「ふわふわふわふわ綿毛の料理~♪、毛だらけもさもさ羽毛の布団~♪」
満月きらきら明るい夜道。
風も穏やか商売日和。
さてさて今日の舞台は満員御礼になるかしら?
暴れなさそうなお客を待っています♪
「御機嫌よう。やってるかしら?」
「あ、いらっしゃ~い♪」
最初のお客は白銀吸血鬼、お供も連れずにお忍び来店。そういえば、全然赤く無いのに紅い月って呼ばれてる。何でだろう?
「私が一番か・・・」
「そうみたい~」
「ふふ、悪くないわね」
何となくご満悦な感じのレミリアさん。一番というのがいいのかな?
「で、なににします~?」
「そうだな。まぁ適当に見繕って頂戴」
「は~い♪」
私が魚や山菜を油に入れていると別の足音が聞こえてきた。
「席は空いているかしら?」
「空いてるよ~、いらっしゃ~い♪」
「ん、お前は・・・」
「あら、こんなところで会うなんて奇遇ね」
次にきたのは紫色のサトリさん、紅魔館のパーティー以来。そういえば屋台に来たのは確か初めて?
「あら、奇遇だなんてしらじらしい。どうせその瞳で気付いていたんじゃないのかい?」
「いえいえ、この瞳を使うからこそこの瞳に映っていないものを覗くことなんてできませんわ。あなたこそ私がここに来ることを、その運命を見る瞳で気付いていたんじゃないかしら?」
「ふん、答えがわかっている奴に正解を教える必要は無いわ」
「ふふふ、さてお酒と揚げ物を適当にもらおうかしら。前に串揚げは食べたからそれ以外がいいわね」
「は~い♪」
サトリさんは微笑しながらレミリアさんの隣に座ってそんな注文をしてきた。私は早速コップにお酒を注ぐ。
「古明地」
「さとりでいいわよ。それじゃあ妹と混同してしまうわ・・・言われなくても私もレミリアと呼ばせてもらうわ」
「・・・なるほど、会話しにくいわけだ」
「ええ、自分が喋るより早くそれに対する返事が返って来るわけだから普通の人はとてもやりにくいでしょうね」
「それはサトリとしての性質か?」
「半分くらいは、ね。もう半分は私の性格。やめようと思えばやめられるし」
「・・・・・・なるほど、嫌われ者なわけだ」
「それがサトリですから」
サトリさんは微笑みながらゆっくりとコップに口をつけた。
嫌われ者って言われているのに、なんか嬉しそう?私にはよくわからないや。
「まぁ、ひねくれ者って言うことですよ」
そんなものなのかなぁ~?
「やっているかい?」
「邪魔するよ~」
「いらっしゃ~い♪」
次のお客は山に住んでいる神様二人。あれ、そういえば神様って数えるときは人であってたっけ?
「神は柱で数えるんですよ」
「あ、そうなんだ?」
「まあ私としてはあまり気にはしないけどね」
「神奈子は適当だねぇ」
「あんたに言われたくないわ」
「・・・どうでもいいけどとりあえず座ったら?」
レミリアさんが空いた椅子を指しながら言うと、神様二柱は頷いて椅子に座った。
っていうか、柱って言い辛いなぁ・・・。
「とにかく、酒となんか頼むわ」
「私も」
「はいは~い」
私はコップに注いだ酒を二柱・・・言い辛いから二人でいいや、に渡す。
あ、サトリさんが苦笑している。
「しかし世も末だな。軍神と祟り神がこんな屋台で飲みに来るなんてな」
「それだけ私達が馴染んでいるということさ。悪いことではないよ」
「神奈子はフランクが売りだものねぇ~」
「威厳っていうものを考えるとフランクすぎるのもどうかと思いますけど」
「そうだそうだ」
「・・・レミリアは別の意味で威厳が足りないですよ」
「なんだと!」
「姿言動が幼いもんねぇ~」
「・・・諏訪子、それをあんたが言うか?」
お客さん達がいろいろ言い合っている。喧嘩しないでくれると嬉しいなぁ。
「いいじゃな~い、私は別に威厳なんて求めて無いし~」
「だが、神社の信仰を考えるともう少しなんとかさぁ・・・」
「私がそういう風に過ごすよう仕向けたのは神奈子だよ?」
「いや、まぁ、そうなんだけどね」
「自分の言った事には責任を持ちなよ。神が己の言霊を軽んじる気かい?」
「むっ・・・」
「ふん、幼いとか言っていた相手にやり込められるなんてまだまだね」
「レミリア、それあなたが威張ることでは無いですよ」
「うるさい!というか、さとりだって地霊殿の主なのに十分幼い容姿だろう」
「私は別に威厳なんて求めていませんから」
そういってサトリさんは手にしたコップに口をつける。
ん~、なんかサトリさんがこの中で一番余裕あるみたい。力は一番弱そうなのにねぇ~?
