいいのか、泣けばいいのか……」
「笑えばいいと思うよ。リスタートっと」
動画を再開させても、しばらく動きは無かった。
先に動きを見せたのは魔理沙の方で、霖之助の胸元で何かをぐしぐしと拭いた後に、体を離した。
包装紙を丁寧に元に戻し、持っていた赤いリボンを結びつけた後に、懐に仕舞い込んだ。
そして改めて頭を撫でている手を弾き、幸せそうな笑顔で出て行った。
上海は置いて行かれないように必死に頑張っているようだが、会場は総拍子抜けである。
「あれー? あの雰囲気だったらもう行く所まで行くと思ったのにー」
「行かなかったわねー それはそうとして衣玖ー お酒お代わりー」
「いやですよ。ご自分で注いで下さい」
世にも幸せそうな表情で空を飛んでいた魔理沙だったが、
魔法の森に戻って来た辺りで興奮も収まってきたのか、表情が沈んでくる。
もう少し行けば自宅、と言う辺りで進路を変更し、霧の湖方面に出た。
霧の湖を挟んだ向こう側には紅魔館があり、照明によって煌々と照らされて非常に華々しく見える。
日が沈み始めた辺りから雪も降り始めていたため、遠くに見る紅魔館はまるで夢の中のお城のようで、その印象がより強い。
それを眺める魔理沙の表情は、まるでウインドウ越しに手の届かない値段のおもちゃを眺める少年のようだった。
遠目にもチラホラと参加者が到着していることが分かり、その度に心成しか明かりの煌びやかさが増しているようにも感じられた。
ホバリングをしてそれを眺めていると、誰かに呼び止められたらしく魔理沙が振り返えった。
上海が視線を変更すると、買出しの後と見える咲夜の姿があった。
気を利かせたのか何なのか、2人の表情が見える位置に視点が移動する。
「その気の利かせ方を、さっき見せてくれれば……!」
「改良の余地ありね。次の子はもっとうまくやるでしょう」
「もう幕之内コールはしたくないねぇ~」
咲夜が紅魔館を指して何かを話すのに対して、魔理沙はいつも通りの皮肉交じりのにやけ笑顔を見せて肩を竦める。
それに対して整った眉をしかめた咲夜は、また何かを聞く。
肩を竦めたままゆっくりと首を横に振る魔理沙に対して、咲夜が頭を下げる。
どうやら、招待状が無いからパーティーに参加できない事を謝罪しているらしい。
その咲夜に対して、魔理沙は家を出る前に懐に入れていたカードの束を手渡した。
微妙な表情をしてそれを受け取った咲夜に対して、クルリと魔理沙が背を向ける。
その魔理沙の肩に咲夜が手をかけ、呼び止める。
魔理沙からは見えていない様子だが、横からの視点では、
咲夜がつい先ほどまて持っていなかったマフラーを手にしているのが分かる。
それを後ろから魔理沙の首にかけて、そのまま小さな体を抱きしめる咲夜。
帽子とマフラーに隠れて2人の表情は見えないが、しばらく時間が止まったようにそのまま動かなかった。
「咲マリ、咲マリね!」
「注意書きと違うわよ、一体どういう事なの!?」
「咲夜さん、最近編み物をしていたから私へのプレゼントだと思っていたのに……」
「うー、私へのプレゼントだと思ってたのに……」
「良い嫉妬ね。天狗、あの2人の嫉妬顔を後で現像してくれたら買うわよ」
「はーい。お買い上げありがとうございま~す」
額にキスを一つして、咲夜が魔理沙を離す。
それからは何も起こらず、2人とも手を振ってそれぞれの家へと戻って行った。
「咲マリでも無し、か……おーい、そこの吸血鬼と門番。いい加減帰って来なさいよ」
「「 パルパル、パルパル……はっ!? 」」
自宅に戻った魔理沙は、台所へと直行した。
多めに作ってあったらしい昼の残りを暖めて食し、食器を片付けて、冷蔵庫からケーキを取り出した。
切り分けた後のためそこまでの量があるわけでもないが、それでも1人で食べきるにはやや多い。
それをしばらく眺めた後、頭を掻きながら溜め息を一つついて冷蔵庫へと戻す。
上海を居間に残して風呂場へと向かう魔理沙を全員で見送った後は、雑談が始まる。
「このまま待ってれば、面白い物が見れそうね」
「大量にあるクッキーと、食べきれないくらいのケーキ。
これはつまり、寂しいクリスマスが見れるってわけだ!」
「いやーっはっはっは……自分で味わうのは御免だけど、大人数で他人のを眺めるのは楽しみだなぁ!」
「まさか、それを後味が悪いなんて考えるヒューマニストはここにいないな?」
「「「 まさかぁ! 」」」
「お前達、本当に最低だな! うちに来てフラン……の代わりに私をファックしていいぞ!」
そう叫んだレミリアが、モッシュだダイブだと集団に飛び込んで行く。
帽子がどこかに行くほどもみくちゃにされながらも、楽しそうだった。
騒ぎが落ち着くまで少し待って、視聴が再開される。
動画の中では全員の予想通りの展開が繰り広げられていた。
バスタオルと厚手のパジャマに包まれた湯上り魔理沙が居間に姿を現して、台所の隅からワインを取り出してくる。
冷蔵庫から再び取り出されたケーキを適度な大きさにお皿に移し替え、クッキーを皿に少量盛り、
寝室からキャンドルを数本取り出してきてケーキの周りに並べて点火した。
ケーキ本体にも数本のキャンドルが刺され、ケーキ全体を明るく照らしている。
部屋を照らすには光量が足りないが、それが逆に良い味を出している。
その他の照明を消してカーテンを降ろせば、ロマンティックな雰囲気のあるクリスマスの食卓が姿を現した。
散らかっている部屋も、キャンドルの小さな灯りだけでは細部が分からない。
むしろ、ボンヤリと浮かび上がる家具の輪郭は見る者の想像をくすぐり、幻想的な雰囲気に拍車をかけていた。
しばらくはそれらを寂しそうに眺めていた魔理沙だったが、
上海人形が自己アピールをしたらしく、目元を拭ってくすりと笑い、上海の額をつんつんと突いた。
人形の頭を撫でながら指輪の入った箱を手元で玩び、大人びて見える物憂げな表情をして物思いに耽り始めた。
それだけなら、非常に絵になる光景だっただろう。
しかし、それを見る観衆達は笑いを堪えるのに必死だった。
「くっ……ぶはははははは! あの魔理沙が! いっつも男勝りな口調でだぜだぜ言ってる、あの魔理沙が!」
「キャンドル……くっくっく……あーっはっはっは! 似合わない、似合わないわ!」
「しかも、あれって、ぜひっ、アロマでしょ!? 腹が、捩れる……!」
「笑うな、笑うんじゃない! ……ぷっ……ぷふぅー!」
「クリスマスイブの夜に! 1人で! アロマキャンドルを立てて! ケーキとクッキー! ……わははははは!」
「1人じゃないわよ! 人形、人形もいる……あははははは!」
「本職の人形遣いか人形の妖怪ならともかく、あんたはただの魔法使いでしょうに!」
「圧倒的な優越感! 悪趣味、悪趣味だわ! この企画を考え付いた、我を褒め称えよ!……うー!」
「そのうーうー言うのを止めなさい!」
「よし、その突っ込みを待っていた! 愛してるぞゴラァ!」
訂正、笑いをサッパリ堪えなかった。全くもって酷い事に、会場は大爆笑の嵐だ。
数人が耐え切れずに口に含んだ飲み物を噴き出してしまい、
不夜城レッドの刑 (両手両足を十字架形にホールドされての全身くすぐり地獄) に処される。
それがまた大爆笑に拍車を掛け続け、箸が転がっても腹が痛い。
しまいには自らゴロゴロ転がる者まで出始めて、今日最大の爆笑は留まるところを知らなかった。
魔理沙が物憂げな表情で溜め息をつき、キャンドルから流れ落ちる蝋を指でつついて遊んだりと、
様々なモーションをする度に参加者のツボを刺激して止まない。
普段なら眉をしかめる者も、酒の勢いもあって大爆笑をしている。
それについていけない者は部屋の隅で静かに飲んでいるが、僅かに4人と圧倒的に少数派だった。
「あっはははははは! ……ん? 窓の外、何か見えなかった?」
「……お?」
笑いながらも動画を見ていた誰かの指摘で、少しだけ巻き戻しが入る。
全員が腹筋を一段落させるためにもそれに集中すると、確かに窓の外に何かがあった。
チラチラ中の様子を伺っているのは、七色に輝く羽のようにも見える。
魔理沙もそれに気がついたのか、ニヤリと笑うと厚手のケープを羽織り、
ドアの鍵を外した後に外からの死角となる窓の下に待機した。
