Coolier - 新生・東方創想話

魔理沙の午後

2010/09/09 12:56:22
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 いつもどおり目を覚ましたら、いつもどおりの場所で目を覚まさなかった。そこは私の愛用しているベッドではなく、それより小さめな、簡素なベッドだった。
「あら起きたの? もう目を開けないものだと思ってたのに」
声のしたほうに首を回すと、パチュリーの姿を見つけた。手元の本に目を落としたままの無愛想な顔をしている。
「失礼だな、私はまだまだ死ぬつもりはないよ」
そう言ってゆっくりと体を起こそうとした時、ベッドの上で寝ていることに気づいた。あれ、昨日はどうしてたんだっけ?
「あなたが本を読み漁ってる途中で寝てしまったから小悪魔に運ばせたのよ。私の部屋までね」
 なるほど。つまり今寝てるのがパチュリーのベッドなのか。意外と簡素なんだな。前はもっとファンシーな感じじゃなかったか?
「さあ、どうだったかしら?」
「ところでその小悪魔はどこいったんだ? 礼くらいは言っておきたいんだが」
 きょろきょろとあたりを見回すが、周りにはパチュリー以外の姿は見当たらない。ふと、本棚の中に読んだことの無い物を見つけた。今度もらっていこう。
「小悪魔なら図書館で本の整理でもしてるんじゃないかしら」
 曰く、私をここまで運び込んだ後『私は空気の読める女です。どうぞごゆっくり』と言って退室していったらしい。いったい何の空気を読んだのかさっぱり分からん。
「さあ、私にもさっぱり分からないから。まあ、小悪魔には私から言っておくわ」
「ああ、よろしく頼む」
 起きたばかりだからか、ちょっと体がふらつく。そんな私の様子をパチュリーは静かに見つめていた。なんだ、私に惚れたのか?
「そういえば、小悪魔があなたを運んでるときにこんなことをいってたわ」
「ん? なんだ?」
「人間って意外と軽いんですね、って」
「あー、最近ちゃんと食べてないからかなあ」
「せめて水分だけはしっかり取らないとだめよ? 死ぬから」
 まったく縁起でもない話だな。洒落になってないぜ。

 その後ベッドから起き上がった私はしばらく図書館で本を読み漁っていた。途中本を探しているときに小悪魔を見かけたので声をかけたら、ちょっとびっくりした顔で、
「体の方はもういいんですか?」
 なんて言ってきた。大丈夫だ、迷惑かけて悪かったなと答えると、
「そうですか。で、昨日はどうだったんですか? ベッドインですか? ベッドインですよね。そうに決まってますよね。それで、出来ることなら感想のほどをお聞きしたいのですが。パチュリー様のベッドの香りとかパチュリー様の柔らかそうな肌の感触とかパチュリー様の……」
 うふふ、と小悪魔が夢見る少女の顔になったので逃げ出してきた。ああなった小悪魔は誰にも止められない。
「あれがなければいい子なんだけどねぇ」
 とはパチュリーの言葉である。私もその通りだと思う。

 
「帰るの?」
「いや、その前にちょっとアリスんとこ行ってくる」
「そう」
 靴を履いて、箒を持つ。帽子をかぶる。ついでに近くにあった本を一冊手に取る。
「じゃあ行って、」
「ちょっとまて」
 思いっきり肩を掴まれた。痛い。指、指が食い込んでるって。どこにそんな力あるんだよ。病弱で非力なんじゃなかったか。
「大丈夫、死ぬまで借りてくだけだ」
「……どうせ何言っても持っていくんでしょう?」
「もちろん」
 パチュリーはしばらく顔を見つめたあと、大きな溜息を一つついた。その溜息は諦めの色が濃かったけれど、どこか喜色も混じっている気がした。
「まあいいわ、持って行きなさい」
 そう言って私の肩から手を離すと、元居た位置に戻って読書に戻った。
「なんだか嬉しそうだな」
「そう? まああなたは死んだってその性格直りそうにないわね、って思っただけよ」
 パチュリーは嬉しそうにクスクスと笑う。なんだなんだ、気味が悪いな。なんか悪いものでも食べたのか。
「そりゃそうだ、私は死ぬまで私だ」
「ええ、そうね。あなたはそういう人だものね」
「じゃあまたな、パチュリー」
「さようなら、魔理沙」
 そうして私は図書館を出た。

 紅魔館の廊下を正門に向かって歩いていると、夜行性のはずの吸血鬼を発見した。なんだ、もしかして私は丸一日寝過ごしたのか。
「そうじゃないから安心しなさい。今日はたまたまこの時間まで起きてただけよ」
 そう言ってこの館の主、吸血鬼レミリア・スカーレットは私の目の前までやってきた。よく見たら目の下にくまができてる。
「寝ない子は育たないぞ?」
「出会って早々だけど殴っていいかしら?」
 額に青筋を浮かべてコキコキと指を鳴らす。いくら子供でもさすがに吸血鬼に殴られたら結構痛い。素直に謝っとこう。
「これでもあなたよりもずっと年上なんだけどね」
 永遠に変わることのない幼い吸血鬼は眠そうに瞼を擦りながら大きなあくびを一つ。やっぱり子供だよな、これは。
「で、今日は泊まり?」
「いや、もう帰るところだ」
 ふーん、とレミリアは私を頭から足までじろじろと眺めてきた。なんだ、その物珍しいものを見るような目は。
「帰らない方がいいと思うけどね」
「なんでだ?」
「いや、分かってるならいいんだ。それ以上は野暮ってものだから」
 じゃあね、とそのまま廊下の向こう側へ消えていった。なんなんだろうな、まったく。
 

