季節が変わりつつある朝、静かな境内に落ち葉を掃く箒の音が響く。
掃いても掃いても積もって来る落ち葉に嫌気がさす。
「焼き芋にでもしようかしら」
掃いて纏めた落ち葉を見つめて、誰にともなく一人呟いた言葉に、しかし予想に反して返事が返ってきた。
「良いわね。私も食べたいわ、焼き芋」
よく知ったその声に、ため息を吐いて私は振り返る。
私の視線の先にいたのは、七色の宝石の様な翼をその背に持つ吸血鬼の少女。彼女は姉に連れられ、ここを訪れてから紅魔館を抜け出してはよくやって来る。
「本当にあんたはこんな時間に飽きもせずよく来るわね」
以前に姉から貰った物だと語りながら、嬉しそうに私に見せていた白い日傘をクルクルと廻す。
「霊夢に会うのに飽きるなんてあるわけないじゃない」
「はいはい、そうね」
笑うフランドールに私はぞんざいに手を振る。
これまで幾度となく繰り返されたやり取り。
本当に私のどこが良いんだか。
「先に行ってなさい、私もすぐ行くわ」
「え、焼き芋は?」
首を傾げるフランドールに私は肩を竦めて見せた。
「芋が無いわ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
誰が来たところで私がやることは変わらない。
縁側でお茶を飲んで、のんべんだらりとその日を過ごす。
「ねえ霊夢」
背中から伝わる、小さな背中の重さを感じながら、私は背後へと言葉を投げる。
「なに?」
「私にもお茶頂戴」
「欲しければ自分で煎れなさい」
お茶を啜る。と、フランドールが身体の位置を動かすのが気配で分かった。横合いから湯呑みを奪われた。フランドールがお茶を啜る。
「薄い……」
「当たり前じゃない出がらしなんだから。それと、行儀が悪いわよ」
「別にいいじゃない」
フランドールの頭が肩に乗る。
「霊夢、暇だよう」
息が首筋にかかってちょっとくすぐったい。
「だったら寝てればいいじゃない。本来ならこの時間はあんた達は寝てる時間なんだから」
「むう、霊夢が優しくない」
返されたお茶を一口啜る。フランドールが唇を尖らせる。そうして、肩から離れたかと思うと、突然座る私の太ももに頭を乗せて、ゴロリと横になった。
「ちょっと」
「だって霊夢が構ってくれないんだもの」
フランドールはひとつ大きくあくびをする。私は一つ息を吐くと、フランドールの頭にそっと手を当て、それから指先で金色に輝く髪を適当に弄る。フランドールはただ静かにされるがままになっていた。
「……一つ聞いてもいいかしら?」
しばらくそうしてふと私は、以前から聞いてみたかったことを聞こうと思った。
「ん、いいよ」
寝転がったまま、フランドールは頷いた。
「私の所にこうしてしょっちゅう来るけど、あんたは私のどこがいいのよ」
「優しいとこ」
即答だった。
「優しい? 私が?」
「うん、お姉様とは違うけど優しいよ」
いまいち解らない。
「霊夢は解らなくていいの。私が解ってればいいんだから。霊夢はそのままでいればいいんだよ。自覚しちゃうとダメになっちゃうから」
下から私を真っ直ぐ見上げるフランドールは、白い腕を伸ばして両手で私の頬に触れる。
「だから、私はそんな霊夢が好きなの」
ゆっくりと顔がフランドールへと近づいていく。
「霊夢はどう思ってるの……? イタッ!」
フランドールから小さく悲鳴があがる。私が額にデコピンをお見舞いしたからだ。
「何するのよ霊夢」
「それはこっちの台詞よ」
たいして痛くも無いだろうに、額を押さえて私を見上げるフランドールに、私はため息を吐いた。
「霊夢酷い!」
「うるさい、大人しく寝てなさい」
