魔理沙なりの対処法なのだろうか。
アリスは首をかしげて思案する。少々困った事態ともいえるかもしれない。
悩みなんて無いとはいうものの、対処しづらい問題に対する辟易とした気持ちは人並みに持ち合わせている。
なんといえばいいか……、魔理沙に抱きつかれていた。
いや、すがりつかれているといったほうが正しいだろうか。ふとももに小さな頭が乗っかっている。
魔理沙は石のようにアリスの膝元に顔をうずめてピクリとも動かない。もうたっぷり太陽が一回りするぐらいずっと同じ格好をしている。
アリスは椅子に座っており、そこに魔理沙は膝をついて、手はアリスの腰にまわした状態だ。
べつに淫蕩な行為をしているわけではない。
魔理沙は現実を受け入れられずに、一番落ち着く姿勢をとっているだけなのだ。
その理由をアリスは知っている。
――霊夢が結婚することになったのである。
式は人里であげることになったらしい。博麗の巫女が結婚するというのは里にとっての大事でもあるから当然だろう。博麗があくまでも人間に属していることを広く知らしめるためにぜひともそうするべきであるといえる。とはいえ、人間たちだけが呼ばれたわけではない。妖怪の賢者はもとより知己の妖怪、幽霊、天人、魔女、妖精など、ともかく人外にも招待状は配られている。アリスのもとにも招待状が来た。だから知っているのである。
確か今日の昼過ぎぐらいから披露宴が始まるという話だ。
アリスも行こうかどうか逡巡はしていたもの、それは魔理沙のように切実な想いからではない。
ただ単に人との関わりが少しだけ面倒だなと感じるぐらいで、それだけの話だ。招待状もよく読んでないし、相手のこともよく知らないし、知ろうとするつもりもない。アリスにとっての知り合いはあくまで霊夢のほうに過ぎず、霊夢が結婚したからといっていきなり霊夢の性格が変わるとも思えず、だから結婚式にわざわざ出かける必要もないと考えていたのである。
ともあれ――
今は魔理沙のことだ。
「ねえ。魔理沙……」
アリスは優しく声をかける。
「ねえ、魔理沙ったら……」
それは幼子に聞かせる母親のような口調だ。
魔理沙の母親は早世したと聞く。世間話のような感覚で、魔理沙自身ほとんど何も気にしていないふうだったが――
それは心の奥底に封じこめてしまった感情なのだろう。
どんな感情なのか他人に知りうるものではないが、ほんの少しだけ理解することは可能だ。
それは例えば暗い屋根裏部屋でひとり人形を抱いていたときの気持ち。
誰にも見つからないようにかくれんぼして、そしてそのままみんな帰ってしまったときのような気持ち。
一言でいえば、たとえようもない寂しさ。
だから、今の魔理沙が感じている感情の多くは寂しさによるものなのではないだろうか。
魔理沙にとって霊夢がどのような存在だったのか、多くの妖怪は体験的に知っていると思われる。もちろんアリスも知っている。一番身近にいて、一番大事な友達だったに違いない。あるいはほんのりとした恋心のようなものも持ち合わせていたのかもしれない。べつにおかしなことではない。少女の自我はぷりんのように柔らかで曖昧なものだ。
とはいえ、そういう曖昧な気持ちであったがゆえに、今の魔理沙の混乱があるともいえる。
霊夢の結婚は魔理沙にとっては少なからずショックであったことは想像に難くないが、どうしてショックなのか魔理沙自身にもわからないのだ。
アリスはその感情を寂しさであると推断したが、それにしたって本当のところはわからない。
あるいは嫉妬かもしれないし、あるいは裏切りのようなものを感じたのかもしれない。
