Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷が海になりました

2010/10/20 18:21:39
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 目を覚ますと、そこは海だった。

「……ふぇ?」

 強烈な潮の香りが鼻を蹴りつけている。
 くすんだ色の天井、ほったらかしの実験道具、山積みになった本。
 目に映るいつもの部屋がほんのりと青に染まっていた。
 きわめつけは部屋の中を泳ぎまわる魚たちだ。涼をとるために開けっ放しにしておいた窓から入ってきたらしい。
 霧雨魔理沙はこれまで本の中でしか知らなかった、海の中にいたのだ。

「な、何じゃこりゃあ!?」

 ついでに大ダコに襲われていた。
 人間の大人よりも一回り大きい軟体動物に襲われるのは、ちょっとどころではない恐怖だ。
 大ダコは八本の触腕と吸盤を使い、器用に魔理沙の身体にからみついてくる。パジャマの薄い生地越しに伝わる感触は、お世辞にも気持ちの良いものではない。
 グニグニ、ウニュウニュ、はっきり言って不快だった。

「うひゃっ!? 妙なとこを触るんじゃない!」

 鼻の先まで真っ赤になった魔理沙は唯一自由だった右手で、枕やキノコなどを手当たり次第に投げまくる。
 何がどのように作用したのか、タコに命中したキノコの一つが爆発した。
 驚いた大ダコが触腕を引っ込めたおかげで、捕らわれの少女は解放される。

「よくも私の貞操に傷をつけてくれたなぁ! 悪い子にはお仕置きだ!」

 さらに借り物の魔道書まで投げつけるが、それでも怒りは収まらない。
 懐からミニ八卦炉を取り出し、部屋の隅へ逃げた大ダコに狙いを定める。
 そして、魔力を充填して必殺の“マスタースパーク”を発射する寸前、魔理沙は自分が荒々しく息をしていることに気がついた。
 この大発見にしばし唖然とし、せっかくためた魔力は口から気泡となって出てしまう。その隙に命拾いした大ダコはそそくさと窓から逃走していった。

「息が……できる?」

 実際に海へ行ったことはないものの、海がでっかい水たまりであり、当然そこで呼吸などできないことは知っている。いや、知っていたはずだった。それなのに、魚が泳いでいる横で息ができるとは一体どういうことだろう。
 ひとまず憎たらしいタコのことは忘れ、深呼吸をしてみた。
 空気を吸っているのか、液体を吸っているのか、どちらとも取れない奇妙な感覚である。
 盛んに胸を膨らませる人間に興味を持ったのか、一匹のハリセンボンが近づいてきて頬をつついた。

「やれやれ。何がどうなってるんだかなぁ、魚さん?」

 針まみれの魚は疑問に答えてくれなかった。
 魔理沙は肩をすくめ、昨晩の記憶をたぐり寄せてみたが、これといって現在の異変につながるヒントは浮かばない。
 遅くまでキノコをいじってはいたが、水に関係する魔法は研究していなかった。誰かの奇声を聞いたり、水着を着てうろつく集団も見ていない。実に静かな夜だったのだ。

「まー、とりあえず博麗神社だな」

 ベッドの上であぐらを組みつつ、何ともなしにつぶやいた。居酒屋に入ったらとりあえずビール、といった感覚である。
 それでも、博麗神社はあながち的外れな場所ではない。
 今回の異変では空気が海水にすり替えられている。こんな奇怪な異変をやらかす筆頭候補として名が挙がるのは、境界を操る誰かさんであろう。博麗神社の主は幻想郷の結界を管理する仕事柄、その誰かさんと懇意である。普段はどこにいるか不明な誰かさんを探すには、まず神社で聞き取り調査をしてみるべし、というわけなのだ。

「よし。そうと決まれば善は急げ!」

 勢いよく立ち上がったパジャマ少女は、あっという間に魔法少女に変身して霧雨邸を飛び出した。
 なお、幸運なハリセンボンは変身の一部始終を目撃していたが、そのありがたさを理解できるほどの頭脳も下心も持ち合わせていなかった。魚類ゆえの悲しさである。










「一晩でずいぶん変わるもんだな」

 いつもなら暗くてじめじめした魔法の森も、今日に限っては生き物の楽園となっていた。うっそうとした原生林は魚たちの隠れ家にぴったりだったのだ。
 木々の間を慌ただしく泳ぐアジの仲間、茂みには小さなスズメダイの群れ。色鮮やかなハゼがこれまた色鮮やかなキノコの上に陣取っていて、その上をエイがゆっくりと通り過ぎていく。
 魔理沙は全速力で博麗神社へ向かうつもりだったのに、ついつい速度を緩めて目の前に広がる異変を楽しんでいた。

「やめて、巻きつかないでー!」

 アリスは自宅前で大ダコに襲われていた。頭の一部がこげているので、魔理沙を襲ったものと同一犯のようだ。

「美少女と触手は良く似合う……」
「馬鹿なこと言ってないで早く助けてよ!」

 アリスの身体はウネウネうごめく触腕によってエロティックに縛り上げられていた。周囲には墨を吐かれて撃墜されたのか、真っ黒になった人形が何体も転がっている。大ダコは魔理沙に撃退されて学習したようだ。

「すまん、急いでるんだ。異変を解決した後で助けてやるよ」
「ええっ!? 待って、待ちなさいよ!」

 泣きそうな顔で必死に抵抗するアリス。大ダコによって無理やり強調させられた胸が悩ましくて、思わず助けたくなってしまう。
 しかし、異変解決は早い者勝ちである。タコはサッカー大会の勝敗を予想してしまうほどの知能を持った生物だ。そんなやつと戦うのは骨が折れるし、それ以上に異変解決に関係ないことで時間を浪費するのがもったいない。
 魔理沙は異変解決を優先させることにした。世は無常なのだ。

「たこ焼きを楽しみにしてるぜ。それじゃ、またな!」
「鬼! 薄情者! この……やだ、そっ、そこは触っちゃだめぇっ!」

 タコは無脊椎動物の中で最も賢い種族だ。どうやら、この大ダコには美少女の魅力を理解する知能と下心を持ち合わせていたようだった。魚類とは違うのである。
 背に当たるアリスの悲鳴、もとい嬌声に耐えながら飛んでいると、ようやく目指す博麗神社の鳥居が見えてきた。
 魔理沙は巧みに箒を操って鳥居をくぐると、あちこちにヒラメが息を潜めている境内に着地した。やはりここも生き物の楽園になっているようだ。

「さーて、霊夢は……うわぉ」

 縁側から母屋をのぞくと、室内にはちゃぶ台を中心としておびただしい数の魚が泳いでいた。
 紅白巫女の目立つ姿はどこにも見えない。

「幻想郷が海になると博麗の巫女は魚になるのか」
「その声は魔理沙?」
「いかにも。で、どの魚になったんだ?」
「魚? 私はここにいるわよ」

 声がするやいなや、群れていた魚が一斉に散って、飯をむさぼる霊夢が姿を現した。
 せっかくの神秘的な演出が、頬についたご飯粒で台無しである。

「異変が進行中にもかかわらず優雅にお食事中とは。さすが博麗の巫女は違うな」
「甘いわね。仕事前にしっかり食べてエネルギーをとっておかないと、弾幕ごっこの途中で墜落するわよ。腹が減っては戦はできぬ、ってね」

 霊夢はにやりと笑い、きゅうりの漬物を口に入れて見せた。この勝負、彼女の勝ちのようだ。

「そりゃまあ……そうか。じゃあ飯をくれ。今朝は何も食べてないんだ」
「断固として拒否する」
「けち」
「おかずならそこら中を泳いでるじゃない」
「捕まえて料理するのがめんどくさい」
「私はしたわ」

 ちゃぶ台に視線を落とすと、なるほど、けばけばしい色をしたフエダイの丸焼きがご飯、味噌汁、きゅうりの漬物、焼き卵などに囲まれて鎮座している。魚の大きさといい、皿の数といい、昼食にしてもおかしくないボリュームだ。
 霊夢を覆うようにして泳ぐ魚たちは、この料理のおこぼれを狙っているらしい。

「お米を洗ってるときにつまみ食いしたから、罰としておかずになってもらったのよ」
「こんな魚、よく食べる気になったなぁ」
「けっこうおいしいけど?」
「へえ。じゃあ早速いただくとするか」
「あ、こらっ!」

 困ったときのマイ箸である。

「ん~、美味美味」
「魔理沙も丸焼きになりたいのかしら?」
「私よりも周りに大勢いる未遂犯を焼いてくれ。ほら、あの黄色いやつなんかうまそうだぞ」
「ああもうっ! あんたらもしつこい!」

 霊夢が箸を振り回して魚を追い払っているうちに、懐からマイ茶碗を出した魔理沙はご飯を失敬することにした。水中なのに釜からは湯気が上がっていた。

「米も上手に炊けてるじゃないか。火や水が使えないと思ってたよ」
「あいにく火は使えるし、水と塩水は分かれてるみたいね。だから、魔理沙が飲んでる味噌汁も作れたの」

 突き刺さるような視線と声もなんのその。魔理沙は贅沢にもカニが入った味噌汁に舌鼓を打った。カニと海草の味が混ざり合った絶品である。このカニは境内をうろついていたところを運悪く見つかってしまったようだ。

「無茶苦茶な異変だが、うまいものが毎日食べられるのも悪くないな。このまま放っておくか?」

 最初こそ幻想郷の変わりように驚いた。
 今でも神社の外に目をやれば、蝉がやけくそ気味に鳴いている横をマンボウがのっそりと漂っているし、神社の中からは見えないが、軒下には何匹ものネムリブカが入りこんで寝ている。幻想郷の住人が倍に増えたかのような華やかさだ。
 それでいて日常生活には大した支障はないように思える。空気が海水になったせいか、少し飛びにくいことや、食事をつまみ食いされる程度であろうか。

「冗談? まだ洗濯物が乾くか分からないのに。食事が終わったらさっさと元凶をぶちのめして、異変を解決するわよ」

 魔理沙はこの異変の影響に興味津々で、楽しんですらいたが、霊夢にとってはあくまで解決しなければならない厄介なもの、でしかないようだ。

「へいへい、了解しましたよ。で、私は黒幕が紫だと思うが、どこにいるか知ってるか?」
「知らない。いつもふらふらして行方知らずだし、紫の家へ行くときはスキマ経由だったから」
「そんなところだろうな。巫女の勘は?」
「上にいるってささやいてるわ」

 食後のお茶を飲み干した霊夢は、魚たちをかき分けつつ縁側まで歩いていき、空をにらんだ。
 霊夢は自分の行動を決めるときに勘という表現を良く使う。それは神託なのか、経験を基にした分析結果なのかは当人にしか分からない。とにかく、必ずといっていいほど当たるのだ。
 魔理沙も霊夢の勘に全幅の信頼を置いていた。非常識の支配する幻想郷において最も信頼できるものの一つとさえ考えている。

「上……となると天界あたり?」
「さあ? 断言はできないけど、なんとなく上の方にいる気がするのよ」
「なんとなくで十分さ。じゃ、行くとしますか」

 マイ箸を置いてごちそうさま、と唱える。それから真っ黒の帽子をかぶって箒を持てば準備万端。
 少し行儀が悪いが、二人とも食事の片付けは後にすることにした。時間に余裕があるわけではないし、どうせ魚たちが綺麗にしてくれるはずだからだ。

「朝食代くらい払いなさいよ」
「いいぜ。霊夢の代わりに異変を解決してやる」
「盗人に何を言っても無駄ね」
「どういたしまして」
「褒めてない!」

 魚が殺到するちゃぶ台を背にして、少女たちは騒がしく飛び立った。
 空気が海水に変化したせいで幻想郷はすっかり様変わりしている。それでも水量には限界があるらしく、はるか上空は水面になっていた。目指す天界は水面から出るか出ないかのあたりだ。
 水面には海と溶け合う太陽が見えた。夏の強烈な日差しも、海底へ届くまでに優しげな光に変わっている。









 異変が頻発するようになった幻想郷では、多少の異変では動じなくなった感がある。さすがに幻想郷が一夜にして海に沈んでしまった現状に驚いている者は多いが、なお平然として日常生活を送っている者もいた。
 天界に住む天人たちはその最もたるところであろう。天界が南国風の砂浜に変わってしまっても、彼らはいつもと同じように歌を詠み、桃を愛で、蹴鞠をしていた。

「退屈な連中ねぇ。あー、やだやだ。歳をとると変化を恐れるようになっちゃって」

 比那名居天子はビーチバレーならぬビーチ蹴鞠にいそしむ同族たちを見下し、鼻で笑った。
 自他共に認める不良天人の彼女にしてみれば、どう頑張っても日常の延長にしかならないビーチ蹴鞠などナンセンス。広大な海へ飛びこんで異変を満喫するべきだと身をもって主張するつもりだった。
 さらにあわよくば、

「異変を解決してみんなをギャフンと言わせてやるんだから!」

 と息を荒くしながら、何十分もかけて準備体操をしていた。一向に海へ飛び込む気配はない。
 天子でも怖いものがあるようだ。

「衣玖を連れて行きたいけど……朝から見てないんだよなぁ。どこに行ったんだろう」

 準備体操に飽きた天子は砂浜をうろつくヤドカリを捕まえ、ぼやき始めた。龍宮の使いである永江衣玖が道中一緒ならば心強いが、ヤドカリが相棒だと心強いどころか、自分が面倒を見るはめになりそうである。

「そうだっ! あなたに式を貸してもらえばいいじゃない。これで万事解決だわ!」
「だーめ」

 ヤドカリを放り投げて叫んだ天子に、背後から冷たい声がかかった。

「えー、どうしてよ」
「藍は仕事で忙しいから。それと、あの子を篭絡して私を倒す足がかりにしそうだから」
「そんなつもりありませーん」

 天子は頬を膨らませて、日光浴をしている美女に駆け寄った。この美女こそ、今回の異変を起こしたと噂されている八雲紫その人である。
 紫は水着とサングラスを着用し、完全にバカンスモードに突入していた。おまけに、水着はスリングショットと呼ばれるきわどいシロモノで、たっぷりと熟れた紫の肢体を隠すことなくさらけ出している。

「一日だけでいいから貸してよ。何なら紫でもかまわないから」
「そんな大出血サービスはできませんわ。異変に首を突っこみたければ、お一人でどうぞ。早く行かないと、誰かに解決一番乗りをとられてしまうわよ」
「うー……」
「あら、願いって通じるものなのね。一緒に遊んでくれそうなお友だちの到着だわ」

