Coolier - 新生・東方創想話

おんなごころとあきのそら。

2010/09/27 22:10:08
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『おんなごころと秋のそら』


昨日までの雨風がウソのような晴天だ。洗濯物を干し終えた咲夜は空を見上げ、
強すぎる日差しにまぶしそうに手をかざす。


「秋晴れってこんな感じかしらね。それにしても洗濯物が干せるのはいいけれど、
 こんな快晴じゃお嬢様や妹様がお出かけできないわね。昨日もその前も雨だったし」


そう呟きながら洗濯籠を担いで館の中に入る。二人とも、吸血鬼のくせに外を出歩くのが好きなのだ。
昼夜を問わず。だから数日来続いた雨で相当フラストレーションがたまってそうに見えた。
特に妹様は少し前まで地下に閉じ込められていたから余計だ。気持ちはわかるけれど。
魔理沙あたりが来てくれれば、妹様のお相手をおしつけ、もといお願いしたいところだ。


その後、館の掃除、風雨で一気に汚くなった窓を拭き掃除しているところで、
門番が視界に入った。あからさまに寝ているようには見えないが、妹様のこともあったので、
休憩がてら様子を見に行くことにした。門の方へ歩きながら近づいていくと、ちょうど組んでいた手を
組み変える美鈴が見えた。起きていた。しっかり前を向いて立っている。いつもそうならいいのに。


「美鈴。ちゃんと起きてるのね」


「あ、咲夜さん!晴れましたねー!なんだか、空がすごく綺麗で、ついつい引き込まれちゃって。
 遠くの方までよーく見えますよ~。ところでどうしたんですか?お昼にしては早くないですか?」


「お昼はこれからつくるわ。ねぇ、魔理沙が来たら私のところに来るように
 伝えてくれない?少し頼みごとがあって」


「ハァ、わかりました。魔理沙、確かに今日は来そうですね。
 ずっと雨だったし。何です?頼みごとって」


「妹様のお相手よ」


「ああ、なるほど。でも私でよければお相手しますけど」




「・・・・あなたは門番をしていなさい」


そう言った後、知らず頬に熱が集まるのを感じた。ああ、なんてこと!

ひとつ、妹様のお相手を美鈴にさせるのは嫌だと思ったこと。

ふたつ、そもそも美鈴に頼むことを考えもせず、まず魔理沙に頼もうと画策し、
それを実行しようとしていること。しかもその画策を本人の目の前でしてること!

みっつ、みっつ・・・みっつめは、恥ずかしすぎて意識にのぼらせたくもない。
つまりは最近の天候のせいで、フラストレーションが溜まっているのは
吸血鬼姉妹だけではないということだ。


なぜなら、雨風の酷い日は吸血鬼を狙ってやってくる敵を警戒して美鈴は自室ではなく
門番詰め所に常駐する。妖怪である美鈴は数日間眠らなくても平気だから。以前、雨に弱い事を
狙って侵入者がまぎれこんだことがある。勿論、美鈴と咲夜でお帰り願ったが(死体で)


雨で視界が悪いと館の窓から門が見えなくなる。門番も見えなくなる。時々、食事の受け渡しなどで
やり取りすることはあっても2人でゆっくりした時間というものがとれなかった。だから、だから
美鈴は咲夜をかまうべきなのだ。それが自分の心の本音だということを自覚して、
一気に恥ずかしくなってしまったのだ。


時を止めて、少し心を落ち着ける。だって、こんな日はきっとずっと妹様の相手を
することになる、から。もしかしたら、遊びの延長で、夜も。すぅ、と深呼吸をひとつ。
だって、しょうがないじゃない、昨日も、その前も、その前も、一緒に眠れなかったんだから!
開き直る。自分がすごく美鈴を恋しがっているのだと自覚したら少し楽になった。
今日は甘え倒してやる。


