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「――、――――!」
朝、未だ深い眠りについていた八雲紫に、誰かの声が届く。
「ゆ――、――りってば!」
フィルターが掛かったよう声に引っ張られ、少しずつ眠りから意識が浮上し薄らと目を開けた。
天井と一緒に自分を起こしていた者がぼんやりと視界の端に映る。
気だるい体を押して身を起こすと、自分を起こしていた者の声が今度ははっきりと脳に届いた。
「おはよう紫、毎日起きるの遅いわよ!」
声がした右の方を向けば蒼い長髪に桃がついた黒い帽子。
そして太陽のような向日葵のような、そんな見てて気持ちいい笑顔を浮かべて、比那名居天子が紫を起こしてくれていた。
* * *
「「「いただきます」」」
小鳥の鳴き声が届き日の光が窓から届く居間で、三人の人外の種が箸と器を手に取り朝食を口に運ぶ。
その三人は元よりこの八雲邸に住んでいる紫と藍、そして朝早くから押し掛けて朝食をねだった天子。
メニューはご飯と焼き魚に卵焼き、そして味噌汁と言う正に定番と言うべきメニューであった、定番と言っても長らく八雲家の家事を担当してきた藍の手にかかれば思わず唸るほどの出来となる。
「はぁ~、やっぱり下界のご飯の中でも藍の料理は最高ね、普通の材料なのに里の飯屋よりずっと美味しいわ。」
味噌汁をすすっていた天子が口から器を離し、一息つくと思わず賛辞を送った。
その顔は美味しさからか笑顔であり、お世辞などでもなく心から出た言葉だというのが良くわかる。
「フフフ、何分長い間紫様の周りを任されてきたからな、長い時間をかけてこの域まで来たのさ」
「つまり主人がグータラだからこそ生まれた味ってわけね」
「あらあら相変わらず減らず口をたたく娘ね、人の粗しか言えないのかしら?」
「あんたが粗ばっかな上に目立ち過ぎなだけでしょ、前まで昼過ぎまで寝てたとか信じられないわよ」
他愛ない会話が弾む楽しい朝食、大妖怪相手に全く怯まない客人と軽口を叩きあいながら箸を進める。
以前まではこの時間はまだ寝ていたものだが、最近はいつもこのように三人で、前日に橙が泊まったときは四人で朝食を食べている。
この騒がしい客が数日前から毎日来るようになって、ここも変わったものだ。
* * *
「……ごめんなさい」
「ほぇ」
その客が来たのはいきなりの事だった。
ある日の紫が起きてからすぐの頃合、藍に自分への来客と言われて顔を出してみれば泥で汚れた服装にボサボサの髪、そして顔を真っ赤にした天子がいた。
何だこの前の異変の時のお礼参りかと身構えて出てみたら、目が合った瞬間桃を突きだされて謝られた。
寝起きの頭に思わぬ不意打ち、つい変な声も零れ落ちる。
……まさか謝罪の言葉を送ってきた? あの天人が?
いやいや、天人は妖怪なんぞ下賤な輩と見下しているのが殆どだ。
大方これも何かの策略……だと思うのだけれど顔が物凄く真っ赤で、まるでトマトみたいで。
演技でもここまでできるものなのか? あ、でもちょっと可愛い。
寝起きと言うこともあるが、通常考えられない状況に思考がまとまらず脱線しがちだ。
なんせ長く生きてきた紫だったが、今まで高慢な天人が地上のものに対して頭を下げるなど見た事も聞いた事もなかったのだ。
天人が妖怪に頭を下げるなんて世界で初めてなんじゃないだろうか、混乱して呆ける紫を見て天子は不満そうに漏らす。
「投我以桃、報之以李って言ったのはあんたでしょうが」
ハッ、と意識を戻しながら紫が押し付けてきた桃を受け取る、まさか本当に桃を持って謝りに来るとは。
しかも泥にまみれた格好から、慣れない山道に四苦八苦しながら来たのであろう事が見てとれる。
「謝りに来たのはわかったわ、だけどどうやってここまで来れたのかしら。ここはそう簡単にこれる場所ではないのだけれど」
結界の端に存在する八雲邸は紫が自ら結界を張り隠されており、どんな大妖とあれど見つける事はできないだろう。
特定の条件を満たせば辿り着けるようにしてあるが、それ以外の方法ではとてもじゃないが辿り着けないし、そもそも屋敷自体がどこら辺にあるのかも一部のものしか知らない。
「あんたの式を探して、ここまで連れてきてもらったのよ」
紫が思ったことはただ一つ、何やってんだあの九尾!
だが後で問い詰めてみると、「顔真っ赤にしてお願いしてきて、しかも断ろうとしたら涙目ですよ、断れません。」と言われて仕方ないなと納得したりする。
しかし今の紫はそんな未来などわからず、後でどんな躾をしてやろうかなどと黒いことを考えていた。
そしてその顔は、天子から見ればまるで自分が来たことを嫌がってるように見えるわけで。
「何よせっかく謝ったのにその態度、私がここまで謝りに来たら迷惑っていうの!?」
「えっ、いやごめんなさい」
恥ずかしそうな態度から一変、しかし顔は依然真っ赤のまま怒る天子に紫も思わず謝った。
隙間妖怪が謝罪するなどこれまた珍しい光景である。
「あ~、もう、勝負よ紫! どうせいつかはリベンジしようと思ってたんだから好都合よ、表出なさい!」
そのまま騒ぎ立てる天子につられ仕方なく紫も仕方なく弾幕を興じ、そして勝ったのであった。
その結果に悔しそうにしながら、「覚えてなさい、次は勝つんだから!」と言い残して、天子はその場から飛び去っていった。
そして次に天子が来たのは翌日、それも朝からであった。
「起きろ紫!」
「ゴフゥッ!?」
いつも通り惰眠を貪っていた紫を天子の要石プレスが襲う。
いかな隙間妖怪とあれど就寝中にそんな事をされては起きざるを得ない、すぐに気絶してまた寝そうではあるが。
「全く何でこんな時間まで寝てるのよ、水かけてみても起こしても全然起きないし。思わずスペルカード使っちゃったわ」
起きないからって水をかけるな、思わずでスペル使うな、色々ツッコミたかったが今の紫にそんな余裕はない。
要石がどかされて身体の自由が利くようになると、急激に目が覚めたため少し気分の悪い頭を抑え体を起こす。
すると太陽のような笑みを浮かべた天子が。
「とりあえずおはよう紫!」
とりあえずお返しに列車に轢かれてもらった。
その後、隙間経由で外に飛び出すと寝巻きのまま着替えもせずに弾幕勝負に移行したやった。
しかし最初に受けた攻撃と覚醒しきらない頭のせいですこぶる調子が悪かったが、戦ってるうちに天子は顔を赤らめ動きもおかしなものになっていった。
「せせせ、せめて服装正してから戦いなさいよ!」
指摘されて初めて自分の寝巻きは乱れ、胸やら下着やらが丸見えだった事に気付く。
恥ずかしかったがだからと言って負けるのは癪なので、その隙を逃すことなく弾幕を浴びせてまた勝ったのであった。
それからだ、天子が勝負を挑むためにと毎日朝早くに来て紫を起こすようになったのは。
あれからだ、八雲家が騒がしくなったのは。
* * *
「あ~、まーた負けた!」
そして現在、朝食後少しまどろんだ後に行われた、毎朝恒例の弾幕勝負ではまたもや紫の勝利で終わった。
その結果に天子は草むらに寝転がりながら空に突き出した腕を振り回し憤慨している、手に緋想の剣を持ったままなので見ていて非常に危なっかしい。