 簡単にあしらわれてしまった天子が下唇を噛んでいると、紫がサングラスを外した。視線の先には天界ビーチに上陸した白黒魔女と紅白巫女。天界まで浮上してきたのだ。

「わっ、海坊主!」

 天子の顔面にヒトデがプレゼントされた。

「水もしたたる良い女に向かってひどい言い草だな」
「はぁ、飛びにくかった」
「そうか? ちょっと水の中みたいだったが、そこまで変わりはなかったと思うぞ」
「え、飛びにくいって感じるのは私だけ?」
「さあな。あそこの悪趣味なやつに聞いてみたらどうだ?」

 苦笑いする魔理沙が指差した先には、ほぼ全裸で手を振る紫。さしもの霊夢も紅白から紅一色になった。

「アロハ~」
「変態……」
「耳まで赤くしちゃって。この格好はお子様にとって刺激的だったかしら」
「お子様は余計だし、大人になっても理解したくないから!」
「つれないわねぇ」
「私ならかまってやるぜ。ちょいと尋ねたいこともあるし」

 からかわれてさらに赤くなった霊夢は耳をふさいでそっぽを向き、代わりに魔理沙が白砂に靴をとられながらも紫の横にたどり着く。

「水着について?」
「あー、水着以外で」

 スリングショットを悪趣味と評しているものの、目はうっすらと汗をまぶした紫の身体に釘付けだ。魔理沙だってその手のことに興味を持つお年頃なのである。
 誘惑されかけた心を引き戻して尋問を開始する。

「おほん。昨日の夜は何をしてたんだ?」
「藍と一緒に実験をしていたわ。幻想郷に海を作る実験。そろそろ幻想郷に海が必要なんじゃないかしら、と思って」
「して、結果は?」
「もう大失敗よ。海水の流入が止まらなくって。私が空気と海水の境界を操ってなかったら、今頃、みんな仲良く土左衛門になっていたわよ」

 悪びれのない笑顔にミニ八卦炉とお払い棒が突きつけられた。ワンテンポ遅れて緋想の剣も加わる。

「黒幕確保だな」
「タコ殴りにされたくなかったら、幻想郷を元に戻しなさい」
「何よー。天界に来たときに犯人です、って言えばよかったのに。異変解決一番乗りになる大チャンスを逃しちゃったじゃない」
「タコ殴りは嫌ねぇ」

 並みの妖怪なら卒倒しそうなメンバーと武器に囲まれても、紫は眉毛の先すら動かさなかった。その飄々とした姿に特に反応したのは霊夢だった。こちらは大きく眉をひそめている。

「私は磯臭いお茶は飲みたくないの。だから、早く元に戻して」
「仕方ないわねぇ、と言いたいところだけど、無理なの」
「……紫でも容赦しないわよ?」
「博麗の巫女でも容赦しないわよ?」

 夏の海辺に似合わぬ、冷え切った応酬が繰り広げられる。ただならぬ気配に横を見た魔理沙と天子は驚いた。霊夢の目が、霊夢を見飽きた魔理沙でもぞっとする、仕事人の目になっていたのだ。
 ヤシの葉が揺れる砂浜に不穏な空気が立ちこめていた。

「みなさん、そこまで」

 助け舟は海からではなく浜から来た。
 四人が波の音にも負けない、凛とした声のした方を向くと、バーテンダーの格好をした八雲藍が飲み物をのせた盆を持って現れた。夏にぴったりな飛び切りの笑顔を添えて。

「お飲み物です」

 一礼して、まずは紫以外の三人にココナッツジュースを配る。

「すまないな。昨夜は実験の後始末で本当に忙しかったんだ。おかげで、ご覧の通り紫様はへとへとさ。多少の無礼はこれで許してもらいたい」
「多少、ねぇ」
「矛を収めてくれ、霊夢。紫様は疲れていただけなんだ。霊夢と戦いたくて、あんな態度をとったわけではないさ」
「……おかわり」

 ジュースを一気飲みした霊夢は、ようやく緊張を解いた。それを見て魔理沙はホッとしたが、一番安心していたのは霊夢本人だったかもしれない。
 すぐにお持ちします、と藍は微笑んで差し出されたグラスを受け取り、身体の向きを変える。今度は主人にうやうやしくカクテルを献上するのだ。

「お待たせしました。ご注文のフローズン・ダイキリでございます」
「ありがとう。ところで、主人の飲み物が最後なのはどうしてなのかしら?」
「まず主人への危険を排除するべきかと思いまして」
「一応、合格ね」
「ありがたき幸せです」

 さすがに魔理沙たちほど素直に受け取りはしなかった。

「けれど、紫様。お疲れなのは分かりますけど、もう少し冷静に対応をしてください。もっと詳しく説明をするとか」
「なら、藍がしなさいよ。私は疲れているの」
「私は霊夢のおかわりを用意してきます」
「あ、ちょっと」
「それでは」

 言うだけ言って、藍は下がってしまった。ふさふさと揺れる黄金の九尾に、紫が恨めしそうな視線を送る。
 魔理沙はグラスを掲げて見送った。

「良い式だな」
「ええ、お仕置きが必要なくらいね」
「それより説明よ、説明!」

 ココナッツジュースを飲み干してエネルギーを充填した天子が紫に食らいつく。襟首があればつかんでいた勢いだが、あいにくスリングショットに襟首はない。あったらあったで、また違う趣になるだろう。

「紫の実験とかはどうでもいいから、とにかく異変の終わらせ方よ。それを教えて!」
「はぁ、分かったわよ」

 ついに紫が重い腰を上げた。

「夜のうちに幻想郷を元通りにする準備は完了したわ。でも、入ってきた連中への説得がうまくいってないの。ほとんどは帰ることに同意したのに、ここに残ると言って聞かないのがいるのよ」
「入ってきた連中って、魚とか?」
「そうよ。長生きして妖怪の類に近くなったのがいて、そいつらの一部が帰りたくないと主張しているの。強引に返すわけにはいかないし、かといって幻想郷の受け入れ態勢が整っているわけでもなし。どうしようもなくなって、天界まで逃げてきたのよ」
「幻想郷は全てを受け入れる、か。悩ましいこった」

 魔理沙はほんのちょっぴり幻想郷の管理人に同情した。それと同時に、今回の異変が一筋縄では解決できないと悟る。

「つまり、ゴネてるやつらを説得して、外の世界に帰ってもらえばいいのね?」

 おかわりを飲み終えた霊夢から、単純明快な解決案が出された。お払い棒を振り回し、弾幕と拳で説得する気満々である。

「要約したらそうなるわね」
「なら簡単じゃない。行ってくるわ」
「おい、霊夢……」
「待ちなさい」

 魔理沙が引き止めるよりも早く、紫の真剣な声が霊夢を止めた。
 しかし、引き止めた理由は魔理沙が期待したものとは違った。

「その格好で行く気?」
「え?」

 本日の霊夢のファッションは袖なし、フリル多目の巫女装束だ。いくつもの異変を解決してきた歴戦のファッションとも言える。つまるところ、普段と変わりはないのだ。
 底の見えない問いに、霊夢はいぶかしがる。

「いいかしら? 弾幕ごっこは機動力がものを言う勝負なのよ。それなのに、あなたときたら動きにくい服ばかり着ている。常々、もっと軽くて動きやすい、洗練された服を着るべきだと感じていたのよ」

 紫は大真面目で服について語り始めた。いつも、霊夢以上に動きにくそうな服装をしていることには、この際触れないらしい。

「だから、今日は霊夢のために新しい服を用意してきたの」

 指を鳴らすと、無表情の藍が召喚された。手に持っているのはスリングショットである。

「やだ」
「え」
「あの服だけは絶対に着たくない」
「えー……」

 露骨に残念そうな顔をする紫と、露骨に嫌そうな顔をする霊夢。どちらも鴉天狗が写真に撮って額縁に入れて飾りたくなるほど、見事な表情だった。

「まさか、着たくない理由が分からないほど、馬鹿じゃないわよね?」
「分からないわ。どこが嫌なのか詳しく教えてちょうだい」
「んなっ!?」
「冗談よ。私もそこまで意地悪じゃない。その代わり、これならいかが?」

 再び指を鳴らすと、一瞬で霊夢の服が入れ替わった。スキマの有効活用である。
 霊夢が着せられたのはスリングショットではなく、そこまで露出がひどくない紅白柄のビキニであった。

「これを着ろというのは八雲紫としての命令?」
「いいえ。お願いよ」
「まあ……いいや。着替え直すのは面倒くさいし」

 ついに霊夢は折れた。紫はご満悦である。
 霊夢の名誉のために記しておくならば、その表情はおばあちゃんのために時代遅れな服を仕方なく着ている孫、といった感じである。

「おーい、紫さんよ」
「なに?」
「私の分をお忘れじゃないか?」

 めったに見られない巫女の水着姿を瞳に焼き付けるように、じっくりと眺めていた紫の肩をつつく者がいた。さも当然、という風に胸を張る魔理沙であった。

「私だって海を楽しみたいんだ」
「あっ、私の分も!」

 ついでに天子も食いついてくる。

「あなたたちの保護者じゃないんだけど」

 と言いつつも、しっかり水着を用意してくれる紫であった。幻想郷を誰よりも愛しているだけあって、さながらみんなのお母さんである。
 魔理沙は黒白のセパレート水着、天子は俗にスクール水着と呼ばれているものに変身していた。やや悪意を感じるチョイスである。

「えへへっ、サンキュー」
「どうして私の水着だけ名前が書いてあるの? しかもフルネーム」
「外の世界の流行だからよ。ほら、さっさと行きなさい」
「なんか恥ずかしい……」

 すでに霊夢と魔理沙は波打ち際へと向かっていた。紫に促され、天子も慌ててその後を追う。
 魔理沙は霊夢が示した異変の解決法に納得したわけではない。しかし、私に良い考えがある、と何か提案できるわけでもないので、とりあえず一緒に行くことにしたのだ。その方が断然面白いことになりそうだ、という判断でもある。

「霊夢、幻想郷は海になっているのよ。飛ぶのではなくて、泳ぎなさい。あなたが持っているのは空を飛ぶ程度の能力なのだから」
「分かったわよ。それより、報酬はきっちり用意しておいてね」

 紫の忠告に振り返ることもなく、ただ手を振っただけであった。

「せっかくアドバイスがあったのに。照れ隠しか?」
「違うわよ」

 魔理沙と霊夢は軽くやり合いながら海へ入っていく。足先をなでる浮世離れした水の感触が心地良かった。
 二人は入れ替わりに海から上がってきたペンギンの群れとすれ違う。と、ここでやけに意気込んでいた人物がいないことに気づいた。

「ありゃ、天子はどこ行った?」
「ちょ、ちょっと待って」

 天子は海と陸の境界線でスクール水着を震わせていた。その横をペンギンたちがよたよたと歩きながら通りすぎていく。

「さては泳げないな」

 天子の心境を察し、魔理沙は残酷に微笑んだ。

「ちちち、違うわよ!」
「いいさいいさ。いつまでも波打ち際で遊んでいればいい。その間に私たちは異変を解決してくるぜ。なあ、霊夢」
「私は一人でかまわないんだけど」

 などとやり合いつつ、魔理沙は相棒の手を取って海の中へと消えた。後には恥辱に打ち震える天子が浜辺に残された。
 しばしカモメと波の音だけが響き渡り、そして、天子は復活する。

「べ、別に……地上にいた頃、川で遊んでいて溺れたことなんてないんだからっ!」

 水平線のかなたに向かって叫び、猛然と地を蹴って飛び上がったのだ。

「うんにゃあああああ!」

 気合の入れる場所を間違えたような掛け声は聞かなかったことにしてもいいだろう。盛大な水しぶきを上げて天子は海中へ旅立った。
 今度こそ本物の静けさが砂浜に訪れる。

「行ってしまいましたね」
「誰も聞いてないのにねぇ」

 残された主従の一方は寂寥を込めて、一方はあきれたようにつぶやいた。
 出発時のごたごたはさておき、もう手を加えなくても異変は解決されるはずである。紫は渡されたカクテルをちびりちびりと舐めつつ、物憂げに海を見やった。

「あーあ。今回は異変で済ませたとしても、いずれは本格的に海の導入に取り掛かからないと。博麗大結界の製作以来の大仕事だわ。嫌になっちゃう」
「どうしても避けられないのですか?」
「外で良い方向に異変が起きない限りはね。この先、どんどん入ってくるわよ。海のもの、山のもの、どちらでもないもの、全部まとめて」

 妖怪の賢者は高く湧き上がった入道雲の向こう、幻想の外を思ってため息をつく。外の世界の状況はあまり良くない。
 藍が何も言えず、黙然と立ち尽くしていると、一匹のペンギンが群れを離れて寄ってきた。スリングショットに興味を持ったのではないだろう。そちらには目もくれず、紫の顔を不思議そうにのぞきこんだ。
 ペンギンの愛嬌のある姿に、紫は目じりを下げ、優しく頭をなでてあげた。それからサングラスをかけ直し、

「難しい考え事はやーめた。あの子たちが仕事を終えたら呼んでちょうだい」

 とだけ言って、日光浴を再開したのだった。

「御意」

 藍は静かに一礼し、主人の邪魔にならぬようペンギンを抱きかかえて下がる。お手柄だぞ、と胸に抱いた海鳥にささやくことを忘れなかった。










「泳ぐのってこんなに簡単だったのね。風呂場で水に慣れようとしてた私が馬鹿みたい」
「そりゃ、今は溺れる心配がないからだろ」

 天子が数百年ぶりの水中で感慨深く平泳ぎをして、その脇では魔理沙が箒にまたがっていた。
 彼女たちは海底を目指している。議論の末に目的地を決めたのではなく、紫が上にいたのだからゴネてる連中は下にいるだろう、という実にアバウトな感覚で向かっているのだ。

「やっぱり飛びにくい!」

 先行する二人にかなり遅れて霊夢が飛んでいた。海面から降り注ぐ光のカーテンにからまりそうな危なっかしい飛び方である。

「紫が言ってただろ。飛ぶんじゃなくて泳ぐんだって。分かったか、無重力巫女さん?」
「実践できてたら苦労はないわよ。どうして魔理沙は平気なの?」
「私は箒で飛んでるからかな。自分で飛ぶより何かに乗った方が楽かもしれないぜ」
「なるほど。なら……そこのあんた、手伝いなさい!」

 ビシッと指名されたのは、近くをゆったり泳いでいたウミガメだった。あれよあれよという間に札が貼られ、従順な下僕へと成り下がってしまう。
 すっかり言うことを聞くようになったウミガメに乗り、霊夢は満足そうにうなずいた。

「本当に楽ちんね。最初からこうすれば良かった」
「手伝うというか、徴発だな。外道巫女め」
「少しの間、使い魔になってもらうだけ。終わったら海に帰すわよ。ああ、こうやって亀に乗ってると空を飛べなかった頃を思い出すなぁ」
「私もやってみようかしら。天子チャレンジ……へぶぁっ!?」