フランドールはしばらく文句を言っていたが、右から左へと聞き流す。それから少しして、小さな寝息が聞こえてきた。
その寝顔をぼんやりと見つめる。良い夢でも見ているのか、幸せそうに笑みを浮かべている。
「私の気持ち……ね」
視線を外して私は空を振り仰ぐ。自然、溜息が漏れる。空はどこまでも青く、白い雲が形を変えながら流れていく。
「私は……」
一人呟いた言葉は、しかしそれ以上を紡ぐことはしなかった。すっかり冷えてしまったお茶と共に、それを一息に飲み干す。その言葉を口にする必要も無いと思ったからだ。勘だが。
湯呑みを脇にそっと置いて、私は再びフランドールの寝顔を見下ろす。
未だ夢の中を旅する少女は目を覚ます様子は無い。だから私は、この暇な時間をどう潰そうか考えることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
肌寒さに身を震わせて目を覚ました。どうやら眠ってしまっていたらしく、重い瞼を押し上げると、目の前には鼻と鼻が触れそうな位置に顔があった。
私と目が合うと、慌てた様に顔が遠退いた。
「フランドール、起きてたの」
「う、うん」
「うわ、もう空が朱いじゃない。あんたも起きてたなら起こしてくれりゃ良かったのに」
「わ、私もさっき起きたところなのよ」
「そう」
それならしかたない。
身体を起こすと、身体のあちこちがパキポキと悲鳴をあげる。
肩をグルリと回して硬直した筋肉を軽くほぐす。
「……霊夢、気が付いてた?」
「は、何によ?」
肩を回しながらフランドールの方へと振り返った。けれど、視線の先でフランドールは慌てた様に頭を振る。
「あ、いや、やっぱりなんでもない!」
「そう?」
普段真っ白なフランドールの肌が耳まで赤く見えるのは、夕日のせいだろう。
大きく伸びを一つ。やっと頭が冴えてきた。
「さて、夕飯の準備でもしようかしらね。フランドールも食べてく?」
「お誘いは嬉しいんだけど、そろそろ帰ってこいって今しがたお姉様から催促が来ちゃった」
そう言うフランドールの帽子には、小さな蝙蝠が一匹張り付いていた。蝙蝠が帽子から離れて空に飛んでいく。それを眺めていたフランドールの覗かせた表情は一抹の寂しさ。それからフランドールは靴を履いて縁側から下りる。見送ろうと、その背中を追って私も歩く。
数歩歩いた所でフランドールが振り返った。
「ねえ霊夢。また来ていい?」
「どうせ来るなって言ったって来るんでしょ」
当然というようにフランドールが笑う。
この娘は困ったものだ。溜息と苦笑を一つ。
「だったら……」
フランドールの頭に手をやる。不思議そうに私に向けられる視線に笑みを返す。それから、その頭をワシワシと撫でてやった。
「またいつでも来なさい」
頭を押さえてズレた帽子を直しながら、しばし目を瞬かせていたフランドールの顔に笑みが咲く。
「うん、また来るね!」
言葉と共にフランドールの顔が私に近づく。唇に柔らかな感触と、鼻には少しの甘い香り。
背伸びをしていた足を下ろして、フランドールは自身の唇を私のそれから離すと、いたずらっぽく、恥ずかしそうに笑った。
そうして、彼女はひとつ大きく翼を動かして空を踊る。七色の宝石のような翼が月明かりを浴びて輝く。
魅了されるようにその姿を眺めて、私はふと先程フランドールが日傘を持っていなかったことを思い出した。縁側に視線を向けると、案の定そこには白い日傘がポツンと立て掛けられていた。
既にフランドールの姿は見えなくなっている。どうしようかと考えて、日傘を手に取る。縁側に上り、寝室に向かいながら小さなそれを少しの間見つめる。
「……明日にでも渡しに行きますか」
私から会いに行ったらどんな顔をするかしら?
