七月の雪―博麗神社―
「へっくしょん!!!」
博麗 霊夢は自分のくしゃみの音で目が覚めた。
しょぼしょぼと目をこすりながら周りを見渡す。すると急に寒気を感じ、体を震わせた。
今年の夏の暑さは異常である。
今の時期は七月ということもあって梅雨が終わり、夏本番のための初夏が始まった頃である。
なのに連日、猛暑日が続きお陰で外を出歩くのさえ憚れるほど厳しい毎日を送っていた。
そのために霊夢はこの猛暑に参ってしまい、掛け布団はタオルのような薄手のもので、寝巻きも極力薄着のものを選んでいた。
「う~寒……風邪引いたかな…」
霊夢は体を震わせながら布団の中に潜った。
薄着のせいで風邪を引いたのかと思い込んだ霊夢は眠たさも相まって、二度寝に入ろうと目を閉じ始めた。
「………うん?何かやけに寒いわね………」
そう言って眠い目を無理矢理開く。周りには見慣れた自分の部屋が広がっている。
しかし、自分の部屋の空気がやけに冷たく感じることに違和感を持った。
布団を払い、のそりと体を起こすとやはり氷のような冷たさを感じる。
おかしいと感じた霊夢はゆっくりと外に通じる障子を開けた。
「…………」
霊夢は無言のまま立ちすくんでいた。
外は視覚の点では何も昨日と変わりがなかった。
青空が澄み渡り雲ひとつもない快晴である。太陽も顔を出し、眩しさを与えていた。
けれども、この空気はどういうことか。異常に空気が冷たい。
寧ろ、空気が冬のような寒むくて霊夢は体を震わせた。
「へ、へ、へっくしょん!!!な、何この寒さ!?え、え?」
何事にも動じないはずの霊夢が『夏なのに冬のような寒さ』で体を震わせ、動揺していた。
景色は夏そのもの。見事な日本晴れに誰もが心を動かされるような朝日が輝いている。
けれどもこの寒さは何だろうか。
夏は暑いはずだ。しかも連日の猛暑日で今日も暑いはずだと霊夢は思っていた。
暑い中日課の朝食作りから始まり、掃除に、お茶。そして誰かが来たら気の向くまま喋って熱帯夜に苦しみながら寝る。そんな約束された一日が今日は奪われた。
何故冬のような気温なのだ。
この寒さに実感が持てない霊夢は自分の頬を軽くつねる。
「……どうやら夢じゃないみたいね」
つねったところが赤みを帯びているところをみると結構な強さでひねったらしい。
ともかくこれが現実だと知った霊夢は、
「まあ、とりあえずは朝食の用意ね」
結局、いつも通りの日課に取り組み始めた。
朝食を食べ終え、食器を片付けに台所に向かう霊夢。
あらかじめ井戸から組んでいた水は瓶の中にあった。
それを桶の中に移す。水で満たされた桶の中に食器をつけ、霊夢は洗い始めた。
「……っつう!そうだった、こんだけ寒けりゃ水も冷たいわよね」
針に刺されたような痛さが霊夢の体の中を通る。水の冷たさを失念していたのだ。
暑い日はこの食器洗いが気持ちよかった。
どんなに暑くても井戸の中の水はきんきんに冷えており、夏には涼をとる手段の一つであった。
それが今日の寒さで水は氷のように冷たい。勢いよく水の中にダイブした霊夢の手は冷たさに驚いて反射的に手を引っ込めた。
「あ~もう!とっとと洗ってしまお」
霊夢はいつもとは違い雑に食器を洗い始めた。早くこの冷たさから逃げ出したかったからだ。
がちゃがちゃと洗う最中にも冬にも似た冷たい空気が台所の中を駆け回る。
食器を干し、すっかり冷たくなってしまった手をこすりあわせながら霊夢は居間へと戻っていった。
お盆の上には急須と湯のみ、お茶請けのもなかもある。
それを持って今度は居間から縁側へと移った霊夢。
寒い寒いと言いながらも彼女にとってここがベストプレイスらしい。
急須を手に取り、湯飲みへとお茶を注ぐ。白い湯気が立ち上がり、温かさを感じる。
ふぅ~、と息をふきかけお茶を冷ましながらゆっくりと嚥下する。
口に含んだのは少しだけだったが、それでも体が温かくなるのを感じた。どうやら自分の体は結構冷えていたようだと気がついた霊夢であった。
ふと空の方へと目を向けてみると、見慣れた人物がこちらへ近づいてきた。
「お~~~い、霊夢~~!!」
「あら、いらっしゃい」
現れたのは普通の魔法使い、霧雨 魔理沙であった。空から手を振っている。
マフラーをぱたぱたと風になびかせながらゆっくりと降下してくる。この空を飛んできた彼女は寒そうに体を震わせながら霊夢の隣に座った。
「う~~、寒いぜ。寒くて寒くて、どうにかなってしまいそうだぜ!霊夢、コタツ一丁!」
「一丁、て……残念ながらコタツは出してないわ。あ、ちょっと何勝手に飲んでんのよ」
「あ~、生き返る…」
魔理沙は先ほどまで霊夢が飲んでいた湯飲みをとり、入っていたお茶を口にした。