「逆に力が弱いから常にはったりをかまさないといけないので、ポーカーフェイスは得意なんですよ」
そういうものなんだ?
「そういうものです」
「・・・なんか、傍から見ているといきなり独り言を言う危ない奴にしか見えないわね」
「あら、酷い」
「じゃあ心の声と会話しないでよ!」
「それではサトリらしくないじゃないですか」
「・・・あぁもうっ!!」
あ~吸血鬼さん、そんなにカッカしないでほしいなぁ。
「へぇ、あんたそのものが祟り神って言うわけじゃないのか」
「いや、私自身も祟り神の一種ではあるよ。ただ、あくまで私はミシャグジを束ねるものであってミシャグジそのものじゃないのよ」
「となると、ミシャグジっていうのは複数いるのか」
「ん~、まぁそんなものね」
「空は上手くやっています?」
「あそこの管理は諏訪子にまかせているから詳しくは無いけど、特に問題なくやっているみたいだよ」
「それならいいのですが・・・あの子の場合心を読んでも正確な情報が得られないことも多くて」
「あぁ、なるほどね」
「こんばんは。空いているかしら?」
「いらっしゃ~い、空いてるよ~♪」
次のお客は黒髪お姫様。一人で来るのは珍しい?
「へぇ、あなた一人が来るなんて珍しいわね」
「ふふふ、その言葉そっくりそのまま返すわ吸血鬼さん」
「あんたは確か竹林にいる」
「輝夜、蓬莱山輝夜よ。そちらは山の上の神二柱と地底の主だったかしら?宴会やパーティーで何度か顔は見たことあるのだけれども」
「八坂神奈子さ」
「洩矢諏訪子だよ」
「古明地さとりと申します」
「よろしくね。それにしてもさらに紅魔館の吸血鬼までいるなんて、小さな屋台の客にしては錚錚たる顔ぶれね」
確かに小さいけれどそれは余計な一言だよ~。
「さて、何か適当に見繕って頂戴な」
「はいは~い」
ん~、とりあえず魚の天ぷら盛り合わせにしようかな~?あ、そのまえにお酒をださないとね。
「あ、すぐに摘めるものも下さいな」
「は~い」
じゃあ一緒に漬物も。
「はい、一味と醤油です」
「あらありがとう。さすがサトリ、良くわかったわね」
「ん、漬物にさらになにかかけるのか?」
「まぁ好みでかける奴はいるな」
「そうだねぇ。私はそのままのほうが好きだけど」
「私も普段はかけないわ。でもお酒を飲むときは塩味が強いほうが合うからね」
「そんなものか」
「まぁ、あなたが思っているようなピクルスとちょっと違うんですよ」
「でも、漬物には変り無いでしょう。今度試してみようかしら」
「まぁ程々にな」
「そうそう、マヨラーみたいなのは周りも引くことがあるから」
「何マヨラーって?」
私も聞いたこと無いな~。ってあれ、サトリさんが変な顔している。
「・・・なんというか、すごい人達ですね」
「まぁ、行き過ぎた人はね」
「だから何よ、マヨラーって!?」
「ああ、何にでもマヨネーズをかける人達のことだよ」
「何にでも?」
「そう、ご飯にもふりかけのようにかけたりする人もいる」
「うげっ」
「うわっ」
うわ~、さすがにそれは・・・。
「それ、大丈夫なの?」
「なんか、身体悪くしそうね」
「まぁ、嗜好は人それぞれだから」
う~ん、いくら好きでもあんまり自分の料理の味は変えて欲しく無いなぁ。
「こんばんは~」
「失礼しますね」
「席は空いているかしら?」
「いらっしゃ~い」
次のお客は亡霊さんと、閻魔さん。そしてはじめてみる黒白、茶・・・紫?髪の女の人。何となく線香の匂いがするからお寺の人かな?