魔理沙自身にもわからないことをアリスがわかるというのは土台無理な話で、だからこそ、この状態がかれこれ昨日の夜ぐらいに魔理沙が来てからずーっと続いているのである。トイレに行きたくなったら、無言のまま立ち上がって、数分後無言のまま帰ってきて、またピタリとくっつくあたりもうどうしようもない感じである。
黙ってされるがままなのもさすがに疲れた。
「ねえ。魔理沙……、人の行動は自由だし、私は自由を愛してるから、魔理沙がここで霊夢の結婚式に出ないっていうのならそれもかまわないと思うのよ」
「……」
「でもね。人っていうのは、ほら節目ってあるじゃない。節目節目は人に祝ってもらわないとね。人は人として生きていけないのよ」
「…………」
「霊夢も人間よ。社会との交わりのなかで生きていくことが必要なの。人はひとりでは生きられないっていうのは正しい言葉だと思うわ。確かにひとり暮らしとかもできるけれど……、それにしたって誰かに助けられて生きてるわけだし……」
「霊夢は自由なやつだ」
ふてくされた声。顔をうずめたまま声を出している。
アリスはためいきをついた。
「霊夢はなにものにも縛られないから、結婚したからといって霊夢のなにかが変わるわけないと思うけど。魔理沙とも友達のままよ」
魔理沙は顔をうずめたまま顔を横に振った。まるで顔をこすりつけるような動作である。
文がいたら誤解されそうだが、いまごろ彼女は晴れ姿になっている霊夢を撮りまくっているだろう。
魔理沙はスンスンと鼻をすすって、
「いっしょに弾幕ごっこできなくなるだろ」
と小さく言った。
「できるわよ。べつに結婚したからできなくなるわけないじゃない」
「霊夢は人間離れしたやつだ。あらゆる観念から自由なやつだ。だから人間らしく結婚とかする必要ないだろ」
「結婚するという選択も結婚しないという選択も、霊夢にとっては悩むほど重い選択ではなかったのかもしれないわ。なんというか、自然にそうなったのよ。男と女が結婚するなんて、そもそも重大な理由なんて必要ないの。磁石みたいに自然にくっついちゃうんだから」
「霊夢にはまだ早いだろ。私と同い年なんだぞ」
「年なんて関係ないのよ。相手のことを好きになっちゃったら、自分が少女だからとかいって抑制なんかしないものだわ。それに人間の一生は短いのだから、結婚したいと思ったらすぐにしないと、きっと後悔してしまう」
やはり霊夢に先を行かれた寂しさが主たる感情なのだろうか。
弾幕ごっこをいっしょにできないことに無常の寂しさを感じているのだろう。置いていかれた寂しさ。そこに母親の面影を重ねてしまっているのかもしれない。
アリスは無意識に魔理沙をぎゅっとした。
「な、なにすんだ」
「もっと大人になりなさいよ。人にとって結婚するというのは家族を作ることでしょう。家族を作るのは悪いことじゃないわ」
「確かにそうかもしれないけど……、霊夢とは友達でいたいんだよ」
友達という単語が異様に小さかったのは、魔理沙なりの照れなのだろう。
「だからその認識がまちがいなのよ。家族を作るからって友達でなくなるわけじゃないのよ」
「違うだろ。結婚したらいろいろと関係が変わってしまう。今までのようにはいかないだろ」
「わかったわ。じゃあ関係が変わるということでもいいけど、でもそれは霊夢の本質を揺るがすわけではないでしょう。結局あなたの心の問題なのよ」
「そうだよ。私が認めたくないんだ」
魔理沙は素直に認めた。だからといって、霊夢が結婚することを認めたわけではないらしい。
自分が認めたくないということを認めたに過ぎないのだ。
「あのね魔理沙。友達とはいっても最後には他人でしょう。他人の色恋沙汰に口を出すのはあまり感心できることじゃないわ」
「霊夢は他人じゃない……」