よほど寒かったのか、一瞬彼女の体がぶるっと震えた。寒いときにはよくあることだ。
「それにしてもこんな寒い中ご苦労だったわね」
「全くだぜ。朝起きたら寒くてよ、寝巻きの上に腹巻、ナイトキャップ、マフラーもしたんだ。で、何かあるなと思ってここに来た訳なんだ。あ、ついでに言うなら今も腹巻してる。見てみるか?」
「結構よ。でも魔理沙の言うとおり、これは寒いわね」
「なあ、昨日まで夏だったよな?暑かったよな?」
「夏だし、暑かったわ。もっと言うなら今日は7月18日。夏の手前の初夏って所ね」
「……これってさ、異変じゃないかな」
魔理沙は急に空気を張り詰めさせた。
霊夢もその可能性は否定できないらしく黙っている。
「確か前にもこんなことあったよな?」
「ああ、幽々子のやつね」
霊夢が言ったのは春雪異変のことである。あの異変は春が来なくて、暦上は春なのにずっと冬のままであった出来事だ。
「もしかして、これもあいつらの仕業じゃないかな?」
「それはないわ。だってこんなことしたってあいつらに何の得が案のよ?」
「鍋が美味くなる……てのはどうだ?」
「プッ……ありだわ、それ!幽々子なら言いかねないわね」
「だろう?それで妖夢にこういうのさ。『妖夢、今すぐ夏度を集めてきなさい。ついでに食材もよ』ってな」
魔理沙の幽々子の声真似が上手かったのか、快活に霊夢は笑い出す。魔理沙もつられて笑った。
一方、白玉楼では
「う~寒いわ。妖夢、妖夢~~?」
「はい、お呼びでしょうか」
「妖夢、寒いわ。今日は鍋でお願いね」
「分かりました。夜までには仕込んでおきます」
「違うのよ、朝ごはんを鍋にしてと言っているの」
「本気……でしょうか?」
「もちろん♪あ、できればぼたんが良いわ」
「……少しお時間を下さい。用意してきますので」
「早くお願いね~」
「でもね、いくらなんでも鍋のためだけに夏を冬にするなんてありえる?」
「う~~ん、ありえなくもないが確かにやりすぎだよなあ」
魔理沙はうんうんと唸りをあげる。他に候補はないかと考えを巡らせていた。
霊夢はそんな彼女を残して、台所へと向かう。魔理沙のための湯飲みと急須へお茶を追加するためだ。
「まてよ、あいつならどうだ。こんなこと起こすのはわがままな奴に限るぜ」
「わがままって誰のことでしょうか?」
「んあ?」
霊夢とは違う声が聞こえたので頭を上げる魔理沙。そこには守屋神社の風祝、東風谷 早苗がいた。こちらも魔理沙と同様にマフラーを纏っている。それプラスにジャケットも着込んでいた。
「おお、早苗じゃないか。どうしたこんな寒い中、わざわざ来るなんて」
「こんにちは。実は霊夢さんに用事がありまして……霊夢さんはお出かけですか?」
「私ならここにいるよ」
ひょっこりと首だけ出す霊夢は早苗に軽く挨拶をする。早苗もそれにならい会釈した。
「ちょっと待ってて、すぐ行くから」
「あ、は~い」
早苗はそう言って魔理沙の隣に座る。すると座ったとたんに彼女はくしゃみをした。
「へっくしゅ……寒いですね、もう体が凍るかと思いましたよ」
「そりゃそうだろな。私と違ってそっちの方が遠いもんな」
「ええ。起きたら、冬のような冷たい風が吹いてました。台所に行くと瓶に汲んであった水が凍っていたんですよ。流石にあれには開いた口も塞がりませんでした」
「神様たちはどうしたんだい?」
「神奈子様も諏訪子様も寒いのは苦手なので布団の中で包まっていました」
二人の今朝の様子を話すのが恥ずかしいのか、はにかみながら早苗は話す。魔理沙のほうも早苗の言う事がよく分かるらしく、うんうんと頷く。
そこへ、霊夢が戻ってきた。
彼女が持つお盆には新しいお茶が入った急須と二人分の湯飲みがあった。
「お、サンキュウ、霊夢」
「ありがとうございます、霊夢さん」
「どういたしまして。ところで何の用で来たの?」
「あ、実はこれのことなんですよ」
早苗は何もない空へ指差した。
どうやら彼女の方もこの冬のような気候の異変に動き出したらしい。
霊夢はあ~、と言いながら肩をすかせて見せる。早苗は彼女の様子に『何も分からない』と言うことを察した。
そんなやり取りをする中で、間に挟まれたように座る魔理沙は三人分の湯飲みにお茶を注いでいた。
「まあ、そういうわけよ」
「そうですか……魔理沙さんの方は何か分かりましたか?」
「うんにゃ、けど心当たりならあるぜ?」
魔理沙は一旦お茶を飲むために一言置いた。
「レミリアってどうだ」
「う~ん、幽々子より苦しいんじゃないかな」
「でも、暑いから涼しくしようとしてパチュリーに頼んだんじゃないかな」
「それで幻想郷をこんなに寒くしたっていうの?とんだわがままね」
霊夢は呆れて目を瞑る。魔理沙も苦笑する中、早苗だけが真面目に納得していた。
