酷暑の夏も終わりにさしかかり、過ごしやすい季節へと巡っていく。
柔らかい日差しと涼しい風は、外で立ち仕事を行う者を眠りへと誘う。
これは自然の摂理であり必然、それに逆らうことは何の意味も持たない。
紅魔館の門番こと紅美鈴は、大自然の掟に全力で従っていた。
「美鈴」
門にもたれ掛かって目を閉じている美鈴の名前を呼ぶ声があった。
最初は優しく、次は少し厳しく。
「美鈴、起きなさい」
「むにゃむにゃ……」
最後は厳しく。無言で耳をつねりあげる。
「~~~~~ッッ!?」
流石に最後のは効いたのだろう。呼んでも気付く素振りの無かった門番が跳ね起きた。
寝ぼけ眼で辺りを見回し、未だに耳を引っ張り続ける犯人を見つけると顔を引きつらせた。
「おはよう、美鈴」
メイド服に身を包んだ銀髪の女性が笑顔で挨拶をする。
笑顔ではあるが耳をつまむ指の力は本物で、これが夢などでは無いことを証明している。
耳を引っ張られ無理な体勢ではあるが口は動くので、なんとかごまかそうと試みる。
「も、もう、咲夜さんってば瞑想の邪魔をするなんて酷いじゃ……」
ぎゅううううううううう。
咲夜と呼ばれた女性は、笑顔は一切崩さず、しかし手に込める力だけを増していく。怖い。
「すいません寝てました耳が痛いですもう許してください……」
「最初から素直にそう言えばいいのよ」
やっと開放してもらった耳を指先で撫でていると、咲夜が呆れたようにため息をもらした。
「まったく、ちょっと目を離すとこれなんだから……」
「いやー、お昼寝にはちょうどいい季節なのでつい……。咲夜さんも仕事ばかりしてないで、たまには息抜きしませんか?」
こんなことを言えば、反省の色無しと見られることは分かっている。
だが美鈴はこうして咲夜とスキンシップを取ることが好きであるし、咲夜も美鈴が冗談半分で言っていることは理解している。
言わばお互いが納得済みのじゃれ合いのようなものだ。
しかし今日は違った。いつもならここでもう二言三言会話を交わすのであるが、咲夜は一方的に会話を打ち切ってしまったのだ。
「まあ、今日のところはもういいわ。私は屋敷に戻るけど、真面目にやるのよ」
そう言い残し、返事も聞かずに歩き出してしまう。
美鈴はそんな咲夜の後姿を黙って見送る。そして咲夜の姿が屋敷に消えたところで苦笑しつつ一人ごちた。
「まったく、ちょっと目を離すとこれなんですから」
◆ ◆ ◆
「咲夜、お茶にしてちょうだい」
「かしこまりました、お嬢様」
紅魔館テラス。辺りの風景を一望できるその場所に咲夜はいた。
日陰になる場所にテーブルと四脚の椅子があり、内二つを紅魔館当主のレミリア・スカーレットと、その妹のフランドール・スカーレットが埋めていた。
二人分のティーセットとポット、ケーキが手際よく準備されていく。
「お待たせいたしました、お嬢様、妹様」
「ああ、ご苦労」
「咲夜ありがとー」
レミリアはティーカップを傾け、フランドールはケーキ皿に手を伸ばす。
と、フランドールの手から皿が滑り、破砕音と共に床に破片が飛び散った。
「申し訳ございません! ただ今片付けます!」
自分で壊したわけではないが、そこは主人の手前。
慌てて咲夜が破片を片付け始める。
「咲夜ぁ、ごめんね……」
フランドールが目を伏せて咲夜に謝る。傍目に見ても落ち込んでいる。
普段であれば何か気の利いた事を言って慰めるところであるが、今日は違った。
「いえ、妹様。これは私の至らなさが招いたこと。どうかお気になさらず」
「うん……ごめんね」
あくまで壊したのはフランドールであるため、このような言い方ではフランドールの罪悪感を消すのは難しい。
主人の妹と使用人という立場の差を考えればある程度は当然のことであるが、精神的に幼いフランドールにそういった機微を感じ取ることはできない。
また、そもそも咲夜の持つ時を止める能力を使えば皿が落ちて割れるということも無かった。
いずれにしても、普段の咲夜からは考えられない程、行き届いていないアフターケアと言えた。
「それでは、何かあればお呼びください。失礼致します」
片づけを終えた咲夜は主人に恭しく一礼し、去って行った。
未だ申し訳なさそうな視線を送るフランドールと、訝しげに見送るレミリアが残された。
レミリアは自分のケーキ皿を妹の前に置き、慰めるように頭を撫でてやりながら呟いた。
「……まったく、仕方のないメイドだ」
◆ ◆ ◆
「咲夜さん、美鈴です」
深夜二十三時。夜にだけ鳴る紅魔館の鐘の音が時間を告げる。
メイドの仕事を終えた咲夜の私室に、ノックの音と美鈴の声が響く。
