Coolier - 新生・東方創想話

剣に酔う

2010/10/18 21:31:38
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 抜き身の刀のような鋭利な緊張感の中、老人と少女は向かい合う。
 少女は何処までも楽しそうに。
 鬼の象徴とも言える二本の角をゆらゆらと揺らし、小柄な体躯に似つかわしくない尊大とも思える笑みで老人を仰ぎ見る。
 対する老人は限りなく冷静に。
 抜き放った愛剣を下段に構えたまま、ただひたすらに己の集中力を高め、その刃の如き鋭き瞳で少女の笑顔を射抜く。
 一見すれば正反対の、しかして互いに確かな闘志を携えた二つの視線が交差しあう。
 今まさに、老剣士と鬼の少女の間において戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

 老剣士の名は魂魄妖忌。
 冥界の管理者、西行寺家の先代御庭番にして、かつて剣豪と称された男。
 その氷の如き沈着な心から繰り出さされる炎の如き苛烈な彼の剣を、人妖は『斬れぬ物など全く無い』と形容し、彼もまたその表現が決して誇張では無いと言う事を結果で証明し続けた。
 強さと厳格さを併せ持つ真の武人だった、彼を知る者は皆口を合わせてそう評す。
 そう、彼は武人『だった』のだ。

 今や彼は剣を置いた身、あても無く流れるだけの放浪人に過ぎなかった。
 その愛剣と御庭番の座を孫へと託し、雲のように行方知れずとなってから既に数年の時が経つ。
 最早幻想郷において、魂魄妖忌とは過去の剣豪に他ならなかった。
 ならば何故今、彼は捨てた筈の愛剣を握り、知り合いでも無い鬼などと対峙し、まさに剣を交えようとしているのか。
 それら全ての原因は考えるまでも無く、たった一人の女に集約されていた。

(……紫も厄介ごとを持ってきた物だ)

 八雲紫。
 妖忌にとって旧友……否、悪友とも言える存在の名前が彼の脳裏へと浮かぶ。
 この厄介事へと繋がる道筋、それは昨晩彼女が妖忌の元を訪れた事から始まった。




















――――――――――――剣に酔う――――――――――――




















「ささ、呑んで呑んで」
 
 月明かりが周囲を仄かに照らす宵の森。
 怪訝そうな顔で酒を口へと運ぶ妖忌の目の前には、徳利右手に妖艶な笑みを浮かべる女が佇んでいた。
 彼女こそが八雲紫。
 妖忌の元主、西行寺幽々子の親友にして、博麗大結界やスペルカードルールの誕生にも深く関わりを持つ妖怪の賢者。
 その能力は強力無比にして、知識の底は計り知れず、剣の道を極めた妖忌をもってしても一目置いている存在である。
 そう、一目置いてはいるのだが……。

「せっかくこんな可愛い娘がお酌しているんだから、もう少し嬉しそうにしなさいよぅ。愛しの貴方の居場所を探すのにどれだけ私が苦労したか、よよよ」

 如何せん胡散臭い。
 境界を操る妖怪だからと言う訳ではないが、何処までが本心で、何処からが芝居なのかの境目がまるでわからない。
 全てを見通したかの如き言動で周囲に畏怖を頂かせたと思えば、今のように子供のような振る舞いで知人を呆れさせる。
 果たして彼女の本質は一体何処に在ると言うのか、長い付き合いである妖忌や幽々子からしても見当もつかぬと言うのだから、胡散臭いと表現せざるを得ないと言う物だ。
 全く、こやつがしょっちゅう幽々子様をからかおうとするせいで、私がどれだけ苦労をしたものか。
 決して良い物とは言えぬ、在りし日の思い出を頭に浮かべながら、妖忌は眉間に皺をよせた。

「今日は何用だ」
「あら、旧知の友とお酒を酌み交わしたい、では理由にならないかしら」
「お前が酒を持ってくる時は大抵、厄介事が付き物だったからな」
「まぁ、失礼発言。私がこれまで貴方に迷惑を掛けた事などあったかしら」
「……一つ一つ挙げて言ってやろうか、覚えている物だけでも間違いなく夜が明けるぞ」
「それは幾らなんでも大袈裟と言う物よ」
「折角だから今度、お前の式の前でつらつらと並べ立ててやろう。聴衆は多い方が気分も乗るからな」
「ごめんなさい、勘弁して下さい」

 割と必死な様子で懇願され、妖忌はやれやれとばかりに深い溜息を吐く。
 どうやら相も変わらず自分の式には頭が上がらないらしい。
 妖忌としても別に加虐趣味が在る訳ではない、冗談だと手を振って示してれば、スキマ妖怪は思わず一瞬の安堵顔。
 呆れた様子を隠そうともしない妖忌に対して、コホンと小さく咳払いをしてその居住まいを正す。

「そ、それで御庭番を退いてからの生活はどうなのかしら」
「どう、と言われてもな」
「色々あるでしょう、着る物はどうしているのかとか、食生活はしっかりしているかとか、ちゃんと人と話しているのか、とか」
「お前は私の保護者か何かか」

 いきなり出て来たと思えば、何がしたいのかこの妖怪は。
 いまいち要領を得ない紫の態度に何とも言えない居心地の悪さを感じてか、妖忌は渋い表情で紫の顔を睨み付ける。

「一体何を企んでいる。そんな事を聞いて―――――」

 問い詰めようとして、思わず言葉が詰まった。
 妖忌と紫の目があったその瞬間、あの胡散臭いスキマ妖怪の表情に陰りが生じていた事を妖忌は見逃さなかった。
 そして妖忌に気取られまいとばかりに、すぐさま余裕の笑みを貼り付けた事も。
 成程、やはり本題は別……それもどうやら相当に切り出し難い話らしい。
 外堀から少しずつ埋めて行こうとは、相も変わらず狡猾な事だ。
 一瞬見せた紫の表情から妖忌は、彼女の中に僅かな焦りが存在する事を見抜いていた。
 若干の不安を感じながらも話を引き伸ばすのは彼の嫌うところ、妖忌は手にした猪口を地面に下ろすと、ゆっくりとその双眸を閉じる。

「紫。持ってまわった言い回しはお前の得意分野だが、今日は余りにも不自然が過ぎるという物だ」

 込められた威圧を無くし、ゆっくりと、微かにトーンを落としながら。
 内容はともかくとして、まるで幼子に問いかける様な穏やかな口調で言葉を紡ぐ。
 それは、言い出し難い内容の話である事は既に見抜いていると言う、妖忌なりのサインでもあった。
 対する紫はと言えば、妖忌の暗示している事を理解したのだろう。
 仮面の笑顔を取り外すと、微かに……けれど確かに憂いを帯びたまま、その表情に儚い笑みを浮かべた。
 千以上の年月を生きた大妖怪とは思えぬ、弱々しいその笑顔。
 果たしてそれが彼女の本心からの物であったのか、いつもの人を虚仮にするような芝居なのかはわからない。
 しかし妖忌はかつて、今まさに彼女が一瞬見せたその表情を目の当りにした事があった。
 確かな憂いと微かな恐怖の入り混じったその顔を、他ならぬ自分自身へと向けられた事があった。
 その事実が、確信めいた憶測を妖忌に抱かせる。





「よもやお前、私に白玉楼に戻れなどと言うつもりではあるまいな」





 紫は応えない、それ即ち肯定と言う意味であった。
 思わず妖忌の口から大きな溜息が漏れる。

「これ以上我々の事情に口を挟むな。お前には関わりのない事だ」
「関係ない? 貴方が白玉楼を出る原因を作ったのは、他ならぬ私だと言うのに?」
「お前はまだそんな事を……」

 自虐じみた紫の言葉、その弱々しい態度に、膝上に乗せていた両の拳に力がこもる。
 この女は未だ、私などに対して負い目を感じていると言うのか。
 そんな事誰一人望んではいないと言うのに、それでも自分を責めずには居られないのか。
 既に誰の前からも消えた筈である自分の存在が未だに旧友を苦しめている、その事実が彼を苛立たせていた。
 他ならぬ自分に対して、こんなにも申し訳なさそうな顔をする紫の姿など、妖忌は見ていたくなかったのだ。

 いつも飄々とした紫が、厳格な妖忌をからかっては痛い目を見せられる。
 かつて二人の間にあった遠慮などと言う言葉とは無縁の関係、それを崩してしまったのはたった一つの『決まりごと』だ。
 『スペルカードルール』
 幻想郷と言う狭い世界の中で、妖怪と人間とが共存して行く為に作られた規律。
 それは、これまで『殺し合い』であった妖と人との争いを、公平で危険度の低い『遊び』へと変えてしまう事で、弱者と強者のバランスを保つと言うまるで子供じみた物であった。
 しかしその子供じみたルールは今や幻想郷中に浸透し、妖と人の間のしがらみを減らし、両者の距離は確実に以前よりも近づいている。
 人間は妖怪と正面から戦える程強い存在では無かったし、逆に妖怪は人間が居なければ生きる事さえままならない。
 彼らは結局の所、互いに歩み寄るきっかけを探していたのだ。
 そして実際にスペルカードルールを作り、裏から手を回して妖怪の強者達を納得させ、世界の要でもある博麗の巫女に提唱させる事で、彼らにきっかけを与えた者こそ、他ならぬ八雲紫であった。
 そして同時に―――――一人の剣士の生き方を狂わせてしまったのも。

「お前の選択は間違ってなどいなかったさ。お前達の作り上げた規律は危うかった人と妖の均衡を保ち、調和を与え、この世界を楽園たらしめた。少なくとも私がこうして各地を巡って目にしてきた人妖達の表情は、かつて規律が定まる前のそれよりも余程生き生きしているよ」
「その楽園とやらの為に、犠牲となった者も居るわ」

 『犠牲になった者』
 果たして彼女の言葉が誰を指しているかなど、最早考えるまでも無かった。
 博麗の巫女によりスペルカードルールが提唱される一月程前であったか、あの蒸し暑い夜、紫は妖忌に対して全てを伝えた上で深々と頭を下げた。
 いつものようなおどけた様子や余裕をうかがわせる振る舞いなど何処にもない、心の底から絞り出すかのごとき謝罪。
 あの時の紫の表情がどれだけ悲痛な物であったか、今でも鮮明に思い出せる。
 彼女はわかっていたのだ。
 自分の作り上げたその規律が、一人の剣士から悉くを奪い去ってしまうと言う事を。

 剣に全てを捧げてきた男、魂魄妖忌は、死合いの中でこそ生を見出す事の出来る存在であった。
 主や家そして魂魄の名、それらを狙い、利用しようとする輩は容赦無く斬った。
 敵がどれだけ強大であろうとも、卑劣であろうとも、ただただ己の信じた剣のみを手に、その悉くを討ち果たした。
 守るべき物全ての重みを剣へと乗せ、己の命を賭してそれを振るう。
 それこそが魂魄妖忌と言う男の生き様であり、彼が生涯を掛けて歩んできた道でもあった。
 スペルカードルールはそんな彼から、死合いを奪おうとしていた。
 人と妖の殺し合いを無くす為のその規律は、妖忌の戦う意味を消し去ろうとしていたのだ。
 今更歩んできた道を捨て、別の生き方……規律に則った『遊戯』になど興じられる筈も無い。
 そんな事は誰よりも妖忌自身が理解していた。
 
 しかし、妖忌は紫を責めなかった。
 自分の生き様を否定するような規律を、幻想郷中に広めるなどと言い出した彼女を決して非難しなかった。
 顔を上げた彼女の妖忌へと向けられる瞳、そこには悲痛さだけではなく、強い強い決意が秘められていたから。
 例えどれだけ友から恨まれたとしても、必ずやり遂げると言う決意。
 否、妖忌だけに非ず、この規律が定められた事で不利益を被る人妖達、それら全てを犠牲にしたとしても、その上に妖と人とが共存できる世界を築き上げる。
 誰よりも世界を愛すエゴイストの凄まじいまでの覚悟を、あの時妖忌は目の当りにしていたのだ。
 そして妖忌は彼女の理想を信じ、迷わずその決断を受け入れた。
 それが己の歩んできた道を捨てる選択であると、痛い程に理解しながら。

「貴方はあれから、剣を振るわなくなったわね」
「必要もなくなったからな。人と妖の争いは激減し、白玉楼……あの御方の能力を狙う輩もまるで居なくなった。私の剣で守れるものなど、何処にも無くなってしまった」
「だから、白玉楼から出て行った?」
「……最早あの屋敷に、私は必要無かったからな」