「確かに、暑いのは嫌ですからね。服はべたつきますし、台所に立つと地獄ですし、いいこと何もありませんからね」
「あら、早苗は暑いのが駄目なの?」
「ええ。毎年、夏だけはどっかに行ってくれないかなぁ、と神奈子様たちにお願いしたこともありましたね」
早苗は魔理沙が入れてくれたお茶を飲んで一息入れた。
「夏の嫌な所はまだありますよ。例えば、いくら風を起こしてもやってくるのは熱風ですし、胸も蒸れるから嫌なんですよ」
「胸が……」
「蒸れるねぇ…」
霊夢と魔理沙はちらりと自分の胸を見る。今日は別として、いつものことを思い出す。すると自然にえも言えぬ怒りがわいてきた。
「魔理沙……貴女蒸れるかしら?」
「いや。吹き出る汗は胸に溜まらず流れる一方だぜ」
怒りをぶつけたかったが、寒い中動くのが億劫に感じた二人は俯きながら早苗と目をあわせようとしないでいた。
「神奈子様も諏訪子様ももっとしっかりしてほしいのに、暑いから風呂は任せるってどうなんですか!?私が代わりに入って意味があるんですか!?」
早苗はなおも暑さに対して愚痴をこぼしていた。
一方、紅魔館は
「う~~、寒いよ~咲夜さん……」
「ほら、文句言わないの」
「だって、今日起きたら北風がビュービュー吹いてて、鳥肌もんでしたよ」
「私だってそうよ。毎日暑いから布団掛けないで寝てたら、今日になって冷え込むんだもの。寒くて風邪引きそうだったわ」
「なんでこんなことになっちゃったんでしょうかね~」
「さぁね、とにかく仕事サボるんじゃないわよ」
「は~い。あ、でももう少しだけこうしていましょうよ」
「……仕方ないわね。後、十分だけよ」
「えへへ、咲夜さんの手、温か~い」
寒さは一向に止む事はなかった。
仕方なく、昼食は夏の重宝、そうめんを温めて食べることになった三人は、
「夏ににゅうめんを食うのも乙だぜ」
「本当に、おいしいですね」
「まあ、寒いから仕方ないわね」
ずるずると音を立てながら暖を取る三人。つゆにはしょうがを入れるのは温かさをとる為に必須のトッピングだ。
お腹が満たされた頃には体も温かくなっていた。
霊夢は締め切っていた戸を開けた。すると外から眩しいながらも寒さを伴った風が居間に入り込む。
「おおおお、霊夢さっさと閉めようぜ。寒くてかなわん」
「駄目よ。少しは喚起しないと空気が篭って苦しいのよ」
「そうですね。結構篭ってきましたよね」
魔理沙は出来るだけ冷たい風が当たらないような奥のほうに向かう。そして、近くにあった壁に寄りかかった。
やることもなかったので彼女は近くにいる早苗とおしゃべりを始めた。
一方の霊夢は机の上にある食べ終えた食器を片付け、台所に持っていった。また、あの冷たさを味わうのだと考えると彼女は人知れずため息をついた。
「で、これからどうするんだ?」
「そうですね。出来れば暑いのは嫌なのですが異変であれば解決しなければならないでしょうね」
「だな。早苗の方は何か当てはあるか?」
「当てはないんですけど。そう言えば……天狗さんたちが結構騒いでいましたね」
「天狗が?ああ、スクープを探しに出かけたんじゃないのか」
「いえ、最初はそう思ったんですけど……」
早苗は言いかけた言葉を飲み込んだ。
どうやらただ事ではないと魔理沙は直感した。急かすこともなくゆっくりと待っていると、
「何か、こう上手く言えないんですけど蜂の巣をつつかれたたような蜂みたいでした。何か見えないものに追われているような……そんな気がしました」
「追われている?それって天狗にとって天敵を意味しているのか?」
「それは言葉のあやなんですけど、そんな感じでした」
「天狗にとって天敵と言えば鬼よね」
そこへ食器を洗い終えた霊夢が戻ってきた。
朝と同様に手をこすり合わせながら温かさを取り戻していた。
「鬼?萃香のことか、それとも勇儀か?」
「両方か或いは別の可能性もあるわ」
鬼は天狗にとって上司に当たる。とりわけ天敵と言うほどでもないが、目の上のたんこぶには違いなかった。
「でも、そんな感じじゃなかったですよ。前も、ふらっと萃香さんがやってきたときもありました。みなさん顔は引きつっていましたがそこまで焦りはありませんでしたよ」
「じゃあ、何だろうな。天狗にとって天敵って」
「まあ、そのうち分かるでしょ」
そう言って霊夢はごろんと横になった。
「お、寝るのか?」
「うん、少し横になってるわ。適当に起こして頂戴」
「よしきた。早苗、暇なら外に行かないか?」
「良いですね。お付き合いします」
寒いと言いながらもどこかあっけらかんとしている三人。異常な状況のはずなのにお気楽に構え、寒いと言いながらも外出はする。そんな矛盾しているようなその行動は若さから来るものだろう。
