真夏の太陽がじりじりと照りつけていた。幻想郷の夏は暑い。おまけに、午後の太陽が頂点に達する時間帯である。ここ、博麗神社も暑さは変わらない。
「あぢー。まったく、なんでこんなに、暑いのよ」
縁側で暑さにやられ、ぐだっているのは、ここの巫女博麗霊夢である。この暑さでは、さすがにいつもの熱いお茶も飲まないらしい。水出しの茶葉の、冷たい緑茶が側に出ていた。
「こんな日は、かき氷でも食べたいわね」
霊夢は呟く。神社には、珍しく霊夢しか居なかった。今日は、いつも元気な魔法使いも、何しに来るのか分からない妖怪も神社に来ていない。この暑さで、誰も彼も家から出たくないのだろうか。もっとも、霊夢自身、この暑い中出かけたくはないのだが。
一人というのは気楽であるが、一方で退屈でもある。娯楽の少ない幻想郷ではなおさらだ。
「こんな時は、おいしい物でも食べて……」
食べて、どうしようか。境内の掃除は午前中にやった。段幕ごっこをしようにも相手が居ない。そこまで考えて、霊夢は考えるのを止めた。どうせ、黙っていても、宴会騒ぎになるのだ。来る者拒まず、去る者追わずの博麗神社は、何もしなくても、何か起こるだろう。そう思うと、退屈も悪くないと思えるのだった。
「れーむ、いるかー?」
悪くないと思ったとたんこれか……。霊夢はため息をつくと、起き上がって客を迎えた。
そこに居たのは、いつもの黒白の服を着た、霧雨魔理沙だった。
「何か用?」
霊夢は若干不機嫌そうに答えた。退屈な午後の時間を邪魔された恨みがこもった。
「用がないと来ちゃいけないのか?」
「お賽銭をいれるまではね」
「それじゃあ、お賽銭を入れにきてるみたいじゃないか」
「ここは神社よ。それがあたりまえでしょ」
「せっかく、いい物をもってきたんだがな。霊夢はいらないっていうんだな。しかたない、持って帰るぜ」
霊夢の勘にいいものが反応した。
「ストオオオップ、待ちなさい。帰れとはいってないわよ。お茶でも飲んできなさい」
霊夢は立ち上がると、お茶の用意をするため、台所へ行った。
数分後、お茶を持って霊夢が現れると、魔理沙は『いいもの』の話をした。
「実は、ここだけの話なんだがな。ある物の実験をやって欲しいんだ」
がっかりした。いいものなんて言うから、すばらしいものかと思いきや。魔理沙の怪しい実験の手伝いとは。
「お前、あからさまに嫌そうな顔すんなよ。別に、きのこを食えとか、薬を飲めとか、そういうんじゃないから」
おっと。これは意外である。人を使って怪しげな魔法薬の実験をするわけではないらしい。
「これを見てくれ」と言って魔理沙がポケットから取り出したのは、
「種?」
「そう、種だ。この種は魔法で改良した、すぐに実がなる種だ」
魔理沙が言うにはこれを神社の境内に植えて欲しいらしい。魔理沙が住む魔法の森は、湿気と日陰で、植物が育ちにくい環境である。頼みの綱は霊夢しかいない、らしい。
なんというか、体よく魔法の実験材料にされている気がする。でも、
「これ、何の種なの?」肝心な事を訊いてない。
「それは植えてからのお楽しみだぜ」
怪しい。しかし、霊夢の勘はそう悪いものでは無いと言っている、気がする。そうは言っても、魔理沙の実験である。不安だし、他にも何か企んでいるのではないだろうか、という疑いが消えない。でも、しかし、夏の暑さと食欲には勝てなかった。
「しょうがない、今回だけよ」
霊夢は結局協力することにした。何の種か気になるし。
「そうか、そうか。やってくれるか。それでこそ親友だぜ」
言って魔理沙はニヤッと笑った。全く調子のいい。こういうときだけ、
「知り合い以上他人未満の友人、略してしんゆうでしょ」
「一方的に信じてる友人で、しんゆうだぜ」
それは、寄り掛かっている、もしくは利用していると言うのだ。
☆
霊夢は種を植えるため外に出た。魔理沙は全て見届ける前に帰った。なんでも、実験で疲れて、早く寝たいらしい。その実験の結果は、神社の敷地の、参拝客の目の届かない所に植えた。もともと参拝客は来ないが、念には念を入れた。軽く地面を耕して、種をうえ、水を掛ける。ついでだから、と言って霊夢は境内にも水をまいた。こころなしか気温が下がった気がした。蝉の鳴き声も、さっきよりはうるさくないし、焼け付く太陽も少し加減しているようだ。まあ、日向にいると変わらず暑いのだが。霊夢は一息つくため、室内に戻ることにした。