 外に出ると太陽が天頂から傾きだしており、少なくとも昼時をまわっているのがよく分かった。雲ひとつない晴天だ。
 程無くして魔法の森に到着した私は、アリスの家まで向かう。
「ようアリス、遊びに来たぜ」
「あら、いらっしゃい魔理沙」
 ずかずかとアリスの家の中に入り込む。テーブルには二人分のティーカップとクッキーが用意されていた。
「なんだ、ずいぶんと用意がいいじゃないか」
「別にあなたのために用意してたわけじゃないんだけどね」
 ツンデレのテンプレート的なことを言いながらもアリスは二人分の紅茶を淹れて私にくれる。
「誰か来る予定でもあったのか?」
 私以外にアリスのところへ来るやつがいたなんて結構びっくりだ。こんな陰気なやつの相手をしたがるとは奇特な人物なんだな。
「ずいぶんと失礼な考えをしてるみたいだけどその通りよ。奇特な人物が来るはずだったのよ」
 おかわりいる? というアリスの問いにコップを差し出して答える。ありがとうと礼を言いながら受け取るとアリスが私の膝に置いてある本を見て言った。
「あら、その本どうしたの?」
「これか? ここに来る前にパチュリーから借りてきたんだが……どうかしたか?」
「別に。ただあなたが読む本にしては珍しい種類だと思ったから」
 そう言われて本のタイトルを確認する。なるほど、そうかもしれない。だからといって認めるのも癪だから、答えは否定的なものになる。
「そうか? 私だって乙女なんだぜ」
「おもしろい冗談ね」
 アリスはそう言って本当にクスクスと笑い出した。失礼なやつだ。

 アリスとは特に何を話すでもなく、ただゆっくりとした時間が流れていく。時折聞こえるカタカタという音はアリスが人形を縫うときに使うミシンの音だ。
「しかしお前はいつもそうだな。人形を弄ってる」
「そうかしら? あなたも二百年くらい生きてみれば分かるわよ」
「残念だな、人間は二百年も生きられない」
「でもあなたには方法があるでしょう?」
 ミシンを動かす手を止めて、こちらをじっと見つめるアリス。私は私で、どう答えたものかと考えるふりをして視線をそらす。
「魔法使いなら誰だって知ってるはずよ。成長を止め食事を断ち永久に生きる術を」
 考えるふり。そう、ふりだ。何故なら考えるまでも無く答えは初めから決まっているのだから。
「アリス、それは私には出来ないんだよ。もしその方法を使ってしまったら私は私でなくなる」
「なぜ? たとえ人間でなくなったとしてもあなたはあなたのまま、何も変わりはしない。そうでしょう?」
 帰ってくるアリスの言葉も決まっている。当然か。今まで何回も何回もしてきた遣り取りだ。だから私も決まりきった返事で返す。
「それは違うぜ、アリス。いくら私と同じ姿形をしていても、私と同じ知識を持っていたとしても、私が人間で無くなったらそれはもう別の何かだ」
 あちらも予想通りの答えだったのだろう。満足したように微笑んだ。
「そう。そうよね」
 一瞬、ほんの少しだけ悲しそうな顔をしたけど、またすぐに笑顔に戻る。
「あなたはそういう人間だものね。今も昔も」


 結局会話らしい会話をしたのはさっきの遣り取りだけで、それ以降は互いに黙々と作業をしていた。 もっとも、それを苦痛だと感じたことは一度も無い。私もアリスもそういうやつだ。
 借りた本も一通り読み終わったところで時計をのぞくと、すでに結構な時間になっていることに気がついた。
「さて、そろそろ帰るぜ」
 すっくと立ち上がり、ソファーに置いておいた帽子を手に取り被る。
「もう?」
 送っていこうか、そう言ってアリスはちらりと時計を見る。この時間は森の中が特に暗いことを心配しているらしい。
「そう心配しなくても大丈夫だよ。家はすぐ近くにあるし、並みの妖怪には負けない自信もある」
「また来る?」
「ああ、また来るさ」
 玄関のドアに手をかける。
「じゃあな、アリス」
「またね、魔理沙」
 ドアが閉まる直前、アリスが小さく「嘘つき」と呟いた気がした。

 アリスの家を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。もともと光の入らない森だが、それでも夜になると一層暗くなる。
 そのまま帰ってもよかったんだが、なんとなく空が見たくなった。私は箒にまたがって、そのまま上昇する。
 空は雲ひとつなく、一面に星が散りばめられていた。月は煌々と輝き、幻想郷を照らしている。
 星に向かって手を伸ばした。当たり前のように手は届かなかった。でも。
「それでも月には行けたんだ。あの星に手が届く日だって必ず来る」
 そのまましばらく、私は星を眺めていた。

