Coolier - 新生・東方創想話

茂平の舟

2010/09/02 22:33:56
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 その男、茂平(もへい)といった。元々は紅魔湖で漁業を生業としていた漁師である。茂平は漁師としての腕は一人前であったが、組合や網元との関係には上手く馴染めずにいた。その為、今では漁を辞め、漁業の合間に続けていた渡し舟の仕事を、自らの天職としていた。湖の岸を行ったり来たり。儲けは少ないが、所詮は独り身である。自由気まま、のんびりと舟を浮かべる茂平は、自身の生活に満足していた。


 夏の午後である。茂平は、自身が駆る舟の上で白河夜船、ぐっすりと眠り込んでいた。天は青。時折温い風が岸に向かって吹きつけ、浅瀬を見れば、水鳥たちが水浴びをして涼んでいる。清々しい夏の湖である。女は、桟橋からその光景を眺めていた。
 若い女だった。遠目に見ても美しいと呼べるその女は、長く蒼い髪を風に遊ばせながら、舟の主、茂平の元に、真っ直ぐ歩いてゆく。近付く足音に、茂平は些かも気付く気配を見せない。そして、鼻で舟を漕ぐ茂平の額に、すとんと、白い女の手が落ちた。
「おい茂平。起きているか。それとも土左衛門になっているのか」
 ぞんざいな言い分である。声に驚いた茂平は、跳ねるように飛び起きると、瞼をはたはたと叩き、声の主、その女の姿を確認した
「相変わらずのんびりやっているな茂平。少し前なら、あっという間に妖怪に食われていたぞ」
 今度は物騒な話である。しかし茂平は、ご無沙汰してております慧音先生、とだけ返し、己のするべき事を理解した。全長5メートル弱といった小さな舟の後方、ご自慢の改造エンジンを起動させた茂平は、悠々と舟を発進させた。
「――ああ、暑い。暑いな茂平。こんなに照り返しがキツいとは思わなかった。夏場の舟も楽じゃないな」
 走り出した舟の上で、慧音は恨めしそうに呟いた。見れば、力なく舟の淵に寄りかかり、目は閉じたまま吐く息は荒かった。顔もどこか熱っぽく見える。しかし、慧音の独り言ともとれるその言葉に、茂平はただ苦笑いで返した。額に汗を浮かべる慧音とは対照的に、茂平は幾分慣れている様子で、あまり堪えていない様にも見える。そんな茂平を見た慧音は、ますます眉根の皺を深くしていったが、しばらくの後、ふと何か思い出したような顔になった。
「そうだ。今、町の方でちょっとした騒ぎが起きているんだ。どうせ噂話には疎いんだろう。話ついでに聞いていけ」
 またもぞんざいな言い分である。しかし、茂平が何か言う前に、慧音は既に話を始めていた。察すれば、この話がしたくて、茂平の舟を選んだようにも見える。慧音は揚揚と、時々愚痴も織り交ぜながら、町で起きた怪異を語った。慧音の居る町を、一夜にして大騒ぎにした事件。その内容は以下の通りだ。
 その町に、ある金持ちの屋敷があった。木造二階建て、敷地面積は300坪ほどもある。家よりも庭を広く取った造りで、この郷では豪邸と呼べる上品な屋敷だった。家の主は末吉。家は立派だが、しかし末吉の屋敷には一つ特徴があった。何故か傾斜の厳しい丘の上に建てられているのだ。すぐ側を川が流れる小山の上、そこが末吉の豪邸であった。今回問題となるのは、その屋敷の庭である。
 庭には小さな池があった。その豪邸が擁するにはやや手狭な池だったが、よく手入れされ、中には大きな鯉も泳いでいた。銀に黒の斑模様。末吉も大層気に入っていたそうだ。事件はこの池で発生する。早朝、末吉が池の様子を見に行くと、なんと池の水が全部干上がっていた。前日までは確かにあったのだから、事件は昨晩の内である。一晩で池の水が消えた。この怪異が大騒ぎを起こしているのだ。
「……妖怪の仕業じゃないか、とも言われている。真相は分からんが、とにかく末吉の落ち込みようが酷い。蔵に籠ったきり出て来ないそうだ」
 それは何とも穏やかではない。茂平は大いに心配の顔をしていたが、不意にあることに気付いた。池であるなら排水設備くらい設けてあるだろう。誰かが水を抜いたのではないか。気になった茂平は慧音に尋ねてみた。
「それは私もすぐに思ったよ。聞けば、近くの川に繋がる排水管が地中を通っていたそうだ。だがな、その排水バルブには鍵が掛かっていた。この辺は、ロクでもないことを仕出かす妖精も多いだろう。そういう奴らに悪戯されない様に、バルブは厳重に鍵が掛かっていた。だが鍵は今もそのままで、少しも壊れていなかった。そんな器用な真似、妖精にはとても出来ない」
 成程。鍵を外してまた掛ける。妖精なら、そんな面倒な事はしないだろう。あれは悪戯がしたいのであって、嘘が吐きたい訳ではない。犯人は妖精ではない。しかし、ならば人間の可能性は無いだろうか。
「そうであった方が私も楽なんだがな。だが、事態はもっと悪い方向に進んでいる。後になって末吉の話を聞けば、その晩、岩を砕く音と、何かを引きずるような、転がす様な、妙な音が聞こえていたそうだ。それは地の底から響く魔物の呻きにも似ていた。そんな音が暫く続き、末吉も気になっていたそうだが、怖くてとても見に行ける様な状態じゃ無かった。そうして朝になって見てみれば、池の水が綺麗さっぱり無くなっていた」
 ふむ。それがが怪異の全容か。不思議なこともあったものだ。茂平は話を聞いて、その程度の感想を持つだけだった。呑気と言えば呑気だが、あまりに無頓着過ぎる。それに気付いた慧音は、無駄と思いつつも一応忠告を入れる。
「……大鬼が来て全部飲んだんじゃないかという話も出てる。何にしろ妙な事になっているのは確かだ。お前も気を付けろよ。何があるか分からん。この湖の女神様は気まぐれだ。自慢の舟でも、駄目になる時は駄目なんだ」
 慧音は、殊更きつい口調をするでも無く淡々と言った。対する茂平は、そうですねとだけ答える。あまり気にしていない風に見える。危機感も何もない態度に、慧音はやれやれとこの話を終わらせた。
「……暑いな、茂平。まだ着かないか」
 もう見えてきましたよ、茂平はそう言って舟の舵を切った。大らかな笑みを浮かべている。その視線の先には、よく整備された港と、大小様々な倉があった。さらに山の上に視線を持っていくと、紅い、巨大な屋敷がある。吸血鬼の住む館、紅魔館である。
 舟は進む。掛かる水を高く上げ、茂平の舟はただ進む。暑い、夏の湖の上を、難なく渡航していく。飛沫を上げる船首から、けたたましく唸るエンジンまで。茂平の舟は万事快調だった。