「そりゃそうだけど、でも結婚するとかしないとかを決めるのは最終的には本人どうしでしょう?」
「きっとあいつに騙されてるんだ」
どうやら魔理沙は霊夢の相手方のことを知っているらしい。
口はとがらせ、瞳はうるうる。
本当に霊夢と同い年かと思うほどに女の子っぽい魔理沙であった。
「霊夢と離れたくないからって、お相手さんのことを悪く言うのもよくないわね」
「きっと私が結婚式に行ったら、ぶっ壊そうとしちまう。だからここで我慢する」
「ふむ……」
魔理沙なりの自制心があったということなのだろうか。
「だいたいな。年が離れすぎてるんだよ。あいつは四十かそこらじゃなかったか」
「それはまたずいぶんと離れてるわね」
「だろう」
魔理沙の顔は怒りに染まってるようにも思えた。
なぜ怒りに染まっているのかアリスは想像力で穴を埋めようとする。もしかすると、
――相手の人って
アリスがある人物の顔を思い浮かべたとき、家の扉を軽くノックする音が聞こえた。
魔理沙がアリスにくっついてる状況なので、しかたなく上海に開けさせる。
「どなた?」
「こーりん……」
消沈した声をあげたのは魔理沙だった。
アリスはじっと『こーりん』と呼ばれた男性を見つめた。
ほとんど会ったことはないが、確か魔法の森の入り口あたりに居をかまえている香霖堂の店主だろう。
名前は霖之助といったはずだ。
いま彼は着慣れていない感じの西洋風の礼服を着ていて、焦りの表情を浮かべている。額には汗。どうやら運動は苦手らしい。どこからどうみても優男といった容貌で、少なくとも悪い男ではないようだ。
霖之助は魔理沙がだいたい二割ぐらいの確率で話題にだす、旧来からの男の知り合いである。魔理沙が幼少のころから知っている仲で、つまりは魔理沙が実家を飛び出す前からの知り合いということになる。
若い男の容姿であるが、半妖であり、魔理沙たちより何倍も寿命が長い。
魔理沙の年齢から考えれば、実年齢は四十、五十ぐらいか?
――なるほど
アリスのなかで一本の線がつながったように感じた。
おそらくこの男こそが霊夢の結婚相手なのだろう。だとすれば、魔理沙があれだけ拒絶の意思をあらわしていたのもうなずける。
魔理沙のなかで彼の位置がどうであったかはわからないが、少なくとも身近な男ということで意識していた面も少なからずあるのだろう。
霊夢をとられたという気持ち。
あるいは彼をとられたという気持ち。
どちらに重心が置かれていたのかはわからない。
わかるほど明確な心持ちではなかったのかもしれない。魔理沙があれほど『関係』の変化に寂しさを感じていたのも納得できる。きっといままでのようにはいかないだろう。
魔理沙が混乱してもそれは無理からぬことだといえた。
「なにしにきたんだよ。おまえは結婚式があるだろ」
「君を呼びに来たに決まってるじゃないか」
「ほっといてくれよ。もう私は関係ないだろ」
「関係ないわけないだろう」
霖之助はゆっくりと目をとじて溜息をついた。
それからアリスのほうへと視線を向けた。
「すまないが、君は魔理沙の友人の……」
「アリスよ」
「ああ、アリス。君からも頼んでくれないか。魔理沙が結婚式にでてくれるように」
アリスの胸中に昏い炎がともった。
ずいぶんと虫のよい提案に思えたのだ。
魔理沙がこれだけ傷ついているというのに、自分たちは祝ってほしいなんて、あまりにも自分勝手。
人のよいアリスでも、さすがに怒りを覚えた。
だが――
先ほどからアリス自身が魔理沙に言い聞かせてきたように、結婚というのは節目であり、人間にとっての重要事であることに疑いはない。霊夢たちが魔理沙を呼んだこともそのことを十分に理解しているからだ。つまり、魔理沙という存在をないがしろにしてないからこそ結婚式にでてくれるように頼んでいるのだともいえる。