寝室の畳の上に日傘を寝かせ、フランドールの表情を思い浮かべながら、私は障子を閉めた。
END
掃いても掃いても積もって来る落ち葉に嫌気がさす。
「焼き芋にでもしようかしら」
掃いて纏めた落ち葉を見つめて、誰にともなく一人呟いた言葉に、しかし予想に反して返事が返ってきた。
「良いわね。私も食べたいわ、焼き芋」
よく知ったその声に、ため息を吐いて私は振り返る。
私の視線の先にいたのは、七色の宝石の様な翼をその背に持つ吸血鬼の少女。彼女は姉に連れられ、ここを訪れてから紅魔館を抜け出してはよくやって来る。
「本当にあんたはこんな時間に飽きもせずよく来るわね」
以前に姉から貰った物だと語りながら、嬉しそうに私に見せていた白い日傘をクルクルと廻す。
「霊夢に会うのに飽きるなんてあるわけないじゃない」
「はいはい、そうね」
笑うフランドールに私はぞんざいに手を振る。
これまで幾度となく繰り返されたやり取り。
本当に私のどこが良いんだか。
「先に行ってなさい、私もすぐ行くわ」
「え、焼き芋は?」
首を傾げるフランドールに私は肩を竦めて見せた。
「芋が無いわ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
誰が来たところで私がやることは変わらない。
縁側でお茶を飲んで、のんべんだらりとその日を過ごす。
「ねえ霊夢」
背中から伝わる、小さな背中の重さを感じながら、私は背後へと言葉を投げる。
「なに?」
「私にもお茶頂戴」
「欲しければ自分で煎れなさい」
お茶を啜る。と、フランドールが身体の位置を動かすのが気配で分かった。横合いから湯呑みを奪われた。フランドールがお茶を啜る。
「薄い……」
「当たり前じゃない出がらしなんだから。それと、行儀が悪いわよ」
「別にいいじゃない」
フランドールの頭が肩に乗る。
「霊夢、暇だよう」
息が首筋にかかってちょっとくすぐったい。
「だったら寝てればいいじゃない。本来ならこの時間はあんた達は寝てる時間なんだから」
「むう、霊夢が優しくない」
返されたお茶を一口啜る。フランドールが唇を尖らせる。そうして、肩から離れたかと思うと、突然座る私の太ももに頭を乗せて、ゴロリと横になった。
「ちょっと」
「だって霊夢が構ってくれないんだもの」
フランドールはひとつ大きくあくびをする。私は一つ息を吐くと、フランドールの頭にそっと手を当て、それから指先で金色に輝く髪を適当に弄る。フランドールはただ静かにされるがままになっていた。
「……一つ聞いてもいいかしら?」
しばらくそうしてふと私は、以前から聞いてみたかったことを聞こうと思った。
「ん、いいよ」
寝転がったまま、フランドールは頷いた。
「私の所にこうしてしょっちゅう来るけど、あんたは私のどこがいいのよ」
「優しいとこ」
即答だった。
「優しい? 私が?」
「うん、お姉様とは違うけど優しいよ」
いまいち解らない。
「霊夢は解らなくていいの。私が解ってればいいんだから。霊夢はそのままでいればいいんだよ。自覚しちゃうとダメになっちゃうから」
下から私を真っ直ぐ見上げるフランドールは、白い腕を伸ばして両手で私の頬に触れる。
「だから、私はそんな霊夢が好きなの」
ゆっくりと顔がフランドールへと近づいていく。
「霊夢はどう思ってるの……? イタッ!」
フランドールから小さく悲鳴があがる。私が額にデコピンをお見舞いしたからだ。
「何するのよ霊夢」
「それはこっちの台詞よ」
たいして痛くも無いだろうに、額を押さえて私を見上げるフランドールに、私はため息を吐いた。
「霊夢酷い!」
「うるさい、大人しく寝てなさい」
フランドールはしばらく文句を言っていたが、右から左へと聞き流す。それから少しして、小さな寝息が聞こえてきた。
その寝顔をぼんやりと見つめる。良い夢でも見ているのか、幸せそうに笑みを浮かべている。
「私の気持ち……ね」
視線を外して私は空を振り仰ぐ。自然、溜息が漏れる。空はどこまでも青く、白い雲が形を変えながら流れていく。
「私は……」
