もう二度と、私は空を飛べないのかもしれない。
この一週間で、何度同じ言葉を頭の中で繰り返したんだろう。
壁にかけっぱなしの帽子と、立てかけられたままの箒。
私が魔女だったしるし。
私が魔女だったときの誇り。
今はそれを見ているだけで、呼吸も覚束なくなって、涙が出そうになるんだ。
目を逸らすようにベッドに潜り込んで、こうなってしまったそもそもの原因を思い出す。
丁度一週間前のこと、いつものように霊夢を弾幕ごっこに誘って、この日は私も調子が悪かったから、次第に追い詰められてしまっていた。
意図的に開けられた隙間に誘導されていく私、もちろん、そこに罠をかけていることも知っている。
私が一番弾幕ゴッコをした相手が霊夢だ。
霊夢が一番弾幕ゴッコをした相手というのも、きっと私だと思う。
お互いの癖も、好む戦い方もぜーんぶ、わかってる。
だから、悪気がなかったことも一番わかってた。
抜けられると思った。
だからスピードを上げて今にも閉じようとしている隙間に飛び込んでいって、バランスを崩してしまった。
地面があっという間に迫ってきて。次に覚えているのは、永遠亭のベッドの上にいるということだった。
頭を打っていたから大事を取ったらしいけれど、もう大丈夫だろうということで、一晩泊まっただけで家に帰されることになった。
「世話になったな」
「気をつけるのよ」
鈴仙の奴が見送りに出てきて、いつも通りに箒に跨って。
飛ぶ。
飛ぼうとした。
なのに、冷や汗が全身から吹き出して、手が汗ばんで箒を握って居られなくなった。
このまま空を飛んだらきっと、箒が滑ってまた落ちてしまう。
歩いて帰ろう。
そうだ。そっちのほうがいい。
「ま、またな」
いつまでも空を飛ばないから、きっと鈴仙は訝しんでいただろう。
だから私は、いつもよりも気持ち大またで永遠亭を後にした。
周囲を見渡して、誰も居ないのを確認してから、もう一度箒を握ってみる。
大丈夫。あの時は、風も強かったと思うし、弾幕の隙間を抜けようと急ぎすぎてたから。
とにかく、普通に飛ぶ分にはもう、落ちたりなんかしないはずなんだ。
大丈夫、平気だ。
呪文のように唱えているのに、腕から魔力が伝わっていかない。
代わりに震えだけが箒へと伝わっていて、傍から見たら凄く滑稽だったと思う。
箒に跨ったまま震えていて、冷や汗を垂らしているだけだなんて。
どうして、空を飛ぶイメージが湧かないんだろう。
あんなに空を飛ぶのが好きだったはずなのに。
雲の無い日には意味もなく全速力で飛び回って、風を感じるのが日課だったのに。
顔に当たる風のことを考えるだけで、胃液が逆流しそうになるのを感じる。
どうして、なんでこんな。
地面から浮くのが怖く感じるのは、初めてだった。
結局長い時間をかけて自宅まで戻って、それから一週間。
その間に、何度も空を飛ぼうとはしてみた。
結果は当然の如く、芳しくは無かった。
動悸に目眩、自分の不甲斐なさに涙も出る。
「このままなら魔女も廃業しないといけないのかもな」
箒なら数十分の距離も、徒歩では半日近くかかる。
これでは博麗神社へと顔を出すこともままならないし、弾幕ゴッコだってできやしない。
霊夢は見舞いには来てくれたものの、普段はこっちから顔を出さなければこっちには来ない。
巫女の居る神社は、それだけ来客が絶えないのだ。
「霊夢、やっぱり凹むんだろうな。私が空を飛べないって知ったら」
普段冷血巫女だの冷徹巫女だの散々言ってきた私にもわかるぐらい、見舞いに来たときの霊夢は凹んでいた。
決して安くはない菓子折りを持って、しょんぼりと子犬みたいな目でこっちを見てきた。
「平気平気、怪我一つしてないからな、か……」
我ながら調子の良い言葉だとため息が出てしまった。
確かに外傷は負わなかったけれど、バッチリ心のほうに怪我を負ってしまったらしい。
近々顔を出すと言ったまま、何のアクションも起こせていないのだから。
「どうにかしようぜ、私」
ぺちん、と頬を叩いてみるものの、身体を動かす気にはなれなかった。