 霊夢の成功を見て調子に乗った天子は、これまた近くを泳いでいたイルカに抱きつき、強靭な尾ビレで引っ叩かれてしまった。
 弾き飛ばされた天子は幅が数キロにも及ぶ紺青色の中へ落ちた。巨大なイワシの群れである。

「あの中を通らないと下へは行けないようだな」
「妖精の群れよりはマシよ。ほら、あんたも頼むわよ」

 魔理沙は箒を加速させながら群れへ突っ込んだ。霊夢もお払い棒でウミガメの甲羅を叩いて進路を指示する。
 二人と一匹はすぐにイワシにまみれ、見えなくなった。

「いててて!? こりゃすさまじい」

 イワシたちは闖入者を避けて泳いでいるが、それでも少なくない数のイワシが避けきれずに身体に当たってくる。まさに天然の弾幕だった。
 突撃してくるのはイワシだけではない。イワシを狙ってマグロやカツオなどの大型回遊魚の群れも後ろから続いてくるのだ。こちらに衝突したら洒落にならない。

「異変を解決した暁に、私のことをご主人様って呼ばせてあげるから、しっかりしなさい!」
「ひどい話だな!」

 甲羅の影に隠れつつ霊夢はウミガメを叱咤する。このウミガメと箒の涙ぐましい努力により、二人はイワシの群れを抜けつつあった。だが、危機から脱出したわけではないようだ。

「おおっと……あれはサメか?」
「フカヒレね!」
「あれが皿の中で泳いでるやつに見えるかよ」

 イワシの群れの外では、無数のヨシキリザメやヨゴレザメがうろついていた。どうやら群れからはぐれた魚を片っ端から襲っているらしい。そして、ちょうど群れから出てきた魔理沙と霊夢は、サメたちの注目の的であった。
 妖怪とはまた違った、美しき捕食者に対して、魔理沙は感嘆とアドレナリンが噴き出すのを感じた。無意識にミニ八卦炉へ手が伸びる。

「無駄な殺生はしたくないんだが……」
「上等よ。フカヒレに加工して、神社の臨時収入にしてやるわ!」
「私は手伝わないからな。ところで、天子は?」
「た、助けてーっ!!」

 天子はある意味、目的を達成していた。サメの背中に乗って泳いでいたのだ。しかも、そのサメは人食いザメとして名高いホホジロザメだった。

「すごいやつを使い魔にしたな」
「知らない内に乗っちゃってたのよ! まだ使い魔にしてない!」
「カメより良いかも」
「そう思うならこいつを離してやれよ」

 ウミガメは今すぐ帰りたそうな顔をして主人を見上げたが、まだ解放してくれそうにない。霊夢としてはカメの方が性に合うようだ。
 しかし、体長10メートル近いホホジロザメとウミガメを並べると、どうしてもサメへ目が行ってしまう。その巨体といい、洗練された身体つきといい、まさに圧巻である。

「どれくらいのフカヒレが取れるんだろうなぁ」
「見てないで助けてよ!」
「なんとなくデジャブを感じるが……どうする、霊夢?」
「天人にはナイフも刺さらないって咲夜が言ってたわ。面の皮も厚いし、大丈夫そうね」
「メイドが投げるナイフと、サメの歯を一緒にしないで!」

 天子は恐怖で身体が動かないようだが、ガチガチの天人を乗せているホホジロザメの方は特に悪い気分はではなさそうだ。今のところマイペースにのんびりと泳いでいるので、余計なちょっかいを出さずに通り抜けたいところである。戦って天子を救出するとなったら、危険度は大ダコの比ではない。

「さて、天子はともかく、先へ進むにはこいつらを相手にしなくちゃならんのか」

 魔理沙が弾幕用の星を出現させた時、変化が起きた。遠巻きに魔理沙たちの様子をうかがっていたサメが、一斉に回れ右をして海中へ消えていったのだ。
 魚の群れもすでに遠くへ行き、残ったのは相変わらず天子を乗せているホホジロザメだけだった。

「……私の恐ろしさは魚の間でも有名なのかな?」
「違うと思う。何か来るわ」

 サメ並みに勘の鋭い霊夢は、魚の消えた群青色の海をにらんでいた。魔理沙もそれに習って目を凝らしてみたが、細かな泡しか見えなかった。その代わりに音が聞こえた。何かが低く唸っているような音で、しかも音源は一つではない。
 気づいたとき、音の群れがまるで獲物を駆り立てる群狼のごとく、水着少女たちを包囲していた。
 やがて、不気味な音の正体は悠然と姿を現す。

「これはまた……でっかいやつのお出ましだな」

 三人と二匹の前に現れたのは、いくつもの金属の塊であった。外の世界で潜水艦と呼ばれ、恐れられている軍艦である。大きさはばらばらだが、中には全長100メートルを超えるものもいて、もはやホホジロザメなど問題にならない巨体だった。
 その内の一隻の艦橋から見知った者が顔を出して、気さくに声をかけてきた。

「サメに囲まれていたようだけど、無事? どこか食いちぎられてない?」
「おお、ムラサ船長か。あいにくと五体満足だぜ」

 潜水艦に乗っていたのは命蓮寺の船幽霊、村紗水蜜だった。今日はいつもの水兵服ではなく、一段上の士官服を着て、立派な制帽までかぶっている。

「なら良かった」
「私は良くない!」

 天子はいまだにホホジロザメの背中で震えている。
 今すぐにでも逃げたいが、怖くて身体が動かないのでサメにつかまっているしかない。サメにつかまっているのでさらに恐怖が増す、という悪循環に陥っているのだ。

「緋想の剣で切ればいいのに。天人は身体が頑丈なんだし、そんなに怖がることはないだろ」
「み、水の中の敵は苦手なのよ!」
「まーたトラウマのせいか」
「なになに? サメが怖いなら、この子の魚雷で追っ払ってあげましょうか?」

 村紗が艦橋を親しげに叩いた。彼女の乗る“スレッシャー”のMk44短魚雷なら、サメを追い払うどころか木っ端微塵にできるだろう。

「さっきから気になってたんだけど、あんたが乗ってるのは使い魔なの?」

 ウミガメと潜水艦の間でまたまた心が揺れ動く霊夢であった。

「違うわ。みんな私と同じ幽霊。海に沈んだ後、一緒に沈んだ船員が残した未練を吸収して幽霊になったの。幻想郷が海になったとき、外から流れてきたみたい」

 村紗は自分が船幽霊として水難事故を引き起こしていた頃を懐かしむように、ゆっくりと辺りを見回した。
 U-47、伊-19、SSN-593“スレッシャー”、K-278“コムソモレツ”、“シンファクシ”、“シーバット”。周囲に浮いている潜水艦は全て、外の世界の海底で眠っているはずの潜水艦たちであった。

「へえ。そいつらが外に帰りたくないって駄々をこねてるのかしら?」

 感傷に浸る村紗などおかまいなしに、霊夢は早々と仕事モードに突入していた。金属の塊だろうが、全長100メートルを超えていようが、倒す対象と決まったらしっかり仕事をするつもりらしい。

「は? 特に文句はないようだけど……ふんふん、海の中を泳いでいられるだけで満足だって」
「あらそう。だったらいいわ。邪魔したわね」
「魚雷でも何でもいいから早く助けてよ!」

 興味を失った霊夢に代わって、忘れられかけた天子が何度目かの悲鳴を上げた。天子を乗せたホホジロザメは伊-19とたわむれながら泳いでいる。

「天人さん。あなたはそのサメを怖がっているけど、当人にはあなたへ危害を加える気はないと思うわよ」
「そ、そうなの?」
「それどころか、あなたの手伝いをしてくれるみたい。何か命令してみて」
「え……じゃあ、魔理沙の……あの黒白のところまで泳いでちょうだい」

 恐る恐る天子は声をかけた。すると、それまで潜水艦の横にいたホホジロザメが、まっすぐ魔理沙のところまで行き、その周りを泳ぎ始めたではないか。
 天子は大はしゃぎである。代わりに魔理沙が少し漏らしそうになったが。

「わっ、すごいすごい!」
「うへぇ……すげえ歯。船長は魚の言葉をどうやって覚えたんだ?」
「これでも海の底にいたから。海の生き物の気持ちは自然に分かるようになったのよ」

 大したことじゃない、と村紗は肩をすくめて見せた。あくまでも船幽霊になったおまけらしい。

「これからよろしく、サメさん」
「もう慣れたのか。早いな」
「怖くないって言ったら嘘になるけどね」

 言う通りに動いてくれたことがよほど嬉しかったのか、天子はホホジロザメの背びれを優しくなでた。ただし、その手つきはまだおっかなびっくりしている。
 しばらくほのぼのとした空気が続いていたが、ついに霊夢が痺れを切らしてお払い棒をぶんぶん振った。甲羅の上で地団駄を踏まれて、ウミガメも迷惑そうにヒレを振る。

「置いてくわよ! 早くしないと異変が逃げる!」
「分かってるよ。じゃあな、船長。聖によろしく」
「ありがとうね~」

 三人と二匹は村紗に分かれを告げ、さわやかに異変解決の旅を再開した。が、そうは問屋がおろさないようだ。

「おっとっと。海の幽霊たちの前を素通りするつもり?」

 足の速い“シーバット”が魔理沙たちの行く手をさえぎる。振り返ると、“スレッシャー”に乗った村紗が深海水のように冷たく笑っていた。

「おいおい。聖に諭されて水難事故を起こすのは卒業したんじゃないのか? 仏門に入ってるくせに好戦的だな」
「この子たちに幻想郷を案内してあげてね、って聖に頼まれたの。それで一緒に泳いでたら、この子たちの邪念に影響されたのか、久しぶりに船を沈めたい気分になっちゃったのよ。だから、スペルカードルールで一戦いかが?」
「そりゃないぜ、船長。こう見えても私たちは急いでるんだ」
「サメを追い払ったお礼と思いなさいよ。それに、今日はキャプテン・ムラサじゃない。この子たちを指揮する提督、アドミラル・ムラサなの!」

 胸の勲章をきらめかせ、村紗は完全に悦に入っていた。同時に、潜水艦から魚雷発射管へ水を注入する不吉な音が聞こえてきた。

「潜水艦ってすごいのね。水面下から静かに忍び寄り、一撃で喉笛を食い破る。まさに最高の船幽霊だと思わない?」

 注水音が止んだ。魚雷の発射準備が整ったのである。

「沈黙の幽霊艦隊の恐怖、とくと味わいなさい!」

 村紗の号令の下、全ての潜水艦から魚雷が発射された。

「くそっ、破戒水兵め!」
「戦うつもりだったなら、出会ったときに勝負しなさいよ。時間の無駄じゃない!」
「異変解決はこうでなくちゃね! 初の共同作業を成功させましょう!」

 魔理沙と霊夢は別々の方向へ散って魚雷を回避する。天子は誤解を生みそうな台詞を残してホホジロザメと海を駆けた。
 魚雷群は一瞬前に目標がいた海域を通過、一部がぶつかり合って爆発を起こす。魚雷は次々に誘爆して戦場を豪快に飾り立てた。

「逃がさないわよ。魚雷再装填急いで!」
「あちちっ!? 爆発するのかよ。危ないな!」
「大丈夫、あの魚雷も幽霊だから!」
「魚雷って何だ!?」
「私も良く分からない!」

 どうやら村紗は、幻想郷と外の世界の技術力の差についていけてないようだった。高度な技術の塊を野生の勘だけで動かすのは大変危険である。

「どりゃあああああ!」

 ホホジロザメの背中で仁王立ちとなった天子は、進路上で反転中だったU-47を文字通り真っ二つにした。気質を操ることができる緋想の剣は、気そのものである幽霊に対して抜群の効果があるようだ。
 ホホジロザメが導くままに、天子は潜水艦たちを紙細工のごとくなぎ払いまくった。

「そんな、私の艦隊が!」
「よそ見をしてる場合!?」

 村紗には驚愕する暇も与えられない。
 乗艦の“スレッシャー”が霊夢の夢想封印によって動きを封じられてしまう。そこへ、

「おつりはいらないぜ!」
「ぎゃふん!?」

 魔理沙が突っ込んだ。猛スピードで村紗が立っている艦橋まで飛び、柄の部分で箒を持ってフルスイングしたのである。幽霊でもこれはたまらない。村紗はあっけなく轟沈してしまった。
 ここに村紗自慢の沈黙の幽霊艦隊は壊滅したのであった。

「あれー……」

 戦闘が終わってしばらくしても、村紗は茫然自失になったままだった。

「こんなはずじゃなかったのに……」
「気にするなよ。正義の味方、霧雨魔理沙と愉快な仲間たちが相手じゃ、誰も勝てないって」
「よく回る口ねぇ。まあ、あんたが負けたのは、味方のことを良く知らなかったからじゃないの?」

 霊夢はまず魔理沙の口に札を貼りつける。それから、落ちて漂っていた制帽を、艦橋で体育座りしている村紗にかぶせてあげた。

「私はこの二人、特に魔理沙とは馬鹿になるくらい戦っていたから、どう動くかだいたい分かってたのよ。おかげでスムーズに共闘できた。あんたは……んぐっ」
「馬鹿になるくらいは余計だ。霊夢だって口が減ら……むぐっ」

 潜水艦の戦闘とは違う、静かな戦いが魔理沙と霊夢の間で勃発した。お互いの口に札を貼り合う姿はなんとも微笑ましい。先に天子が笑い出し、すぐに村紗も笑った。

「ふふふ……はぁ、そうね。この子たちが外に戻っちゃう前に、もっともっと潜水艦について学んでおくわ。魚雷が何であるか説明できるくらいにね」
「そっか。異変を解決するとこいつらは消えるのか……」
「ああっ、そうよ! こんな馬鹿なことをやってる暇じゃないわ!」

 札を持ったまま立ち尽くす魔理沙を尻目に、口についた札を引っぺがした霊夢は大慌てで待機中のウミガメ乗った。

「先に行ってるわよ。こうしてる間にも誰かに異変を解決されちゃう!」

 言うが早いが、ウミガメの尻を叩いて飛び去ってしまう。

「待ちなさい! 異変を解決するのは私たちよ!」

 ホホジロザメとすっかり意気投合した天子がその後を追いかける。

「早く行きなさいよ」
「おう。まあその……聖とこいつらによろしくな、提督!」

 村紗に言われ、ようやく魔理沙が再起動する。勤めて明るく挨拶をすると、星屑と気泡を出す箒にまたがって去っていった。
 箒に乗った魔理沙が群青色に包まれてしまうのを見届けると、村紗は立ち上がってボロボロの艦隊に語りかけた。