「よくもまぁ毎日飽きずに挑みにかかれることね、毎回負けてるというのに」
「ふん、こちとら空の上で数百年暇してたのよ、この程度の事じゃ堪えないわよ」
「つまりマゾだから堪えないと」
「ちっがーう!」
いつのまにか足元にまで近づいていた紫に向って天子は起き上がりざまに剣を振るった、だがヒラリと難なく避けられた。
こんなやりとりはいつものことなので避けられるとわかってはいたが、実際に簡単に避けられると無性にイライラしてくる。
「このグータラ妖怪~、昼寝魔人~」
「なんとでも言っていなさい、負け犬が何を言っても見苦しいだけどもね」
「隙間ババァ~……痛いっ!?」
最後の罵倒が出た瞬間天子の頭上に隙間が開きそこからタライが落下、カコーンと非常に良い音を立てて激突した。
天子は涙目で痛む頭を抑えていたが、すぐにまた食ってかかる。
「いきなりなにすんのよ!」
「お黙りなさい不良天人、身の程を知れ」
無礼な天人に殺気を漲らせ突き刺すような視線を送る、こと隙間妖怪には年のことは禁句なのである。
なぜなら彼女はババァなどではなくやくもゆかりん17歳☆になっているのだから。
しかし場の空気などまるで気にしない比那名居天子、二度目の博麗神社倒壊時に既にその殺気を浴びたこともありその程度では怯まない。
「ふんホントのこと言われてそこまで取り乱すなんて見苦しいわよ、私のように不良天人なんて言われても何てことないくらいドッシリ構えなさい」
「……絶壁天人」
「胸のことは言うな!」
そのまま揚げ足の取りあいを続けていたが口で紫にかなうはずもなく、まもなく天子が劣勢になり「次こそ勝つんだからねー!」とお決まりの台詞を残し飛び去って行った。
距離が離れて天子の蒼い髪が空に溶けていくさまを、紫は静かに眺め続けていた。
「……また明日も来るんでしょうね」
全く面倒な事だと呟いて溜息をつくと、隙間を開きその中に入り込む。
しかしその顔には、言葉とは裏腹に笑みが浮かんでいた。
* * *
閻魔の裁きを受けた後、転生や成仏を待つ霊が一時的に身を置く白玉楼。そこの庭を縁側から眺めながらまどろむ亡霊が一人。
「幽々子様、お茶と煎餅をお持ちしました」
「ありがとう妖夢」
屋敷の奥から妖夢が持ってきたお茶を幽々子は手に取って、熱い内に一口すする。
と、ついと突然目の前に黒い線のようなのが現れた。
そのままその線は広がって別の場所の空間と繋がると、そこから幽々子の友として白玉楼にはよく来る紫の姿が現れる。
「はぁい、久しぶりね幽々子、お邪魔するわ」
初めてこれを見た者は誰でも驚くだろうが、彼女をよく知る白玉楼に住む二人には別段いつもの事で驚く要素などどこにもない……筈だった。
けれど何故か今日に限って二人とも紫の姿を見て呆気にとられている。
「あら? どうしたのかしら二人とも」
今までに何度も来ていたが、こんな反応は初めてである。
まさか天子が悪戯で顔に落書きでもしたのかと怪しんでいると、突然幽々子が紫の肩を力強く掴んできた。
「紫、今すぐ永遠亭に行きましょう」
「えっ、幽々子?」
「かわいそうに紫様……不眠症になってしまわれたのですね」
「ちょっと何かしら妖夢まで、別に夜はちゃんと寝れてるし健康体よ!」
本気だった、本気で紫の心配をしていた、目がうるみ声には悲哀がこもっている。
そこまで自分の心配をしてくれるのは嬉しいのだが、こんな時間に寝てないだけでここまで心配される自分が何だかちょっと情けなくて紫は声を荒げる。
「たとえ夜寝れても、異変もないのにこんな時間に起きてるなんておかしいわ紫。あなたは日に20時間は寝ないとだめだって言ってたじゃない」
「いや、確かによく寝るとは言ったけど、そこまで長い間寝ないといけないなんて言った覚えはないわ幽々子。それに別段睡眠時間は通常通りでも支障はないし」
「しかし睡眠は紫様のアイデンティティと言っても申し分ないです、こんな時間まで寝てなければアイデンティティが崩壊して心が壊れ……」
「ないから、別にそこまで深刻な話じゃないから、ちょっと二人とも落ち着きなさい!」
結局やたらと紫を心配する二人を落ち着かせ、なぜ自分が早起きしているのか説明するまで半刻ほどの時間が必要だった。
ようやく問題はないと理解した妖夢が冷めてしまった幽々子のお茶に加え、客人の紫の分までお茶を淹れると場は雑談に移る。
「つまりあの天人が毎日紫を起こしに来ていると」
「その通りよ、その後図々しく朝食をねだる上勝負まで挑んでくるからいささか面倒なのだけどねぇ」
「ふぅん、面倒ねぇ……」
「それに朝以外にもいきなり来たかと思えば、『どうせ隙間使って覗き見してるんでしょ? 面白そうだし私にも見せなさい!』とか言ってきたりね、失礼しちゃうわ」
ちなみにその時覗いてたのは本当で、結局肩を寄せ合って隙間から博麗神社を覗き見することとなった。
そのままお茶や煎餅を横取りしたりと悪戯するものだから、自分に疑惑が浮かばない内に霊夢に突き出しておいた。
その後天子がちょっとトラウマになるくらい折檻されたのは言うまでもない。
「そういう風に来た時はそのまま夕食まで居座るし、藍の料理が美味しすぎるのも考えものねぇ」
「あらあら、夕食までずっとお二人で何してるの?」
「向こうからあれやこれや話しかけてくるのよ。それにしてもあの娘いつも笑ってるわね、勝負に負けたりしなければ一日中笑ってそうだわ」
「へぇそうなの」
いつもなら煎餅を口に運びながら話を聞く幽々子が、どうしたことか何も口につけず紫の話を聞いていた。
その代わりいつもならもそもそと動いているだろう口が、やたらとニヤついている。
「あぁでも恥ずかしがり屋で謝りにきた時とか顔を真っ赤にしててちょっと可愛かったかしら……って何かしら幽々子、そんなにニヤニヤと笑って」
何やら幽々子の目は薄く狭められ、何故だか紫にはその目が怪しく光ったように見えたりした。
さっき散々まくしたてられたのに、まだ何か問題でもあるのかと思うとげんなりする。
いつも通り友人と世間話を楽しみたいだけだったはずが、どうしてこうなった。
「しかし寝ている紫様を起こすなんて、あの天人も中々無茶をしますね」
「全くもってその通りだわ、初めの頃なんてスペルカードを使ってまで叩き起こしてくれたしねぇ」
「へぇ……ねぇ、紫」
「あら何かしら」
相変わらず幽々子の口元は吊り上っている。
どうやらまだ何かあるようだ、せめてお茶だけでも楽しもうかと口を付ける。
「つまりその天子と言う子が大好きなわけね!」
「ブゥ――ッ!?」
思いっきり口からお茶が噴出して虹を描いた。
控えていた妖夢が「畳が!?」などと言っているが、吹いた拍子に器官に入ってむせてしまいそれどころではない。
「ゲッホ、ゴッホ! ゆ、幽々子、何を言っているのかしら……?」
「あら……あっ、ごめんなさい、愛しているの間違いよね」
今度はゴンッと机に頭を打ち付けた。
上質な机が大妖怪の力を前にへこみ、また妖夢から「その机高かったのに……」と悲しい声が聞こえる。
「な、なな、んなぁ、何を言ってるのかしら幽々子私が天子を愛してるだなんて馬鹿らしい」
本当に何を言っているんだろうか幽々子は、一体どこを取ればそうなると言うのだ。長い間亡霊をやっているのでボケてしまったのだろうか?
