Coolier - 新生・東方創想話

秋を取り戻せ!(改訂版)

2010/09/25 11:45:17
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「静葉姉さーん!! 大変大変大変よーっ!!」

その日の朝は、穣子のけたたましい叫び声から始まった。彼女はどたどたと駆けて家の中へ入ってくる。ちょうど家の奥で、物置き場の片付けをしていた静葉は、何事かと思わず顔を出す。

「もう、朝っぱらからどうしたの。 あまり走ると、また床が抜けるわよ? 今まで何枚抜いてると思ってるの」
「姉さん! それどこじゃないの! 外! 外! 早く外来てよ! 大変なの! とにかく大変なのよー!!」

穣子は言うや否や、無理やり姉の腕を掴むと家の外へと引っ張ろうとする。

「ちょっと引っ張らないでったら……」

静葉は仕方なく妹に引っ張られながら外へと出る。外はまだぼんやりと薄暗い。その時、ふと彼女の目の前に白いものが落ちてくる。よく見るとそれは空からたくさん落ちてきていた。

「なにこれ……」

静葉は目を疑った。

「雪よ! 姉さん!」

穣子の言葉に、静葉は手のひらを差し出してその白いものを受け止める。するとそれは、程なくしてはらりと溶けてしまった。間違いなく雪そのもだった、思わず静葉はつぶやいた。

「……そうみたいね……」

二人は呆然と、空から落ちてくるものを見つめている。

「……ねえ、穣子。これはどういうことなの?」
「そんなのわからないわよっ! なんか寒いなーって、外に出たらこの有様だったのよ! 本当なんでなのよ!! なぜなのよ!! 私達の秋はまだ終わらないわよ!!」
「……穣子、落ち着きなさい。とりあえず家の中に入るわよ……寒いし」

取り乱してる穣子を静葉は制し、二人は家の中へと戻った。

「……どうしよう姉さん……まだ里の収穫祭も終わってないのよ?」

穣子はパニックのあまりに目に涙すら浮かべていた。一方の静葉は腕を組んで目を閉じたまま黙っている。

「ねえ、姉さん……今年の秋もう終わりなの? もう終わりなの? 終わりなの? だって、まだ霜月までは半月以上あるじゃないのよぉ……私、嫌だよぉお……」

穣子が思わず泣き出しそうになると、すかさず静葉が言う。

「穣子。落ち着きなさい。こういうときこそ気をしっかりしなくてはいけないわ」

そのときだ。

「おはようございまーす。文々。新聞でーす!」
「あら、この声は……。穣子、出迎えてあげて」

姉の言葉に、穣子は涙を拭いて、入り口の方へ行き、新聞屋こと文を迎え入れた。彼女は家の中に入ると、手をこすりながら白い息を吐いた。

「毎度、ありがとうございます。これが今日の新聞です」
「ご苦労様」

静葉は新聞を受け取るなり、その場で広げて読み始める。

「いやー。参りましたよ。朝になって急に寒くなったと思ったらこの有様ですから」

そう言う彼女の頭にはうっすらと雪が積もっている。いくら彼女が天狗と言えど確かにこれはこたえそうだ。

「新聞屋さんて寒いのに大変よね……。あ、そうだ。良かったらお茶でも飲んでいく?」
「あ。すいません。じゃ、一杯だけ頂いてもいいですか?」
「はーい。ちょっと待っててね」

文が申し訳なさそうにそう言うと、穣子はお茶の用意を始める。そして、彼女が持ってきた緑茶を一口飲むと、文は、ふうと息をついた。

「はあ、助かりました。こうも寒いと流石にきついものがありますね」
「本当よね。本当ならまだ秋なのに……」

穣子はそう言って恨めしそうに宙を見上げる。徐々に明るくなってきた外は、今も雪がちらついているようだ。

「……それにしてもおかしい天気ですよね。昨日の夜はあんなに晴れていたのに……いくら山とは言え、ここまで劇的に変わるものでしょうか?」
「さあねー。少なくとも私の記憶にはないわ。こんなのは……」
「私も記憶にないですね……」

などと二人が話してると、不意に静葉がつぶやいた。

「……最近は河童達が、ずいぶんと賑やかなようね」
「え?」

思わず二人は彼女のほうを振り向く。

「あら、御免なさい。新聞の記事の話よ。ここのとこ河童達の話題が多いから……ふーん。河童の住処に温泉施設が出来たのね。今度行ってみようかしら」

のん気そうな姉の言葉を聞いて、穣子は怒鳴りながら、起き上がって地団駄を踏む。

「もう、姉さんったら!! それどこじゃないでしょ! そんなのより今は外の天気の方が大事なのよっ! わかる!? 天気!」

妹の怒声に静葉は思わず顔をしかめる。

「もう、穣子ったら、はしたないわよ。それに床が抜けるって言ってるでしょ。……はいはい、天気ね……ええと、今日の文々。新聞の文ちゃん天気予報は…… 『晴れよい秋晴れの日和となるでしょう』……見事にハズレね」
「あやや……すいません」

静葉の言葉に、文は思わず苦笑いを浮かべた。

「ま、いいのよ。新聞の天気予報なんて所詮は、駄菓子のおまけみたいなものだもの」

そう言って静葉は新聞をたたむと、穣子が先ほど淹れてくれたお茶を飲み始める。そのとき姉の言葉を聞いた穣子が、ふと口を開く。

「……あれ? でもそう言えば、文さんの新聞の予報は結構当たる方だったよね?」

穣子の問いに、文はお茶を飲みながら答えた。

「ええ、まぁ……親友の河童に協力してもらってますからね。どうせ載せるなら信憑性高い方がいいと思いましたので」
「ふーん、協力って……どうやって?」
「私も詳しい事は分からないんですが、何でもレーダーだか何だかを使って雨が降るか降らないかを調べたり、気温の低さで雪になるかどうかを調べたりしてるそうですよ。一度その機械を見せてもらった事あるんですが、私には何が何だかさっぱりでしたけどね……」
「ふーん。なんだか難しそうな事してんのね。やっぱ河童の考えてる事なんて、私にはわからないわー」

そう言うと穣子はごろっと退屈そうに寝っ転がる。そこに二人の会話を聞いてた静葉が口を挟んできた。

「……となると天狗さん。尚更この天気はおかしいわね。それだけ信憑性が高い予報が外れるって事になるもの」
「……ええ。まぁ、そうなりますね。雨ならまだしも、雪が降るなんて私も驚きましたよ」
「ねえ。あの雲、普通の雲に比べて何かおかしいとか思わなかった?」
「え?……うーん。そうですね。なんか突如現れたって感じでしょうか」
「突如現れた……ね」

文の言葉を聞いた静葉は顎に手を当てて、なにやら考え事をするようなそぶりを見せてそれっきり黙り込んでしまう。一方の穣子は、気だるそうに床に転がったまま何やらぶつぶつとつぶやいている。

「……あっと、こんなことしてる場合じゃありませんでした! これから新聞配達に行かなくては!」

不意に文がそう言って立ち上がると、静葉も我に返ったように一緒に立ち上がった。

「あらあら、ごめんなさいね。なんか呼び止めてしまったみたいで」
「いえいえ、とんでもない。お茶ご馳走様です。おかげで暖まりました」
「外まで送るわよ」
「あやや……わざわざすいません」

そう言いながら二人は外の方へと姿を消す。
穣子は二人が外の方へ出て行ったのをぼんやりと見つめていた。やがて静葉は戻ってくると、妹の腑抜けた有様を見かねたのか、大きくため息をつく。

「もう、穣子ったら起きなさい。こういう時に神様がしっかりしてなくてどうするの?」
「しっかりったってさぁ……外は雪なのよ? どうすればいいのよ……」

そう言って穣子は気だるそうに寝返りを打つ。

「そうね。とりあえずあなたが今できる事は、まず起き上がることよ。さ、起きて」
「はぁ~い……」

姉の言葉に穣子は間延びした返事とともにしぶしぶ起き上がる。

「さあ、次にあなたができる事は、私の話をよく聞く事よ」
「何よ話って」

穣子はあからさまに不機嫌そうな態度をとるが、構わず静葉は話を始めた。

「私が思うに、この天気は怪しい気がするのよ」
「……怪しいって?どういうことよ……?」
「……穣子。昨日までの天気覚えてる? 夜になっても雲ひとつない快晴だったわよね」
「あー……そうだね。一緒に外で月見したもんね。明け方近くまで……」
「そう、月見を終えて、私達が家に戻った頃は、星が見えていたし、まだこんなに寒くなかったはずよ」
「うーん、言われてみればそうね。……それに確か、私が寒さ感じて外に出たのは……家に戻って一刻も経ってなかったわね」
「普通、そんな短い間に急に温度が下がるなんて有り得ない話だと思わない?」
「言われてみれば確かに……」

静葉は更に続ける。

「そしてあの新聞屋さんの言葉を覚えてるかしら? あの雲は突如現れた感じだったって。もし、彼女の言葉が本当だとすれば、あの雲は自然に発生したものじゃないって事になるわ。つまり……」
「つまり……?」
「……この雪は、誰かが人為的に降らせてるってことよ」
「なんですって!?」

姉の言葉に穣子は思わず大声を上げる。すかさず静葉は付け加えた。

「……穣子。間違いなくこれは『異変』よ。そして、これは、秋の神様として黙って見過ごすわけにはいかないわ」
「見過ごすわけにはいかないって……姉さん、まさか……」
「ええ。そうよ。この異変は私達で解決させるのよ!」