メイド服を着替えもせずにベッドに潜り込んでいた咲夜がモゾモゾと起き上がる。
瞳は涙に濡れ、赤くなっていた。
「……何よ、美鈴。こんな時間に」
涙で声が震えなかったことに安堵しつつ、咲夜が感情を殺して扉の向こうに話しかける。
「咲夜さんにいいものをもってきました。開けてもらえますか?」
一瞬、仕事の疲れを理由に断ることも頭をよぎったが、せっかく訪ねてくれた美鈴を冷たく追いやる気にはどうしてもなれず、手早く顔を洗って扉の鍵を開けた。
「こんばんは、咲夜さん。お仕事お疲れ様です」
「美鈴もね」
努めて平静を装って応対する。
しかし、さっきまで泣いていたことを隠している後ろめたさは拭えず、椅子を勧めることにすら気が回らない。間が持たない。
「何か飲む? お茶淹れるわよ」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
気まずさをごまかしたいが為の提案も断られ、いよいよもって手詰まりとなる。
と、それを見越したわけでもないだろうが、美鈴の方から話しかけてきた。
「咲夜さん、この本覚えてますか?」
美鈴が持ってきたのは一冊の絵本だった。
それを見た瞬間、咲夜は泣いていたことも忘れ、その本のことを記憶の片隅から呼び起こしていた。
「その本……」
「ええ、咲夜さんが好きだった絵本、パチュリー様に借りてきましたよ」
「懐かしいわね……」
美鈴から本を受け取り、表紙を指先で撫でる。
表紙の縁はボロボロになっており、何度も読まれたことを物語っている。
「私が眠れない時、美鈴にいつもこの本を読んでもらったわね……」
「咲夜さんの一番のお気に入りでしたね。どんなに泣いてても、この本を読み始めると泣き止んで静かに聞き入ってました」
「そ、そんなこともあったわね、昔は」
「ふふ、初めて会った時のこと、覚えてますか?」
「ええ、忘れてないわ」
◆ ◆ ◆
「美鈴、今日からこの子をお前の部下としてつけるわ。面倒見てやりなさい」
「え?」
美鈴が主人の為に紅茶の準備をしていると、突然そんなことを言われた。
見ると、レミリアの横に少し大きめのメイド服を着た、銀髪ショートの少女が立ってこちらを不安げにうかがっている。
「どうしたんです、この子。人間ですよね?」
「ああ、私が拾ってきた。なかなか物覚えも良さそうだし、美鈴も人手不足だろう? メイドとして育てろ」
「はぁ、メイドですか。私は構いませんけど……」
「ここらは人外しかいないところだ。ちゃんと守ってやりなさい」
「かしこまりました。……って、私も一応その『人外』なんですけどね」
その言葉に少女はおびえた表情を見せると、レミリアの後ろに隠れてしまう。
『ここら』で一番恐ろしい『人外』が今隠れているレミリアであるのだが、その少女は知らないのだろう。
レミリアはそんな小動物のような様子の少女を横目に、苦笑しながら続けた。
「私はお前のことを信頼している。お前に任せておけば間違いは無いだろう」
「そこまで言っていただけるとは光栄至極。でも、どうしてそう思うんですか?」
問われたレミリアはそうだな、と呟くと何か悪事を思いついた子供のような表情になって続けた。
「例えば――この子を食べろと私に命令されたらどうする?」
「私が仕える主人は、部下にそんな命令をしませんよ」
ニッコリ笑って前提を否定する美鈴に、レミリアは毒気を抜かれたような表情を一瞬浮かべるが、満更でもないように笑みを浮かべた。
「フ、まあいいわ。ほら咲夜、いつまでも隠れてないで出てきなさい」
レミリアの言葉に従い、咲夜と呼ばれた少女がおずおずと前に出てくる。
「こいつは少々抜けた所があるが、いざという時は頼りになる。優しい奴だ、お前をいじめたりしないから安心しろ」
「ほんとう……?」
「私が嘘を言ったことがあったか?」
その言葉に少女は首を横に振ると、美鈴に向かってペコリと頭を下げた。
「いざよいさくやです。えっと、よろしくおねがいします」
「私は紅美鈴よ。美鈴でいいわ。よろしくね、咲夜」
自己紹介を終え、ついでにお茶請けのクッキーを食べさせて咲夜が少し落ち着いたところで美鈴が訊ねた。
「ところで、どうしてこの子にしたんですか?」
「ああ、外で行き倒れてたってのもあるけどね。面白い運命が見えたから私の傍に置くことにしたよ」
「面白い?」
「人外しかいない館で働くメイドに人間がいるなんて、面白いじゃない?」
「はあ、よく分かりませんが、お嬢様がそう仰るのなら……」