しばらくしてドアがノックされたらしく、上海の視点がそちらへと向く。
視点が元に戻るとそこには魔理沙の姿は無く、代わりに開いた窓が見える。
それから少しの間があり、魔理沙にお姫様抱っこをされてはしゃぐフランドールが中へと入って来た。
どうやら、訪ねて来たフランを後ろから驚かせたらしい。小傘に見習わせたいほどの手腕である。
しかし、もっと驚いたのはレミリアだ。
「フラン?! パーティーの間はずっと館にいたと思っていたのに……美鈴!」
「わ、私も知りませんでしたよ! 妹様のお世話は咲夜さんに一任していましたし……」
「咲夜に? ……今のフランは?」
「お部屋でお休みになられています。沢山の人の前に出られたので、お疲れになられたのかと」
「そう。それなら、とりあえず今はいいわ」
扉をキッチリと施錠し、珍客を椅子に座らせる魔理沙。
フランの格好は地下からそのまま飛び出したかのように軽装で、吸血鬼の能力をしても寒そうだった。
それを感じ取ったらしく、魔理沙は少しだけ震えているフランの手を取り、自分の頬に当てた。
ぼうっとした顔で眺めていたフランだったが、ハッと気がついて、手に持っていた手提げ袋を手渡した。
中に入っていたのは、包装された小箱が一つ。
開けて見ると、それは宝石箱のついたオルゴールだった。
再び照明が消されて、ケーキを頬張るフランと、オルゴールのネジを巻いて音楽を聴く魔理沙をキャンドルの灯りが照らし出す。
時折フランが何かを話し、それに魔理沙が相槌を打つ。
魔理沙の返答を受けてフランが笑顔になり、魔理沙も大袈裟なモーションで冗談を言ってフランを楽しませている。
先ほどは打って変わって、動画越しに伝わってくる楽しげな雰囲気に全員が酔いしれていた。
ボソボソと聞こえる雑談の中からは、『フラマリ、フラマリなの?』と聞こえてくる。
「……ああいうのが良いのなら、言ってくれればうちでもできるのに……」
「レミィ、それはひがみになってしまうわよ」
「むー……分かってるわよー。でも、気に入らないわ。
もしもこのまま私の大事なフランに手を出すようなら、あの黒白を八つ裂きにしてくれる!」
やはりパルパルする者もあり。
魔理沙が寝室を指して何か言うが、フランは顔を横に振り帰り支度を始める。
どうやら、お泊りは無いようだ。
紅魔館まで送るためだろうか、着替えようとした魔理沙をフランが押し留めて、
『大丈夫だよ!』と言うように得意げな顔をして、薄い胸を叩いた。
押し留められた魔理沙は苦笑して、着替えを止める。
代わりに、玄関でブーツを履き直していた軽装フランを呼び止めて、トレードマークの帽子を取り出した。
何事か呪文を唱えて印を切ったかと思うと、帽子の周りを小さな灯りが飛び回り始める。
パチュリーが解説するには、簡単な暖房の魔法だとか。
その帽子をフランの頭に乗せて、背中を押し出す魔理沙。
嬉しそうに帽子を握り締めたフランは、夜の闇へと飛び出して行く……前に、クルリと体を反転させて、魔理沙の瞼に軽く口付けをした。
唖然としている魔理沙を残して、小さな背中は夜の雪に紛れてあっという間に見えなくなってしまった。
やれやれ、と言った感じの表情を残して扉を閉めようとすると、森の向こうから別の来客がやって来た。
身長は魔理沙と同程度だろうか。厚手のローブで顔をすっぽりと隠しているが、確かな足取りで雪の森を歩いてきている。
「あれは……お姉ちゃん!?」
「覚り妖怪の姉の方か。わざわざパーティーを抜け出してきたのかな?」
ローブの人物は、古明地さとりだった。
その厚手のローブは防寒具としての意味合いもあるのだろうが、身元を隠すための隠れ蓑としての意味もあるのだろう。
地下だけに留まらず、地上でも彼女の悪名を知っている人妖は多い。当然の配慮だろう。
その人物がさとりだと気がついたようだったが、魔理沙は何のてらいも無く扉を開けたまま中へとさとりを誘った。
うっすらと笑みを浮かべたさとりは、ペコリと頭を下げて中へと入った。
「意外な交友があったものね……というか、"あの"さとりが何の用だ?」
「雰囲気から察するに、友達に会いに来た感じでしたけど……」
会場内の視線が、部屋の隅へと殺到する。
そこには珍しくパーティーに参加しているさとりの姿があり、狂乱とは無縁の静かな酒宴を楽しんでいた。
しばらくは視線を無視していたさとりだったが、集まり続ける視線に嫌気が差したのか、正面からそれに相対して一言呟く。
「……何か?」
「「「 いえ、何でもありません! 」」」
触らぬ神に祟り無し。そちらの不機嫌なさとりは無視して、上映会は続く。
家の中に招かれたさとりは、ローブについた雪を丁寧に払ってコート掛けにそれをかけて中に入った。
勝手知るように椅子に腰を落ち着けたさとりは、小脇に抱えていた袋を取り出した。
それを渡そうとするさとりに対して、手の平をピッと出して待ったをかけて魔理沙は、奥から似たような袋を取り出してくる。
「プレゼント交換……!」
「クリスマスって感じね~」
「……まあ、違うんですけどね」
さとりの呟きに反応したのは、一緒に酒を飲んでいた3人だけだった。
さとりと魔理沙が取り出した袋の中身は、毛糸の編み物だった。
さとりはマフラー、魔理沙はセーターをそれぞれ手にしており、両方ともそのまま店に並べても構わないほど見事な出来だった。
それを手に取り、手触りや強度を確かめていた2人だったが、満足したのか互いに笑顔で握手を交わした。
さとりの持ってきた編み物に何か魔法をかけた魔理沙がそれをさとりに返し、さとりが両方を仕舞い込む。
水に強くなる魔法だろう、とそれを見ていたパチュリーが解説を加えた。
プレゼント交換では無い?
一同がそう疑問に思っていると、ケーキを食べ終わったさとりがさっさと帰り支度を始めていた。
フランと同じように見送りの準備をしていると、さとりがふっと外を指差した。
その隙にさとりは机の上に小箱を一つ置き、横を向いている魔理沙の頬にキスをした。
フェイントに引っかかったと理解した魔理沙が視線を正面に戻すと、さとりは既に玄関で靴を履いており、
ペコリと軽くお辞儀をして雪の中に消えてゆくところだった。
そのさとりに慌てて二本の棒を投げると、予期していたさとりはそれを無事にキャッチ。
親指をグッと上げた魔理沙がさとりに何か声をかけて、寒そうに腕を擦りながら扉を閉めた。
扉の向こうに消える寸前に見えたさとりは、今度は深々と頭を下げていた。
それを魔理沙が見ることは無かったが、机の上にいつの間にか置かれた小箱を見て、再び苦笑をした。
中身を取り出してみると、それは小さなプラネタリウムだった。
ミニ八卦炉を中に入れて光を灯すと、部屋の中に小さな流星群が乱れ飛んだ。
元の席に座ってそれを眺めていた魔理沙は、嬉しそうにそれをオルゴールの横に置いた。
「うーん……不思議な感じね」
「さっき魔理沙が投げたのは、編み物に使う編み棒だね。何でそんなものを?」
「分からん、あいつの交友関係がさっぱり分からん……」
さとりが帰ってからしばらく。
キャンドルを片付けた魔理沙は、暖炉に火をつけて椅子に座って編み物を始めた。
本を机に置いて読みながら、時折ミルクティーを飲んでリラックスした表情で手を動かしている。
さながら孫に物語を聞かせる祖母のような落ち着き方だが、妙に板についていた。
「に、似合わない……。確かにいつもの格好はそんな事をしていそうな格好だけど、似合わないわ……」
「いやいや、落ち着け、落ち着くんだよ。もしかしたら、いつも我々が見ている魔理沙は彼女の一側面に過ぎず、
今こうやって見ている彼女こそが本当の魔理沙なのかもしれない!」
「な、なんだってー! って、まっさかぁー! あんな男勝りに、乙女だとかお淑やかだとかは似合わないよ!」
「ま、そうだね~」
編み物をしているうちにうとうととしてきた魔理沙は、手足を伸ばして伸びをした。
時計を見てみると時刻はもう9時を回ろうとしており、一般的にはもう寝ている時間だ。
魔理沙もそう思ったのか、洗面所へと入って行った。
上海の視線には、洗面所の灯りを反射して動く魔理沙の影だけが映っていたが、突如として目の前に遮蔽物が現れる。