「うわっ、面倒そうなのが来た」
「面倒とはなんです」
「そのままの意味よ。説教好きの閻魔なんて面倒以外の何者でも無いわ」
「はぁ、全くあなたは少し自己中心的すぎます。もうすこし他者の言う事を聞いて・・・」
「閻魔様、抑えてください。ここには説教しに来たわけでは無いのですから」
「そうですよ~。お酒は楽しく呑まないと~」
「・・・確かに屋台では気分よく呑むのが善行ですね」
「はい。あ、でも座れるかしら?」
「あ、ちょっと待っててね~」
ちょっと後ろから予備のテーブルを出さないとね~。
「手伝いましょうか?」
「ん~ん、だいじょ~ぶ~♪」
お寺の人は優しい感じの人だね~。
「はい、お待たせ~」
「ありがとう~。料理は適当に頼むわ~」
「あ、でも肉や魚は抜いてくれませんか?」
「は~い♪」
じゃあ茸と山菜を揚げようかな~。
「そういえば古明地。最近地上との交流が活発になっているそうですが、何か問題などありますか?」
「いえ、特には。もう昔のようになることも無いかと」
「そう、それなら良いのですが」
「心配ですか?」
「ええ、このまま地上との交流を続けさせていいものなのかどうか・・・と。閻魔が迷うなどあってはならないことなのですけれど」
「それを決めるのは私達では無いと私は思っています」
「・・・そうかも知れませんね。ふふふ、閻魔が他人に説教されるなんてまだまだですね」
あれ、サトリさんと閻魔さんって知り合いなんだ?
「確か、あんたは最近出来た寺の」
「聖白蓮と申します。命蓮寺で住職をしております」
「レミリア・スカーレットだ」
「私は蓬莱山輝夜よ。かぐや姫のほうが有名かしら?」
「あら、あなたがあのかぐや姫なんですか?」
「ええ、まぁお話と違って月には帰らなかったけどね」
「そうなんですか?」
「まぁ、いろいろあってね」
「それにしてもなんか最近、新しい宗教が入り込みすぎじゃないか?」
「うむ、確かに」
「いや、私達のことも入っているからね?」
「まぁ教会が入らなければ何が入ってもいいんだけどね」
そういえば教会と吸血鬼って仲悪そうだものねぇ
「あら、やっぱり吸血鬼は教会が苦手なの?」
「いや、苦手というか面倒。あいつら私達を目の敵にしている上に倒しても倒してもゾンビのように湧き出てくるからさ」
「でも、十字架とかは苦手なのかしら~?」
「そんなことは無い。あいつらが勝手に悪魔は聖なるものに触れないとか思っているだけさ。フランとかあいつらが落としていった十字架を投げて弾幕にしているぞ?」
「吸血鬼から十字架を投げられたら、教会の人間もさぞ驚くだろうな」
「確かに面白いほどパニックになっていたなぁ」
「あ、やったんだ」
「妹さんがいらっしゃるので?」
「あ、うん。五歳下にフランドールっていうのがね」
「妹さんは大事にしてくださいね」
「え、ああ、うん。言われるまでも無い」
ん、なんか尼さんの表情がちょっと変わった?っと、丁度揚がったみたい。
「おまちど~♪」
「待ってたわ~」
「あら、美味しそうですね」
「ええ、ここの店主の腕は確かです。屋台で食べるのは初めてですが」
「ふふふ、閻魔様を引っ張ってくるのは大変だったわ~」
「・・・全く、西行寺あなたの唐突かつ強引なところはどうにかならないのですか」
「いいじゃないですか~」
「はぁ・・・、まぁ偶にはこういうのもいいでしょう」
「そうそう~」
「紅白饅頭お祝いお菓子~♪ 中身は真っ黒腹黒餡子~♪」
夜も更け、草木も眠る時間。それでも屋台と私は起きて営業中~。
「全く、咲夜は基本完璧なのはいいけど時たま変な行動を起こすのが困り物だわ」
「あら、でもあれだけ有能ならいいじゃない。うちのイナバはどうもどっか抜けていてねぇ。真面目は真面目なんだけど」
「ああわかるわかる。うちの早苗も真面目なんだがどうも暴走しやすいところがあってねぇ」
「もうちょっと肩の力を抜けばいいのにねぇ」
「まぁ、諏訪子ほど抜けても困るけど」
「なにおぅ」
「そういえば、最近外の裁判はどうなってますか~?」
「そうですね・・・地獄行きが増えている気がします」
「あらあら~」
「いまや外の世界では善行が善行でなくなってきているようですね。人々の価値観が変化複雑化して、手助けするつもりがおせっかいに取られたり、余計な事をしてしまうことになったりしてなかなか善行が積められないようです。心が清くても善行を積めずに極楽へ行けなかったりという人もいるようです。あと、自殺が増えているのもあるかと」
「なかなか住み難そうな世界になっているのね~」
「ええ、このままだと地獄が満杯になってしまうかもしれません。まぁまだ先の話ですが」
「あら怖い」
みんな結構呑んでるはずなのに、意外と皆大人しい。やっぱり上に立つ人っていうのはそういうものなのかな?