 そう口にする妖忌の表情は、何処か諦観を含んでいた。
 それはスペルカードルールが適用される以前は決して見せる事の無かった彼の弱さ。

 規律が適用されてからの妖忌は、まるで抜け殻のようであった。
 無理もない、彼が失った道は自分の命にも等しい物だ、これから新たな道を探すには彼は老いすぎていた。
 自分の中に出来た巨大な空洞を埋める事も出来ず、後に戻る事も前に進む事も出来はしない。
 かつての鋭さは既に失われ、ただただ漫然と錆びて行くのを待ち続けるだけの一振りの刀に彼は成り果てていたのだ。

 ここに居続けてはいけない、そう思った。
 このまま自分が白玉楼に居座れども、主や弟子に身の錆を伝染させていってしまうだけ。
 そうなってしまう前に、自分はここから去るべきだ。
 魂魄妖忌と言う存在を、白玉楼と言う美しい屋敷から消し去ってしまう。
 それが空っぽになってしまった今の自分に出来る最善の選択だと、あの時妖忌は結論付けたのだ。

「幽々子と妖夢は……」

 自身の選択に後悔が無かった訳ではない。
 
「あの子達は今も、貴方の帰りを待っているわよ。もう一度、彼女達と向き合ってはくれないのかしら」
 
 瞼を閉じれば、暗闇に浮かぶのはかつて守るべき存在であった筈の主と孫の顔。
 妖夢はきっと泣いたのだろうな、と思う。
 幽々子様はきっとあの哀しげな笑みを浮かべていたのだろうな、と思う。
 自分の独りよがりな想いの為に残された彼女達の事を思えば、未だにずきりと胸が痛む。

 しかし、それでも今更自分の選択を覆すつもりは毛頭ない。
 今の自分が白玉楼に戻れば、それはまた同じ事を繰り返すだけ。
 既に錆び切ってしまったその刀は、彼女達にとっての重荷にしかならないだろうから。
 妖忌は目を閉じたまま、ただただ無言をもって紫の提案を拒絶する。
 それだけで長年の付き合いである紫から見れば、彼の意思は一目瞭然であった。
 紫は今まで妖忌に向けていた視線を下へと向けると、諦めたかのように小さく息を吐いた。

「貴方は昔から頑固だったわね」
「すまない、紫」
「……謝るのは貴方では無いでしょう」

 紫は苦笑するが、妖忌は真剣な表情のまま少女に対して謝罪する。
 彼女は今もきっと、妖忌から居場所を奪った事、幽々子や妖夢から妖忌を奪った事……自分を大切な友を傷つけた事で苦悩し続けているのだろう。
 妖忌を白玉楼に戻そうとしたのも、それが彼らに対するせめてもの罪滅ぼしになると思ったからに他ならない。
 何とか妖忌達を以前のような三人の関係に戻してやりたい。
 そんな彼女の気持ちに応えられない事が、妖忌にとっては申し訳なく思える。
 旧知の友であった二人の関係は、今や互いが互いに負い目を背負ったぎこちない物と成り果ててしまっていた。

「ねぇ妖忌。こうして放浪を続けていれば、貴方の空白は埋まるのかしら」 
「さぁな。そんな事は私にもわからんよ。私に出来るのは、こうして両の足で前に進む事くらいだ」

 剣を振れない妖忌が、失った物を補える筈が無い。
 二人の間で交わされるのは、そんな結果のわかりきった問答だった。
 妖忌は自虐めいた溜息を吐きながら、空になった杯を紫の胸元へと差し出した。
 今はただ酒で全てを誤魔化したい、かつてなら考えもしなかった情け無い思考が彼の中には渦巻いていた。










―――――







 
 それからどれだけ時間が経ったかもわからない。
 何時の間にか睡魔に負けてしまった妖忌はその晩、懐かしい夢を見た。

 自分が居た。
 桜の木の下、若輩者であった頃の妖忌が力任せに刀を振っていた。
 その太刀筋は既に千年剣を学び続けた今の妖忌から見れば、稚拙の極みで。
 けれども何とした事か、彼の目には眩いばかりの輝きを放っているように映っていた。
 嗚呼、なんと眩しい事か。
 愚直なまでに強さを求め、来る日も来る日も剣を振り続けたあの頃。
 自分が死ぬその時まで、ひたすらに刀と共に生きる事を疑いすらしなかったあの日々。
 確かに自分が歩んできた、けれども今や記憶の中にしか存在しないその道が、いやに懐かしく輝かしく思える。

 己の歩んだ道に後悔など無い。
 結局、自分は戦いの中にしか生を見出す事の出来ない狂人だったのかもしれない。
 それでもよかった。
 大切な者を守る為に戦い、幾度と無く愛剣を血で染めてきた自分の生を決して否定はしない。
 少なくともその瞬間、自分は間違いなく生きていられた。
 半死人の言葉としては滑稽極まりないかもしれないが、間違いなく生きていたのだ。
 これまで繰り広げられてきた死合いの数々、己の最も充実していた時間がまるで走馬灯のように瞼の裏に蘇る。
 もしもあの頃に戻れると言うならば、迷わずその道を選択するであろう。
 だが、最早そのような選択は何処にも存在しない。
 平穏が世界を包み、死合いは世界から失われ、主を狙う輩も姿を消した。
 この世界において、魂魄妖忌が刀を振るう理由は既に失われてしまったのだ。
 そして理由無く振るう刀を、魂魄妖忌は持ち合わせていない。
 彼は戦いに生きる狂人ではあったが、平穏に生きる者達を脅かそうとする程狂っては居なかった。
 守るべき者が在り、それ襲う者が居たからこそ彼は狂人として生きていられたのだ。

 ただ無心に強さを目指していた少年『魂魄妖忌』に、魂魄妖忌は背を向ける。
 これ以上彼の姿を見ていては、これから自分が歩む時間が余計に虚しい物に見えてしまいそうだったから。
 幾度と無く聞いた剣が風を切る音を耳にしながら、彼はこの夢が終わるのを待ち続けた。
 







―――――







 目を開くと、辺りには霧が立ち込めていた。
 上空から降り注ぐ陽光が霧で反射し、何とも幻想的な雰囲気をかもし出している。
 はて、夜と朝とは言え随分と雰囲気が変わったものだ、昨晩紫と杯を交わしたのはこのような場所であっただろうか。
 問い詰めようと周囲を見渡すが、紫の姿は何処にも無し。
 どうやら妖忌が眠っている間にさっさと引き上げてしまったらしい。
 だとすると自分は随分無防備な姿で寝ていたのだな、思わず妖忌の全身を脱力感が襲う。
 かつてはこうも簡単に隙を晒す事は無かったというのに、随分と腑抜けた物だ。
 思わず昨晩の夢が蘇りそうになるのを首を振って諌め、妖忌はその場に立ち上がろうとして。
 その時、右手に何かが当たる感触を感じた。

「楼観剣?」

 目を落とした先にあったのは、妖忌のかつての愛剣である『楼観剣』
 既に孫に譲った筈の、ここには有り得ない筈の長刀の姿に、思わず妖忌は眉を潜める。

(紫め、何のつもりだ?)

 このような行為をする者の心当たりなど、始めから一つしか存在しなかった。
 疑惑は愚か確信をもって妖忌はスキマ妖怪の胡散臭い笑みを頭に浮かべ、苦虫を噛み潰したような顔をする。
 しかして、その目的がいまひとつ読み取れない。

 妖忌にもう一度生きる意味を取り戻してもらう為。
 一瞬可能性が頭を横切るが、妖忌はそれを否定するように首を横に振る。
 剣を手にしたとて、それで妖忌の空白が埋められるであろう筈が無い。
 埋められるのであれば、白玉楼に居た時から空虚な日々を送りはしなかったし、放浪の旅になど出る必要もなかった。
 そんな事を八雲紫が理解していない筈が無い。
 幾ら剣を修めたとして、それを振るう理由も相手も無ければ―――――

「……む」

 次の瞬間、突如背中に感じた強い気配に妖忌は振り返った。
 深い霧の為姿こそ見えないが、その距離約十間といった所だろうか、確実に何者かがそこに居る。
 達人である妖忌をもってしてもその接近に気がつかなかった、否、そもそも始めから『近づいてきた』のだろうか。
 気配を悟られる事などまるで考える必要なく、相手のすぐ近くまで移動する事の出来る、スキマ妖怪の能力を妖忌は知っていた。
 今の不自然な気配の出現も恐らくその『スキマ』を使った移動によるもの、その事はさしたる問題ではない。
 問題はその気配が、八雲紫のものとは似ても似つかないという事である。





「紫に良い肴があるって言われて来てみれば」





 刹那、何処か幼い少女の声が周囲に響き渡る。
 するとどうした事か、辺りを覆っていた霧がまるで逃げるように消えて行く。
 まるで少女の為の道を開くかの如く。
 まるで二人の為の舞台を整えるかの如く。
 視界が確保された事でここが昨日の場所ではないと明らかになったが、そんな事は既に妖忌にとってはどうでもよくなっていた。
 今、彼の関心が注がれるのは視線の向こうに居るであろう一人の少女。
 まさに霧散と言う表現の相応しい程に霧が跡形も無く消えさった後、一面の草原において男と女は対面した。

「こりゃ、中々どうして上物のようじゃないか」

 ―――――鬼。
 かつて妖怪の山を統べ、一度は幻想郷の歴史から姿を消した、何処までも猛き豪快な種族。
 妖忌は一見して幼子にしか見えないその存在を、一瞬でそうだと見抜いた。
 頭から生える二本の角や、手にした瓢箪……そんな物よりもまず先に纏う空気が、彼女が鬼であると妖忌に告げていた。
 そして同時に彼女が今闘志に燃え、それが向けられているのが他ならぬ自分自身であると言う事も。

(……本当に何を考えている、紫)

 ここには居ない黒幕に疑問を投げかけるが、当然答えなど返ってこよう筈も無い。
 紫よ、一度は手放した楼観剣を持たせ、戦いに餓えた鬼をけしかけ、私に対して一体何を望んでいる。
 まさか本当に私にかつての生き様を思い出させようというのがお前の目的なのか?
 だとしたら見当違いも甚だしい、如何に相手が強者とて、スペルカードに則った戦いなど私は求めていない。
 それが千年の時を賭けた剣の道の変わりになるとは到底思えない、紫とてだからこそあの時私に対して頭を下げたのではなかったのか。
 そんなスキマ妖怪に対する疑念が脳裏で溢れ出すのを表情に出さぬように、努めて冷静を装いながら妖忌は鬼に向かって口を開く。

「鬼の子よ。お前はどうやら紫に唆されているようだ」
「およ、どういう意味だい?」
「どうやら私と戦いに来たようだが、生憎今の私は単なる放浪人に過ぎない。剣の道からは離れて久しいし、スペルカードなど手にした事も無い。私などと戦うよりも踵を返して紫に殴りこみでもした方が、余程色濃い戦いが出来ると約束しよう」

 妖忌の言葉に鬼は一瞬訳がわからないとばかりに、きょとんと目を丸くする。
 しかして妖忌の言葉の意味を理解すると、呆れたように首を横に振った。

「スペルカード? 何を言ってるんだ、全く。私が何の為にここに出向いたと思ってるのさ」
「? どういう事だ」
「ここは幻想郷じゃないだろう?」

 今度は妖忌が目を丸くする番だった。
 幻想郷じゃない? 何を馬鹿なことを。
 確かに見慣れぬ場所のようだが、ここが幻想郷でなければ何処だというのだ。
 幻想郷が設立して以来、『外』になど行った事も無ければ行こうと思った事すらない、それこそ気付かぬ間に連れ出されぬでもしない限りもう二度と辿り着く事はないだろう。
 そう、例えば眠っている間にスキマに、落とされでも……しない、限、り……。

「何だ、紫から聞いてなかったのかい? ここは幻想郷とは別の場所だってアイツは言ってたぞ、ほら空気も微妙に違っているだろう。ここが外の世界なのか、紫が一時的に作り出した空間なのか、スキマの中に広がる世界なのか、そんな事はわからないし興味も無い。重要なのは幻想郷じゃスペルカードルールが鉄則でも、ここなら遠慮も何も要らないって事さ」

 あの……タヌキ。
 余りに阿呆なスキマ妖怪の手口と、それに見事に引っ掛かった自分自身の情けなさに、思わずぐらりと膝から地に崩れそうになってしまう。
 大方あの杯に睡眠薬でも塗ってあったのだろう、道理で酒に弱くは無い自分がこうも簡単に眠りに落ちてしまった訳である。
 そして妖忌が眠りこけている内に、まんまと紫は幻想郷外へと自分を連れ出したわけだ。
 そこまでするか、と一瞬眉を潜める妖忌だが、八雲紫ならやりかねない、とすぐに自分の頭を抱えて己の愚行を悔やんだ。
 どうやら彼女は本気で、妖忌にあの頃の姿を取り戻して欲しいらしい。