早苗は嬉しそうに身支度を始める。来たときと同様に巫女服の上に厚手のジャケットとマフラーをする。
魔理沙のほうも帽子を被り、マフラーを首に纏わせてから神社を後にした。
「あ、私腹巻してるんだぜ。見てみるか?」
「え?わ、本当だ!まるで神奈子様みたい」
(あ、ちょっとへこんだわ)
霊夢はへこむ魔理沙を最後に意識を睡魔に委ねた。
日没になり寒さは一段と増していた。
その寒さに追いやられるように二人の移動は早くなる。
見る見る近づく石畳に一歩、また一歩と足を踏み出す。
そのまま駆け足の状態で博麗神社の居間へと飛び込んだ。
「あ~、寒かったぜ!」
「う~、手が凍りそうです…」
「あら、お帰り。遅かったわね」
「おうよ。紅魔館で遊んでたらすっかり日が暮れてさ。やっぱこれ『夏』だなって実感したよ」
「日が出てる時間は長かったので、すこしくらい良いかなと思ってたのですが、それがあだでしたね。暗い頃にはかなりの寒さになっていましたよ」
二人は体を震わせながら、紅魔館に居たときの話をした。
今日の夕食は鍋。
メインは鶏肉と博麗神社の食生活の中ではかなり豪華な方である。今日は奇妙な日だが本来は夏なので残念ながら白菜は鍋には入っていなかった。
「上手いな、やっぱ冬は鍋に限るな」
「こういうのも悪くないわね。あ、早苗…エノキと鶏肉追加で」
「はい、了解です」
霊夢に促される早苗は指示通りに鍋に具材を追加してくる。
実はこの肉、魔理沙たちが紅魔館で貰ったものであった。
紅魔館では魔理沙がフランドールの弾幕ごっこに付き合っていた。その間、早苗は暇をもてあましていたので十六夜 咲夜の手伝いをしていた。
そのお詫びとしてもらった鶏肉であった。咲夜に鍋でもしたら、と言われ渡されたのである。
「しかし、まあ今日は何だったんだろうな」
「夏なのに突然寒くなるなんてこんなことよくあるんですか?」
「少なくとも私が生きてきた中では一度もなかったわね」
「右に同じく。早苗はどうなのよ?」
「もしかして外の世界のことですか?」
その問いに霊夢たちは頷く。
早苗ははしをおいてしばし考えた。
「私の方もないですね。もしこんな事が起こったら異常気象だって言って日本中がパニックしてますよ」
「異常気象ねぇ……」
霊夢は早苗の言ったことに食いつき、こちらもはしをおいた。
そして、一人納得しながら何度も頷いていた。
「ああ、ああ、なるほどね」
「うん?何がなるほどなんだ」
「いや、これってさ『異変』じゃなくて『異常』じゃないのかなって思ったのよ」
「どう違うんですか?」
「異変って言うのは私達の認識の中では誰かが起こした現象を指してるの。それに対して異常って言うのは自然が起こすもの。つまり、人為的かそうでないかの違いよ」
霊夢は身振り手振りを交えながら分かりやすいように説明する。
それに納得した二人は言葉の節目節目に頷く。
「自然が起こすという時って言うのは、大概そうしなければならないって思ったときなのよ。つまり今回の現象は自然が暑い夏を満喫できるように偶には私達にサービスをあげましょうってことなのよ」
「おお、今回の自然はえらい太っ腹だな。出来ればもう少し暖かいほうがよかったけどな」
「そうなんでしょうか」
「そういうものなの。ほら、鍋が冷めてしまうから早く食べちゃいましょ」
腑に落ちないでいる早苗に霊夢は食べるように促す。
こういうときはおいしいものを食べて、難しいことを考えるのは止そうとするのが幻想郷の流儀だ。
まだ、幻想郷入りして日も浅い早苗にとってはこの切り替えが感嘆の対象になっていた。
夜も老け込み、そのままなし崩し的にプチ宴会に入る三人。
結局、なんだかんだと言って動かなかった三人はこれもよくあることの一つだと捉えていた。
案外、こういうときの人間は神経が図太いのかもしれない。或いは彼女たちが例外なのかもしれない。
先ほどまでしっくりきていなかった早苗も今はお酒も入ってほろ酔い状態。魔理沙に囃し立てられ彼女は外の世界の歌を歌っていた。
騒ぐふたりを横目に霊夢ただ一人だけが静かにお酒を飲んでいた。
時々、ふすまを開けては空の様子を見ている。夕食のときに結論付けた彼女が、実は一番自分の説明にしっくりきていなかったのだ。
(もし本当に異常ならまだ良いんだけどね)
霊夢は空を見続ける。すると暗い空に白い光が灯し始めた。
そして一つ、二つ、三つと無数の光が地面に舞い降りた。
「勘が騒ぐわ」
7月18日―初夏、幻想郷に雪が舞い降りた。幻想郷が始まって以来の奇妙な現象であった。
しかし、夏なのに雪が降るこの異常な現象はこの日だけにすまなかった。
今年の夏は異常だ!
