「ねえ魔理沙、最近賽銭箱の元気がないみたいなの。こっそり様子を見てくれない?」
「……は?」
「賽銭箱がね、おなかすいたーって言ってるの」
ある日の昼下がり。博麗神社にて。
縁側に腰掛けている霊夢の隣で座っている私は耳を疑った。
「……なんて?」
「だから。賽銭箱が、賽銭を食わせろーって」
霊夢が変なことを言い始めた。
賽銭箱はモノだから元気があるとかないとかそういう話じゃないだろう。
遂に賽銭が入らなくなったことを悲観して頭がちょっとおかしくなってしまったとも考えられる。哀れ霊夢。
「……なぁ、それは賽銭入れろって催促してんのか?」
ギクッという擬音が似合うくらい慌てふためく霊夢。分かりやすい奴だなぁと思いながら返答を待つ。
「…………まぁ、そうとも言うわね」
多分こいつの事だから遠回しに賽銭を催促していると思ったのだ。予想が当たってくれてほっとした。いつもの霊夢だった。
「はぁ、よかったよかった。永遠亭に連れて行く手間が省けたぜ……」
「何よ、これでも結構気にしてるのよ?」
ふんっと、無い胸を張る霊夢。いや、私も人のことは言えないんだが……っと、別にそれは今どうでもいい話で。
「気にしてるってねぇ……。賽銭に困ってるのは、お前が妖怪と仲良くやってるせいなんじゃないのか? 妖怪を退治してくれるはずの巫女様が妖怪となぁなぁやってて、しかも神聖であるはずの神社に入り浸っているんじゃ参拝者なんて見込めるわけがないしな」
「むっ。一応、妖怪退治とか異変解決もしてるつもりなんだけどね……」
不服そうに唸るが彼女の方に原因があるのは明白なような気もする。
「だってさあ、お前異変解決についての話を誰にもしないじゃないか。そこらの人とっ捕まえて『博麗霊夢ってどんな人?』って聞いたらほぼ全員が首をかしげるんじゃ……」
「そんなこと言ったって、別に誰かに自慢するような話でもないし。前に鴉天狗に話した時にはまともに取り合ってくれなかったし」
「具体的な話じゃなくたっていいんだよ。イメージとか、雰囲気とか……しょうもない噂話だっていい。それだけでもかなり変わってくるはずだ。社交性がないんだよお前」
私が珍しく熱弁しているのをよそに、至極面倒くさそうに話を聞いている。
いや、この気まぐれな巫女の事だ。聞いているだけでもまだましなケースか。
普段の様子を見れば今のままの生活でも特に問題はないのだろうが、神社というものとしてはどうなのだろうか。
山の神社の巫女は信仰を得られない現を捨て、この幻想郷にやってきた。
私は専門じゃないから詳しくは知らないが、神社というものは信仰あってのものではないのだろうか。
信仰を得られないという事がどのような影響を与えることになるのかはわからないが、まがりなりにもここは『神社』であるのだから信仰が十分に得られていない状況はなかなかまずいような気もする。
「と、言われてもね……。あんたが言う状況でも私はピンピンしてるんだから大丈夫なんじゃない?」
「……なんていうかお前って、危機感ないよな」
「そう?」
けろっと答える霊夢に拍子抜けした。
昔からこんなやつだったっけかなと記憶を引っ張り出してみるけれどやっぱりあまり変わってないという結論に至った。ってか全く変わらない。
頭をがしがしとかきながら彼女はぼやく。
「まぁ、こんな神社に来るやつなんてろくなやついないわよ。立地条件も悪いし、妖怪がゴロゴロと転がってるしね」
「私の事をろくでもない奴呼ばわりするのはどうかと思うぜ。私ほど他人の模範になるような生き方をしている人間もそうそういないだろ」
「どの口がそんなこと言ってるんだか……。いたいけな巫女から毎日のようにお茶をたかりに来てるような奴がよく言うわね」
「お前のどこがいたいけだっての……」
「何か言った?」
「んにゃ、何も」
傍らに置いてある湯呑を手に取り、一気に飲み干す。淹れてからかなり時間が経っているせいか、程よくぬるくなっていて喉を潤すにはちょうど良かった。
「あ、私のお茶」
「悪いな、いただいたぜ」
「せめて一言くらい断ってから飲みなさいよ……」
ぶつぶつと文句を垂らしながら、湯呑を片手に奥へ消えていく。新しくお茶を注ぎに行ったのだろう。
隣に霊夢がいない間、私はぼーっとしていた。この空気に毒されているんだろうか。
定期的にこうやって縁側に座って、くだらない話をして、うっすいお茶を飲んで、ちょっと喧嘩して、みんなを呼んで酒盛りして。
そんな一見つまらないように見えることが案外大きなウェイトを占めていたりする。たぶん私の中ではそうだと思う。
日々過ごしていくうちに、キリキリと何かが削れていくような映像が私の頭に浮かぶ。
小さな欠陥が、やがて大きくぽっかりと開いた穴になる。面白おかしく毎日過ごしていても無意識に、そして止まることのない現象。
ぽっかりと空いた箇所を皆、埋めにやって来るのだろう。何故ぽっかりと空いてしまったのか?どうして彼女と共に過ごすと満たされるのか?