しかし何故だかわからないが顔が熱い、真っ赤になっているだろう事が感じて取れる。
急いで扇子を隙間から取り出して顔を隠した。
「だってぇ、じゃあ何で紫は無理やり起こす天子を寝室まで通してるの? 面倒なだけなら藍に言って追い返すなり、別の結界張ってやり過ごすなり色々やり方はあるじゃないの」
「そ、それはその……」
はて、そう言われてみればそうする事も出来た筈だ。
おかしい、何かおかしい。
どこぞの門番よりも惰眠を好む自分ならば、本来それらをすぐに思いつき実行に移していた筈だ。
それなのに今回は全くそんな事が思いつかなかった、余りに間抜けと言うか寧ろ不自然である。
「その様子じゃ思いつかなかった? きっと好きだから追い返す方法なんて考えようとしなかったのねぇ」
「そんな事ないわ、そもそも何故幻想郷を愛する私が博麗神社に要石なんて仕込んだ相手に惚れなければならないのかしら」
「その事なら最初に謝られたんじゃない、紫ならそれをネタに相手を弄っても根に持ったりはしないわ。それにいつものらりくらりかわす紫が、毎日同じ相手に迫られて弾幕ごっこしちゃうなんて変じゃないの?」
「そ、それは……」
反論できない、確かに自分なら適当にあしらって帰してしまう事だろう。それが何故天子だけ特別なのか。
もしかして幽々子の言うとおり本当に……いやないない、相手は天人だぞ、同性だぞ、おまけに性格悪いぞ。
でも笑った顔とか可愛くていつも元気で……って待て、とりあえずお茶でも飲んで落ち着け自分。
そう思い湯呑を鷲掴むと、むせた時にこぼれて濡れていたが気にせずお茶を一気に飲み干す。まだ熱を持ったお茶が体の内側から過剰に温める。
もはやお茶を飲む動作すら落ち着いていないのだが、それすら気づく余裕がない程に紫はうろたえていた。
「ほらほら、いい加減認めちゃったらどうなの」
「で、でも相手は天人よ!」
「天人だけど彼女は他のとは違うでしょ、不良天人なんて言われてるらしいし」
「性格悪い……」
「要するに茶目っ気があるって事でしょ?」
「ど、同性じゃない彼女!」
「幻想郷は同性愛だって受け入れるわ」
駄目だ、咄嗟に思い浮かんだ反論はあっという間に全滅だ。
それに今の幽々子の答えは考えないようにしてただけで、少し考えれば自分でもすぐ浮かんでいただろう。
それならば、と控えていた妖夢に顔を向ける。
「よ、妖夢は!? 妖夢はこんなの恋なんかじゃないと思うわよね!?」
「どうみてもベタ惚れです、ごちそうさまでした」
ぬおぉぉ、主従揃って意見同じか。
と言うかごちそうさまってなんだこの従者、何甘いもの食べたみたいな顔しているんだ。傍から見たらそんなに甘かったのか今の話。
紫の顔は耳まで全部真っ赤、いつか謝罪に来た天子にも負けないぐらい赤い。幾ら扇子で隠しても照れているのが丸分かりであった。
それでも紫は意見を曲げない、それは意地になっているのか照れてて認めづらいのか。
だが実際はどちらでもなく今まで他人の恋しか経験した事がないからで。
要するに天子が紫の初恋なのだ、初めてのことに今のこの状況も相まって混乱しているのである。
だからこそ反論なんて出ない、出たとしても張りぼての理論で先程のようにあっという間に潰れてしまうだけだ。
「いやぁ~、遂に紫にも春が来たのね~」
「えっ、紫様って初恋なんですか」
「以前、今まで恋した事なんかないって言ってわ。ねぇ紫、式には呼んでね?」
「し、式!?」
だが混乱する紫に落ち着く暇は与えられない。
いつもは決して見せない紫のそんな姿に幽々子も妖夢も面白がり、立て続けに追い討ちを掛け続ける。
「不肖ながら紫様、仲を良くするには里をデートすると良いと思います」
「あら良いわねぇ、一緒に美味しい物食べ歩いたり。そして近づく二人はやがて手を繋いで……」
「て、手をつな!?」
「どうせならアクセサリーとか買ってあげたら? きっと貰った天子はそれを見るたび紫のことを考えるのよ」
「お揃いだとなお良いですね」
「あわ、あわわわわわわ」
もはや紫は何もできず、ただ恥ずかしがるばかりだった。
そんな本人など構わずにこれはどうだ、あれはどうだ、と幽々子と妖夢は二人で話を進め続ける。
しかもその全てが、なんというか、今言われた状況を想像するだけで体の奥から熱いものがこみ上げてくるのである。
まずい、この場はまずい。このままここにいると茹で上がってしまう、いや既に十分身体の芯まで熱くなっているが。
「せ、せ……」
「どうしたの紫?」
「紫様?」
「戦略的撤退!」
「「あっ!」」
瞬時に隙間を開くと、二人が声を掛ける間もないままに紫は飛び込み隙間を閉じた。
ドタドタと音を立てて、八雲邸の自室になんとか辿り着く。
あぁ、何やら鼓動がうるさい、胸に手を当て興奮した心を落ち着かせる。
髪が汗で濡れ肌にくっつく、そろそろ夏も終わりなのに背中まで汗でびっしょりだ。
着替えたほうが良いかなと思っていると、紫様?とふすま越しに声がかかる。
どうやら異変を感じてか藍が部屋まで訪ねてきたようだ。
「あぁ藍、別になんでもない……いや、藍入りなさい」
「? はい判りました」
失礼しますと断って藍は部屋に入ってみると、扇子で目元まで顔を隠した紫がいた。
本人は赤くなった顔が隠してるつもりである……のだが、顔中赤いため、全然隠しきれていないのだが。
「どうしたんですか紫様、そんなに顔を真っ赤にされて」
「え゛っ、いやそんなことはどうでも良いのよ、ちょっと話を聞きなさい」
「はぁ」
なにやら様子のおかしい主だが、話を聞く以上姿勢を正しくせねばならない。藍はふすまを閉めると正座で紫に向き合う。
対して紫は落ち着かない様子で、あーやら、うーやらうめいた後、一つ咳をついてようやく話し始めた。
「さっき幽々子の所に行ってきたのよ」
「はい」
「そこで天子の話をしたらね……えー、その……私が天子に、ほ、惚れてるとか言い出したのよ、おかしいと思わない?」
「えっ」
おぉ、中々良い反応だ、藍はまるで信じられないとでも言いたげに見つめてくる。
やっぱり私があんな小娘に惚れるなどある訳ないのだ、一番傍にいる従者が言うのであれば間違いないはずだ。
「まだ自覚されてなかったんですか」
……どうやら惚れてるので間違いないらしかった。
* * *
それから先のことはあまり覚えていなかった。
ひたすら恥ずかしがってわめき散らしたような気がするが、気が付いたら幻想郷で一番夕日が綺麗な場所で膝を抱えて座り込んでいた。
ここは他の者には知られていない穴場だ、少なくともこの場所で知り合いに会ったことは今まで一度もない。
そこで沈み行く夕日を眺めながら心を落ち着けていく、おかげで顔の熱は引いてきたしぐちゃぐちゃだった思考もクリアになってきた。
そしてその状態で考えてみた結果が。
「やっぱり、私天子が好きなのかしら」
「私がどうしたの?」
「へ?」
慌てて後ろに振り返ると、痛々しい音を立てて額と額がぶつかり合った。
「「いったぁぁぁい!」」
痛い、凄く痛い、何て硬い石頭。
いやま、それは当然か。相手が声で察したとおりなら、確かナイフも刺さらない鉄のような身体であった筈だ。
痛みに悶えながらもぶつかった相手を見てみれば。
「だだだ……ちょっと、気を付けなさいよ」
「あらあら、人の話を盗み聞きする相手に遣う気はありませんわ」
予想通り、先程から悩んでいる元凶。涙目で同じように額を擦っている天子がいた。
「それで……聞いてたのかしら?」
「? 何が?」
「さっきの独り言よ!」
「えっ、そんなに聞こえてたらまずいものだったの? あぁもう、聞き逃さなきゃよかった」
良かった、内容まで全部聞かれていたわけではないようだ、胸の内で安堵する。
「それより、そっちこそ私が何なのよ」
「別に、ただかわいそうな娘だと思っていただけよ、主に胸が」