アリスは怒りをさっと収めて、ゆるやかなスピードでうなずいた。
「ねえ。魔理沙……、せっかく霖之助さんも来てくださったんだから、結婚式にでてみたら?」
「いやだ」
「あなたがここで拒絶しようとしまいと、結婚は決まってることなのよ。だったら祝ってあげたほうがいいじゃない」
「どんな顔して霊夢に会えって言うんだよ。心のなかの一パーセントも祝う気持ちがないのに会っても無駄だろ」
「祝う気持ちなんかなくったっていいのよ。重要なのは建前よ」
アリスは澄みきった声で言った。
悩みなんてひとかけらも無いかのように。
レーザーのように一直線な言葉である。
魔理沙のほうは対比的に歪んだ顔になった。
「建前で生きろっていうのか?」
「そう。普通なら気持ちのほうが大事で建前なんて意味もないって言われてるけれど、そうじゃないわ。建前っていうのは要するに礼儀を尽くすってこと。礼は人の叡智を集積したものでしょう。ひとりの人間が簡単にないがしろにしていいものじゃないのよ」
「まあ言わんとしてることはわかるが、そもそも私たちは魔女だ。魔女はそういった慣習から自由になるために存在するんじゃなかったか」
「そうかもしれないわね。だから――、魔理沙。あなたは選ばなければならないわけよ。あなたがこれから先も人間として生きていくのなら、霊夢を祝うことが正しいことだわ。逆に人間をやめて魔女すなわち妖怪として生きていくのなら、あなたは霊夢を祝ってはならない。むしろ呪ってやりなさい」
「そんなの極論だぜ……」
「じゃあもっと簡単に言うわよ。あなたは霊夢のことが好きなんでしょう? 霊夢もあなたに祝ってもらいたいって思ってるんじゃないかしら。それなのに祝わなくていいの? 祝福してあげなくていいの? それで、魔理沙は本当に後悔しないの?」
「後悔か……。確かに後味が悪いかもしれないな」
「そう思うのなら結婚式に出てあげなさいな。祝ってあげる必要なんかない。ただ参加して顔を見せてあげなさい。それだけでいいのよ」
「でも感情的に納得できないんだよ」
「感情なんて殺しなさい。気持ちなんて意味はないわ。さっきも言ったでしょう」
「ずいぶん冷たいんだなアリスは」
「そりゃあなたと違って、私は生粋の魔女だもの」
「霊夢のやつはな。一言も言わなかったんだぜ。一言もだ。本当に前日の前日になっていきなり招待状がきやがった。私がどんな気持ちになるのかまるで考えてないんだぜ」
「霊夢らしいわね。でもまあ、魔理沙のことを考えなかったわけじゃないと思うのよ。霊夢は公平の感覚に敏感だから魔理沙だけを特別扱いしたくなかった。――というよりそんなことを思いつきさえしなかったのでしょうね」
「はっ。長年つきあってきてたのにか」
「長年つきあってきてたからこそかもしれないわね」
「じゃあ、霊夢のほうこそ私に対する礼儀がなってないじゃないか」
「魔理沙は霊夢に特別扱いされたかったの?」
「べつに、そういうわけじゃない。ただ配慮が足りないじゃないか。私はもうどうしたらいいかわかんないんだよ!」
バンバンと小さなテーブルを魔理沙が叩く。
まるで子どもだ。しかし、子どもでなければあっさりと結婚式に行っただろうし、あるいはまったく無視して行かなかっただろう。
混乱のきわみにあるのは魔理沙が割り切れないためだ。
「配慮ね。でもそもそも人っていうのはそんなにいつだって配慮できるわけじゃないのよ。魔理沙だってそうでしょ。あなたは霊夢といっしょに弾幕ごっことかして、自分が楽しかっただけなんじゃない? 霊夢のことを配慮してあげたことある?」