「さーて。あなたたちのこと、もっと教えてちょうだい!」










 竜宮の使い、永江衣玖が泳いでいた。正確には深海魚、リュウグウノツカイが泳いでいた。性悪スキマ妖怪に姿を変えられてしまったのではない。
 そもそも竜宮の使いとは、長生きをして人々の畏怖心を吸収したリュウグウノツカイが妖怪化した姿なのである。今でこそ竜神に仕える妖怪として空を翔けている衣玖だが、その昔は深海魚として大海原を泳いでいたのだ。
 つまり、現在の衣玖のイメージを壊したくなかったら、泳いでいる彼女を見ない方が良い。リュウグウノツカイの格好は少々エキセントリックなのだ。

「懐かしい……」

 海になった幻想郷を見たとき、衣玖は全身に電流が走ったような、抑えきれない欲望の渦に吸い込まれた。この青い海で泳ぎたいという、魚としての本能の叫びだった。
 衣玖はいても立ってもいられなくなり、元の姿になって海に飛び込んだのだ。

「私が海にいた頃と何も変わってないなぁ」

 リュウグウノツカイに戻った衣玖は、しばし竜宮の使いとしての使命を忘れ、自由気ままにヒレをなびかせて海を満喫していた。
 顔に当たる海流の感触、潮の香り、辺りが暗くなってフッと見上げると視界に入るジンベイザメ。どれも衣玖が好きなものばかりだ。

「おや?」

 また衣玖の周囲が暗くなった。今度、日差しをさえぎったのはジンベイザメよりもっと大きな生き物だった。そして、衣玖はその生き物の顔を知っていた。

「ああ、お懐かしゅうございます」

 衣玖はわざわざ眼前まで泳いでいき、律儀にぺこりと頭を垂れた。
 相手はマッコウクジラだった。それも並大抵の大きさではない。このマッコウクジラも化け物と呼ばれるまで長生きをした、衣玖の同族であった。

「幻想郷が閉ざされて以来ですから、百年ぶりでしょうか……ええ、もちろん覚えています。イカに襲われていたところを助けていただいたご恩は、そうそう忘れられるものではありません」

 マッコウクジラの泳ぐ速度に合わせると、衣玖は百年分にも及ぶ身の上話を始めた。天界や幻想郷のこと、わがままで手のかかる天人の娘のこと、話したいことは湧き水のようにとどまるところを知らなかった。
 マッコウクジラは静かにうなずき、ときには目を細めてじっくりと話を聞いていた。衣玖との話の端々から、海とは異なる世界が見えてきて、楽しくて仕方がないようだった。
 ふと、視界の隅で不思議な華が咲いて消えた。

「あれですか? あれは弾幕ごっこです」

 人里の上で色とりどりの弾幕が飛び交っていた。星と博麗神社の札が見えるので、魔理沙と霊夢がいるようだ。要石も打ち上がったので天子もいるかもしれない。

「私もたしなみますが、癖になる面白さですよ。近くに行って見てみませんか?」










「ねえねえ! 私、サメの言葉が分かるようになったみたい!」

 浮かれて騒ぐ妖精たちを叩き落とし、人里に侵入してきた水着軍団とホホジロザメに驚いた慧音をひねり潰した天子は絶好調だった。

「そりゃ良かったな。魚類の仲間入りおめでとさん」
「言葉が分かるんだったら、そのでっかいヒレが何キロのフカヒレになるか聞いてみてよ」
「……地上人って本当に野蛮ねぇ。あなたの方がずっと素敵よ」

 優しく声をかけながらポンポン、とホホジロザメの頭に手を置くと、嬉しそうに一回転してくれた。もちろん天子は大喜び。幼子のようにきゃっきゃっとはしゃいでいた。

「頭が桃畑のやつは放っておくとして、人里にも幻想郷に残りたがってるやつはいないみたいだな。次はどこに行くか勘で決めてくれ」
「また? ちょっとは自分で考えなさいよ」
「自分で考えた結果、巫女の勘を頼るのが一番だと結論付けた」
「はぁ……あっちじゃない?」

 お払い棒で指されたのは、ひまわりが咲き乱れる太陽の畑だった。
 異変の影響なのか、ひまわりの合間にはサンゴが顔を出していて、太陽の畑全体がサンゴ礁に変化している。そこへ隠れ家やえさを探して無数の生き物が集まってくるものだから、賑やかさは普段の数倍、幻想郷の中に小さな幻想郷ができてしまったかのようであった。

「サメさんも、あっちに怪しいやつがいるって言ってるわ。今度こそ異変解決一番乗り目指して、レッツゴー!」
「こらっ、あそこに目をつけたのは私が先よ! あんたもサメなんかに負けないで、しっかり泳ぎなさい!」

 ホホジロザメはノリノリで、ウミガメは主人の無茶な注文に悲鳴を上げながらスタートダッシュを切った。
 一人出遅れた魔理沙は、物言わぬ箒を見つめた。今さらながら、あの二人が少し羨ましくなったのだ。海の生き物を捕まえて使い魔にするのも悪くないな、と。

「ま、本当に今さらだな。これからも頼むぜ、相棒」

 かと言って、歴戦の相棒を乗り換える気もさらさらない魔理沙だった。共に戦い抜いてきた中で、この箒にすっかり惚れ込んでしまっているのだ。

「ん、ぶちのめす相手が見つかったのか?」

 生き物には真似できない、素晴らしい加速で太陽の畑を目指していると、先行した二人が見慣れぬ巨大な生き物の前で止まっているのが見えてきた。おまけで、ひょろ長い魚がついている。

「嘘っ!? あんた衣玖なの!?」
「気持ち悪っ!」
「ギョギョッ!? その言い方は傷つきますよ!」

 衣玖とマッコウクジラであった。
 近づいた魔理沙は、クネクネと憤っているリュウグウノツカイに、なんとなく衣玖の面影があることに気づいた。正直に言えば気づきたくなかったのだが。

「う……その、特徴的な姿だな」
「衣玖って、私の知ってる永江衣玖よね?」
「どう料理しても美味しく食べられなさそうな形ね」
「……もう何も言わないでください」

 衣玖の白くて不気味な顔はさらに白くなり、まな板の上の魚のようにもだえていた。その様子が不気味さに拍車をかけているのだが、魔理沙はフォローする術を知らなかった。

「だ、だめよ落ち込んじゃ! どんな形でも衣玖は衣玖。私はいつも通りに接するから!」
「いいんです。それよりも、総領娘様。トラウマを克服されたようで、かつて海で暮らしていた私も嬉しく思います」

 慰めようとして、リュウグウノツカイの薄っぺらい身体に伸ばした天子の手が止まる。

「いいい、衣玖。どうしてトラウマのことを?」
「え? 有名ですよ。幼少の頃、自宅近くの小川で溺れてドジョウに襲われたという逸話わわわわわ!? ぐ、苦じいでず……」
「うわーん! 数百年間隠し通せたと思ってたのに~!」

 今度は天子が泣く番だった。泣いている天子は無意識で首を絞めているようだが、衣玖の顔はもはやホルマリン漬けの標本である。

「騒がしいわねぇ。私の庭で騒ぐのは誰?」

 ゆったり優雅に、マッコウクジラの影から日傘が現れた。太陽の畑の主、風見幽香である。
 幽香はマッコウクジラ、ホホジロザメ、もみ合う天子と衣玖、ウミガメとその上に乗る霊夢、最後に魔理沙を見て首をかしげた。

「仮装行列?」
「おいおい、私を見て仮装行列とはひどいな。水着の魔法少女様だぞ」
「あら失礼。黒白だったから普段着かと思ったわ」
「私は普段から仮装をしてるってか?」
「はいはい。社交辞令はいいから」

 魔理沙は張り合うように幽香の前に立つが、セパレート水着を着ているのに色々と負けている気がした。幽香はいつものチェック柄のベストだというのに。
 ついつい加熱してしまう二人の間に霊夢が入った。

「幽香、異変の原因になりそうな魚を見なかった?」
「アバウトな質問ね。心当たりがないわけではないけど」

 霊夢の目が光る。

「隠さずに吐きなさい。さもないと……」
「がっつかないで。あそこよ」

 太陽の畑からほど遠くない場所が闇に包まれていた。それも、降りてくる途中で遭遇したイワシの群れよりもはるかに巨大な闇がふわふわと浮いているのである。
 太陽の日差しが降り注ぐ中、ある一部分だけ漆黒の闇に閉ざされているというのは、恐ろしいというよりもいささか滑稽であった。

「あの中に入っていくのを見たわ」
「ありがとう」
「今日はやけに素直じゃないか」
「私はいつだって欲望に素直よ。この異変をそろそろ打ち止めにしてほしいの。賑やかなのも悪くはないけど、これはやりすぎね。可愛い植物たちに良くない兆候が見られるわ」
「私にとっちゃありがたいが、自分で解決する気はないのか?」
「異変を解決するのは人間と決まってるからよ。元人間もぎりぎり含まれるかしら。それより、連れはもう向かったみたいだけど?」
「なにっ!?」

 隣にいたはずの霊夢が影も形もなくなっていた。それどころか、サメもクジラも尻尾を見せて泳いでいるではないか。

「いかん、また出遅れた!」
「弾幕ごっこは結構だけど、ひまわりに被害が……」
「知ってるよ。加害者を肥料にするんだろ!?」
「……及ばないように、って言おうとしただけよ。私ってそんなに野蛮に見られているのかしら?」

 挨拶もそこそこに、仮装行列は太陽の畑から去っていった。ちょっと不満そうな幽香を残して。

「ねえ、衣玖!」
「はい?」

 サメに乗っていた天子は、泳ぎの遅い衣玖を背中に引っ張りあげながら尋ねた。なぜかこのリュウグウノツカイもメンバーに加わっていたのだ。

「あなたも異変を解決したいの?」
「それには少々理由がありまして……ああ、紹介が遅れました。こちらの方は私の命の恩人です」

 細い胸ビレでマッコウクジラを指し、次に幾分か恥ずかしそうにサメを指した。

「実はこちらの方も命の恩人なんですが」
「えっ、そうなの?」
「昔、私がシャチに襲われているところを助けてもらい、それ以来親しくさせていただいています。え? はいはい、そうですか……総領娘様から私の匂いがしてきたので、手助けする気になった、とのことです」
「今の会話、私にも分かったよ。そっか、こうやってサメさんの背中に乗っていられるのは、衣玖のおかげなんだ」
「ああ、海の言葉もご理解されるようになって……衣玖は嬉しいです!」
「顔が近い! 顔が近い!!」

 深海魚の顔はなかなかに個性的で、あまり慣れるものではない。大きな瞳を涙に潤ませて近づかれると、さすがの天子も駄目なようだ。

「ぐすん……とにかく、外に帰りたくないと駄々をこねて異変を長引かせているやつがいるので、命の恩人はそやつを説得するそうです。差し出がましいようですが、私もそのお手伝いをさせていただくつもりなのです」
「なるほど、紫の話にぴったり合うわ。で、そいつがこの闇の中にいるのね」

 二人の、もしくは一人と一匹の視線が前方に走った。闇はすぐそこに迫っていた。
 闇の領域の手前で、魔理沙たち三人と四匹の大所帯は止まった。周囲では奇怪な姿をした深海魚がのろのろとうごめいて、最終決戦の場にふさわしい雰囲気を作り出している。
 お払い棒を持ち、護符を展開させて戦闘体制に入っている霊夢が目を細めた。

「この闇、どこかで見たことがあるわね」
「同感だ。おい、ルーミア! そこにいるんだろ!?」

 闇の中からふんにゃりした返事がきた。

「ふぁ~い?」
「顔を見せろよ。聞きたいことがあるんだ」
「さもないと闇ごと封印するわよ」
「魔理沙と……霊夢だね、その怖い言い方は」

 少女の生首が出てきた。言葉通り、ルーミアが顔だけ見せたのだ。

「なあに?」
「ここら辺で妙な魚を見なかったか?」
「闇の周りにいるのは妙な魚ばっかりだよ」
「紫に文句を言えるくらい変な魚だ」
「そんな変な魚は知らないけど、私の友だちなら紹介してあげる」

 それだけ言うと、ルーミアは闇へ向かって何かをささやいた。

「じゃーん」

 闇の奥から現れたまがまがしい身体に、魔理沙と霊夢は言葉を失った。
 姿かたちはタコを細長く伸ばしたようであるが、腕はタコより二本多く十本もある。ぎょろりとにらむ目は魔理沙の頭がすっぽり入ってしまいそうなほど大きい。
 何よりも特徴的なのはその巨体だ。腕の先まで合わせれば、ホホジロザメの倍は大きく、目を見張るほど大きいと感じていたマッコウクジラさえわずかに上回っている。
 ダイオウイカと恐れられる、まさに大王の名にふさわしい身体を持ったイカであった。

「こ、こやつが駄々をこねているやつだ……そうです」

 ぷるぷると身を震わせながら衣玖がつぶやいた。イカに襲われたトラウマが蘇っているようだ。

「え~? 何か悪いことをしたの? ふんふん……そーなのかー」

 打って変わってのんきなルーミアは、ダイオウイカの瞳をのぞき込んで笑いかけた。巨大なイカと小柄な少女のコンタクトはホラーそのものであるが、なぜか魔理沙には混沌とした幻想郷にお似合いのコンビに見えた。

「ルーミアはその友だちの言葉が分かるのか?」
「うん! 闇が好きな者同士の友情のおかげかな。私が闇を出してたら、興味を持って来てくれたの。それまで遊んでたチルノたちは逃げちゃったけどね」
「だろうな。私も逃げたい気分だぜ」
「どうしてかなぁ? こんなに可愛いのに」

 妖怪の感覚は分からん、と魔理沙は苦笑したが、ルーミアに笑いかけられて目をきょろきょろさせたり、体色を赤や白に変化させるダイオウイカはもしかしたら可愛いかも、と思った。一瞬だけだったが。
 仕事モードに入った霊夢はというと、魔理沙ほどダイオウイカに好意を持たなかったようだ。

「な、何はともあれ、このでかいのを叩きのめせば異変が解決するのね。当たり判定も大きそうで助かるわ」
「待ってください。今、私の恩人が説得を試みますから」

 退魔針を握った霊夢の前に衣玖が身体を滑り込ませた。しかし、

「ごめん、やっぱ無理……」
「そんな!」
「いや、あんたの顔が」
「ギョギョッ!?」

 霊夢と衣玖、双方が顔を青くした。
 一方、マッコウクジラとダイオウイカは全身を使って話し合いを始めたが、和やかには見えない様子だった。マッコウクジラは盛んにヒレを動かし、それに対抗するかのごとくダイオウイカも腕を振り回す。
 不穏な空気を感じた魔理沙は、そっとルーミアに耳打ちした。