次の日、霊夢は植えた種の様子を見るため、花壇(実際植わっているのは謎の種だけだが)にいった。種はすでに発芽後数十日といった大きさでつるを伸ばしていた。
「へえ、早いわね。さすが魔理沙といってもいいのかしら」
本人の前では言わないでおこう。調子に乗りそうだし。
「わたしがなんだって」
声と共に現れたのは魔理沙である。今まで乗っていた箒を肩に担いでいた。
「魔理沙にしては、人の役に立つかも、って言ったのよ。でも、すぐ実がなるって言った割にはすぐじゃ無いじゃない」
「まあ、そう慌てるな。果報は寝て待て。三年寝太郎は、三年寝てたから、偉くなったんだぜ」
「その台詞、どっかの死神とか、スキマ妖怪とかに聞かせたら、うなずきそうね」
「ま、水は忘れるなよ。枯らせたら元も子もないからな」
そう言って、魔理沙はまた、どこかへ行ってしまった。
次の日も、次の日もそんな感じだった。そうやって、いつの間にか一週間経っていた。ある日は、赤い館の吸血鬼とメイドが来た。謎の種の運命が見えたのか、ちゃんと育てなさいよと、門番直伝の肥料をくれた。さっそく、蒔いてみたが、効果は分からない。また、ある日は、花の妖怪も来た。植物を育てるには、愛情を込めて、声を掛けなさい、と言っていた。偶には人間も来た。しかし、魔理沙はあの日以来来ていない。霊夢がちゃんと育てていることに安心しているのか。はたまた、霊夢が種を育てている間に、種を使う別の実験の準備をしているのか。前者であってほしい。
ふと、思った。実は、もう霊夢の知らないうちに、「実」はなっていたのではないか。もう、霊夢が寝ている間に実は出来ていた。そして、魔理沙の魔法で、食べ頃になったら、自動で瞬間移動するようになっていて、魔理沙は全部独り占めしているのではないか。それが全部霊夢の知らないうちに行われたとしたら。と、そこまで考えてさすがにそれはないだろうと思った。いくら何でも、手間がかかりすぎる。しかし、霊夢がそう考えてしまうほどに、謎の種は大きく成長していた。実がならないほうがおかしいくらいに。
これだけ、成長するのが早いのだ。実がなったらなったで、食べ頃になるのも早いに違いない。食べ頃は見逃さないようにしよう。霊夢はかたく心にきめた。
そして、ついに実がなった。朝には、何もなかったのだが、夕方、水をあげようとしたとき、サッカーボールぐらいの実がなっていたのを、見つけた。その実は、黒と緑の中間の色をしていて、完全なる球ではなく、楕円形だった。ぱっと見、かぼちゃのような色だ。「これは……?」霊夢は謎の実の前で首をかしげた。見たこともない実である。すると。「うぃーす。霊夢、実はなったか?」
箒にのって、風と共に来たのは、魔理沙である。霊夢と会うのは一週間ぶりである。
「なったは、なったけど……。なんなのよ。これ」
と言って、実を指し示す。食べられるのだろうか。
「おお、いい具合にでっかくなってるじゃないか。食べ頃だぜ。と言うわけで、切るぞ」
よっこらしょっと、と親父くさい言葉を呟きながら、魔理沙は謎の実を台所に運んだ。冷やした方がうまい、と言って、流水で冷やしてから切ることになった。いよいよ、正体が判明する。
「文字通り、種明かしだな」
堅い皮に阻まれ、なかなか包丁が入らなかった。何回か突き立て、ザクッと二つに切る。中から、赤ん坊は出てこなかったが、真っ赤な果肉と、黒い種が現れた。
「じゃじゃーん。正解は西瓜だぜ。ってなんだその薄い反応は」
「だって、冷やして食べるって事で何となく分かったわよ」
こうして、謎の種の正体は判明した。いまいち盛り上がらずに。
☆
「この暑さで妖怪も人間も、やる気とか気力とか、みんな無くしちゃってたからな。霊夢だってそうだったろ。ここのところ宴会もなかったし。だから、私は宴会のきっかけを作っただけだぜ」
そう言った魔理沙の手には酒。あの大きさの西瓜はさすがに二人では食べ切れない、ということになり、知り合いを呼び集めたところ、最終的には宴会になった。