青い魔術師のローブに身を包んだソレは、魔理沙が洗面所にいる事を確認して、天井裏へと消えていった。
魔理沙が顔を洗面所から戻ってくると、ドアがノックされたらしく、魔理沙と上海の視線がそちらに向く。
さすがに深夜と言ってもよい時間に訪問してくる相手には警戒をするのか、ミニ八卦炉を片手にそちらに向かう魔理沙。
ケープを肩にかけて扉の横に立ち、隠された覗き窓から外の様子を伺っている。
その、意識が外に向いた一瞬を見計らって再び現れた青ローブが、魔理沙を抱き上げてお姫様抱っこをする。
それと同時に、外からノックをしていた人物が鍵を開けて中に入ってきた。
これが害意のある来訪者だったら非常に危険だっただろうが、そう言う事は無かった。
青ローブの人物の腕の中で目を白黒させていた魔理沙が、その相手を確認した瞬間に顔がパッと輝いた。
魔理沙を抱きかかえていたのは博麗神社の悪霊こと魅魔で、中に入ってきたのは風見幽香と聖白蓮の2人だった。
魅魔に抱えられて嬉しそうにしていた魔理沙だったが、
その様子を2人に見られている事を自覚したのか、慌ててじたばたと暴れ始める。
しかし、魅魔は悪戯好きそうな……魔理沙そっくりの……笑顔を湛えたまま離そうとはしない。
そんな師弟をこれまた笑顔で見ていた2人だったが、話が進まないと思ったのか白蓮が声をかける。
ふと真顔に戻った魅魔は魔理沙を降ろして、部屋の奥へと手を引いてゆく。
殿にいた幽香が玄関をしっかりと閉じて、後に続く。
「……幽香のあんな笑顔、初めて見た……」
「姉さんも何と言うか、いつもと違う感じで、その、何と言うか……」
「お母さん?」
「そう! まるで母親か何かみたな顔をしているよ、この3人! ……あ」
『そう、それだ!』 と膝を打った数人が、恐る恐るとさとりの方を見る。
そちらにはさとりと一緒に酒を飲んでいる、たった今動画に映っている3人がいた。
彼女達も向けられた視線と意識を気にすることも無く、ゆったりと杯を傾けている。
それでも見ていると、4人の中で目配せが走り白蓮が軽く頷いた。
姿勢を正して、集中している視線に満面の笑顔を向けた白蓮は、笑顔のまま一言呟いた。
「……何か?」
「「「 いえ、何でもありません! 」」」
さとりと同じ言葉だが、結果は同じ。誰もが口を揃えて否定の言葉を出した。
『笑顔とは、本来攻撃的なものである』 との言葉が示す通りの笑顔で全てをバッサリと切り捨てた白蓮は、
満足そうに姿勢を元に戻し、幽香から一献を受け取った。
動画の中では、訝しげな顔で白蓮に質問をしているらしい魔理沙の姿を映っている。
どうやら、彼女にとっても白蓮の来訪は意外だったらしい。
その疑問に口を動かすこともなく。
白蓮は一冊の本と手紙を取り出してそれを魔理沙に渡し、一歩下がった。
その本は和綴じの冊子で、数枚の紙が挟まった小さなものだった。
それを見て、天狗2人が『アルバムだろう』と断言した。
人形の視点がそれを捕らえようと動くが、幽香に抱きかかえられてそれも適わない。
視点がそちらに向くとはっきりとした口の動きで『邪魔しちゃダメよ』と囁いた。
視点が遠くなってしまったせいで魔理沙の表情はよく見えないが、
しばらくは無表情でその本と手紙を眺めていたらしい。
そしてある程度を読み進めた辺りで、横にいた魅魔の胸に抱きつき肩を震わせ始めた。
台所から新しく紅茶を淹れてきた幽香が白蓮の横に座り、ティーカップに紅茶を注ぎ始める。
「なに、あの……あの可愛い生き物は」
「わ、分からない……新手のスタンド攻撃を受けているとしか思えない!」
「バカな、東方の主人公は化け物か……!」
静かに魔理沙の頭を撫でていた魅魔だったが、ある程度の間を待ってその後頭部をポカリと叩く。
顔をあげた魔理沙は魅魔にそっくりの笑顔を浮かべて、ちり紙で鼻をかんだ。
どうやら、鼻水を押し付けていたらしい。
その魔理沙にさりげない動作で幽香が紅茶を渡し、白蓮がケーキを取り分けた。
紅茶を飲んで落ち着いたところで、魔理沙は白蓮に対して深々と頭を下げた。
それに笑顔で答えた白蓮も、一冊の本を取り出した。
こちらは洋綴じの分厚い本で、動画越しにも強力な魔力が篭められているのが分かった。
「あれは……姉さんの魔道書だ!!」
「何ですって!?」
グリモワール・オブ・白蓮 とでも言うべきだろうか?
それは、聖白蓮の魔道を記した魔道書だった。
「私にはもう必要がありませんからね。若い人に使ってもらうのが一番でしょう」
「まあ、私達も最初はこんな事をするつもりは無かったんだけどね。
あの子ももう大人だから、最後の贈り物にってね」
「人間って、大きくなるのが早いわよねぇ。
少し前までは魅魔の巾着袋だとばっかり思っていたのに、いつの間にか……」
「そうですねぇ。お空やお燐も、魔理沙さんのように成長してくれれば良いのですが……」
グチグチと何かを言っている4人には誰も反応を示さず……だって怖い……動画は続いてゆく。
続いて幽香が小さな巾着袋を魔理沙に渡し、魅魔も大きく豪華な箱を取り出した。
それをまとめて魔理沙に押し付けて、魔理沙が目を再び白黒させている間に、
いつの間にかケーキを食べ終えていた3人は、ささっと帰り支度をしていた。
ようやく荷物を机に置いて魔理沙がそちらに目を向けると、3人は早くも外に出ていた。
魔理沙が慌ててそちらに向かうと、魅魔が魔理沙の手を取り上げて口元に持って行く。
幽香と白蓮もそれに倣って、3人それぞれ順番に手の甲へとキスをした。
混乱している魔理沙には何も言わず、3人はそのまま帰って行く。
後に残ったのは、居間でクッキーをもりもりと食べている霊夢だった。
「って、待て! この腋巫女は、いつの間に現れたんだ!?」
「にとり、巻き戻し!」
「きゅ、きゅい!? え、えーっと……」
動画を巻き戻してスローをかけてみると、3人が外に出て行く反対側、魔理沙の意識の外に白い袖がチラリと見えた。
どうやら、タイミングを見計らって亜空穴を通って転移してきたらしい。
ある意味、スキマ妖怪以上に神出鬼没だ。お前は心霊現象か何かかと。
案の定、溜め息をついて、それでも満更ではない表情で扉を閉めて居間へと視線を戻した魔理沙は、そこで固まってしまった。
何事も無かったかのように手を振る霊夢は、空になった皿を指差して何か魔理沙に要求をしている。
髪をくしゃりとしながら額に手を当てた魔理沙は、台所に向かって行きケーキを取り出してきた。
最初は1人では食べきれないほどの量があったケーキだったが、度重なる来客のせいで2人分しか残っていなかった。
それを半分に……少しだけ霊夢の方を大きく……取り分けて、霊夢の対面へと腰を降ろした。
しかし、ケーキを目の前にしているにも関わらず、霊夢の機嫌は急降下し、眉は釣り上がって行く。
机をトントンと指先で叩き、一言何かを呟いて魔理沙を困惑させている。
「霊夢のテンションがダダ下がりしたわね。早速何かやらかしたらしいわよ」
「霊夢の好悪のポイントはよく分からないからねぇ。たぶん、紅茶じゃなくて緑茶がいいって主張したんじゃない?」
「ありうる! 霊夢は何を差し入れても緑茶で飲むから……」
「クッキーやケーキはギリギリ許すけど、生チョコレートに緑茶を合わせるのはどうかと思うんだ、私は」
半眼の霊夢に催促をされたらしい魔理沙が、大儀そうに大袈裟なモーションで立ち上がる。
そして自分のケーキとカップを手に持ったまま霊夢の横に移動し、すぐ横の席に座った。
鷹揚に頷いて正面を向いた霊夢は、手を合わせてケーキに挑みかかった。
やれやれ、と呟いたらしい魔理沙も、フォークを手に取りケーキを食べ始めた。
「あれね。神社ではいつも縁側に座って並んでお茶を飲んでるから、霊夢が違和感を訴えたのね」
「ああ、なるほど! ……改めて見てみると、距離、近けぇー!」
「しかし、今日は魔理沙は顔色がコロコロと変わるな。赤だけじゃなくて、青とか白とかになれば面白いのに」
「それって死んでるんじゃないかな? 黄色とかこげ茶色になった方が健康的でいいと思うよ」
「……爆発事故にでも巻き込まれればそうなるんじゃない?」
「雷を落とされれば、黒くなるかもね」
「(ピクッ)」
「落とさなくていいからね」