美鈴はそう言うと、幸せそうにクッキーを頬張る銀髪の少女を見つめた。
まだ年端も行かないらしく、可愛らしい顔立ちをしている。
主人の言葉もあったが、全力で護り育てようと美鈴は心に誓う。
お茶の片づけを終えた美鈴が咲夜の手を引き部屋から出る際、レミリアが呼び止めた。
「あ、そうそう。この前貸した漫画どう? 面白いでしょ?」
「ええ、最高ですね。特に主人公が時間を止めて敵の吸血鬼をやっつける所は燃えました!」
「えー、そこなの? 私はその直前の、吸血鬼が盗んだロードローラーに乗って走り出すところが……っていうかアンタね、私に向かって「吸血鬼をやっつける」とか普通言う?」
「私が仕える主人は、そんなことで部下を怒ったりしませんから」
「うー……」
楽しそうに告げる美鈴に対し、してやられた表情を見せたレミリアは右手で払うしぐさをしながら続ける。
「あーもーいいわ。さっさとその子に館を案内してやりなさい」
「かしこまりました。紅美鈴、行ってまいります。咲夜、いくわよ」
「はい、めーりんさま」
「うーん……様付けはいらないわ。むずがゆいもの」
「え、でも……」
言いよどむ咲夜の姿に、美鈴は少し考えてから続けた。
「言いにくいなら、慣れるまでは"お姉ちゃん"でもいいわよ」
「めーりん……おねえちゃん?」
「はい、よくできました」
頭を撫でてやると、咲夜は嬉しそうに頬を緩めた。
◆ ◆ ◆
「あの時の咲夜さん、可愛かったですよ」
「何よ、今は可愛くないって言うの?」
「ふふ、今でも可愛いですよ。って咲夜さん顔赤いですよ? 咲夜さんが言わせたんじゃないですか」
「うるさいわね、そこはモゴモゴしてごまかすところでしょう。なんで直球なのよ」
「照れた咲夜さんがたまらなく可愛いからです」
「黙りなさい」
照れ隠しに美鈴の両頬を引っ張る。
「ほぉいへば、ふぁふやふぁんはむはひっはら、てへやはんでひはへ」
「ワケわかんないわよ。普通に喋りなさい」
咲夜が手を離す。
「咲夜さんは、昔っから照れ屋さんでしたね」
「やっぱり黙ってなさい」
僅かに頬を染めた咲夜が、再び美鈴の頬を引っ張ろうとするが、今度は避けられてしまう。
少しだけ意地悪な表情をした美鈴が、お返しとばかりに咲夜の過去話をほじくる。
◆ ◆ ◆
「おねえちゃん、見てて。えいっ!」
咲夜の投げたペーパーナイフが木の幹に当たって落ちる。
美鈴はそれに惜しみない拍手を送り、頭を撫でてやる。
と、普段なら幸せ絶頂の様子で喜ぶはずの咲夜は何故か神妙な顔つきで。
「となりの木をねらったの……」
「そっか。言わなきゃ分からないのに、咲夜は真面目ね」
いい子いい子、と別の理由で撫でる。
咲夜の顔がやっとほころんだところで美鈴が疑問を口にする。
「でも、どうして武器をナイフにしたの?」
美鈴が何気なく訊ねると、咲夜は顔を赤くしてモジモジしながら呟いた。
「えっと、めーりんおねえちゃんがクナイ投げてるから……わたしもクナイ欲しかったけどお屋敷にないから、れみりあ様におねがいしたら「ナイフが似合うぞ」って」
「……咲夜ぁー」
「わっ!?」
「自分とおそろいの武器がいい」と言ってくれる咲夜が愛しくてたまらず、抱っこして頬擦りをする。
困ったように眉尻を下げつつも、どこか嬉しそうな咲夜の柔らかい頬を堪能する。
と、咲夜の髪が美鈴の頬に触れた。見ると、大分髪が伸びている。
咲夜を地面に降ろし、少し思考を巡らせてこう続けた。
「咲夜は、私とおそろいが好きなの?」
「うん、おねえちゃんといっしょがいい」
「それじゃ、コレを一緒にしようか」
美鈴は自分のお下げを指で摘み、ピョコピョコと横に振る。
最初はポカンとしていた咲夜もその意味に気づき、満面の笑みで首を縦に振った。
◆ ◆ ◆
「今でもお下げ、おそろいにしてくれていて嬉しいですよ」
「こういう仕事だから、結わえておいたほうが便利なだけよ」
そっけなく言い返すが、本心は違うと分かっている美鈴はニコニコと笑っている。
その笑顔を見ていると反発するのが馬鹿らしくなってしまい、咲夜は降参を認める。
「まあ、気に入ってはいるわよ」
「そうそう、素直な咲夜さん可愛いですよ」
「~~~!」
掃除用のモップ片手に咲夜が美鈴を追い回す。
普段の瀟洒なメイドからは想像もつかないその姿は、館の者が見たら驚いたであろう。
子供のようにハシャぎ、双方とも汗だくでベッドに腰掛ける。
二人で顔を見合わせ、どちらともなく笑い出す。
ひとしきり笑ったところで、美鈴が咲夜の隣に座り直した。
「咲夜さん、何かあったんですか?」
「何よ、急に」