「おい、友だちが何て話してるか通訳してくれないか?」
「いいよ。えーっとね、友だちは幻想郷に残りたいってことばかり言って、そっちの黒いのは大きな海へ帰ろうって言ってるだけ」
「お互い一方的な主張しかしてないのか。こりゃ先が見えてるな。しかし、友だちはどうして幻想郷に残りたいんだ?」
「居心地が良いんだって。外の世界は友だちにとって、住みにくくなったみたい。私も妖怪だからなんとなくその気持ち、分かるんだ」
「そうか……」

 魔理沙が考え込むように顔を下げた瞬間、ダイオウイカの腕にマッコウクジラが噛み付いた。
 衣玖が悲鳴を上げ、霊夢は歓喜の声を上げた。

「交渉決裂ね! ルーミア、あいつにスペルカードルールを……」
「なあ、霊夢」
「なによ?」
「私はルーミアの友だちに味方することに決めた。だから、霊夢の相手はこの私だぜ」

 魔理沙が顔を上げ、不敵に笑った。

「魔理沙……正気?」
「狂いそうなほど正気さ。むしろ、もやもやが取れて気分爽快なくらいだ」

 箒に乗った魔理沙はウミガメに乗った霊夢と正対した。魔法少女は笑い続けているが、博麗の巫女は理解できない、とでも言うように首を振った。

「幻想郷に残りたいのなら、その通りにさせてやればいいじゃないか。紫に頼んで、水の上でも暮らせるように境界をいじってもらってさ。寺に変形する船が空を飛んでるんだ。今さらイカが飛んだところで誰も困りはしないと思うぜ」
「そいつは、あくまで紫が引き起こした異変のおまけに付いてきただけなのよ。異変を解決したら元に返すのが道理でしょ」
「幻想郷は全てを受け入れる。この考えで動いてるんじゃないのかよ」
「それはとても残酷なことだし、実際に全てを受け入れられるわけじゃない。紫が言っていたように、受け入れ態勢が整ってないの。魔理沙、あなたは結界のことを何も分かってない」
「魔法使いだからな。結界のことは良くわからん。だから、魔法使いらしく欲望に忠実に行動してるだけだぜ、巫女さん」
「絶対に受け入れないわけじゃないの。まだ無理なだけ。そいつが引き金になって海の幻想が入るようになったりしたら、今の幻想郷だと収拾が付かなくなる。みんな不幸になるのよ。だから、私はそいつを異変の一部として扱う」
「……弾幕で語り合うしかないみたいだな」
「頭に退魔針が刺されば少しは冷静になるでしょ」

 こちらも交渉決裂である。もはや弾幕ごっこに勝って強引に認めさせるしかない。
 しかし、魔理沙は正気を失っているわけではない。少なくとも、自分が未だ不利であることを理解していた。

「おい、天子。こっちを味方する気はないか?」
「残念! 今日の私は異変を起こす側じゃなくて、解決する側にいたいの!」

 緋想の剣を握り締め、天子は威勢よく怒鳴った。実に天子らしい理由である。その下のホホジロザメも、マッコウクジラに並ぶことで意思を表示していた。

「じゃあ、衣玖はどうだ? 昔は海にいたんだろ?」
「私は恩人と共に行動します。あと、私は完全に妖怪化して幻想郷に来ましたが、そのダイオウイカは長生きしただけで、まだ妖怪になっていませんよ」

 手についた汗をふいて、ミニ八卦炉を取り出した魔理沙は自陣営の不利を嘆いた。ルーミアとダイオウイカ、それと箒だけでは博麗の巫女と天人に圧倒されてしまう。

「まいったな」
「まいったね~」
「ウラアアアアア!! その話、聞かせてもらったわ!」

 援軍の知らせが、蒼海に美しく響き渡る。
 続いて聴こえてきたのは心を震わせる旋律。今はなきソビエト連邦の国歌“祖国は我らのために”だった。演奏のみだったが、強大な国家の精神をあますところなく幻想郷の海に轟かせていた。

「なにあれ?」
「キャプテン・ムラサ……いや、アドミラル・ムラサだったな」

 勇壮なスクリュー音と共に現れたのはソ連海軍の攻撃型原子力潜水艦K-278“コムソモレツ”だった。そして、艦橋で海軍旗をはためかせているのは、村紗水蜜その人である。

「やっぱり異変を解決してもらっては困るわ。潜水艦って奥が深くて、知りたいことが次から次へと出てくるのよ。せめて、あと一ヶ月は異変が続いて欲しいわね!」
「よう、アドミラル・ムラサ。一隻だけのようだが、沈黙のワンマン幽霊艦隊になったのか?」
「どこかの荒くれ者たちにボコボコにされたおかげでね、無傷なのはこの子だけなのよ。まあ、それは海水に流すとして、私が味方になってあげてもいいわよ」
「願ってもないぜ」
「徹底的に潰しておくべきだったわね……」

 魔理沙は帽子を振り上げて歓迎し、霊夢は“コムソモレツ”を仰いでため息をついた。
 全長108メートルの艦体は、マッコウクジラどころかダイオウイカをも凌いでいる。これ以上にない頼もしい味方だ。

「潜水艦は音で海中の敵を探す、ってこの子が言ってたの。だから、優秀な耳を持った人たちも見つけてきたわ」
「戦うなんて聞いてない……」

 艦橋で“祖国は我らのために”を生演奏中のプリズムリバー三姉妹がその生贄のようだった。魔理沙はリーダー格の長女のところまで泳いでいった。

「ここまで来たら乗りかかった潜水艦だ、一つ頼むぞ。ところで、本当に音で相手の位置が分かるのか?」
「乗りかかった……ねえ。水中は空気中より音が伝わりやすいの。なので、発した音が相手に当たって、跳ね返るまでの時間や方向で判別できる。理論上はね。あそこで戦ってるクジラも、同じ仕組みで泳いでたはず」

 ルナサは死闘を繰り広げるイカとクジラを見ていたが、魔理沙の目は見えざる音に向けられていた。

「音と闇か……みんな、私に良い考えがあるぜ」

 魔理沙はダイオウイカ以外の愉快な仲間たちを集めて、手早く作戦を説明した。
 しかし、みすみす敵に時間を渡す霊夢ではない。ウミガメの甲羅を踏み鳴らし、一喝。

「私はもう待てないわよ。さっさと始めましょう!」
「へいへい、了解だ。みんな、頑張れよ」
「魔理沙もね~」

 村紗は天子、ルーミアは衣玖、そして魔理沙は霊夢、それぞれ相手を決めて向き合った。プリズムリバー三姉妹は魔理沙たちに一人ずつ付いている。

「さっきのようなミスはしない。三枚おろしにされた子の無念を晴らしてみせるわ!」
「笑止! 天道を行く私に、幽霊ごときが勝てると思うな!」
「ん~、まずそうな魚」
「ひどいです!」
「霊夢とやるのは一週間ぶりかな」
「ふん、始めるわよ」

 すでに戦っていたダイオウイカが、その長い腕をマッコウクジラに打ちつけた。これが合図となり、霊夢の護符が一斉に踊る。妖怪に恐れ、敬われている美しき一瞬だ。

「よし、今だ!」
「はーい! うりゃっ!」

 ルーミアから特大の闇が吹き出した。突然の闇に気をとられた霊夢は集中力が途切れ、護符の誘導に失敗してしまう。
 闇は少女たちを、次に潜水艦と巨大生物を飲み込んで、さらに拡大していく。ついには太陽の畑の一部を侵食し、闇のバトルドームが完成した。
 範囲を広くした分、質が低下したのか、完全な闇に閉ざされているとは言いがたい。しかしながら、自分の手元さえおぼろげで、その先は墨で塗りつぶしたかのように黒い。むろん相手など見えないので、戦いにくさとしては夜雀の歌に惑わされて鳥目にされたとき以上だ。

「最高だぜ、ルーミア!」
「こしゃくな真似を……ほら、しゃんとして。暗くなっただけじゃない!」
「どうしたどうした。私はここにいるぞ!」

 魔理沙はルナサを箒に乗せて飛び、ここぞとばかりに翻弄する。霊夢はパニックに陥ったウミガメを励ますのに精一杯で、反撃もままならないようだ。

「エンジン全開、最大戦速!」
「えっ? やだ、暗い……暗すぎるわよ!」

 天子は村紗と“コムソモレツ”だけでなく、真っ暗な海の恐怖という新たな敵と直面していた。

「今、助けに行くよ~」
「あらあら、そっちじゃないわ」
「待って、待ってください! 戦わないんですか!?」

 ルーミアはメルランに助けられつつ、巨体がぶつかり合う音を頼りにして、友だちの元へ向かっていた。
 リュウグウノツカイの姿をしている衣玖は、闇に暮らす深海魚ということもあり正確にルーミアを追っていた。ただし、泳ぎがのろいので双方の差は開くばかりである。





「よし、そろそろいいな。やってくれ」

 がむしゃらに飛び回り、いよいよ霊夢の位置が分からなくなると、魔理沙は箒をストップさせた。そして、後ろに乗るルナサに小声で合図する。

「耳をふさいで静かにしていて。この距離で私の音を聴くと鬱になる」

 ルナサはそれだけ言うと、ヴァイオリンを短く、鋭く弾いた。
 すぐに複数の音が跳ね返ってくる。目を閉じて耳に集まる情報を吟味し、魔理沙に伝えた。

「前方、右斜め下、150メートル前後に誰かいる。多分、巫女」
「間違いないか?」
「返ってきた音量から考えて、面積の大きな潜水艦やサメではなく、ウミガメと人間を合わせたくらい。でも、私も初めての経験だからあまり当てにしないで」
「いや、十分さ。ありがとう」

 ミニ八卦炉を持った手をピンと伸ばし、ルナサに照準を調節してもらう。少し面倒くさかったが、これが確実な方法だった。

「素朴な疑問なんだけど、あの巫女に勝ったことは?」
「あるよ。神社でやった練習試合とか、宴会でふざけたときとか。ただし、霊夢が仕事人の目をしてるときは一度も勝ったことがない。博麗霊夢から博麗の巫女に変わると手に負えないんだよ、あいつ」
「分かる。以前、異変のとき戦ったけど、普段と目が違った」
「だろ? まあいいさ、こいつで初白星を飾ってやる。恋符“マスタースパーク”!」

 もはや魔理沙の代名詞と言って良いスペルカードが宣言され、強烈な閃光と共に光の奔流が放たれた。
 気合の入ったことにエネルギーは三割り増し。ただでさえ危なっかしい光のマジックがさらに強化されていた。まともに当たれば博麗の巫女といえども、ひとたまりもないはずである。

「手ごたえあり! 撃ち落としたか確認してくれ」
「分かった、耳をふさいで…………目標はさっきの位置から50メートル上に移動している」
「む。命中したと思ったんだがな。勘が良すぎるぜ。もう一度照準の調整を……どわっ!?」

 ミニ八卦炉をかまえ直した魔理沙の頬を、人の頭よりも大きな陰陽玉がかすめた。間違いなく霊夢が投げたものである。

「位置がばれてる?」
「二回も音を出した上に、マスタースパークは一直線だったから、位置を逆算されたかも」
「だったら移動するまでだ!」

 乱れ飛ぶ退魔針と護符をジグザグに飛んで避ける。ついでに、飛んできた方向へ牽制のマジックミサイルも撃ち込んでおく。
 やがて、こちらの位置が把握できなくなったのか、弾幕が止んだ。

「よし、また頼む。マスタースパークが素直すぎるなら、次はひねくれたやつをお見舞いしてやる」
「右後ろ、300メートル。距離はかなり誤差があるかも」
「誤差は何メートルだ?」
「20メートルくらい」
「了解した。魔符“ミルキーウェイ”!」

 二枚目のスペルカードは銀河であった。
 荒れ狂う星の渦を出現させ、頭の中でイメージした場所まで誘導する。星の群れは渦を巻いているので、すぐには位置がばれないはずだった。
 どこから現れるか分からない星たちに、霊夢が苦戦している様子が思い浮かぶ。魔理沙は静かに唇の端を吊り上げた。





「前部タンクブロー、アップトリム10°」
「つまり?」
「上へ向かってるの。海底にぶつかる心配をしながら戦うより、自由に動きながら戦った方が良いでしょ? それに、この子はサメに速力で勝る分、機動力で劣るから、距離をとらないと近づかれて天人の剣で切られちゃう」
「なるほどね~」
「ふふ、前回と同じ轍は踏まないわ」

 村紗とリリカを乗せた“コムソモレツ”は海中を30ノットで進んでいた。エンジン全開なので音がうるさいが、仮に気づかれてもサメが追いつけるスピードではない。

「そろそろね。前部タンク注水。艦が水平に戻ったら、速度を緩めて艦回頭180°。それから、一番から六番へ通常魚雷装填。モードはアクティブホーミング!」

 矢継ぎ早に命令を下す村紗の声は弾んでいた。
 いよいよ決戦のときが迫まっている。仲間たちの敵を取れるのだ、心が踊らないはずがない。
 速度を落としたため、エンジン音も静かになっている。騒霊ならば、問題なく音を聴き取ることができるはずだった。

「リリカさん、潜水艦が音を出すから、目標の位置の特定をお願い」
「はーい」
「では、アクティブソナー打て!」

 艦首から鋭い音が発信された。リリカは跳ね返ってくる音の分析を始める。

「んー、これはイカとクジラかな。あれはルナ姉と魔理沙? あ、これだ! 正面、1800メートルくらい先にサメ!」
「正面?」
「だいたい正面」
「なら艦の向きを変える必要はないわね。一番二番発射!」

 村紗は艦橋を叩いて号令を出す。
 小さな振動の後、二発の魚雷が発射された。しかし、魚雷が命中するまでのんびり待っているつもりはない。

「面舵40°! 次いで20ノットへ増速、一番二番には魚雷を再装填!」
「あのまま放っておいていいの?」
「私も知らなかったけど、魚雷にソナーがついてるから、勝手に目標を追尾してくれるのよ」
「へー。あ、本当だ。音が聴こえてくる」