「何ですってー!!?」
怒ってご自慢の緋想の剣で斬りかかってくる天子を適当にいなす。
しかし何でこんなところにいるのであろうか、今まで誰も来たことがなかったのに。
「ところで何であなたはここにいるのかしら? 今まで誰も来た事ない穴場なのに」
「ん? そりゃあ自分で見つけたのよ、下界に降りてから幻想郷の色んなところ回ったから。ここもその時偶然見つけたのよ」
つまりはわざわざ何もなさそうな森を、一人で探検したりしたと言うことか。
相当な物好きと言うか、それか天界で暇してた身にはそれも楽しかったのか。
……楽しんだのだろうな、目を輝かせていつも通りの笑顔で森を行進しているさまが目に浮かぶ。
「あなたは本当に、いつもよく笑うわね」
想像の中の天子があんまりにも楽しそうに笑うものだから、ついそんな言葉が口から零れ落ちた。
「へ? 何よ突然」
「あぁ、あなたいつも楽しそうに笑ってるからね、どうしてそんなにいつも笑ってるのかと」
「そんなにいつも私笑ってる?」
「そりゃあもう、いつもよ」
自分でも気付いてなかったのか、それを聞くとうつむいて黙り込んで何か考え始めた。
やがて考えを終えると面を上げた、その顔はまたいつものように笑みが浮かんでいて夕日がそれを照らす。
「やっぱりさ、私が笑うのはここが楽しいからね」
風になびく蒼い髪が夕日に照らされて煌めいて、笑顔と合わさったその姿はとても幻想的だった。
そんな天子を見て、ついドキッと胸が高鳴る。
「食べ物は美味しくて空気も美味しい、景色は綺麗、友達がいて一緒に競い合える。これが楽しくなくて、笑わなくてなんだってのよ!」
その言葉を聴いて、天子もこの幻想郷を愛してくれてることを知り。
その顔を見て、あぁ自分はこの笑顔に惚れたのだなぁと、己の恋心を自覚した。
「……だから、ここを守ってくれてる紫には、ちょっとは感謝してたり」
「何か言ったかしら?」
「べ、別に何も言ってないわよ!」
「あらそう、でも感謝してくれるならまず最初に、博麗神社に要石を仕込んだりしないで欲しかったわね」
「って、全部聞こえてるんじゃないの!」
さっきから胸の高鳴りが収まらなくて、照れを隠そうと必死に普段通りに振舞った。
顔の赤みは夕日が隠してくれるし、見えたとしても憤慨する天子は気付くまい。
……まぁでも、たまにはいつもと違うのも良いか。
「ねぇ、天子今日の夕食は私のところで食べない?」
「だからあれは悪かったって思って……へ? 紫から誘ってくるなんて珍しい。いつもなら「夕食をねだるなんて、なんとまぁ卑しい天人だこと。あぁ、緋想の剣を盗む時点で十分程度が知れてたわね、ごめん遊ばせ」とか言ってくるのに」
「フフ、今日は少し気分が良いのよ……と言うかそんなに私口が悪かったかしら」
「うん、多分」
……少し天子弄りは自重するべきか、これくらいで堪えるとは思えないが嫌われるのは嫌だし。
いやでも改めて思うと、弄られて顔真っ赤にする天子は凄く可愛いじゃないか、自重できるだろうか。
むむむ……と悩む紫の顔を天子が覗き見る。
何か考えているようだが、その表情から深刻なものは天子は読み取れなかった。
「でも良かった、なんか落ち込んでたみたいだけどもう元気みたいね」
「あら心配してくれたのかしら?」
「し、心配とかじゃなくて! ほら対戦相手が不調なんじゃ勝ったって仕方がないし! あ~、ほら早く家行きましょ、隙間出して隙間!」
「はいはい」
天子にボフボフと服を叩かれて急かされ、紫は隙間を作り出す。
バックリと割れた黒いそれが出来上がると、天子はその中にピョンと飛び込んだ。
別に飛び込む必要はないのだが、それに隙間での移動は少しコツがいるから向こう側で着地に失敗し尻餅でも着いてそうだ。
……よし、やっぱり自重せずからかおう。
きっと顔を赤くして可愛い姿を見せてくれるだろう。
フフフと笑いながら紫も隙間の中に入り、その場から消えていった。
* * *
紫が自分の恋心を自覚してから数日が経った。
しかしだからと言って日々に劇的な変化があるわけではない、ちょっと紫が天子に対する態度が少し変わったくらいで他には変化はない。
と、言うのも。
「紫ってさ、何か初めて会った時より綺麗になってない?」
「へ!? そ、そうかしら?」
「うん肌の張りとかそういうの、もしかして妖怪って変わりやすいの?」
天子の言うとおり妖怪というものは精神に影響されやすい。
紫が綺麗になったのならばやはりそれは天子の影響であろう、恋が乙女を昇華させた。
しかしいきなり褒められた紫は、顔を赤くしてうろたえるだけだ。
「ちょっ、どうしたのよ紫顔が赤いわよ、熱でもあるんじゃない?」
心配した天子が自然に紫の額に手を当てる。
「!!???!!?」
「ちょっ顔赤過ぎ!? 寝てなさいよあんた!」
いきなりの触れ合いに嬉し恥ずかしで紫が真っ赤に染まる。
心配してあたふたしながらも紫の体を気遣う天子。
「へたれだ……」
傍目からそれを見ていた藍は誰に言うでもなく呟いた。
・同タグの作品と一緒にお読みになられればよりお楽しみいただけると思います。
「――、――――!」
朝、未だ深い眠りについていた八雲紫に、誰かの声が届く。
「ゆ――、――りってば!」
フィルターが掛かったよう声に引っ張られ、少しずつ眠りから意識が浮上し薄らと目を開けた。
天井と一緒に自分を起こしていた者がぼんやりと視界の端に映る。
気だるい体を押して身を起こすと、自分を起こしていた者の声が今度ははっきりと脳に届いた。
「おはよう紫、毎日起きるの遅いわよ!」
声がした右の方を向けば蒼い長髪に桃がついた黒い帽子。
そして太陽のような向日葵のような、そんな見てて気持ちいい笑顔を浮かべて、比那名居天子が紫を起こしてくれていた。
* * *
「「「いただきます」」」
小鳥の鳴き声が届き日の光が窓から届く居間で、三人の人外の種が箸と器を手に取り朝食を口に運ぶ。
その三人は元よりこの八雲邸に住んでいる紫と藍、そして朝早くから押し掛けて朝食をねだった天子。
メニューはご飯と焼き魚に卵焼き、そして味噌汁と言う正に定番と言うべきメニューであった、定番と言っても長らく八雲家の家事を担当してきた藍の手にかかれば思わず唸るほどの出来となる。
「はぁ~、やっぱり下界のご飯の中でも藍の料理は最高ね、普通の材料なのに里の飯屋よりずっと美味しいわ。」
味噌汁をすすっていた天子が口から器を離し、一息つくと思わず賛辞を送った。
その顔は美味しさからか笑顔であり、お世辞などでもなく心から出た言葉だというのが良くわかる。
「フフフ、何分長い間紫様の周りを任されてきたからな、長い時間をかけてこの域まで来たのさ」
「つまり主人がグータラだからこそ生まれた味ってわけね」
「あらあら相変わらず減らず口をたたく娘ね、人の粗しか言えないのかしら?」
「あんたが粗ばっかな上に目立ち過ぎなだけでしょ、前まで昼過ぎまで寝てたとか信じられないわよ」
他愛ない会話が弾む楽しい朝食、大妖怪相手に全く怯まない客人と軽口を叩きあいながら箸を進める。
以前まではこの時間はまだ寝ていたものだが、最近はいつもこのように三人で、前日に橙が泊まったときは四人で朝食を食べている。
この騒がしい客が数日前から毎日来るようになって、ここも変わったものだ。
* * *
「……ごめんなさい」
「ほぇ」
その客が来たのはいきなりの事だった。
ある日の紫が起きてからすぐの頃合、藍に自分への来客と言われて顔を出してみれば泥で汚れた服装にボサボサの髪、そして顔を真っ赤にした天子がいた。
何だこの前の異変の時のお礼参りかと身構えて出てみたら、目が合った瞬間桃を突きだされて謝られた。
寝起きの頭に思わぬ不意打ち、つい変な声も零れ落ちる。
……まさか謝罪の言葉を送ってきた? あの天人が?
