すがすがしい朝、だがもう太陽は高くまで昇っているというのに、幻想郷を代表する神社の管理を任されたその人、博麗霊夢は未だ布団の中にいた。
まぁ、いい年をした女の子が腹出して寝るなんて恥じらいというものを知らないのだろうか。
昨日の夜きちんと体に掛かっていたのであろう掛け布団は今は部屋の隅にあり、霊夢は文字通り大の字になって寝ている。
涎をたらし、お腹を掻きながらグースカ寝ている少女が人里で英雄視されているあの巫女と同一人物とはとてもとても見えないだろう。
「ん、ん~」
おや?目が覚めたようだ。霊夢は大きな伸びをした後大きく左右に頭を振って洗面所のほうへ向かった。
鏡の前に立ち、無造作に水で寝癖を整え始める。水で整えますか普通。本当にこの子は女の子なのだろうか。
まだ寝癖が目立つ髪のまま歯磨きを始める。終わる。早い、早すぎる。本当にちゃんと磨いたのか。
最後に顔を洗って洗面所を出る。せめて顔を拭きなさい。
本当にこの子は女の子なのだろうか。改めて疑問に思う。
朝食の支度をして部屋の隅に片付けておいたちゃぶ台を引っ張り出す。
今日の朝食はご飯と味噌汁、そして鮭の切り身を焼いたものらしい。日本の定番の朝ごはんだろう。
「いただきます」
霊夢は律儀にも正座して手を合わせて言った。こういうところはきちんとしている。
よく噛んで美味しそうに食べる。とても幸せそうだ。
こちらのほうにも味噌のいい香りが漂ってくる、お腹がすきました。
「ごちそうさま」
これまた正座して礼儀正しく言う。相変わらず早い。
台所に行って片付けをした後、霊夢は縁側に向かった。
朝の日課である掃除を済ませ、縁側に座りながら霊夢はお茶をすする。
「ねえ紫、さっきからぶつぶつうるさいんだけど」
霊夢はこちらをジロリと向きながら呟いた。
「口調もおかしいし、何してるのよ」
いいじゃない別に、暇なのよこっちは。
それにいろいろと大変なのよこれ。口調も変えないといけないし。
「じゃあ止めればいいじゃない」
だから言ったでしょ、暇なんだって。それに結構楽しいのよ、これ。
一度やってみたかったのよね、地の文。ほら、地の文って作品を自分の思いのままに出来るじゃない?
まるで神になったような気分なのよ。”地の文を使い、私は新世界の神となる!”みたいな?
「さいですか」
もう、そんなつれない顔しないの。
霊夢と談笑していると階段の方から人影が見えた。おや珍しい。
「うるさいわね」
霊夢、女の子がそんなふうに睨まないの、私は本当のことを言っただけよ。いつも誰も来ないじゃない。
「紫、新月の夜はせいぜい背中に気をつけなさい」
大丈夫よ、新月の日は朝からずっと背中を下にして寝てるから。
「よっ、霊夢。ってなんだ先客がいるのか?」
階段の下から現れたのは魔理沙と早苗だった。なんだ。
「なんだとはなんだ、失礼な」
なんだと思ったからなんだと呟いただけよ?私は何も変なことはしてないわ。
霊夢、残念だったわねぇ。参拝客じゃなくて。
「いちいちいやなやつだぜ」
いやなこと気にしてるとすぐ老けるわよ。
ところで、わざわざ階段を昇ってきたのかしら?
いちいち階段を昇らんでも飛んでくりゃええのに。
「いやいや、途中ばったり早苗とあってな、飛びながらだと風がうるさいし、のんびり来たってわけだよ」
「そうなんですよ、実は今日霊夢さんに頼みたいことがあって」
「ん?ははひ?」
霊夢は煎餅を口に方張りながら答えた。
「はい、そうなんです!実は神奈子様が妖怪の山で急に暴れだしたんです!助けてください!」
早苗は縁側に腕をドンッと乗せて言った。一方の霊夢はそんなことなどお構いなしにお茶をすすっている。
「へー、そーなのかー。ってかあんたの神社のことなんだから自分で解決しなさいよ」
明らかにめんどくさそうな霊夢の反論、だが早苗は気にしないようで
「私は神奈子様に逆らうことなんて出来ませんよ。それに神奈子様はああ見えても武神ですからなかなか止められませんし」
「で?なんで神奈子は暴れだしたの?」
霊夢は今度は茶菓子に手を伸ばしながら言った。いい加減に食うのはやめないか?