いつも変わらぬ彼女を私たちが求めてしまうのは何故なのだろうか?
「ほら、魔理沙。あんたの分」
「おわっ!?」
いきなり後ろから声をかけられたせいで、奇妙な声を出してしまった。
「何よ、びっくりするじゃない……」
「あ、ああ。すまん、霊夢……。ちょっと考え事をしてたんだ」
「何かあったの、魔理沙? 今日のあんた、ちょっとおかしいわよ」
「失礼な……」
両手に湯呑を持って、私の隣にすとんと座る。はい。と言って私にお茶を手渡してきた。おう。と私はその湯呑を受けとり横に置く。
ずずっと隣から茶をすする音が聞こえる。私はただ、ぼんやりと空を見上げながらお茶が冷めるのを待つ。
霊夢曰く、お茶は熱いうちに飲んだ方がおいしいらしいが、あいにく私は熱いものすぐに口にすることはできない性質である。いわゆる猫舌。
子供っぽいだのと笑われるのが目に見えているので言わないが。
ゆっくりとした空気が流れる。新たに誰かが来るような様子もない。
「好きなんだよな」
私はぼそっとつぶやき、沈黙を破った。
私の言葉の意味を取れなかったのだろう、霊夢が不思議そうに私の顔を覗き込む。
「何が好きって?」
「この場所がさ」
何を言いたいのかわからないというような視線を向けてくる。それに構わず淡々としゃべり続ける。
「なんだかさ、居心地がいいんだよ。流れている空気が他の場所とは違うというか。私はここのそういうところが好きだし、ほかのみんなもそうだと思う。集まるのが変わったやつばっかりってのも仕方がないのかもしれないな」
「物好きばっかりねぇ、本当に」
「絶対ここは変わらないって言う確証があるからってのもあるかな」
「……どういう事?」
「あえて言うなら……うん。安心できるってことさ」
湯呑を掴み、お茶を口に含み、ふぅっと一息つく。
最終的には自分の意見の押しつけだったのかなと少し後悔しているけれど、これくらいはっきり言わないと伝わらないと思ったうえでの行動だ。
一歩離れた地点から見ているようなそんな感覚。積極的に他人と関わろうとしない、しかし相手から何かしらのアクションがあればそれなりの対応をする。
正直、そんな態度を不気味に思った。
あいつは技術者の河童が作り出した機械じゃないのか、心を持っていないんじゃないかと思ったことさえある。
そういう意味も含めてさっき社交性がないと言ったのだが多分気づいてはいないだろう。
勘は鋭いがこと自分の事に関しては鈍い。いや、鈍いというよりは不器用と言った方がいいのだろうか。
何にせよ、彼女は自分に対する比重が軽すぎるのだ。
「……ほんとに、あんたって変わってるわよね。この幻想郷にいる妖怪に負けず劣らずの変わり者」
「そこまで言われるとは思ってなかったぜ」
「そこまで言わないとあんたわかんないでしょ」
「まぁ、そうつんつんするなって……よっと」
私は立ち上がり霊夢に向き直る。
「でもさ、このままでいいんだよ。少しくらいぼろっちくてもな」
「威厳があるとか他にも言い方はあるでしょ……」
「それに宴会する貴重な場所でもあるしな!」
「……あんたそれが本音でしょ」
にひひ、と私が笑いかけると「呆れた」と一言ため息とともに返ってきた。
「まったく、それにね。うちにそこまで大きな信仰は必要ないわよ。お金の工面ならなんとかなるし。それに妖怪に信仰される神社ってのも……ねぇ?」
「新しくていいんじゃないのか? 妖怪に信仰される神社」
「あいつら賽銭なんて入れていかないじゃないの」
「いや、どうだろうな。お前が考えている以上に周囲はお前のことを想ってるんだぜ」
ちょっとした沈黙の後、霊夢は一気に茶をあおった。
ぷはっと行儀悪く息継ぎをし、眉間に皺を寄せ、座りなおす。
「……そんなことないわ」
「それじゃ、みんなを呼んでみるか? 一人ずつに聞いていってもいいさ。……まあ、今のお前みたいに意地張るような奴もいるだろうけど。」
「なっ……! 私のどこが意地を張ってるって言ってるのよ!?」