いやいや、天人は妖怪なんぞ下賤な輩と見下しているのが殆どだ。
大方これも何かの策略……だと思うのだけれど顔が物凄く真っ赤で、まるでトマトみたいで。
演技でもここまでできるものなのか? あ、でもちょっと可愛い。
寝起きと言うこともあるが、通常考えられない状況に思考がまとまらず脱線しがちだ。
なんせ長く生きてきた紫だったが、今まで高慢な天人が地上のものに対して頭を下げるなど見た事も聞いた事もなかったのだ。
天人が妖怪に頭を下げるなんて世界で初めてなんじゃないだろうか、混乱して呆ける紫を見て天子は不満そうに漏らす。
「投我以桃、報之以李って言ったのはあんたでしょうが」
ハッ、と意識を戻しながら紫が押し付けてきた桃を受け取る、まさか本当に桃を持って謝りに来るとは。
しかも泥にまみれた格好から、慣れない山道に四苦八苦しながら来たのであろう事が見てとれる。
「謝りに来たのはわかったわ、だけどどうやってここまで来れたのかしら。ここはそう簡単にこれる場所ではないのだけれど」
結界の端に存在する八雲邸は紫が自ら結界を張り隠されており、どんな大妖とあれど見つける事はできないだろう。
特定の条件を満たせば辿り着けるようにしてあるが、それ以外の方法ではとてもじゃないが辿り着けないし、そもそも屋敷自体がどこら辺にあるのかも一部のものしか知らない。
「あんたの式を探して、ここまで連れてきてもらったのよ」
紫が思ったことはただ一つ、何やってんだあの九尾!
だが後で問い詰めてみると、「顔真っ赤にしてお願いしてきて、しかも断ろうとしたら涙目ですよ、断れません。」と言われて仕方ないなと納得したりする。
しかし今の紫はそんな未来などわからず、後でどんな躾をしてやろうかなどと黒いことを考えていた。
そしてその顔は、天子から見ればまるで自分が来たことを嫌がってるように見えるわけで。
「何よせっかく謝ったのにその態度、私がここまで謝りに来たら迷惑っていうの!?」
「えっ、いやごめんなさい」
恥ずかしそうな態度から一変、しかし顔は依然真っ赤のまま怒る天子に紫も思わず謝った。
隙間妖怪が謝罪するなどこれまた珍しい光景である。
「あ~、もう、勝負よ紫! どうせいつかはリベンジしようと思ってたんだから好都合よ、表出なさい!」
そのまま騒ぎ立てる天子につられ仕方なく紫も仕方なく弾幕を興じ、そして勝ったのであった。
その結果に悔しそうにしながら、「覚えてなさい、次は勝つんだから!」と言い残して、天子はその場から飛び去っていった。
そして次に天子が来たのは翌日、それも朝からであった。
「起きろ紫!」
「ゴフゥッ!?」
いつも通り惰眠を貪っていた紫を天子の要石プレスが襲う。
いかな隙間妖怪とあれど就寝中にそんな事をされては起きざるを得ない、すぐに気絶してまた寝そうではあるが。
「全く何でこんな時間まで寝てるのよ、水かけてみても起こしても全然起きないし。思わずスペルカード使っちゃったわ」
起きないからって水をかけるな、思わずでスペル使うな、色々ツッコミたかったが今の紫にそんな余裕はない。
要石がどかされて身体の自由が利くようになると、急激に目が覚めたため少し気分の悪い頭を抑え体を起こす。
すると太陽のような笑みを浮かべた天子が。
「とりあえずおはよう紫!」
とりあえずお返しに列車に轢かれてもらった。
その後、隙間経由で外に飛び出すと寝巻きのまま着替えもせずに弾幕勝負に移行したやった。
しかし最初に受けた攻撃と覚醒しきらない頭のせいですこぶる調子が悪かったが、戦ってるうちに天子は顔を赤らめ動きもおかしなものになっていった。
「せせせ、せめて服装正してから戦いなさいよ!」
指摘されて初めて自分の寝巻きは乱れ、胸やら下着やらが丸見えだった事に気付く。
恥ずかしかったがだからと言って負けるのは癪なので、その隙を逃すことなく弾幕を浴びせてまた勝ったのであった。
それからだ、天子が勝負を挑むためにと毎日朝早くに来て紫を起こすようになったのは。
あれからだ、八雲家が騒がしくなったのは。
* * *
「あ~、まーた負けた!」
そして現在、朝食後少しまどろんだ後に行われた、毎朝恒例の弾幕勝負ではまたもや紫の勝利で終わった。
その結果に天子は草むらに寝転がりながら空に突き出した腕を振り回し憤慨している、手に緋想の剣を持ったままなので見ていて非常に危なっかしい。
「よくもまぁ毎日飽きずに挑みにかかれることね、毎回負けてるというのに」
「ふん、こちとら空の上で数百年暇してたのよ、この程度の事じゃ堪えないわよ」
「つまりマゾだから堪えないと」
「ちっがーう!」
いつのまにか足元にまで近づいていた紫に向って天子は起き上がりざまに剣を振るった、だがヒラリと難なく避けられた。
こんなやりとりはいつものことなので避けられるとわかってはいたが、実際に簡単に避けられると無性にイライラしてくる。
「このグータラ妖怪~、昼寝魔人~」
「なんとでも言っていなさい、負け犬が何を言っても見苦しいだけどもね」
「隙間ババァ~……痛いっ!?」
最後の罵倒が出た瞬間天子の頭上に隙間が開きそこからタライが落下、カコーンと非常に良い音を立てて激突した。
天子は涙目で痛む頭を抑えていたが、すぐにまた食ってかかる。
「いきなりなにすんのよ!」
「お黙りなさい不良天人、身の程を知れ」
無礼な天人に殺気を漲らせ突き刺すような視線を送る、こと隙間妖怪には年のことは禁句なのである。
なぜなら彼女はババァなどではなくやくもゆかりん17歳☆になっているのだから。
しかし場の空気などまるで気にしない比那名居天子、二度目の博麗神社倒壊時に既にその殺気を浴びたこともありその程度では怯まない。
「ふんホントのこと言われてそこまで取り乱すなんて見苦しいわよ、私のように不良天人なんて言われても何てことないくらいドッシリ構えなさい」