姉の思いもよらない言葉に穣子は唖然としてしまった。


「あら穣子どうしたの?」
「……どうしたのじゃないわよ。だって異変の解決なんて、それこそ巫女にでもやらせておけばいいじゃない。私達がわざわざ動く必要があるの?」
「分かってないわね。別に異変は巫女だけが解決するものなんて決まりはないわよ。それに秋度で満ちている今の私達なら異変の解決も不可能じゃないわ」
「それはそうだけど……私達なんかに出来るのかな?私達は神霊とかとは違うのよ?」
「私達は曲がりなりにもれっきとした神様には違いなのよ。神様が異変解決の一つくらい出来ないわけないわ」
「大体、どうしてそこまでこの異変の解決にこだわるのよ?」
「……どうしてって? そんなの決まってるわ」

静葉は一息を付くと吐き捨てるように穣子へ言う。

「悔しいからよ! 当たり前でしょ? だって私達は、寒い冬を越え、麗らかな春をやり過ごし、つらい夏を耐えてようやく秋を迎える事が出来たのよ! それなのに、ただでさえ短い秋を誰かの仕業で強制的に終わりにさせられるなんて、私には到底納得できないわ! 同じ秋を司る神として穣子は悔しくないの!?」

珍しく語気を強める静葉の圧力に穣子は黙り込んでしまう。その様子を見て静葉は、一転して優しく諭すような口調で彼女に言う。

「……でもね、穣子。初めてやる事に不安を持つ気持ちはよく分かるわ。だからもし、あなたがどうしても乗り気じゃないって言うのなら、姉さんは無理にとまでは言わない。その代わり私一人でいくから……」

そう言って静葉は外へ出ようと歩き出す。すかさず穣子が呼び止めた。

「待って!姉さん一人じゃ危険よ! だって姉さん戦闘とか苦手でしょ? ……それに私だって悔しいのは同じだわ。……そうね……躊躇する必要なんかなかったわよね。……やってやるわよ。絶対犯人見つけ出してボコボコにして私達の秋を取り戻してやるわ……!」

穣子は握りこぶしを作ると高々と掲げる。
彼女の力強い言葉を聞いた静葉は、計画通りといった具合にニヤリと笑みを浮かべる。

そのときだ。

「あのーお取り込み中すいません……」

二人が声に驚き振り返ると、そこにはきまり悪そうにしてる文の姿があった。思わず穣子がたずねる。

「あれ?文さん何でここに……新聞配達に行ったんじゃなかったの?」
「それが、静葉さんから帰りにここに寄ってほしいってさっき頼まれまして……」
「帰りって……新聞配達は?」
「はい、だからそれを終えて戻ってきたんですよ」
「えぇ!? もう!?」
「さすが早いわね。で、里の方の様子はどうだったかしら?」
「ええ、静葉さんの言った通りでしたよ。まだあの雲は里の方には達してなかったです」
「そう。で、里に雪が降るのは、このままだといつ頃になりそうなの?」
「ええ、私の予想では夕方ごろになるんじゃないかと」
「ふーん。夕方ね……」
「ただし、それは無風状態での話です。風の吹き方によっては前後する可能性もありますので」
「どっちにしろ急ぐに越した事はないわね。というわけで穣子。あなたの出番よ!」

そう言って静葉は穣子の肩をぽんっと叩く。
肩を叩かれた穣子はきょとんとして姉に言った。

「え? 私?」
「そうよ。里の人気者、実りの神様の出番よ」
「ええと……何すればいいの?」
「今、分かった通り、あの雪を降らしている雲は、まだ里までには達してないわ。だから、今のうちに里の人たちに、まだ残ってる作物を全部収穫するように呼びかけてくるのよ。ついでにあなたも収穫手伝ってらっしゃい。これは私よりあなたの方がむいてる仕事だから」
「いいけど、姉さんは?」
「私は心当たりある人を片っ端からあたってみるわ。大丈夫よ。天狗さんも一緒だし」
「え、文さんも?」
「そう、今回は彼女にも協力してもらうつもりよ。彼女の情報網は絶対に役に立つわ」

静葉の言葉を聞いた文は、うちわを広げてぱたぱたとあおぎながら言う。

「と言っても、あくまでも私は、記者としてこの事件の顛末を見守りたいだけですけどね。ま、情報収集程度ならお力添えできると思いますよ」

穣子はそれを聞いて安心したように、にこりと笑う。

「そっか。わかったわ。文さんが一緒なら安心ね。じゃ気をつけてね」
「ええ、穣子もね」
「うん。じゃあ、いっちょ行って来るわ!」

そう力強く返事をすると、穣子は里の方へと向かっていった。

「さてと……私達も行きましょうか。それじゃ天狗さんは引き続き情報収集の方、お願いね」
「あやや? ちょっと待ってください。さっきの話だと、私もあなたに同行するような話じゃなかったですか?」
「いえ。情報の収集は手分けした方が効率いいわ」
「確かにそうですけど……」
「それに私は、ちょっと行く当てがあるのよ。だからあなたは里周辺で情報集め
てきてくれないかしら」
「なるほど。わかりました」

静葉の言葉に文はあっさりと引き下がる。そして「それでは……!」と言い残し彼女は、風のようにその場から姿を消した。

ほどなくして静葉も雪が降りしきる空へと舞い上がる。

こうして彼女達の異変解決が始まったのだった。



「……山がもうこんなに白くなってるわ」

 静葉は雪が降る中で、一人空を駆けていた。
ふと見下ろすと、朝から降り出した雪は、既に妖怪の山全体を白く覆いはじめている。紅葉で彩られた山々にうっすらと積もった雪は、それはそれでなかなか綺麗なものだ。しかし、そんな悠長な事は言ってられない。このまま雪が降り続ければ、せっかくの紅葉が雪の重みで落ちてしまうどころか、そのせいで樹木そのものも傷んでしまう。下手すれば老木なんかはそのまま枯れてしまう恐れもあるのだ。

そもそも、秋になるとほとんどの木が、葉を落すのは、冬になり雪が降ったときに、雪が積もる面積を減らして、枝に負荷をかけないようにするためだ。よってこの時期に雪が降るのは、何にしろ決して歓迎できる事ではない。

「早くなんとかしないといけないわね……」

静葉は、飛ぶ速度を倍ほどにまで上げる。彼女が向かった先は、スキマ妖怪こと八雲紫のところだ。紫の住処は、普通の行き方では、まずたどり着くことが出来ないが、以前静葉は文に秘密のルートを教えてもらった事があったので、すんなりと到着することができた。そして静葉は、彼女の住む屋敷の入り口に、すたりと着地する。

「さて……ここでいいはずだけど、誰もいないようね……?」

彼女は、ざっと辺りを見回すが、周りに誰かがいる気配はしない。留守なのだろうか。とりあえず彼女は、家の周りをぐるりと回ってみるが、中に人がいる様子はない。もっとも紫の場合は、前触れもなく突然姿を現すので本当に留守なのかどうかはわからないところだが。

「仕方ないわね。また後で来ましょうか……」

と、彼女が帰ろうとしたそのときだ。

「おや、誰かと思えば、これはこれは珍しいお客様がお見えになりましたわね」

突如、背後で声が聞こえたので、静葉が振り返ると、案の定、紫の姿があった。

「いたなら初めから出てきたらどうなの。いないのかと思ったわ」
「御機嫌よう紅葉神さま。あまりにも珍しいお客様だったので、ちょっと脅かそうと思いまして」

そう言って彼女は扇子で口を隠したポーズをとって、くすくすと笑う。実に胡散臭い。

「……ところで、秋の神様が、こんな辺境の地に何の御用で?」
「ええ。ちょっと貴女に尋ねたい事があってね」
「あら、何でしょう?せっかくなので上がっていって下さいな。大したおもてなしはできませんが、お茶くらいはお出ししますわよ?」

紫は微笑みながら彼女を誘ってきた。実に胡散臭い。

「いえ、急いでるので遠慮させてもらうわ」

静葉が即座に断りを入れると、紫は、残念といった様子で両手を脇に広げた。実に胡散臭い。

「あらあら、この狭い幻想郷、そんなに急いでどうなさると言うのでしょう?」

静葉は今回の異変の事を紫に説明した。すると彼女はわざとらしいくらい驚いた顔をする。実に胡散臭い……というか、もはや彼女の存在自体が胡散臭い。

「まぁ、私が留守の間にそんな事が起きてたなんて……なんということでしょう!」
「ふーん、本当に留守だったのかしら?」
「ええ、ちょっと結界の外へお出かけしてまして。で、今ちょうど帰ってきた所でしたの」

そう言って彼女は手提げ篭を取り出して、静葉に見せびらかすように差し出す。それに対して静葉は表情変えずに言う。

「私は貴女の仕業だと思ったんだけどね」

「それはまたどうして?」
「貴女ならこれくらいの事造作もないでしょうし、何より貴女は今までもいろんな事件の元凶になってるものね」

彼女の言葉に思わず紫は苦笑する。

「あらあらまあまあ、私、ずいぶんと怪しまれてますのね。……しかも必ずしも否定できないとこが辛い所です……。でも今回の件は違いますわ。大体、私がそんな事して何に得があると?」
「あら、貴女は損得勘定で動くタイプじゃない気がするけど……?」