「詳しくは分からないんですけど、私が朝起きたときに信仰が足りないとか何とか言っていきなり外に飛び出したんですよ」
「はぁ?そんなどこぞの秋の神様じゃないんだから信仰なんていくらでも来るでしょう?」
それは秋姉妹に失礼だろう。あの神様たちは意外と人里では崇められている。
ただ、秋の時期だけにしか力を発揮できないのであまり力が強くないだけなのだ。
霊夢は人の心配をせずに、まず自分の神社の行く末を考えなさい。
「うるさい」
「そうなんですけど、なんでか神奈子様は暴れだしたんですよね」
早苗は華麗にスルー。やはり山の巫女は格が違う。
「もしかして、ボケたんじゃねえか?」
魔理沙が横から入ってくる。
「それは無いと思いますけど…っていくら幻想郷に来たとはいえ神奈子様は一応は八坂の御神体ですよ?そんなことは…」
「いや、冗談だよ。そんな本気にすんなって」
そう言い終えると魔理沙はばつの悪そうな顔をして黙った。
早苗と霊夢も腕を組んで考えるようなしぐさをして一切喋らなくなった。
「…まあ神奈子が暴れた理由なんて直接本人から聞けばいいだろ?こんなとこで考えるよりも早く行こうぜ」
魔理沙がほうきにまたがりながら言う。相変わらず考えることよりもまず行動しないときがすまない性質らしい、だが、
「私は行くなんて一言も言ってないわよ?」
霊夢は未だに乗り気でないらしい。今度は羊羹を取り出してきた。
一回にそんなに食べるからすぐ貧乏になるってのに。
「そうですか…。残念ですね」
早苗は眉を寄せ残念そうな顔をしている、しかし口元はわずかに上がっていた。
「今日は久々に夕食はすき焼きをしようと思ったんですけど、いつもの三人ではすこし寂しいですから何人かご招待しようと思っているんですよ。魔理沙さん、来ますか?」
「おお!もち行くぜ!いいのか!?」
私もいいかしら?
「どうぞどうぞ!やはり食事は大人数の方がいいですからね」
早苗はうれしそうな顔で微笑む。
一方、霊夢は目を大きく見開いてこちらを見ている。
さすがは早苗、博麗霊夢がなんたるかをよく知っている。
早苗が霊夢の方へ振り返る。
と同時に、霊夢は大きく跳躍し土下座した。
「さ、早苗様!現人神さま!どうか矮小なる私めもどうかぜひ夕食に参加させてください!どうか!」
あなたにはプライドというものが無いのかしら。
「プライドで飯が食えるかぁ!」
そんな必死の形相を私にされてもねえ。
「でも、残念なことがあります」
早苗が悲しそうに下を見ながら言った。
「お肉の調達係である神奈子様があの様子では、今日のすき焼きは中止せざるを得ませn…」
「行くわよ!」
!!
あ…、ありのまま今起こったことを話すぜ
『霊夢が目の前にいると思ってたらいつの間にか向こうに…
「あいつ、欲望に忠実だからな。ああなったら本当に強いぜ」
話している私を遮り、魔理沙は腕を頭の上で組み、苦笑しながら言った。
人がせっかくネタを楽しんでいるのに邪魔するなんて、いい度胸じゃない?
「そんな使い古されたネタをしても誰も笑わないぜ?」
あんたばか?こういう古いネタが回りまわって新しくなるのよ。
そんなことも分からないなんてびっくりよ。
「…お前のそのおめでたい頭に私はびっくりしたけどな」
あら?そんなにおだててもなにも出ないわよ?
「……、本当、びっくりだよ」
なぜか魔理沙はこちらを白い目で見ているが理由が分からないので無視する。
さて、じゃあ私たちも行きますか?