 魚雷が外れた場合に備えて、相手の側面へ回っておくつもりだった。もっとも、暗闇から襲いかかるホーミング魚雷を天人とサメが回避できるとは思っていなかったが。

「んー? 音が乱れてる……サメが何か出したみたい」
「サメがって、あの天人から?」

 リリカの返事が来る前に、低い爆音が轟いた。
 続けざまに二回。魚雷の炸裂した証拠だった。

「うわっ、派手だね!」
「おかしい……早すぎる」

 魚雷の速度とサメの速度を考慮したら、命中するのはまだ先のはずだった。





「助けに来たよ~」
「二匹ともでっかいわね~」

 マッコウクジラとダイオウイカは双方一歩も引かず、未だ激しい戦いを続けていた。そこへルーミアとメルランが到着した。衣玖の姿はどこにもない。

「友だちから離れろ! バクッ!」
「いけいけー! やっちゃえ!」

 メルランの近くにいてテンションが上がっているルーミアは、ためらうことなくマッコウクジラの鼻先へ食いついた。

「う~、油っぽい……」

 が、すぐに口を離してしまう。
 冷たく、高圧の深海へ潜るマッコウクジラは、体内に大量の油を蓄えているのだ。その肉はちゃんと調理しないと食べられたものではなかった。
 ルーミアが涙目になりながら口をぬぐっていると、ようやく衣玖が身体をくねらせながら現れる。

「ぜえぜえ……やっと追いついた」
「じゃあ、先にこいつを倒したら?」
「そうだね。あんまり美味しそうじゃないけど」
「へ?」

 衣玖にはルーミアとメルランが深海に潜む捕食者のように見えた。事実、その通りであった。

「い、いやー! 食べないでくださいっ!」
「うえっ、こっちもまずい!」

 頭からかぶりつかれて、すぐに吐き出された。幸運なのか屈辱的なのか判断に迷うところである。
 とにかく深海魚とは、深海に適応するために、身体の仕組みも特殊になっているので、一部を除いて地上の生き物の口には合わないようなのだ。

「さ、先ほどからの度重なるひどい仕打ちには我慢できません! もう怒りましたよ!」

 しかし、衣玖はただの深海魚ではない。妖怪になり、空気を読める程度の能力まで備えた竜宮の使いなのだ。
 怒りのあまり発光し、現在の衣玖へとカムバックする。

「はあ。こっちの方が落ち着きますね」

 幻想的な衣装をまとい、羽衣をはべらすその姿は、まさに天女である。
 しかし、首にはしっかりとルーミアの歯形が残っていた。その傷を手で押さえ、犯人をキッとにらみつける。瞳には緋色の電流が宿っていた。

「ふ、ふふ……覚悟はよろしいですか?」
「なーんか嫌な予感がする」
「私も嫌な音が聴こえる」

 ルーミアとメルランは衣玖の引きつった笑みに恐怖し、ゆっくりと後ろへ下がった。だが、もう遅い。

「侮辱された悲しみ、骨の髄まで味わってください! 雷符“エレキテルの龍宮”!!」

 水中で電気を流すほど鬼畜な行為はないだろう。
 ルーミアとの勝敗は一瞬でついた。それどころか、隣で争い続けていたダイオウイカとマッコウクジラまで巻き込む大放電となった。
 衣玖が怒りから覚めたとき、周囲には四体の黒こげた何かが漂っていた。





「そうか、ロレンチーニ器官!」
「なにそれ?」

 悩んでいた村紗は顔を上げ、叫んだ。
 二人を乗せた“コムソモレツ”が新たな攻撃位置に到達する寸前のことだった。

「サメの感覚器官よ。これで魚雷を感知したんだわ!」
「サメってそんなことできるんだ」
「いわば生体レーダーってとこね。だとすると……直前にサメから出たのは天人の要石。サメが魚雷を感知して、天人に迎撃を指示したんだわ」

 村紗は爪を噛んだ。
 闇に阻まれて身動きがとれない敵を狩るつもりが、とんだ計算違いである。サメという天性の狩人と、人間をやめて力を得た天人の組み合わせを甘く見ていたのだ。
 そのとき、何かが当たる音がして、艦が激しく揺れた。人間よりも巨大な岩が左舷に衝突していた。

「うわわっ、岩!?」
「あれが要石よ! 魚雷を感知されたのなら、この子も感知されている可能性が高い! アクティブソナー打て!」

 リリカは慌てて耳を澄ませた。しかし、今度は耳を澄ませる必要もなかった。

「そこら中から音が返ってくる! 岩だらけだよ!」
「天人が打ちまくってるようね。サメは?」
「あと二回音を出して。岩はまっすぐにしか動かないけど、サメは複雑に移動するはずだから、それを探してみる」
「お願い!」

 まずは一回、しばらく合間があってもう一回、アクティブソナーが“コムソモレツ”から発信される。リリカは焦る気持ちを抑え、慎重に音を調べていった。
 村紗は要石を警戒して周囲を見張っていて、あることに気づいた。

「闇が薄くなっている。ルーミアとか言う妖怪が倒されたのかしら……」
「分かった! 左後ろ、600メートル。こっちに向かってきてる!」
「了解。エンジン全開、再び最大戦速へ。サメを振り切れ!」
「後ろに魚雷を発射できないの?」
「残念ながら魚雷発射管は艦首にしかついてないの」

 村紗とリリカが話している間にも、“コムソモレツ”は速度を上げ、サメを引き離しているはずだった。それを証明するかのように、あれほど激しかった要石による攻撃がなくなった。

「頃合いね……艦回頭180°、取舵一杯! 艦首をサメの正面へ向けて!」
「さっきと同じ攻撃? また魚雷に要石をぶつけられちゃうよ」
「当ててやるのよ」
「えっ?」

 回頭が完了し、再び相手の位置を知るためのアクティブソナーが打たれる。二人と“コムソモレツ”を隠す闇は、さらに薄くなっていた。

「サメは正面?」
「うん。変わらず追ってきてる」
「上等よ! 一番二番発射! 次に三番四番を十秒後、五番六番を三十秒後に発射して!」

 くぐもった音がして艦が揺れ、魚雷が二発一緒に放たれた。魚雷は闇を突き破って進む。

「大丈夫なの?」
「多分ね。まずは最初に撃った魚雷を要石に迎撃させる」

 また音と振動がして、第二波の魚雷が発射される。

「迎撃された魚雷は爆発を起こすわ。その爆圧でばらまいた要石は吹き飛び、サメのロレンチーニ器官も一時的に麻痺するはず。そこへ本命が飛び込むのよ」
「なーるほど」
「まあ、こっちの魚雷のセンサーも故障するかもしれないから、本命は二段がまえなんだけど。念のために全門、魚雷を再装填」

 第三波の魚雷が発射されたと同時に、前方から爆音が響き渡った。最初の魚雷が爆発したのだ。続けて第二波が、さらに遅れて第三波が爆発して村紗の作戦に華を添える。
 海中にすさまじい音の嵐が吹き荒れた。村紗もリリカも嵐が収まるまで、その音に聞き入っていた。

「もういいかしら。アクティブソナー三回打て!」
「海の藻屑になってなきゃいいけど……」
「サメは半分妖怪化してたし、こっちの魚雷は幽霊だから、大丈夫だと思うわ」

 スクリューで切り刻んでも死にそうにない天人は、はなっから心配されてなかった。

「……ん。右斜め前、2100メートルにサメ。どんどん離れてるみたい!」
「しぶといわね。でも逃がさない! 面舵20°、機関全速!」

 決着をつけてやる、と村紗は声高らかに誓った。最強の船幽霊と天性の狩人、どちらが海中の王者なのか身をもって教えてやるのだ。
 30ノットの最大戦速で攻撃位置へ向かう“コムソモレツ”に、また要石がぶつかった。ただし、先ほどのように全力で投げられたものではない。

「岩がたくさん浮いてる。注意して」
「爆発で弾き飛ばされた要石のようね。なら、問題ない! 全門、魚雷……」
「させるかぁっ!」

 その掛け声はまさに有頂天であった。
 漂っていた要石の陰から白鯨ならぬ、スクール水着が飛び出したのだ。幽霊にとってすさまじい威力を誇る緋想の剣を持った、凶悪なスクール水着少女である。

「しまった、待ち伏せ!?」

 叫んで、理解した。サメの行動はおとりだったのだ。天子が隠れた要石が浮く海域まで誘い出すための。
 ホホジロザメが歯をむき出しにして微笑むのを、村紗は確かに感じた。

「……やるじゃない。サメも、天人も」
「比那名居家、一子相伝の技を受けてみよ! 必殺“非想の剣”縦一文字切りぃっ!」

 天子は絶叫と共に緋想の剣を振るう。
 効果は絶大だった。チタン製複殻はやすやすと切り裂かれ、艦首直前で“コムソモレツ”は一刀両断される。もはや戦闘続行は不可能だ。

「はははっ! どうだ、見たかっ!?」
「ひええ、しーずーむー!」
「原子炉緊急停止!」

 攻撃をかけた天子まで巻き込みながら、沈黙の幽霊艦隊最後の一隻は海底にひざを屈した。





 衣玖の大放電や魚雷の爆発音は、遠く魔理沙たちの耳まで届いていた。

「おうおう、向こうは派手にやってるな」
「派手にやるのはいいけど、ルーミアが負けたみたい。闇が薄まっている」
「そいつはやばい。早いとこ勝負をつけないと」

 二人は撃ってはすぐに動く、という地味な戦術に徹していた。霊夢に位置を悟られない、という点では成功している。だが、そこまでだった。

「毎度のことだが、全然当たらないな。こっちは闇討ちをかけてるってのに」

 霊夢に弾幕が当たらない。しかも、恐るべきガッツで多少の被弾をものともせずに戦い続ける。博麗の巫女としての本領が発揮されていた。
 それだけでなく、こちらへ向かってくる弾幕も、最初は数撃てば当たると言わんばかりの勢いだったが、徐々に音を出しただけで正確な弾幕が向かってくるようになっていた。霊夢もウミガメも、闇に慣れているようだった。これで闇が晴れてしまったら、おのずと勝負の先は見えてしまう。

「そろそろ作戦を変えた方がいいかもしれん。ちまちまとせこい弾幕を張るのは私の趣味じゃないし」
「次はどんな作戦?」
「待て、今考えてるところだ。とりあえず、位置の特定を頼む」
「分かった」

 魔理沙は箒を止め、耳をふさぎながら頭をひねる。
 その間にルナサが音を出して、耳を澄ます。しかし、返ってきたのは音だけではなかった。

「巫女は……きゃっ!?」
「ルナサ!」

 闇より飛来した十枚以上の護符が、魔理沙の後ろに乗っていた騒霊の背中に直撃した。ルナサは苦痛に顔をゆがめ、箒から崩れ落ちる。

「真後ろ……100メートルもない……っ!」
「そこにいるのね、魔理沙!」

 闇へ落ちながらも、ルナサは力を振り絞って位置を伝える。さらに、後方からはっきりと霊夢の怒鳴り声が聞こえた。

「くっ! 仇は必ずとるぞ!」

 差し伸べた手は届かなかった。
 魔理沙は箒を急発進させつつ、後ろへ向けてレーザーを発射する。手ごたえはない。

「よくも好き放題やってくれたわね。お礼はたっぷりしてあげるわ!」
「そりゃこっちの台詞だ。好き放題避けまくってくれたお礼をたっぷりしてやるよ!」

 急ターンをかけて霊夢の声が飛んできた方を向く。ミニ八卦炉をスタンバイしてありったけの星型弾幕をばらまいた。いくつかが迎撃の陰陽玉とぶつかって虹色に爆発する。

「もう逃がさない」

 爆煙を突破して霊夢が現れた。
 もはや闇は身を隠す役に立たない。水面でたゆう太陽から降り注いだ光が、闇を切り裂いていた。

「闇に隠れて攻撃するしか能のない泥棒には退場してもらうわ」
「ふん、これで条件が対等になっただけだ」

 胸を張って言い返したが、虚勢の域を出なかった。
 度重なる攻撃で魔力を消耗し、スペルカードの残りも少なくなっている。反対に霊夢はそこまで消耗していないので、かなり不利なはずだ。
 なにより、霊夢の目を見てしまった。
 底冷えのする、博麗の巫女の目でにらまれてしまうと、心を見透かされた気がして、身体がうまく動かなくなってしまう。魔理沙はこの目があまり好きではなかった。

「魔理沙にふさわしく派手に散らしてあげる。感謝しなさい」

 霊夢から霊気が溢れ出した。型破りな技、夢想天生が発動する前兆だった。
 同時に闇がさらに晴れ、海になった幻想郷が一望できるようになる。周囲に飛んでいる者はなく、魔理沙は味方が全滅したことを悟った。
 もう、後には引けないのだ。

「へへへ……残念だな、自分が派手に散る姿を見れなくて」
「はい?」
「なぜかって? それはな、霊夢が先に散るからだよ!」
「負け惜しみを!」
「私は負けるわけにはいかないんだ! 彗星“ブレイジングスター”!」

 スペルカードを宣誓して魔力を身体と箒にまとわせる。そして、宙を翔ける彗星のごとく加速した。
 通常ならそのまま相手に突入するのだが、今突入したら夢想天生の餌食になるだけである。なので、魔理沙はまっすぐではなく、霊夢の周囲を回転するように飛んだのだ。

「突っ込まないよりはマシだけど、なんの解決にもならないわ。散るまでの時間が少し延びただけよ」
「だと思うか!?」
「そうとしか……っ!」

 霊夢は魔理沙の意図に気づき、唖然とする。場当たりに見えた回転によって、巨大な渦が発生していたのだ。
 ウミガメから吹き飛ばされそうになり、咄嗟に甲羅をつかむ。意識が逸れてしまい、夢想天生用に溜めていた霊気は拡散してしまった。

「ほら、落ちろ落ちろ!」

 魔理沙は飛び続けていた。身体が千切れてしまいそうな上に、回転のしすぎで気分まで悪くなっている。脂汗で滑りそうになりながら必死に箒を握っていた。

「誰が落ちるか! あんたが頼りなんだから、負けないでよ!」

 霊夢も死に物狂いに泳ぐウミガメにしがみついている。
 二人ともぎりぎりの状態だった。
 それにもかかわらず、魔理沙は妙に落ち着いた頭で、場違いなことを考えていた。異変を続けさせようとしている自分が箒に乗り、異変を解決しようとしている霊夢がウミガメに乗る。実に皮肉な話じゃないか、と。

「あっ!?」

 先に限界が来たのは霊夢だった。
 ウミガメから手を離してしまい、渦の中に引き込まれた。主人を失って軽くなったウミガメは、逆に渦の外へ飛び出してしまう。

「やった!」

 霊夢が渦の中心へ吸い込まれたことを確認して、魔理沙は小さくガッツポーズをした。それから、最後の力を振り絞って即席のスペルカードを作る。

「仮符“名前はまだない”!」

 残った魔力を全て注ぎ込んで弾幕を発生させた。魚にタコ、スリングショット、サメ、潜水艦、クジラ、イカ。今日、初めて出会った生き物や幽霊たちを思い浮かべ、星の弾幕で再現したのだ。
 渦の中心で身動きが取れない霊夢の位置を確かめ、そして、