幸い美鈴は何も気付いていないようだった。


「わかりました。じゃあ魔理沙が来たら
 咲夜さんのところに行くように伝えておきますね」


「え、えぇ、お願いね」


咲夜は知らなかった。逃げるように門を後にする咲夜の後姿を見て、
美鈴の顔が笑みに変化したのを。



************


予想に反して魔理沙は来なかった。美鈴は結局妹様にとられてしまった。
美鈴は門番をしていなさい、という言いつけを守った。しかし、退屈に絶えかねて、
日光対策に雨合羽をかぶった妹様が外に飛び出してきたのだった。妹様がじきじきに
門に来たのだから仕方ない。雨合羽と日傘で妹様と美鈴は快晴の元、
散歩したり花壇の調子を見たりする。


咲夜はおもしろくない。なによ、楽しそうにしちゃって、美鈴のバカ、と心の中で悪態をつく。
ああ、それにしても眠いな、と咲夜は思う。昨日も、その前も、その前の日も、寝つきが悪かった。
夜中にも何回か目が覚めた。原因はわかっている。いつもは隣にあるはずのぬくもりがなかったから。
それを認めたくないけれど。いつもと異なる状況は不安をもたらす。おまけに土砂降りの雨は、
ザァザァと強い音を立てて不安を余計に深めた。だから、眠れない日々が続いたのも仕方がないのだ。


咲夜が心でぶつくさ言いながら洗濯物を取り込んでいると、手伝う!と妹様と美鈴がやってきた。
ご自分のものとお嬢様のものを取り込んでもらう。美鈴のほうは、見ない。
美鈴が悪いわけじゃないけれど、なんだか今の状況が気に食わない。取り込んだ洗濯物を持って、
これはどこにおけばいいですか?と問われても、そのへん、とぶっきらぼうにしか返せない。


「それでは、妹様。ありがとうございました。咲夜はお夕飯の
 準備をしなければなりませんので、これで」


「んー、またねぇ」


「おつかれさまです」


と美鈴が言った気がしたけれど、返事はしなかった。妹様の声がする。


「咲夜さぁ、なんか機嫌悪かった?」


「ハァ、まぁ、そうですかねぇ。お昼前に会った時はご機嫌よさそうだったんですけどねぇ」


「ふうん。よかった?じゃあ、そうよ、めいりん。
あれよ、咲夜のは、あれ、そう!おんなごころと秋のそら、よ!」


「ぶはっ。妹様、誰にそれ聞いたんですか?」


「魔理沙」


「そうですか。女心と秋の空、か。じゃあ、咲夜さんは
 また機嫌が良くなりますよ、きっと。さて、日が暮れてきましたねー。
 日が暮れるのも早くなったもんだ」


咲夜には二人が何を話しているのかは、もう離れてしまったのでわからなかった。
ただ、楽しそうな二人の声は聞こえた。


咲夜は知らない。遠くに見える、しょげた咲夜の後姿を見て、
美鈴がより一層笑みを深くしたのを。



************


夕餉は滞りなく済んだ。夕方起き出してきたレミリアも特にわがままも言わず、夕食を食べた後、
月が綺麗だわ、少し出かけてくる。帰ってくるまで待ってなくていいわ、おやすみなさい、と
言って、飛んでいった。妹様も連れて。助かった。


食事の後片付けの指示をさせ、部屋の風呂に入り、ソファの上でワインを飲んでいると
美鈴が部屋に入ってきた。美鈴は大浴場に入ってきたのか、風呂上りらしく濡れた髪と
タオルを肩からかけていた。きょとんとした顔をして、言う。


「あれ、咲夜さん飲んでるんですか?」


「悪い?」


「いや、悪くはないですけれど」


そう言って、隣に座る。本当は飲むつもりなんてなかった。酔ったら素直になれる気がしたけれども、
駄目だ、悪化してる気がする。こんなものではムシャクシャした気分が収まらない。蹴り出そうかと
思ったけど、かろうじてやめておいた。495歳の幼児に嫉妬してるなんて、みっともないとわかってる。
だけど気に食わない。つまらない、面白くない。