そっけなく言い返し視線を逸らす咲夜に、美鈴は真剣な眼差しを向ける。
「咲夜さんは昔から、大変なことになればなるほど自分でなんとかしようと無理しちゃう子でしたから」
「だから、何なのよ」
「弾幕の練習で肋骨を折った時なんか、痛くてたまらないはずなのに隠してて、熱出して倒れちゃうまで気付けなくて……今まで何度もお嬢様にお叱りを受けましたけど、あの時が一番怖かったです」
「……」
「何かあったんですね? 隠すのが上手な咲夜さんですら、隠しきれない大変なことが」
「そんなこと……」
「『咲夜』」
なおも視線を逸らし続ける咲夜の名前を呼ぶ。
咲夜の身体がビクリと震え、美鈴の目から視線を逸らせなくなってしまう。
その目に薄っすら涙が浮かんでいることを確認すると、美鈴は咲夜を抱きしめた。
僅かに咲夜の身体が固まるが、抵抗は無い。美鈴がそのまま続ける。
「お姉ちゃんなんて呼ばせておいて、妹の骨折にすら気付けない私は姉失格でした」
「美鈴……」
「それでも咲夜さんは、その後も私を姉として慕ってくれました。本当に嬉しかったです。そして、もう二度と妹のピンチを見逃さないとそのとき誓ったんです」
だから、と言葉を繋いで。
「隠そうとしても隠せない程つらいことがあった時くらい、昔みたいに甘えてくれてもいいんですよ?」
「美、鈴……」
「私は、咲夜のお姉ちゃんなんですから」
ニッコリ微笑んでそう告げると、目を潤ませた咲夜が抱きしめ返してきた。
「ふぇ……美鈴……めーりん……」
「よしよし、咲夜は可愛いわね」
「めーりん……おねえちゃん……ふぇぇん」
「何があったのかお姉ちゃんに話して? 可愛い咲夜のためなら、お姉ちゃんは何でもしてあげるわ」
胸の中で泣きじゃくる咲夜の頭を優しく撫でながら、美鈴は咲夜お気に入りの物語――いつでも咲夜に聞かせてあげられるよう暗記した――を暗唱し始めた。
◆ ◆ ◆
同時刻。地下図書館にて。
「あーあ、いい役を美鈴に取られちゃったわ」
そこには愚痴をこぼす吸血鬼と、その友人の魔女がいた。
「せっかく私が主人として部下の悩みを聞いてやろうと思ってたのに」
「レミィがそんなことしたら、咲夜は恐縮して何も言えなくなるわよ」
「嫌がる咲夜に無理やり、ってのがいいんじゃない。そそるわ」
「何の話よ。それよりこの前貸してあげた本はどう? たまには小説もいいものでしょう」
「なかなか良いわね、特にあの金欠黒魔術士が魔術を使えなくなって苦悩する所が」
「そこなの? 私はその後の魔術を再び使えるようになる所が……っていうかレミィ、魔女に向かって「魔術を使えなくなる」なんて普通言うものかしら」
「おや、私の友人の魔女はそんな小さなことで機嫌を損ねる奴だったかな」
「……むきゅー」
レミリアはしてやったりの表情を浮かべ、満足そうにくつくつと笑った。
「ま、咲夜の奴もたまには甘えた方がいい。人間は寿命が短いから、甘えてられる時間も短いからね」
「あら、その咲夜に一番甘えてお世話になってるのは、年長者のレミィじゃないかしら」
「……何よパチェ、何が言いたいの?」
「さあ? 私の友人の吸血鬼は部下想いの優しい子だから、きっと聞き流してくれるわね」
「……うー」
悔しそうに机に突っ伏すレミリアを、小悪魔に勝ち名乗りよろしく右手を持ち上げられたパチュリーが楽しげに見つめていた。
◆ ◆ ◆
翌日、紅魔館門前にて花木の世話をする美鈴に後ろから声が掛かった。
「今日は真面目にやっているようね、美鈴」
「あっ、咲夜さん。おはようございます!」
そこにはいつものメイド服に身を包んだ咲夜の姿があった。
表情からも悩みや迷いは消えており、昨晩あれだけ泣きじゃくった咲夜の姿はそこには無かった。
「今日のお昼は一緒に食べましょう。美鈴の好きなものを作ってあげるから、何かリクエストはある?」
「え、本当ですか? 咲夜さんの手料理が食べられるなんて光栄です! 久しぶりに中華が食べたいなあ」
「そう、分かった。お昼になったら迎えにくるわね。でも、居眠りしてたらおあずけよ」
「そんなー、咲夜さんのご飯食べたいですよぉー」
「何で寝ること前提なのよ。もう、仕方ないわね……」
咲夜は辺りに誰も無いことを確認すると、スッと近づいてきて美鈴の頬に口付けた。
「……これは昨日のお礼よ。おしごとがんばってね……『めーりんおねえちゃん』」
耳まで真っ赤にして立ち去るメイドの後姿に向けて、美鈴はこれ以上ないほど元気に返事をした。
「はいっ、咲夜さん!」
柔らかい日差しと涼しい風は、外で立ち仕事を行う者を眠りへと誘う。