To be continue…
「へっくしょん!!!」
博麗 霊夢は自分のくしゃみの音で目が覚めた。
しょぼしょぼと目をこすりながら周りを見渡す。すると急に寒気を感じ、体を震わせた。
今年の夏の暑さは異常である。
今の時期は七月ということもあって梅雨が終わり、夏本番のための初夏が始まった頃である。
なのに連日、猛暑日が続きお陰で外を出歩くのさえ憚れるほど厳しい毎日を送っていた。
そのために霊夢はこの猛暑に参ってしまい、掛け布団はタオルのような薄手のもので、寝巻きも極力薄着のものを選んでいた。
「う~寒……風邪引いたかな…」
霊夢は体を震わせながら布団の中に潜った。
薄着のせいで風邪を引いたのかと思い込んだ霊夢は眠たさも相まって、二度寝に入ろうと目を閉じ始めた。
「………うん?何かやけに寒いわね………」
そう言って眠い目を無理矢理開く。周りには見慣れた自分の部屋が広がっている。
しかし、自分の部屋の空気がやけに冷たく感じることに違和感を持った。
布団を払い、のそりと体を起こすとやはり氷のような冷たさを感じる。
おかしいと感じた霊夢はゆっくりと外に通じる障子を開けた。
「…………」
霊夢は無言のまま立ちすくんでいた。
外は視覚の点では何も昨日と変わりがなかった。
青空が澄み渡り雲ひとつもない快晴である。太陽も顔を出し、眩しさを与えていた。
けれども、この空気はどういうことか。異常に空気が冷たい。
寧ろ、空気が冬のような寒むくて霊夢は体を震わせた。
「へ、へ、へっくしょん!!!な、何この寒さ!?え、え?」
何事にも動じないはずの霊夢が『夏なのに冬のような寒さ』で体を震わせ、動揺していた。
景色は夏そのもの。見事な日本晴れに誰もが心を動かされるような朝日が輝いている。
けれどもこの寒さは何だろうか。
夏は暑いはずだ。しかも連日の猛暑日で今日も暑いはずだと霊夢は思っていた。
暑い中日課の朝食作りから始まり、掃除に、お茶。そして誰かが来たら気の向くまま喋って熱帯夜に苦しみながら寝る。そんな約束された一日が今日は奪われた。
何故冬のような気温なのだ。
この寒さに実感が持てない霊夢は自分の頬を軽くつねる。
「……どうやら夢じゃないみたいね」
つねったところが赤みを帯びているところをみると結構な強さでひねったらしい。
ともかくこれが現実だと知った霊夢は、
「まあ、とりあえずは朝食の用意ね」
結局、いつも通りの日課に取り組み始めた。
朝食を食べ終え、食器を片付けに台所に向かう霊夢。
あらかじめ井戸から組んでいた水は瓶の中にあった。
それを桶の中に移す。水で満たされた桶の中に食器をつけ、霊夢は洗い始めた。
「……っつう!そうだった、こんだけ寒けりゃ水も冷たいわよね」
針に刺されたような痛さが霊夢の体の中を通る。水の冷たさを失念していたのだ。
暑い日はこの食器洗いが気持ちよかった。
どんなに暑くても井戸の中の水はきんきんに冷えており、夏には涼をとる手段の一つであった。
それが今日の寒さで水は氷のように冷たい。勢いよく水の中にダイブした霊夢の手は冷たさに驚いて反射的に手を引っ込めた。
「あ~もう!とっとと洗ってしまお」
霊夢はいつもとは違い雑に食器を洗い始めた。早くこの冷たさから逃げ出したかったからだ。
がちゃがちゃと洗う最中にも冬にも似た冷たい空気が台所の中を駆け回る。
食器を干し、すっかり冷たくなってしまった手をこすりあわせながら霊夢は居間へと戻っていった。
お盆の上には急須と湯のみ、お茶請けのもなかもある。
それを持って今度は居間から縁側へと移った霊夢。
寒い寒いと言いながらも彼女にとってここがベストプレイスらしい。
急須を手に取り、湯飲みへとお茶を注ぐ。白い湯気が立ち上がり、温かさを感じる。
ふぅ~、と息をふきかけお茶を冷ましながらゆっくりと嚥下する。
口に含んだのは少しだけだったが、それでも体が温かくなるのを感じた。どうやら自分の体は結構冷えていたようだと気がついた霊夢であった。
ふと空の方へと目を向けてみると、見慣れた人物がこちらへ近づいてきた。
「お~~~い、霊夢~~!!」
「あら、いらっしゃい」
現れたのは普通の魔法使い、霧雨 魔理沙であった。空から手を振っている。
マフラーをぱたぱたと風になびかせながらゆっくりと降下してくる。この空を飛んできた彼女は寒そうに体を震わせながら霊夢の隣に座った。
「う~~、寒いぜ。寒くて寒くて、どうにかなってしまいそうだぜ!霊夢、コタツ一丁!」
「一丁、て……残念ながらコタツは出してないわ。あ、ちょっと何勝手に飲んでんのよ」
「あ~、生き返る…」
魔理沙は先ほどまで霊夢が飲んでいた湯飲みをとり、入っていたお茶を口にした。
よほど寒かったのか、一瞬彼女の体がぶるっと震えた。寒いときにはよくあることだ。