「こいつで終わ……!」
「今よ!」
「なに……ぐわっ!?」

 弾幕を叩きつけようとした瞬間、渦の中から指令が飛んだ。間髪入れず、横から鈍い衝撃が来る。霊夢の使い魔、ウミガメが突撃してきたのだ。
 目がくらみ、箒を放してしまった。
 そのまま、魔理沙はウミガメと一緒になって渦の外に放り出される。もう戦う力は残ってなかった。

「お前……あれだけ酷使されてたのに、霊夢を好きになったのかよ……」

 飛ばされる中、魔理沙はウミガメと目が合った。ものすごく満足そうな目をしていて、ちょっと笑えた。使命を果たせたことがよほど嬉しかったらしい。
 幻想郷において人妖問わず好かれてしまう霊夢は、海の生き物まで魅了してしまったのだ。
 無茶苦茶な終わり方に、負けたくせに怒る気も出なかった。むしろ、おかしくて大声で笑いたく気分だ。

「ちっきしょー! 覚えとけー!!」

 悪役お決まりの台詞を元気に言い放ってから、魔理沙は海底に落下する。










「いでっ」

 落ちる寸前、魔理沙は頭をサンゴにぶつけた。この強烈な痛みがきっかけになり、心の奥からこらえようのない気持ちが飛び出した。思わず涙が一粒、こぼれてしまう。
 自分で自分を抱きしめて、ようやく心の震えを落ち着かせた。

「あー、悔しいな」

 群青色に染まった空を見上げて、ゆっくりと息を吐いた。相変わらず色鮮やかな魚たちが泳いでいるが、負けてしまったので、もうお別れしなくてはならない。

「お疲れ様」

 すぐ近くでは、ルナサが同じように仰向けになって寝ていた。

「仇をとれなくてごめんな」
「気にしないで。面白い音を聴くことができたし、愉快な経験だった」

 それだけ言うと、ルナサは目を閉じてしまった。元々、騒霊はあまり運動をしないので、戦闘に参加して疲れてしまったのだろう。

「生きてる?」

 代わりに、空から霊夢が降臨した。主人に忠実なウミガメも一緒だった。

「紅白の死神が見える。駄目かもしれん」
「それだけ言えれば大丈夫ね」

 霊夢は地上に降り立つと、ウミガメに貼った札を外して、頭をなでてあげた。見せ付けられているようで、魔理沙はちょっと腹が立った。

「良くやってくれたわね。ご褒美に、私のことをご主人様って呼んでいいのよ」
「やっぱりひどいな。そいつのおかげで勝てたのに」
「そもそも、魔理沙が敵に回らなかったら、もっとスマートに勝てたわよ。どうしてイカなんかに味方したのよ?」
「悪役が魅力的じゃないと、正義の味方が映えないだろ」
「口の減らない魔法使いね」

 霊夢はあきれた顔をして札を取り出した。また口に貼られるかと思い、魔理沙は身がまえたが、札が貼られたのは口ではなく傷口だった。霊夢特製の痛み止めの札である。

「はい、これも」

 ついでに疲労回復の札まで貼られた。
 これらの札は傷ついた対戦相手に貼るために、霊夢が常に携帯しているものだ。こうした後腐れのない、あっけらかんとした態度が妖怪あたりに好かれる理由なのかもしれない。もちろん、魔理沙も好きだった。

「まあ、今のは冗談で……本当の理由は、倒した相手がいなくなるのが嫌だったからさ」
「相手がいなくなる?」
「私もそこらへんは上手にまとめられないんだが、スペルカードルールで戦ってる限り、相手が死んだり消えたりしないだろう?」
「普通はそうね」
「だが今回の異変だと、あのイカは倒したら外へ強制送還。また戦いたくなっても、無理なんだ。なんとなくそれが嫌だったのさ。あと、残りたいやつを強引に返そうとしてたのも、虫が好かなかったし……私も良く分からんがな!」

 胸に溜まっていたものを全て吐き出すと、魔理沙は腰を上げた。気持ち良さそうにのびをして、それから霊夢の方を向いた。なにやら、いたずらっ子のように笑っている。

「札を貼ってくれてありがとさん。お返しに良いことを教えてやるよ。自分の胸を見てごらん」

 霊夢は首をかしげながらも言われた通りにして、凍りついた。

「んなっ! うそっ!?」

 大急ぎで胸を隠してしゃがみこんでしまう。
 ビキニの上の部分がなくなっていたのだ。どうやら渦に巻き込まれている途中で飛ばされてしまったらしい。

「戦ってる最中に言うべきだったな、こりゃ」
「さ、さっきからやけに胸がスースーすると思ってたのよ! 魔理沙! あんたの水着を貸しなさい!」
「つつしんでお断りするぜ」
「いいから貸しなさいって!」
「馬鹿、やめろ!」

 霊夢もさすがに寝ているルナサから服を剥ぎ取ろうとはせず、目の前で腹を抱えて笑う盗人から奪うことにした。水着をめぐる熾烈な争いがここに勃発した。
 なお、幸運にもウミガメは争いの全てを目撃することができたが、そのありがたさを理解していたかは不明である。
 この争いはルーミアとダイオウイカが来るまで続いた。

「やっほー。喧嘩してるの?」
「あ、ルーミア! あなたの上着を貸してくれない!?」
「いいよー」

 霊夢がルーミアに服を借り、一件落着となった。ただ、その服は若干こげ臭かったが。
 上は子供服、下はビキニ水着のままというアンバランスな巫女に興味を持ったのか、ダイオウイカが腕をそろりそろりと伸ばす。作戦は成功するかに見えたが、肌に触れる直前で霊夢に吼えられ、大慌てで腕を引っ込めた。

「誘った霊夢が悪いな」
「黙らっしゃい!」

 要らぬことを口にした魔理沙はお払い棒で叩かれた。

「いてて。けが人に対してひどい仕打ちだな。ま、それはともかく……ルーミア、友だちに伝えてくれないか。勝てなくて悪かった、って」
「分かった……でも、気にしてないと思うよ」
「気にしてない?」
「うん。それよりも、わがままを言ってごめんなさい、だって」

 ダイオウイカは申し訳なさそうに腕をくねらせ、体色を白くさせていた。どうも、幻想郷に残ることは不可能だと承知した上でゴネていたようだ。
 幻想郷の居心地の良さに、つい叶わぬ夢を見てしまったが、衣玖の放電によってようやく諦めがついたらしい。

「ちゃんと謝るとは、イカなのに殊勝なやつだな。どこかのわがまま天人よりよっぽど偉いぞ」

 意味が伝わったのか、赤くなったダイオウイカは嬉しそうに腕を振り上げる。
 魔理沙は感心してうめいた。殊勝な態度といい、子どもっぽい仕草といい、ルーミアの言う通り可愛いやつかもしれないと、今度は本気で思ってしまった。

「妖怪になったら、絶対に幻想郷に来いよ。あ、その前に海ができるかもしれないか……とにかく、スペルカードルールも教えてやるから、また一緒に戦おうな」

 指きりのつもりで、丸太のような腕をつかんだ。ひんやりとしていて、さわり心地も絶妙だった。
 ダイオウイカも意図を察してくれたのか、魔理沙の手に腕をからませてくれた。私もー、とルーミアが参加して、二人と一匹でぐちゃぐちゃになる。

「なあ、霊夢。異変はいつ終わるんだ?」
「そうね。夜には元通りになるんじゃない」

 浜辺で日光浴中の誰かさんを思いながら、霊夢は答えた。説得が成功したからには、しっかり働いてくれるはずである。

「じゃ、夜までの間、幻想郷を楽しんでくれ。私も異変を楽しんでくるから。おっと、そこのお前さんでっかい身体をしてるな。乗せてってくれよ!」

 魔理沙は盗賊らしく軽やかに挨拶をして、たまたま通りがかったマンタに飛び乗って、その場を後にしてしまった。
 巨大なエイに乗って遠ざかる魔理沙を、ルーミアとダイオウイカは腕を振って見送った。霊夢はウミガメの甲羅に手を置いて、しみじみとつぶやいた。

「流星みたいなやつねぇ」

 それから大きな伸びをして首を動かす。
 霊夢の顔からは仕事人の覇気が消え、すっかり楽園の素敵な巫女さんに戻っていた。

「さーて、準備よ!」
「準備?」

 ルーミアは不思議そうに尋ね、ダイオウイカと一緒に首をかしげる。

「宴会の準備に決まってるじゃない。こいつらも口があるから、酒は飲めるんでしょ?」










 目を覚ますと、そこは博麗神社だった。

「……んにゃ?」

 強烈な酒の香りが鼻を蹴りつけている。
 無造作に敷かれたござ、ほったらかしの酒瓶、山積みになった皿。
 目に映る境内はそこはかとなく汚かった。
 きわめつけはそこら中で寝ている人妖たちだ。酔いつぶれて、その場で寝てしまったらしい。
 霧雨魔理沙はいつもと同じような、宴会の残り香の中にいたのだ。

「あー、元に戻ってら」

 あれほど泳ぎまわっていた魚は、朝の日差しに満ちた境内に一匹もいない。鼻に入ってくるのは、酒と朝もやのかぐわしい香りばかりで、潮の香りはまったくしない。
 自分の隣に目を移せば、ルーミアとアリスが丸くなっていた。ルーミアはスルメを、アリスはたこ焼きを、それぞれ口にして寝ている。しかし、一緒にいたはずのダイオウイカと大ダコの姿は影も形もなかった。

「寒いな」

 夏といえども、早朝を水着だけで過ごすのは無理があるようだ。急激に生き物の数が減ったことも、空気を肌寒くしている一因かもしれない。
 魔理沙は立ち上がってあくびを一つして、周囲を見回す。
 吸血鬼の姉妹は日傘の下でそろって寝ている。日傘は瀟洒なメイドが用意したものだろう。亡霊のお嬢様はワインボトルを、四季のフラワーマスターは傘を抱いてそれぞれ寝ていた。
 と、ここで起きている者を発見した。鳥居の上に誰かが三人並んで座っている。

「おーい……」

 声をかけようとして、やめた。気が引けたのだ。
 鳥居に腰掛けていたのは天子と衣玖、それに村紗だった。三人は話もせずに、黙って空を見ている。天子だけ、大きなサメの歯を握り締めていた。
 雀が飛ぶ空は透けるように青く、蒼海の青さに少しだけ似ている。
 仕方ないので、賽銭箱の横で寝ている紫で遊ぶことにした。妖怪も日焼けするようで、肌の色が普段の病的な白から小麦色に変わっていた。ついでに、サングラスの跡まである。

「なーにしてるの?」

 紫の鼻へスルメを突っ込もうとした瞬間、後ろから声をかけられ、身体が飛び上がった。

「お、おはよう、霊夢。早いんだな」
「おはよう。いたずらを見つけたのが私で良かったわね」

 藍だったらどうなってたことやら、と母屋から出てきた霊夢が笑った。
 ビキニ水着ではなく、上下がアンバランスな服装でもなく、いつもの巫女服で朝からしっかり決めている。手には昨夜出されたシーフードサラダの皿があった。

「そいつは?」
「カメのえさよ。神社の裏の池にカメが住んでるから、そいつにあげようと思って」
「へえ。毎朝ご苦労なことだな」
「まさか、今日が初めてよ」

 そんな大変なことするわけないじゃない、といった顔だ。

「今朝起きたら、なんとなくカメが見たい気分だったのよ。だから、たまにはえさでもあげて、ついでに顔を見てやろうかな、って」

 空を見上げながら霊夢は答えた。どことなく恥ずかしそうである。
 昨日の出来事、特にウミガメの活躍を回想しながら魔理沙はニヤニヤと笑い、シーフードサラダをのぞいた。かなりの贅沢者が食べたようで、魚介類はなく野菜ばかり残っている。

「なんとなく、ねぇ」
「文句ある?」
「いえいえ、ございませんよ」

 これ以上言うと退魔針が飛んできそうだったので、やめておいた。
 まったく、と霊夢はぼやき、神社の裏へ向かって歩き出してしまった。

「さてと、私は朝風呂にでも行くとしますか」

 置いてきぼりにされた魔理沙はクルリと回れ右をして、霊夢とは逆の方向へ歩き始める。向かう先は神社の母屋。自宅まで帰るのは面倒くさいので、母屋の風呂を借りるつもりなのだ。

「ああそうだ、霊夢」

 ふと思い出したかのように立ち止まる。振り返りはしない。

「次は絶対に勝つからな」

 ほんの少し間が空いて、博麗の巫女からの返事が背中を叩く。

「何度でもかかってらっしゃい」




 
ここまで読んでくださった全ての方々に感謝を。

最近寒くなってきましたね。
この話を読んで、少しでもあの暑い日々を振り返っていただけたらなぁ、と思います。
話を考えた頃は暑かったので。ここはひとつ海の話を書こうと奮起したのですが、幻想郷には海がありません。なので無理やり海になってもらいました。水着も見てみたかったことですし。
水中での戦闘はあくまでもそれっぽいものですので、ご了承ください。

溺れる心配をせず、自由に海を見て回れたら、それはきっと素晴らしいことに違いと思います。

10月26日、ネタに使わせていただいたタコのパウル君がお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りします。



>>3さん
新作ではどんなキャラが増えるのか楽しみですね。

>>9さん
どうも…(感謝)

>>11さん
幻想郷ってこんなところかなぁ?と妄想しながら書くのが楽しいです。

>>奇声を発する程度の能力さん
な、なんだってー!?
アリスがどうなっていたのか、それはご想像にお任せします。

>>コチドリさん
魚になっても衣玖さんは可愛いんです。外見はあれですが。
タコはすごいんです。

>>19さん
実はメモ帳換算だと少し短いんですが、それでもほぼ80KBなんです。

>>20さん
いやぁ、どうもです。

>>21さん
ほっこりできる話を書けて私もほっこりです。

>>23さん
海は本当に良いものです。
半分は空気なので、半分は大丈夫だったと思います。

>>25さん
他の媒体に移したら、また違った面白さが出てくるかもしれませんね。

>>ヒロスケさん
この量を一気に読むとは。ありがとうございます。

>>28さん
この話は正統派なのでしょうか?自分のやりたいように書いただけだったのですが。
長いのにサクッは焼くのが大変です。

>>カイエダ艦長
カ、カイエダァーッ!!
残念ながらキャプテン・ムラサはすでに命蓮寺のメンバーなのです。

>>31さん
おそまつさまでした。

>>36さん
作者冥利に尽きます。ありがとうございました。

>>爆撃さん
私も魚と海が大好きです。浪漫ですよねぇ。
東方の二次創作でマッコウクジラとダイオウイカの戦いやロレンチーニ器官が出たのはこの話が初めてかもしれません。

>>40さん
残念ながら機械仕掛けの魚ではありませんが、それも面白そうですね。

>>43さん
イカやタコの弾幕は想像しただけで、エロティックで避けにくそうです。

>>44さん
おっと、細かい点で何かありましたか?
普段の弾幕ごっこで距離を出しすぎると野暮ですが、潜水艦の戦いでは欠かせない要素となります。かっこ良いのです。

>>45さん
早いとこ海が来てほしいものです。
なるほど。村紗と潜水艦だけの話というのも面白そうですね。

>>46さん
二艦とも少女たちと泳ぎそうな顔をしていたので出てもらいました。

>>54さん
どうもどうもです。

>>59さん
これだけは言わせてください。海が好き!
ネタもなかなか加減が難しいです。

>>61さん
本当に出てほしいですね、海のステージやキャラクターは。

>>65さん
おそまつさまです。漫画化を待っていてもいいですか?