静葉が平然と言い放つと、彼女はこれ以上にないというくらいの満面の笑みを浮かべて言い返す。

「……ともかく、今回に限っては私じゃないですわ。天地神明に誓いまして」

彼女の様子を見て、静葉はこれ以上刺激するのは得策ではないと感づき、ここはおとなしく引き下がる事にした。

「そう、それは失礼したわ。疑って御免なさいね」

静葉はそう言ってひらりとお辞儀をすると、きびすを返しその場から去ろうとする。

「お待ちくださいな。秋の神様」

ふと紫が呼び止める。静葉はあえて振り向かずに聞き返す。

「なにかしら?」
「あなたは何のためにこの異変を解決しようとしてるです?」

紫の問いに静葉は即座に答える。

「自分のためよ」

その言葉を聞いた紫は、嫌味っぽい口調で彼女に言う。

「まぁ、驚きましたわ。神様にしてはずいぶん私欲的な理由なのですね?」
「……あら、もしかして幻想郷を守るためとか言う答えを期待してたのかしら? そんな大義名分なんて、ナンセンス以外の何者でもないわ。それに秋の神様が、秋を救おうとするのは何らおかしい事じゃないわよ」

そこまで言い切ると静葉は、勝手に飛び去って行ってしまう。紫は思わず苦笑しながらつぶやいた。

「……面白い子だこと。大義名分に拘らず、自分のためだけに動くなんて……まるで人間……いえ、人間以上に人間くさいわ。人間も少しは彼女を見習うべきじゃないかしら? ……なぁんてね。……さて、その『人間』にでも会いに行きましょうか……」

そう言って彼女はその場からするりと姿を消した。


 その頃、里では穣子の指揮の下、作物の収穫大作戦が執り行われていた。

「さあ! 皆、急いで急いで!ぼやぼやしてると雪が降ってくるわよーっ! 雪が降ったらせっかくの作物が、オジャンになっちゃうわよっ!」

彼女は、頭巾を頭に被り、もんぺ姿に手には鍬を携えてという、まさに『臨戦態勢』で、畑の真ん中にある物見やぐらの上から、メガホンを使って人々を鼓舞していた。ふと彼女は、やぐらの上からふらっと飛び上がって、芋ほりをしている若者の元へ着地する。

「ちょっと!そこのあなた、芋ほりも出来ないの?私がやるのを見てなさい!いい?こうやって腰をしっかり落して土を掻き分けるのよ」

穣子は、そう言いながら戸惑う若者の前で、実に慣れた手つきでサツマイモを収穫していく。その見事な手さばきに自然と周りから拍手が起こる。

「ちょっとあなたたち!拍手なんていいから手を休めないの!もうお昼になっちゃうわよ!?」

思わず穣子はメガホンで男達にそう叫ぶと、畑を離れ、近くにある集会小屋へと向かう。小屋の中では、里の女性達が大量の握り飯と、大鍋いっぱいの野菜の味噌汁をこしらえている最中だった。これらの具材は、全部穣子が自分の家の蓄えから用意したものだ。

「さあ、もうすぐあなたたちの出番だわ!働いて腹ペコの男たちに、午後からも働けるように愛情込めて作った料理をたくさん振舞ってあげるのよ!」

やがて、お昼を知らせる鐘が鳴り、畑にいた男達がお昼を食べに小屋へと引き上げてくる。そして彼らが食事を始めると、用意していた料理は瞬く間になくなっていった。泥だらけの姿で顔を綻ばせながら、握り飯を頬張る男達の様子を満足そうに眺めると、穣子は小屋の外へ出て空を見上げた。
まだ雪こそ降っていないが、辺り一帯は、既に鉛色の雲に覆われ始めている。気温も昼前より幾分か下がってきたかもしれない。

「うーん。これはピッチ上げないとやばいかもね……少し配置の転換とかしてみようかしら……それとも思い切って女性陣も参加させるか……」

と、彼女がつぶやいていると、そこへ静葉が現れる。

「穣子。そちらの進み具合はどうかしら?」
「あら、姉さん。今は、ちょうどお昼休み中よ。うーん、まぁほぼ順調なんだけど……」
「なんだけど?」

ふと、穣子は空を見上げた、静葉も一緒になって空を見上げた。

「……これさ、思うんだけど、もしかしたら予定より雪降るの早くなりそうな気がするのよね……」
「……そうね。なんとも言えない微妙なところね。間に合うの?」
「ま、何とかやってみるわよ」

そう言って彼女はぐっと拳を握った。その様子を見て思わず静葉は笑みを浮かべる。

「そう。それにしても……あなた、その格好似合ってるわね。言うなれば農作業のプリンセスってところかしら?」
「……ええと、それは、褒めてるの?それともけなしてるの?」
「さあ、どっちでしょうね。穣子の好きなように解釈していいわよ?」

穣子は姉の言葉に思わずため息を付く。

「……ところで、姉さん。そっちの方はどうなのよ?」
「ええ、これと言って有力な手がかりはないわね。とりあえず、今分かってるのは、あのスキマ妖怪の仕業ではなさそう事くらいかしら」
「え!あいつじゃないの?」
「ええ、できる限り突っついてみたんだけど、今のところは彼女はシロと考えていいと思うわ」

姉の言葉を聞いた穣子は、「うむむ」唸りながら腕を組んでその場に座り込む。

「……となると……でも、あの人以外にそんな事が出来る奴なんかいたっけ?」
「まぁ、一応心当たりはあるわね。今からそいつのところに向かうつもりよ。ちょっと遠いんだけどね」
「そう。気をつけてね。って、あれ? そう言えば文さんは一緒じゃないの?」
「あ、彼女とは、結局手分けして手がかり集める事にしたのよ。多分、今頃あちこち飛び回ってると思うわよ?それじゃ頑張ってね」

さらりとそう言い残すと、静葉は、空へと飛び上がって行ってしまう。

「はぁ……こりゃ、文さんに期待するしかなさそうね……」

穣子は、姉の姿がどんどん小さくなるのを見ながら思わずつぶやく。そのとき、今まで休憩を取って里の男達が小屋からどやどやと出てくる。どうやら昼休みを終えて戻ってきたらしい。

「さてと! それじゃ私もかっ飛ばしていくわよー!」

穣子は、右手で作った拳を左手で勢いよくぱしーんと鳴らし立ち上がると、意気揚々と畑の方へと向かった。


 一方、その頃、文は、森の外れの香霖堂にいた。
彼女は、店の中で店主の霖之助と一緒にお茶を飲んでいるところだった。

「ふう、緑茶がおいしいですね……」
「そうかい。それは良かった」
「今日みたいな寒い日には、温かいものが合いますからね」
「確かに言われてみれば、今日はこの時期にしては、些か寒いかもしれないね」

そう言って霖之助は窓の外に目を移す。

「はい、これから雪が降る予定ですから」

文の言葉に彼は思わず驚きの声を上げる。

「え、それは本当なのか? ……いくら寒いとは言え、この時期に雪だなんて」
「多分、夕方頃には、ここも降り始めると思いますよ」
「……ちょっと待ってくれ。君の新聞の天気予報では、今日は一日中晴れの予想になってたんだけれど……」

霖之助は、テーブルにおいてある今日の文々。新聞を掴んで天気予報欄に目をやる。すると文は悪びるわけでもなく平然と彼に告げた。

「私の天気予報も、外れるときは外れますよ。それに、あくまでも予報ですからね」

彼女の言葉に霖之助は新聞をテーブルに置き、顎に手をやりどこか腑に落ちない様な表情を浮かべた。

「ところで霖之助さん。最近、何か変わった事はありませんでしたか?」
「変わった事?」
「ええ、どんな些細な事でもいいんですが……」
「そうだね……そういえば今朝こんなものを拾ったんだが」

そう言って彼は立ち上がり、奥の棚から木の箱を持ってくる。

「なんですかそれは?」
「ふむ。僕が視た限りだと、これは『オルゴン蓄積器』という名前で、未知のエネルギーを集める装置らしい」
「……へぇ、ちょっと見せてもらってもいいですか?」

文はそのオルゴン集積器なる木の箱を手に取ると、ふたを開けてみる。中は金属の板が張り付けられてるだけだった。箱をひっくり返したりしたが、他には何も仕掛け等は施されてはいないように見える。

「……なんですかこれ?」

思わず文が改めてたずねると、彼は両手を脇に広げ首を横に振りながら答える。

「僕も正直言ってよくわからない。だがこれを使えば、その未知のエネルギーとやらを集める事が出来るんだろう」
「エネルギーですか……こういうことは、きっと、にとりの専門分野でしょうね」

文の言葉に霖之助は腕を組んで頷く。

「あぁ、そうだね。彼女なら何か知ってるかもしれない」
「そういえば、今日は来てないんですか?」
「にとりなら、ここ三日くらい顔を出してないよ」
「へえ、そうなんですか……」
「彼女に見てもらいたい品物がたまってるんだが」

そう言って霖之助が振り返った先には、ガラクタにしか見えないものが山のように積まれていた。こんなものはにとり以外は、まず興味を持たないだろう。
文は「なるほど」と、一言だけ言うと、椅子を引いて立ち上がる。

「おや、お帰りかい?」
「ええ、お茶ご馳走様でした。それでは!」

文は軽くお辞儀ををすると、あまりの行動の早さに、唖然としてる彼を尻目に香霖堂を出る。外はだいぶ気温が下がってきていて、今にも雪が降ってきてもおかしくない状態だった。

「ふむ……にとりがしばらく顔を出していない……そういえば、温泉施設の落成式にも彼女の姿はなかった……これは一度彼女のところに行ってみる必要があるかもしれませんね……」