「つまるところ、退屈だったんだよ。人が――っても、妖怪もいるけど、集まるには理由が居るだろ。スイカパーティだよ。これは」
「別に、西瓜じゃなくてもいいでしょうに。ってか、自分で育てなさいよ」
「それはだな、わたしにもやることがあったんだよ」魔理沙は言いながら、立てた指を曲げていく「夏の三大行事だろ、西瓜と宴会と……」
宴会はいつもやってるじゃない。と、霊夢は突っ込むが、魔理沙はスルーした。
「そして、花火だぜ」
魔理沙は立ち上がって境内に飛び出すと、全員の顔が見える位置へ行った。ぺこり、とお辞儀をすると、道化師が自分の演目を紹介する時のように、話し始めた。
「さてさて、どちらさんもよってらっしゃい、見てらっしゃい。本邦初公開。魔理沙さんの打ち上げ花火。夏の夜空を飾るのは弾幕花火で決まりだぜ」
言い終わるタイミングで魔理沙はパチンと指を鳴らした。すると、ひゅ~、どーんとどこからともなく花火が打ち上がった。
誰ともなく、歓声が上がり、宴会も盛り上がる。そうやって見ている者も、だんだんと自分も見せようと、空中に段幕を打ち上げる。いつの間にやら、段幕花火大会になっていた。
「あんたがやってた実験って、これ?」
霊夢は縁側に座って花火を見ていた。隣には一通り花火を打ち上げ終わった魔理沙も居る。
「ああ。西瓜だけじゃなあ。それで宴会にならずに終わりになっちゃうかもしれないだろ。ま、その心配はいらなかったようだが」
「それなら、最初からこんな面倒なことしないで、宴会を開けばいいでしょ」
「この暑さで、誰も彼も家から出たくないだろう? 食欲は偉大だな。それに夏だぜ。今しか出来ないんだ。花火も西瓜も」
それにさ、と魔理沙は続ける、
「最近、みんな暑さでへばって何もしない奴ばっかりで、退屈だったんだよ。宴会も開かれないし。まあ、まとめるとだな」そこでこほん、と咳払いした。
「夏も悪くないだろ?」
霊夢は夏の夜空に浮かぶ花火を見た。水水しい西瓜を思い浮かべた。そうすると、ただ暑いだけだった夏も、少しだけ悪くない気がした。
「あぢー。まったく、なんでこんなに、暑いのよ」
縁側で暑さにやられ、ぐだっているのは、ここの巫女博麗霊夢である。この暑さでは、さすがにいつもの熱いお茶も飲まないらしい。水出しの茶葉の、冷たい緑茶が側に出ていた。
「こんな日は、かき氷でも食べたいわね」
霊夢は呟く。神社には、珍しく霊夢しか居なかった。今日は、いつも元気な魔法使いも、何しに来るのか分からない妖怪も神社に来ていない。この暑さで、誰も彼も家から出たくないのだろうか。もっとも、霊夢自身、この暑い中出かけたくはないのだが。
一人というのは気楽であるが、一方で退屈でもある。娯楽の少ない幻想郷ではなおさらだ。
「こんな時は、おいしい物でも食べて……」
食べて、どうしようか。境内の掃除は午前中にやった。段幕ごっこをしようにも相手が居ない。そこまで考えて、霊夢は考えるのを止めた。どうせ、黙っていても、宴会騒ぎになるのだ。来る者拒まず、去る者追わずの博麗神社は、何もしなくても、何か起こるだろう。そう思うと、退屈も悪くないと思えるのだった。
「れーむ、いるかー?」
悪くないと思ったとたんこれか……。霊夢はため息をつくと、起き上がって客を迎えた。
そこに居たのは、いつもの黒白の服を着た、霧雨魔理沙だった。
「何か用?」
霊夢は若干不機嫌そうに答えた。退屈な午後の時間を邪魔された恨みがこもった。
「用がないと来ちゃいけないのか?」
「お賽銭をいれるまではね」
「それじゃあ、お賽銭を入れにきてるみたいじゃないか」
「ここは神社よ。それがあたりまえでしょ」
「せっかく、いい物をもってきたんだがな。霊夢はいらないっていうんだな。しかたない、持って帰るぜ」
霊夢の勘にいいものが反応した。
「ストオオオップ、待ちなさい。帰れとはいってないわよ。お茶でも飲んできなさい」
霊夢は立ち上がると、お茶の用意をするため、台所へ行った。
数分後、お茶を持って霊夢が現れると、魔理沙は『いいもの』の話をした。
「実は、ここだけの話なんだがな。ある物の実験をやって欲しいんだ」
がっかりした。いいものなんて言うから、すばらしいものかと思いきや。魔理沙の怪しい実験の手伝いとは。