魔理沙は帽子を被りなおし、ほうきを持って立ち上がった。
「はよせい、はよせい、はよせい、はよせい…」
霊夢が同じことをぶつぶつと呟いている。怖い。
「そうだな、このままあの霊夢をほったらかしにしていたらこっちまで退治されちまうぜ」
なんにせよ、まだ私も死にたくは無いです。
私達はものすごい速さで妖怪の山に向かう霊夢を、かなりのスピードで、それでも距離を離されながら追いかけた。
妖怪の山はまさにこの世に現れた地獄だった。
山を覆っていた色とりどりの木々はいまやその面影も無く、山は一面の焼け野原と化している。
神奈子と思わしき人影の近くには妖怪の山を守るべく無謀にも戦ったのだろうか、妖怪たちが無残にも倒れていた。
軍神が本気を見せるとここまですごいことになるのか…。
「な!なんじゃこりゃ…、すげえなぁ、こりゃあ。守矢神社も大丈夫なのか!?」
「これは…、ここからではよく見れませんがやばいかもしれません」
魔理沙と早苗は山の惨状を目の当たりにし動揺を隠しきれていない。
一方霊夢は
「すき焼き、すき焼き、すき焼き、すき焼き、久々の肉…」
さっきから何かに取り憑かれたかのように同じことをぶつぶつと呟いている。
こっちはこっちでものすごく怖い…。大丈夫なのだろうか。
そうしていると神奈子らしき人影が上昇してきた。
こちらの存在がばれたのかと思って身構えたが、どうやら違うようだ。
山の向こう側から20~30人ほどだろうか、大勢の人影がすごいスピードでやってきた。
あのスピードから見ておそらく天狗だろう、鶴翼陣形でスペルカードを連射している。
おおよそスキマというものが無い、純粋に戦いのための弾幕、おそらくふつうの人や妖怪、神ならば相当の効果があっただろう。だが、武神には意味をなさない。
神奈子らしき人影から、圧倒的な量の弾幕が放出される。
その弾幕は、天狗たちの厚い弾幕をすべて蹴散らし、そして彼らを打ち倒すに十分すぎる火力を誇っていた。
それはそう、彼らに当たらずに山に当たったところの地形がえぐれて変化するほどに。
「なんて物量だい…、山の形を変えちまいやがった…」
魔理沙もその弾幕の火力に唖然としている。
ん?物量?なんか違う気がするが、まあいいか。
さて、私たちもぐずぐずしている場合ではない。
このまま放置しておくと取り返しのつかないことになるだろう。
「そうだな。早いとこ神奈子んところに行ってあいつを止めなきゃ」
「仕えているものを止めるのは少し心が痛みますが…、仕方がありません。これも幻想郷のためです!」
魔理沙と早苗も覚悟を決めたらしい。
一方の貧乏巫女は
「早く行くわよ~!!」
いつの間にか神奈子の方へと向かっていた。
早い、早すぎるよ。こういうとき慌てた方が負けですよ。
というか、あの攻撃を見て一人では危険だと思わなかったのだろうか?
まさか、肉のことに気をとられて見ていなかったとか?本末転倒じゃない。
霊夢がこっちに戻ってきた。
「別に神奈子の攻撃を見てなかったわけじゃないわ。でも、あの火力なら4人で行っても危険なのは変わりないじゃない」
じゃあ、霊夢にはなにか策でもあるのかしら?
「えぇ、危険なのは変わりないけれど、勝つ確率は高いわ」
…詳しく説明して。
「まずは、先行して私一人で神奈子の注意を引く。その後時間を置いて残りの3人が神奈子の背後に回って不意打ちをするのよ」
「なるほど、時間差攻撃ってやつだな!」
魔理沙はひどく感心したように言った。
…はぁ、霊夢、私もその方法は考えたわ。
でも、それじゃあ囮になるものの危険性はものすごく高くなる。実質死にに行くようなものよ。
まさか、あなたも死にたいわけじゃないでしょう?
「まさか。死なない方法があるから提案したんじゃない」
ふーん、教えてもらおうじゃない。その死なない方法とやらを。
「簡単よ。敵の弾に当たらなければいいのよ」
(゜д゜)は?