随分と食べていないからお腹も空いているはずなのに、不思議と食欲も湧かなかった。
食べないと余計に動く気力もなくなるのは、理屈ではわかっている。
けど、理屈じゃない部分で"イヤ"なのだ。
いつまでもこんな"イヤ"が通用しないとはわかっている。
当然だ。私は、霧雨魔理沙なのだから。
皆に見られている霧雨魔理沙とはもっと溌剌としているべきだし、魔法使いらしく黒白の格好をして、箒に乗って飛び回っていなきゃいけない。
膝を抱えて、ご飯が自然に出てくるのを待っているような私は、本来の霧雨魔理沙ではないのだ。
もっと別の、竹林辺りで草を食んでる兎ぐらいの存在感しかない。
もっとも、このまま飛べなかったなら、店番をする程度の存在にはランクアップできるかもしれないけれど。
どっちにしたって、死んだも同然だ。
博麗神社で開かれる宴会にも、顔を出し辛くなる。
弾幕ゴッコもできない普通の人間が、どんな面を下げて参加できるというんだ。
もうとうに陽は落ちていた。今日も外出しなかった。
不意に、ノックの音がした。
己に自信がないときには、コンコンという軽い音ですら心臓を打ち抜いていくものだということをこのとき初めて知った。
今は誰にも会いたくないから、布団を深く被り直して息を殺していると、一番に聞きたくない奴の声が聞こえてきた。
一度だってうちに来たことがないのに、なんで、このタイミングで。
「鍵は開いてるから、好きにしろよ、咲夜」
足の踏み場もなかったのに、数十分で人並みの生活ができる程度まで片付けられてしまった。
やたらと手際が良い。さすがはメイド長を務めているだけのことはあるけれど、どうしてそいつがいまここに居るんだか。
「パチュリー様から言い付かったのよ。そろそろ本を返してもらってって。
だから、あっちに纏めてあるのはまた、美鈴に引き取らせるから」
「死んだら返すって言ってあるのにな」
「そろそろ死ぬと思ったんじゃないかしら。魔法使いとして」
「っ……」
いきなり核心を突かれて、ドキっとしてしまった。
どこまでこいつは事情を知っているんだろう。
咲夜の顔はいつも通りの涼しい顔のままで表情からそれを読み取れそうになかった。
これだから、会いたくなかったんだ。
まだアリスとか、霊夢とか、パチュリーのほうが相手しやすい。
咲夜が相手だと、こちらばかりが一方的に見透かされているようで、弱っているときには堪えるんだ。
口元を布団で隠して、べぇ、と舌を出しておく。
これぐらいの権利はあって然るべき。きっとそう。
「ね、何か食べる? おなか空いてるでしょ」
「空いてないぜ」
「嘘ばっかり。全然調理した痕跡がないんだもの。一人暮らしだからってサボっちゃだめよ。
何か材料はあるかしら。こんなことだろうと思ってちょっと持ってきたんだけど」
「ふん」
用件は済ませたんだからさっさと帰っちまえよ。
そう言いたいのをぐっと堪えて――頭の中で捏ねるだけで、実際にそんなことを言う勇気なんてこれっぽっちもないけど。
布団を深く被って咲夜の目から逃げ出すことにした。
こんな弱気な魔理沙さんなんて、お笑い以外の何物でもないよ。本当に、ちっくしょう。
布団の中でもぞもぞしているうちに、肉の焼ける音が聞こえてきた。
八卦炉の上でフライパンを熱しているんだろう。肉汁のはねる音がこっちまで聞こえてきた。
何を作ってるのか、気になる。物凄く気になる。
這い出して、寝巻きのままでリビングへとこそこそ向かう。なんとなく憚られる気持ちがするのだ。
咲夜はこっちを一度振り返って、ハンバーグでいいわよねと聞いてきた。私はそれに頷くのみ。
フライパンの上では、既に合い挽き肉が牛酪によって焼かれている。
中央を窪ませたそれに、目玉焼きをのせて出すのが紅魔館では人気なのだと以前聞いていた。
もしかして、今日はそれを出してくれるのだろうか。きっとそうに違いない。
いつのまにか、ご飯も炊けているようだった。咲夜の能力はこういうときに便利すぎる。