ケーキを食べながら、微妙に迷惑そうな表情をして魔理沙が霊夢に何かを話す。
それに何のてらいも無い表情で返した霊夢に、魔理沙が頬を赤くして何かを怒鳴った。
手をピコピコと上下に振ってそれを適当にあしらった霊夢は、更に何かを言い募ろうとした魔理沙の口にケーキを放り込む。
勢いを止められた魔理沙はケーキをフォークごとむぐむぐと動かし、自分のケーキの味を確認していた。
そして、また何か言われて頬を赤くして今度は机に突っ伏す。
霊夢は『してやったり!』と得意げにドヤ顔をして、魔理沙のお皿に置いてあったフォークを奪い取って再びケーキを食べ始めた。
「もどかしい、もどかしい、もどかしい! やっぱり音声が無いのが物凄くもどかしい!」
「音声は欲しいけど、雑談は楽しい。ジレンマだねぇ……」
「むきゅー……。マイクの入荷を持つんじゃなくて、そういう術式を組み入れようかしら……」
技術班の三人が身悶えしている間にも、動画は進む。
とは言え、そこで繰り広げられているのは、神社でいつも見るおなじみの光景だった。
そこで話されている内容も、大体想像がつく。
魔理沙が霊夢をからかって、霊夢がそれに応えて、逆にからかいを返す。
腋や肩を肘で突つきあうような、平和な光景が繰り広げられている。
2人とも、楽しそうに笑い合っていた。
「いつも通り、いつも通り何だけど……」
「何だこの、甘ったるい雰囲気は……」
「塩辛だ! たそ、塩辛を持てい!」
画面から流れてくる甘い雰囲気に耐えかねた何人かが塩辛を取り出すと、
周囲にそれが伝播して、時ならぬ塩辛祭りが勃発する一幕もありつつ。
幻想郷きっての有名人2人の意外なプライベートを、全員が注視した。
「この霊夢、偽者なんじゃない? だって、こんな柔らかな笑顔の霊夢なんて見た事が無いわよ」
「同じく、見た事が無いね。でもそれを言うなら魔理沙だって……」
「まるで恋する乙女じゃない。はにかんだような笑顔なんて、似合わないわよ」
「恋する乙女……」
「乙女……魔理沙が乙女……似合わな……いや、しかし……」
クッキーもケーキも尽きて、未完成の飴細工を適当に割って食べていると、不意に会話が途切れる。
部屋を照らしていたキャンドルの残りも少なくなり、画面に見える時計が指す時間もそろそろ12時になろうとしている。
窓の外を見てみると、天頂に差し掛かった上弦の月から弱々しい月明かりが降りて来ている。
それを見て2人が同時に何かを呟き、驚いたように顔を見合わせて、クスクスと笑い合った。
そして、霊夢が袖の中から手の平サイズの小箱を取り出した。
「時間を気にしているってことは、プレゼントを渡して帰る気なのかね」
「泊まっていってもよさそうなものだけど、寝る場所が無さそうね」
「家事は得意みたいですけど、片付けは苦手なんですねぇ……」
「魔理沙の家に行くと、毎回何かにつまづくのよね。だから行かないんだけど」
「と言うかあの貧乏巫女、そのプレゼントはどうやって工面……ああ、スキマか」
「ええ。私だって、他人に贈り物くらいしますわ。用意したのは藍だけど」
「お狐様も、苦労してんなぁ……」
チラチラと時計を気にしていた霊夢が、おもむろに姿勢を正して魔理沙を正面から見据える。
祝いの言葉と思しき何かを言った後、魔理沙の手元に押し込むようにそれを渡す霊夢。
少し苦笑して、魔理沙も机の上に置いてあった小箱を手に取る。香霖堂で受け取った、指輪の入った箱だ。
霊夢は軽く頷いてそれを受け取り……何気ない動作で魔理沙の予備帽子を取り上げ、カメラ上海に被せた。
「「「 ぬわぁー!!! 」」」
ご丁寧に何らかの結界も張られているらしく、帽子の中で人形の動きがピタリと止まってしまう。
何とか動こうと努力している様子は見て取れるが、それでも霊夢の結界の方が強い。
全員がヒステリックに歯軋りをして、暗転した動画を食い入るように見つめ続けているが、終に画面が元に戻ることは無く。
そんな放送事故が解除されたのは、事故を作り出した霊夢本人の手によってであった。
何かを探るようにこちらを見下ろす霊夢は、底冷えのする半眼で上海と目を合わせている。
唐突に、会場に妙な静けさが訪れる。
まるで息を潜めないと実際に見つかってしまうかのように、
見ている者全員が口に手を当てて、呼吸すら止めて、じっと霊夢の視線から逃れようとする。
何かを探るように人形を見つめていた霊夢だったが、人形の視点が斜めに傾いだのを見て笑みを取り戻した。
どうやら上海人形が小首を傾げたらしく、その愛らしい動作に疑惑を忘れてくれたらしい。
会場内に妙な安堵感が充満し、部屋がホッと溜め息をつく音で満たされた。
贈り物をしまって戻って来た魔理沙がそれを見て、ニヤリと笑って右の人差し指を立てて、霊夢の肩をポンポンと叩く。
その悪戯を勘で察したのか、振り向く際に少しだけ体を起こして、頬を突つこうと持ち構えていた指に噛み付く霊夢。
噛み付かれた指を慌てて引っ込めると、よっぽど強く噛まれたのか薄く血が滲んでいた。
少し涙目になりながらそれを自分の口に銜える魔理沙だったが、
その瞬間、ニヤリと笑った霊夢に何かを指摘されて再び赤くなる。
気分を損ねたのか、ぷいっと霊夢に背を向けて寝室に向かおうとする魔理沙。
その背中を見やって、再びニヤリと笑う霊夢。
普段のゆったりとした動きが嘘のように、機敏に体を動かす。
「お?」
霊夢は魔理沙の手を後ろから握り締め、少し引っ張って魔理沙を振り向かせようとする。
少しばかりの抵抗をして、振り向かない魔理沙。
霊夢はペロリと自身の唇を舌で濡らして、更に手を引っ張った。
「「 おお!? 」」
胡乱げな表情で振り向いた魔理沙の顎にすっと手を当てた霊夢は、その唇を強引に奪い取った!
反対の手は魔理沙の首の後ろに回されて、呼吸の一つも残さないとばかりに強く抱きしめる!
「「「 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 」」」
会場のボルテージはMAXを超え、興奮のあまり卒倒する者が出るほどとなった。
きっかり十を数えるほどの間を置いて離れた霊夢は、
左の薬指につけた指輪を軽く叩いて何かを囁き、呆然としている魔理沙を残して寝室へと入って行った。
しばらく自身の唇を触っていた魔理沙だったが、意識が体に戻ってきたのか、
弾かれたようにその背中を追いかけ、人形の方に視線を向けて何かを話した。
人形が頷きを返す。
その返事に満足したらしい魔理沙は、手を上げて軽い謝罪をした後に、照明を消して今度こそ寝室へと入って行った。
「そろそろ予定の時間になるから、私のところに帰還するプログラムが働いたのね。
たぶん、魔理沙が『入って来ないでくれ』とか何とか言ったのを幸いに、抜け出すことにしたのでしょう」
「霊夢が疑っていたし、妥当なラインね。少し悔しいけど」
「上海は賢いんだね~」
「これくらいはね~……でも、凄いことになったわね!」
「すごいも何も……言葉にできない衝撃だったよ! これは後日の新聞が楽しみで仕方ないね!」
「あやややや、あやややややや、あやややや! 明日からの取材が大変でくぁwせdrftgyふじこlp!」
「そこまでよ! あなた一人に苦労はかけさせくぁwせdrftgyふじこlp!」
「落ち着け、日本語を思い出すんだ!」
窓の隙間から這い出た上海は、雪の中をフラフラと飛行して紅魔館へと辿り着き、待機していた技術班3人に回収された。
最後にパチュリーが『これにて録画終了、お疲れ様でした』とクリップボードを出して動画は終了した。
しかし、それを悠長に眺めている者は誰もいなかった。
***
動画が終了し、室内に明かりが戻って来た辺りで、パンパンと手を叩いて空気を締め上げたレミリアが壇上に上がる。
締めの挨拶に入ったのだ。
「さて、上映会はこれにて終了だ。最後の最後にショッキングでスキャンダラスな映像が入っていて、私は大変満足だった。
この素晴らしい映像を撮ってきてくれた3人に、みんな拍手!」
その脇に控える3人にパチパチと大きな拍手が送られ、レミリアの音頭で乾杯が行われて上映会は無事に終了と相成った。
「そして、これにて今日の催し物は終了だ!