「さっきの攻撃を見て思ったんだけど、神奈子の攻撃、いつもよりもだいぶ遅かったのよ」
「なるほど…、あまりの火力に驚きすぎて気がつかなかったぜ」
「確かにあの火力と当たり判定の大きさは脅威だわ、でも、当たらなければどうということは無い」
「なら、この場合私の方が適任なんじゃないのか?私の方が早く動けるわけだし」
「いえ、この場合はスピードよりもむしろ正確さの方が大切。あんたの場合は鴉天狗ほどではないにしても、速すぎて逆に自分から相手の弾に当たりに行くことになりかねないわ」
「そうか、その点霊夢なら当たり判定も小さいしな」
魔理沙と霊夢は私たちを置いてきぼりにして議論を始めていた。
でも霊夢?この場合は私が敵の注意を引いた方が確実なんじゃないかしら?スキマもあるわけだし。
「あんたは絶対にだめ!あんたが奇襲の要なんだから」
まぁそうでしょうね。
「どういうことだ?」
魔理沙が首をかしげる。
つまり…
「つまり、紫のスキマをつかって神奈子の後ろに行けるかどうかによって奇襲の成功か失敗が決まるってことよ」
「なるほど!となると必然的に紫以外の人が囮をするわけか」
…つまりそういうことよ。
「だから、やっぱり私が囮を…」
「ちょっと待ってください!」
着々と話が進む中、急に早苗が口を挟んできた。
「その囮の役目…、私がやらせていただけませんでしょうか」
「そうだよ!わざわざ霊夢が危険な目にあわなくても早苗なら…」
なるほど、たしかに一理ある。だが…
「だめよ」
やっぱりね。
「「え…?」」
魔理沙と早苗は二人して面食らったような顔をした。
「なんでだよ霊夢。早苗だったら弾をよけるなんて無茶なことしなくても神奈子の足止めが出来るんじゃないのか?」
「そうですよ!霊夢さんだけが危険な目にあう必要なんて無いんですよ!」
必死に抗議する二人。だがしかし霊夢は聞く耳を持とうとしない。
「紫だってそう思うよな!!」
…私は霊夢の意見に賛成よ。
「な、なんでだよ!なんで紫まで…」
聞きなさい魔理沙。早苗も。
早苗はもともと守矢の勢力の中の一人。
そんな早苗が仕えるものに手を上げたくないといって寝返る可能性は否定できない。
わずかでも寝返る可能性がある人に、重要性の高い囮役は任せることなんて出来るわけが無い。
それに、もし寝返られでもしたら、いくらこちらが意図せぬところから奇襲を仕掛けても、まったく歯が立たなくなるわ。
その点、奇襲側につけておけば監視も出来て一石二鳥、ってとこでしょ?霊夢?
「ええ、おおむねそんなところよ」
まあ本当はもう一つほど理由はありそうだけれどもここでは止めておくわ。
「でも、それじゃあどっちにしろ霊夢さんが危険じゃないですか!
それに、これはもともとは守矢神社の問題なんです!そのせいで霊夢さんに危険が及ぶなんて…私には耐え切れません!」
「でも、あなたが寝返る可能性が拭えない以上ここは私が行くしかないんじゃない?」
「何とかならないんですか…?紫さんのスキマで私を見張っておくとか」
「なるほど…。見張りをつけるか。それだったらいいかもしれない。でも、あんたが提案したものは採用できないね」
「そんなぁ…、じゃあどうすれば…」
「そうだ、これもっていきなさい」
霊夢が差し出したのは陰陽玉だった。
「え?これって、霊夢さんの大事な陰陽玉じゃあ」
「勘違いしないで。別にこれをもたせて攻撃力をアップさせようなんてもんじゃない。これはあくまでも監視用。紫、以前私が紫と通信したときの機能まだ使えるわよね?」
ええ、もちろん。使えるわよ。
「これならあんたを監視できるし、いざというときにあんたを攻撃できる。私も別に死にたいわけじゃあないしね。危険は少ない方がいい」
「え?あ、ありがとうございます!」
「なに礼をいってるのよ、あんたのためじゃなくて監視用だって言ってるでしょう?それじゃあそろそろいくわよ」
ええ、そうね。やっこさんもいつまでも同じところにいるとは限らないしね。
「じゃあ、別れましょう。早苗、あんたは120秒後に神奈子のところへ行って」
「はい!分かりました!」
「なあ、霊夢。なんであんなに早苗に冷たかったんだ?」
「ねえ、魔理沙。神奈子、なんか変だと思わなかった?」
「質問を質問で返すな。…んー、まあ言われなくても妖怪の山をあんなにしたとこから見ても普通じゃねえよな」
それにこっそりスキマから神奈子を覗いてみたけれど、目の焦点があってなかったようにもみえたわね。
「そう、神奈子は誰がどう見ても錯乱している。どっかの兎の目でも見たのかしらね?」
ギクッ
「なんで紫が反応してるのよ。とにかく、あれはかなり不味いわ。もしかしたら身内でも攻撃しかねない」
「もしかして、霊夢、早苗を心配して…」
「だとしたら?」
「似合わねえ!ぜんぜん似合わねえ!!」
「でも、今回は洒落にならないかも知れないわよ?」
そうね…、相手は一度負けたとしても武神。用心して掛かるに越したことは無いわ。
「あと30です!何秒くらい引き付けておけばいいんですか?」
私達が持っている陰陽玉から早苗の声がする。
そうね、出来る限り引き付けてちょうだい。そうすればあとはこちらが隙を見つけるから。
「分かりました!」
「無理するなよ、早苗。危なくなったらすぐ逃げろ」
「逃げる暇があれば逃げますよ」
魔理沙が労いの声をかけ、早苗は気さくにそれに答えている。
うん、これだけリラックスできていれば大丈夫なんじゃない?