これは自然の摂理であり必然、それに逆らうことは何の意味も持たない。
紅魔館の門番こと紅美鈴は、大自然の掟に全力で従っていた。
「美鈴」
門にもたれ掛かって目を閉じている美鈴の名前を呼ぶ声があった。
最初は優しく、次は少し厳しく。
「美鈴、起きなさい」
「むにゃむにゃ……」
最後は厳しく。無言で耳をつねりあげる。
「~~~~~ッッ!?」
流石に最後のは効いたのだろう。呼んでも気付く素振りの無かった門番が跳ね起きた。
寝ぼけ眼で辺りを見回し、未だに耳を引っ張り続ける犯人を見つけると顔を引きつらせた。
「おはよう、美鈴」
メイド服に身を包んだ銀髪の女性が笑顔で挨拶をする。
笑顔ではあるが耳をつまむ指の力は本物で、これが夢などでは無いことを証明している。
耳を引っ張られ無理な体勢ではあるが口は動くので、なんとかごまかそうと試みる。
「も、もう、咲夜さんってば瞑想の邪魔をするなんて酷いじゃ……」
ぎゅううううううううう。
咲夜と呼ばれた女性は、笑顔は一切崩さず、しかし手に込める力だけを増していく。怖い。
「すいません寝てました耳が痛いですもう許してください……」
「最初から素直にそう言えばいいのよ」
やっと開放してもらった耳を指先で撫でていると、咲夜が呆れたようにため息をもらした。
「まったく、ちょっと目を離すとこれなんだから……」
「いやー、お昼寝にはちょうどいい季節なのでつい……。咲夜さんも仕事ばかりしてないで、たまには息抜きしませんか?」
こんなことを言えば、反省の色無しと見られることは分かっている。
だが美鈴はこうして咲夜とスキンシップを取ることが好きであるし、咲夜も美鈴が冗談半分で言っていることは理解している。
言わばお互いが納得済みのじゃれ合いのようなものだ。
しかし今日は違った。いつもならここでもう二言三言会話を交わすのであるが、咲夜は一方的に会話を打ち切ってしまったのだ。
「まあ、今日のところはもういいわ。私は屋敷に戻るけど、真面目にやるのよ」
そう言い残し、返事も聞かずに歩き出してしまう。
美鈴はそんな咲夜の後姿を黙って見送る。そして咲夜の姿が屋敷に消えたところで苦笑しつつ一人ごちた。
「まったく、ちょっと目を離すとこれなんですから」
◆ ◆ ◆
「咲夜、お茶にしてちょうだい」
「かしこまりました、お嬢様」
紅魔館テラス。辺りの風景を一望できるその場所に咲夜はいた。
日陰になる場所にテーブルと四脚の椅子があり、内二つを紅魔館当主のレミリア・スカーレットと、その妹のフランドール・スカーレットが埋めていた。
二人分のティーセットとポット、ケーキが手際よく準備されていく。
「お待たせいたしました、お嬢様、妹様」
「ああ、ご苦労」
「咲夜ありがとー」
レミリアはティーカップを傾け、フランドールはケーキ皿に手を伸ばす。
と、フランドールの手から皿が滑り、破砕音と共に床に破片が飛び散った。
「申し訳ございません! ただ今片付けます!」
自分で壊したわけではないが、そこは主人の手前。
慌てて咲夜が破片を片付け始める。
「咲夜ぁ、ごめんね……」
フランドールが目を伏せて咲夜に謝る。傍目に見ても落ち込んでいる。
普段であれば何か気の利いた事を言って慰めるところであるが、今日は違った。
「いえ、妹様。これは私の至らなさが招いたこと。どうかお気になさらず」
「うん……ごめんね」
あくまで壊したのはフランドールであるため、このような言い方ではフランドールの罪悪感を消すのは難しい。
主人の妹と使用人という立場の差を考えればある程度は当然のことであるが、精神的に幼いフランドールにそういった機微を感じ取ることはできない。
また、そもそも咲夜の持つ時を止める能力を使えば皿が落ちて割れるということも無かった。
いずれにしても、普段の咲夜からは考えられない程、行き届いていないアフターケアと言えた。
「それでは、何かあればお呼びください。失礼致します」
片づけを終えた咲夜は主人に恭しく一礼し、去って行った。
未だ申し訳なさそうな視線を送るフランドールと、訝しげに見送るレミリアが残された。
レミリアは自分のケーキ皿を妹の前に置き、慰めるように頭を撫でてやりながら呟いた。
「……まったく、仕方のないメイドだ」
◆ ◆ ◆
「咲夜さん、美鈴です」
深夜二十三時。夜にだけ鳴る紅魔館の鐘の音が時間を告げる。
メイドの仕事を終えた咲夜の私室に、ノックの音と美鈴の声が響く。
メイド服を着替えもせずにベッドに潜り込んでいた咲夜がモゾモゾと起き上がる。
瞳は涙に濡れ、赤くなっていた。