「それにしてもこんな寒い中ご苦労だったわね」
「全くだぜ。朝起きたら寒くてよ、寝巻きの上に腹巻、ナイトキャップ、マフラーもしたんだ。で、何かあるなと思ってここに来た訳なんだ。あ、ついでに言うなら今も腹巻してる。見てみるか?」
「結構よ。でも魔理沙の言うとおり、これは寒いわね」
「なあ、昨日まで夏だったよな?暑かったよな?」
「夏だし、暑かったわ。もっと言うなら今日は7月18日。夏の手前の初夏って所ね」
「……これってさ、異変じゃないかな」
魔理沙は急に空気を張り詰めさせた。
霊夢もその可能性は否定できないらしく黙っている。
「確か前にもこんなことあったよな?」
「ああ、幽々子のやつね」
霊夢が言ったのは春雪異変のことである。あの異変は春が来なくて、暦上は春なのにずっと冬のままであった出来事だ。
「もしかして、これもあいつらの仕業じゃないかな?」
「それはないわ。だってこんなことしたってあいつらに何の得が案のよ?」
「鍋が美味くなる……てのはどうだ?」
「プッ……ありだわ、それ!幽々子なら言いかねないわね」
「だろう?それで妖夢にこういうのさ。『妖夢、今すぐ夏度を集めてきなさい。ついでに食材もよ』ってな」
魔理沙の幽々子の声真似が上手かったのか、快活に霊夢は笑い出す。魔理沙もつられて笑った。
一方、白玉楼では
「う~寒いわ。妖夢、妖夢~~?」
「はい、お呼びでしょうか」
「妖夢、寒いわ。今日は鍋でお願いね」
「分かりました。夜までには仕込んでおきます」
「違うのよ、朝ごはんを鍋にしてと言っているの」
「本気……でしょうか?」
「もちろん♪あ、できればぼたんが良いわ」
「……少しお時間を下さい。用意してきますので」
「早くお願いね~」
「でもね、いくらなんでも鍋のためだけに夏を冬にするなんてありえる?」
「う~~ん、ありえなくもないが確かにやりすぎだよなあ」
魔理沙はうんうんと唸りをあげる。他に候補はないかと考えを巡らせていた。
霊夢はそんな彼女を残して、台所へと向かう。魔理沙のための湯飲みと急須へお茶を追加するためだ。
「まてよ、あいつならどうだ。こんなこと起こすのはわがままな奴に限るぜ」
「わがままって誰のことでしょうか?」
「んあ?」
霊夢とは違う声が聞こえたので頭を上げる魔理沙。そこには守屋神社の風祝、東風谷 早苗がいた。こちらも魔理沙と同様にマフラーを纏っている。それプラスにジャケットも着込んでいた。
「おお、早苗じゃないか。どうしたこんな寒い中、わざわざ来るなんて」
「こんにちは。実は霊夢さんに用事がありまして……霊夢さんはお出かけですか?」
「私ならここにいるよ」
ひょっこりと首だけ出す霊夢は早苗に軽く挨拶をする。早苗もそれにならい会釈した。
「ちょっと待ってて、すぐ行くから」
「あ、は~い」
早苗はそう言って魔理沙の隣に座る。すると座ったとたんに彼女はくしゃみをした。
「へっくしゅ……寒いですね、もう体が凍るかと思いましたよ」
「そりゃそうだろな。私と違ってそっちの方が遠いもんな」
「ええ。起きたら、冬のような冷たい風が吹いてました。台所に行くと瓶に汲んであった水が凍っていたんですよ。流石にあれには開いた口も塞がりませんでした」
「神様たちはどうしたんだい?」
「神奈子様も諏訪子様も寒いのは苦手なので布団の中で包まっていました」
二人の今朝の様子を話すのが恥ずかしいのか、はにかみながら早苗は話す。魔理沙のほうも早苗の言う事がよく分かるらしく、うんうんと頷く。
そこへ、霊夢が戻ってきた。
彼女が持つお盆には新しいお茶が入った急須と二人分の湯飲みがあった。
「お、サンキュウ、霊夢」
「ありがとうございます、霊夢さん」
「どういたしまして。ところで何の用で来たの?」
「あ、実はこれのことなんですよ」
早苗は何もない空へ指差した。
どうやら彼女の方もこの冬のような気候の異変に動き出したらしい。
霊夢はあ~、と言いながら肩をすかせて見せる。早苗は彼女の様子に『何も分からない』と言うことを察した。
そんなやり取りをする中で、間に挟まれたように座る魔理沙は三人分の湯飲みにお茶を注いでいた。
「まあ、そういうわけよ」
「そうですか……魔理沙さんの方は何か分かりましたか?」
「うんにゃ、けど心当たりならあるぜ?」
魔理沙は一旦お茶を飲むために一言置いた。
「レミリアってどうだ」
「う~ん、幽々子より苦しいんじゃないかな」
「でも、暑いから涼しくしようとしてパチュリーに頼んだんじゃないかな」
「それで幻想郷をこんなに寒くしたっていうの?とんだわがままね」
霊夢は呆れて目を瞑る。魔理沙も苦笑する中、早苗だけが真面目に納得していた。