時間を止めたり早めたり、面倒な待ち時間が一気に省略されていくのだから。
「なぁ、あとどれぐらいかかる?」
「ほんの少し。スープはそんなに上等ではないけど」
「十分十分」
和食派で通しているものの、ハンバーグはご飯との愛称も抜群なので大好きだ。
もちろん、ここでは中々肉は手に入り辛いから、滅多に口に入ることはないのだが、なぜか紅魔館の連中は肉料理が多いとか聞く。
一体どこから仕入れているんだ。あの連中は。
それは、置いといて。
「目玉焼きもつけてくれよ」
「それがお望みなら。というか、ちょっとは元気になった?」
「私がいつ元気がなかったんだ。まったく咲夜は変なことばっかり言うな」
蓋を被せて手が空いたのか、咲夜が対面の席に座った。
ふん。今の私にはハンバーグがあるから空だって飛んで見せるさ。
嘘だと思うなら今すぐ箒を握ってかっ飛ばしてやるさ。
「じゃあハンバーグを食べたら一緒に紅魔館まで来てくれるかしら。美鈴を来させる手間が減るし」
「それは無理だな。魔理沙さんはいまとてつもなく忙しいんだ」
「嘘ばっかり」
額をひとさし指で押されて、咲夜が席を立った。目玉焼きの乗ったハンバーグに添え物のニンジンじゃが芋に、中華スープに炊きたてのご飯。
米以外はどれも、私の家にないものだった。ハンバーグに入っている玉葱も咲夜が持ってきてくれたんだろう。
「食べていいわよ」
「うむ、くるしゅうない」
箸を刺すと、微かな抵抗のあとで肉汁が溢れてきた。
うーむ、そこはかとなく淫猥な響きだけれど、実際のところ箸でぷっつり一口大に切って口に運ぶだけのこと。
肉そのものの味と絡む牛酪の濃厚な香り、胡椒も混ざって食欲が刺激される。
「美味しい?」
「うまい」
「なら良かった」
白米を口に運びつつ、スープに口をつけて付け合せの人参をぱくり。
甘味が口一杯に広がって実にうまい。白米を一口食べてからスープを啜る。
「三角食べ?」
「ああ、私は和食派だからな」
「うちのお嬢様もちょっとぐらい、そういうところに気を配ってくれたらいいんだけど。
洋食のテーブルマナーには拘る割りに、和食のほうは全然なのよね」
「ふむ。一回寺子屋に通わせる必要性を感じるな」
「言えてるかもしれないわね」
人が食べてるのを見ていて、何が楽しいのだろうか。
元々自分の分は作っていなかったようで、咲夜は肘を突いてずっとこっちを眺めている。
見られていると正直、食べ辛いけれども、味はいいから不問にしておこうと思う。
「ねぇ魔理沙」
「ん」
七割ほど食べてから、不意に話を振られた。
行儀は悪いとわかっているけれど、手は止めたくなかった。というよりも、止められない。
ご飯だってすでに三杯目を到達している。夢中も夢中だった。
「私じゃ、イヤ?」
「何がだよ」
「そうやってはぐらかすじゃないの」
「愛の告白でもするのか?」
「茶化してばっかり。本心が見透かされるのは嫌でしょうけど、ホントに心配してるのよ」
箸を止める。自分でもしっかりわかるぐらいに、口元とか目で、不機嫌を表現していた。
「抽象的でわからないな」
「箒から落ちたんですってね」
「ああ、落ちたよ。何、よくあることだろ? 弾幕ゴッコだって、失敗したら怪我ぐらいする」
「あそこの帽子も箒も、随分ほっぽり出してるみたいだけど」
「しばらく外に出る用事もなかったからな。家の中で帽子は被らないだろ」
「はぁ」
「なンだよ。さっきから突っかかるような言い方してさぁ。
そんな探るような言い方ばっかりしないで、さっさと言いたいことは言えよ」
自分でも驚くぐらいにぶっきらぼうになっていて、言い終えてからハッとした。
こんな言い方をするつもりはなかったのに。恐る恐る咲夜の表情を伺うと、そこにはいつも通りの咲夜が居た。
「心配してるのよ、みんな。アリスが図書館に来て、魔理沙が元気ないみたいだって。
そのアリスは霊夢から相談を持ちかけられたみたいなんだけど」
「で、お前はパチュリーから言われてここに来たんだったな。お前らは伝言ゲームか何かか?