「へぇ。そんな事があったんですか」
 透き通る、鈴の音の様な声だった。良い声である。茂平は、今度は背の高い女の客を乗せていた。客の名は紅美鈴。吸血鬼が住む屋敷で働く門兵だと言った。茂平は彼女を乗せるのは初めてだった。
「私も、今日買い物の帰り道にそのお屋敷の近くを通ったんですよ。何か様子が変だな―とは思ってたんですよね。制服の人が何人もいて。しかも、それに見とれてたら、持ってた荷物落っことしちゃったんですよ。もう、ころころころ〜って。あそこの坂って急じゃないですか。危うく川の中にドボンする所でしたよ」
 美鈴は一方的に話し立てる。表情豊かで、彼女が微笑むと紅い髪もゆらゆら揺れた。茂平は先程から一言も挟めずにいる。ただ、よく喋る人だなと思っていた。
「うーん、犯人は妖怪ですか。確かに妖怪なら、一晩で池の水を飲んじゃう人もいるかも知れませんね。でも、嫌だなあ。そんな事件があったら、妖怪に対する偏見がまた広がるんじゃないですか。せっかく今は共生の時代だっていうのに。あ・そういう私も妖怪なんですよ。そうは見え無いってよく言われるんですけどね。今日も買い物したお店の人にそんなこと言われちゃいまして。でも、でもですよ? よーく考えてみれば、今の妖怪は殆ど人の形してるじゃないですか。簡単に区別が出来る方が珍しいですよ。だからお店のおじさんには『その考え方はもう古い!』って言い返してやりましたよ。とにかくそうなんです。偏見は駄目です。そんな考え方してたら……いや、話が逸れましたね。池の話です」
 茂平は前方の雲を眺めていた。目的地の斜め前方に大きな雲がある。あれは入道雲だ。だが、風向きは逆だから雨が降ることは無いだろう。
「でも、もし妖怪だって言うなら、一人だけ心当たりがありますよ。その人は小っさいくせに、大きくなったり、もやもやしたり出来る変な人なんです。鬼の人なんですけどね。しかも大酒呑みで。だから、酔っぱらって池の水をごっくんとやったのかもしれません。何たって鬼ですからね。信用してはいけません。鬼にロクな人は居ないんです。きっと池の鯉ごと、ごっくんごっくん……、あれ。鯉居たんでしたっけ? ああ、居たんですね。だから、池に居た可哀想な鯉ごと、一気に飲み込んじゃったに違いありません。極悪非道ですね。鯉には何の罪もないのに。信じられません」
 そういえば鬼には会ったことが無いな、と茂平は思っていた。何にしても酷い言われようである。茂平は、雲の先に怒れる鬼の姿を見た気がした。
「そうそう鯉といえば。実はですねー、聞いて下さいよ。ウチの港の荷捌き場の隅に、小さな浜があるんですけどね。私、今朝そこを見周りしていたんですが、何と、浜に鯉が打ち上がっているのを見つけたんです。鯉ですよ、鯉。紅魔湖の鯉は泥臭さがあまり無くて美味しいんですよ。……いやいや。そりゃあ、私も初めは怪しいと思いましたよ。でも私を見くびってもらっちゃ困ります。“気”を見て、それが正常かどうか分かるんですよ。鯉は正常過ぎるくらい正常でした。打ち上がったばかりなのか、新鮮そのものだったんですよ」
 美鈴は上機嫌である。そこにあるのは食への熱いこだわりか。茂平は昼に食べたおにぎりの梅を思い出していた。
「ふふん。だから今日は咲夜さんに褒められたんですよ。『でかした美鈴! 偶には役に立つじゃない』って。だから私それが嬉しくて。居ても立っても居られなくて、今日は鯉料理に合いそうな食材を、こうして町まで買いに来ていたんですよ。私ったら、また咲夜さんに褒められちゃいますよー」
 大した熱の入りようである。しかし、そこまで聞いて茂平はあることに気付く。今、門には誰が居るのだろう。自分が門兵だと言っていた。代わりが居るのだろうか。茂平は、美鈴に職へのこだわりはどうか尋ねてみた。
「……へ?」
 上手く伝わらなかった様である。茂平は、今一度、ゆっくり、一字一句丁寧に尋ねてみた。
「……」
 門兵は固まった。口をぽかんと空け、白痴の様にも見える。茂平は何も言わず、エンジンの出力を調整した。
「……大急ぎでお願い出来ますか」
 言わずもがな。舟は徐々に速度を上げてゆき、真っ直ぐ紅魔館に向かっていった。