 見渡す限りの草原には目の前の鬼以外、人妖は愚か動物らしき気配も無し、成程どうやら全力を賭して戦うにはうってつけの場所のようである。
 確かに幻想郷でなければスペルカードルールは適用されない、紫の策に嵌ってしまった結果これで妖忌が戦う為の武器、相手、場所と三つまでが揃ってしまう事となった。
 だが、足りない。
 あと一つ、彼を戦いに駆り立てるには最も大切な物が欠けていた。

「悪いが、私の答えは変わらんよ」
「えぇ、なんでさ!? せっかく最高の肴って言うから、酒まで呑んで万全の準備を整えてきたっていうのに! ……何か戦っちゃいけない理由でもあるのか?」
「逆だ。今の私にはお前と戦う理由が無い。わざわざ無益な死合いを行う程、酔狂にはなり切れぬのでな」

 『理由』
 そう、今の妖忌には剣を振るう理由が無い。
 勝てば得られる物も、負ければ失う物も……自分が守るべき物も何一つ今の彼には存在しない。
 如何に他の条件が整おうと、理由の無い戦いなど彼は行おうとは思えなかった。
 戦う意思を見せない妖忌に対して、明らかに不満顔の鬼が唇を尖らせる。

「そりゃ、本当に戦いたくないって言うならやめるけどさ」

 そこまで口にすると、鬼は不機嫌そうな顔のまま妖忌の瞳をまっすぐに覗き込む。
 眼力、とでも言うのだろうか。
 その力強く、全てを映し出すかの如く透き通った栗色の瞳に射抜かれ、気付けば妖忌は目を逸らしてしまっていた。
 恐れ知らずとも思えるその少女は、如何にも鬼らしいはっきりとした口調で妖忌へと問いかける。




「お前、自分に嘘を吐いてないかい?」




 どくん、と。
 大きな音を立てて心臓が跳ねた。
 一度は逸らされた視線が、弾かれたように鬼の少女へと向き直る。
 私が、自分に嘘を吐いている……?
 自分でも気付いていない、『自分』を見透かされたかのような気分だった。
 根拠も何も無い、ただの勝手な憶測に過ぎない筈なのに、何故かその言葉を捨て置けない。
 意識のさらに深く、自分でも到達できない程の深層にある何かが、少女の言葉へと手を伸ばす。
 まるで、自身の存在に気が付いてくれた事に歓喜するかのように。

 たった一言だ。
 少女の放ったたった一言が、常に沈着である筈の彼の心をかき乱していた。

「お前はさ、強いよ。一目見ればわかる。うん、今まで出会ってきた中でもトップクラスだ。だけど同時にこうとも思う―――――私の方が強い」

 対して、少女は。
 妖忌の動揺など気付いていないのか、それとも意に介していないのか。
 腕を組んだまま悠々と、何処までも尊大に言葉を紡ぐ。

「否定したいとは、思わないかい?」

 それは明らかな挑発だった。
 力比べの大好きな鬼らしい、何処までも馬鹿正直で、限りなく酔狂な戦いへの誘惑。
 本来ならば、そのような誘いに乗る妖忌ではない。
 しかし今、妖忌は迷っていた。
 逡巡する余地も無い筈の選択肢を目の前に並べられ、不思議と心は揺れ動いていた。
 先程鬼の少女が呼び起こした彼の中の何かが「奴と戦え」と耳元で叫んで聞かない。
 そのノイズの正体が果たして何なのか、彼自身でもわからなかったが、その言葉はやけに心へと突き刺さる。
 この声は彼女と一戦交えぬ限り消える事は無い、そんな確信めいた予感が妖忌の中にはあった。
 愛剣の鞘を握る左の手に思わずぎゅうと力が篭る。
 久方ぶりに感じるその重みは、『声』に従う為の……鬼と戦う為の手段を彼に与えていた。

 ある意味戦う理由が出来た、か。
 これ以上迷う事に何ら意味は無し、妖忌は意を決したように大きく息を吐く。
 顔を上げれば目の前には鬼の少女の何処までも自信に溢れた笑み。
 少女の強い意志をもった瞳が、彼女の纏う空気が、今まさに一人の男を戦いへと駆り立てる。
 妖忌は左手の楼観剣を腰に挿すと、鋭い目つきで鬼の瞳をまっすぐに射抜く。
 先程までとは違う、静かな闘志の込められた瞳で。

「その挑発、敢えて乗った」

 すらり、と洗練された鞘滑りで妖忌は腰の楼観剣を抜き放つ。
 刀を抜く事すら久方ぶりであったが、愛剣の放つ鈍い光はまるで昨日の事のようにあの戦いの日々を妖忌の脳裏に蘇らせた。
 数回ほど軽く振り、問題のない事を確認した刀を横に構え、妖忌は正面の鬼へと対峙する。
 その様子を目にした、子鬼の表情がぱぁっと明るくなった。

「萃香だ。伊吹萃香!」
「魂魄妖忌、参る」

 示し合わせたわけでもなく二人は互いに名乗りあい、地面に乗せた足へと力を込める。
 老剣士と鬼の少女、外見も中身もまるで正反対な二人の戦いが、今始まろうとしていた。






―――――







「さぁて、と」
 
 うきうきと、楽しそうな様子を隠そうともせずに。
 萃香と名乗った鬼の少女は、今の今まで口にしていた瓢箪を地面に置くと、腰からぶら下げた鎖へと手を掛ける。
 じゃらりと音を立て、三本の鎖とその先に付けられた三角錐、球、立方体の分銅が中空へと持ち上げられる。

 やはり、鎖分銅か。
 鬼の頭上で円を描くその武器を目で追いながら、妖忌は何時でも動き出せるよう重心を低く浅く保つ。
 鎖分銅は殴打や投擲、果ては絞め技までをも可能とする変幻自在の武器だ。
 その変則的且つリーチの長さを活かした攻撃手段は対峙した者を大いに苦しめる。
 しかし反面扱いが非常に難しく、使用する者には確かな技量が必要となる事に加え、間合いに入られた時の攻撃及び防御手段は間違いなく刀に劣る。
 妖忌は極めて冷静な頭で、己の記憶の中にあるその武器の特徴を洗い出して行く。
 多くの者からすれば対策すら知らぬ鎖分銅と言う武器は、歴戦の勇である妖忌にとっては、今まで破ってきた無数の武器の一つに過ぎなかった。

 しかし、彼女の持つそれは余りにも長すぎた。
 長くても物干し竿がせいぜいである鎖分銅の中で、それは悠にその二倍……否、三倍程の長さを有している。
 彼女の能力なのかはわからないが、明らかに先程までよりも伸びているであろう鎖を、鬼は丁度いい長さに絞り悠々と頭上で振り回す。
 先端に取り付けられた分銅が信じられない速度で弧を描き、およそ鎖分銅とは思えない程太い風切り音が妖忌の耳へと突き刺さる。
 その音色だけで、分銅がかなりの重さを持っていると言う事は容易く想像する事ができた。
 しかもそれが三組と言うのだから、とても人間の腕力、技術で扱える代物ではない。
 されど現実に目の前の鬼はそれらを容易く振り回しているのだ、今までの相手と同じ基準で対策を練るのは愚策と言う物だろう。
 妖忌は一度小さく息を吐くと、じりじりと距離を詰めながら、鎖を振り回す萃香の右腕の動きに神経を集中させる。
 そして彼が鬼の間合いに一歩踏み込んだ、その瞬間であった。

「さぁ、行くぞっ!」

 萃香の掛け声と共に弧を描いていた物の一つ、球状の分銅が妖忌目掛けて放たれる。
 分銅の重さに遠心力、それに鬼の力までが加わった一撃が、凄まじいまでのスピードをもって最短距離で妖忌へと襲い掛かる。
 しかし如何に速かろうと、直線的な攻撃ならば妖忌にとって見切るのは容易い、地面を強く蹴った妖忌は第一撃を横にかわしながら一気に萃香との距離を詰める。

「ほいさぁっ!」

 第二撃。
 今度は三角錐の分銅が妖忌の眼前へと迫る。
 先程までより距離が縮んだ分到達も速いが、それも計算の範疇。
 速度を緩めず上半身だけで難なく避けると、最早萃香との距離は約四間、楼観剣を握る腕に妖忌は力を込める。
 ―――――次の一撃の前に仕留める。
 相手が第三撃を用意するまでの僅かな空白。
 そのほんの一瞬の間を突くべく、妖忌は更に鬼へと迫る速度を上げる。
 まさにその瞬間であった。

 鬼は妖忌を近づけまいとするでもなく、後ろに退こうとするでもなく、その一歩を迷わず前へと踏み出した。
 鎖をもっていない左の腕に鬼の怪力を込め、向かってくる妖忌に対して更に『向かう』
 迎撃などと言う生易しい物ではない、それは差し詰め突進であった。
 これには流石の妖忌も虚を突かれた形となった。
 攻撃に対する迎撃はあるだろうと踏んでいたが、己の分銅をかわしながら向かってくる相手に、こうも迷い無く飛び込んでくるとは予想だにしていなかったのだ。
 そして少女が力や技に加えて、これ程までの迅さを持ちあわせていたと言う事も。
 鬼の怪力に推進力を乗せた左の一撃が、カウンター気味に妖忌へと襲い掛かる。

(……誘われたか)

 一旦体勢を立て直そうと、即座に己の勢いを殺した妖忌は体勢そのままに後方へと跳躍する。
 しかしそれを読んでいたかのように、否、事実読んでいたのだろう、萃香は残り最後の一つの分銅、直方体のそれを後方へと飛び退く妖忌へと投げ放った。
 バックステップでの退避を遥かに凌駕する速度の分銅が、轟音を立てて妖忌の後を追う。
 そして同時に、一撃目、二撃目で放られた二つの分銅もまた、鬼の手への戻り際に妖忌の視界の外から後頭部を襲う。
 相手の動きを巧みに利用した、三方向同時攻撃。
 思わず舌打ちをしながら妖忌は身を屈める。
 地面に張り付くようにして分銅をやり過ごすと、すぐさま逃げるように鎖分銅の間合いの外へと飛び出した。
 仕合を開始する前よりもやや長い距離が、二人の間に開かれる。

「へぇ、今のをかわすとはやるじゃないか」
「こちらの台詞だ。まさか三組の鎖分銅をそこまで自在に使いこなす者が居ようとはな」
「これでも昔は技の萃香って呼ばれてたんだ。鬼を力だけの存在だと思わない事だね」
「……肝に銘じておこう」

 成程、これは随分と厄介な相手のようだ。
 再びじっくりと萃香との距離を詰めながら、妖忌は先程からの鬼の動きを振り返る。
 あれだけ扱いが難しいであろう武器を軽々と扱う腕力、技術、そして妖忌へと迫る際に一瞬見せた迅さ。
 どれを取っても一級品、これまで多くの者達と死合って来た妖忌でも、これ程までに弱点の無い相手と対峙するのは初めてだった。

「そんなのんびりしてると、日が暮れるぞっ!」

 加えて胆力まで申し分ないと言うのだから、厄介にも程があるというものだ。
 自ら間合いへと踏み込んだ萃香は、その三種の分銅を次々と妖忌に向けて放つ。
 時には弧を描くように、時には直線状に、そして時には変則的な動きをもって。
 変幻自在な動きで襲い掛かる分銅を、妖忌は楼観剣を降ろしたまま紙一重で避けて行く。

 鎖分銅に対し、刀で防ごうと言うのは非常に危険な行為だ。
 変則的且つ精巧な動きを可能とする熟練者のそれは、受けようとした武器に容赦なく絡みつき、受け手の動きを封じてしまう。
 そうなってしまえば形勢は圧倒的に不利、鬼との力比べの結果など論ずるのも愚かしい。
 それが十二分に解かっているからこそ、妖忌は己の生命線である楼観剣を決して迂闊に差し出そうとはしない。

 防が駄目ならば攻、鬼と分銅を繋いでいる鎖を断つ事が出来るのならばそれが最も効果的な手段だ。
 不規則な動きで宙を舞う鎖を断ち切るのは達人とて難しいが、妖忌の腕ならばそれも不可能ではない。
 しかして彼がそれを行わないのはやはり、萃香の技巧による所が大きい。
 時に斬撃をいなす様にたわませ、時に間合いから逸らす様に引き絞り、彼女の絶妙な鎖捌きは妖忌の攻め気を軽々とかわして行く。
 下手に手を出せば絡みつかれ万事休す、鎖が無防備になる一瞬の隙が見つかればそれを突く事も可能だが、その一瞬の隙が見つからないのではどうしようもない。
 詰まる所防ぐも不利、攻めるも不利、この間合いにおいて妖忌の勝機は存在しなかった。