「……何よ、美鈴。こんな時間に」
涙で声が震えなかったことに安堵しつつ、咲夜が感情を殺して扉の向こうに話しかける。
「咲夜さんにいいものをもってきました。開けてもらえますか?」
一瞬、仕事の疲れを理由に断ることも頭をよぎったが、せっかく訪ねてくれた美鈴を冷たく追いやる気にはどうしてもなれず、手早く顔を洗って扉の鍵を開けた。
「こんばんは、咲夜さん。お仕事お疲れ様です」
「美鈴もね」
努めて平静を装って応対する。
しかし、さっきまで泣いていたことを隠している後ろめたさは拭えず、椅子を勧めることにすら気が回らない。間が持たない。
「何か飲む? お茶淹れるわよ」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
気まずさをごまかしたいが為の提案も断られ、いよいよもって手詰まりとなる。
と、それを見越したわけでもないだろうが、美鈴の方から話しかけてきた。
「咲夜さん、この本覚えてますか?」
美鈴が持ってきたのは一冊の絵本だった。
それを見た瞬間、咲夜は泣いていたことも忘れ、その本のことを記憶の片隅から呼び起こしていた。
「その本……」
「ええ、咲夜さんが好きだった絵本、パチュリー様に借りてきましたよ」
「懐かしいわね……」
美鈴から本を受け取り、表紙を指先で撫でる。
表紙の縁はボロボロになっており、何度も読まれたことを物語っている。
「私が眠れない時、美鈴にいつもこの本を読んでもらったわね……」
「咲夜さんの一番のお気に入りでしたね。どんなに泣いてても、この本を読み始めると泣き止んで静かに聞き入ってました」
「そ、そんなこともあったわね、昔は」
「ふふ、初めて会った時のこと、覚えてますか?」
「ええ、忘れてないわ」
◆ ◆ ◆
「美鈴、今日からこの子をお前の部下としてつけるわ。面倒見てやりなさい」
「え?」
美鈴が主人の為に紅茶の準備をしていると、突然そんなことを言われた。
見ると、レミリアの横に少し大きめのメイド服を着た、銀髪ショートの少女が立ってこちらを不安げにうかがっている。
「どうしたんです、この子。人間ですよね?」
「ああ、私が拾ってきた。なかなか物覚えも良さそうだし、美鈴も人手不足だろう? メイドとして育てろ」
「はぁ、メイドですか。私は構いませんけど……」
「ここらは人外しかいないところだ。ちゃんと守ってやりなさい」
「かしこまりました。……って、私も一応その『人外』なんですけどね」
その言葉に少女はおびえた表情を見せると、レミリアの後ろに隠れてしまう。
『ここら』で一番恐ろしい『人外』が今隠れているレミリアであるのだが、その少女は知らないのだろう。
レミリアはそんな小動物のような様子の少女を横目に、苦笑しながら続けた。
「私はお前のことを信頼している。お前に任せておけば間違いは無いだろう」
「そこまで言っていただけるとは光栄至極。でも、どうしてそう思うんですか?」
問われたレミリアはそうだな、と呟くと何か悪事を思いついた子供のような表情になって続けた。
「例えば――この子を食べろと私に命令されたらどうする?」
「私が仕える主人は、部下にそんな命令をしませんよ」
ニッコリ笑って前提を否定する美鈴に、レミリアは毒気を抜かれたような表情を一瞬浮かべるが、満更でもないように笑みを浮かべた。
「フ、まあいいわ。ほら咲夜、いつまでも隠れてないで出てきなさい」
レミリアの言葉に従い、咲夜と呼ばれた少女がおずおずと前に出てくる。
「こいつは少々抜けた所があるが、いざという時は頼りになる。優しい奴だ、お前をいじめたりしないから安心しろ」
「ほんとう……?」
「私が嘘を言ったことがあったか?」
その言葉に少女は首を横に振ると、美鈴に向かってペコリと頭を下げた。
「いざよいさくやです。えっと、よろしくおねがいします」
「私は紅美鈴よ。美鈴でいいわ。よろしくね、咲夜」
自己紹介を終え、ついでにお茶請けのクッキーを食べさせて咲夜が少し落ち着いたところで美鈴が訊ねた。
「ところで、どうしてこの子にしたんですか?」
「ああ、外で行き倒れてたってのもあるけどね。面白い運命が見えたから私の傍に置くことにしたよ」
「面白い?」
「人外しかいない館で働くメイドに人間がいるなんて、面白いじゃない?」
「はあ、よく分かりませんが、お嬢様がそう仰るのなら……」
美鈴はそう言うと、幸せそうにクッキーを頬張る銀髪の少女を見つめた。
まだ年端も行かないらしく、可愛らしい顔立ちをしている。