「そんなの……」
あると言いたかったのだろう。
魔理沙は涙を目尻にためて震えていた。
アリスは冷徹に言葉を紡いでいく。それこそ魔理沙の気持ちなんてひとかけらも考えない。それが魔女の心的構造なのだ。
「あなたは人の気持ちなんて考えてこなかったんじゃないの? そのあなたが他人から配慮されたいなんてそれこそ公平に反するのよ」
「うるさいな。私の勝手だろ!」
「はいはい。もう本当にどうしようもない我侭娘ね」
「そうだぜ。それが私だ」
「開き直り」
「開き直って何が悪い」
「お子様」
「どうせ私はお子様だ」
霖之助はさきほどからずっと同じ場所に立って沈黙を貫いていた。
彼は彼なりに魔理沙の行動パターンを知っており、沈黙が最も効率的だと知っていたのかもしれない。
アリスはすっと立ち上がった。
「どこ行く気だよ」
「結婚式に決まってるじゃない」
「アリスも行く気なかったくせに」
「べつに私はどちらでもよかっただけよ。ただ特に用事もないから顔を見せに行くだけ」
「アリスも私を捨てるんだな」
「バカみたいね。捨てるも捨てないもないでしょう。あなたと私は他人なんだから」
「アリスのバカ! 勝手に行っちまえ!」
「ええ、そうさせてもらうわね。あなたはひとり寂しく家に帰ればいいわ」アリスは冷たく言い放った。「霖之助さん、魔理沙のことは諦めてください」
「しかし、僕は魔理沙を連れてくるように霊夢に言われてるんだ」
「え?」と魔理沙。
「いや、だから、霊夢から頼まれたんだよ」
霖之助は言葉を区切るようにはっきり言った。
魔理沙は思いがけない霖之助の言葉に驚いているようだった。
アリスも少しだけ驚いた。あの霊夢が魔理沙のことを気にかけていたのが、予想できなかったからだ。
いや――、もしかすると霖之助の嘘なのかもしれない。
けれど、たとえ嘘だとしても、それは悪くない嘘だった。魔理沙の顔からわずかに角がとれた。
「霊夢はなんて言ってたんだ?」
魔理沙は絞りだすような声をだした。
「魔理沙のやつなんで顔見せないのかねぇって、彼女らしく暢気に言ってたよ」
「そうか……。本当、あいつバカだな。世の中のあり方とか家族とか、自分が結婚するってことがどんなに重いことなのか全然気づいてないんだから……」
「でも、魔理沙は特別だったのね」
「さぁな。それはわからないけどさ……、ほんと、しっかたねぇやつだなぁ……」
泣き笑いのような表情になって、
「しょうがない。祝ってやるか」
魔理沙は、弾幕ごっこのときのように、まっすぐ前を向いた。
アリスは上海と蓬莱を操って、魔理沙の頭を優しく撫でた。
「な、なんだよー」
「人形たちが勝手に褒めてるみたいね」
「人形に褒められたんじゃ、人間様もおしまいだな」
それから魔理沙はいつものように快活に笑った。
人。人。人。
妖怪妖怪妖怪。
妖精妖精妖精。
まるで幻想郷のすべての住人たちが霊夢の結婚を祝っているようだった。
礼服に着替えた魔理沙とアリスと霖之助は、行く先々で「おめでとう」という言葉をかけられた。
人も妖怪も妖精も等しく「おめでとう」という言葉をかけてくる。
アリスは三度目あたりからは無意識に対応することにした。いちいち心を配っていたら身がもちそうにない。
それに、なんという狂喜狂乱なのだろう。
いつもの宴会なんて物の比ではないほどに、呑めや歌えやのどんちゃん騒ぎである。
おそらく霊夢の結婚自体が喜ばしいイベントなのだろう。
救世主が生まれる喜びの日のごとく、幻想郷中が喜びに湧いている。
披露宴はどうやら稗田家の大広間を使うらしい。家の前にはすでに波のような人だかりが出来ていて、アリスたちの姿を見かけるとワッと歓声が湧いた。
おめでとう!