軽く、乗せるように美鈴を蹴ってみた。その足をぽんぽんと叩かれる。なだめるように。
顔は笑っていた。怒られないから二度三度。ぱす、ぱす、と乾いた音がする。
穏やかに笑ったままの美鈴が手を伸ばしてくる。頭を撫でられる。いいこ、いいこ。
頭を撫ぜて、頬にも滑り落ちてくる。ワインで赤く熱くなった頬よりはひんやりしていて
気持ちがいい。目をつぶって、離れようとする手を自分の手で掴んだ。まだ、だめ。



がぶりとその手に噛み付いた。


「ぁだぁっ!!?ちょ、咲夜さん!?」


「門番してなさいって言ったのに」


口から手を離して恨み言。こんな程度じゃ素直になれない。美鈴は苦笑して返す。


「してたんですけれども」


「知ってるわよ」

咲夜に掴まれていない方の手は、テーブルのワインボトルをソファの影に隠していた。
酔ったせいでの暴虐と思ったらしい。そんなに飲んでないし、目の前で隠されても意味がない。
もともと飲みたかったわけではないので、素直にやり過ごす。

ペロリと噛み跡を舐める。

「・・・と、あきのそら、か」


「何か言った?」


「いえいえ。なーんにも」


そう言いながら距離を詰めてくる。もう秋口ですからね、冷えますから、とそのまま咲夜を
持ち上げて子ども抱っこ。まったく色気がない。お姫様抱っこは恥ずかしいから別に
かまわないけれど。咲夜を持ち上げてもぐらりともしない美鈴の首に腕を回す。
頬に触れる髪が冷たい。

ぽんぽんと先ほど足を叩かれたみたいに優しく背中を叩かれる。
美鈴が咲夜をベッドに降ろそうとするけれど、首から手を離さない。

「咲夜さーん、この態勢はキツイです。こ、腰が・・・・私もオンザベッドに!」

確かにこのままじゃ美鈴にぎゅっとくっつけない。仕方がないのでいったん離す。
ふー、やれやれ、とか言いながら美鈴が咲夜に布団の上掛けをかけて、隣に横になる。
今日一番の至近距離で向かい合う。まだ残ってた隙間を抱きつくことでゼロにして。
美鈴も腕を回してくれる。

「あー、もうかわいいなぁ」

言われたことが嬉しくて気恥ずかしくて、強めに背中を叩く。ボスボスと派手な音がする。
イタイイタイと美鈴が困ったように笑う。

「だって、今日の咲夜さん本当ずっとかわいかったんですもん」

「・・・?」

「妹様に私がとられないようにしてる咲夜さんとか、妹様と私が一緒にいる時の
 不機嫌な咲夜さんとか、しょんぼりした咲夜さんとか。かわいかったなぁー」

一息に言われる。ある程度バレていたというのはわかっていても、改めて言われるのは
酷く羞恥心を煽られた。今日の自分の行動や気持ちが思い出されて、一気に顔に熱が集まる。
赤くなった顔を見られたくなくて、美鈴の胸に顔を埋めた。何も言えず、しがみつくことしかできない。
ここで怒って美鈴をベッドから蹴りだしたら後々後悔するのは自分だ。


「咲夜さん?でも、私はすごくうれしかったんですよ?
 咲夜さんのやきもち」


頭を撫でながら言われる。そんなこと言われたって嬉しくない・・・くぐもった声で応答したけど
聞こえただろうか。うれしかったんです、もう一度言われる。今度はうん、と返す。
撫でられてるうちに睡魔がにじりよってきた。ワインのせいもあるかもしれない。
なにより連日の睡眠不足がたたっている。でもまだ眠りたくない。
ぐりぐりと頭を押し付けて、睡魔がどこかに行くようにする。