(危険を伴うが、至仕方あるまい)

 意を決したように呼吸を整えた妖忌は、三角錐の分銅をかわすと同時に再び鬼へと駆け出した。
 先程までよりも更にもう一段階速い、疾風怒濤の勢いで萃香との距離をあっと言う間に詰める。
 こりゃたまげたスピードだ、と感心する萃香だがその表情に焦りの色は無い、たとえ己の分銅を掻い潜られようと、拳で跳ね返せると言う自負がある。
 妖忌が一つをかわす間に残る二つの分銅を引き戻した彼女は、テイクバックの勢いそのままにその内の一つ―――――立方体の分銅を疾走する妖忌の額へと投げつけた。
 正確無比にして恐ろしい威力をもった一撃が妖忌を襲う。

「なっ!?」

 しかし次の瞬間、驚愕の声を漏らしたのは萃香の方であった。
 萃香が分銅を投げつけた瞬間、既にトップスピードかと思われた妖忌の身体が更に加速したのだ。
 それも迫り来る攻撃を避けようともせずに、それどころかまるで分銅にぶつかりに行くかのようにひたすら前へと突進する。
 異常を察した萃香が直ちに分銅のついた鎖を引き絞ろうとするが時既に遅し。
 彼女が手放した鎖を握りなおすよりも一瞬速く、妖忌は分銅を己の間合いへと引きずり込んだ。

 一閃。
 神速の踏み込みからの袈裟斬りが、光の筋を描く。
 相当な重量と硬度を誇るであろう筈の鬼の分銅が、まるでバターのように軽々と斬り裂かれる。
 剣を極めた妖忌だからこそ出来る芸当、萃香が分銅を放ってから次の動作に入るまでの一瞬の隙をついた至近距離からの斬撃。
 一見して無謀に思えたその特攻は、萃香本体ではなく、放られた瞬間の無防備な分銅を狙ったものだったのだ。
 結果まんまと出し抜かれ、己の武器の一つを失った鬼は悔しさに、ぎり、と奥歯を噛み締める。

 そして三つの分銅の重さにより保たれていた均衡、それが崩れた事で生じた鬼の隙を妖忌は見逃さなかった。
 分銅を斬り裂いた次の一歩目には既に妖忌は加速しており、上体の仰け反った鬼へと一気に迫る。
 さしもの萃香とて体勢の崩れた状態で、妖忌の剣撃に対処出来よう筈も無い。
 勝機を確信した妖忌は鬼の体制が整う前に到達するであろう最速の突きを、一切の容赦なく繰り出した。
 あっけないまでに一瞬で、鬼をも倒す楼観剣の刺突が萃香の胸を貫通する。





「……!」





 だが、手ごたえが無い。
 確かに鬼を貫いた筈のその手に一切の感触が残らない。
 空を貫いたかの様なその奇妙な感覚に、思わず妖忌は刀を戻して萃香との距離を取る。

『ふぃー、焦った焦った。本当、大したもんだよお前』

 胸を刺された筈の萃香から、何事も無かったかのような声がする。
 否、何事も無かった訳ではない。
 妖忌の目の前にある『それ』は見た目こそ萃香であったが先程までとはまるで別物、それは細かい粒子の集合体、霧状の何かへと変質を遂げていた。
 その余りに面妖な光景に、思わず妖忌は眉をひそめる。
 先程の突きはどうやらこの霧を突いていたらしい、道理で感触が無いわけである。

「これは幻術か何かか? 鬼の子よ」
『うんにゃ、私の能力『密度を操る程度の能力』の一部だよ。物は密度を高めれば高熱を帯び、密度を下げれば霧状になる。私はその辺自分の意のままに操れるんだ。この能力を利用すれば自分を大きくする事も、こうして霧状にする事も自由自在ってね』
「何とも胡散臭い能力だな。しかし、今まさに対峙している相手にそこまで己の能力の特性を話してしまっていい物なのか?」
『いいさ、知られて困る物でもない』

 萃香の自信に溢れた声に、ふむ、と妖忌は首を捻る。

『特性を知った所で何とする。私の霧は天狗の団扇だろうと吹き飛ばせない。その刀一本で何か出来るって言うならやって見せておくれよ』

 それは挑発でも侮蔑でも無く、単純な彼女の自信の表れであった。
 鬼らしいと言えば鬼らしい、傲慢とも思える萃香の大きな声が周囲へと響き渡る。
 対峙する妖忌はと言えば、そんな萃香の尊大な態度にも冷静沈着なまま。
 焦るでも憤るでもなく、その双眸を閉じたかと思うと、ゆっくりと楼観剣を腰の鞘へと納めた。
 まさか降参する気か、一瞬萃香の脳裏にそのような懸念が浮かぶ。
 しかしそれはただの杞憂に終わったらしい。
 
『戦意喪失、って訳じゃあなさそうだ』

 妖忌の納刀を目にした萃香の霧は、彼の纏う空気から鋭さが失われていない事に、にやりと満足げな笑みを浮かべる。
 そしてすぐさま、やれるものならやってみろと言わんばかりに、霧の形を崩すと周囲に広がりながら妖忌に向けてゆっくりと進みだした。
 つい先程まで萃香の形を保っていた、重厚な白い壁が妖忌の視界に広がっていく。
 まだ距離はあるとは言えその威圧感はかなりのもの、並の人妖ならばこうして迫られただけで恐慌状態に陥ってしまうかも知れない。
 しかして妖忌はまるで萃香の事など意に介していないように、己の集中力を高める事だけに全ての意識を割く。
 剣の柄を右手で、鞘を左で軽く握った状態のまま、静の空間を己の周囲に創り上げて行く。

 妖忌のその構えに萃香は心当たりが合った。
 居合い。
 刀を鞘に納めた状態から、抜き放つと同時に一撃を加える技術。
 本来ならば奇襲対策、或いは逆に奇襲する際に用いられる事の多い妖忌のその構えに、萃香は思わず頭に疑問符を浮かべる。

『おいおい、妖忌。それでいいのかい? 本当にそれで私の霧に対抗出来るって言うのかい?』
「……」

 妖忌は応えない。
 その代わりと言わんばかりに顔を上げると、氷の如き冷たい瞳をもって霧となった萃香を射抜く。
 妖忌の構えに対しては未だ半信半疑の萃香だが、少なくとも彼が本気で霧の自分を倒そうとしている事だけは十二分に理解出来た。
 そしてそれだけ理解できれば、彼女にとっては十分なのだ。
 萃香は再び進行を開始し、居合いの構えを崩さない妖忌へとじりじりと迫って行く。
 目の前の男の技、その全てを凌駕する為に。
 彼の瞳に宿る確かな自信、それを完膚なきまでに粉砕する為に。
 
 二人の戦士は互いに己が勝つ事のみを信じて、勝負の時を待つ。
 居合いと霧と言う一見するとまるで噛み合わない二つの力、その激突は最早目の前であった。 
 霧はいよいよもって妖忌の眼前へと迫り、彼の視界を覆い尽くす。
 残り数拍もあれば萃香が妖忌の身体へと到達する、その状況においても妖忌はぴくりとも動かない。
 ただただ静寂に包まれたまま、霧となった鬼をその氷の瞳に映し続ける。
 来ないのならばそれもまたよし、こちらから仕掛けてやるまでだ、そう言わんばかりに萃香は霧状のまま攻撃態勢へと入り―――――







 刹那、鬼の視界から妖忌の右手が消えた。

「かぁっ!」

 大気が裂けた。
 その一瞬、果たして何が起きたのか、萃香にはまるで理解できなかった。
 わかるのは、天狗の風ですら防ぐ筈の己の霧の一部が、文字通り跡形も無く抉り取られている事のみ。
 考えるまでも無く要因は唯一つ、目の前で刀を抜き放った魂魄妖忌の仕業以外に有り得ない。
 しかしておよそ刀の一撃とは思えぬ程に広範囲の霧を薙ぎ払われた事で、萃香の思考回路には混乱が生じていたのだ。
 そして動きの止まった無防備な敵を妖忌が見過ごす筈も無い、老剣士は間髪居れずに双手で握った刀を振り上げる。
 日差しを受けた楼観剣が、刀身を纏うかの如き青白い色彩を放つ。
 その先程までとは明らかに異なる刀の輝きを目にして、ようやく萃香は理解した。
 あの瞬間、果たして彼が一体何をしたのかを。
 魂魄妖忌の居合いとは、どういう物なのかを。

 それは奇襲対策の技術などではなく、まさしく一撃必殺の極意。
 己の霊力を注ぎ込む事により鞘の内側にて楼観剣の威力を極限まで高め、抜刀と同時にその全てを開放する、妖忌にとっての最大級の大技であった。
 一度抜き放たれたとは言え、未だ霊力を帯びた青白い刀がゆらりと不気味に宙を舞う。
 あの状態の楼観剣で思い切り斬りつけられては、萃香の霧は愚か空間すら真っ二つに切り裂かれてしまうだろう。
 先程と同じだけの一撃を放つべく、再び集中力を極限まで高めた妖忌の瞳が大きく見開かれる。
 最早萃香に次の手を考える猶予は残されていなかった。

『も、戻れっ!』

 号令と共に辺りに舞っていた霧が一箇所に集まり、再び伊吹萃香を形作る。
 そしてそれを待っていたかのように、妖忌もまた全身から力を抜くと、振り上げた刀を己の腰の高さへゆっくりと降ろした。
 爆発寸前であった緊張感が収縮し、二人は再び戦いを始めた時と同じだけの間合いで対峙する。

 どうやら思ったよりも堪えていないようだ。
 妖忌は視線の先で大きく嘆息している鬼を見ながらそんな事を思う。
 鎖分銅、そして霧化。
 自信をもっていた戦法が次々と破られたのだ、もう少し狼狽してもよさそうな物だが。
 そうなってくれれば御しやすい、そんな妖忌の願いも虚しく、むしろ鬼は自分の技が破られた事によりその瞳に更なる闘志を燃やしていた。

「やってくれるねぇ」
「やらなければ、やられるからな」
「そりゃそうだ」

 特に意味も無い掛け合いを交わしながら、鬼はくっくと楽しそうに笑う。
 その曇りの無い表情を見るに、どうやら彼女にはまだまだ余力が残されているらしい。
 やれやれ、本当に骨の折れる相手だ、と妖忌は心から溜息を吐いた。
 対してそんな相手の気苦労など何処吹く風、享楽の真っ只中に居る萃香は、相も変わらず自信に溢れた表情で妖忌を睨み付ける。
 そして身体の前で組んでいた腕を大きく広げると、その能力をもって大気中から何かを萃め始めた。
 次の瞬間、全身を光が包み、少女の小さな身体が見る見る内に巨人のように膨れ上がっていく。

「霧の次は巨大化か。全くやりたい放題だな」

 妖忌は呆れたように吐き捨てながらも、再び刀を構えて臨戦態勢を整える。
 ただ身体が大きいだけならば妖忌にとって脅威にはなりえない、それこそ自分の悠に十倍はあろうかと言う巨大な妖すらこれまで難なく倒してきた妖忌だが、今回の相手はあの底の知れない子鬼、一瞬の油断がまさに命取りとなる。
 決して驕りはせず、されど過度の萎縮もせずに、妖忌は目の前で更に大きくなっていく萃香を仰ぎ見ながら淡々と自分と相手の長所短所を整理して行く。
 より有効なのは先手か後手か、彼の頭の中で巨大化した萃香との戦闘シミュレーションが始められようとしていた、まさにその時であった。

「やめた」

 鬼の口から響き渡ったのは、何とも気の抜ける一言。
 既に妖忌の数倍の大きさとなっていた筈の少女の身体が、ぼふん、とこれまた間抜けな音を立てて元通りとなる。
 あれだけ自信満々と言わんばかりの表情を見せておいて、直前になって「やめた」と肩透かし。
 余りにも気まぐれな少女の言動に、思わず妖忌の肩から力が抜けた。
 一体何がしたいと言うのだ、この子鬼は。
 苦い表情を浮かべながら心の中でごちる妖忌に向けて、姿相応の大きさとなった萃香は説明するように言葉を紡ぐ。

「別に気分で言ってる訳じゃない、私なりの冷静な判断って奴さ。あれだけの速さと攻撃力を兼ね揃えているお前相手に、大きくなったところで無防備な足をぶった切られてそれで終わりだ。残念だけどお前には私の能力は通用しない。……いやはや、こりゃ流石に参ったね」
「それは打つ手無し、と言っているのか?」
「んー、ある意味ではそうかも知れない」

