Coolier - 新生・東方創想話

甘い甘い未来を夢見て歩く

2010/10/12 23:42:54
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「咲夜、私に家事を教えて」
「はっ?」

ある日、何時もどおり仕事に勤しんでいた十六夜咲夜は、フランドールからそんなことを言われた。
あまりに唐突な発言に、咲夜は思わず間抜けな声を出してしまう。

「家事ですか? またなんで……」
「ほら、私将来はお姉様のお嫁さんになるでしょ。その時のためにね」
「ああ、なるほど」

どこか遠くを見るような目で頷く咲夜。
紅魔館の住人にとって、スカーレット姉妹の甘甘な話で砂糖を吐くなど日常茶飯事だ。
なんせそうやって精製された砂糖が、紅魔館の特産品の一つになってしまっているぐらいなのだから。
もっとも咲夜やパチュリーなど姉妹に近い住民はすでに感覚が麻痺し、砂糖精製能力をほぼ無くしている。

「わかりました。それではお嬢様のお世話に限定して重点的に……」
「咲夜!」
「「?」」

咲夜が喋っている最中に声が掛かる。そちらに顔を向ける2人。
1人は心の底から嬉しそうに、もう一人は若干困ったような顔で。

「お姉様ぁ!」
「お嬢様」

咲夜に声を掛けたのは、咲夜の主であり、フランドールの姉で恋人のレミリア・スカーレットである。
メイド長である咲夜が話している最中に声をかけるのは彼女かパチュリーぐらいのものだ。

「何の御用でしょうかお嬢様」

恭しく頭を下げる咲夜。
だが内心はちょっと面倒なことになったかしら、などと考えていた。
いくら感覚が麻痺しているとはいえ、姉妹の甘甘空間が形成されれば精神的ダメージは免れない。
とはいえメイド長という職柄逃げ出すわけにもいかない。せめて早く遠くに行ってもらえるよう言葉を選ぶ。

「ちょっとお願いがあってね」
「お嬢様、申し訳ありませんがフランドール様から家事を教えて欲しいと頼まれまして、できれば他の者に」

ある意味メイド長としては職務怠慢であると言わざる得ないことは自覚していたが、
それよりも精神ダメージの回避を優先する咲夜。
しかし……

「そうなの。ならちょうど良かったわ。私にも家事を教えなさい咲夜」
「はっ?」

本日二度目の思いがけない言葉に、先ほどと同じ間抜けな声で応じる咲夜。
そんな咲夜にお構い無しにレミリアは言葉を続ける。

「将来フランの夫になる身としては家事の一つぐらいできないと困るでしょ」

当然のように言うレミリア。だが思いがけないところから反論が入る。

「そんな必要ないわ。お姉様のお世話は私がするんだから」

姉の若奥様として甲斐甲斐しく世話することを夢見るフランドールとしては、
姉が家事を覚えてしまうことは些か不都合があった。

「そうですとも。家事は妹様にお任せしては」

フランドールに賛同する咲夜。
彼女にしてみれば2人一緒に教えるなどという試練は避けたいところである。

「そんなことないわ。家事は夫婦共同で行なうものよ!」

しかし2人の言葉など意にも介さないレミリア。
微笑を浮かべてフランドールに問いかける。

「ねえフラン、想像してみなさい。例えば2人で料理を作ってるところを。
 とても素敵な光景だと思わない?」

少し目線を宙に泳がせ想像するフランドール。
徐々に顔が赤くなっていく。

「すごく素敵だね」

そしてボソッと呟く。
この言葉を聞いて咲夜は、もはや2人一緒に家事を教えなければならないことが不可避であると自覚した。

「……わかりました。2人一緒にお教えします。ですがまず服を着替えてきてください。
 お二人のお洋服を汚すわけには行きませんから」

そういって時を止めて持ってきた2着のメイド服を手渡す。

「うん!わかった!」
「わかったわ」

着替えるために一緒にレミリアの私室に向かう2人。
その背中を見送る咲夜の心境はある種諦めの境地に達していた。





1時間後……
咲夜の目の前にはお揃いのメイド服姿で並ぶスカーレット姉妹がいた。
なぜ着替えるだけなのに1時間も掛かったかはあえて問わない。
問うたところで甘甘な回答が帰ってくるだけだからだ。