繰り返し湧きあがる現実離れした声の祭り。
この世は今、ハレの舞台。
アリスはくらくらするのを感じた。霊夢という存在がどれほど幻想郷にとって重要であるのか、そしてどれほど愛されているのかを瞬時に身をもって体験した。わずかに羨ましいとは感じるものの、さすがにここまで干渉されるのはごめんこうむりたいとも思える。それでも霊夢であれば、そんな人々の関心からも『浮いている』のだろうけれど。
「とりあえず魔理沙たちは中で待っててもらえるかな」
門の中に入っても人妖の数は計り知れず、大きな家のなかが狭苦しく感じるほどだった。
霖之助はどうやら先にやるべきことがあるらしく、大広間の前の廊下で別れた。
アリスと魔理沙はさっさと大広間に向かう。そこでも何人かの見知った顔がおめでとうと声をかけてきた。アリスは愛想笑い、魔理沙は小さく「おう」とだけ答えた。
畳のうえには、お膳がいくつも並んで、既に鬼と人との呑み比べが始まっている。端のほうに空いている席があったので、そこにアリスたちは座った。
魔理沙はそわそわと辺りをうかがっており、落ち着きがない。
「いまさら帰りたくなったなんて言わないわよね」
「私はそんなに臆病じゃないぜ。ちゃんと祝うって決めたんだ」
「そう。ならいいんだけど」
「なんだよ。心配性だな」
「さっきまでずっとうじうじしてたくせに」
「いまも吹っ切れたわけじゃないんだぜ。ただ、しょうがないって思っただけだ。霊夢があいつと結婚して、それでいいっていうんなら……私はそれを許さなきゃならない。いや許すとか許さないとか私にそんなこと言う資格はもともとないんだがな……」
「そう、わかってるじゃない」
「最初から頭では理解してたよ。でも……ま、いいか。おまえにいっても仕方ないことだしな」
「感情をコントロールする能力を身につけないとダメよ。そうじゃないと本当の意味で魔法使いにはなれないわ」
「世話好きなやつめ」
「あら。おせっかいって言ってもいいのよ」
「おせっかいってのは、して欲しくないときに言うもんだぜ」
「あらそう」
と、そこで大広間のふすまが左右に開いた。
一同はアッと息をのみ、一瞬だけ会場内の音が消えうせる。
いつもの紅白の巫女ではなかった。そこには、白無垢で着飾った霊夢がいた。白い帯。白い足袋。白い打掛。それにもまして、白粉で彩られた少女の肌の白さ。
挙措にはいつもの霊夢らしい自然さはなく、見るものに愛おしさを抱かせる可憐な華のよう。
霊夢はただ会場の皆に視線を与える。そう、与えるといった表現が適切だ。その視線は巫女の慈愛といってもよく、人も人以外の存在も等しく心を打たれた。
シンと静まり返った場内で霊夢は口を開かない。
霊夢の後ろでは、霖之助と同じく礼服で着飾った中年の男性がなにやらぼそぼそと話しこんでいる。今後の段取りでも確認しているのだろうか。
それ以外は概ね沈黙。
まったき不自然なる情景である。
アリスは呼吸することも忘れて、霊夢から視線をはずせずにいた。
「らしくないなぁ……」
アリスはそこで始めて、隣にいた魔理沙に視線を移すことができた。
突如沈黙を引き裂いた魔理沙に、皆の注目が集まっている。
「霊夢。もしかしておまえ緊張してるだろ?」
魔理沙は笑った。
霊夢も笑った。
「しないほうがおかしいでしょ?」
いつもの霊夢だった。それで霊夢の神性は消し飛んだが、いつもの親しみやすい霊夢が戻ってきた。あとは皆が口々に祝いの言葉を並べたてた。
アリスも祝辞を述べて、すぐに黙りこんだ。
都会の魔法使いは、あまりでしゃばらないのだ。
ふとアリスが横を見てみると、魔理沙は少し涙ぐんでいるようだった。
泣いたらいい。
泣いていろんな想いを全部吐き出してしまえばいい。
大丈夫。
大丈夫。
ずっと霊夢は変わらないし、霊夢と魔理沙の関係もきっと変わらない。
変わらないものってきっとあるの。
アリスはあえて言葉を封じこめる。そうすることで、より強く想いは伝わるのではないかと思った。
魔法使いらしい、そんな暗示。
「帰るか」
喧騒のなか、魔理沙がおもむろに立ち上がった。
「え、結婚式も披露宴もまだよ?」
「いいんだよ。アリスも言ったろ。私が祝ったという建前が大事だって」
「そりゃそうだけど……」
「もういいんだ。そう思ったんだ」
すっきりとした声だった。
魔理沙はフワリと空に飛びあがり、それから両手でメガホンの形を作った。
式場を貫く一際大きな声!