じゃあ神奈子が見えたら連絡を。
「送りますよ!0!」
早苗の合図で作戦が開始する。
「見えました!これから接触します!」
うん、無理はしないでちょうだい。
「なんだ?早苗ではないか、なぜここにいる」
「いえ、神奈子さまが心配になりここに参りました」
陰陽玉から見えるその様子は明らかに神奈子がいつもとは違った趣であることを如実に物語っていた。
なんかいつもの人当たりのいい雰囲気が一切無い。純粋に怖い。
あれー?おかしいなぁ。まあいいか、これも一つの結果だ。
「ふむ、そうか。おまえのようなものがいてくれると心強い、一緒に来てくれるか?」
「ええ、もちろんです。ところで神奈子さま、これはいったいどうしたのです?まさか神奈子さまがお一人で?」
「いやあ、なに。これも信仰を集める一環にすぎん」
「信仰を集める…、ですか、しかしなぜ?」
「早苗、いいか、なかよしこよしで信仰を集められる時代なんてもう終わったのだ!もはや畏れのみでしか人々は信仰などしない!」
なにをいきなり常人が聞いたら頭の具合を尋ねられそうなこと言っちゃってるのかしら。
「え?し、しかし!神奈子さま!いままでは妖怪の山の妖怪たちからの信仰で十分うまくいっていたじゃないですか!なぜいまさら!」
「妖怪など、しょせん人がいなければ存在できない輩!われわれの信仰をより一層強固とするためには、人間の信仰が必要不可欠なのだ!」
「このような惨劇を目の当たりにし、人々は守矢に信仰が集まると本当にお思いなのですか!?もう一度お考え直しを!」
「早苗、先ほど行ったであろう。なかよしこよしで信仰が集まる時代などもう終わったと!」
「…ではまさか、このまま人里を襲うとでも」
「当たり前だ。それ以外にどうやって人に畏敬の念を抱かせることができるというのだ!」
Ω、ΩΩ<な、なんだってー!!
い、いやいや、これはやりすぎだろう。
見れば早苗も驚きの表情。
「なりませぬ!神奈子さま!人里を襲うことはこの幻想郷ではご法度!それだけは絶対になりませぬ!」
「なんだ?早苗、この私を裏切るのか!?」
「神奈子さまがいままで存在できたのは、人々から敬われ、信仰されているという誇りが!あったからでしょう!」
「その誇りをくれたのが人々なら!奪ったのも人々なのだ!困ったときにしか神頼みをせず、科学へ降りたんだよ!」
「それは幻想郷に入る前のお話です!」
「そんな人々のために私と戦おうっていうのなら私は倒せん!」
「別に私は、神奈子さまと戦うなどと一言も言っていません!」
なんだこの会話のドッヂボール。
全然話が噛み合ってないな。
しかし、十分隙は出来ている、行きますか?
「そうだな、今のうちに叩くか」
「しかし、見れば見るからにおかしいわね、神奈子」
「そうだな、なにか悪いもんでも食べたんじゃね?」
私は二人の前にそれぞれスキマを作った。
手はずどおり、それぞれ三方向から攻めるわよ。
お二人さん、そろそろ行きますが準備は大丈夫?
「OKだぜ」
「OKよ」
よし来た。行くわよ!
『神霊「夢想封印」!』
『境符「波と粒の境界」!』
『恋符「マスタースパーク」!』
「なに!?」
ドゴオゥン!!