「それではお嬢様方、まずは洗濯からご説明したいと思います」

洗濯、とはいってもパチュリー製の洗濯機に入れてボタンを押すだけ。
なんとも簡単である。直接流水に触れるわけではないので吸血鬼の姉妹でも安心、というわけだ。
咲夜からの説明を受け、さっそく作業に取り掛かる2人。
説明中私語も無く、意外なまでに真面目に聞いていたのでちょっと安心する咲夜。
だが、それは油断大敵甘甘な考えであると思い知ることになる。

「フラン、貴女これしかもっていないのね」

フランドールの私服を指差すレミリア。

「それはお姉様も一緒でしょ」

レミリアの服を広げながら反論するフランドール。
要は2人とも1種類しか服を持っていないのだ。

「今度一緒に買いに行きましょうか」
「うん!行く行く!」

レミリアの提案に嬉しそうに応じるフランドール。

「私が着る服はフラン、貴女が選んでちょうだい」
「うん……あー、でも私選べないかも」
「あら?なんで」
「だって……お姉様何着ても似合うだろうから、何を選んでいいかわからないよ」

頬を染め、ちょっと俯き気味に言うフランドール。

「それは困ったわ。でも私もフランが着る服は選べない。
 フランが可愛すぎてどんな服も見劣りするに決まってるから」
「お姉様」

洗濯物を放り出し、手を取り合って見詰め合う2人。
その近くで咲夜が眩暈を感じて目頭を押さえていた。








「次はベットメイクです。お二人とも、お仕事中はなるべく私語は慎まれますようお願いいたします」
「わかったわ」

しっかりと釘を刺す咲夜。同じミスをしないのも瀟洒なメイドの条件である。
ベットメイク、というと仰々しく聞こえるが、今日教えることはシーツの敷き換えだけだ。
だけ、といっても不慣れな者がすると2人掛りでも手間を取る。
きちんと上下左右のバランスを取らないと皺が出来、綺麗に仕上がらないからだ。
結局ある程度ちゃんとシーツを敷くまでに1時間を要した。

「ふぅ、ベットを敷くのって大変なんだね」
「そうね」

ちょっと疲れ気味な2人

「ねえお姉様」
「なにかしらフラン」
「こんなにも大変なんだから、今日から同じベットで寝ない?
 そうすれば咲夜達の仕事が減るだろうし、ね。」

ボソボソッと恥かしそうに呟くフランドール。

「それはいい考えだわ。さすがフランね」

そんな従者想いの発言にレミリアは賞賛とともに賛同する。

「お姉様ぁ」
「フラン」

やっぱり見詰め合う2人。
仕事自体はもう終わってので注意することも出来ず、咲夜は痛みに耐えるように頭を抑えていた。





「次はお料理です。時間も押してますので手早く行きますよ」

咲夜はとりあえずさっさと終わらす方向で作戦を纏めた。
メニューは初心者に教えるには定番中の定番といえるカレーである。
美味く作るためには果てしない技量がいるが、反面失敗しないように作るのも比較的容易である。
曰く、カレー粉をかければとりあえずなんでも食べれる、と言われるぐらいカレー粉の威力は大きい。
料理など作ったことの無い2人に教えるには適切な選択といえる。

「それではまずジャガイモの皮をむいてください」

台に置かれたジャガイモを手渡す咲夜。
フランドールは慎重に包丁を当てる。
だがそれをレミリアが横から制した。

「フラン危ないわ。皮むきは私がするから」

そう言うとフランドールから包丁を取り上げてしまう。

「大丈夫よ。任せて」

奪い返すフランドール。
しかしここで引き下がるレミリアではない。

「ダメよ。貴女のことが心配なの」

ぐっとフランドールの手を掴む。

「お姉様、私を信じてくれないの?」

少し涙目になりながら姉を見つめるフランドール。
しばらく見つめあった後、レミリアはゆっくり首を横に振る。

「わかったわ。でも絶対に怪我をしないと約束してね」
「うん。約束するわお姉様」

姉の言葉に華のように微笑むフランドール。
レミリアも釣られて微笑み返す。

当たり前のことではあるが、吸血鬼の体を傷つけられるような包丁など存在しない。存在するとしたらそれはもはや包丁ではない。
また仮に傷つけられたとしても、この2人なら一瞬で再生してしまうだろう。

