「輝く白さ……ッ!」
驚きの柔らかさは、残念ながら付いてこなかった。
何のことだか分からなかったと思うが、いや、話は単純極まりないのだ。
今朝方、「迷いの竹林がおかしい」という通報があった。
もうちょっと具体的に言ってもらいたかったのだが、いずれにせよ竹林は人里のすぐそばだ。異常事態は里にまで影響を及ぼしかねない。
人里の守護者である私としては見過ごせない事態だから、念のために急行した。
するとどうだ。竹林が銀世界と化しているではないか。
細かく言うと、竹林「だけ」銀世界と化している。まさに驚きの白さだった。漂白剤も泣いて土下座する。
「一体何だ、コレは」
触れてみると冷たかった。雪だった。いや雪じゃなかったら何だという話だが。
見てみると、奥に行くにつれて積もった雪の量は増えているようだった。
しかしまぁ、おかしな話だ。幻想郷は確かに雪深い方ではある。だが、それでも十月からこんな積雪をしたことは、私の知る限り無い。
まして、竹林にだけ局所的になどとなると、コレは幻想郷始まって以来の珍事ではないか?
「しかしこれ……、今頃妹紅は大変だろうな、雪かきで」
「おや、慧音先生」
「ん? どうした田吾作」
後ろから声をかけたのは、三十半ばの農夫だった。
私の元教え子にあたる。本人は大人になったつもりだろうが、私からすればまだまだ子供だ。
「いえ、今日は竹林の焼き鳥屋に道案内を頼んでたんですが、時間になっても姿が見えないもんで」
「焼き鳥屋……あぁ妹紅のことか。ふむ、この雪だからなぁ、ひょっとすると雪かきしてるのかもしれん」
困った、と田吾作は頭をかく。
コイツは持病があって、定期的に永遠亭で薬を受け取っているのだ。もらえないと困るらしい。
「なんなら私が連れて行こうか? 永遠亭も雪かきには難儀しているだろうから、私はソレを手伝うとしよう」
「良いんですか? じゃあ、申し訳ないんですが、お言葉に甘えさせてください」
「ああ。じゃあ行こうか」
「……何だコレは」
奥に進めば進むほど、竹林の雪は深くなっていった。永遠亭に辿り着くころには、膝丈ぐらいまで積もっていた。
しかし、そんな事はどうでもよくなった。コレを見れば、だれだってそうなる。
永遠亭が凍り付いていたのだ。
外壁を氷が覆っていた。厚さは一定ではなく、多少の凸凹があったが、平均すれば二センチほどか。
「慧音先生、こりゃ一体」
「田吾作。お前今日は帰れ。コレは尋常じゃない」
「は? いやでも、先生は?」
「中が無事かどうか確認してくる。……魔法か、何かの術か知らんが、半分妖怪の私ならまだ何とかなるだろう。付いてくるんじゃないぞ」
念入りに言っておいてから、玄関に回って、扉に手をかけた。が、頑として開かない。
鍵でも掛かっているのかと思ったが、良く考えてみれば当たり前の話だ。玄関も凍り付いているのだ。
侵入のしようが無かった。
「む……えぇい、後で平謝りして修理すれば良いだろう、緊急事態だ、已むを得ん!」
弾幕を放つ。派手な破砕音がして、玄関戸が吹き飛んだ。
少しばかり、やりすぎたか。
「クソッ……寒い、長くは居られないな」
何となくそんな気はしていたのだが、中まで凍り付いていた。
四方八方から放たれる冷気。氷室の中に居るのと同じだ。長居はあまり良くない。
滑って歩きづらいが、どうにかバランスを取りつつ進む。
「誰か居ないかッ……うぉッ!?」
こけた。
いや、滑ったのではない。明らかに何かに躓いてこけた。
それも、結構大きなものに。
「くそ、廊下のど真ん中に一体何を置いたんだ……?」
もろに打った額をさすりながら、立ち上がってソレを見る。
私の息が止まった。
「……鈴仙・優曇華院・イナバ……?」
そこに居たのは、廊下に倒れた妖怪兎だった。
彼女も凍り付いていた。まるで彫刻か何かのように。
最初はチルノの仕業だと思っていた。だがこれは、違う。
アレは阿呆だが、やっていい悪戯とやってはならない悪事の区別ぐらい出来る。
だが私の目の前に広がるこの光景は、明らかな悪意をもって造られていた。
「馬鹿な、まさか……住人たちまで氷漬けにされたというのか!?」
私は駆け出す。転げそうになりながらも、私の疑念を振り払うために。
「誰か居ないのか!?」
返事は無い。まるで私が抱いた最悪の考えを肯定するかのようだった。
これは最早、異変だ。私のような奴の手に負える問題でもないが――しかし、逃げ出すわけにも行かなかった。知っている者が氷漬けなのだ。
閉ざされた氷漬けの襖を壊しながら進む。氷像がそこら中に転がっていた。
だが、動くものは誰一人見当たらない。
永遠亭の診療室。その扉を壊した。
せめて永琳殿か輝夜殿、どちらかが無事なら、何があったのか掴めるかもしれない。
「――あぁ、騒がしいと思ったら貴方? ずいぶんとまぁ、壊してくれたみたいで……まぁいいわ」
彼女は、いつもと同じように、専用の椅子に座っていた。
凍った部屋の中で、まるで何事も起こっていないかのように。
「あぁ、永琳殿、一体何が」
待て。
弟子も凍っているし、おそらくは輝夜殿の安否も不明だ。
だのに、何故この人は、こうも冷静にしている?