「やったか!?」
魔理沙、それフラグよ。
「なんなんだいまのは?」
見ればまったくなんとも無いような様子の神奈子であった。
まったくの無傷です(笑)
神様ってやっぱりすごいんですね、また1つ学んだ、八雲紫18の夏。
「なにドサクサに紛れて年齢詐称してるんだぜ」
「今はふざける場面じゃないと思います」
「とりあえず土下座」
すみませんでした。
それにしてもやばいわね…。
私達4人は神奈子の前に対峙する。
隙を見せないように構えた後、相手に聞こえないように作戦を練ることにした。
「こうなりゃ実力で倒すしかねえか?」
その実力が無いから奇襲を仕掛けたんじゃありませんこと?
「うるさい、じゃあなんか案でもあるのか?」
う~ん、相手が話を理解できる相手だと期待してスペルカードルールで決闘とか?
「なにごちゃごちゃと話しているのだ、来ないならこちらから先に行くぞ!」
進展が無いので痺れを切らしたのだろうか、神奈子が大声でこちらにそう叫んだ。
みなさま、話が通じる方だと思います?
「無理だな」
「無理ですね」
「論外」
ですよね。
じゃあしょうがない、3人がかりでいきますか。
攻撃力の高い魔理沙は正面、霊夢早苗はスキマを使って側面に移り攻撃。
側面の2人は攻撃を当てることを意識せず相手の注意を向けさせること。
魔理沙はその2人に気を取られているときに重い一撃を、出来れば避けれないほど早いやつをお願い。
特に2人は、スペカは使わなくていいから通常弾で相手に隙を見せないで。
一撃でも食らったらそこで終わりだと思いなさい。
私はスキマを使った遊撃をするわ。
いいわね?
「おいまて、紫。どんなに隙を突いたって相手にダメージが無きゃ意味無いんじゃねーのか?」
大丈夫よ魔理沙、私に考えがあるの。
ここで一番大事なのは隙を作ることなの。
でないと本当に打つ手はゼロになる。
短期決戦で行くわよ。各自奮闘を期待してるわ。
「OKだぜ」
「了解」
「ラジャーです」
「ん?なんだ、やっとお出ましか?」
神奈子の方を向くと神奈子は悠然とこちらを見て待っていた。
おそらく余裕の表れなのだろう。
「ああ、待たせたな。やっとお前を倒す算段が出来たぜ」
「私を倒すぅ?冗談も休み休み言え」
いい魔理沙、ゼロになったら攻撃よ。
私は魔理沙に小さな声でボソッと言うと、霊夢、早苗の前にスキマを作った。
極小さいスキマだからばれてないと思うけど…絶対に同じタイミングで言ってちょうだい。
あなた達は私がGOと言ったら行くのよ?
「了解」
「了解」
じゃあ行くわよ、3、2、1
「来ないならばこちらから行かせてもらう!」
やはり待ちきれなかったようで神奈子はこちらに猛スピードで突進してきた。
チャンスだわ!ゼロ!
「喰らえ!ファイナルスパーク!!」
「そんな攻撃が効くかあ!!」
神奈子がファイナルスパークを片手で弾き飛ばした。
よし、二人とも!GO!
「八方鬼縛陣!」
「白夜の客星!」
魔理沙のファイナルスパークを目くらましに使い二人ともほぼ同時にスペカを撃った。
神奈子は完全に虚を突れた様子で、ファイナルスパークを弾き飛ばした体勢のまま動きを封じ込められている。
そこに早苗の白夜の客星での波状攻撃。
これなら秘策を使わなくてもいけるかも、なんてのは甘い考えだった。
「ふー、ふんっぬ!!!」
神奈子は一瞬の溜めののち、気を一気に開放、鬼ですら一歩も動けなくなる結界を破壊した。
後に続く早苗の攻撃もすべて避け切る。
反撃に転じようとする神奈子、だが、霊夢と早苗はとっさにスキマへと入り上空へ移動。何とか追撃は免れた。
「ふん、舐めた真似を」
「ちっ、やっこさん、案の定全然効いてないようだぜ?どうするんだよこれから」
しょうがない、プランBに変更するわ。
「おい、あの考えとやらはどうした」
何のことかしら?
「…、もういい、」
冗談よ、ちゃんと考えているわ。
霊夢、早苗聞こえる?