いきなり立ち上がり抗議をするところを見ると相当興奮しているらしく息も荒い。
顔も真っ赤になって動揺の色を隠せていない。
私はそんな彼女を見て面白いことを思いついた。
「なぁ、霊夢。ここはどうだ、賭けでもしようぜ」
「賭け?」
「そ。参加者全員に霊夢の事をどう思ってるかを聞くってのを肴にする宴会を開く。霊夢の事なんて特にどうとも思ってないってやつの方が多かったらお前の勝ち。そうじゃなかったら私の勝ちってのでどうだ? それとも何だ? 自信がないのか?」
思惑通り私の挑発に乗った霊夢は挑戦を受ける気でいる。頭に血が上っている時はすぐに乗せやすいから楽だ。
「……面白いじゃないの。で、私が勝ったら何かしてくれるのかしら?」
「そうだな、お前が勝ったらここに来るたびに賽銭入れてやるぜ」
「ふぅん? 後で泣いて謝ったって知らないわよ?」
一体その自信はどこから出てくるのだろう。ここまで鈍いとなんでこんなのになっちゃったんだろうかと老婆心からこいつの行く末を案じてしまう。
……まだ私はそんなに年を取ってるわけじゃないけど。
まぁ、一度くらい素直になればいい。皆の想いを享受すればいい。時には張った気持ちを緩ませることだってしたっていいんじゃないか。
なんだか今日は良い日になりそうだ。
あの賽銭箱はいつまでも、いつまでもからっぽのまま……。
「……は?」
「賽銭箱がね、おなかすいたーって言ってるの」
ある日の昼下がり。博麗神社にて。
縁側に腰掛けている霊夢の隣で座っている私は耳を疑った。
「……なんて?」
「だから。賽銭箱が、賽銭を食わせろーって」
霊夢が変なことを言い始めた。
賽銭箱はモノだから元気があるとかないとかそういう話じゃないだろう。
遂に賽銭が入らなくなったことを悲観して頭がちょっとおかしくなってしまったとも考えられる。哀れ霊夢。
「……なぁ、それは賽銭入れろって催促してんのか?」
ギクッという擬音が似合うくらい慌てふためく霊夢。分かりやすい奴だなぁと思いながら返答を待つ。
「…………まぁ、そうとも言うわね」
多分こいつの事だから遠回しに賽銭を催促していると思ったのだ。予想が当たってくれてほっとした。いつもの霊夢だった。
「はぁ、よかったよかった。永遠亭に連れて行く手間が省けたぜ……」
「何よ、これでも結構気にしてるのよ?」
ふんっと、無い胸を張る霊夢。いや、私も人のことは言えないんだが……っと、別にそれは今どうでもいい話で。
「気にしてるってねぇ……。賽銭に困ってるのは、お前が妖怪と仲良くやってるせいなんじゃないのか? 妖怪を退治してくれるはずの巫女様が妖怪となぁなぁやってて、しかも神聖であるはずの神社に入り浸っているんじゃ参拝者なんて見込めるわけがないしな」
「むっ。一応、妖怪退治とか異変解決もしてるつもりなんだけどね……」
不服そうに唸るが彼女の方に原因があるのは明白なような気もする。
「だってさあ、お前異変解決についての話を誰にもしないじゃないか。そこらの人とっ捕まえて『博麗霊夢ってどんな人?』って聞いたらほぼ全員が首をかしげるんじゃ……」
「そんなこと言ったって、別に誰かに自慢するような話でもないし。前に鴉天狗に話した時にはまともに取り合ってくれなかったし」
「具体的な話じゃなくたっていいんだよ。イメージとか、雰囲気とか……しょうもない噂話だっていい。それだけでもかなり変わってくるはずだ。社交性がないんだよお前」
私が珍しく熱弁しているのをよそに、至極面倒くさそうに話を聞いている。
いや、この気まぐれな巫女の事だ。聞いているだけでもまだましなケースか。
普段の様子を見れば今のままの生活でも特に問題はないのだろうが、神社というものとしてはどうなのだろうか。
山の神社の巫女は信仰を得られない現を捨て、この幻想郷にやってきた。
私は専門じゃないから詳しくは知らないが、神社というものは信仰あってのものではないのだろうか。