と、彼女がメモを取り出しながらつぶやいていたときだ。辺りで激しい閃光が瞬いた。文は一瞬、雷かと思わず空を見上げたが違った。どうやら誰かが一戦交えている最中らしい。上空では二つの影が交差しているのが見えた。

「この、寒いのに良くやりますねぇ……」

文は半ば呆れ顔で上空の様子を見上げていた、すると次第にこちらにも流れ弾が飛んでくるようになる。というより明らかに攻撃されてるような雰囲気だ。

「あやや、これは、もしかして私も狙われているんでしょうか……?」

そう思うや否や、今度はまとまった弾幕がこっちに向かってきた。彼女は、すばやく弾を避けながら、その場を離れ森の中へと入る。程なくして巻き添えを食った香霖堂が爆発炎上する音がした。哀れこーりん。彼はどうやら雪が降る中を野宿生活しなければいけないようだ。

森の中に逃げたものの、弾幕の雨は止むところを知らずと言うより、むしろ激しさが増してきていた。そうこうしてる間に彼女の周りの木々が次々と被弾し、なぎ倒されていく。このままでは森の木々を総てなぎ払いかねないような勢いだ。文は、やれやれとため息をつく。

「……これは本気で倒しに来てるようですね。ならば、こっちも全力で逃げさせてもらいましょう!」

彼女は翼を最大に広げると、一瞬で森の反対側へと抜ける。そして勢いそのままに上空へと飛び上がり、文字通り目にも止まらない速さで里の方へと向かう。
相手の追撃弾が、執拗に追いかけたが、文はそれを巧みにかわしつつ、里の上空にまでへとやってくる。その頃は既に攻撃は止んでいた。流石に諦めたようだ。

「ふっ、ちょろいもんですね! 幻想郷最速の名は伊達じゃありません!」

彼女は思わず一人勝ち誇って団扇を扇ぐ。

「さて、せっかく里まで来ましたし、穣子さんの様子でも見て行きましょうかね」

文は翼をたたむと里へと降り立つ。辺りは、不気味なほどの分厚い雲に覆われ、いつの間にか小雪がちらつきはじめていた。

「どおぉおおおおおおおりゃあああああああああぁぁぁぁーーーーっ!!」

 里に穣子の渾身の雄たけびがこだまする。
彼女は小雪の舞い散る中、鬼も戦くような形相とともに、ものすごい勢いで稲を刈っていた。

「これは!!」

文はすかさずその姿をカメラで撮る。特に理由はなかった。言ってしまえば条件反射的なものだ。彼女は面白い被写体を見つけると無意識にシャッターを押してしまう癖があるのだ。写真を撮った文はふと我に返ったようにつぶやく。

「あれ、穣子さん……ですよね……? いったい何が起きてるのでしょうか?」

文は不思議そうな表情で作業に没頭する彼女を眺める。

結局、穣子はあの後、自分自身も手伝うという術を選んだ。
始めこそは、てきぱきと和やかな雰囲気で作業をしていたが、そのうち実り神魂に火がついたのか、近くで作業をしてる者を押し飛ばし始める。そして、雪がちらついてきたのを確認するや否や、彼女のボルテージは一気に最高頂点へと達した。
今や彼女を止められる者はいないだろう。文字通り暴走である。しかし、勢いこそあるものの、その仕事ぶりは極めて丁寧かつ正確無比なものだった。まず左手で稲を鷲掴みし、右手に持つ稲刈り用の鎌をざくっとすばやく引き上げる。引き上げるその角度は、一寸の狂いもない鋭角45度。次にその刈り取った稲を、落ちてる藁で手早く束ねると袋に詰め込む。本来ならばここは袋にしまわずに稲機にかけて干すのだが、なにしろ天気が天気なので、とりあえず今は袋にしまっておくことにしたのだ。

その一連の作業を、彼女は目にも見えない速さでこなしていた。これぞまさに神業。彼女が刈り取った後には、稲は勿論、藁一つすらも残っていない状況だった。あまりの迫力と、精密機械の如き仕事っぷりに、周りにいた男たちからは「神様の皮をかぶった鬼じゃ!」とか「あれが噂に聞く全自動稲刈り鬼か」とか好き勝手に言い始め、しまいには「もう、俺たちいらなくね?」という声すら漏れ始める。

そのときだ。

「おまえたち!あい待たれよ!」

脇で様子を見ていた村の長老が口を開く。その場が水を打ったように静かになる。まさに鶴の一声と言った具合だ。村人の様子を見て長老は続けた。

「実り神様が、あそこまでしてくれているのも、総て我々を思うが故なのだ。神様がじきじきに手を貸してくれるなんて、そうそうにありえないことであり、我々は幻想郷で一番の果報者に違いあるまい。今、自分たちができる事は何か!?今一度良く考えてみるがいい」

彼の言葉を聞いた村人たちは、皆こぞって思考を張り巡らせ始める。暫くして再び長老は彼らに向かってしゃべりだした。

「そう、我々ができることは……神様を見守る事だ!!」

その言葉を聞いた村人からは思わず歓声が上がる。

「さあ、最後まで見届けようではないか。皆で穣子様の神業達成のその瞬間を!」

長老の一声に賛同した里の者たちは、一致団結して、穣子を見守り始めた。中には祈りをささげる者や感極まって涙を流す者もいた。


その様子を傍から見ていた文は思わずつぶやく。

「あんたらも手伝え」


 空はどこまでも青く青く澄み渡っていた。雲は一つもないというと嘘になるが、少なくとも上空には一つもない。その代わり、眼界には、どこまでも果てしない雲の海が広がっていた。そして、その雲海からはそそり立つような岩が顔を出し、その岩肌を見たこともないような白い花が真っ白に染め上げていた。
ここは天界。文字通り雲の上の世界だ。秋静葉は今、その天界の真っ只中にいる。

「……なるほどね。ここが天界……噂には聞いてたけど、想像以上の場所のようだわ」

下界と違って空気は限りなく済んでいるし、果てがないのではないかと思うほど、遠くまで良く見える。桃源郷。まさにその言葉がぴったりと当てはまる場所だ。天界にも種類があるらしいが、そんな事、静葉にとってどうでもいいことだった。

「とても静かでいいところね…………こんなところに住めたら最高なのだけど」

ふと、静葉は辺りを見回す。そしてお目当てのものがないと知るや、残念そうに一つ息を吐いた。

彼女が探したのは木だった。というのも地上は今、秋であり(異変で冬になりかけてはいるが)当然、木々は赤や黄色に染まっている。しかし、この天界には見渡した限りそれらしいものはない。木々がない。すなわちこの天界には四季がないらしいということを彼女は、神様故の直感で感じ取った。

紅葉の訪れない場所に紅葉神がいる意味はない。つまり、自分はここに住む事はできないということだ。

いや、待てよ。それならば、秋のときだけ地上に降りて、それ以外をここで暮らせばいいんじゃないのか。そうすれば、わざわざ、寒い冬を越え、麗らかな春をやり過ごし、つらい夏を耐える必要もないのではないか。うん、我ながら実に名案だと、彼女は思わずニヤリと笑む。

「騒ぎが解決したら、一度、穣子も連れて来ましょう。きっといい気晴らしになるわ」

幻想郷は、これから冬を迎える。冬になると秋姉妹たちは力をほとんど失い、気分も暗くなる。そしてその傾向は、どういうわけか自分よりも妹の穣子のほうが顕著に現れるのだ。だが、ここに来れば少しは、彼女の気分が和らぐはず。そのためにも早くこの異変を解決させなくてはいけない。

「さて……話によると、ここにいたはずだけど……」

今、静葉の周りには、誰もいる様子はなかった。
仕方なく彼女は天界をしばらく歩く。天界は予想以上に広く、しかも似たような風景が延々と続いていた。

「おかしいわね。ここには天人が住んでるはずだけど……」

そのとき、ふと目の前の岩場に人影があるのを見つける。お目当ての天人だろうか。まぁ、お目当てのじゃなくても、道を尋ねたりはできるはずだ。
その天人は、石にもたれて、遠くを眺めているように見えた。

「ちょっとお尋ねするわ。ここら辺に天気を自在に操れる者がいるって聞いたんだけど、あなた御存知かしら?」

静葉の問いかけに、その者は、うつろな目を彼女に向ける。右手にはお酒の瓶が握られている。どうやら酔っているらしい。

「……なぁ~に? それもしかして、私のことかしら~ん?」

酔いどれ天人はそう言って、ふらりと立ち上がる。どうやらかなり酔っているらしい。

「あら、じゃあ、あなたなの? ヒマナシテンテンとかいう天人さんは」
「あぁ~? 誰よそれ……!? 私の名前ぁー。しななゐてんし!わかった?」

そう言って、てんしと名乗った天人は視点の定まってない目で静葉を睨んだ。微妙に呂律も回っていないようだ。

「あらあら、しなないって事は不死身さんなのね?」
「う~ぅ不死身じゃないけど、まぁそんあとこよ。ところであんたも呑む?」
「いえ、結構よ。急いでるから」
「ふ~ん。せっかくいいお酒手に入ったのに。ところでぇ……あなた、地上の神様でしょ?こんなとこに何しに来たの?」
「ちょっと容疑者Bを探しにね。容疑者Aは犯人じゃなさそうだったので」
「ふ~ん? 物騒ねー。ここは平和らからねぇ~。それでなくても何にもなくて暇あのよー」

そう言って赤ら顔の彼女は、にやにやと笑う。静葉は彼女に言う。

「……あなたのことなんだけど?」

「ふーん? ねぇ、それより聞いてよー。ちょっと悪戯しただけなのにものすごーくおこられたのー」
「ねえ、あなた天気を操られるんでしょ?」
「いいえ、私はノーテンキ、でも親は短気なのー。ひどいとおもわないー?もう呑まなきゃやってられないわよぉー」
「……」

彼女は相当泥酔してるようで、まるで話にならない。思わず静葉は額に指を当ててため息をつく。その後も二人の会話は、続いたが、やはりまったく噛みあわず、静葉は彼女の愚痴を延々と聞かされるハメとなってしまった。


 あいつ、八雲紫は、お昼の用意をしてるところに突然現れた。いつもながら見事な神出鬼没っぷり。そしておもむろに、今、外が雪降りかけてるのは、異変のせいだと告げてきた。異変解決なら私、博麗霊夢の出番。だけど、あいつは去り際にこんなことを言い残した。

「たまには人間らしく己のために、異変を解決してみたらいかが?」

己のために異変解決ね……。別に今までも、そういうつもりじゃなかったわけじゃないんだけど……。でもま、せっかくだし今回はあいつの言う通りに、自分のためだけに異変解決してみようかしらね。

そう、お賽銭を増やすために!!