「はい」
「なに?」
もう一度特攻よ。今度はすこしはなれたところにスキマを作るわ。
「はあ?紫本気なの?」
本気よ。
「そんなのいい的になるだけじゃない」
そうよ、さすが霊夢ね。
「「は?」」
は?って霊夢、あなたが今言った通りよ。
あなた達は的になりなさい。
「「「…」」」
なによ、三人とも押し黙って。
早くしないとさっきみたいに向こうから攻撃されるわよ?
相手は野菜の名前に似た星の王子じゃないんだから、こっちに秘策があるって言っても黙って待ってるなんて悠長なことしないと思うし。
「なぁ紫、お前本当に私たちの味方か?」
なによ魔理沙、だから今ここにいるんでしょう。
「じゃあなんであの二人に的になれなんていうんだよ!」
だから言ったでしょ。こっちには秘策があるって。いいから黙ってて。
「…大丈夫なんでしょうね」
通信機越しの霊夢の不安そうな声。
大丈夫よ霊夢、私が何とかするわ。
「分かりました。信じてみます」
「おい、早苗!」
理解が早くて助かるわ。
霊夢もいい?
「…本当に大丈夫なんでしょうね」
ええ、もちろん。
「わかったわ」
わかってくれて何よりだわ。
「おい!いつまでちんたらしているんだ!さっさと私を倒してみたらどうなんだ?え?」
やっぱりこの状況を楽しんでいるわね。チャンスだわ。
神奈子!望み通り今から攻撃してあげるわ!
私は神奈子に向かって大声で叫んだ。
「な、なに言ってるんだよ!アホか!」
いいのよ、いいのよ。霊夢、早苗、GO!
寸分違わないほど息がぴったりと同時にスキマから出た二人。しかし、やはり神奈子は予想済みのようだ。
「二度も三度もそんな奇襲が効くものか!喰らえ!『エクスパンデット・オンバシラ』!」
神奈子の両側にありえないほどの量の御柱が発生。二人を目指し音速で放たれた。
どうやら先ほど天狗にはなった技は本気ではなかったらしい。先ほどの攻撃の倍以上の速さだ。
「幻想の塵と帰せ!」
ふふん、甘いわね。
スキマには、こういう使い方もあるんだ!
「え?」
次の瞬間、大量の御柱が早苗と霊夢の目の前で消えていった。
それもそのはず、私が発生させたスキマによって御柱は別の空間へと転送されていたのだから。
その空間とは、例えば神奈子の目の前とか。
「なにぃ!ぐわあああああああ」
またまた完全に虚を突かれたのか、神奈子はまったく反応することが出来ずに自らが放った御柱の直撃を喰らった。
ふふん、自分の攻撃でダメージを喰らうなんてざまぁないわね。
攻撃がようやく止んだ。神奈子はその場で倒れて動かない。
とりあえずは、生きてるかどうか確認しなければ。
神奈子~、死んでる?死んでるなら返事して。
「…」
返事が無い、ただの屍のようだ。
「やっと終わったのね」
霊夢が神奈子を引きずってきた。
せめて担ぐなり何なりしてつれてきなさいよ。起きたらどうするの?
「これからどうするの?これ」
そうねえ、とりあえず、拉致しますか。
「拉致するって、いったいどこにだよ」
魔理沙は疲れた顔をして言った。
そうねぇ、あそこにでも連れて行きますか。
私たちは神奈子を永遠亭に連れて行き鈴仙に見てもらうことにした。
「えーっと、またですか?」
「また?」
ま、まあまあ霊夢、いいじゃない何でも。
何とか治療できるかしら?鈴仙?
「え?あ、大丈夫ですよ。もともとわたしg…ふぐぅ!?」
余計なことは言わなくてもいいのよ?鈴仙さん?
「「「?」」」
「げほっ、わ、わかりましたよ…じゃあ目を開けてあげてください」
ほい。
私はベッドの上に横たわる神奈子のまぶたを開いた。ちょっとグロテスク。
えーっと、焦点があってないようだけど大丈夫?