ジャガイモを剥くだけでこの始末である。
タマネギを切るときなど、

「お姉様ぁ、涙が止まらないよぉ」
「貴女が流した涙は全部私が舐め取ってあげるわ」
「ちょっと、くすぐったいよ」
「可愛いわフラン」

さらには火を使いだすと、

「お姉様の綺麗な肌に火傷なんて出来たら、私、悲しくて生きていけない!」
「大丈夫よフラン」
「……でも」
「今度は貴女が私を信じる番でしょ」
「うん」

始終この始末である。全ての工程を終えた時には咲夜の精神は深刻なダメージを負っていた。
口の中からジャリジャリと不快な音がする。味覚は当の昔に障害を起こしていた。

「はいフラン、あ~んして」

スプーンを妹の口の前に持っていき、口を開けるように促すレミリア。

「あ~ん、美味しいねお姉様!」
「フランが作ったのだから当然ね」
「お姉様が作ったんだから当然だね」
「ふふふ!」
「あはは!」

そんな咲夜を気にも止めず、姉妹は仲良く食べさせ合いっこをしていた。





「今日一日ありがとね咲夜」
「礼を言うわ」

1日を終えて晴れ晴れとした顔で謝意を口にする2人。
きっと心の中では今日をやり遂げた達成感と、揃って家事をするという将来の光景が交錯しているのだろう。

「いえ……もったいないお言葉で……」

反面、息も絶え絶えな咲夜。
顔色も悪く精神的な疲労が見て取れる。だがそれも仕方ないこと。
この2人に最後まで付き合えただけでも大したものだ。

「これでいつお姉様と結婚しても大丈夫ね」
「そうね。それじゃいっそ明日にでも式をあげようかしら」
「ホント!!」

楽しそうに話す姉妹。
そんな光景を見て咲夜は、明日にでも配置換えを希望しよう、と心に誓うのであった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。

テーマは私なりにレミフラでどこら辺まで甘い話が書けるのか、です。
あまり直球勝負は苦手な性質なので、かなり戸惑いました。
少しは甘い思いをしていただけたなら幸いです。

誤字脱字その他指摘事項があれば教えていただけると嬉しく思います。
それではお粗末さまでした。

10/10/13/22:55
コメントにて指摘がありました三点リーダーを修正しました。
ご指摘ありがとうございました。
clo0001
http://twitter.com/clo0001
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コメント



0.1500簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
安心と信頼の甘甘タグ
5.100名前が無い程度の能力削除
読んでて本当に笑ったの初めてです。
7.100菊花さつき削除
最初は甘い!と思ったんですが最後のほうは麻痺しました。
あと、その特産品いくらですかできれば咲夜さんのを
8.100名前が無い程度の能力削除
もうなんか、すごい
10.100名前が無い程度の能力削除
見た目ロリな少女ふたりがイチャイチャしてるところを眺めるだけで癒やれる
15.100名前が無い程度の能力削除
レミフラちゅっちゅ
17.100奇声を発する程度の能力削除
甘いね!甘すぎる!
18.100名前が無い程度の能力削除
これは甘い。思わず糖尿病になってしまうわ。

ところで、その特産品はいくらかね?言い値で買おう。
19.100名前が無い程度の能力削除
甘い、甘すぎる。
糖尿病になるくらい面白かったです。

少し気になったのですが、間を表現するなら三点リーダとかいかがでしょうか(…)←こんなの

作者様の意図があった上で、あの様にしているのでしたら申し訳ないです。
22.100名前が無い程度の能力削除
このバカップルめw
だがそれがいいww
25.100tukai削除
もうさっさと結婚しろよwwww
27.100名無し削除
この言葉を送ろう

\すげえ/
\あめえ/
29.100夜空削除
この少ない文章量に込められた糖分が非常にやばいことになってますね
間違いなく虫歯になってしまう……此処までど真ん中ストレートだともはや潔い
36.80幻想削除
このssを読んでる時の僕の顔・・・
・・・ニヤ・・・ニヤニヤ・・・・・・・ニヤニヤニヤニヤ×∞
見たいな感じでした!
眼福感謝!
37.100名前が無い程度の能力削除
なんという甘味