「ねぇ店主さん?」
「ん、何~?」
料理をしながら歌っていたら、尼さんが話しかけてきた。
「ここって妖怪専門の屋台なのかしら?」
「ん~ん、そんなこと無いよ~。人間も来るし~」
「そうなのですか?」
「うん~」
そんなに多く無いけど、常連さんもいるしね~。
「人と、妖怪同士で諍いとかは・・・?」
「ん~酔った勢いって言うのはちょこちょこあるけど、基本的には仲良く呑んでいるよ~」
「そう、なのですか・・・」
ん、なんか嬉しそう?
「あなたが心配するようなことはもうここではありませんよ」
「古明地さん」
「さとりでいいです。もうここでは昔のような争いは殆ど起きません。だからこそ私もこうして地上に出てこれるのですから」
「そうね、ここは全てを受け入れてくれる。こんな身体の私達でも・・・ね」
「蓬莱山さん」
「私も輝夜でいいわ、言いづらいでしょう?ここはどんな異能でも異端でも受け入れてくれる。人も妖怪もそれ以外も一緒くたに扱ってくれるわ」
「・・・」
「もちろんそれに弊害が無いとは言わないけど、それでもここは私のようなものにとってとても住みやすいところには違いないわ。だから何を心配しているか具体的にはわからないけど、それは多分杞憂というものよ」
「杞憂・・・」
「そうですよ。白蓮さん、あなたの理想の一部はここで既に叶えられているのですよ」
「・・・」
尼さんが黙りこくっちゃった。何か考え事かな?
「あの、店主さん」
「なに~?」
「よければですけど、この屋台での出来事とかいろいろ話してもらえませんか?」
「いいけど、なんで~?」
「きっと、そこに私の通るべき道の地図の欠片が落ちていると思うのです」
ん~良くわからないけど、なんかここは話さないといけない気がするなぁ。
「私はあんまり記憶力が良くないからそんなには話せないと思うよ?」
「それでもいいんです。話していただけますか?」
「わかった~。じゃあね~私が屋台を始めてから・・・」
真夜中に話される客の喧騒と夜雀の昔話。
夜明けまでにはまだ少し・・・。
のびのびみすちーを見ると幸せな気持ちなのです。
最後のほうに、聖さんの抱く幻想郷のイメージと現実のギャップという、大きめの題材が出てきているので
せっかくだからこの辺りを膨らませると、もっと深いSSになるかなと思いました。
いつも通りの安定したノリがいいですね
これからも頑張ってください~
>>ん、なんか尼さんの表情がちょっと「変った」?っと、丁度揚がったみたい。
「変わった」の誤字?
て思うわ! お嬢様
いいですよね屋台は女の子は行きにくいなあ・・。女の子専門の屋台でもあればいいんですけどねぇ。 超門番
やー、屋台ってとってもいい物ですねぇ、みんな思い思いに過ごせて。
外ツ國にはパブと呼ばれるものがこれに近いのかなぁ、と思ったり。
まぁ今はなんだか身近な所には無くなってしまいましたけど、ね
個人的には都市伝説もゲフンゲフン。
それでもなんとなくほっとするこの空気がたまりませんなぁ
前回から半年以上という期間がありながら未だに待っていてくださる方がいるということは非常に嬉しいことです。
これからもこのシリーズをよろしくお願いいたします。
また、他のシリーズも時間がかかると思いますが、待っていてくださると大変に嬉しいです。
作者さん、このシリーズ心の底から楽しみにしてます。