もう解散してもいいのだが、酒やつまみは後で届けさせるから、全員好きにしていてくれ。お疲れ様でした!」
「「「 お疲れ様でしたー! 」」」
主催者から解散のコールが入るが、その場から立ち去ろうとする者はいない。
アンコールではないが、今見た内容を他人と話したくて仕方が無いのだ。
主な話題は元々持っていた魔理沙に対する印象の違いと、動画の中の疑問点で、わいわいがやがやと勝手気ままな雑談に華が咲いている。
「そうかー、レイマリだったかー」
「今回の事で、一つ分かったことがある。今までは男勝りで蓮っ葉な奴だと思ってたけど、ちゃんと女の子だったんだな」
「あ、それは私も思ったわ。特に吸血鬼の妹と遊んでいた時の表情は、『お姉さん』って感じだったわね」
「逆に、幽香たちと話していた時は見た目以上に子供だったね。
まあ、あれだけ反応が良ければ弄りたくなる気持ちも分かるかなー」
「さとりとの対応は妙に大人びた感じだったし、霊夢と居た時は年齢相応だったかな?」
「ま、明日からはそこら辺をネタにして、思う存分弄ってあげればいいと思うんDA☆」
「うーん、悪趣味ね~」
「クリスマスに相応しいんじゃないかね。闇に生き、世界の裏を歩く妖怪らしくてさ!」
「まあ、客の中には神様とか天人とか亡霊とかが混じって……あぁん?」
「ん? どうした? 歪みないのか?」
クリスマスと聞いて、参加者の数人が何かを思い出したかのように懐を漁りだす。
取り出されたのは、2つ折りにされた一枚のトランプ大のカードで、全員に見覚えのあるモノだった。
それは、パーティーの最中に配られたクリスマスカードだった。
その存在をすっかり忘れていた者も、慌ててそれを取り出している。
二つ折りにされた中を見てみると『Happy Merry Χmas!』と流暢な筆記体で書かれており、小さなイラストが添えられている。
よくよく見て見ると、裏側には同じく流暢な筆記体で個人の名前が書かれており、イラストは各人にちなんだものになっていた。
中には蓬莱の玉の枝や八咫烏のように、非常に手の込んだイラストも見受けられる。
パッと見ただけでは分からないが、相当な手間がかかっているのが分かる。
これは何だ? 何故ここにある? 何が起こっている? 参加者の中に疑問が溢れ出た。
「これは、一体?」
「……咲夜、咲夜はおるかー?」
疑問はその場で解消するに限る。
動画の上映に使用していたスクリーンを片付け、軽い証拠隠滅を行った後に咲夜が召還された。
呼ばれた咲夜は、フランドールと一緒だった。
どうも寝ていたらしく微妙に不機嫌なメイド長は、思ったよりも大人数がホールにいたことに驚きつつも、
深々と一礼をした後にレミリアの横、定位置に侍った。
フランドールもキョロキョロと辺りを見回していたが、白蓮に手招きされてそちらに向かって行った。
「お呼びでしょうか、お嬢様?」
「うむ。……このクリスマスカードなのだが、どうしたんだ?」
「お忘れですか? このパーティーの途中に配ったものです。
クリスマスには、クリスマスカードが付き物ですからね。手が込んでいますでしょう?」
「そうだな。ところで昨日の夜のことになるが、買出しが終わった後、
ここに戻ってくるまでの間に誰かに会わなかったか?」
「……ああ、そう言う。ええ、確かに魔理沙に会いましたが、それが何か?」
「このカードは、その時あいつから受け取ったものだろう? なぜごまかす?」
「お答えしなければなりませんか?」
「ならん。答えなさい」
「……そのクリスマスカードは、魔理沙のお手製のものですよ。
私ではここまで精巧なものは作れませんので、彼女にお願いしたのです」
「そうだったのか。しかし、意外だな。私はもっと、彼女は不器用だと思っていた」
「まあ、間違いではないですね。彼女は不器用ですよ」
咲夜はポケットからカードを取り出し、ひらひらと振って見せた。
「このカード、精巧に作られていますよね。
実は、お願いした時には既に完成していたそうです。
彼女はこれを、どうしたかったのでしょうね?」
「そりゃあ、クリスマスカードはクリスマスのパーティーで、渡す、もの、で……あれ?」
「彼女が何も言わない以上、私からはこれ以上申し上げる事はございません。
それでは、おつまみとお飲み物の追加を持ってきますので、これで失礼します」
一礼を残して、咲夜が退出する。
答えは提示されたものの、釈然としない表情の参加者達は頭を捻って何かを思い出そうとしている。
特に日常的に魔理沙と頻繁に接する地霊殿サポート組三人は真剣な表情で思案をしており、
ときおり身に着けた物を見回しては愕然としている。
冬の宴会で渡されたマフラー、異変の後に貰った鮮やかな色のリボン、新品の帽子、
訪ねて来る際に片手に引っさげている小さなお菓子、毎年欠かさず届く年賀状、
お祭りの夜に現れる夜空を流れる星の弾幕、年に一度のお祝いの日に届けられたケーキ等々。
思い返してみれば、何気ないふとした瞬間に、様々な贈り物を貰っているような気がする。
そう言えば、取材嫌いの巫女が取り仕切る神社で宴会がある時、真っ先に知らせに来てくれるのは誰だっただろうか?
天狗は、その情報の出所がいつも魔理沙であることに気がついて顔を青ざめている。
風邪や弾幕ごっこの事故などで、動けなくなった時に様子を見に来てくれるのは?
本を盗まれたりお茶をたかられたりと騒がしいが、気が置けずに定期的に遊びに来る気安い友人は?
そもそも、その窃盗被害と言ったところで冗談で済むようなものばかり。でなければ本気で拒絶している。
むしろ、それをだしにしてこまめに訪問をされているような気がする。
適度な迷惑を蒙っているのも確かだが、それ以上に楽しい時間を過ごしているはずだった。
「……あと数十年もしてさ。魔理沙が寿命で死んでいなくなったら、どうなるのかな?」
「別に何とも無いだろうよ。天狗は新聞を書いて配り、魔女は住処に篭って自分の研究を続けて、
神様は信者相手に愛想を振りまいて、紅魔館の門番はいつも通りお昼寝をしながら立ちんぼだ。元に戻るだけだよ」
「ああでも、こうやって集まってみんなで笑う事は少なくなるのかな?」
「それは……何と言うか、嫌だね」
それは一体誰の言葉だったのか。
唐突にしんみりとしてしまい、咳払い一つするのも憚られるような空気が流れる。
その空気を振り払おうと、未だに壇上にいたレミリアが腕と声を張り上げて話の流れを変えようとする。
「まあ、何だ。考えてみれば、うちのフランが外に出るようになったのもあいつのお陰だしな。そうだろうフラン?」
「うん! お姉さまの起こした異変の後、一緒に遊んでくれるようになったのが魔理沙なんだよ!」
「フランにとって、魔理沙はお友達なのだな」
「初めてのね。あのね、魔理沙に『地下は退屈』って話したら、色々持ってきてくれたの。
羽の出せるセーターとか、魔法の参考書とか、外の世界の写真集とか!」
「見慣れないものが部屋にあると思ったら、そう言う事か。それなら、私にとっては恩人ということになるのかな?」
「そうなるの。プレゼントなんてもらったのは初めてだったから、オルゴールを作って渡したの!
咲夜にも手伝ってもらったんだけど、ちゃんと音が出たよ! 魔理沙も喜んでくれたんだぁ~」
ニコニコと嬉しそうに語るフランの横に、戻って来た咲夜が腰を降ろす。
フランがそちらに手を差し伸べると、咲夜はハイタッチをして互いの健闘を称え合った。
「そうだったのか。それならば、私からもあいつにお礼をしないといけないな。
おう、お前達もそうだろう? 何かしようではないか。そうだな、誕生パーティー辺りはどうだ?」
確かに日頃の恩を考えると、確かにそれくらいの事はしなければならない。
むしろ、盛大に祝ってやろうか。そして照れる彼女の顔でも見てやろうか。
全員がそう考えてめいめいに同意の声を上げる。
しかし、それを聞いたフランは表情を曇らせた。
「ダメだよお姉さま。もっと早くにやろうよ。そんなに長く待てないよ」
「? 何でだ?」
「だって……」
言葉をワンテンポ遅らせて。輝かんばかりの笑顔でフランは先を続けた。
「だって、魔理沙のお誕生日は昨日だもん。
また一年も待つのは嫌だよ!」
だからもっと早くしようね? と小首を傾げるフラン。
しかし、レミリアは笑顔を固めたまま反応を返せないでいる。
会場全体の空気もピシリと凍りつき、魅魔と幽香が杯をぶつ合う音が妙に甲高く響き渡った。
「ふ、ふらん? 今なんて?」
「だから、12月24日は魔理沙の誕生日なの!
クリスマスイブなんかより、ずっと大事なことなんだから!
プレゼントを渡すのをずっと楽しみにしてたんだよ! そうだよねー?」
そうですねーと、フランの頭を撫でる白蓮。
しかしその2人の和んだ雰囲気とは裏腹に、会場内には嫌な沈黙が訪れていた。
「……するってぇと、何かい?」
「私たちは、クリスマスイブの夜に?」
「誕生日を迎える、年頃の、一人暮らしの女の子を?」
「キッパリと拒絶してハブにしたうえに?」
「隠し撮りをして笑い物にしたってこと?」
「日頃の恩を忘れて?」
事の意味が脳に伝わるまでのワンテンポを空けて、会場は阿鼻叫喚に包まれた。
一つ二つなら大した被害は無かっただろうが、酷い合わせ技が炸裂したもので。
カリスマガードの姿勢でうずくまる者、頭を抱えてトラウマを思い出している者、
幼児退行を起こして誰かにすがりつく者など、動画視聴時の狂乱が反転したかのような騒ぎだった。
企画者のレミリアなどは、辛うじて堪えてはいるものの、足がプルプルと産まれたての子羊のように震えている。
天狗は筆を折り、亡霊は箸を投げ捨て、鬼は杯を取り落とし、小悪魔はぶっ倒れてしまった。
「な、何で……何で誰も反対しなかったのよ! 上映が始まる段階で!」
「だって、魔理沙の誕生日なんて誰も……ぐはぁ!」
「魔理沙さんも、友達と一緒に過ごしたかったんでしょうねぇ~」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ! 言わないで、言わないで!」
「しっかりしろ、傷は深いし致命傷だぞ! ちくしょうこの覚り妖怪、こっちの急所を的確に抉ってきやがる!」
「その友達を放置して、私達は何を……あは、あは、あはははは……」
「衛生兵、衛生兵! 助けてえーりん!」
「ダメだ、えーりんも倒れた!」
妖怪の肉体は、精神に依存する。
その精神に致命傷(クリティカル・ダメージ)を受けて、何人かが吐血して医者の世話になっていた。
が、その医者が胃を抑えてぶっ倒れてからは、被害が拡散する一方。止まる所を知らなかった。
誰も誕生日を知らなかったという事は、それだけ無関心だったということなわけで。
それが、動画視聴中に手に入れていた連帯感を伝って、更にダメージを倍増させた。
特に長く生きて孤独の辛さを知っている者ほど被害が大きく、船幽霊や鬼などはしばらく再起不能と見える。
「プレゼントを受け取ってそのままなんて、悪い人達だね」
「誕生日なんて、日頃の感謝を示す絶好の機会なのにねぇ。調べもしないで放置した結果がこれだよ」
「全くですわね。この程度のハプニングで取り乱すようでは、私の趣味は真似できませんわね」
「まったく、いい趣味ね。ほら、一献」
「ありがとう。いやー、ちゃんと準備をしておいて良かったわ~」
しれっとさとり達と合流していた紫が、幽香から一献を受け取る。
しかし咲夜が持ってきた酒も残りが少ないと分かると、スキマを開きながら周りを見回した。
「あなた達、どう? これから場所を変えて飲み直さない?」
「いいですね。よろしければ、地霊殿に来ませんか?