一人呟いた言葉は、しかしそれ以上を紡ぐことはしなかった。すっかり冷えてしまったお茶と共に、それを一息に飲み干す。その言葉を口にする必要も無いと思ったからだ。勘だが。
湯呑みを脇にそっと置いて、私は再びフランドールの寝顔を見下ろす。
未だ夢の中を旅する少女は目を覚ます様子は無い。だから私は、この暇な時間をどう潰そうか考えることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
肌寒さに身を震わせて目を覚ました。どうやら眠ってしまっていたらしく、重い瞼を押し上げると、目の前には鼻と鼻が触れそうな位置に顔があった。
私と目が合うと、慌てた様に顔が遠退いた。
「フランドール、起きてたの」
「う、うん」
「うわ、もう空が朱いじゃない。あんたも起きてたなら起こしてくれりゃ良かったのに」
「わ、私もさっき起きたところなのよ」
「そう」
それならしかたない。
身体を起こすと、身体のあちこちがパキポキと悲鳴をあげる。
肩をグルリと回して硬直した筋肉を軽くほぐす。
「……霊夢、気が付いてた?」
「は、何によ?」
肩を回しながらフランドールの方へと振り返った。けれど、視線の先でフランドールは慌てた様に頭を振る。
「あ、いや、やっぱりなんでもない!」
「そう?」
普段真っ白なフランドールの肌が耳まで赤く見えるのは、夕日のせいだろう。
大きく伸びを一つ。やっと頭が冴えてきた。
「さて、夕飯の準備でもしようかしらね。フランドールも食べてく?」
「お誘いは嬉しいんだけど、そろそろ帰ってこいって今しがたお姉様から催促が来ちゃった」
そう言うフランドールの帽子には、小さな蝙蝠が一匹張り付いていた。蝙蝠が帽子から離れて空に飛んでいく。それを眺めていたフランドールの覗かせた表情は一抹の寂しさ。それからフランドールは靴を履いて縁側から下りる。見送ろうと、その背中を追って私も歩く。
数歩歩いた所でフランドールが振り返った。
「ねえ霊夢。また来ていい?」
「どうせ来るなって言ったって来るんでしょ」
当然というようにフランドールが笑う。
この娘は困ったものだ。溜息と苦笑を一つ。
「だったら……」
フランドールの頭に手をやる。不思議そうに私に向けられる視線に笑みを返す。それから、その頭をワシワシと撫でてやった。
「またいつでも来なさい」
頭を押さえてズレた帽子を直しながら、しばし目を瞬かせていたフランドールの顔に笑みが咲く。
「うん、また来るね!」
言葉と共にフランドールの顔が私に近づく。唇に柔らかな感触と、鼻には少しの甘い香り。
背伸びをしていた足を下ろして、フランドールは自身の唇を私のそれから離すと、いたずらっぽく、恥ずかしそうに笑った。
そうして、彼女はひとつ大きく翼を動かして空を踊る。七色の宝石のような翼が月明かりを浴びて輝く。
魅了されるようにその姿を眺めて、私はふと先程フランドールが日傘を持っていなかったことを思い出した。縁側に視線を向けると、案の定そこには白い日傘がポツンと立て掛けられていた。
既にフランドールの姿は見えなくなっている。どうしようかと考えて、日傘を手に取る。縁側に上り、寝室に向かいながら小さなそれを少しの間見つめる。
「……明日にでも渡しに行きますか」
私から会いに行ったらどんな顔をするかしら?
寝室の畳の上に日傘を寝かせ、フランドールの表情を思い浮かべながら、私は障子を閉めた。
END
よろしい、18000年待ってやる!
そんなに待てないよorz
フランかわいい
俺は自分の評価したいものを評価するぜ
10000年生きてやる
大丈夫だ、問題ない。
20011年まで待つぜ
待ってます!
20011年なんてあっという間さ!
いつまでも待ってる!
あまりにも供給が無くて、それぞれのタグから霊夢とフランがでてくる話を必死になって探したのはいい思い出。
しかし、誤字はいただけないな
公開未定→公開予定
何点にしようかな…
日常の一こま、という感じがして良いですねえ。
2人の今後が楽しみです。
のんびりとした微笑ましい会話が良かったです