Coolier - 新生・東方創想話

四つ娘の魂 百になろうと衰えず

2010/09/25 23:40:39
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「紅茶が入りましたわお嬢様」
「ありがとう」

一人のメイドが音も無く現れ、レミリアに紅茶を差し出す。
彼女はかつてレミリア付きのメイドであった十六夜 咲夜の娘である。
歳は15に満たないぐらいに見えるが、実年齢は70を越える。彼女は半妖なのだ。
従者の鏡ともいえる両親を持ち、生まれた時から超一流のメイドとなるべく英才教育を受けた彼女は、
すでに紅魔館でも並ぶ者のいないメイドオブメイドである。
だが肩書きは今だ副メイド長。

「ここで遊んではいけませんと、何度言ったら分かるのですかぁぁぁーーー!!!」

レミリアが紅茶に口をつけようとしたその時、庭の方から大声が聞こえてきた。
何気なく覗くと、そこには大中小の少女達と、それを叱るメイド姿の老婆がいた。
近くにはボールとガラス片が飛び散っている。大方遊んでいたらガラスを割ってしまい、怒られているのだろう。
子どもの内、一番大きな子は長女で、水色がかった髪に7色の宝石を吊した歪な羽が生えていた。
中ぐらいの子は次女で、紫の髪に小さな蝙蝠の羽を生やし、体に不釣り合いな大きな本を抱えている。
二人ともレミリアの娘で、腹違いの姉妹であった。
ちなみに一番小さな子は、次女の使い魔でちび悪魔という。

老婆が子どもを叱る様子を、レミリアは楽しそうに眺めていた。
一通り叱り終わり、子ども達が罰としてガラス片の掃除をやらされるのを見届けると席に戻り紅茶に口をつける。
時間が経っているにも関わらず紅茶は温かいままだった。
副メイド長がテーブル周りの時間を止めていたのだ。
こういう処は母親譲りね、とレミリアが思っていると、先ほどまで子どもを叱っていた老婆が影も無く現れる。
歳を感じさせないピンと延びた背筋に、皺一つ無いメイド服は、メイドの概念を体現しているようであった。

「お見苦しい処を・・・・・・」
「いいのよ。あなたに教育係を命じたのは私なのだから」

頭を下げる老婆に優しく声をかけるレミリア。
この老婆こそ、今のメイド長、否、今でもメイド長の十六夜 咲夜であった。
齢もうすぐ100歳。




魔法の森の片隅に、寂れた家がある。
かつて幻想郷中に名を馳せた普通の魔法使い、霧雨 魔理沙の家である。
彼女は今でもここに暮らしていた。歳はもうすぐ100になる。
魔理沙は人生の集大成として2冊の魔導書の編纂をしていた。
子を成さなかった魔理沙にとって、この世に存在した数少ない証となる物だ。

「魔理沙~、帰ったよ~」

そしてもう一つ、彼女が生きた証として永く残る者がいた。

「おやおや、ずいぶんとこっぴどくやられたなチルノ」
「やられてなんて無い。勝ちを譲ってやったのさ」
「ほお、そーなのかー」

弟子のチルノである。
40年ほど前、弾幕ごっこ中に魔理沙がぎっくり腰で倒れ、家で看病してもらっている時に、何の気無しに魔法を教えたらなぜか使えてしまった。
それ以来魔理沙はチルノを一方的に弟子にして家に住まわせている。
もっともチルノに弟子という自覚は無い。彼女は今でもただ魔理沙と一緒に遊んでいる、ぐらいに考えている。
とはいえ、根気よく教え込んだ魔理沙のおかげで、チルノは魔法使いとしてもだいぶ様になっていた。
今魔理沙が書いている魔導書も、一冊は紅魔館の図書館に寄贈されるが、もう一冊はチルノの為に書いているのである。

「大体あいつ等は3人、こっちは1人・・・・・・」
「泣き言か。最強なら1人だろうが3人だろうが関係ないんだろ」
「当たり前じゃん。あたいはさいきょ~なんだから3人だろうが4人だろうが関係ないね!」

チルノが言う『あいつ等』とは光の三妖精の事である。
彼女達は彼女達で、いつの間にやらアリスの弟子になっていた。
3人で一体の大型人形を操る器用なコンビネーションは、魔理沙も驚くほどだ。
昔大戦争を演じた両者だったが、今では互いに技と術を競い合う関係になっていた。
魔理沙としては、自分の弟子がアリスの弟子に負けるのは何となく気に食わないので、
今のように負けて帰ってきたときなどは積極的にハッパをかけていた。
アリスはかなり過保護らしいが、向こうも似たようなものだろう。
妖精達の争いは、魔法使いの形を変えた力比べでもあるのだ。

「次会ったら人形ごとかっちんこっちんにしてやるぞーー!」

小生意気な弟子の声を聞いて、愉快そうに微笑みながら、魔理沙は机に向き直った。




「う~ん」

山の神社の一室、東風谷 早苗は悩んでいた。
彼女ももうすぐ齢100に届く。
だが現人神である早苗は50ぐらいの容姿と体力を保っていた。
そんな彼女の悩み、それは後継者がいないことである。
早苗には子も孫も曾孫すらいるのだが、そろいもそろって里に住んでしまい、誰も神社を継ぎたがらない。
実はすでに目をつけている子どもがいた。
諏訪子様や神奈子様とも仲が良く、巫女としても才に恵まれた曾孫がいるのだ。
何としてでもその曾孫に神社を継いでもらわねばならない。
まずお小遣いをあげて機嫌取りを、などと取り留めのないことを考え始めた早苗であった。