異変を解決すれば私の信仰が上がるわ。そしてこの神社に訪れる人も増えるはず! そうすればお賽銭もたくさん手に入るってわけよ!
特に今回の異変は、里の人々の生活に直接関わるわけだし、これを見逃さない手はない!

ということで、私はちょうど、神社の庭を飛んでいた妖精を、出会い頭にぶっ飛ばした。怪しい奴を片っ端から退治していく。それが私流の異変解決方法。
よく見るとその妖精は、いっつも氷精とつるんでいる妖精だった。なんでもその氷精が行方不明で探してる最中だったらしい。まったく、今はあんたたちのかくれんぼなんかに付き合ってる暇はないのよ。よそへ行きなさい!

神社の境内を出て森の近くに行くと、魔理沙と出合った。話を聞くと彼女もこの異変解決に向けて調査を始めたところだったとか。冗談じゃないわ!
私は問答無用であいつを大人しくさせた。これは当然のこと。だって今回の異変は私のための異変なの!あんたは家で大人しくキノコでも齧ってればいいのよ。

森を抜けたところで、今度は古明地こいしと遭遇。今回の異変とは直接関係なさそうだけど、こいつも妖怪だし退治しておくに越した事はないわね。なんて、軽い気持ちで挑んだものの、流石にこいつは強かった。それでもなんとか撃退に成功する。そう、私は負けるわけには行かない。今ここで負けたらお賽銭がパーになっってしまうもの!!

こいしとの戦闘中に、怪しい鴉天狗を発見したので、ついでに弾幕を放ってみたら、ものすごい勢いで逃げ出した。本当に怪しいから追いかけてみたけど、結局逃げられてしまった。流石、幻想郷最速を名乗るだけはあるわね。まぁいいわ。そのうち出会う気がするから、そのときに退治しましょう。

さて、次は……そうね。雲が流れてきた妖怪の山の方に行ってみようかしら。なんとなく怪しい気がするのよね。
それじゃ、いくわよ! さあ、待ってなさい。私のお賽銭!


 一方、里では、収穫が無事に終わり、寒さをしのぐために皆で近くの小屋に集まって、お酒を飲んだりして体を温めていた。皆は輪状に座り、その中心には穣子の姿がある。彼女は、皆と一緒に談笑をしたりしていたが、里の者達の表情は、不安そうだった。それもそのはずだ。なにしろ、これから寒波がやってくるのだ。果たしてその寒波が、どの程度の規模ものなのかも分からない。当然、雪をしのぐ準備等もまだ終わってない。もしかしたら大雪で家が潰されてしまうかもしれない。そう考えると、心配するなと言う方が無理な話なのだ。穣子は、ふと立ち上がり皆に向かって告げた。

「みんな、知っての通りこれから寒波が、この里にやってくるわ。実際に、外はもう雪が降り始めてる……だけど心配しないで! というのも、この雪は何者かが降らせてる可能性があるのよ! こんな雪なんか、この秋穣子様が必ず止めてみせるわ! だから皆、あと少しだけ辛抱しててね」

そう言って穣子は、人の輪をふわりと飛び越え入り口へと向かう。里の者は、皆こぞって彼女に言葉をかける。

「穣子様! おねがいします!」
「穣子様! ぜひとも、この雪を止めてください!」
「穣子様! お気をつけて!」

皆の言葉に対して穣子は振り向き、笑みを浮かべる。

「みんな、ありがとう。ええ、絶対止めてくるわ。そしたら、皆で祭りでも開きましょう!」

彼女の言葉を聞いた人々から歓声が上がる。そしてそれはすぐに『穣子様』の合唱と手拍子へと変わった。酒も入っていたのでノリがよかったと言う事もあるのだろう。穣子は、振り返り小屋の戸を開け、賑やかな小屋の中から、雪が吹きすさぶ外へと出る。外はすでに寒風が吹きあふれ、雪が吹雪へと変わりつつあった。

彼女は口を真一文字に結んだまま、寒風に吹き付けられている。里の皆のため、何より秋を取り戻すためにも頑張らなければならない。こんな雪なんかには負けてられないのだ。

「やあ、そっちは片付いたようですね」

気が付くといつの間にか、文の姿があった。

「ええ。おかげさまでね」
「ずいぶんと活躍していたようですね。思わず写真に収めちゃいましたよ。是非、新聞の記事にしたいと思います」
「……それはありがとう。でも本番はこれからよ!」

穣子はそう言って空を見上げる。

「ええ、そうですね」
「ところで何か情報はあったの?」
「はい、私が今持ってる情報からしますと、犯人として可能性が高いのは、河童の河城にとりですね」
「あれ?それって文さんの親友じゃ」
「……ええ、まぁ、そうです。何でも彼女は数日前から、いつも顔を出しているお店に来なくなっているということで。更に彼女が氷精のチルノを連れて歩いているところを目撃したという証言もありまして……実際チルノも現在行方不明であるということです」
「と、いうことは、つまり、その河童が氷精を利用して、この寒波を起こしたって事?」
「ええ、その可能性が高いですね」
「なるほどね!よし、じゃあ、早速行きましょうか! そいつの住処とやらへ!」

二人は夕闇の空へと飛び上がり、妖怪の山へと向かう。寒風がちょうど逆風となるために飛ぶ速度はいつもより遅かった。

「……そういえば、誰か忘れてるような気がするんですが」

ふと文が、穣子に言う。

「ん?誰って、誰のこと……」

そのときだ。二人に向かっておびただしい数の弾幕が襲い掛かってきた。二人はすばやく切り返して何とか避ける。

「ひえー!! 何よ!?何よっ!?」

文は手をぽんと叩いて、思い出したように言う。

「そうでした! 巫女ですよ! 彼女が何故か暴れているんです」
「なんですって!? それはある意味異変より恐ろしいじゃない!」

言ってる側から弾幕が雨あられと二人に降り注ぐ。ただでさえ逆風で精一杯なのに、今の状態ではとても弾幕を避けながら飛ぶなんてできそうもない。

「うっひゃーーー!? こりゃ本気で潰しに来てるんじゃないのっ!? あいつ!」
「穣子さん。先へ行ってください。ここは私が、おとりになりますよ」
「え!? でも……そんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。私を誰だと思ってるんですか? ……それに彼女にはさっきから追いかけられているんです。どうやら私に用があるようなんですよ」
「分かったわ! それじゃ後で会いましょう!」
「活躍を期待してますよ! いい記事を書かせてくださいね」

文が、うまく霊夢をおびき寄せるように旋回すると、その隙に穣子はにとりの住処へと向かった。


「……まったく。すっかり時間を食ってしまったわね」

 静葉は肩をとんとんと叩きながら、疲れた表情で夜の妖怪の山の中を進んでいた。山の中はもう既に雪が大分積もっていた。

あの後、結局彼女は酔いどれ天人の相手を延々と続けた。会話が会話として成立しないディスコミュニケーションの嵐の中、静葉はやっとの思いで、知りたい事を聞き出す事に成功する。結局、あの天人が持ってる力では地上に大雪を降らせることは不可能との事だ。それがわかったならもうここに用はない。静葉は、喚きちらしている彼女を尻目にさっさと地上へと降りた。
彼女が地上に降りたときは既に辺りは夕闇に包まれ、寒波の勢いもかなりのものになっていた。ほぼずっと同じ景色の天界にいると、時間の移り変わりがわからなくなるものだ。どうやら相当な時間のロスをしてしまったようだ。

下界に降りた静葉は、秋度を補給するために自分の家に向かおうとしていた。そのときだ。上空の方でなにやら轟音が響いたかと思うと、何かが落ちてくるのが見えた。

「あら、あれは」

彼女はそばまで近寄ってみる。するとそこにはぼろぼろになった文が倒れていた。

「誰かと思ったら新聞屋さんじゃない。大丈夫?」
「あやや、油断しましたね……って、誰かと思えば静葉さんじゃないですか」

彼女は、ぼろぼろではあったものの思いのほか元気そうだった。そして静葉は、文から今までのいきさつを聞かされる。

「……へえ。じゃあ、そのあなたの友達の河童さんが怪しいって事で、穣子はそっちの方に向かって、あなたは異変の解決に乗り出した巫女に撃墜されたということなのね」

静葉は確認するようにそう言うと、ふうと一つ息を吐く。

まったく穣子ったら、相変わらず無鉄砲なんだから。

思わず心の中でつぶやく。大した用意もせずに、たった一人で敵陣に突入するなんて、静葉からすればとても考えられない事だった。相手はどんな策を用いてくるかわかったもんじゃない。ましてや兵器の扱いに長けた河童だ。本当ならばしかるべき準備をしてから乗り込むものなのだ。しかし、彼女が一人で乗り込んでしまった以上、そんな事も言ってられない。