主人の言葉もあったが、全力で護り育てようと美鈴は心に誓う。
お茶の片づけを終えた美鈴が咲夜の手を引き部屋から出る際、レミリアが呼び止めた。
「あ、そうそう。この前貸した漫画どう? 面白いでしょ?」
「ええ、最高ですね。特に主人公が時間を止めて敵の吸血鬼をやっつける所は燃えました!」
「えー、そこなの? 私はその直前の、吸血鬼が盗んだロードローラーに乗って走り出すところが……っていうかアンタね、私に向かって「吸血鬼をやっつける」とか普通言う?」
「私が仕える主人は、そんなことで部下を怒ったりしませんから」
「うー……」
楽しそうに告げる美鈴に対し、してやられた表情を見せたレミリアは右手で払うしぐさをしながら続ける。
「あーもーいいわ。さっさとその子に館を案内してやりなさい」
「かしこまりました。紅美鈴、行ってまいります。咲夜、いくわよ」
「はい、めーりんさま」
「うーん……様付けはいらないわ。むずがゆいもの」
「え、でも……」
言いよどむ咲夜の姿に、美鈴は少し考えてから続けた。
「言いにくいなら、慣れるまでは"お姉ちゃん"でもいいわよ」
「めーりん……おねえちゃん?」
「はい、よくできました」
頭を撫でてやると、咲夜は嬉しそうに頬を緩めた。
◆ ◆ ◆
「あの時の咲夜さん、可愛かったですよ」
「何よ、今は可愛くないって言うの?」
「ふふ、今でも可愛いですよ。って咲夜さん顔赤いですよ? 咲夜さんが言わせたんじゃないですか」
「うるさいわね、そこはモゴモゴしてごまかすところでしょう。なんで直球なのよ」
「照れた咲夜さんがたまらなく可愛いからです」
「黙りなさい」
照れ隠しに美鈴の両頬を引っ張る。
「ほぉいへば、ふぁふやふぁんはむはひっはら、てへやはんでひはへ」
「ワケわかんないわよ。普通に喋りなさい」
咲夜が手を離す。
「咲夜さんは、昔っから照れ屋さんでしたね」
「やっぱり黙ってなさい」
僅かに頬を染めた咲夜が、再び美鈴の頬を引っ張ろうとするが、今度は避けられてしまう。
少しだけ意地悪な表情をした美鈴が、お返しとばかりに咲夜の過去話をほじくる。
◆ ◆ ◆
「おねえちゃん、見てて。えいっ!」
咲夜の投げたペーパーナイフが木の幹に当たって落ちる。
美鈴はそれに惜しみない拍手を送り、頭を撫でてやる。
と、普段なら幸せ絶頂の様子で喜ぶはずの咲夜は何故か神妙な顔つきで。
「となりの木をねらったの……」
「そっか。言わなきゃ分からないのに、咲夜は真面目ね」
いい子いい子、と別の理由で撫でる。
咲夜の顔がやっとほころんだところで美鈴が疑問を口にする。
「でも、どうして武器をナイフにしたの?」
美鈴が何気なく訊ねると、咲夜は顔を赤くしてモジモジしながら呟いた。
「えっと、めーりんおねえちゃんがクナイ投げてるから……わたしもクナイ欲しかったけどお屋敷にないから、れみりあ様におねがいしたら「ナイフが似合うぞ」って」
「……咲夜ぁー」
「わっ!?」
「自分とおそろいの武器がいい」と言ってくれる咲夜が愛しくてたまらず、抱っこして頬擦りをする。
困ったように眉尻を下げつつも、どこか嬉しそうな咲夜の柔らかい頬を堪能する。
と、咲夜の髪が美鈴の頬に触れた。見ると、大分髪が伸びている。
咲夜を地面に降ろし、少し思考を巡らせてこう続けた。
「咲夜は、私とおそろいが好きなの?」
「うん、おねえちゃんといっしょがいい」
「それじゃ、コレを一緒にしようか」
美鈴は自分のお下げを指で摘み、ピョコピョコと横に振る。
最初はポカンとしていた咲夜もその意味に気づき、満面の笑みで首を縦に振った。
◆ ◆ ◆
「今でもお下げ、おそろいにしてくれていて嬉しいですよ」
「こういう仕事だから、結わえておいたほうが便利なだけよ」
そっけなく言い返すが、本心は違うと分かっている美鈴はニコニコと笑っている。
その笑顔を見ていると反発するのが馬鹿らしくなってしまい、咲夜は降参を認める。
「まあ、気に入ってはいるわよ」
「そうそう、素直な咲夜さん可愛いですよ」
「~~~!」
掃除用のモップ片手に咲夜が美鈴を追い回す。
普段の瀟洒なメイドからは想像もつかないその姿は、館の者が見たら驚いたであろう。
子供のようにハシャぎ、双方とも汗だくでベッドに腰掛ける。
二人で顔を見合わせ、どちらともなく笑い出す。
ひとしきり笑ったところで、美鈴が咲夜の隣に座り直した。
「咲夜さん、何かあったんですか?」
「何よ、急に」
そっけなく言い返し視線を逸らす咲夜に、美鈴は真剣な眼差しを向ける。
「咲夜さんは昔から、大変なことになればなるほど自分でなんとかしようと無理しちゃう子でしたから」