「お前、あからさまに嫌そうな顔すんなよ。別に、きのこを食えとか、薬を飲めとか、そういうんじゃないから」
おっと。これは意外である。人を使って怪しげな魔法薬の実験をするわけではないらしい。
「これを見てくれ」と言って魔理沙がポケットから取り出したのは、
「種?」
「そう、種だ。この種は魔法で改良した、すぐに実がなる種だ」
魔理沙が言うにはこれを神社の境内に植えて欲しいらしい。魔理沙が住む魔法の森は、湿気と日陰で、植物が育ちにくい環境である。頼みの綱は霊夢しかいない、らしい。
なんというか、体よく魔法の実験材料にされている気がする。でも、
「これ、何の種なの?」肝心な事を訊いてない。
「それは植えてからのお楽しみだぜ」
怪しい。しかし、霊夢の勘はそう悪いものでは無いと言っている、気がする。そうは言っても、魔理沙の実験である。不安だし、他にも何か企んでいるのではないだろうか、という疑いが消えない。でも、しかし、夏の暑さと食欲には勝てなかった。
「しょうがない、今回だけよ」
霊夢は結局協力することにした。何の種か気になるし。
「そうか、そうか。やってくれるか。それでこそ親友だぜ」
言って魔理沙はニヤッと笑った。全く調子のいい。こういうときだけ、
「知り合い以上他人未満の友人、略してしんゆうでしょ」
「一方的に信じてる友人で、しんゆうだぜ」
それは、寄り掛かっている、もしくは利用していると言うのだ。
☆
霊夢は種を植えるため外に出た。魔理沙は全て見届ける前に帰った。なんでも、実験で疲れて、早く寝たいらしい。その実験の結果は、神社の敷地の、参拝客の目の届かない所に植えた。もともと参拝客は来ないが、念には念を入れた。軽く地面を耕して、種をうえ、水を掛ける。ついでだから、と言って霊夢は境内にも水をまいた。こころなしか気温が下がった気がした。蝉の鳴き声も、さっきよりはうるさくないし、焼け付く太陽も少し加減しているようだ。まあ、日向にいると変わらず暑いのだが。霊夢は一息つくため、室内に戻ることにした。
次の日、霊夢は植えた種の様子を見るため、花壇(実際植わっているのは謎の種だけだが)にいった。種はすでに発芽後数十日といった大きさでつるを伸ばしていた。
「へえ、早いわね。さすが魔理沙といってもいいのかしら」
本人の前では言わないでおこう。調子に乗りそうだし。
「わたしがなんだって」
声と共に現れたのは魔理沙である。今まで乗っていた箒を肩に担いでいた。
「魔理沙にしては、人の役に立つかも、って言ったのよ。でも、すぐ実がなるって言った割にはすぐじゃ無いじゃない」
「まあ、そう慌てるな。果報は寝て待て。三年寝太郎は、三年寝てたから、偉くなったんだぜ」
「その台詞、どっかの死神とか、スキマ妖怪とかに聞かせたら、うなずきそうね」
「ま、水は忘れるなよ。枯らせたら元も子もないからな」
そう言って、魔理沙はまた、どこかへ行ってしまった。
次の日も、次の日もそんな感じだった。そうやって、いつの間にか一週間経っていた。ある日は、赤い館の吸血鬼とメイドが来た。謎の種の運命が見えたのか、ちゃんと育てなさいよと、門番直伝の肥料をくれた。さっそく、蒔いてみたが、効果は分からない。また、ある日は、花の妖怪も来た。植物を育てるには、愛情を込めて、声を掛けなさい、と言っていた。偶には人間も来た。しかし、魔理沙はあの日以来来ていない。霊夢がちゃんと育てていることに安心しているのか。はたまた、霊夢が種を育てている間に、種を使う別の実験の準備をしているのか。前者であってほしい。
ふと、思った。実は、もう霊夢の知らないうちに、「実」はなっていたのではないか。もう、霊夢が寝ている間に実は出来ていた。そして、魔理沙の魔法で、食べ頃になったら、自動で瞬間移動するようになっていて、魔理沙は全部独り占めしているのではないか。それが全部霊夢の知らないうちに行われたとしたら。と、そこまで考えてさすがにそれはないだろうと思った。いくら何でも、手間がかかりすぎる。しかし、霊夢がそう考えてしまうほどに、謎の種は大きく成長していた。実がならないほうがおかしいくらいに。