「……絶壁天人」
「胸のことは言うな!」
そのまま揚げ足の取りあいを続けていたが口で紫にかなうはずもなく、まもなく天子が劣勢になり「次こそ勝つんだからねー!」とお決まりの台詞を残し飛び去って行った。
距離が離れて天子の蒼い髪が空に溶けていくさまを、紫は静かに眺め続けていた。
「……また明日も来るんでしょうね」
全く面倒な事だと呟いて溜息をつくと、隙間を開きその中に入り込む。
しかしその顔には、言葉とは裏腹に笑みが浮かんでいた。
* * *
閻魔の裁きを受けた後、転生や成仏を待つ霊が一時的に身を置く白玉楼。そこの庭を縁側から眺めながらまどろむ亡霊が一人。
「幽々子様、お茶と煎餅をお持ちしました」
「ありがとう妖夢」
屋敷の奥から妖夢が持ってきたお茶を幽々子は手に取って、熱い内に一口すする。
と、ついと突然目の前に黒い線のようなのが現れた。
そのままその線は広がって別の場所の空間と繋がると、そこから幽々子の友として白玉楼にはよく来る紫の姿が現れる。
「はぁい、久しぶりね幽々子、お邪魔するわ」
初めてこれを見た者は誰でも驚くだろうが、彼女をよく知る白玉楼に住む二人には別段いつもの事で驚く要素などどこにもない……筈だった。
けれど何故か今日に限って二人とも紫の姿を見て呆気にとられている。
「あら? どうしたのかしら二人とも」
今までに何度も来ていたが、こんな反応は初めてである。
まさか天子が悪戯で顔に落書きでもしたのかと怪しんでいると、突然幽々子が紫の肩を力強く掴んできた。
「紫、今すぐ永遠亭に行きましょう」
「えっ、幽々子?」
「かわいそうに紫様……不眠症になってしまわれたのですね」
「ちょっと何かしら妖夢まで、別に夜はちゃんと寝れてるし健康体よ!」
本気だった、本気で紫の心配をしていた、目がうるみ声には悲哀がこもっている。
そこまで自分の心配をしてくれるのは嬉しいのだが、こんな時間に寝てないだけでここまで心配される自分が何だかちょっと情けなくて紫は声を荒げる。
「たとえ夜寝れても、異変もないのにこんな時間に起きてるなんておかしいわ紫。あなたは日に20時間は寝ないとだめだって言ってたじゃない」
「いや、確かによく寝るとは言ったけど、そこまで長い間寝ないといけないなんて言った覚えはないわ幽々子。それに別段睡眠時間は通常通りでも支障はないし」
「しかし睡眠は紫様のアイデンティティと言っても申し分ないです、こんな時間まで寝てなければアイデンティティが崩壊して心が壊れ……」
「ないから、別にそこまで深刻な話じゃないから、ちょっと二人とも落ち着きなさい!」
結局やたらと紫を心配する二人を落ち着かせ、なぜ自分が早起きしているのか説明するまで半刻ほどの時間が必要だった。
ようやく問題はないと理解した妖夢が冷めてしまった幽々子のお茶に加え、客人の紫の分までお茶を淹れると場は雑談に移る。
「つまりあの天人が毎日紫を起こしに来ていると」
「その通りよ、その後図々しく朝食をねだる上勝負まで挑んでくるからいささか面倒なのだけどねぇ」
「ふぅん、面倒ねぇ……」
「それに朝以外にもいきなり来たかと思えば、『どうせ隙間使って覗き見してるんでしょ? 面白そうだし私にも見せなさい!』とか言ってきたりね、失礼しちゃうわ」
ちなみにその時覗いてたのは本当で、結局肩を寄せ合って隙間から博麗神社を覗き見することとなった。
そのままお茶や煎餅を横取りしたりと悪戯するものだから、自分に疑惑が浮かばない内に霊夢に突き出しておいた。
その後天子がちょっとトラウマになるくらい折檻されたのは言うまでもない。
「そういう風に来た時はそのまま夕食まで居座るし、藍の料理が美味しすぎるのも考えものねぇ」
「あらあら、夕食までずっとお二人で何してるの?」
「向こうからあれやこれや話しかけてくるのよ。それにしてもあの娘いつも笑ってるわね、勝負に負けたりしなければ一日中笑ってそうだわ」
「へぇそうなの」
いつもなら煎餅を口に運びながら話を聞く幽々子が、どうしたことか何も口につけず紫の話を聞いていた。
その代わりいつもならもそもそと動いているだろう口が、やたらとニヤついている。
「あぁでも恥ずかしがり屋で謝りにきた時とか顔を真っ赤にしててちょっと可愛かったかしら……って何かしら幽々子、そんなにニヤニヤと笑って」
何やら幽々子の目は薄く狭められ、何故だか紫にはその目が怪しく光ったように見えたりした。
さっき散々まくしたてられたのに、まだ何か問題でもあるのかと思うとげんなりする。
いつも通り友人と世間話を楽しみたいだけだったはずが、どうしてこうなった。
「しかし寝ている紫様を起こすなんて、あの天人も中々無茶をしますね」
「全くもってその通りだわ、初めの頃なんてスペルカードを使ってまで叩き起こしてくれたしねぇ」
「へぇ……ねぇ、紫」
「あら何かしら」
相変わらず幽々子の口元は吊り上っている。
どうやらまだ何かあるようだ、せめてお茶だけでも楽しもうかと口を付ける。
「つまりその天子と言う子が大好きなわけね!」
「ブゥ――ッ!?」
思いっきり口からお茶が噴出して虹を描いた。
控えていた妖夢が「畳が!?」などと言っているが、吹いた拍子に器官に入ってむせてしまいそれどころではない。
「ゲッホ、ゴッホ! ゆ、幽々子、何を言っているのかしら……?」
「あら……あっ、ごめんなさい、愛しているの間違いよね」
今度はゴンッと机に頭を打ち付けた。
上質な机が大妖怪の力を前にへこみ、また妖夢から「その机高かったのに……」と悲しい声が聞こえる。
「な、なな、んなぁ、何を言ってるのかしら幽々子私が天子を愛してるだなんて馬鹿らしい」
本当に何を言っているんだろうか幽々子は、一体どこを取ればそうなると言うのだ。長い間亡霊をやっているのでボケてしまったのだろうか?