 一聞すると弱気なようにも思える彼女の言葉だが、鬼の顔には諦観は愚か焦りの色さえ見受けられない。
 未だ自身の勝利に一片の疑いすら持たない萃香は、先程までの悪戯っぽい笑顔とはまた違う、何処か大人びた薄い笑みを浮かべるとゆっくりとその瞼を閉じた。
 次は果たして何をするつもりなのか、一瞬緊張を走らせる妖忌だが、萃香の身体からはすっかり力が抜けている。
 二人を包み込む奇妙な静寂の中、次に萃香がとった行動は妖忌の予想外の物だった。




「許せ、妖忌」

 鬼の口から出てきたのは謝罪の言葉。
 妖忌は眉をひそめるが、萃香は気にせず先を続ける。

「お前程の奴相手に、随分失礼な戦いをしちゃったな。どうやら私は、長く真剣勝負から離れている内に自分の戦い方を見失っていたみたいだ。……いや、今回に至って言えば敢えて思い出すまいとしていたのかも知れない。何て言うかさ、ここまで楽しい戦いなんて久しぶりだったから、本当に久しぶりだったからさ。この時間を出来るだけ長く続けたいなんて、そんな事を思っちゃったんだろうなぁ、きっと」

 しみじみと、双眸を閉じたまま鬼は言葉を紡いでゆく。
 その様子は妖忌に対して弁解をしていると言うよりも、先程までの自分自身を鑑みているかのようであった。
 戦いの最中とは思えない程に穏やかな風が頬を撫でる中、鬼はこれまでの己の戦い方を振り返りその稚拙さを猛省する。
 そうしてひとしきり自問自答のような呟きを口にした後。
 子鬼はまるでスイッチを切り替えるかのように一度大きく息を吐くと、ゆっくりとその目を開いていく。
 再び闘志に染まった栗色の瞳が対峙する妖忌の姿をはっきりと映す。

「小細工は、終わりだ」
 
 空気が変わった。
 武器を持つ訳でもなく、能力を使う訳でもなく、ただその全身に溢れんばかりの闘気を纏わせた鬼は、たった一言をもって大気を震わせる。
 その重圧を肌で感じ、妖忌は瞬時に理解した。
 鎖分銅でも、霧化でも、巨大化でもない、そんな物は彼女にとっては総じて小細工でしかない。
 伊吹萃香の本領は『こちら』であると言う事に。
 そう、かつて彼女が最も得意としたのは、己の拳のみを武器とした正面きっての戦いだった。
 打つ手など始めから必要無い、ただ純粋に相手を上回ればいい。
 そんな実に鬼らしいシンプルな考えのもと、彼女は勝利の山を築き、気付けば山の四天王とまで呼ばれるようになっていたのだ。
 時代の変化、真剣勝負の消失によって忘れられた己の真の戦い方、妖忌との戦いを経てそれを取り戻した鬼の少女は、今度こそ己の全てをぶつけるべく拳に力を込める。

 幾度も死線を潜り抜けてきた妖忌の勘が、『危険』と警鐘を鳴らす。
 楼観剣を握るその手にじっとりと汗が滲む。
 常勝不敗の妖忌をもってして全身を駆け巡る緊張を隠せない、それ程までに目の前の鬼の放つオーラは圧倒的であった。
 されど彼もまた戦いに生きた男、今更退いて戻れる道も無し。
 覚悟を決めたかのように一度深く呼吸を行うと、下段の構えをもって萃香の攻撃を迎え撃つ。
 その構えにからは既に一切の余計な力みが消え去っていた。
 それを待っていたかのように、鬼はにぃっと唇の端を吊り上げる。




「行くぞ、妖忌!」

 萃香は大声で好敵手の名を叫ぶと同時に、力を込めた右足で地面を思い切り蹴った。
 まるでミサイルのような猛烈な推進力を与えられた少女の小さな身体が、眼前の風を切り裂いていく。
 あっという間に妖忌の眼前まで辿り着くと、その左足をもって思い切り大地を踏みしめる。
 狙いは素早い踏み込みからの右ストレート。
 非常に単純だが、並の人妖では決して対応できないであろう高速の攻撃が妖忌を襲う。
 しかし、並の相手ならばまだしも妖忌を倒すにはその攻撃は馬鹿正直すぎた。
 直線的な鬼の動きを完全に見切った妖忌は、手にした楼観剣を迫り来る右拳へと差し出した。
 鬼の拳とまともにぶつかりあっては楼観剣とて分が悪い、衝撃を受け流すべく妖忌は愛剣に角度をつけて萃香の一撃を受け止める。
 およそ少女の体格には見合わない重みが楼観剣へと圧し掛かるが、上手く相手の力のベクトルを横へと逸らしつつ、身体をクッションのようにして鬼の剛力を殺して行く。
 最後に勢いの死んだ拳を外側へと弾いてやると、萃香は思わず体勢を崩してよろめいた。

 好機。
 萃香が体勢を崩したのを確認すると、すぐさま妖忌は攻勢へと転じた。
 相手の攻撃が終わった瞬間、後の先を狙ったカウンター攻撃。
 鬼の拳を弾いた楼観剣をそのままの勢いで振りぬくべく下半身へと力を込める。
 無防備な萃香へと向けて、身体を捻るようにして強引に袈裟斬りの一撃を繰り出そうとした……まさにその時であった。

(馬鹿な……!)

 眼前に広がる光景に、妖忌は己の目を疑った。
 確かに体勢を崩していた筈の萃香は、既に何事も無かったかのように先程と同じ体勢を整え終えていた。
 大地を踏みしめ、重心を落とし、今一度先程と同じ一撃を放つべくその右腕に力を込める。
 それは妖術でも幻術でも、ましてや彼女の能力でもない、ただ単純に萃香の身体能力の為せる技。
 彼女からしてみれば特別な事は何もしていない、ただ攻撃を弾かれてから素早く元の体勢を整えただけだった。
 ただそれだけで、綺麗に体勢を崩された萃香は万全の状態で攻撃をいなした妖忌よりも早く、次の攻撃への準備を終わらせていたのだ。
 言葉にするは容易、しかしそれがどれ程恐ろしい事かは妖忌の動揺が物語っている。
 ここまで完全に相手の体幹を崩しながら、攻勢に転じられないばかりか、逆に第二撃を許すなど予想だにしなかった。
 技のキレ、切り替えしの速さにおいて絶対なる自信を持つ彼をもってして、鬼の身体能力は全くの規格外であったのだ。





「もらったぁっ!」
「ぐっ……!」

 再び放たれた鬼の拳を、かろうじて間に合った楼観剣で受け止める。
 不完全な体勢ではとても萃香の攻撃は受けきれないが、妖忌はその一撃の力を上手く利用して後方へと飛び退いた。
 ある程度予想はしていたが、どうやら真正面からのぶつかりあいでは完全に形勢は不利らしい。
 空中でくるりと一回転をしながらはやる心を落ち着けると、着地と同時に仕切りなおすべく次の一手を考える。
 しかし、そうは問屋が卸しても伊吹萃香が卸さない。
 萃香は再び加速すると、妖忌が迎撃体勢を整えるよりも早く二人の間に開いた距離を一気に詰める。
 どうやら妖忌が立て直す前に、一気にケリをつけるつもりらしい。
 
 小さく舌打ちをしながら、すぐさま妖忌は迫り来る鬼を迎撃せんと横薙ぎ一閃。
 踏み込みこそ不完全だったが、その一撃は妖怪を屠るにも十分な鋭さをもって萃香へと襲い掛かる。
 しかし萃香は怯まない。
 差し出した右腕で楼観剣を受け止めると、加えられる力に抵抗する訳ではなく、むしろ従うように身体ごと回転させて斬撃をやり過ごす。
 『技の萃香』の名に相応しい流れるような防御、そしてすぐさま攻勢へと転じるように、残された回転力を利用しての渾身の後ろ回し蹴りを放った。

「ぬぅっ!?」

 間一髪。
 ギリギリの所で妖忌は地面に転がり、萃香の蹴りは轟音を立てて空を切る
 その音を聞いただけで今の一撃に恐ろしい威力が込められていた事が理解できる、もしもまともに喰らっていればそれだけで妖忌にとっては致命傷となっていただろう。
 すんでの所で難を逃れた妖忌の背筋に、ぞくりと冷たい汗が走る。
 このまま攻められ続けては不味い。
 すぐにでも立て直しを計りたい妖忌だったが、萃香はその間を与えない。
 振り上げた足でそのまま地を踏みしめると、転がり込んだ妖忌の身体目掛けその鉄拳を振り下ろす。
 妖忌はこれまた紙一重でかわすが、避けた先には執拗なまでに鬼の追撃が待っている。
 留まる事を知らない萃香の猛攻に、まるで流れを自分の方向へと引き寄せる事ができない。
 
「どうした! 守ってばかりじゃ勝機を逸するぞ!」

 そう声を上げる間にも、萃香は攻撃の雨を妖忌へと降り注がせる。
 避け続けようにも如何せん鬼の動きの質が高すぎる、一見力任せなようで針の穴を通すかの如き萃香の正確無比な攻撃は、妖忌の鉄壁の守備を確実に崩して行く。
 一瞬の隙を突いて反撃に転じても、彼女は持ち前の技術で難なくそれを捌き、逆に攻めに出た事で生じた隙に容赦ない鬼の拳を叩き込む。
 詰まる所、攻めるも守るも妖忌にとって状況は悪くなる一方、抜け出そうにも抜け出せない蟻地獄にはまってしまったような物であった。

 そんな蟻地獄の中、妖忌は自分が徐々に腹が立って来ている事に気が付いた。
 襲い来る猛攻をかろうじてかわし、地べたを転がりまわる度に心の中に苛立ちが募っていく。
 萃香に対してではない。
 彼女の攻撃に対して全く対処出来ず、防戦一方の戦いを強いられている自分自身の不甲斐なさに対してだ。
 
 確かに萃香は相当な強者、決して簡単に己の戦いをさせてもらえる様な相手では有り得ない。
 しかし今妖忌が主導権を完全に手放してしまっているのは、萃香の強さ以上に自分自身の動きに依る所が大きかった。
 かつて羽のように軽かったその身体は鉛をぶら下げたように重く、必殺とまで呼ばれた剣捌きも錆付いて鬼相手には使い物にすらならない。
 こうして真の強者と戦ってみれば、白玉楼に居た頃に比べて自分がどれ程衰えてしまったかが良くわかる。
 先程までの戦闘ではまだ誤魔化しが効いた、だがそれは結局萃香が己の力を出し切れていなかっただけだ。
 今のように相手が総力を上げて攻めてくればどうだ、ただ暴風に振り回されるだけで有効な手一つすら打てず、地べたに這い回りながら己の敗北を先延ばしにする事しかできない。
 老いた事による身体能力の低下、数年のブランクによる腕の鈍り。
 無論それらの影響は妖忌と言えども存在したが、何よりも彼の剣を錆付かせていたのはもっと別の物であった。

(何をしているのだ、私は……)
 
 それは拭い切れない己の迷い。
 この期に及んでも消し去れない剣を振る事への戸惑いが、最も踏ん張らなければならない所で頭の中をよぎる。 
 
 妖忌がこれまで行ってきた戦いは皆、退けない訳、負けられない理由があった。
 彼の剣には主である西行寺幽々子、孫である魂魄妖忌、そして魂魄家の名……守るべき大切な物の重みが乗せられていた。
 だからこそ彼の一撃は重かった、だからこそ彼は剣を振るう事に一切の迷いを抱かなかった。
 多くのものを背負っていた頃の妖忌は、守るべき物全てを己の強さへと変えて剣を振るっていた。
 だがしかし、今の彼は違う。
 最早彼にとって守るべき物など何一つ無い。
 今彼と鬼との間で繰り広げられているこの戦いは、彼にとって負けられない戦いでも何でもない。
 勝てども負けども何ら意味を為さない、ただ力比べの大好きな鬼に申し込まれただけの酔狂な遊びに過ぎないのだ。
 白玉楼のお庭番となった日から今日まで、このような無益な戦いを妖忌はずっと避けようとして来た筈なのに。
 一体何故この日に限り鬼の誘いを受けてしまったのか、あの時……否、未だ頭の中で『戦え』と鳴り響くこのノイズの正体が一体何なのか、どうしてもわからない。
 理由無く振るう剣に対する迷いが隙を生み、踏み込みを鈍らせ、身体を重くする。
 意味があってこそ剣を振れた男は、意味の無い戦いにおいて余りにも脆弱だったのだ。