「確かに、暑いのは嫌ですからね。服はべたつきますし、台所に立つと地獄ですし、いいこと何もありませんからね」
「あら、早苗は暑いのが駄目なの?」
「ええ。毎年、夏だけはどっかに行ってくれないかなぁ、と神奈子様たちにお願いしたこともありましたね」
早苗は魔理沙が入れてくれたお茶を飲んで一息入れた。
「夏の嫌な所はまだありますよ。例えば、いくら風を起こしてもやってくるのは熱風ですし、胸も蒸れるから嫌なんですよ」
「胸が……」
「蒸れるねぇ…」
霊夢と魔理沙はちらりと自分の胸を見る。今日は別として、いつものことを思い出す。すると自然にえも言えぬ怒りがわいてきた。
「魔理沙……貴女蒸れるかしら?」
「いや。吹き出る汗は胸に溜まらず流れる一方だぜ」
怒りをぶつけたかったが、寒い中動くのが億劫に感じた二人は俯きながら早苗と目をあわせようとしないでいた。
「神奈子様も諏訪子様ももっとしっかりしてほしいのに、暑いから風呂は任せるってどうなんですか!?私が代わりに入って意味があるんですか!?」
早苗はなおも暑さに対して愚痴をこぼしていた。
一方、紅魔館は
「う~~、寒いよ~咲夜さん……」
「ほら、文句言わないの」
「だって、今日起きたら北風がビュービュー吹いてて、鳥肌もんでしたよ」
「私だってそうよ。毎日暑いから布団掛けないで寝てたら、今日になって冷え込むんだもの。寒くて風邪引きそうだったわ」
「なんでこんなことになっちゃったんでしょうかね~」
「さぁね、とにかく仕事サボるんじゃないわよ」
「は~い。あ、でももう少しだけこうしていましょうよ」
「……仕方ないわね。後、十分だけよ」
「えへへ、咲夜さんの手、温か~い」
寒さは一向に止む事はなかった。
仕方なく、昼食は夏の重宝、そうめんを温めて食べることになった三人は、
「夏ににゅうめんを食うのも乙だぜ」
「本当に、おいしいですね」
「まあ、寒いから仕方ないわね」
ずるずると音を立てながら暖を取る三人。つゆにはしょうがを入れるのは温かさをとる為に必須のトッピングだ。
お腹が満たされた頃には体も温かくなっていた。
霊夢は締め切っていた戸を開けた。すると外から眩しいながらも寒さを伴った風が居間に入り込む。
「おおおお、霊夢さっさと閉めようぜ。寒くてかなわん」
「駄目よ。少しは喚起しないと空気が篭って苦しいのよ」
「そうですね。結構篭ってきましたよね」
魔理沙は出来るだけ冷たい風が当たらないような奥のほうに向かう。そして、近くにあった壁に寄りかかった。
やることもなかったので彼女は近くにいる早苗とおしゃべりを始めた。
一方の霊夢は机の上にある食べ終えた食器を片付け、台所に持っていった。また、あの冷たさを味わうのだと考えると彼女は人知れずため息をついた。
「で、これからどうするんだ?」
「そうですね。出来れば暑いのは嫌なのですが異変であれば解決しなければならないでしょうね」
「だな。早苗の方は何か当てはあるか?」
「当てはないんですけど。そう言えば……天狗さんたちが結構騒いでいましたね」
「天狗が?ああ、スクープを探しに出かけたんじゃないのか」
「いえ、最初はそう思ったんですけど……」
早苗は言いかけた言葉を飲み込んだ。
どうやらただ事ではないと魔理沙は直感した。急かすこともなくゆっくりと待っていると、
「何か、こう上手く言えないんですけど蜂の巣をつつかれたたような蜂みたいでした。何か見えないものに追われているような……そんな気がしました」
「追われている?それって天狗にとって天敵を意味しているのか?」
「それは言葉のあやなんですけど、そんな感じでした」
「天狗にとって天敵と言えば鬼よね」
そこへ食器を洗い終えた霊夢が戻ってきた。
朝と同様に手をこすり合わせながら温かさを取り戻していた。
「鬼?萃香のことか、それとも勇儀か?」
「両方か或いは別の可能性もあるわ」
鬼は天狗にとって上司に当たる。とりわけ天敵と言うほどでもないが、目の上のたんこぶには違いなかった。
「でも、そんな感じじゃなかったですよ。前も、ふらっと萃香さんがやってきたときもありました。みなさん顔は引きつっていましたがそこまで焦りはありませんでしたよ」
「じゃあ、何だろうな。天狗にとって天敵って」
「まあ、そのうち分かるでしょ」
そう言って霊夢はごろんと横になった。
「お、寝るのか?」
「うん、少し横になってるわ。適当に起こして頂戴」
「よしきた。早苗、暇なら外に行かないか?」
「良いですね。お付き合いします」
寒いと言いながらもどこかあっけらかんとしている三人。異常な状況のはずなのにお気楽に構え、寒いと言いながらも外出はする。そんな矛盾しているようなその行動は若さから来るものだろう。
早苗は嬉しそうに身支度を始める。来たときと同様に巫女服の上に厚手のジャケットとマフラーをする。