「だから、何なのよ」
「弾幕の練習で肋骨を折った時なんか、痛くてたまらないはずなのに隠してて、熱出して倒れちゃうまで気付けなくて……今まで何度もお嬢様にお叱りを受けましたけど、あの時が一番怖かったです」
「……」
「何かあったんですね? 隠すのが上手な咲夜さんですら、隠しきれない大変なことが」
「そんなこと……」
「『咲夜』」
なおも視線を逸らし続ける咲夜の名前を呼ぶ。
咲夜の身体がビクリと震え、美鈴の目から視線を逸らせなくなってしまう。
その目に薄っすら涙が浮かんでいることを確認すると、美鈴は咲夜を抱きしめた。
僅かに咲夜の身体が固まるが、抵抗は無い。美鈴がそのまま続ける。
「お姉ちゃんなんて呼ばせておいて、妹の骨折にすら気付けない私は姉失格でした」
「美鈴……」
「それでも咲夜さんは、その後も私を姉として慕ってくれました。本当に嬉しかったです。そして、もう二度と妹のピンチを見逃さないとそのとき誓ったんです」
だから、と言葉を繋いで。
「隠そうとしても隠せない程つらいことがあった時くらい、昔みたいに甘えてくれてもいいんですよ?」
「美、鈴……」
「私は、咲夜のお姉ちゃんなんですから」
ニッコリ微笑んでそう告げると、目を潤ませた咲夜が抱きしめ返してきた。
「ふぇ……美鈴……めーりん……」
「よしよし、咲夜は可愛いわね」
「めーりん……おねえちゃん……ふぇぇん」
「何があったのかお姉ちゃんに話して? 可愛い咲夜のためなら、お姉ちゃんは何でもしてあげるわ」
胸の中で泣きじゃくる咲夜の頭を優しく撫でながら、美鈴は咲夜お気に入りの物語――いつでも咲夜に聞かせてあげられるよう暗記した――を暗唱し始めた。
◆ ◆ ◆
同時刻。地下図書館にて。
「あーあ、いい役を美鈴に取られちゃったわ」
そこには愚痴をこぼす吸血鬼と、その友人の魔女がいた。
「せっかく私が主人として部下の悩みを聞いてやろうと思ってたのに」
「レミィがそんなことしたら、咲夜は恐縮して何も言えなくなるわよ」
「嫌がる咲夜に無理やり、ってのがいいんじゃない。そそるわ」
「何の話よ。それよりこの前貸してあげた本はどう? たまには小説もいいものでしょう」
「なかなか良いわね、特にあの金欠黒魔術士が魔術を使えなくなって苦悩する所が」
「そこなの? 私はその後の魔術を再び使えるようになる所が……っていうかレミィ、魔女に向かって「魔術を使えなくなる」なんて普通言うものかしら」
「おや、私の友人の魔女はそんな小さなことで機嫌を損ねる奴だったかな」
「……むきゅー」
レミリアはしてやったりの表情を浮かべ、満足そうにくつくつと笑った。
「ま、咲夜の奴もたまには甘えた方がいい。人間は寿命が短いから、甘えてられる時間も短いからね」
「あら、その咲夜に一番甘えてお世話になってるのは、年長者のレミィじゃないかしら」
「……何よパチェ、何が言いたいの?」
「さあ? 私の友人の吸血鬼は部下想いの優しい子だから、きっと聞き流してくれるわね」
「……うー」
悔しそうに机に突っ伏すレミリアを、小悪魔に勝ち名乗りよろしく右手を持ち上げられたパチュリーが楽しげに見つめていた。
◆ ◆ ◆
翌日、紅魔館門前にて花木の世話をする美鈴に後ろから声が掛かった。
「今日は真面目にやっているようね、美鈴」
「あっ、咲夜さん。おはようございます!」
そこにはいつものメイド服に身を包んだ咲夜の姿があった。
表情からも悩みや迷いは消えており、昨晩あれだけ泣きじゃくった咲夜の姿はそこには無かった。
「今日のお昼は一緒に食べましょう。美鈴の好きなものを作ってあげるから、何かリクエストはある?」
「え、本当ですか? 咲夜さんの手料理が食べられるなんて光栄です! 久しぶりに中華が食べたいなあ」
「そう、分かった。お昼になったら迎えにくるわね。でも、居眠りしてたらおあずけよ」
「そんなー、咲夜さんのご飯食べたいですよぉー」
「何で寝ること前提なのよ。もう、仕方ないわね……」
咲夜は辺りに誰も無いことを確認すると、スッと近づいてきて美鈴の頬に口付けた。
「……これは昨日のお礼よ。おしごとがんばってね……『めーりんおねえちゃん』」
耳まで真っ赤にして立ち去るメイドの後姿に向けて、美鈴はこれ以上ないほど元気に返事をした。
「はいっ、咲夜さん!」
貴方の創る長編が読みたくなりました。
マリアリ、楽しみにしています。
素敵なお話でした。
ぜひマリアリでお会いしたいですよ。
こんな名作を待っていました めーさくだけに
面白かったです