 家に帰ると客がいた。
「おや、お帰り。ずいぶんと遅かったね」
「なんだ、来てたのか」
 靴を脱いで玄関のドアを閉める。
「真面目だからね」
「サボリ魔がよく言うぜ」
 帽子を脱いで壁にかける。
「あたいだってこれでも頑張ってるんだけどなぁ」
「で、私はもう寝たいんだが」
 上着を脱いで洗濯籠に放り込む。
「そうかい。それはそれで別に構わないさ」
「その前に風呂だな。汗で体がべっとべとだぜ」
「外に行って待ってようか?」
「いやいい。どうせすぐに済むから中で待っててくれ」
 風呂場へ行ってざっとお湯を浴びて体を洗う。
「なんだ、まだいたのか」
「ふふん、あたいは真面目だからね」
 わしゃわしゃと髪を拭いてパジャマを着る。
「そうか。私はもう寝るぜ」
「もうちょっと反応してくれてもいいんじゃないかい?」
「霊夢はどういう反応してたんだ?」
「ものすごく淡白にただ『そう、ご苦労様』って」
「あいつらしいな」
 ごろりとベッドの上に寝転がった。
「いや、本当のところを言うと今日はもう疲れててな。もうゆっくり寝かせてくれ」
「まあいいさ。明日ゆっくりと話を聞かせてくれればそれで」
「ああ、ゆっくりと聞かせてやるさ。私の輝かしい少女時代から何から色々とな」
「そいつは楽しみだね」
「じゃあ私は寝るからな」
「そう。お休み」
「ああ、お休み」
 私は明かりを消して、布団の中に潜り込んだ。
魔理沙は好きです。でもレミリアとフランがもっと好きです。
初書き、初投稿でございます。せっかくの文字媒体なんだから文字でないと出来ないことをしようとしたらやりきれない感が。
呼んでくださった方の心の片隅に少しでも残ってくれればいいかなと思います。

最後まで読んでくださった方に最大限の感謝を。
幾崎換気扇
[email protected]
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コメント



0.330点簡易評価
2.80点不動遊星 削除
 美しい作品でした。ありがとうございます。
 霧雨魔理沙にとってアイデンティティとは、何であった(ある)のか。きたれる時で、彼女はなお、「魔理沙らしさ」を保っていられたのですね。魔理沙・霊夢両人の反応が、それぞれにそれぞれらしく、ほのかに涙をもよおしました。最期に、彼女はあの星になれたのでしょうか、それだけが心残りではあります。
 とまれ、深いおはなしですね。おつかれさまでした。そして一言、「お休み」。では。
3.90点名前が無い程度の能力 削除
こういう雰囲気も結構好きです。
魔理沙の話し相手のセリフから漂ってくる違和感。
状況を認識しながらも、最後の一時まで普段の彼女であることを貫いた魔理沙。
いやはや、良かったです。
作者さんの、文章を大切にしている感じが伝わってきました。
5.70点名前が無い程度の能力 削除
あっさり風味。
でも目新しい要素がないのでこの点で
次作もお待ちしております
11.80点コチドリ 削除
最後の最後でちょっと心に引っかかりが。
こまっちゃんらしき人物との遣り取りで、上手いキャスティングだなぁ、と感じる前に
船頭死神が友人相手とはいえここまで出張って来るかなぁと考えてしまった。
まあ、魔理沙が彼岸に片足を突っ込んでいたと思えば良いんだろうけど、料簡が狭いぜ、俺。

この作品が初書き、初投稿の作者様。まさに伸び代は無限大だ。
どんな二次設定だろうとこちらをねじ伏せてくれるパワーがあれば問題なし。期待しています。
最後に魔理沙、良い夢見ろよ!!
12.70点山の賢者 削除
そうか、死んでたから皆妙なセリフばかりだったのか。
13.90点名前が無い程度の能力 削除
こんなに小町が怖いSSも久々だ
14.60点名前が無い程度の能力 削除
地の文が状況描写オンリーなのがちょっと気になりましたが面白かったです。
魔理沙自身は気づいていなかったのがまた怖い。
15.90点名前が無い程度の能力 削除
最後の1日まで普通を貫ける彼女は強いなと思いました
小町がいい味出してます
16.80点名前が無い程度の能力 削除
>「さようなら、魔理沙」
>「またね、魔理沙」

この辺の違いが、魔女としての年季の差の表れだったりするんでしょうか。
そして家の扉を開けたら死神がいた、そのときの魔理沙の心情やいかに。
とかなんとか勝手な妄想をしてしまいますね。面白かったです。
18.100点名前が無い程度の能力 削除
過不足無くいい雰囲気でした。この後か、明日かに、魔理沙は旅立つのですね。
最後に借りた本が何だったのかちょっと気になった。乙女っぽい本…どんなだろ。
次作は書かれないのでしょうか? 淡く期待してみたりして
20.100点名無しな程度の能力 削除
あぁ、やっぱり…
魔理沙もわかってたのかな…