ったく、私の事をバカにしてるとしか思えんな、よってたかって虐めたいのか?」
「虐める役代表ってのも悪くないわね」
「もう、帰っちまえよ! 私にだって悩みはあるんだよ! そんなズカズカ踏み込まれたくないんだってば! 察せよそれぐらい!」
机を叩いて皿が跳ねた。
落ちて割れるんじゃないかって一瞬ビクりとするぐらいには頭の中は冷えてたのに、口から飛び出す言葉は熱っぽかった。
自分の感情が上手くコントロールできていないことに気づいて、途端に目頭が熱くなってきた。
「何か熱い飲み物でも淹れる?」
卑怯だよ、こいつは。
私が当り散らしてるのに、普段と何ら変わらずに、笑っているだけなんだもの。
だから、霊夢よりもパチュリーよりもアリスよりも、一番会いたくなかったのに。
そこらへんをあいつらもわかってるから、結局、一週間腐ってる間に全部見抜かれてたってわけか。
ああもう、もう、さいあくだ。
一人きりじゃどうにもならないから、誰かが救ってくれるのを待っていたんだろう。
布団の中でぼんやり祈っているだけで状況が好転するなんてことは、当然あり得ないことだけど。
でも、自分から相談しにいくこともできないぐらい、辛かったんだ。
「八つ当たりして、ごめんな」
普段はもっと自制が出来ているはずなのにって、これは言い訳に過ぎない。
言葉のナイフを出鱈目に振り回したあげく、どうにもなくなって泣きそうになるだなんて。
どうして私は咲夜の前では、調子が狂ってしまうんだろう。
「そんなこと私は気にしてないから。さ、次は空を飛ばなきゃね」
「うん」
いつもの格好に着替えて、帽子を被って、箒を握り締める。
咲夜が見てくれている。今日は風も吹いてないし、大丈夫だ、きっと。
1、2、3。
「顔色悪いわよ」
「うるさいな、ちょっと気合を込めてるだけだってば」
「さっき草をむしって風を確かめたのも気合の表れってことかしら」
「まぁ、そういうことだな」
普段通りを思いがけているつもりなのに、風の有無を気にするだなんて私らしくなかった。
ちょっと前の私だったら、たとえ嵐の中でも平気で飛び出していけたっていうのに。
大丈夫、大丈夫。問題ないから。ちょっと待ってくれよ。
「無理しなくてもいいのよ」
咲夜が箒を握り締めてる手を、そっと握ってくれた。
指先が強張っていて、柄から離すことができないぐらいにガチガチに固まっていた。
「自分で飛ぶのが怖いなら、私が手を握ってて飛んであげる。大丈夫、絶対に手を離したりしないから」
「これは、私の問題だってば」
空が飛べないことを知られただけで恥ずかしいのに、子供みたいに扱われるなんて我慢がならなかった。
もちろん、強がっただけですぐに空を飛べるようになるなんてこと、あり得ないンだけど。
「むかーし、私水が怖くって」
「なんだよ、急に」
「お風呂とかで、顔も浸けられなかったの。何も嫌いになることはなかったのに、ある日急に水が怖くなったの。
どうしてかしらね、今までしてきたことなんだから、大したことないって理屈ではわかってるはずなのに。
体が動かなくなって、冷や汗がすっごく出て」
「咲夜でも、そういうのってあるのか?」
「当たり前じゃない。私をなんだと思ってるのよ」
「メイド」
「メイドは怖がらないっていう常識でも育ってるの? 一体どこで仕入れたのかしら」
「ああ、十六夜咲夜って奴から仕入れたんだ」
「恥かくわよそれ」
咲夜なりに気を遣ってくれたんだろうけど、ちょっとばかしズレてる。いつものことだ。
「ていうか、いつまで手を握ったままなんだ」
「このまま空を飛ぶまで、かしら」
「勘弁してくれよ」
「ダメ」
腕が引っ張られて、さっきまでの恐怖が嘘のように、いつのまにか宙に浮いていた。
息も詰まらないし、冷や汗も湧いてこない。
咲夜の顔を見た。咲夜がウインクをしてきたから、照れくさくなって帽子を深く被りなおす。
「どこまで行く? 森の上まで? それとも、もっと空の上までかしら」
「ずっと上まで行ったら寒いだろ。そんな薄着じゃ」