「霊夢ぅーっ! 親父ぃーっ! 幸せになれよっ!」
非殺傷設定の痛くない星弾幕をばらまきながら、魔理沙は家をとびだしていく。
魔理沙なりの祝砲だ。
さきほどの霖之助と喋っていた中年男性が、照れながら魔理沙に向かって手を振った。
喧騒は続き、結婚式、披露宴、そして宴会と滞りなくおこなわれていく。途中で霖之助が二人の馴れ初めを語り始めたが心底どうでもいい。
「ミステリーだわ……」
つぶやいて、アリスはお膳のうえの酒を一気にあおった。
作者様、貴方狙ってましたね。
とにかくひっくり返りました。お見事!
だが(以下略
これを素直に祝うのは流石に無理があるwwwオチが上手すぎるwww
胸が熱くなるな
と思っていたら……。
いや、いい話なんですけどね。それ以上に見事などんでん返し。
そりゃあ、魔理沙の心中は複雑だろう。
何が言いたいかと言うと
コレハナイワマジテ
それでもこの発想の斜め上加減はまったく色褪せない。
いやはや、このミステリーは俺みたいな坊やにはとても解けそうにありませぬ。
オヤジ呪う
途中でおや?と思うところはあったのですが、全く気にしていませんでした
どんなトリック使ったんだ親父
なんにせよ霧雨の親父さんもげろ
これはひどwwうぃwwwwww
でもねーよwwwって思ったよ!
ねーよwwwwwwwww
霖之助が来た時点であれ?と思った。
これは親父呪うわ…
ねーよwwwwww
長い文章読んで、しかも中身が良かったのにオチで全てぶち壊してるので
時間を無駄にした気分になります。
親父すげー
オルガ夫人の息子はこんな気持ちだったんだろうか
新しい母親は自分の親友とか……、魔理沙はよく立ち直れたな。
「ミステリーだわ……」本当にこの一言に尽きる。
霧雨の親父さんよ、祝ってやる。
むしろ数日で吹っ切れた魔理沙を賞賛せざるをえない。。。
うわぁあああああああああああああああwww
最初、霖之助と結婚するばかりかと思ってましたw
あと、霧雨の親父さん、ネ兄 っ て や る
魔理沙の混乱も無理はねえよwwwwwww
これがどうもしっくりこなかったんだけども、俺だけかなぁ…
くよくよしてた魔理沙が中盤以降その悲哀を忘れたように饒舌になったのがオチを加味してもちょっと違和感。
しかし女の子をぷりんと例えたのはいい。白い肌も、少しの黒いカラメルがいつか茶色く染めてしまうかも、そんな雰囲気がひらがなでの表記も相まって伝わる。深読みしすぎかな?
アリスと魔理沙の会話にあまり共感できなかったので少し低めの点数で。
どんな難題なトリックも人の心にはかなうはずもないってか。
魔理沙とアリスが「おめでとう」と言われるのは不自然だなぁと思ってたけどそういうことか
ミステリーだ…
オチにはぽかんとくちをあけたあたいがまっている
なぜそうなった 笑