 そんな彼を迷いごと吹き飛ばすかのように、萃香渾身の右アッパーが唸りを上げて妖忌の身体に迫る。
 最早その一撃を受けきれる程、妖忌に余裕は残されていなかった。
 拳と刀がぶつかり合うと同時に、甲高い金属音を立てて楼観剣が空高く舞い上がる。
 妖忌は敗北を意味するその光景、愛剣が宙を舞う姿を疲れの隠せない目で見送り、そのまま地面へと膝をついた。
 結局、己の目指した剣の道とは一体なんだったのか。
 人生の大半を費やしてひたすらに強さを求め続けて、その結末がこの有様だ。
 自分の大切な物は全て彼の元から離れ、残されているのは使い道の無い剣の腕と虚しさだけ。
 言いようの無い虚脱感が、妖忌の背中へと圧し掛かる。

「つまらん」

 落胆したかの如き萃香の声に緩慢な動作で顔を上げれば、そこにあったのは先程までの笑みを失くした伊吹萃香の無表情。
 その失望を隠そうともしない様子に、妖忌は力無い苦笑で返す事しか出来ない。

「不甲斐ない戦いですまない。お前の期待を裏切ってしまったな」
「……そうじゃない、そういう事を言いたいんじゃない」
「なに?」

 思わず聞き返す妖忌に向けて、萃香は寂しげな表情のまま首を振る。

「私がつまらんと言っているのは、お前が何時までも迷ったまま剣を振っている事。これだけ互いの力の均衡した、己の全てをぶつけられる相手との仕合だって言うのにさ、お前がちっとも楽しそうに剣を振るわない事だよ」

 楽しそうに剣を振る……?
 妖忌には一瞬萃香の言葉の意味が理解できなかった。
 否、何を言っているかは理解していたが、それを自分に求める意図がさっぱりわからなかった。
 楽しんで剣を振るなど、彼にとって最も相応しくない行為な筈なのだから。
 確かに伊吹萃香と言う少女は純粋に戦う事自体に喜びを見出せるのかも知れない、鬼とはそういった享楽主義な種族だ。
 しかし魂魄妖忌はそうではない、理由があってこそ戦いに身を投じられる現実主義者。
 魂魄妖忌と伊吹萃香は根本からしてまるで違う存在なのだ。
 そう、まるで違うと解かっている筈なのに。
 どうしてか、少女の言葉に胸が張り裂けそうな程に苦しくなる、ノイズが一層激しく頭の中で鳴り響く。
 目の前で仁王立ちをしている少女の姿が、やけに大きく見えて仕方が無い。
 小さな巨人伊吹萃香は、そのまっすぐな瞳を向けたままはっきりと言葉を紡ぐ。




「断言してやる、お前は自分に嘘を吐いてる」

 再び妖忌の心臓が大きく跳ねる。
 否定しろと理性が叫ぶが、『有り得ない』とその一言を発する事ができない。
 少女の大きな瞳はまるで、妖忌ですら知らない彼の奥深くを覗き込んでいるようだった。

「何を根拠にそんな事を……」
「お前の剣がさ、そう言ってた。何時までも自分を偽るのは辛いって。……お前だって本当はわかってるんだろう?」

 地に投げ出された楼観剣をその手に拾い上げると、萃香はそれを握り締めた拳で妖忌の胸を軽く叩く。
 彼女の握られた拳に一切の迷いは見られない。
 純粋この戦いを楽しみ、そして勝利を手に入れる、そんな少女の何処までも強い意志が滲み出ている。
 受け取れ、仕切りなおしだ。
 拳伝いに鬼の無言の声が聞こえた気がした。
 
 嗚呼どうしてだ……妖忌は自らに問いかける。
 どうしてただの少女である筈のその姿がこうも眩しく見える。
 直視出来ない程のその眩さに、たまらず妖忌は逃げるように下を向いてしまう。
 
(眩しい?)

 妖忌の頭の中に、何かが引っ掛かった。
 思えばこれと同じような光景を、自分は何処かで見た事がある気がする。
 そうだ、稚拙でしかない筈のそれがやたらと眩しくて、目に刺さって、あの時私は思わず背を―――――
 そこまで考えた所で、自分の胸に置かれているその手が視界に入り、妖忌ははっとした。
 彼が目にしたのは、ここに居る筈の無い、他ならぬ『彼』の腕。
 慌てて目の前の少女に向けて顔を上げると、彼の視線の先で佇んでいたのは伊吹萃香では無くなっていた。




「私達は多分似た者同士だ」

 それは幼き日の自分自身。
 あの夢の中で力任せに剣を振っていた少年『魂魄妖忌』が楼観剣を差し出しながら、その真っ直ぐな瞳を彼に向けていた。
 それが萃香の見せた幻術なのか、はたまた自分が見続けている夢なのか、そんな事は最早妖忌にとってはどうでもいい問題だった。
 ずっと目を逸らしてきた過去の自分が今、目の前に立っている。
 それだけが今の彼にとっての重大な事実だった。
 何故か動揺は少なかった。
 自分でも不思議に思うほど落ち着きを保ったまま妖忌は己と向かい合う。
 まるで妖忌の心を写したかのように静寂が辺りを包み込む中、少年『魂魄妖忌』は少女『伊吹萃香』の言葉を口にする。
 
「結局さ、今私達がやってるのは傍から見たらただのお遊びかも知れない。いや、私だってそう思う。勝っても何かを得られる訳じゃない、負けても何かを失う訳じゃない、ましてや何かを守るためとかそんな高尚な物でなど在る筈がない。本当にただただ力をぶつけあい、優劣を競うだけの幼稚なお遊びだ」
 
 聞こえてくる言葉を一つ一つ噛み締めながら、妖忌は己の過去へと目を向ける。
 理由があってこその戦いだと、守るべき物があってこその剣の道だと、今日この日までそう信じていた。
 それはスペルカードルールが制定されるよりもずっと前、白玉楼に仕えていた彼が思い描いた御庭番としてのあるべき姿。
 御庭番として幾度となく死合いを繰り広げる内、彼は何時の間にか立場で剣を振るうようになっていたのだ。

「だけどさ、私は勝ちたい! 幼稚でもいい、何も得られなくてもいい、ただ純粋にお前って言う強い奴に勝ちたいんだ! お遊び上等、楽しまなくて何とする! 私は今義務とか体面で拳を振るっているんじゃない、他ならぬ自分の為に自分の意思で、自分が勝ちたいからこうして必死で挑んでいるんだ!」

 伊吹萃香の、少年魂魄妖忌の、心からの主張が妖忌の頭に鳴り響く。
 ただただ純粋に剣を振っていた頃の自分自身が、記憶の中に蘇っていく。
 そうだ、自分は白玉楼に仕えてからこれまでずっと御庭番と言う立場を誇りとして、守るべき物の為に剣を振ってきた。
 だが、自分が白玉楼の門を叩くよりも更にずっとずっと昔。
 剣の道を進もうと誓ったあの日、己の心の中に在ったのはどんな想いだったろう。
 大切な何かを守る? 御家の名を上げる?
 そうではない、自分が剣を志した理由はもっとずっと単純な物だった筈だ。

 ……ただ純粋に剣を振る事が楽しくて仕方がなかった。
 ……自分が愛した剣で誰にも負けたくないと強く思った。
 剣の道に身を投じた動機など、たったそれだけだったのだ。
 それだけで、十分だったのだ。

 初めて握った真剣の重さに驚いた事。
 ひたすらに剣を振り続け、手の皮がずるずるに剥けてしまった事。
 雨の中稽古を続けて風邪を引いてしまった事。
 仕合に負け、悔しさに涙を流した事。
 初めて父から一本を取り、飛び上がって喜んだ事。
 全部すべて、今ならば鮮明に思い出せる。
 辛い事も苦しい事も山ほどあった、大怪我をした事も一度や二度ではない。
 それでも逃げ出さなかったのは単純に剣を愛していたから、本当に剣を振る事が楽しくて仕方がなかったからだ。
 そうだ、難しい理由など必要なかった。
 そんな物がなくても自分は笑って剣を振れていたではないか。
 どうして……どうして、こんなにも簡単な事を忘れてしまっていたのだ、私は―――――。

 遥かなる時の中で失くしてしまっていた、純粋な剣への想いが妖忌の中へと蘇る。
 伊吹萃香の、自分自身の力強い声が、知らず知らずの内に作り上げていた『自分の在るべき姿』と言う外殻を壊していく。
 最早守るべき立場など存在しない、今目の前では確かに、自分がもっとも大切にしていた在りし日の想いが彼を待っていた。
 かつて他ならぬ彼が携えていた、眩いばかりの笑みをもって。
 その姿をもう、直視できないとは思わなかった。

「お前は違うのか、魂魄妖忌!」

 少女の力強い声が世界に響き渡る。
 幼き日の幻影が消え去りっていき、萃香と差し出された楼観剣だけが妖忌の視界に残る。
 少女は笑っていた。
 先程の幻影と瓜二つな子供のような無邪気な笑みを携え、妖忌の言葉を待っていた。
 彼女は誘っているのだ。
 これ以上自分を偽るな、私と共に戦に酔えと。
 
 差し出された楼観剣を、妖忌は右の手でゆっくりと受け取った。
 こうして愛剣を見据えてみれば、それだけで過ぎ去っていった死合の数々が脳裏へと蘇る。
 御庭番として戦いに生きた、守るべき物の為に戦った過去を決して否定はしない。
 負けられない理由を背負い、並み居る猛者達と死闘を繰り広げたあの日々は、彼の生を間違いなく満たしていた。
 ならば、この戦いは?
 守るべき物も、負けられい理由も何一つ存在しないこの無益な戦いは、自分にとってどうでもいい物なのか?
 否、そうではない。
 今ならば、はっきりとそう答えられる。

 ―――――勝ちたい。
 己の心の奥深くで、獣が声を上げるのが聞こえる。
 先程から心を乱してやまなかったノイズが、今は穏やかな風音のようにやけに心地よく心に響き渡る。
 ようやく理解できた気がした。
 この心に鳴り響く声は、ノイズなどではない。
 萃香と出会った時からずっと、戦いを求めて叫び続けているこの獣こそが、妖忌自身の本心だった。
 知らぬ間に己の中に作り上げてしまった立場や体面、使命の鎖に押しつぶされてしまった、魂魄妖忌そのものであった。

 鬼の言う通りだった。
 始めから意味など必要なかった、魂魄妖忌と言う男はずっと剣を振るう事自体を狂おしい程に愛していたのだ。
 そんな簡単な事を彼は長い時の中で忘れ、何時の間にか己の本心すらノイズと思うようになってしまっていた。
 多くの者の命を奪った彼は、気が付けば自分自身すら殺していた。
 しかし今は。
 今はただただ純粋に剣を振るいたいと思えた、目の前の少女から勝利を得たいと思えた。
 立場も体面も使命も。
 全身を纏っていた余計な錆がぼろぼろと剥がれ、本来の自分が露になって行く。
 それを剥がしてくれたのは間違いなく今回の仕合相手である、伊吹萃香だった。
 何故彼女は自分ですら気付けなかった本心を見透かす事が出来たのか、一瞬考えそうになるがすぐに止める。
 そんな事、目の前で笑う伊吹萃香と言う名の少女をよくよく見れば考えるまでもなかったから。
 何ていう事はない、伊吹萃香は魂魄妖忌を映す鏡だった。
 正反対の筈な二人はその実、何処までも似たもの同士であったのだ。

 くくっと。
 妖忌の口から、久方ぶりに心底楽しそうな笑みが漏れる。
 その様子はまるで最高のおもちゃを前にした子供のよう、齢千を超える身と言うのにまるで湧き上がる興奮を抑え切れない。
 彼の目の前に在るのはこれまで戦って来た中でも最強と思える敵、最高と思える勝負。 
 幼稚でもいい、酔狂でもいい、この無益な戦いに己の全てをぶつけたい。
 妖忌の瞳に最早迷いの色は残されていなかった。




「愚問なり伊吹萃香! この魂魄妖忌齢千余りにして、これ程まで勝ちに執着した仕合は初めてぞ!」





 開放された獣が、己の心のままに吼える。
 その言葉を聞くや否や、萃香はこみ上げて来る何かを耐えるかのように、くしゃっと歪んだ笑みを浮かべた。
 自分の鏡のような存在である強敵の再起、そしてそんな存在と死闘を繰り広げられると言う事が、少女もまた言葉に出来無い程に嬉しかったのだ。
 誰よりも戦いを愛する剣士と鬼、そんな二人が今、戦に酔う。
 どちらからでもなく拳を軽くぶつけ合うと、二人は勝負を仕切りなおすべく再び距離をとる。
 それは二人の戦いが始まった時と、丁度同じだけの距離。
 しかし彼らの闘志は先程とは比べ物にならない程に燃え上がっていた。