「お、わ。咲夜さん、どうしたんですか?」


「めいりん」


「はい?」


「めいりん」


「はい」


眠い。でもまだ美鈴とロクな会話さえしてない。嫉妬をぶつけてあてこすって、
なだめられて、今に至る、だ。会えなかった時の分まで話したいのに。

もっと。もっともっともっと。

この気持ちを伝えられなくて顔を近づけて、自分のものを美鈴のやわらかい唇に軽く触れさせた。
少し離れて、もう一度、二度。美鈴のあごのあたりを見てるとおいしそうに見えて、
また噛み付きたくなる。噛み付けば少しは目も覚めるかもしれない。そんな物騒なことを
考えてぼぅっとしていたら、美鈴から口付けてくれる。咲夜が触れたのよりも少し長く。


「ん・・・」


気持ちがいい。ふわふわして、さらに眠くなる。もう今日は眠りましょーねー、
咲夜さん寝不足でしょうと言いながら美鈴が顔中にキスをする。
眠りたくないのに。額にキスされたと感じたのを最後に意識がなくなった。


「妹様とお嬢様に感謝しましょーね、咲夜さん。おやすみなさい」


咲夜は知らない。咲夜の機嫌の悪さを見たフランドールが姉を誘って
今夜の月光浴に行こうと誘ったのを。

起き抜けにそれを聞いたレミリアが「咲夜を困らせるわがまま禁止」を自戒とし、
その月光浴の出発時間を大幅に早め、帰宅時間をうんと遅くしたということを。




End
初投稿&東方作品処女作となります。
いろんな方の絵や、小説を見ていたら我慢ならなくなりまして。

甘めなめーさくでした。

めーりんにべったりな咲夜さんが書きたかったのです。
あとは、噛み癖のある咲夜さんと紅魔館のみんなに愛されてる咲夜さんですね。
咲夜さんは時々情緒不安定になってそのたびめーりんにあやされてるといいよ!

妹様が雨合羽を着てるのもかわいくていんじゃないかと思いました。


ものがたりをつくる、ということの難しさを実感しましたですね。
物書きさん、絵描きさんを尊敬します。

今度はもうちょっと短くて軽いのをつくりたいです。

皆様の貴重なお時間を割いて、ここまで読んでくださってありがとうございました!

***********

9/29追記

はわわわわww

思いもよらず、皆様からのあたたかく嬉しすぎるお言葉をいただき、
感謝感激感無量でございます。お気に召して頂けて幸甚の至り。
ドキョドキョしながらの初投稿でしたが、こんなにコメントをいただけるとは
思っておりませんでした。自分がビビリでしなかったりするので(汗)改めます!

これを励みに、次回咲く、もとい作を皆様にお届けできたらと思います。
コメントを下さった皆様、本当にありがとうございました!!
coniko
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コメント



0.3820簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
これは今後ともぜひ頑張ってほしいですね。
甘えん坊な咲夜さんと優しいお姉さん美鈴イイヨイイヨー!
点数を
3.90名前が無い程度の能力削除
さりげなくスカーレット姉妹が可愛らしい。
煩悶する咲夜さんも、どこか魅力的。
ごちそうさまでした。
10.90名前が無い程度の能力削除
フランが大人だw
そして美鈴がいいお姉さんぶりを発揮!
咲夜さんったらかわいいだから~
レミリアがちょっとした空気ww
13.100名前が無い程度の能力削除
我が生涯に一片の悔いなし…
甘くてすごくいいです
めーりんはお姉さんが良く似合うなあ
18.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
25.100名前が無い程度の能力削除
めーさく!
34.100名前が無い程度の能力削除
なんてほっかほかな紅魔館。
36.100名前が無い程度の能力削除
やはり美鈴はお姉さんキャラが合ってるな
39.100奇声を発する程度の能力削除
とっても甘い良いめーさく!
43.100虎姫削除
いつも一緒に寝ていている二人ですか!
もう限界、お砂糖とっても甘かったです!
79.100名前が無い程度の能力削除
これは良い紅魔館。
フランのが大人じゃないかw
嫉妬する咲夜さんはマジ乙女