「……それじゃ、私も河童さんの住処に行くとしましょう。ところで、あなたはどうするの?」
「あ、私ですか? そうですね。後から追いかけますよ。ちょっと家に寄って補充したいものもありますから」
「なるほどね。ま、あまり期待はしないわ」
「そう言ってもらえると、ありがたいです。あ、そうそうちょっと耳を貸してくれますか?」
「なにかしら?」

静葉は言われたとおりに彼女に耳を差し出す。すると文は、急に、表情と口調を変えて彼女に耳打ちする。

「……というわけよ。これは、私、射命丸文個人としての頼み。お願いしてもいいかしら?」
「ええ。わかったわ。まかせてちょうだい」

静葉はそう言ってはっきりと頷くと、文と別れて穣子の後を追いかけた。


 その頃、穣子は一足先に、河童の住処へと到着していた。

「ひゃー……」

思わず驚きを口に出した彼女の眼下には、河童達が作った工場や施設が広がっている。それは絶えず稼動をしているのか、大きな駆動音らしきものを辺りに響かせていた。更に照明らしきものが、その施設の周りを明るく照らし出しているのも相まって、なにやら辺り一帯、物々しいオーラを放っている。普段こういうのを見慣れない穣子にとっては、それは禍々しい以外の何ものでもなかった。

「こんな不気味なもの建ててどうしようってのかしら……やっぱり河童の考えている事は分からないわねぇ」

彼女は、そんなことをつぶやきながら辺りを見回す。そのときだ。彼女の目に、ひときわ大きい建物が飛び込んでくる。よく見ると、その建物は大きな煙突があり、その煙突の先からは白い煙がもくもくと空へ向かって放たれている。そしてその雲は空を覆う雪雲へと連なっているのが見えた。

間違いない。あの建物が今回の元凶だ。穣子はそう思うや否や、すかさずその建物の敷地内へと入り込んだ。敷地内は流石に、寒波の根源とだけあって完全に凍結しきっていた。穣子は建物の周辺をぐるっと回ってみたが、入り口らしきものは見つからなかった。

姉なら、きっとここで入り口を根気よく探すのだろうが、生憎、自分はそんな気長ではない。彼女は有無を言わさず近くの壁に弾幕を打ち込む。すると、あっけないくらい簡単に穴が開いた。見た目とは裏腹に実は凄く脆いつくりなのかもしれない。ともかく彼女は、建物内へと侵入した。

彼女が侵入した先は大きな空間のようになっていた。と言うか建物の内部自体が大きな空洞となっていたのだ。そしてその空間の真ん中には、にび色の鈍い光を放つ、大きな焼却炉のようなものが居座っていた。その焼却炉のようなものから例の煙突は天へ向かってそそり立っていた。

「よし! アレを壊せばいいのね!」

穣子は、そのにび色の炉に向かって弾幕を放つ。

そのときだ。炉の方から弾幕が撃ち返され、彼女の弾幕は相殺されてしまう。
何が起きたか理解できなかった穣子の前に突如、河童が姿を現す。

「いきなり何するんだよ!」

その河童――河城にとりは、腕組みをして、穣子の方を見ている。

「……そこの河童! あなたが、今回の騒ぎの元凶なのね! 秋を返してもらうわよ!」

「もう、諦めなよ。今年の秋は終わったんだよ」

「冗談じゃないわ! 妖怪ごときに秋を終わらされてたまるもんですか! 大体なんで無理やり秋を終わらせる必要があるってのよ!」

「私の実験のためさ。そのために秋には死んでもらったんだよ。実験には多少の犠牲はつきものなんだ。秋の神様には悪いけど、どうかここは……」

「ふざけんじゃねーよ! そんなんで納得できるわけねーだろーが!!」

穣子の怒声とともに、彼女の腰の据わった鉄拳が、にとりの顔面に炸裂する。まともに食らったにとりは、きりもみしながら吹き飛び壁へ叩きつけられる。
それでも彼女の怒りは収まらず、目を座らせたままにとりの方を鋭く睨みつけた。

「あんた一人のせいで、幻想郷をめちゃくちゃにされてたまるかっつーの! 問答無用よ覚悟しろ! この極悪妖怪!」

対するにとりは、顔を手で抑えながら、ふらふらと立ち上がった。あれだけしたたかにぶん殴られたにも関わらず彼女の顔面は、少し赤くなった程度で済んでいた。どうやら河童と言う種族は体が頑丈らしい。

「……よくもやってくれたな! 覚悟するのは、お前の方だ! 河童を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる!」

そう言うと彼女の姿が忽然と消える。穣子は一瞬自分の目を疑ったが、そういえば河童は、自分の姿を自在に消す事ができる、コーガクなんとかという技術があるのを思い出す。

「ふん、姿が消せるくらいで、私がビビるとでも思ったかしら!? それくらいそこら辺の妖怪だって出来……」

そのとき彼女の目の前に、再びにとりが姿を現す。その姿を見て穣子は思わず絶句する。にとりは全身と言う全身を、なにやらごっつい鉄の塊で被っていた。その様子は、彼女が昔、読んだ事がある外の本に登場した、ぱわーどすーつとかいうものにそっくりだった。

「ちょっと、なによそれ!?」
「へっへ~。こんなの見たことないだろ!? 教えてやる!河童の科学力は幻想郷一だって事を!」
「ふ、ふんだ。どうせ、そんなの見掛け倒しでしょっ!?」

怯まずに穣子は、にとりに向かって、弾幕を放つが、彼女に届く前に弾幕は、すべてかき消されてしまう。

「あれ?」

穣子はもう一度、今度はさっきより強力な弾幕を放つが、やはりすべてかき消されてしまった。

「ちょ、ちょっと!なんで当たらないのよ!?」
「バリヤーっていうやつだよ。知らないのかい?こいつを張れば、弾幕から陰湿な悪口攻撃まで、あらゆる攻撃を無効化する魔法の壁さ」
「なんですって……!?悪口まで!?」
「そうさ!」
「……この悪趣味河童。おまえのかあちゃんでーべーそー」
「なんだとー!!」
「聞こえてるじゃないのよ悪口!」
「もう怒ったぞ!! 絶対許さないぞ!!」

彼女の言葉を無視してにとりは、がちゃりがちゃりと音を立てながら背中の方から砲身を展開させる。

「いっけぇー!キューカンバーミサイル発射!」

彼女の掛け声とともにその砲身から弾が、猛スピードで発射される。

「うぎゃあああっ!!危なっ!?」

穣子はたまらず上空に飛んで避ける。そのままミサイルは地面へ着弾し爆発する。それを見たにとりは思わずほくそ笑んだ。

「ひっかかったな!さあ、食らえ!」

次の瞬間、そのミサイルの当たった場所から、上空に向かっていくつものレーザー型弾幕が発射される。

「げげっ!?そんなの聞いてないわよっ!?」
「当たり前だろ!言ってないし!」

不意をつかれた穣子は、レーザーを避けきれず被弾して地面へと墜落した。

「さあ、このままトドメをさしてやる」

そう言ってにとりは、間髪入れずにそのアーマーを着たまま空中をすべるようにさせて、地面に倒れたままでいる穣子のそばまでやってくると、その砲身を彼女に向かって定める。穣子にはもう、抗うだけの力は残されていなかった。やっぱり自分なんかに異変解決は無理だったのかと、思わず彼女は後悔する。が、今更言っても後の祭りだ。

「こんな事して、ただで済むと思うんじゃないわよ……!?」

穣子はそう吐き捨てると覚悟を決めて、目をぎゅっと閉じた。


「そこまでよ!河童さん!」

 不意に、聞き覚えのある声が彼女の耳に入ってくる。思わず顔を上げるとそこには静葉の姿があった。

「姉さん……!?」
「待たせたわね。穣子」
「待たせすぎよ!もう見ての通りぼろぼろよ!」
「あらあら、無様ね。でも自業自得よ。穣子。何も備えもせずに敵地に乗り込むなんて。いい?勇敢と無謀は違うのよ。そう、あなたの場合は無謀」
「……来て早々、姉さんの小言なんか聞きたくないわよっ。もう」

穣子は地面にはいつくばったまま、不機嫌そうに頬を膨らます。

「さて、それはそうと……」

穣子は腰に手を当てて、にとりの方を見やる。一方のにとりは、静葉をじろっと一瞥すると、面倒と言った様子で舌を鳴らす。

「お前も、そこの奴と同じ神様だな?」
「いかにも。紅葉を司る神。秋静葉よ。ちなみに、そこで這いつくばっているのは私の妹よ」
「ふーん。じゃあ、お前も邪魔するのかよ」
「ええ。悪いけどそうさせてもらうわ。秋を守らないで秋の神様なんて言えないもの」
「どいつもこいつも! それじゃお前も、そこの奴みたいにぎったんぎったんにしてやるだけさ!」