日差しの気持ち良いある日。
博麗神社の縁側に咲夜、魔理沙、早苗が並んで座っていた。
彼女たちは定期的に集まっては、取り留めのない雑談に華を咲かせていた。
そんな彼女達の真ん中に、お茶と茶菓子を持った巫女が腰を下ろす。
博麗 霊夢、齢やっぱりもうすぐ100歳。
さすがにもう腋出し服ではなく、普通の巫女服を着ている。
50歳を越えたあたりで八雲 紫から「もうやめて~」と泣きつかれたのだ。

「霊夢、お前の弟子はどうしたんだ?」
「どっかに遊びに行っちゃったわ。ルーミアが一緒だから大丈夫とは思うけど」

霊夢も次代の博麗の巫女を育てるべく弟子を取ったが、いかんせん晩年の弟子だったせいか、だいぶ甘やかしているようである。
ルーミアは霊夢が62歳の時に住み着き何かと霊夢の世話をしていた。
今では博麗神社の顔役にまでなっており、神社の賽銭も増加傾向にある。
なんでもお婆さんの世話を甲斐甲斐しくする女の子が人々の涙を誘うのだとか。

「あやや~皆さんお揃いで~」

お喋りに華咲かす所へやってきたのは射命丸 文。
彼女は相変わらずのブン屋である。

「皆さん、湖の方が大変なことになっているのにお気づきですか」
「大変なことですって」

湖ときいて咲夜が反応する。

「ええ、湖に大量の妖精とか妖怪とかが集まってまして・・・・・・」
「あなたの処の氷精じゃないの魔理沙」
「バカ言うんじゃない。大方アリスのとこのだろ」

咲夜の鋭い視線に余裕で応じる魔理沙。

「おお、なかなか鋭いですね魔理沙さん。
 実はアリスさんのお弟子さんが大型人形と半自動人形を20体ほど持ち出しましてね」

半自動人形とはアリスが作り上げた事前に命令を入力しておくと、糸がなくても命令通りに動く人形のことである。
一体でも並の妖怪以上の力があり、間違っても喧嘩で出すような代物ではない。

「チルノさんとお仲間の方々が戦っている内にどんどん騒ぎが大きくなりまして、
 いつの間にやら紅魔館のお子さんとか、散歩に来ていた緑髪の少女と諏訪の神様とか、
 霊夢さんのお弟子さんが加わりまして、って何処行くんですか皆さん!」

文が話し終わる前に、どっこいせと立ち上がる4人。
咲夜は時間を止めて先行し、他より体が若い早苗は普通に飛んでいく。霊夢は裏庭に向かった。

「ちょっちょっと待て」

魔理沙は苦労して箒に跨ると、一足遅れで飛び立った。

「先に行くわよ魔理沙」
「おい、玄爺はずるいぜ」

最近霊夢は先代の頃から裏庭の池に住み着いている亀に乗るようになった。
ゆっくり寝ていた亀にとってはいい迷惑である。

「まったく人使いの荒いご主人様じゃ」
「人じゃなくて亀でしょう。きびきび飛びなさい」

バシバシと甲羅を叩く霊夢。
なんとか追いつこうと頑張る魔理沙。





「あれじゃ当分死にそうにありませんね~」

文はそんな様子を見て、嬉しそうに呟くのであった。










この後
吸血姉妹は教育係にこっぴどく叱られ、妖精達は各々の師匠にちょっとキツい修行をさせられ、
緑髪の少女は半ば無理矢理山の神社に住まわされ、博麗の弟子は亀の甲羅を磨かされましたとさ
めでたし めでたし
ここまで読んでいただいてありがとうございます。

テーマは、元気に歳をとる、教え残すモノ、といった処でしょうか。
もう少し早く書き上がっていれば敬老の日に出せたのですが、気づいたら一週間遅れになりました。

誤字脱字その他ご指摘があれば教えていただけると嬉しいです。
それではお粗末様でした。
clo0001
http://twitter.com/clo0001
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コメント



0.1410簡易評価
8.100名前が無い程度の能力削除
これまで通り騒がしい未来だ!
11.100名前が無い程度の能力削除
こういうみんな婆さんになって人間のまま集まってる作品は珍しい気がする
13.100名前が無い程度の能力削除
いいないいなこれ! もう少し長い話も読みたい。
17.100名前が無い程度の能力削除
こういうのいいなぁ! 
婆さんになっても元気で、らしさを失わないのもいい。
18.100名前が無い程度の能力削除
紅魔館がえらいことになってるなw それもまた好し
19.100名前が無い程度の能力削除
とても良いね。
でも、紅魔館の子作り事情が気になって気になって…
22.100名前が無い程度の能力削除
お元気お婆ちゃんズって感じでいいなー。
けど、確かに紅魔館の子供事情が気になりすぎる。
咲夜の子=咲夜+メーリン
レミリア長女=レミリア+フラン?
レミリア次女=レミリア+パチュ?
なのかな?
27.100名前が無い程度の能力削除
あったかいな
33.80名前が無い程度の能力削除
いやあ紅魔館のカップリングが俺の理想とドンピシャリで感動しました
パチェ×レミ×フラをやってくれる人がいるとは!