地上では珍しい、鬼が作った極上の日本酒がありますよ」
「おや、それは楽しみだね。そっちのお嬢さんも一緒にどうだい?」
「うーん……行っていいのかな?」
「私も参りますので、大丈夫ですよ妹様」
「じゃあ行く!」
「それじゃお嬢様、私と妹様はしばらく留守にしますので~」
「寅丸~ 私はしばらくお寺を留守にしますから、その間ちゃんとやっていて下さいね~」
「お燐、お空。あなた達も、二、三日ほどどこかで時間を潰してから帰って来て下さいね」
「聖!? 待って、待ってください聖! 私達を置いていかないで下さい!」
「さとり様ー! 私達も連れて行って下さい! ここから連れ出して~!」
恐慌と無縁の7人は、適当な一言だけを残してスキマの向こうへと消えて行った。
後に残った者の末路は分からないが、この日の紅魔館からは、悲鳴と嗚咽が途絶える事が無かったと記録されている。
***
【後日談】
大惨事から明けて翌日。
何とか立ち直って帰宅したアリスの自宅に、魔理沙が訪ねて来た。
いつも通り黒いブラウスと白のエプロンという装いだが、小脇には小さな風呂敷を抱えているのが見える。
向こうがいつも通りなのだから、こちらもいつも通り、いつも通り……と精神を落ち着けてから、アリスは扉を開いた。
「ようアリス。遊びにきたぜ~」
「い、いらっしゃい魔理沙」
「……おい、大丈夫か? 笑顔が引きつってるぜ?」
「ちょ、ちょっと寝起きなのよ! それより、立ち話も何だし、中に入ったら?」
「いいのか? 私はここで立ち話でも一向に構わないぜ」
「い、いいから、入りなさい! ほらほら!」
「珍しいこともあるもんだなぁ……まあいいや、お邪魔しまーす」
「こ、紅茶と緑茶はどっちがいい?」
「本当に珍しいな。じゃあ、紅茶を頼む。アリスさんの美味しい紅茶が飲めるなんて、今日はいい日だな」
「お……けほん。おだてても何も出ないわよ。それで、今日はどうしたの?」
「ああ。次回の宴会の日程が決まったから連絡にな。1月4日の夜に、博麗神社でやるぜ」
「お正月の三が日が過ぎたらすぐやるのね」
「そういうこと。三が日は何かと用事が入るからな」
「確かに、私も実家に顔を出す予定だったから助かるわ。でも、用件はそれだけなの?」
「……いや、実は本題はこれじゃない。
今日来たのは、アリスに一つ謝らないといけない事があるんだ」
「謝らないといけない事?」
「うん……アリス、すまなかった!」
急に声をトーンダウンさせた魔理沙は、手を合わせて頭を下げアリスを拝み始めた。
トレードマークの帽子も外されており、土下座をしろと言われれば本当にしそうな勢いだった。
魔理沙にここまで本気で謝られるような事があっただろうか? ざっと思い出すが、心当たりは無かった。
「ちょっと、頭を上げてよ! いきなり何なの?」
「えっと……すまん! パチュリーから預かってたアリスの人形を、無くしちまった!」
「人形……あ、ひょっとして上海28号のこと?」
「知ってたか。もう一昨日の話になるんだが、パチュリーからアリスの忘れ物だって言われて預かっていた上海型の人形があってな。
今日渡しに来ようと思ってたんだが、留守にしている間にどっかに行っちまったんだよ……」
「あ、ああ、なるほど、そう言う……それなら大丈夫よ。上海28号! いらっしゃい!」
「シャンハーイ!」
記録媒体を抜いて、通常営業に戻った上海人形が戸棚から出てくる。
他の上海達と外見は同じはずだが、違いは分かったらしく胸を撫で下ろしている。
「ちゃんと帰れたのか! 元気にしてたか?」
「マリサモ、ゲンキダッタカ?」
「おお、私はいつも元気だぜ! 上海も元気なようで何よりだ。昨日はありがとうな」
「マリサ、モウナイテナ……モゴッ!?」
「こーら、秘密だって言ったろー。……で、どうしてここに?」
「この子は帰還能力が高い子で、はぐれても勝手に戻ってこれるようになっていたの。
心配してくれてありがとう」
「そっか、良かった良かった。心配して損したぜー」
「でも、どうしてそんなに心配してくれたの?」
「ああ、うん。アリスって、人形のことを大事にしてるだろう?
だから、アリスもこいつのことを心配しているかもしれないって思ってな。
お母さんのところに戻れて、良かったな上海」
「~~♪」
妙に懐いている上海の頭を軽く撫でて、
魔理沙は膝を叩いて小脇に抱えていた風呂敷を取り出した
「よし、そんなお利口さんにはご褒美をあげないとな! ちょっと奥の部屋を借りるぜー」
「汚さないでねー」
「汚さないよぉ~ ほら、ついて来い」
「シャンハーイ?」
一人と一体が奥に引っ込んで、しばらく。
彼女達が居間に戻ってくると、魔理沙の手元に風呂敷は残っていなかった。
代わりに色鮮やかな晴れ着姿の上海が姿がそこにあり、嬉しそうにクルクルと中空を舞っていた。
丁寧なことにお正月仕様として羽子板までついていて、髪には小さな櫛が挿さっている。
その髪も結い上げてもらったらしく、まるで七五三のためにおめかしした女の子のようにも見えた。
「あら上海、良かったじゃない! 可愛いわよ~」
「シャンハーイ~♪」
「気に入って貰えて何より何より。アリスの目から見て、どうだ?」
「生地もしっかりしてるし、立派なものじゃない。これは素敵だわ。
私は着物の着付けは苦手だから、参考になるわね~」
「おお! 思ったよりも好評みたいで、何よりだぜ」
「マリサ、アリガトー♪」
「昨日のお礼だぜ。……じゃ、用事も終わったし私はこれで失礼するよ」
「もう? もっとゆっくりして行けばいいのに」
「パチュリーにも報告しないといけないしな。ゆっくりはしていられないぜ」
「わざわざありがとうね。また神社で」
「ああ。霊夢も楽しみにしているみたいだから、必ず来いよ! じゃあな!」
玄関まで魔理沙を見送り、扉を閉めるアリス。
カレンダーにチェックをつけていると、上海人形が小さなバスケットを差し出した。
「アリスー。マリサ、コレクレター」
「あら、何かしら」
バスケットを開けて見ると、中には一口サイズのマフィンが入っていた。
ほんのりと香るバターの匂いが食欲をそそり、焼きたてらしい生地はふわふわと柔らかそうだ。
表面に薄く塗られた蜂蜜がキラキラと日光を跳ね返して輝き、目も一緒に楽しませてくれる作品だった。
「イッショニタベロッテー」
「いいわね。じゃあ、他の子も出して一緒にお茶にしましょうか!」
「ワーイ♪」
ご機嫌な態度で奥へと消えてゆく上海を見送り、人形達に飲ませるための魔力の結晶を用意する。
そんな人形の様子に頬を緩ませていたアリスだったが、ふと何かに気がついたかのように手を止めた。
「……あれ? またプレゼントを貰っちゃった?」
「シャンハーイ?」
「お返しはどうしようかし……お返しは……お返し……おかえ……」
喜んでいる上海人形の様子を見やって愕然としたアリスは、
何かを返そうと思っても何も思い浮かばない自分自身に更に愕然として、呆然と立ち尽くしてしまった。
***
「よーっすパチュリー。元気にしてたかー?」
「むきゅ!? ま、魔理沙じゃですか。私は元気です。あなたはどうですか?」
「おいおい、どうしたんだよ。まるで中学英語の教科書を直訳したような日本語になってるぜ」
「あれはボブですか? いいえ机です……って何を言わせるのよ!」
「ノリ突っ込みとは気前がいいな。
ちょっと報告ついでに本を読ませてもらおうかと思ったんだけど、いいかな?」
「べ、別に構わないけど……」
昼過ぎに紅魔館へとやってきた魔理沙を迎えたのは、何故かこちらを顔パスで通してくる門番だった。
いつもは姿を見せてくれるはずの咲夜の姿は無く、誰とも出会わずに図書館まで来てしまった。
そして、図書館に着いてみればパチュリーの様子もおかしい。
おかしいのだが、特に取り立てて騒ぐような事でもなく。
とりあえずお土産のマフィンをパチュリーにも渡しつつ、席に着いた。
「これが魔理沙のお土産攻撃……。ズルイわ。意識しないと、無意識に受け取ってしまう……!」
「何をブツブツ言っているんだ? 咲夜がいないみたいだし、給仕室を借りるぜー」
「でも受け取らないのも……って、ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「ん?」
魔理沙が図書館に備え付けられている給仕室へと向かうおうとしたところ、
パチュリーから待ったがかかる。
「何であんたは、ナチュラルに給仕室へ向かっているわけ!?」
「ん? まずかったか? 咲夜も小悪魔もいないみたいだから、自分で茶を淹れようと思ったんだが」
「まずいも何も……お茶っ葉の場所が分かるの?」
「何を言ってるんだよ。今までだって、私が淹れた事は何度もあったろう」
「そ、そうだったかしら?」
「茶葉は勝手に使うぞー」
勝手知ったる何とやら。
言った通り魔理沙の動作は迷いが無く、お茶の準備をして戻ってくるまで、大した時間はかからなかった。
その間にパチュリーは、予め用意してあった本を取り出して、机の座る位置を変更した。
「お待たせ~……って、何をしてるんだ?」
「何って、読書に都合がいいように場所を変えたんだけど」
「嘘付け」
パチュリーが普段座っているのは、正面に暖炉を捉えた安楽椅子だ。
右手側にはお茶を置くための小机、左手側には作業机があり、
椅子の角度を変えればすぐにしたい事ができる物臭構造になっている。
快適な読書環境を作るために特注した品の筈だが、なぜかパチュリーはそこから外れて普通の椅子に座っている。
魔理沙でなくても、『嘘付け』と言いたくなるところだろう。
「この位置にも利点はあるのよ。本棚に近いから、新しい本を取りに行き易いの」
「小悪魔に取りに行かせればいいだろう。と言うか、いつもそうさせてるだろう。あいつはどうしたんだ?」
「まだぶっ倒れ……寝てるわ。それに、専門書は小悪魔に任せられないのよ。
調べ物が立て込んでるから、今日はこの位置がベスト……へくしっ!」
「God……Evil Bless You か、お前の場合は?