魔理沙のほうも帽子を被り、マフラーを首に纏わせてから神社を後にした。
「あ、私腹巻してるんだぜ。見てみるか?」
「え?わ、本当だ!まるで神奈子様みたい」
(あ、ちょっとへこんだわ)
霊夢はへこむ魔理沙を最後に意識を睡魔に委ねた。
日没になり寒さは一段と増していた。
その寒さに追いやられるように二人の移動は早くなる。
見る見る近づく石畳に一歩、また一歩と足を踏み出す。
そのまま駆け足の状態で博麗神社の居間へと飛び込んだ。
「あ~、寒かったぜ!」
「う~、手が凍りそうです…」
「あら、お帰り。遅かったわね」
「おうよ。紅魔館で遊んでたらすっかり日が暮れてさ。やっぱこれ『夏』だなって実感したよ」
「日が出てる時間は長かったので、すこしくらい良いかなと思ってたのですが、それがあだでしたね。暗い頃にはかなりの寒さになっていましたよ」
二人は体を震わせながら、紅魔館に居たときの話をした。
今日の夕食は鍋。
メインは鶏肉と博麗神社の食生活の中ではかなり豪華な方である。今日は奇妙な日だが本来は夏なので残念ながら白菜は鍋には入っていなかった。
「上手いな、やっぱ冬は鍋に限るな」
「こういうのも悪くないわね。あ、早苗…エノキと鶏肉追加で」
「はい、了解です」
霊夢に促される早苗は指示通りに鍋に具材を追加してくる。
実はこの肉、魔理沙たちが紅魔館で貰ったものであった。
紅魔館では魔理沙がフランドールの弾幕ごっこに付き合っていた。その間、早苗は暇をもてあましていたので十六夜 咲夜の手伝いをしていた。
そのお詫びとしてもらった鶏肉であった。咲夜に鍋でもしたら、と言われ渡されたのである。
「しかし、まあ今日は何だったんだろうな」
「夏なのに突然寒くなるなんてこんなことよくあるんですか?」
「少なくとも私が生きてきた中では一度もなかったわね」
「右に同じく。早苗はどうなのよ?」
「もしかして外の世界のことですか?」
その問いに霊夢たちは頷く。
早苗ははしをおいてしばし考えた。
「私の方もないですね。もしこんな事が起こったら異常気象だって言って日本中がパニックしてますよ」
「異常気象ねぇ……」
霊夢は早苗の言ったことに食いつき、こちらもはしをおいた。
そして、一人納得しながら何度も頷いていた。
「ああ、ああ、なるほどね」
「うん?何がなるほどなんだ」
「いや、これってさ『異変』じゃなくて『異常』じゃないのかなって思ったのよ」
「どう違うんですか?」
「異変って言うのは私達の認識の中では誰かが起こした現象を指してるの。それに対して異常って言うのは自然が起こすもの。つまり、人為的かそうでないかの違いよ」
霊夢は身振り手振りを交えながら分かりやすいように説明する。
それに納得した二人は言葉の節目節目に頷く。
「自然が起こすという時って言うのは、大概そうしなければならないって思ったときなのよ。つまり今回の現象は自然が暑い夏を満喫できるように偶には私達にサービスをあげましょうってことなのよ」
「おお、今回の自然はえらい太っ腹だな。出来ればもう少し暖かいほうがよかったけどな」
「そうなんでしょうか」
「そういうものなの。ほら、鍋が冷めてしまうから早く食べちゃいましょ」
腑に落ちないでいる早苗に霊夢は食べるように促す。
こういうときはおいしいものを食べて、難しいことを考えるのは止そうとするのが幻想郷の流儀だ。
まだ、幻想郷入りして日も浅い早苗にとってはこの切り替えが感嘆の対象になっていた。
夜も老け込み、そのままなし崩し的にプチ宴会に入る三人。
結局、なんだかんだと言って動かなかった三人はこれもよくあることの一つだと捉えていた。
案外、こういうときの人間は神経が図太いのかもしれない。或いは彼女たちが例外なのかもしれない。
先ほどまでしっくりきていなかった早苗も今はお酒も入ってほろ酔い状態。魔理沙に囃し立てられ彼女は外の世界の歌を歌っていた。
騒ぐふたりを横目に霊夢ただ一人だけが静かにお酒を飲んでいた。
時々、ふすまを開けては空の様子を見ている。夕食のときに結論付けた彼女が、実は一番自分の説明にしっくりきていなかったのだ。
(もし本当に異常ならまだ良いんだけどね)
霊夢は空を見続ける。すると暗い空に白い光が灯し始めた。
そして一つ、二つ、三つと無数の光が地面に舞い降りた。
「勘が騒ぐわ」
7月18日―初夏、幻想郷に雪が舞い降りた。幻想郷が始まって以来の奇妙な現象であった。
しかし、夏なのに雪が降るこの異常な現象はこの日だけにすまなかった。
今年の夏は異常だ!
To be continue…
休みボk(ry
>4氏
失礼な!頭が春なだけなんです!
>7氏
今、鋭意製作中。今しばらくお待ちを
諏訪は基本冬は氷点下になるから、おかs