信仰を得られないという事がどのような影響を与えることになるのかはわからないが、まがりなりにもここは『神社』であるのだから信仰が十分に得られていない状況はなかなかまずいような気もする。
「と、言われてもね……。あんたが言う状況でも私はピンピンしてるんだから大丈夫なんじゃない?」
「……なんていうかお前って、危機感ないよな」
「そう?」
けろっと答える霊夢に拍子抜けした。
昔からこんなやつだったっけかなと記憶を引っ張り出してみるけれどやっぱりあまり変わってないという結論に至った。ってか全く変わらない。
頭をがしがしとかきながら彼女はぼやく。
「まぁ、こんな神社に来るやつなんてろくなやついないわよ。立地条件も悪いし、妖怪がゴロゴロと転がってるしね」
「私の事をろくでもない奴呼ばわりするのはどうかと思うぜ。私ほど他人の模範になるような生き方をしている人間もそうそういないだろ」
「どの口がそんなこと言ってるんだか……。いたいけな巫女から毎日のようにお茶をたかりに来てるような奴がよく言うわね」
「お前のどこがいたいけだっての……」
「何か言った?」
「んにゃ、何も」
傍らに置いてある湯呑を手に取り、一気に飲み干す。淹れてからかなり時間が経っているせいか、程よくぬるくなっていて喉を潤すにはちょうど良かった。
「あ、私のお茶」
「悪いな、いただいたぜ」
「せめて一言くらい断ってから飲みなさいよ……」
ぶつぶつと文句を垂らしながら、湯呑を片手に奥へ消えていく。新しくお茶を注ぎに行ったのだろう。
隣に霊夢がいない間、私はぼーっとしていた。この空気に毒されているんだろうか。
定期的にこうやって縁側に座って、くだらない話をして、うっすいお茶を飲んで、ちょっと喧嘩して、みんなを呼んで酒盛りして。
そんな一見つまらないように見えることが案外大きなウェイトを占めていたりする。たぶん私の中ではそうだと思う。
日々過ごしていくうちに、キリキリと何かが削れていくような映像が私の頭に浮かぶ。
小さな欠陥が、やがて大きくぽっかりと開いた穴になる。面白おかしく毎日過ごしていても無意識に、そして止まることのない現象。
ぽっかりと空いた箇所を皆、埋めにやって来るのだろう。何故ぽっかりと空いてしまったのか?どうして彼女と共に過ごすと満たされるのか?
いつも変わらぬ彼女を私たちが求めてしまうのは何故なのだろうか?
「ほら、魔理沙。あんたの分」
「おわっ!?」
いきなり後ろから声をかけられたせいで、奇妙な声を出してしまった。
「何よ、びっくりするじゃない……」
「あ、ああ。すまん、霊夢……。ちょっと考え事をしてたんだ」
「何かあったの、魔理沙? 今日のあんた、ちょっとおかしいわよ」
「失礼な……」
両手に湯呑を持って、私の隣にすとんと座る。はい。と言って私にお茶を手渡してきた。おう。と私はその湯呑を受けとり横に置く。
ずずっと隣から茶をすする音が聞こえる。私はただ、ぼんやりと空を見上げながらお茶が冷めるのを待つ。
霊夢曰く、お茶は熱いうちに飲んだ方がおいしいらしいが、あいにく私は熱いものすぐに口にすることはできない性質である。いわゆる猫舌。
子供っぽいだのと笑われるのが目に見えているので言わないが。
ゆっくりとした空気が流れる。新たに誰かが来るような様子もない。
「好きなんだよな」
私はぼそっとつぶやき、沈黙を破った。
私の言葉の意味を取れなかったのだろう、霊夢が不思議そうに私の顔を覗き込む。
「何が好きって?」
「この場所がさ」
何を言いたいのかわからないというような視線を向けてくる。それに構わず淡々としゃべり続ける。
「なんだかさ、居心地がいいんだよ。流れている空気が他の場所とは違うというか。私はここのそういうところが好きだし、ほかのみんなもそうだと思う。集まるのが変わったやつばっかりってのも仕方がないのかもしれないな」
「物好きばっかりねぇ、本当に」
「絶対ここは変わらないって言う確証があるからってのもあるかな」
「……どういう事?」