そう言ってにとりは静葉に向けて砲身を定めなおす。静葉は微動だにせず、にとりに対し凛とした視線を送り続けている。

「乱暴はおやめなさい。こう見えても私は、どこぞの暴力で物言わせる巫女とは違って、穏健派なのよ。だいたい神様である私達に対してそんなことしても無駄なのは、あなただって分かってるでしょ?例え、あなたにその兵器でぎったんぎったんにされたって、少ししたらすぐに復活する出来るのよ」
「ふん、……そんときは、また返り討ちにするだけさ! 私の邪魔する奴は誰だろうと許さない!」
「落ち着きなさい。河童さん。いえ、河城にとりさん。本当のあなたは闇雲に環境を乱すような妖怪じゃないんでしょ?あなたの親友の鴉天狗さんが言ってたわよ。あなたがこんな事をするなんて、きっと何か理由があるはずってね」

静葉の言葉を聞いたにとりの動きが思わず止まった。

「文が……?」
「ええ、そうよ。あなたのことを本気で心配してたわよ? 付き合い長いんでしょ?彼女はこうも言ってたわ。あなたは自分の行いのせいで親友を失っても平気なほど強い妖怪じゃないし、それに自分の実験のために苦しんだり悲しんだりする人がいても平気でいられるような、身も心も冷たい妖怪じゃないってね。…… まぁ体は冷たいかもしれないけど……河童だけに」
「姉さん。それ余計だから」

すかさず穣子の突っ込みが入る。いつの間にか彼女は、なんとか歩けるまでは回復したようだ。その様子を見て静葉は思い出したように、にとりに言う。

「そうそう、先ほどはうちの妹が失礼したわね。あの子は悪い子じゃないんだけど、ちょっと突っ走ると止まらなくなるところがあるのよ。私が姉として代わりに謝っておくわ」

そう言って静葉は、にとりに向かって深々と頭を下げる。その様子を見た穣子が思わずつまらなさそうに漏らす。

「なによ。これじゃ、私一人が、まるでバカみたいじゃない……」

すかさず静葉が言い返す。

「まるでじゃなくて、まるっきりバカよ。そもそも、あなたが余計な事しなければ、彼女だって武力行使なんかしてこなかったと思うんだけど」
「ぐっ、そ、そんなはっきり言い切らなくてもいいでしょっ!? だってさ。やっぱり異変の解決って言ったら派手な戦闘はつきものじゃない? そうでしょ?そこの河童さんも、本当は結構やる気マンマンだったのよね?」

穣子の問いかけににとりは、冷めたような視線を彼女に送りながら重々しく口を開く。

「……そりゃ、私だってこんな事はしたくなかったけどさ。……施設の壁ぶっ壊して侵入するなり、いきなり攻撃なんかされたら誰だってこういう手段に出ると思うよ?」
「ほら、やっぱりあなたが悪いんじゃないの」
「なんでよぉーーー!!」

穣子はそう叫ぶと床に突っ伏してしまった。

「はぁ、なんだかなぁ……」

そう言ってにとりは、調子が抜けたように頭を指でかきながら、展開している砲身をたたんだ。それを見た静葉はにとりの方に向かって、笑みを浮かべる。

「ねえ、良かったら私に、理由を聞かせてくれないかしら。氷精さんが絡んでいるんでしょ?」
「わかった。話すよ……」

にとりはそう言うと、スーツから降りると、顔をうつむかせて今回の異変の発端を語りだした。

「……私は、異変が起こる数日前、湖の近くで、最近仲良くなった氷精のチルノと一緒に遊んでいた。チルノは私に、レティという妖怪について話してくれたんだ。なんでも彼女は冬になるとやってくる妖怪で、チルノと仲がいいらしい。そして、話をしてるうちに彼女が恋しくなったのか、チルノは今すぐにレティに会いたいと駄々をこねだしたんだ。私は、そんなチルノの様子を見かねて、つい冬になる前にレティに会わしてあげると約束をしてしまった。……今、思えば私が軽率だったと思う。あんな約束しなければこんなことには……」

そう言ってにとりは、にび色の装置の方を一瞬見て一つため息をつくと、話を続けた。

「……約束はしたものの、どうすればいいか。始めのうちは見当もつかなかった。でも約束しちゃったからには守ってあげないとあの子が傷ついてしまう。私は考えてるうちに局地的にでも冬並に寒くすれば彼女に会えるかもしれないと思いついた。そしてその寒さを起こすために、彼女の冷気を利用してみることにしたんだ。彼女の放つ冷気を何倍にも何十倍にも増幅させてものすごい濃い冷気の塊を作り、それを空へと撒くことで、局地的でも寒波を作り出す事が出来るかもしれないって。私は、早速彼女を急造でこしらえた増幅装置の中に入れて、冷気を発生させてもらい、それを空に放ってみた。実験は大成功だった。瞬く間に辺りは寒くなり雪が降り出した。しかし、すぐに問題が発生してしまった。彼女の力が予想以上に強過ぎたんだ。装置はすぐに制御不能に陥り、その強力な冷気は幻想郷全体を覆うほどの大寒波になってしまったんだ」

説明が終わったにとりは、がっくりとその場にしゃがみこんだ。

「ちょっと待って!制御不能……って、あの中にその氷精いるんでしょ?大丈夫なの!?」

穣子の言葉を聞いたにとりは、思わず頭を抱えた。

「それが、わかんないんだよ。ハッチも開かなくなっちゃったから中の確認も出来ないんだ。妖精は死ぬ事はないはずだから、その辺は大丈夫だとは思うけど……もしかしたら中が高熱化して彼女にダメージを与えている可能性はあるかもしれない」
「じゃあ遠慮せずに、この装置ぶっ壊せばいい事じゃない!」

穣子が弾幕を撃ち込もうとしたのを見て、にとりは顔を青ざめさせながら制止する。

「だめだめだめーっ! そんなことしたら、私達だってただじゃすまないよ!? この装置は冷気を増幅させるためにいろんな薬品とかガスを詰め込んであるから絶対に火気厳禁なんだよ!! 弾幕なんか撃ち込んだりしたら、きっと、ちょっとやそっとの爆発ごときじゃすまないよ!」

「じゃあ、どうすればいいのよっ!! あんたが原因なんだから何とかしなさいよ! 大体これはあんたが作った機械なんでしょ!?」

穣子が思わず怒鳴ると、にとりは、全身の力が抜けたように地に伏せてしまう。

「うぅ、悪いのは私なんだよぉ!私が未熟なばかりに!ごめんよチルノ……」

辺りににとりの嗚咽交じりの叫びが響いた。そのとき今まで黙ってた静葉が、ぽつりと口を開く。

「……来たわね」
「え?」

にとりと穣子が思わず聞き返した瞬間。急速に辺りの温度が下がり凍りつきはじめる。そして、あっという間に増幅装置を含めた建物全体が、完全に凍り付いてしまった。
二人は何があったのか分からないと言った様子で辺りできょろきょろとしていたが、静葉だけは建物の入り口の方をじっと見つめていた。やがて、入り口の方からこちらに向かって人影が一つ、近づいてくるのが、三人とも確認できるようになる。静葉は、その人影の正体が分かると、思わずニヤリと笑みを浮かべた。

「遅かったじゃない。……いえ、ここは早かったと言うべきかしらね……」
「ふふ。あんまり寒いもんだから、様子を見に来てみたのよ」

そう言うと、冬の妖怪――レティ・ホワイトロックは、笑みを浮かべながら凍結して機能停止した装置の方へと進んだ。

「……お、お前が、レティか」

にとりが、意を決したように話しかけると、レティは笑みを浮かべたまま振り向く。

「ええ、そうよ。あなたは?」
「わ、私は、にとり。……谷カッパの河城にとりだ。チルノから話は聞いている。今回の件は私のせいなんだ!彼女がお前に会いたいというワガママを、私が許してしまったばかりに、こんな大騒ぎになってしまった挙句、チルノの身にまで危険が及ぶ結果になってしまった。……本当にすまん。正直、お前には、合わせる顔がない。申し訳ない!罰ならなんだって受ける! 本当に、申し訳ない!!」

そう言ってにとりは、レティに向かって土下座をする。レティは、そんな彼女に向かって優しい口調で語った。

「にとりさん。顔を、お上げなさい。……私は別にあなたを怒る理由はないし、あなたに謝られる理由もないわ。だって、私はあなたを怒りに来たわけでも、謝罪をしてもらうために来たわけじゃないんだから」

彼女は、装置の前にまで来ると、おもむろに手をかざす。すると装置の一部に、もろくも穴が開く。彼女はそこから中に入り込むと、ぐったりとしているチルノを救い出した。彼女は羽根が完全に溶けてしまっているものの、その他は割と無事な様子だった。

「チルノ!!おい、大丈夫……なのか?」

あわてて駆け寄ってきたにとりにレティは言った。

「ええ、大丈夫よ。ちょっと気を失ってるだけだわ。……あなたは優しいのね。あなたや、大妖精のような友達がいれば、この子だって、私がいなくてもきっと寂しくないわね」

レティの言葉を聞いたにとりは、へたりと両膝をつく。

「よかった……」

彼女は、そうつぶやきながら上を見上げる。安堵して緊張がほぐれたのか、その目からは涙がこぼれていた。
その様子を見てから、レティはチルノを抱いたまま空中へと浮かび上がる。

「さて、この子は、しばらく私が預かるわ。それじゃ……皆、冬になったらまた会いましょうね」
「……あら、別に無理に来なくてもいいのよ。今年はその子と一緒に二人で過してたらどう?」