しかし何故だかわからないが顔が熱い、真っ赤になっているだろう事が感じて取れる。
急いで扇子を隙間から取り出して顔を隠した。
「だってぇ、じゃあ何で紫は無理やり起こす天子を寝室まで通してるの? 面倒なだけなら藍に言って追い返すなり、別の結界張ってやり過ごすなり色々やり方はあるじゃないの」
「そ、それはその……」
はて、そう言われてみればそうする事も出来た筈だ。
おかしい、何かおかしい。
どこぞの門番よりも惰眠を好む自分ならば、本来それらをすぐに思いつき実行に移していた筈だ。
それなのに今回は全くそんな事が思いつかなかった、余りに間抜けと言うか寧ろ不自然である。
「その様子じゃ思いつかなかった? きっと好きだから追い返す方法なんて考えようとしなかったのねぇ」
「そんな事ないわ、そもそも何故幻想郷を愛する私が博麗神社に要石なんて仕込んだ相手に惚れなければならないのかしら」
「その事なら最初に謝られたんじゃない、紫ならそれをネタに相手を弄っても根に持ったりはしないわ。それにいつものらりくらりかわす紫が、毎日同じ相手に迫られて弾幕ごっこしちゃうなんて変じゃないの?」
「そ、それは……」
反論できない、確かに自分なら適当にあしらって帰してしまう事だろう。それが何故天子だけ特別なのか。
もしかして幽々子の言うとおり本当に……いやないない、相手は天人だぞ、同性だぞ、おまけに性格悪いぞ。
でも笑った顔とか可愛くていつも元気で……って待て、とりあえずお茶でも飲んで落ち着け自分。
そう思い湯呑を鷲掴むと、むせた時にこぼれて濡れていたが気にせずお茶を一気に飲み干す。まだ熱を持ったお茶が体の内側から過剰に温める。
もはやお茶を飲む動作すら落ち着いていないのだが、それすら気づく余裕がない程に紫はうろたえていた。
「ほらほら、いい加減認めちゃったらどうなの」
「で、でも相手は天人よ!」
「天人だけど彼女は他のとは違うでしょ、不良天人なんて言われてるらしいし」
「性格悪い……」
「要するに茶目っ気があるって事でしょ?」
「ど、同性じゃない彼女!」
「幻想郷は同性愛だって受け入れるわ」
駄目だ、咄嗟に思い浮かんだ反論はあっという間に全滅だ。
それに今の幽々子の答えは考えないようにしてただけで、少し考えれば自分でもすぐ浮かんでいただろう。
それならば、と控えていた妖夢に顔を向ける。
「よ、妖夢は!? 妖夢はこんなの恋なんかじゃないと思うわよね!?」
「どうみてもベタ惚れです、ごちそうさまでした」
ぬおぉぉ、主従揃って意見同じか。
と言うかごちそうさまってなんだこの従者、何甘いもの食べたみたいな顔しているんだ。傍から見たらそんなに甘かったのか今の話。
紫の顔は耳まで全部真っ赤、いつか謝罪に来た天子にも負けないぐらい赤い。幾ら扇子で隠しても照れているのが丸分かりであった。
それでも紫は意見を曲げない、それは意地になっているのか照れてて認めづらいのか。
だが実際はどちらでもなく今まで他人の恋しか経験した事がないからで。
要するに天子が紫の初恋なのだ、初めてのことに今のこの状況も相まって混乱しているのである。
だからこそ反論なんて出ない、出たとしても張りぼての理論で先程のようにあっという間に潰れてしまうだけだ。
「いやぁ~、遂に紫にも春が来たのね~」
「えっ、紫様って初恋なんですか」
「以前、今まで恋した事なんかないって言ってわ。ねぇ紫、式には呼んでね?」
「し、式!?」
だが混乱する紫に落ち着く暇は与えられない。
いつもは決して見せない紫のそんな姿に幽々子も妖夢も面白がり、立て続けに追い討ちを掛け続ける。
「不肖ながら紫様、仲を良くするには里をデートすると良いと思います」
「あら良いわねぇ、一緒に美味しい物食べ歩いたり。そして近づく二人はやがて手を繋いで……」
「て、手をつな!?」
「どうせならアクセサリーとか買ってあげたら? きっと貰った天子はそれを見るたび紫のことを考えるのよ」
「お揃いだとなお良いですね」
「あわ、あわわわわわわ」
もはや紫は何もできず、ただ恥ずかしがるばかりだった。
そんな本人など構わずにこれはどうだ、あれはどうだ、と幽々子と妖夢は二人で話を進め続ける。
しかもその全てが、なんというか、今言われた状況を想像するだけで体の奥から熱いものがこみ上げてくるのである。
まずい、この場はまずい。このままここにいると茹で上がってしまう、いや既に十分身体の芯まで熱くなっているが。
「せ、せ……」
「どうしたの紫?」
「紫様?」
「戦略的撤退!」
「「あっ!」」
瞬時に隙間を開くと、二人が声を掛ける間もないままに紫は飛び込み隙間を閉じた。
ドタドタと音を立てて、八雲邸の自室になんとか辿り着く。
あぁ、何やら鼓動がうるさい、胸に手を当て興奮した心を落ち着かせる。
髪が汗で濡れ肌にくっつく、そろそろ夏も終わりなのに背中まで汗でびっしょりだ。
着替えたほうが良いかなと思っていると、紫様?とふすま越しに声がかかる。
どうやら異変を感じてか藍が部屋まで訪ねてきたようだ。
「あぁ藍、別になんでもない……いや、藍入りなさい」
「? はい判りました」
失礼しますと断って藍は部屋に入ってみると、扇子で目元まで顔を隠した紫がいた。
本人は赤くなった顔が隠してるつもりである……のだが、顔中赤いため、全然隠しきれていないのだが。
「どうしたんですか紫様、そんなに顔を真っ赤にされて」
「え゛っ、いやそんなことはどうでも良いのよ、ちょっと話を聞きなさい」
「はぁ」
なにやら様子のおかしい主だが、話を聞く以上姿勢を正しくせねばならない。藍はふすまを閉めると正座で紫に向き合う。
対して紫は落ち着かない様子で、あーやら、うーやらうめいた後、一つ咳をついてようやく話し始めた。
「さっき幽々子の所に行ってきたのよ」
「はい」
「そこで天子の話をしたらね……えー、その……私が天子に、ほ、惚れてるとか言い出したのよ、おかしいと思わない?」
「えっ」
おぉ、中々良い反応だ、藍はまるで信じられないとでも言いたげに見つめてくる。
やっぱり私があんな小娘に惚れるなどある訳ないのだ、一番傍にいる従者が言うのであれば間違いないはずだ。
「まだ自覚されてなかったんですか」
……どうやら惚れてるので間違いないらしかった。
* * *
それから先のことはあまり覚えていなかった。
ひたすら恥ずかしがってわめき散らしたような気がするが、気が付いたら幻想郷で一番夕日が綺麗な場所で膝を抱えて座り込んでいた。
ここは他の者には知られていない穴場だ、少なくともこの場所で知り合いに会ったことは今まで一度もない。
そこで沈み行く夕日を眺めながら心を落ち着けていく、おかげで顔の熱は引いてきたしぐちゃぐちゃだった思考もクリアになってきた。
そしてその状態で考えてみた結果が。
「やっぱり、私天子が好きなのかしら」
「私がどうしたの?」
「へ?」
慌てて後ろに振り返ると、痛々しい音を立てて額と額がぶつかり合った。
「「いったぁぁぁい!」」
痛い、凄く痛い、何て硬い石頭。
いやま、それは当然か。相手が声で察したとおりなら、確かナイフも刺さらない鉄のような身体であった筈だ。
痛みに悶えながらもぶつかった相手を見てみれば。
「だだだ……ちょっと、気を付けなさいよ」
「あらあら、人の話を盗み聞きする相手に遣う気はありませんわ」
予想通り、先程から悩んでいる元凶。涙目で同じように額を擦っている天子がいた。
「それで……聞いてたのかしら?」
「? 何が?」
「さっきの独り言よ!」
「えっ、そんなに聞こえてたらまずいものだったの? あぁもう、聞き逃さなきゃよかった」
良かった、内容まで全部聞かれていたわけではないようだ、胸の内で安堵する。
「それより、そっちこそ私が何なのよ」
「別に、ただかわいそうな娘だと思っていただけよ、主に胸が」
「何ですってー!!?」
怒ってご自慢の緋想の剣で斬りかかってくる天子を適当にいなす。
しかし何でこんなところにいるのであろうか、今まで誰も来たことがなかったのに。