「大丈夫ですよ、問題ありません。こちらの目のほうを見てさえいれば波の調整は出来ますので。では、いきます」
鈴仙は片目を手で押さえて目を見開いた。
うーん、その手といい赤い目といいどっかの反逆の王子様みたい。
「はい、終わりました」
あら、早いわね。
「波の調整なんて慣れれば簡単ですよ。それにそれが私の能力みたいなものですし」
「なぁ、本当にもう大丈夫なんだろうなあ」
魔理沙が疑わしげに神奈子を見た。
確かに、はたから見たら何もしてないようにも見えるわね。
「ええ、大丈夫ですよ。大きな傷は無かったですし、たぶんもうそろそろ起きるのではないかと思いますよ」
「ん、んん?ここは…?」
神奈子がゆっくりとベッドから起き上がってきた。ぱっと見た感じだとどうやら大丈夫そうだ。
「ここは永遠亭ですよ、頭が痛いとか、体がだるいとかは無いですか?」
「いや、ない。なぁ、どうして私は永遠亭にいるんだ?頭でも打ったか?」
「えーと…、まあそんなところです」
まさか本人に狂っていた、なんていえるはずも無いだろう。
ともかく、神奈子が無事で何よりだわ。
「ところで、すき焼きはどうなったの?」
そういえばそんなこと早苗が言ってたっけ。
こんなときに言わんでもいいとは思うが、そこを言うのが霊夢と言う人間なのである。
「んーそうだな、なんか知らんが世話になったようだし、今日はみんなで食べるとするか。いいか?早苗?」
「は、はい、喜んで!」
早苗は泣きながら笑って言った。顔がぐちゃぐちゃになっていたがまあ仕方も無いだろう。
「じゃあ決まりだな、今日はすき焼きパーティーだ」
「霊夢、肉取り過ぎだって!野菜も食え!野菜も!」
「そんなこと言って魔理沙が肉食べるつもりでしょう!絶対にあげないわよ!」
…、もっと落ち着いて食べることは出来ないのかしら?
というか、よくもまあ人様の家で出されたものをそこまで厚かましく食べられるわね、あんたたち。
「うるさい、ここで栄養付けなくていつ付けるのよ」
さいですか。
うちの二人がすみません。
「いやいや、元気がいいことはいいことさ、遠慮しないでたべてたたべた」
それにしたって遠慮がなさすぎるだろ。
私だって、ほとんど食べてないんだ。
そうして、おそらく十人前ほどはあったであろう肉はあっという間になくなってしまった。
もうちょっと味わって食べたらどうなの?
「もう食べっちゃったものはしょうがないでしょう、それより紫」
ん?
霊夢の顔が真剣味を帯びている。
なに?なんかまだあるの?
「あんた、なにを隠しているの?」
え?な、なんのこと?
「誤魔化さなくてもいいわよ、あんたの挙動が明らかにおかしかったところが何回もあったし。何か隠してるんでしょう?」
え-っと…、具体的になにを?
「永遠亭の優曇華の様子からして…、今回の騒動の黒幕、あんたね」
な、なんで?
「大方、神奈子を無理やり拉致して、永遠亭で優曇華にさっきやってもらったことの逆みたいなことでもしてもらったんでしょう?」
…なんて勘だ、全部あったってやがる。
「違うの?」
…。
「…。」
…。
「…。」
第一部、八坂神奈子の反乱、完!八雲先生の次回作にご期待ください!
「おっと、変なこと叫んで逃げようったってそうはいかないぜ」
「………(目がやばい)」
いや、これはね、深い理由があって、あの、幻想郷が、その、あれよ!あれ!
懸命に弁明しようとする私、だが、三人はものすごい威圧感を持ってこちらを見下ろして来た。
「なんかおかしい思ったらそうか、そういうことか。なぁるほど、納得だぜ」
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ(圧倒的な威圧感)」
「朝から神社にいるなんておかしいと思ったのよ。さぁて、お仕置きですよ(はぁと)」
…どうやら私の命運もここまでのようだ。
長いようで短い一生であった。
「とりあえず、何でこんなこと起こしたのか、それだけは聞いてあげるわ。罪が軽くなるかもよ?」
………。
「ほら、黙ってないで何か言いなさいよ」
………、暇つぶし。
「は?」
だから、暇つぶしよ、ひ・ま・つ・ぶ・し。
「…死刑決定ね、魔理沙、早苗、行くわよ」
「…了解」
「…はい」
ひ、ひぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!
そのあと、私が全治数ヶ月の怪我を負ったのはもはや言うまでも無い。
が、ちょっと回りくどい?
神奈子さんをスキマでぱっくり飲み込んで、そのまま強制送還するなど、
パーティーに紫さんがいるのなら、もっとやりたい放題できたような気がします。
紫さんとはいえ、暇つぶしでここまでの事態になっちゃうのは抵抗もあります。
そしてそんな神奈子様をやすやすと洗脳できる紫様すげえw