「いざ、尋常に勝負」
「ああ! 酔狂に行こう、妖忌!」

 そう口にすると同時に、萃香は再び妖忌に向けて突進する。
 異常とも思える脚力により前へと進むその身体は、一度は開いた標的との距離を見る見る内に縮めていく。
 それはまるで先刻のダイジェストを見ているかのような光景だった。
 違ったのはここからだ。
 先程は相手の到達を待っていた妖忌が、今度は向かってくる萃香を目標に走り出した。
 互いに距離を縮めあう事で一気に互いの身体が迫る中、二人はまるで正面衝突を待つかのように一切の速度を緩めない。

 妖忌の狙いはリーチの差を活かした突きの一撃。 
 先の先を制し、敵の拳が到達するよりも速く一瞬で勝負を決める事だ。
 迷いの消えた神速の踏み込みからの、強力無比な刺突が彼の右手から繰り出される。
 しかし鬼もその攻撃パターンは重々折込み済みだった。
 首元へと迫る楼観剣を拳で難なく払い上げると、突進の勢いを殺さずに左拳でのボディーブローを放つ。
 刀を弾かれた妖忌にそれを受ける事など出来る筈がない。

「おおおおっ!」
「かっ!?」

 考えるよりも先に身体が動いた。
 強引に身体を捻りながら振り上げた妖忌の膝が、鈍い音を残し身長の低い萃香の顔面を捉える。
 無理な体勢からの、それも剣ではない生身の一撃、しかし意表を付かれた形となった萃香は無意識の内に後ずさった。
 その一瞬の動揺こそ、妖忌にとっての活路。
 振り上げた左足でそのまま一歩前に踏み込むと、上段から一息に刀を振り下ろす。

「そう、来なくっちゃなぁ!」

 萃香はすんでの所で身体を回転させてその斬撃を避けると、そのまま裏拳で妖忌の側頭部を狙う。
 妖忌もまた何とか身体を屈めてそれをかわし、すぐさま反撃の一閃を萃香へと向ける。
 一撃必倒の威力をもった攻撃が、絶えず二人の間で交錯する。
 互いに一歩も退かず、己の全てを相手へとぶつけるべく死力を尽くす。
 彼らが今行っているのは、まさに戦と呼ぶに相応しい互いの命の削りあいだった。

 ひたすらに愉快だった。
 ずっと忘れていた懐かしい感覚が妖忌の全身を駆け巡る。
 攻撃を一つかわす度、剣を一度振るう度、自分の身体が軽くなっていくのがわかる。
 剣を重くしていた錆も鎖も何時しか消え去り、そこに在るのは本能のままに戦う狂戦士二人と、酔狂な戦が一つのみ。
 それだけで十分だった、それ以外に必要な物など一体何があるというだろうか。
 この一時よりも愉快な物など果たして何があるというのか!
 互いに何処までも真っ直ぐで純粋な笑顔を携えながら。
 死すら隣合わせの刹那の時間を、二人はただただ全力で駆け抜けていた。 

 





―――――







 二人の戦いは熾烈を極めた。
 妖忌が刺突の嵐を放てば、萃香はその悉くをかわし。
 萃香が渾身の拳を振りぬけば、妖忌は楼観剣でそれをいなす。
 一切の加減の無い必殺とも思える技を二人は繰り出し、互いに紙一重で避けて行く。
 永遠に続くとも思える力と技の応酬。
 どちらが強いのか、それを決める為だけの互いの意地のぶつかり合い。
 全力で命を燃やすこの一時が果てしなく幸せで、何処までも愛しかった。

「はぁ……っ、はぁ……っ」

 だからこそ口惜しかった。
 一旦距離をとった妖忌は、肩で呼吸をしながらその唇を噛み締める。
 全ての力を解き放った妖忌と萃香の戦いは、まさに互角の勝負だった。
 始めから出し惜しみ無しの全力投球、ペース配分など考えていては一瞬で喰われる程の拮抗した仕合、それは残酷な結末を妖忌に突きつけようとしていた。
 呼吸が乱れたまま落ち着かない。
 一度は軽くなった筈の身体が、再び鉛をぶら下げたかのように重くなる。
 萃香もまた呼吸こそ荒くはなっていたものの、未だ体力の限界までは程遠い。
 対して妖忌の身体は既に限界を間近に控えていた。

 老いだった。
 如何に剣を磨こうと、精神を鍛えようとどうしようもない、歳を重ねた事による体力の衰えが妖忌を蝕んでいた。
 このまま打ち合いを続ければ、間もなく妖忌は体力を使い果たし、動きから鋭さは消え去ってしまう。
 そしてそうなってしまえば、鬼の猛攻を凌ぐ術は妖忌には残されていない。
 それこそ永遠にでも続いて欲しいと思えるこの仕合に、老いなどと言う邪魔者が水を差している事実が妖忌には残念でならなかった。

 もっと早く彼女と出会えていれば、詮無き考えが妖忌の頭をよぎる。
 自分が老いる前に彼女と出会えていれば、何にも邪魔されずこの戦いに興じる事が出来たのだろうか。
 今よりも更に素晴らしい戦いを、この最高の好敵手相手にする事が出来たのだろうか。
 考える程虚しくなるだけだった。
 敗北の足音は既に、彼の目の前まで迫っている。
 残された時間はあと僅か、ならば終わりの時まで己の全力を尽くすのみ。
 それは妖忌に残された最後の悪あがき。
 僅かな体力でこの少女を倒しきれるとは到底思えなかったが、最早他に彼に出来る事は残されていなかった。
 妖忌は乱れた呼吸を整えながら、敗北への一本道をひた走るべくその足に力を込めて踏み込みの瞬間を探る。




「あと、一発だ」

 鬼のその言葉が、妖忌の足を留めた。
 自信に満ち溢れた笑顔のまま、一本指を立てながら萃香は一つの提案を持ちかける。

「次の一発で決着をつけよう。互いの最高の一撃で、さ」

 耳を疑う妖忌だが、萃香の表情はそれが空耳ではなかったと物語っている。
 何故そんな提案をする必要かあるのか、こちらの体力が残り少ない事などとうに気づいているだろうに。
 それこそ短期決戦など考えず、黙っていれば勝手に勝利は転がり込んでくると言うのに。

 ……いや、だからこそか。
 似た者同士な彼らの事、萃香の立場になって考えてみれば、すぐに理解する事ができた。
 彼女もまた、彼と同じだった。
 この素晴らしい戦いを、妖忌の体力切れなどで終わらせたくなかったのだ。
 そのような形で得た勝利など望まない、相手が全力を出せる内に決着をつけなければ自分の魂が認められない。
 伊吹萃香とはそんな何処までも真っ直ぐで酔狂な存在であったのだ。
 妖忌は目の前の少女の本質を想いながら、くすりと薄い笑みを浮かべる。
 彼女の提案を断る理由など、彼の中には存在しなかった。
 無言のまま刀を鞘へと納めると、ただその構えをもって萃香に対して了承の意を示す。
 その様子を見た萃香が満足そうに笑みを浮かべる。

「悔い、残すなよっ!」

 大声で叫びながら全身に力を込めると、萃香の身体から赤色の何かが滲み出る。
 それはそのままで直視出来る程に密度の濃い萃香の霊力。
 並の人妖では及びも付かないその膨大な力に、大地が震え、大気が少女の周囲に吹き荒れる。
 まるで地割れでも起きたかのような轟音の中、真紅の霧を纏った萃香は自分に残された力の全てを己の拳に込めて行く。
 対して妖忌が佇むのは水面のような静寂の中。
 楼観剣を納めた鞘の内へと霊力を注ぎ込み、愛剣の切れ味をただひたすらに高めて行く。
 一度は見せた居合いの技、しかして此度は己の全てを賭けた捨て身の一太刀、次の手までを考えていた先程の一撃とは訳が違う。
 二太刀目など一切考えない、ただ次の一撃で勝負を決するのみ。
 極限まで高められた集中力が周囲に静の空間を作り上げ、その霊力をもって楼観剣の鞘を青白く染めて行く。
 まるで対照的な光景だった。
 一方は大気を唸らせる少女の紅き拳、もう一方は無音の世界に佇む男の蒼い剣。
 およそ同じ空間に存在するとは思えぬ正反対の一撃が、今か今かとぶつかりあう時を待ち続ける。
 最強の矛と盾による勝負の結果を知る者は居ないが、最強の拳と剣による勝負の結果は今まさに導き出されようとしていた。

 ああ……静かだ。
 今まさに決着の時が目の前に迫ろうとしているにも関わらず、妖忌の心には緊張とも興奮とも違う、説明し難い不可思議な気持ちが去来していた。
 ここ数年忘れていた穏やかな笑みが自然と表情に浮かぶ。
 鬼よ、感謝する。
 お前のおかげで、私は自分を縛り付ける鎖を断ち切ることが出来た。
 そして自分が失ってしまった何よりも大切な物を取り戻す事が出来た。
 無骨者故、礼として返してやれる物など何一つ無いが。
 せめてこの一刀に己の全てを捧げ、お前の恩に報いる事にしよう。
 見上げてみれば、対照的な空間に居る筈の鬼が浮かべるのもまた同じ笑み。
 きっと彼女も自分と同じように、説明できない何かが彼女の心を満たし、自分でもわからない内に頬が緩んでしまっているのだろう。
 根拠など無くても、そうに違いないと断言する事ができた。
 何処までも正反対で、限りなくそっくりな二人はただこの一瞬の為に笑って命を賭ける。
 最早二人の間に合図など必要なかった。


 二人は同時に大地を蹴り上げると、己の鏡とも言える存在の元へと一直線に駆け―――――







―――――






「大した奴だよ、お前は」

 穏やかな風が二人の頬を撫でる。
 一寸前の戦いが嘘であるかのように静かで何も無い草原の中心で、二人は背中合わせで座り込んでいた。
 自分の認めた、背中を預けた男に向けて萃香は苦しそうに……けれども楽しそうに言葉を紡ぐ。
 その胸に描かれたのは一閃の大きな大きな刀傷。

 先程の勝負、軍配が上がったのは妖忌の方だった。
 残された全霊力を注ぎ込んだ妖忌の剣は、同じく渾身の力の込められた鬼の拳とぶつかり合い、その拳ごと萃香の身体を切り裂いた。
 まさに斬れぬ物など全く無いと呼ばれるに相応しい一太刀、鬼の耐久力と再生力をもってしても完治まではしばらくの時を要するだろう。
 萃香は荒い息を吐きながら、妖忌の背中に身動きの取れなくなった身体を預ける。

「大した奴なのは、お前の方だ」

 あの時一撃勝負など持ちかけず、そのまま戦いを続けていれば……などとは二人とも口にしなかった。
 そんな事は言葉にするまでも無く、二人共とうに理解している事。
 それを理解した上で萃香は妖忌と正面でぶつかり合う事を望んだのだから。
 両者共に認める妖忌の勝利、それが二人の戦いの結末だった。

「楽しかったかい?」
「……楽しかったよ。お前は?」
「私も楽しかった。ここまで楽しい戦いなんて、本当何時振りだったか思い出せないくらいだ。でもさ、だからこそ負けた事が悔しい。……うおー、悔しい! 悔しいぞー!」

 本当に悔しそうに叫ぶ萃香に、妖忌は思わずくくっと笑う。
 彼女もまた相当の齢を重ねているだろうに、これではまるで幼少の折の自分ようではないか。
 いや、それ程までに勝ちたい戦いだったと言う事か、自分も負けていればどうなっていたか。
 そんな事を考えながら、全身を満たす満足感に身を任せる。
 萃香のように騒ぎこそしなかったが、彼は心の中で己の勝利をぐっと噛み締めていた。




 それから、二人は背中を預けたまま無言で時間が過ぎるのを待っていた。
 それは気まずい沈黙とかそう言った物ではなく、共に在るのが当たり前な程に親しい二人が作り出す穏やかな空間。
 先刻出会ったばかりの二人は、既に互いの事を旧知の友のように思うようになっていた。
 変に気張る必要も、取り繕う必要も、無理に語りかける必要も無い。
 ただただこうして共に在るだけで、二人は何となく楽しい気分になれる気がした。
 
「む」
「お」

 ひゅう、と一陣の風が吹き抜け、二人は同時に何かに気付いたように沈黙を破る。
 すぐ近くに二人にとって見知った気配が現れたのを感じたのだ。
 どうやら、今回の首謀者のお出ましのようだ。
 妖忌は地に横たわっていた楼観剣を拾うと、ゆっくりとした動作でその場に立ち上がる。
 
「行くのかい?」
「ああ、奴には言いたい事が山ほどあるからな」

 背中から聞こえてきた声に振り向かないままで応える。

「お前はどうする、動けないのなら連れて行ってやるぞ」
「いや、私はいいさ。もう少し余韻に浸っていたい。紫には後でまた迎えに来てもらう事にするよ」
「……そうか」

 萃香の言葉は、詰まる所二人の別れを意味していた。
 元の世界に戻れば妖忌には再び放浪の日々が待っているし、彼女には彼女の暮らしが在るのだろう。
 一日限りの剣の道への帰還としては十分すぎる程幸せな時間であったが、それでもやはり好敵手との別離には名残惜しさを感じていた。