暖炉からも遠いからな、そりゃあ寒いさ。無理するなよ?」
「……この位置がベストなのよ。その安楽椅子はあなたが使いなさい」
「アリスと言い、パチュリーと言い……まあ、使っていいのなら使わせて貰うけどな。……おー、これは快適だ!」
「長時間座っていても体にスレが起きないようになってるわ。外の世界ではリクライニング機能と言うらしいわね」
「じゃ、遠慮なく本を読ませていただくぜ」
「はい、どうぞ(……これでよし!)」
パチュリーの計画とは、シンプルなものである。
自分がいつも使っているベストポジションを譲る事で、快適な時間を過ごしてもらい、魔理沙に満足してもらおうとする目論見だ。
その試みは一定の成果を上げたようで、魔理沙はリラックスした表情で本を読んでいる。
その魔理沙が読んでいる本も、予め準備しておいた貴重な本だ。
計画が上手くいっている事をこっそりと確認し、パチュリーはむきゅむきゅと頷いた。
「あ、そうだ。忘れてたぜ」
「ん?」
「報告だよ。パチュリーから預かっていた上海人形だけど、無事にアリスのところに届いていたぜ。
何か、そう言うプログラムがされていたみたいで、勝手に帰ってたよ」
「あ、あらそうだったの。それは良かったわ」
「ま、結果的にだが依頼は果たしたぜって事でな。終了報告だ」
「それで構わないわ。ご苦労様」
「おう。んじゃ、そろそろカップも温まったし飲むか。砂糖はいくつにする? 2つか?」
「今日は1つで頼むわ。その分ミルク多めで」
「あいよー」
その後も適当に話していた2人だったが、どちらからともなく読書に集中始めたため会話が途切れる。
しかし、魔理沙は黙々と本を読んでいるだけなのだが、パチュリーの方は気が気ではない。
普段なら沈黙が気にならない性格なのだが、魔理沙を客として意識してから、妙に腰の据わりが悪い。
ついつい、本を読むフリをして、チラチラと魔理沙の横顔を伺ってしまう。
それに気がついた魔理沙が『ん?』と顔を向けては、慌てて本に目線を落とす。
そんな気まずい時間が過ぎて行くうちに、緊張疲れをしたパチュリーは段々と船を漕ぎ始めてしまう。
上映会での徹夜と酒の疲れが、紅茶で解されて一気に出た形だ。
「ま、まずい……ここで寝るわけには……むきゅー……」
しばらくは耐えていたパチュリーだったが、いつ間にか机に突っ伏して眠ってしまった。
「zzz……」
「おーい? パチュリー? パーチュリーさーん? そんな寝相で大丈夫かー?」
「zzz……大丈夫よ、問題ないわ……zzz」
「ったく、仕方ない奴だな……」
結局、パチュリーが目を覚ましたのはその日の夕方を過ぎてからだった。
「zzz……はっ!?」
意識を取り戻してから慌てて周囲を見回すが、魔理沙の姿は既に無かった。
いつ間にかいつもの安楽椅子に座っていて、保温魔法のかかった紅茶ポットとミルクが脇に置いてある。
未だに湯気を立てているポットの横には『1月4日に博麗神社で宴会。それまで無茶はするなよ!』
とだけ書かれたメッセージカードが残されていた。
「難しいわね、他人を遇するって言うのは……って、あら?」
二度寝をするために膝掛け毛布を引き上げようとしたパチュリーだったが、それが見覚えの無い品である事に気がついた。
手にしてみると、ふわふわと柔らかい上質の毛糸で作られていることが分かる。
中心部には三日月と蝙蝠の羽の模様があしらわれており、明らかにパチュリー用に作られた品だった。
長さもパチュリーにピッタリとあっていて、お腹の辺りから足先までを過不足なくカバーしてくれている。
これに包まって寝たら、さぞかし気持ちがいいことだろう。
事実、パチュリーはそれに気がつくまで二度寝をする気で一杯だった。
たぶん、これも魔理沙が作ってきてくれた物だろう。
もしかしたら、昨日のパーティーで渡すつもりだったのかもしれない。
「えっと、消極的に、いや、積極的にこのお礼をするには……むきゅー……」
暖かい毛布と柔らかい紅茶の香りに包まれながら、パチュリーは途方に暮れた。
***
「こんにちはー。霊夢はいるかなー?」
「お、レミリアか。随分早いな、一番乗りだぜ」
「……おや? 魔理沙か?」
年も明けて少し経った、宴会当日の昼頃。
霊夢が宴会の準備をしているはずの博麗神社を訪ねたレミリアは、なぜか魔理沙に出迎えられていた。
三角巾とお玉を追加装備したその姿は、いつものエプロンスタイルとあいまってとても似合っていた。
「魔理沙、どうしてこんな時間に? いつもは宴会が始まるくらいに来るのに」
「霊夢の手助けにな。一人か?」
「ああ。気が向いたから、お茶でも飲みながらゆっくり待とうか……うおっ!?」
レミリアが厨房に入ると、そこは戦場だった。
倒壊した際に増築された厨房だったが、その増築した分のキャパシティが全部使われていたのだ。
コンロの上には一抱えもあるような鍋が『デンッ』と置かれ、同時進行で複数の料理が作られており、
オーブンや石釜にも火が入れられて、料理が入ってくるのを待っている。
それだけに留まらず、勝手口の外にはレンガと石で作られた急増の炊事場が作られていた。
一部の苦労人以外はあまり見る事の無い、宴会の裏側である。
「まあ、散らかってるけど勘弁な」
「あ、ああ……これはすごいな」
「普通だぜ。すぐにお茶を淹れるから、そこで待ってろな」
言われた通り素直に席に着き、居間から厨房を眺めるレミリア。
そのレミリアの見ている前で、魔理沙はせっせと働き続けていた。
「緑茶と紅茶、どっちがいい?」
「えっと、じゃあ緑茶で……って、違う。霊夢はどうしたんだ?」
「人里にの朝市に行って、食材と調味料の追加を買ってきてるよ。そろそろ戻るんじゃないか?」
「……という事は、この料理は魔理沙一人で作ったのか?」
レミリアの目の前には、タオルの上に置かれた大小様々な鍋がいくつも置かれている。
台所に置ききれなかった料理が、居間まではみ出して来ているのだ。
鼻を効かせてみるまでもなく、良い匂いが辺りに漂っていて、空かせて来たお腹にぐぅと響いた。
「冷えると不味くなるのは宴会が始まってから完成させるから、その下準備を中心にな。
咲夜がいれば出来立ての状態で時間を止めたりできるんだが、あいつも忙しいからなぁ」
「いやでも、凄いな……」
「このくらい普通だって。咲夜は一人でメイド妖精の分まで作るんだから、大したもんだよ」
「比べるものでもないと思うがな」
レミリアが見ている前で、まるで魔法のように次々と料理を完成させていく。
グツグツと煮込まれている鍋から豚肉の塊を取り出したかと思えば、卵を溶いてフライパンに流し込み、
野菜を冷水に晒して泥を取り、鍋にカレー粉を投入し、鍋からかつおぶしを取り出す。
チャーシュー、出し巻き卵、きんぴらごぼう、カレー南蛮、豚汁……どれもこれも、とても美味しそうだ。
「もう少ししたら飯も炊けるから、宴会前に昼飯を食べておけよ。まだ食ってないだろう?」
「まりかーさん……」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いや! 何でもない! 頂こう! あと、何か手伝える事は無いか?」
「いや、特に無いな。いいから座ってろって」
「……うー……。しかし、量も凄いな。
これだけあれば今日の宴会はまかなえるんじゃないかな?」
「いや、全く足りないな。もう倍は欲しいところだ」
「……ゑ? もうパーティーができるくらいあるように見えるけど?