>>67さん
シャコ!そういう手もあるのか!

>>68さん
魚類は幻想入りしてほしくないものですね。
タコとの交渉は当人同士でお願いします。

>>73さん
私も書きながらどんな様子か想像してニヤニヤしてました。

>>74さん
ノリのよさとノスタルジィが混ざった世界が幻想郷だと思っています。
魔理沙と霊夢は本当に書きがいのある関係です。

>>75さん
ぜひともゲーム方で海中バトルを見てみたいものですね。

>>77さん
伊-19は実際に活躍した艦ですからね。正直、出して大丈夫だったのかビクビクしてます。

>>78さん
犠牲にして申し訳なく思ってます。犠牲にして良かったと思ってますが。
衣玖さんの元ネタはまさにウボァ、という感じですから。

>>79さん
どういたしまして。私も読んでいただけて嬉しいです。

>>81さん
架空の異変を起こせることが二次創作の醍醐味ですね。

>>83さん
ようやく玄爺について言及してくださる方が!
知ってる方が少ないと思い、こんな扱いになってしまいました……

>>86さん
絶対に当たる弾幕は厳禁なので使えなかったかなぁ、と思っております。

>>89さん
いい幻想郷と呼ばれるほどのものを書けて良かったです。

>>90さん
アドミラル・ムラサって自分で出しておいて何ですが、かっこいいですよね。

>>91さん
すごい弾幕って表現するのが難しいです。
プリズムリバー三姉妹は外せません。プリズムリバー三姉妹は絶対に外せません。

>>SPIIさん
お察しの通り、あの叫びはさかなくんが元ネタです。さかなくん、お許しください!
サメはけっこう可愛いんですよ。もっと再評価されてほしいものです。

>>96さん
海底より女の子がいっぱいの場所が良かったのでしょう。
あの雰囲気があるからこそのハレの日なんでしょうね。

>>97さん
いえいえ、ありがとうございます。

>>98さん
タコになる方法が分かったら私にも教えてください。

>>99さん
どんな状況になっても楽しむことを忘れないのが幻想郷の住人だと思います。

>>104さん
私も書くのは大変でしたが、書いた後は祭りが終わったときのようでした。

>>107さん
セリフはこの子はこんな感じかなぁ、と思いついたままに書いてる場合が多いです。
この話を書いていて一番好きになったのは、実は天子かもしれません。みんな好きですけどね。

>>113さん
タコ大人気ですね。大ダコとアリスはみなさんのご想像に留めておいた方が良い、と感じます。

>>名前が無い程度の能力さん
あわわ。報告ありがとうございます。

>>117さん
次回作はぜひとも海に関係する異変になってほしいですね。水着つきで。
書くときに“沈黙の艦隊”を読み返しましたが、やはり面白い漫画だと思います。

>>127さん
楽しんでいただけたようで何よりです。

>>129さん
話の中では棺桶同然に扱ってしまいましたが、実際には潜水艦は有効な戦力なんです。かっちょいいんです。
艦長自らシーバットにつけた傷はしっかりと残っているはずですよ。

>>132さん
ダイオウイカの肉は非常にまずいらしいのですが、タコは足を食われても再生する場合があるそうですよ。

>>siroさん
空を飛びたいという願望と、海で泳ぎたいという願望って、けっこう近いものなのかもしれません。
霊夢と魔理沙って言い方が悪いですが、水と油に近いかも。でも仲良し!好敵手!

>>137さん
登場枠は一作品につき一つです!
なのでリムファクシは海の底で我慢してもらいました。

>>リペヤーさん
ぶっちゃけ連中はオリキャラでしたが、気に入っていただけたみたいで良かったです。
水中弾幕ごっこって、空中でやるのとはまた一味違って面白いと思いますよ。

>>145さん
実はもっと短くするつもりだったのですが、とても収まりきらずこの長さになったのでそうコメントしていただけると助かります。

>>148さん
村紗提督でもかっこいいのですが、アドミラル・ムラサにするとまた違った良さがありますよね。
潜水艦たちの分も合わせて、この話で一番かっこよく活躍してくれたと思っています。

>>160さん
正直、自分でも扱えるか心配なほど大勢出してしまいましたが、各々がちゃんと動いてくれたようです。
みんなすごいですよ。

>>161さん
どうもありがとうございます。
ただ、お望みのアリス編が実現するか……それはアリスと相談してみないと分かりません。
驢生二文鎮
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コメント



0.5760簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
東方の冬の新作かと思いました。
面白かったです。
9.100名前が無い程度の能力削除
おお・・。(感嘆)
11.100名前が無い程度の能力削除
めっきり寒くなってきたと思ったがそんなことはなかったぜ
この幻想郷はらしくて素晴らしいなぁ
素敵ななお話有難うございました
14.100奇声を発する程度の能力削除
>誰かの奇声を聞いたり
私の事か!?

アリスがあの後どうなったのか凄く気になります!(駄
とっても良かったです!!
16.90コチドリ削除
バトルというヤマはあれど、全体的な印象はのどかで和やか。いいですねぇ。
霊夢達に水着を着せるために幻想郷を海で満たした作者様の心意気や良し! ポロリもまた良し!
個人的にツボだったのは魚モードの衣玖さん。外見はアレだけど中身はとってもキュートだ。
他の海産物キャラも皆良い味出していたと思います。
北斎タコも一瞬料理されたかと思ったけどアリスと和解したみたいですし。
……和解ですよね? 別れをアリスが一番残念がった、とかいうオチは無いですよね? 触手的な意味で。

それでは近い将来みんなが再会できることを祈りつつ、ここらで失礼を。
19.100名前が無い程度の能力削除
あれ…これ80Kなの?あっという間に読み終えてしまったんですががが。
20.100名前が無い程度の能力削除
なんかこういうの好きです
21.100名前が無い程度の能力削除
これはいい話
ほっこりしてしまう
23.100名前が無い程度の能力削除
海の世界に惹きずり込まれました。吸血鬼の姉妹は大丈夫だったのでしょうかね、流水。
25.100名前が無い程度の能力削除
ゲームなりアニメなり漫画なり、別の媒体に移してもすごくいいんじゃないかと思いました
それくらい面白かったです!
26.100ヒロスケ削除
すごい面白かったです。
一気に読んじゃいました。
28.100名前が無い程度の能力削除
正統派の長編は大好きだー!
長いのにサクッと読める素晴らしい作品でした。
29.100カイエダ削除
核魚雷を積んでいながら使わなかったキャプテン・ムラサ偉いなさすがムラサ偉い
沈黙の艦隊に加わる権利をやろう
31.100名前が無い程度の能力削除
水を得たキャプテン、素敵なサメ、まっすぐな魔理沙、ネチョいタコ、そしてほのかに香るゆかれいむ…おいしゅうございました
36.100名前が無い程度の能力削除
読み終えるのが惜しいような、そんな気持ちにさせられました。
39.100爆撃削除
先にも言われてますが。
あれ、これって80kもあるの……? すごくすらすら読めてしまいました。
魚がとっても好きなので、楽しめました。
マッコウクジラの脳油とか、浪漫溢れますよねー。
マッコウクジラvs.ダイオウイカってもう、浪漫溢れますよねー。
40.100名前が無い程度の能力削除
ベルサー帝国かと思ったらなんという良作。
43.100名前が無い程度の能力削除
いつか幻想入りを果たした彼等との弾幕ごっこも是非見てみたいと思える作品でした。
44.100名前が無い程度の能力削除
満足感だけで100点
細かいことはどうでもいいくらい、読んでいて楽しかったです
レーダーとかを使ったキロメートルレベルでの戦闘の雰囲気はホントに素敵ですね
45.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
いつ幻想郷に海はやってくるのでしょうかねぇ。

それと、兵器をハイテンションに乗り回す女の子っていいですね!
なので、もうちょっと村紗の活躍を見てみたかったなー、と思うのです。
46.90名前が無い程度の能力削除
なんでシンファクシやシーバットがwww
54.100名前が無い程度の能力削除
良か良か。
59.100名前が無い程度の能力削除
色鮮やかな海の描写が@良い作品でした。
所々に挟まっている小ネタもとても面白く、良いアクセントになりました。
61.100名前が無い程度の能力削除
正直、そろそろだと思うんだがな。海ステージ登場。
65.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょう!自分に絵の才能があれば寝る間も惜しんで漫画化するのに!
と、言えるほどクリーンヒットした作品でした。ごちそうさま
67.100名前が無い程度の能力削除
いつシャコが出てくるかと心配でならなかった
68.100名前が無い程度の能力削除
まさに幻想ウォーター・サメ地獄。
全てのキャラが生き生きと描かれていて、作者さんの愛が直球に伝わってくる作品でした。
魚類の幻想入りという形での風刺も考えさせられます。

しかしまったくけしからんタコだな。けしからん罰として俺と変わってください。
73.100名前が無い程度の能力削除
情景を想像するだけで凄くワクワクしました。
面白かったです。
74.100名前が無い程度の能力削除
ノリのよさとノスタルジィ、両面で素晴らしかった。
ルーミアの「私も妖怪だからなんとなく気持ちがわかるんだ」にはほろっと来ました。
魔理沙と霊夢の役割の書き分けも上手く物語に厚みを持たせていたと思います
75.100名前が無い程度の能力削除
まさか幻想郷で海中バトルが見られるとは。
いや~面白かったです!
77.100名前が無い程度の能力削除
伊-19だと!! 胸が熱くなるな。
78.無評価名前が無い程度の能力削除
アリスは犠牲になったのだ・・・エロスの犠牲にな・・・
すごく面白かったです!海の幻想郷もいいもんですね~
イクさんの元ネタは初見にゃちょっと刺激が強かったかもしれませんね
79.100名前が無い程度の能力削除
本当に楽しかった。ありがとうございました!
81.80名前が無い程度の能力削除
ナイス二次創作。
83.100名前が無い程度の能力削除
玄爺の扱いに涙が止まらない。
86.100名前が無い程度の能力削除
シンファクシが散弾ミサイル使ってたら終わってたなw
89.80名前が無い程度の能力削除
いい幻想郷だ
90.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい話とアドミラル・ムラサに敬礼!
91.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙は『スターメイルシュトロム(水中限定)』をラーニングしました。

舞台がどんな形になっても、勝手気ままに遊泳する幻想郷の住人達の姿が描かれていて良かったです。
あと、騒霊の使い方が素晴らしい。
93.100SPII削除
キャーイクサーン
事あるごとに「ギョギョッ!?」と驚く衣玖さんがとてもかわいい
完全にさかなくんの声で再生されてしまいますが
魚介類も皆かわいくて和みました
96.100名前が無い程度の能力削除
シンファクシが幻想入りしてただなんて…
お祭り騒ぎも祭りの後の郷愁感も、とてもよく出ていて楽しかったです。
97.100名前が無い程度の能力削除
すんばらしい
98.80名前が無い程度の能力削除
私は、タコになりたい
99.100名前が無い程度の能力削除
楽しそうだなぁ、本当に。
104.100名前が無い程度の能力削除
長さが気にならないなぁ。
…祭が終わった様な気分。
107.100名前が無い程度の能力削除
これは素晴らしい異変もの。
海水に沈んだ幻想郷の美しさといい、霊夢と魔理沙の水着姿といい、サメや大ダコ、ダイオウイカなど愛すべきキャラの魚たちといい、読んで本当に満足できるお話でした。
セリフ回しが簡潔ながら印象深くてすごく良い。
異変騒ぎのワクワク感、宴会の楽しさ、祭りの後の寂しさ。パーフェクトです。
サメの歯を握って空を見ている天子に泣いた。
113.100名前が無い程度の能力削除
貴方は大ダコとアリスの方を書くべきだった!
117.90名前が無い程度の能力削除
これは良い異変。マジでこんな異変起きないかな……そしてZUN絵の水着霊夢・水着魔理沙が見たい
「沈黙の幽霊艦隊」って言葉を見て沈黙の艦隊を久々に読み返したくなった。
127.100名前が無い程度の能力削除
楽しかったです
129.100名前が無い程度の能力削除
沈黙の(幽霊)艦隊か…
うん、やっぱ潜水艦っていいな
ぶっちゃけデカい棺桶でも、カッコいいよな

玄爺…?
シンファクシ!?
シーバット!!?

作者さん、キズは?シーバットのナイフのキズは?

あとこれ80kbもあったんだな…全く気にならなかった
132.100名前が無い程度の能力削除
みんな可愛らしくて好きです。しかし最後にるみゃとアリスが口にしているスルメとたこ焼きはまさか・・・。ハハッ、気のせいさ
136.90siro削除
祭りの後の哀愁感がほろっときました。
そういや空と海は色が似ているなぁ。
霊夢と魔理沙がいい役割していますね。
ごちそうさまでした。
137.100名前が無い程度の能力削除
シンファクシとシーバットに笑いましたwwwリムファクシが居なかったのがちと残念ですが。
海の幻想郷、楽しませていただきました。
138.100リペヤー削除
すばらしき水中戦を堪能いたしました。
海洋生物やみな個性的で愛らしく、潜水艦たちもかっこよかった!
面白かったです。
145.100名前が無い程度の能力削除
程よいボリュームで読みやすかったです。
148.100名前が無い程度の能力削除
これはいい作品だなぁ
アドミラルかっこいいよアドミラル
160.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
たくさんのキャラクターが登場しているなかでそれぞれにしっかり見せ場があったのがとても良かったと思います
情景が目に浮かぶようなしっかりとした描写もすばらしかったです
161.100名前が無い程度の能力削除
気がついたら読み終わっていた。
そんな良作に感謝です。
追伸
 アリスの番外編があったらぜひ読みたいです。
176.100名前が無い程度の能力削除
見ていて楽しかったです。最後のちょっぴり切ないところが良かったです。