「あえて言うなら……うん。安心できるってことさ」
湯呑を掴み、お茶を口に含み、ふぅっと一息つく。
最終的には自分の意見の押しつけだったのかなと少し後悔しているけれど、これくらいはっきり言わないと伝わらないと思ったうえでの行動だ。
一歩離れた地点から見ているようなそんな感覚。積極的に他人と関わろうとしない、しかし相手から何かしらのアクションがあればそれなりの対応をする。
正直、そんな態度を不気味に思った。
あいつは技術者の河童が作り出した機械じゃないのか、心を持っていないんじゃないかと思ったことさえある。
そういう意味も含めてさっき社交性がないと言ったのだが多分気づいてはいないだろう。
勘は鋭いがこと自分の事に関しては鈍い。いや、鈍いというよりは不器用と言った方がいいのだろうか。
何にせよ、彼女は自分に対する比重が軽すぎるのだ。
「……ほんとに、あんたって変わってるわよね。この幻想郷にいる妖怪に負けず劣らずの変わり者」
「そこまで言われるとは思ってなかったぜ」
「そこまで言わないとあんたわかんないでしょ」
「まぁ、そうつんつんするなって……よっと」
私は立ち上がり霊夢に向き直る。
「でもさ、このままでいいんだよ。少しくらいぼろっちくてもな」
「威厳があるとか他にも言い方はあるでしょ……」
「それに宴会する貴重な場所でもあるしな!」
「……あんたそれが本音でしょ」
にひひ、と私が笑いかけると「呆れた」と一言ため息とともに返ってきた。
「まったく、それにね。うちにそこまで大きな信仰は必要ないわよ。お金の工面ならなんとかなるし。それに妖怪に信仰される神社ってのも……ねぇ?」
「新しくていいんじゃないのか? 妖怪に信仰される神社」
「あいつら賽銭なんて入れていかないじゃないの」
「いや、どうだろうな。お前が考えている以上に周囲はお前のことを想ってるんだぜ」
ちょっとした沈黙の後、霊夢は一気に茶をあおった。
ぷはっと行儀悪く息継ぎをし、眉間に皺を寄せ、座りなおす。
「……そんなことないわ」
「それじゃ、みんなを呼んでみるか? 一人ずつに聞いていってもいいさ。……まあ、今のお前みたいに意地張るような奴もいるだろうけど。」
「なっ……! 私のどこが意地を張ってるって言ってるのよ!?」
いきなり立ち上がり抗議をするところを見ると相当興奮しているらしく息も荒い。
顔も真っ赤になって動揺の色を隠せていない。
私はそんな彼女を見て面白いことを思いついた。
「なぁ、霊夢。ここはどうだ、賭けでもしようぜ」
「賭け?」
「そ。参加者全員に霊夢の事をどう思ってるかを聞くってのを肴にする宴会を開く。霊夢の事なんて特にどうとも思ってないってやつの方が多かったらお前の勝ち。そうじゃなかったら私の勝ちってのでどうだ? それとも何だ? 自信がないのか?」
思惑通り私の挑発に乗った霊夢は挑戦を受ける気でいる。頭に血が上っている時はすぐに乗せやすいから楽だ。
「……面白いじゃないの。で、私が勝ったら何かしてくれるのかしら?」
「そうだな、お前が勝ったらここに来るたびに賽銭入れてやるぜ」
「ふぅん? 後で泣いて謝ったって知らないわよ?」
一体その自信はどこから出てくるのだろう。ここまで鈍いとなんでこんなのになっちゃったんだろうかと老婆心からこいつの行く末を案じてしまう。
……まだ私はそんなに年を取ってるわけじゃないけど。
まぁ、一度くらい素直になればいい。皆の想いを享受すればいい。時には張った気持ちを緩ませることだってしたっていいんじゃないか。
なんだか今日は良い日になりそうだ。
あの賽銭箱はいつまでも、いつまでもからっぽのまま……。
魔理沙もマブダチって感じで素晴らしい
宴会の様子も見てみたいなーわくわく
タイトルと最後の締め、どちらもツボでした
魔理沙が勝った時には何も無くてどう転んでも霊夢にとっていいことだけというのが魔理沙なりの優しさなのか。
でも霊夢はそんなことには気づいてないんだろうな。
れーむかわいいよれーむ