というか、台所が鍋と皿で埋まってるんだけど?」
「幽々子を筆頭として、食う奴はとことん食うからな。
もっと用意しないと、みすちーが食われちまうよ」
「あぁ……なるほど、それを考えると足りないな」
「ま、いつ宴会をやっても何だかんだと飯は足りないんだけどな。
幽々子やルーミアがよく食うように見えるだけで、他の奴も割と食うからな。
レミリアだって、酒と一緒だと妙に箸が進むだろう?」
「ふーむ、確かに……」
話しながらも手を動かすことを止めず、テキパキと調理を続けてゆく魔理沙。
下手に手伝うと邪魔になりそうだったのでその様子を眺めていると、
パンパンに膨らんだ買い物袋を両手に持った霊夢が勝手口から入って来た。
これなら手伝えると、レミリアがそれを受け取って土間に置き、霊夢の指示で中身を解体してゆく。
その中からいくつかの食材を取り出し、魔理沙が満足そうに頷いた。
「ご苦労さん。とりあえず、今作ってるのが完成すれば私の仕事は終了だぜ」
「そっちこそご苦労様。レミリアも明るいうちからお疲れ」
「これくらいはいいんだけど……ひょっとして、宴会の料理って魔理沙が作ってるのか?」
「ああ、開幕のはな。とは言え、宴会中の追加分は、霊夢が厨房に入れてくれないから違うけどな」
「当然じゃない。私だって、下準備から後片付けまでを全部押し付けるような鬼畜なまねはしないわよ」
「好きでやってるんだから、いいんだよ。いつも苦労してる奴だけに押し付けるわけにはいかんだろうに」
「いいから、宴会前に仮眠を取りなさい。あんた、寝てないでしょうが」
「ん? もういいのか?」
「いいからいいから。それとも、私が添い寝をしてあげないと眠れない?」
「バ、バカ! そんなわけがあるか! ……じゃ、お言葉に甘えるかね。布団を借りるからな~」
「はいはい。お休みー」
レミリアが寝室に引っ込む魔理沙を見送っていると、その肩が強く掴まれた。
恐る恐るそちらに振り返って見ると、半眼の霊夢がレミリアを睨んでいた。
手には退魔針が握られており、事の成り行き次第では即座に打ち込める体勢になっていた。
背筋にぞわっと冷たいものが走ったレミリアは、慌てて引きつった笑顔を作り返した。
「レ、レイムサン? ナニカ、ワタシノカオニ、ツイテイマスカ?」
「いや……何となく、あんたを絞めないといけない気がしたんだけどね」
「!? な、何でよ!」
「勘よ。……まあ、いいでしょう。とりあえず、昼食にしましょうか。頂きまーす」
「(チ、チビるかと思った……) 頂きます……。あ、美味しい」
「美味しいわよねー。腹立たしいことに、私よりもずっと料理が上手いのよ。
あんまり披露してもらう機会は無いんだけど、こういう時は助かるわね」
「そ、そうだったの。魔理沙って、こんな事もしていたのね」
「片付け以外の家事は万能よ、あの子は。普段の宴会でも、率先して何か作ってるわ。
このことを知っている奴は、割と少ないけどね」
「……もっと自己主張をすればいいのにね」
「不器用でしょ? まあ、本人にしてれみれば『普通』のことらしいけどね。指摘すると照れるし」
「む、むむむ……」
「『先ず隗から始めよ』を実践したるのよ、あいつは。
今日の宴会料理は特に気合を入れたみたいだから、楽しみにしていなさい。
……ご馳走様。それじゃ、後は任せたわ」
「え? ちょっ、どこへ行くのよ! 私は料理なんてできないわよ! この戦場でどうしろって言うの!?」
「そのうちお手伝いが来るから、状況を伝えてくれればいいわ。
私も魔理沙に付き合って徹夜してたから、眠くて仕方ないのよ。私も寝てくるわ」
「え、いや、ちょっと!」
「夫婦の営みを邪魔したら退治するからね~」
「夫婦!?」
「火の番だけしてればいいわよ。それじゃ~」
レミリアの背後では、火にかけられてグツグツと煮えている大量の鍋が残されていた。
まるで戦場で孤立した新兵のように、見よう見真似でウロウロオロオロと火を消したり点けたりしていたレミリアを発見したのは、
それから間も無くしてやってきた咲夜と藍であった。
その2人に事情を話した後、レミリアは宴会が始まるまでの間中ずっと、部屋の隅で体育座りをしていたと言う。
どうでもいい話だが、その日の宴会で供された、どこかで見たような気がする料理の数々は、涙が出るほど美味しかったそうな。
***
「何か最近、どこに行っても変な対応をされている気がするぜ」
「気にしないでいいわよ。一過性のものだから」
結局。
意識をしても、しなくても魔理沙の魔手から逃れることはできなかった。
妙に意識を働かせて、お返しをしようと張り切っているとそれが空回りし、
意識しないで流れに任せようとすると、大なり小なり好意が溜まってゆく。
しかも、それは別段魔理沙相手に限った事ではなく、今まで何気なくスルーしていた他人の好意にも関係してきた。
自然に、さりげなく、それとなく日頃の感謝を示す。
好き勝手に生きてきた人外達にとって、これはとてつもなく難しい事だった。
全く知らなければ問題は無かったのかもしれないが、一度知ってしまうと二度と無視はできない。
そんな難しさがあった。
ついには自分の誕生日や季節の変わり目を恐れるようになり、家に引きこもる者まで現れた。
しかし、強行突破は黒い魔法使いの十八番。
心配していた関係者に周到な根回しをした上で、サプライズパーティーを敢行したのだ。、
当然、パーティーは大成功。
混乱してもはやよく分からなかったその者は、一日中涙が止まらなかったとか。
それ以来、隠れる者は一人もいない。
逃げるのはダメ、隠れるも愚策、立ち向かうのは非情に難しい。
派手に厚遇するのは違うし、必要以上に優しくするのも合わない。
すげなく追い払えばしばらくは来ないのだが、『何か癪に障ることをしたか?』と、
しょんぼりしながら訪ねにやってくる相手を、いつまでも拒み続ける精神力の持ち主は誰もいなかった。
編み物やお菓子作りが大流行したり、魔理沙が妙にもてて霊夢が大荒れしたりと七転八倒、悲喜交々がありつつ。
最後には、誰もが率先して贈り物を渡すようになっていた。
相手が渡してくるのに合わせれば、同時に気持ちを返せると言う開き直りである。
守りではなく攻めに重点を置いた、ある意味幻想郷らしい解決策だったかもしれない。
最初は強迫観念に基づいての行動だったが、他人に好意を表す事が不愉快であるはずもなく。
いつの間にか、贈り物の慣習が『普通』のことになっていたそうな。
そんな『普通』の中に埋没した少女は、今日も元気に幻想郷を飛び回っている。
おぜうがファOク・・・ww
昼(?)も夜もお待ちしております。応援しています。
「魔理沙可愛い」は真理でしょう、ええそうですとも!
じんわり心温まるお話、ありがとうございました!
フランが妙に可愛かった!
最初魔理沙が一方的にいじめられていたので、ちょっと不快になったのですが、後半読んで安心しました。
人と妖怪との心のやり取りが丁寧に書かれていて、読んだ後ほんわかする作品でした。
もはや幻想郷の影の支配者レベルですねww
そしてそんな魔理沙にあてられてしまった人がまたここに一人……
最初、魔理沙をいじめるための駄作かよ、とか思ってましたがとんでもない。
心に響く素晴らしいSSでした
魔理沙の普通をこんな形で表現するとはまったく思いつきませんでした。素晴らしいの一言につきます。
……12月24日誕生日の我が身なので、中盤のフランのセリフを読んだ瞬間固まったのはここだけの話です。
恋人がいないクリスマスイブとクリスマスおめでとうとしか言われない誕生日。
さて、どちらが辛いものなのか……(遠い目)
他人に対して、さらっと贈り物ができちゃう魔理沙。
これを『普通』と言えてしまう辺り、彼女の器の大きさが窺えて、見習わなければ…と感じてしまいました。面白かったです。
あばばばば…魔理沙かわいい
ところで上海帰還後のれいまりについて詳s(ry
妖怪勢の狼狽えっぷりは最高でしたw
音声がない分イマジネーションが働いて素敵になりました。
人のあるべき姿を見せてもらいました。
こんな「普通」な魔理沙と幻想郷に幸あれ。
あの~。本当に初投稿ですか?と聞きたくなる面白さ。また作品が出来たら投稿してほしいです。
良い作品でした
より一層、魔理沙のことが好きになったぜ
素晴らしい作品でした
…ごちそうさまでした。
これから魔理沙と言えばこの作品を思い出すようになってしまったかもしれない。魔理沙かわいい。
素敵な告白文句ですね!
「普通に」面白かったです
魔理沙かわいい
人を笑顔にできるってのはそれだけで素晴らしいことなんだな。
そろりとコメント返しを……と思ったら、何事!?
元々の目標点数が500~1000程度だったので、
嬉しいよりも驚きが先に立ってしまい何と言っていいやら……。
とにかく、ご閲覧ありがとうございました!
『最近、魔理沙成分が足りていない気がする』と思って叩き付けた作品ですので、
また何か足りなくなったら叩き付けると思います。
その時は、よろしくお願いします。
しかし、これを超えるのは難しそうですね……。
こんな幸せなSSをありがとうございます
(パラノイアネタとかw)書きだしたらキリが無いので感謝だけさせてください。
こんなに温かい作品を読めて幸せな気持ちになりました。
本当にありがとうございます。
そして是非また叩きつけていただきたい。
とても面白いSSでした。