「ところで何であなたはここにいるのかしら? 今まで誰も来た事ない穴場なのに」
「ん? そりゃあ自分で見つけたのよ、下界に降りてから幻想郷の色んなところ回ったから。ここもその時偶然見つけたのよ」
つまりはわざわざ何もなさそうな森を、一人で探検したりしたと言うことか。
相当な物好きと言うか、それか天界で暇してた身にはそれも楽しかったのか。
……楽しんだのだろうな、目を輝かせていつも通りの笑顔で森を行進しているさまが目に浮かぶ。
「あなたは本当に、いつもよく笑うわね」
想像の中の天子があんまりにも楽しそうに笑うものだから、ついそんな言葉が口から零れ落ちた。
「へ? 何よ突然」
「あぁ、あなたいつも楽しそうに笑ってるからね、どうしてそんなにいつも笑ってるのかと」
「そんなにいつも私笑ってる?」
「そりゃあもう、いつもよ」
自分でも気付いてなかったのか、それを聞くとうつむいて黙り込んで何か考え始めた。
やがて考えを終えると面を上げた、その顔はまたいつものように笑みが浮かんでいて夕日がそれを照らす。
「やっぱりさ、私が笑うのはここが楽しいからね」
風になびく蒼い髪が夕日に照らされて煌めいて、笑顔と合わさったその姿はとても幻想的だった。
そんな天子を見て、ついドキッと胸が高鳴る。
「食べ物は美味しくて空気も美味しい、景色は綺麗、友達がいて一緒に競い合える。これが楽しくなくて、笑わなくてなんだってのよ!」
その言葉を聴いて、天子もこの幻想郷を愛してくれてることを知り。
その顔を見て、あぁ自分はこの笑顔に惚れたのだなぁと、己の恋心を自覚した。
「……だから、ここを守ってくれてる紫には、ちょっとは感謝してたり」
「何か言ったかしら?」
「べ、別に何も言ってないわよ!」
「あらそう、でも感謝してくれるならまず最初に、博麗神社に要石を仕込んだりしないで欲しかったわね」
「って、全部聞こえてるんじゃないの!」
さっきから胸の高鳴りが収まらなくて、照れを隠そうと必死に普段通りに振舞った。
顔の赤みは夕日が隠してくれるし、見えたとしても憤慨する天子は気付くまい。
……まぁでも、たまにはいつもと違うのも良いか。
「ねぇ、天子今日の夕食は私のところで食べない?」
「だからあれは悪かったって思って……へ? 紫から誘ってくるなんて珍しい。いつもなら「夕食をねだるなんて、なんとまぁ卑しい天人だこと。あぁ、緋想の剣を盗む時点で十分程度が知れてたわね、ごめん遊ばせ」とか言ってくるのに」
「フフ、今日は少し気分が良いのよ……と言うかそんなに私口が悪かったかしら」
「うん、多分」
……少し天子弄りは自重するべきか、これくらいで堪えるとは思えないが嫌われるのは嫌だし。
いやでも改めて思うと、弄られて顔真っ赤にする天子は凄く可愛いじゃないか、自重できるだろうか。
むむむ……と悩む紫の顔を天子が覗き見る。
何か考えているようだが、その表情から深刻なものは天子は読み取れなかった。
「でも良かった、なんか落ち込んでたみたいだけどもう元気みたいね」
「あら心配してくれたのかしら?」
「し、心配とかじゃなくて! ほら対戦相手が不調なんじゃ勝ったって仕方がないし! あ~、ほら早く家行きましょ、隙間出して隙間!」
「はいはい」
天子にボフボフと服を叩かれて急かされ、紫は隙間を作り出す。
バックリと割れた黒いそれが出来上がると、天子はその中にピョンと飛び込んだ。
別に飛び込む必要はないのだが、それに隙間での移動は少しコツがいるから向こう側で着地に失敗し尻餅でも着いてそうだ。
……よし、やっぱり自重せずからかおう。
きっと顔を赤くして可愛い姿を見せてくれるだろう。
フフフと笑いながら紫も隙間の中に入り、その場から消えていった。
* * *
紫が自分の恋心を自覚してから数日が経った。
しかしだからと言って日々に劇的な変化があるわけではない、ちょっと紫が天子に対する態度が少し変わったくらいで他には変化はない。
と、言うのも。
「紫ってさ、何か初めて会った時より綺麗になってない?」
「へ!? そ、そうかしら?」
「うん肌の張りとかそういうの、もしかして妖怪って変わりやすいの?」
天子の言うとおり妖怪というものは精神に影響されやすい。
紫が綺麗になったのならばやはりそれは天子の影響であろう、恋が乙女を昇華させた。
しかしいきなり褒められた紫は、顔を赤くしてうろたえるだけだ。
「ちょっ、どうしたのよ紫顔が赤いわよ、熱でもあるんじゃない?」
心配した天子が自然に紫の額に手を当てる。
「!!???!!?」
「ちょっ顔赤過ぎ!? 寝てなさいよあんた!」
いきなりの触れ合いに嬉し恥ずかしで紫が真っ赤に染まる。
心配してあたふたしながらも紫の体を気遣う天子。
「へたれだ……」
傍目からそれを見ていた藍は誰に言うでもなく呟いた。
恋愛もので、周りの人がきゃいのきゃいのはしゃいではやしたてる様子、和んじゃいます。
処女作とはいえ、一通りのことは書けているような気がします。
形式的に、行間は詰めてもいいかなあ……。ということぐらいしか、アドバイスが思い浮かびませんでした。
次作もきたいします。
バージンでこれとか神ですねwww
乙女なゆかりんいいお
続きキボンヌ
幻想郷
ゆかてんひゃっほい!!
つまり
味噌汁を口に含んだまま、的な描写だったら失礼をば
もう少しじっくりと紫の恋を自覚するまでを描いてもいい気がしますけど、まぁ、その辺は好みっすね
良いゆかてん、ご馳走様でございました。
氏がいつかゆかてん作家と呼ばれる日がくることを祈ってやろう
つまり、もっとゆかてんくだちい
珍しいカプですが綺麗にまとまってますし、何よりニヤニヤが止まらないという…
このクオリティを今後も維持できるとしたら今は特にこれといったアドバイスも浮かばないです
今後に期待して全裸待機してます
ごちそうさまでした。
>マヨヒが→マヨヒガ >仕方なく紫も仕方なく←重複してます。敢えてでしたらすみません。
>見苦しいだけどもね→見苦しいだけだ~(あるいは、見苦しいだけね) >がが良くわかる←「が」が余分です。
>浮かばれていた→浮かんでいた >感じで取れる→「で」濁点は要らないですね。意味は通りますけど;
>中を良くする→「仲」じゃないとちょっとエッチですね。 >斬かかってくる→斬り(ry
>ことが知り→「を」 >凄い可愛い→凄く可愛い(うるさいですが日本語としてはこの場合、「凄く」が正しいです)
後は読点をもう少し置いた方が読みやすいかな、と思いました。
などと色々うるさく書いちゃいましたけど、ゆかてん最高!!
上の方も言ってますが、ゆかりん→てんこは珍しいなぁ
夕日がきれいな場所で体操座りするゆかりん可愛すぎwもっとゆかてんプリーズ!
重複してます。敢えてならすみません。
面白かったですよ
完全に初めてだったら凄いですね、とても読みやすい作品でした。
天子が純粋でいて紫が意識しているっていうのは新鮮で楽しめました。
物語的にはやっとスタートラインでここから……って感じですけど、ひとまず区切りのようで。短編なのかな?
ゆゆさまとみょんがゆかりん弄るとことか大好き
これは続くのかな?とにかく次作も期待してます
なんという甘さ……。良いですね、実に良い!
ゆかてんはもっと増えるべきですよねー。私もゆかてんは大好きです。
次回の作品にも期待させてもらいますねっ!
一番笑ったのは最後の藍様のセリフだったり
これは是非続編期待。
あとですね、3分の1を読んだあたりからニヤニヤが止まらなくなりましたどうしてくれるw
処女作という事で仰天しつつ、次回作もこっそりとお待ちします~。
次回の作品にも期待してます
こんなかわいい紫は初めてかも
ゆかてんの時代が始まったな
この作品でゆかてんに目覚めたかも。
ここまで乙女な紫は初めて見るのでごちそうさまです
こうなることが初めから決まっていたかのようにくっつく紫と天子が可愛らしかったです
末永く幸せになってほしいです!