静葉の言葉にレティは、思わずフッと笑みを浮かべる。そして彼女は、チルノを抱いたまま吹雪とともに姿を消した。
彼女が去ったあと辺りは静寂に包まれた。外はもう既に寒風は止んでいるようだ。気温が上がってきたせいか雪も霙まじりのものへと変わってきている。
不意に静葉が口を開いた。

「さて……河城にとりさん。まだ終わりじゃないわよ?」
「え……?」

静葉の言葉を聞いたにとりの声が思わず震えた。

「……これから今回の異変の張本人として、あなたに制裁を与えます」

静葉は膝を付いてるにとりを見下ろす。その表情は、先ほどまでの穏やかな表情とは打って変わって、いかにも神様らしい威厳のあるものだった。
思わずにとりの額から一筋の汗が垂れる。静葉は表情を崩さぬまま、冷たく静かな口調で言い放った。

「谷カッパの河城にとり。あなたが今回起こした事は、この幻想郷自体に多大な影響を与え、多くの者に甚大な被害を与える結果となりました。その悪行は決して許される事じゃなく、生半可な罰で贖える事ではありません。それはあなたも分かりますね?」
「う、はい。……い、いかなる罰も受ける覚悟です!」

そう言ってにとりは、震える手で土下座をする。

「よろしい。面を上げなさい。それでは、この紅葉神である秋静葉が、あなたに相応しい罰を与えます」

静葉は、一呼吸置いてから彼女にゆっくりと告げた。

「……これからは、私のところにも遊びに来なさい。それが、あなたに対する今回の罰です」
「……へ?」

にとりは、思わず素っ頓狂な声を上げる。その声を聞いた静葉は思わず噴出して笑い始めた。彼女は静葉の言っている事の意味がよく分からない様子で、思わず尋ねる。

「ええと、だって、制裁って……?」
「そんなの冗談に決まってるでしょ」
「え!? でも私は、あなた達にものすごい迷惑を……」
「気にする事ないわよ。装置も止まったし、もうすぐ気候も元に戻るでしょう? それに、あなたは友達のために何とかしようとしたわけであって、悪気があってやったわけじゃないわ。あなたを裁く理由なんて私にはないわよ」

そう言って笑みを浮かべながら静葉は、にとりに対して手を差し伸べる。

「ほら、立ち上がりなさい。スカートが汚れるわよ?」

にとりは彼女の手を掴むと、ゆっくりと立ち上がり、スカートのほこりを払った。

「ねえ、そういえば、あなた機械に詳しいんですって? 天狗さんから聞いてるわ。私、最近そういうのに興味あるのよ。今度見せてもらえないかしら?」
「……ああ、そ、それじゃ、あなたの家に行くときに色々持っていってみるよ」
「それは楽しみね」

そこで、ふと気が付いたように静葉が言う。

「……そういえば穣子は?」

静葉の言葉に、にとりは思わず辺りを見回すが、彼女は見当たらない。

「え?あれ?さっきまでいた気がしたけど……?」

そのときだ。外の方で派手な爆発音とともに穣子が、こっちに向かって吹っ飛ばされてくる。

「ほぎゃあああああああああっ!!?」

静葉は、吹っ飛んできた彼女をさらりと避ける。穣子は、そのまま奥の壁面に激突して、頭から勢いよくめり込んだ。続いて外から紅白色の人影が飛び込んでくる。

「さあ!どう見てもここが今回の元凶ね!うん、雰囲気からして間違なさそうだわ!」
「あら、巫女さんじゃない。遅かったわね。もう異変は解決したわよ?」
「え……!?」

静葉の言葉を聞いた霊夢は、思わず目を丸くさせる。

「もうすぐ気候も元に戻るわ。あなたも大人しく歩いて、神社へお帰りなさい」

更に静葉が追い討ちをかけるように言うと、霊夢は両手をついてうなだれてしまった。

「そ、そんな、わたしのおさいせんが……しんこうが」

彼女は、しばらくの間、がっくりとうなだれていたが、そのうち邪悪な笑みを浮かべながら、ゆらっと立ち上がる。

「……そうよ、そうだわ、そういうことよね」

そうつぶやきながら立ち上がったかと思うと、手に持ってる御幣を、静葉たちに向かって突きつけて言い放った。

「そうよ!! こうなったら、あんたらを今回の異変の犯人として退治してやるわ!」
「どぇええー!?」
「あらあら、とんだとばっちりってやつね」
「問答無用よ!! さあ、私のお賽銭のために犠牲になるがいいわ!!」

霊夢は、彼女らに向かって、ありったけの弾幕を放つ。にとりと静葉はすかさず避ける。すると弾幕は、ちょうど後ろにあった装置にほどなく全弾命中する。

「げっ、やばい……!?」

にとりが、そう言う間もなく装置全体が、たちまち赤く変色し白熱化し始めた。

「……ちょ、ちょっと? 何よこれ!? なんかもしかしてやばい?」
「あ~あ、やっちゃったわね……」

慌てる霊夢を尻目に、静葉は、もう今から逃げても間に合わないと悟り、ふうとため息をついた。ふと脇に目をやると、さっきまでいたにとりの姿がない。実に逃げ足の速いことだ。穣子の方は、やっと壁から脱出できた様子だったが、そのまま気を失ったままめり込んでいた方が、幾分幸せだったかもしれない。

「……結局こういうオチなのね」

そして次の瞬間、辺り一帯が朝かと思うほどの発光に包まれたかと思うと、装置は施設もろとも巻き込んで大爆発を起こした。その爆発の轟音と、もうもうと立ち上がるキノコ雲は遠くの里の方からも、はっきりと確認できるほどの大規模なものだったという。


「……どうやらおわったようですわね。やはり己のためにとは言え、あからさまに欲を出し過ぎるとろくなことが起きない。よく肝に銘じておかなければいけませんね……霊夢」

そうつぶやきながら紫は、燃え盛る瓦礫の中から満身創痍の巫女を拾いあげると、妖しい笑みを浮かべて姿を消した。


 穣子はふと、手元にあった文々。新聞に目をやる。新聞の見出しには大きくこう書いてあった。

『博麗の巫女無様! 異変解決大失敗!! 全治半年の大ケガ!』

それを読んだ彼女は、面白くなさそうな顔をして思わず新聞を床に投げ捨てた。

「もうっ! 話が違うじゃない! 私達の活躍はどうしたのよ!? ねえ、文さん!?」

話しかけられた文は、苦笑いを浮かべながら言う。

「あややや、そんな、怒らないでくださいよ。だって、記事の中で、一番評判がいいのは、あの巫女の事なんですよ。やはり、購読者様からの意見は、やはり反映すべきかと思いまして。言っておきますが、決して彼女にやられた腹いせとかじゃないんですよ?決して」

「そうよ。穣子。私達は人気者になるために異変を解決させたわけじゃないのよ?」
「姉さん!? いつの間に帰って来てたの!?」
「これは、静葉さん。お帰りなさいませ。で、いかがでした? 山の木々たちは」
「ええ、思ったよりダメージは少なかったみたいよ。あれならまたすぐに、きれいな紅葉で山を埋め尽くせるわね」

そう言うと、彼女はテーブルに置いてあったきゅうりを齧る。にとりが、お詫びに持ってきたものだ。ちなみに後から聞いた話によると、にとりはあの時、逃げたのではなく、助けを呼びに行ったのだという。現場は爆発から2日経った今も、火がくすぶってるらしく、彼女は、その後片付け作業で、当分は手が離せないそうだ。

「さて、それじゃ姉さんも帰ってきたことだし、そろそろ出かけるわよ!」
「あら、どこ行くの?」
「どこって……今日は村の収穫祭よ! 忘れたの?」
「そういえばそうだったわね。すっかり忘れてたわ」
「はぁ、まったくもう……」
「おや、収穫祭ですか? それは面白そうです! 私もあとで顔を出してみるとしましょうか」
「ええ、是非いらっしゃい。多分、穣子がお酒に酔っ払って面白い事になってるから」
「ほう、それは楽しみですね」
「もう、二人とも何言ってるのよっ!!」

家中に穣子の叫びが響く。静葉は、ふと、床に転がっている新聞を手に取る。その新聞の天気予報欄には『快晴! 秋と呼ぶにふさわしい一日となるでしょう!』と記してあった。それを見た彼女は思わず、笑みを浮かべる。

「……ちょっと!姉さんったら! 置いて行くわよ!?」
「ええ、ごめんなさい。今行くわ」

静葉は、新聞をテーブルに置くと家の外へと出た。外は、何事もなかったかのように穏やかに晴れ渡り、時折吹く秋風が、紅葉を綺麗に散らしている。
それはまさに天気予報どおりの秋の風景。彼女達が望む秋の姿だった。

「さあ、私達の秋はこれからよ!」
※昔投稿した奴の改訂版です。

今年の秋は果たしてどうなるんでしょうね。
秋姉妹、そして妖怪の山の住人に幸あれ!
バームクーヘン
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コメント



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4.100名前が無い程度の能力削除
なんか、随分と面白味を増して帰って来ましたね……
一度読んだにも関わらず、引き込まれましたよ
6.100名前が無い程度の能力削除
秋は良いものですね
13.80名前が無い程度の能力削除
とても面白かったです、感情移入しやすい文章でした。そしてたまにギャグ要素を入れてくるのにもセンスを感じ…全体的に結構好きです。