「永琳殿、一つ聞いていいか?」
「何?」
「一体、誰がコレをやった」
興味を抱いたように私を見ていた視線が、一気に醒めた。
「あぁ。そんなこと。決まってるじゃない、私よ。ホラそこにも一人」
永琳が、いかにもつまらなそうに指差した。
そこにあった氷塊は、とても良く知っている形をしている。
「妹紅――ッ!」
「言い訳させてもらいますけどね、私もわざとやったわけじゃないのよ? 自分にこんなことが出来るなんて、知らなかったもの」
「だが妹紅は! これは意図してやったろう!?」
「正当防衛よ。戻し方が分からなくて困ってたところを、問答無用で襲ってくるんだもの。姫が凍って困るのは、こっちだって同じなのにねぇ」
「む……」
それは、確かに信憑性のある話だった。
「入り口近くにウドンゲが居なかった?」
「え? ああ、居たが」
「深夜ごろにあの子と世間話をしてたら、急に私の近くから放射状に凍りはじめてね……何か妙なことをやらかした記憶もないし、本当何なのやら……」
原因は永琳殿だが、何があったのかが分からない、という状況か。
「術か何かが偶然発動した、というのも考えづらいな……竹林全域に広がるほどの術なんて、偶然には起こらないだろうな」
「え? 外にまで広がってるのこれ。出てないから分からないのだけど」
「ああ。といっても、流石に凍っちゃいないな。雪が積もっていた。膝ぐらいまで」
「そう。……ふふ」
何か面白かったのか、永琳殿は微かに笑みを零した。
「どうした? 何か妙なことでも?」
「いえ、ただちょっとね……ねぇ慧音さん? 雪の中を歩いてきたの?」
「ん? ああ。それ以外に方法もなかったし」
「そう。
雪の中を歩くなんて、それは大変でスノー」
「がッ……あぁぁぁぁ!!」
手足に、痛みにも似た猛烈な冷たさを感じた。
見れば、猛烈なスピードで凍り付いていくではないか。
「くッ、くそ! 最初からコレが狙いか八意永琳ッ!!」
「フフフ、あんな作り話に引っかかる方が悪いのよ! 分かったかしら、コレが、私が長年研究してきた術、ようやく完成したのよ……!」
そう開き直ると、奴は思いっきり悪役笑いを始めた。
見事に騙されたというわけだ。
だが、これで終わる私では無い!
「おのれッ……いいか八意永琳! お前のギャグだがな!
うっ氷ー! こいつぁ、おっもしれぇや!」
「……馬鹿なッ……、私の氷結術【イッセイチダイノギャグ】を、氷結術【イッセイチダイノギャグ】で返すですって……!?」
私の氷が融けていく。
周りの壁や、妹紅の氷も同様に。
その代わり、永琳が凍り付いていく。
「くっ……覚えてなさい、この借りは必ず返すわッ……!」
「ふん、凍ってしばらく反省していろッ――!」
「いや慧音! 申し訳ない、助けてもらって」
あの後、何だかんだで妹紅や永遠亭の面々を助け出し、私と妹紅は帰路に着いていた。
八意永琳には少し反省してもらおう。あれは自然解凍されるようだし。
「何を言う妹紅。困ったときはお互い様というやつだ」
永琳の術――氷結術【イッセイチダイノギャグ】とか言ったか――が解けたおかげで、竹林からも雪は融けて消えていた。
その代わり、雪解け水で地面がぐっちゃぐちゃだが。
ん? 永遠亭? ……推して知れ。そうだな、鈴仙・優曇華院・イナバは泣いていた。
「いやはやしかし、あんな術があるとは驚きだな……世界は広い」
「いや……あれは術なのかなー? まぁいいや。威力が制御できるなら、夏場とかは便利そうだけどね」
「うむ。……あぁそうだ妹紅、体調は大丈夫か? 氷漬けというのが一体どういう感じなのかは知らんが、健康には良くなさそうだぞ」
私がそう言うと、妹紅は気にするなと笑った。
「大丈夫だって。身体は火で暖めたし、そもそも大して長い時間凍ってたワケでもないし。あ、でも……」
「どうした?」
「お腹が……小腸が、しょうちょう痛いかな? なんちゃって」
「ぬわ――ッ!!」
「まぁ、氷漬けとか寒いのとかは大したこと無かったけど、そうやって気にかけてくれる慧音が、私はスキーだな? おっと、スケートかも」
「ぬわ――ッ!!」
「け、慧音ェ!? 大丈夫!?」
ってwwwww
がなければ100点でした。
でもなんか、方向性が変わってきなすったかしら。
久々に自然な笑いを戴けました
コメは滅多に付けないのですが、
この話には100点ヒョウカイ外は考えられません
忘れられし彼に愛の手を。
おそらくレティやチルノは、こうして能力を発揮しているのかなあと幻視してしまいました。
恐るべし、大寒波。
書くという手間を掛けてしまうほどに
もってけこの野郎www
まさに黒幕。
もう、最高にハイってやつだッ!!
物珍しくはありますが良くはないです。
点数にとらわれることなく東方のSSを投稿してほしいです。
もしくはご自身のサイトで精力的に活動されてはどうかと。
氏を好きな人には強烈な人気があるのは確かでしょうから。
ただ、ちょっと落ちがくどいかな?とか思ったり。