これだけ、成長するのが早いのだ。実がなったらなったで、食べ頃になるのも早いに違いない。食べ頃は見逃さないようにしよう。霊夢はかたく心にきめた。
そして、ついに実がなった。朝には、何もなかったのだが、夕方、水をあげようとしたとき、サッカーボールぐらいの実がなっていたのを、見つけた。その実は、黒と緑の中間の色をしていて、完全なる球ではなく、楕円形だった。ぱっと見、かぼちゃのような色だ。「これは……?」霊夢は謎の実の前で首をかしげた。見たこともない実である。すると。「うぃーす。霊夢、実はなったか?」
箒にのって、風と共に来たのは、魔理沙である。霊夢と会うのは一週間ぶりである。
「なったは、なったけど……。なんなのよ。これ」
と言って、実を指し示す。食べられるのだろうか。
「おお、いい具合にでっかくなってるじゃないか。食べ頃だぜ。と言うわけで、切るぞ」
よっこらしょっと、と親父くさい言葉を呟きながら、魔理沙は謎の実を台所に運んだ。冷やした方がうまい、と言って、流水で冷やしてから切ることになった。いよいよ、正体が判明する。
「文字通り、種明かしだな」
堅い皮に阻まれ、なかなか包丁が入らなかった。何回か突き立て、ザクッと二つに切る。中から、赤ん坊は出てこなかったが、真っ赤な果肉と、黒い種が現れた。
「じゃじゃーん。正解は西瓜だぜ。ってなんだその薄い反応は」
「だって、冷やして食べるって事で何となく分かったわよ」
こうして、謎の種の正体は判明した。いまいち盛り上がらずに。
☆
「この暑さで妖怪も人間も、やる気とか気力とか、みんな無くしちゃってたからな。霊夢だってそうだったろ。ここのところ宴会もなかったし。だから、私は宴会のきっかけを作っただけだぜ」
そう言った魔理沙の手には酒。あの大きさの西瓜はさすがに二人では食べ切れない、ということになり、知り合いを呼び集めたところ、最終的には宴会になった。
「つまるところ、退屈だったんだよ。人が――っても、妖怪もいるけど、集まるには理由が居るだろ。スイカパーティだよ。これは」
「別に、西瓜じゃなくてもいいでしょうに。ってか、自分で育てなさいよ」
「それはだな、わたしにもやることがあったんだよ」魔理沙は言いながら、立てた指を曲げていく「夏の三大行事だろ、西瓜と宴会と……」
宴会はいつもやってるじゃない。と、霊夢は突っ込むが、魔理沙はスルーした。
「そして、花火だぜ」
魔理沙は立ち上がって境内に飛び出すと、全員の顔が見える位置へ行った。ぺこり、とお辞儀をすると、道化師が自分の演目を紹介する時のように、話し始めた。
「さてさて、どちらさんもよってらっしゃい、見てらっしゃい。本邦初公開。魔理沙さんの打ち上げ花火。夏の夜空を飾るのは弾幕花火で決まりだぜ」
言い終わるタイミングで魔理沙はパチンと指を鳴らした。すると、ひゅ~、どーんとどこからともなく花火が打ち上がった。
誰ともなく、歓声が上がり、宴会も盛り上がる。そうやって見ている者も、だんだんと自分も見せようと、空中に段幕を打ち上げる。いつの間にやら、段幕花火大会になっていた。
「あんたがやってた実験って、これ?」
霊夢は縁側に座って花火を見ていた。隣には一通り花火を打ち上げ終わった魔理沙も居る。
「ああ。西瓜だけじゃなあ。それで宴会にならずに終わりになっちゃうかもしれないだろ。ま、その心配はいらなかったようだが」
「それなら、最初からこんな面倒なことしないで、宴会を開けばいいでしょ」
「この暑さで、誰も彼も家から出たくないだろう? 食欲は偉大だな。それに夏だぜ。今しか出来ないんだ。花火も西瓜も」
それにさ、と魔理沙は続ける、
「最近、みんな暑さでへばって何もしない奴ばっかりで、退屈だったんだよ。宴会も開かれないし。まあ、まとめるとだな」そこでこほん、と咳払いした。
「夏も悪くないだろ?」
霊夢は夏の夜空に浮かぶ花火を見た。水水しい西瓜を思い浮かべた。そうすると、ただ暑いだけだった夏も、少しだけ悪くない気がした。
こういう話を読んでいると、確かに暑い夏も悪くないですね。
でも、もう秋でもいいかな……。
でもやっぱり虫が湧くからやだなあ、夏は。
やっぱ秋がベストでしょう。
テレビが特番ばかりで詰まらんのが玉に傷ですが。