「このメイド服には秘密があって、実は防寒機能がついてて……」
「そういう冗句は飽きたぜ」
「あら、そう?」
木々を越えて、風が頬に当たって下を見ても、一人で箒を握ったときのような気持ちは起こらなかった。
まぁ。
咲夜が手を離すわけがないから、落ちるなんて想像が起きないだけなんだけど、さ。
「月まで行く?」
「それはもう勘弁だな」
「すっごく同意」
あなたの目を見る。蒼い瞳は私の視線に気づいてまばたきを返してくれる。
今この瞬間も、私はあなたに頼ってばかりなんだ。
弱い部分を曝け出して、受け入れてほしいと甘えてしまう。
受け入れてくれるという確信があるから、そうしてしまう。
「なぁ咲夜」
「ん?」
「私のこと、嫌いになったりしないか?」
「しないわよ」
「言い切ってもいいのかよ。そんな簡単に」
「ええ。だって魔理沙は私のこと、好きでしょ?」
心臓が鷲掴みにされたような気がして、頭がガツンと殴られたような衝撃がして。
要するに、酸欠の金魚みたいな顔をしながら声が出ないっていうわけのわからない醜態を晒していた。
「嫌いになるなんて、相当の覚悟と体力がないとできないことよ」
「そう、なのか?」
「そんなものなのよ。それに、私は魔理沙のことが好きだから」
「ふん」
世辞にしてもなんにしても、好意を持たれて嫌な気持ちになることなんてないだろう。うん。
しばらく森の上で、私たちは空中を漂っていた。
することもなかった。ついでに言えば、地面に足をつけていないことへの不快感もなかった。
また明日から、一人で飛ぶことはできるんだろうか。それは改めて、自分に問うまでもない。
元々飛び方は知っていたのだから、もう、手を引いてもらわなくたって大丈夫だ。
霊夢だってアリスだってパチュリーだって、そんないつも通りの私を待ち望んでいるはず。
でもそれは、明日からなっ。
「どっか行こうぜ。どこでもいいや。なんか、久しぶりに夜風に当たりたいんだ」
「一週間も引き篭もってたらそうなるでしょうね。まったく、世話が焼けるわ」
「おまえんとこのお嬢様に比べたら全然マシだろ。なんせあっちは495年だ」
「たしかにそうだわ。ここは一本取られたかも」
「そうだろうそうだろう。じゃあ私の言うことを聞いてもらうぜ」
「明日は暇を頂いてるから、お好きにどうぞ」
「ふん。じゃあ明日中貸切だ。いつもレミリアやフランドールばっかり独占してるからな」
「あらら。私に休みっていうものはないのかしら」
「人気でいいじゃないか」
「人気者は辛いですわ」
いつまでこうしてられるかはわからないけれど、今日と明日ぐらいは、こうして甘えさせて欲しい。
八つ当たりをしたり強がったりして、素直じゃないところばっかり見せてるけど。
まぁいつかは、私のほうが手を引っ張ってやる。そう決めているからそうなるのだ。
「どこに行きましょうか、お姫様」
「お前と一緒だったらどこでもいいよ」
「あらプロポーズ? だけど私には心に決めた人がいて」
「乗り換えちまえよ」
「それじゃあ行き先は紅魔館にしましょうか。パチュリー様の微妙な表情が見たくって」
「性格悪いな」
「魔理沙の日頃の態度によるものだと思うけど」
「そういうのはいいんだ。そういうのは」
結局咲夜の提案で、独り占めできるのは森から紅魔館の間だけになってしまったけれど。
できるだけ、ゆっくりと飛んでもらったのだった。
次回作も期待してます。
色々報告
一度だってうちに~→来たことはありますよ
八卦路→八卦炉(……だよね?)
目玉焼きを載せて→乗せて
さりげなくやってきてはおせっかい焼いていく、みたいな
私好みの作品でした。
次回も期待しています。
全体的に甘さ控えめなビターショコラのようで読みやすかったです。ご馳走様でした。
それにしても紅魔館の肉料理……夜雀か人でないことを祈ります。
次回作も楽しみにしてます。
次回作も期待してます。
重い話にはずだけどすらすら読めました。
初投稿おめでとうございます!