 いや、これ以上は高望みと言うものだ。
 妖忌は薄く笑みを浮かべながら、首を横に振る。
 今日のこの出来事は、結局の所一夜限りの夢のようなものだ。
 剣への想いを取り戻す事は出来たが、幻想郷においてそれを活かせる場が残されている訳ではない。
 一人の剣士の心の内が変わったとて世界は何も変わらない。
 しかしそれでも、こうして自分と向き合う事の出来たこの戦いは、己の身体を重くしていた錆を見事に剥がしてくれた。
 今ならば、かつて腑抜けた自分を見せる事に耐え切れず背を向けた主や孫とも向き合う事が出来る、否もう一度向き合いたいと思うようになれた。
 それだけでもう十分過ぎる程だ、そう妖忌が自分を納得させるように薄く笑みながら頷き、友に向けて軽く手を振ろうとしたその時だった。
 背中の少女の彼の名を呼ぶ声が、世界に響き渡るのを感じた。

「なぁ、妖忌」
「? どうした?」
「また、戦ろう」

 それは妖忌が言おうとして、言えなかった言葉。
 そのたった一言が、再び妖忌の心に火を灯す。
 ……全く、敵わんな。
 妖忌は真っ青な空を仰ぎ見ながら、ゆっくりとその双眸を閉じる。

「私、もっと強くなるからさ。お前ももっと強くなって、それこそ老衰なんて吹き飛ばすくらいの剣を身につけてさ。それで何時の日か……今日よりもっともっと楽しい戦をしよう」

 少女は言葉を続ける。
 一片の迷い無く、曇りもなく。
 ただただ己の感じるまま、思うがままに己の道を作り続ける。

「勝ち逃げなんて、許さないからな」

 振り返らなくてもわかる。
 きっと彼女は笑っているのだ。
 あの屈託の無い笑顔で、妖忌を同じ道に引きずり込もうとしているのだ。

 そんな恐ろしい誘惑に対する妖忌の答えなど、最早言葉にするまでも無かった。
 妖忌はただ首を一度縦に振るだけで、萃香の誘惑に対して己の意を示す。
 背中を向けている彼女には見えないだろうが、それでも彼女にならば間違いなく意思は伝わったと自信をもって言える。
 今この時、かつて御庭番だった男は狂人へとその身をやつした。
 彼もまた自分自身の意思で選んだのだ。
 誰かを守る為などではなく、勝利の二文字だけを目指して剣に生きるその道を。
 ただ一人の少女と自分自身の為だけに、生涯に渡り剣を振るい続けるその道を。
 そんな道もあっていい。
 今ならば誰に問われようと、自信をもって己の生き方を誇れるような気がした。
 胸に去来するのは、幻想郷に戻ってからの自分自身について。
 楼観剣に代わる剣を探し、なまった身体を鍛え直し、体力をカバーするだけの技を身につける。
 どうやらのんびり呆けている暇はなさそうだ、と妖忌は思わず深い溜息を吐く。
 しかしその顔に負の感情は見られない、何処までも充実した穏やかな表情で妖忌は笑う。

 老剣士は閉じていた目を開くと、何も無い草原の先へと視線を向ける。
 目の前に用意されているのは無限に広がる道。 
 何処へでも自分の意思で歩いていける、そんな気がした。






<了> 
妖夢は多分今頃楼観剣なくしてわたわたしてると思う
手負い
[email protected]
http://twitter.com/TEOI2
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コメント



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1.100名前が無い程度の能力削除
二人ともかっこいいな、とか色々書こうと思ったのに後書きで全部吹っ飛ぶ不思議。白桜剣ェ…
2.100名前が無い程度の能力削除
妖忌でシリアスとか、と思ったらいつの間にかのめりこんでた
いやお見事。とても感動しました
ありがとう
3.100名前が無い程度の能力削除
あー、なんだこれ。よくわかんないけど目頭が熱くなりやがる
感想を上手く表現出来ないけど、すごくよかった
4.100名前が無い程度の能力削除
ありがとう、本当に
5.90名前が無い程度の能力削除
ダンディ…
6.100名前が無い程度の能力削除
お見事
9.100名前が無い程度の能力削除
あぁ、これ凄い好みです。
素敵な妖忌をありがとう。
10.100名前が無い程度の能力削除
後書きへの前フリにしてはお話があまりに素敵すぎると思うんだ…胸が熱い。胸焼けか。
12.100名前が無い程度の能力削除
後書きで何が起こったのか理解できなかったが、声を出して笑った自分がいた
14.90名前が無い程度の能力削除
妖忌モノにハズレ無し……!
戦闘描写・感情描写ともに素晴らしかったです
16.90名前が無い程度の能力削除
凄く引き込まれました
こういう妖忌も新鮮でありだと思います
17.100名前が無い程度の能力削除
好きだから続けるってのは当たり前のようで中々難しい
文章書きはじめた初心を思い出させてくれた気がします
22.90コチドリ削除
純粋剣士vs純粋戦鬼

酔狂、っていうより粋狂だぜ、お二人さん。
徒花だなんて口が裂けても言えないよ。

純度の高い物語、感服仕りました。
23.90ネコ輔削除
大変愉しく読ませて頂きました。
丁寧な描写のおかげで動作が鮮明に脳裏に浮かび上がり、するすると読み進められました。
紫は幽々子や妖夢には報いることが出来なかったものの、妖忌の生き甲斐だけは返還出来たと信じてます。
一番の功労者は萃香だろうけど。やはり鬼は手段こそどうであれ人を導く存在なのだなと感じました。
25.100名前が無い程度の能力削除
スペルカードルールによる被害者は、ある意味本家東方projectでは描けない側面かな、と。
そう思いながら後書きで落とされることを、今か今かと待ちながら読ませていただきました。
26.90名前が無い程度の能力削除
ジジイ流石だな。老成した若者キャラには出せないかっこよさがあると思う。
ネタになりがちだけど渋い妖忌も良いね
30.100名前が無い程度の能力削除
まず、文章に引き込まれました。
気がつけば読み終わってました。

二人とも爽やか格好良いですねぇ。
格好よすぎて、涙と笑みとが一緒に出てきました。
33.100桜田ぴよこ削除
格好良いなぁ。ホント格好良い。
迫力の戦闘に引き込まれっぱなしでした。
34.100SAS削除
格好良かった……!
本当に楽しそう。でももう、幻想郷じゃ見られないんだろうな。
35.100爆撃削除
天晴れ。天晴れじゃ……。
戦闘物の最高峰として受け取りました。
戦闘描写だけでない。
そこへ至る経緯、間合いの緊張感、そして妖忌の信念と、舞台設定が最高にぞくぞくします。
もうちょっと読んでいたい! という最高の満足感と共に読了することができました。
36.100もちょ削除
次元が違う……素晴らしいとしか言いようがありませんでした。
頭のなかで映像になりますね。
こんな作品を書きたいです。
40.100名前が無い程度の能力削除
やべぇ、まじかっけえ!
そして後書きwwwwwww
44.100名前が無い程度の能力削除
戦闘描写がすごすぎる…
かっけーです
46.100奇声を発する程度の能力削除
マジでカッコよかったです…
48.100名前が無い程度の能力削除
雰囲気にも酔えました。最高。
49.100名前が無い程度の能力削除
ここまでバトル描写の鮮烈なSSは初めて見た
ブラボー…おおブラボー
53.100名前が無い程度の能力削除
ここに、言葉は無粋。
54.100名前が無い程度の能力削除
綺麗な手負いさんだ
55.100名前が無い程度の能力削除
二人の戦闘描写に惹かれっぱなしで、読み終えたとき自分の中に何か言いようのない満足感が漲ってくるのを感じた。








後書きで全て消し飛んで笑った。妖夢かわいい。
56.100SPII削除
心ときめき胸踊る
素晴らしい作品でした
64.100如月翔削除
少女の弾幕ごっこがメインである東方の世界観を「外の世界」、「男」、「名前のみ登場」の妖忌を使い。
犠牲になったであろう小細工なしの純粋な戦いの表現、堪能させていただきました、ありがとうございます。
67.90名前が無い程度の能力削除
誤字報告:孫である魂魄妖忌

地の文の言葉遣いをもう少し煮詰めればもっと輝く作品になったと思う。
十分カッコいいけど。
69.100名前が無い程度の能力削除
これはお見事。いいもの読ませてもらいました。
後書き妖夢かわいいw
71.100名前が無い程度の能力削除
なんてかっこいい闘い!
素晴らしかったです。
72.100名前が無い程度の能力削除
今没頭してあるものがあるけど
そいつを一生続けていきたいと思った。

とても胸を熱くさせる作品でした。
73.90名前が無い程度の能力削除
白楼剣なしの一刀流で萃香さん倒すとか妖忌さんマジパネェっす!
二刀流だったらどんだけ強いんだw
77.100名前が無い程度の能力削除
すばらしいの一言
78.100名前が無い程度の能力削除
100点いれときます
81.100名前が無い程度の能力削除
熱かったです!
83.100名前が無い程度の能力削除
読み始め5分で泣くとは思わなかった。
妖忌が成長(?)したのも良いが、自分は悲しい話の好きな性分なのか、前半の話が特に好きでした。
スペルカードルールを知らされた瞬間の妖気の心情を考えるとするか。

それはそうと、楼観高枝切りバサミのせいで読み始めた時はギャグかとおもってました(笑)
っと、話がそれてしまった。
良いお話でした。
85.100名前が無い程度の能力削除
ぐはっ・・・負けたぜ、この点数をもって行け・・・
86.100名前が無い程度の能力削除
戦闘描写の凄さに圧倒されました!
87.100名前が無い程度の能力削除
後書きで笑ってもたw
92.100幻想削除
素晴らしい余韻に浸ろうと思ったらあとがきに吹きましたwww
手負いさんの妖忌は陽気なもんと思ってたけどこんなガチな妖忌もいるなんて・・・っ!
感情描写、戦闘描写、どちらをとってもすばらしい作品でした!
すいかを出してくれて俺得でもありました。
眼福感謝です!
93.100名前が無い程度の能力削除
文章の大部分を戦闘シーンが占めているのに全く飽きなかった、むしろ引き込まれました。
妖忌のキャラも非常に魅力的であっという間に読んでしまった。
妖忌が妖夢と幽々子のもとに帰ってからの話も読んでみたいです。
95.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい。
104.100名前が無い程度の能力削除
お美事!お美事に御座いまする!
106.100zody削除
妖忌の心情やら戦闘描写やらとにかくすべてよかったお(ノ×`)
107.100リペヤー削除
二人ともかっこよすぎだろ、常識的に考えて……
バトルSSはいつも燃えます。
面白かったです!
108.100名前が無い程度の能力削除
格好いいな、容k…じゃなくて妖忌
書きたいことは山程ある訳だが、いかんせん自分の語彙が少ないのが恨めしい
あと妖夢が「切れない物などあんまり無い!」と言ってるのはこの老剣士の域にはまだ達してないと思ってるからなんだろうな
そういえば妖忌の立ち絵があるとすればやっぱり半霊も描かれるんだろうか

ただ本文の戦闘狂共(と言うには語弊があるか…)が醸し出してた空気が
後書きで未来永劫斬されて木っ端微塵になったのは確かだなw
109.100葉月ヴァンホーテン削除
お見事。
いや、ただただお見事。
でもあとがきw
115.100名前が無い程度の能力削除
何と言うかっこよさ。これぞ魂魄妖忌!か。
いい話、そしてイイ後書きwでした。
116.100名前が無い程度の能力削除
お見事

あとがきの姿が容易に想像できたww
118.100名前が無い程度の能力削除
こんなにカッコイイ人がアバンストラッシュとかニーベルン・ヴァレスティとかやってたというのか……!
119.100名前が無い程度の能力削除
格好いい!

…妖夢ェ.w
124.100名前が無い程度の能力削除
この後庭師として花を開かせるんですね。分かります。
冗談は置いておいて、とてもカッコいい二人をありがとう!
132.100目玉焼き削除
若い時の話も見たいなぁ
144.100名前が無い程度の能力削除
萃香を絶対的強者ではなく、向上心を忘れない純粋な鬼として、挑戦者として
描いてる感じがします
東方の世界観、永遠の少女とはいいますが成長は悪い事でなく、二次だからできる
素晴しいことです
そしてまた妖忌さんも向上心を内に秘める剣士、力を求める王道のかっこよさ
とてもかっこいい二人でした
146.100名前が無い程度の能力削除
もっと評価されるべきだろ