「ふうん。それで慧音の奴は急いでいたのか。紅魔館に行ったんだろ。ありゃあ、パチェを疑ってるな」
 茂平の舟は波をかき分け走る。今度も珍しい客を乗せていた。黒のとんがり帽子を被った、魔女の霧雨魔理沙といった。捌けた性格なのか、少女然とした外観にそぐわない、ボーイッシュな口調である。足はあぐらをかき、組んだ両腕は頭の下に敷いていた。彼女は、聞いた訳でもないのに、滔々と己が推理を語る。
「紅魔館にはな、パチュリーっていうロクでもない魔女が居るんだよ。よく面倒事を起こしてる。部屋に籠って本ばっかり読んでいるから、リアルとフィクションの違いが時に曖昧になるんだ。何だか訳分かんない化け物を召還して、そのまま野に放ったに違いないね。信じらんねーことするぜ、まったく」
 いやはや横暴な推理である。それに残念ながら、慧音は吸血鬼の方に話があると言っていた。何でも、夏祭りの時の収益を巡って商会と町役場とが揉めているらしい。そんな説明をすると、彼女は途端につまらなそうになる。どちらかというと面倒を期待していた顔だった。茂平は黙って舟を進める。
「そうか。まあ、どうでもいいんだけどな。私に損さえ無きゃ何したって構わないさ。それより聞いてくれよ。つまんねー事になったんだよ」
 そして彼女は、自分の脇にある箒に目配せして、大いに溜息を吐いた。苦い顔である。すると、やはり聞いても居ないのに、今度は自分の愚痴を語り始めた。聞くに、自分の相棒たる箒と喧嘩して、空を飛べなくなったらしい。
「いやー、参ったぜ。うんともすんとも言ってくれないんだもんな。今日までに本返せってパチェの奴がうるさいんだよ。さもなくば悪魔大隊を派兵してお前の家を包囲するぞって言ってる。それは冗談でも、焼き討ちくらい仕掛けてきたかもな。早く行かないとローストにされちまうぜ」
 またも物騒な話である。何時の間に世は戦国の時代になったのか。ただ、彼女の冗談めいた笑みから、単なる皮肉であることが容易に窺えた。言外に、箒が使えればこんな舟には乗らないのに、という本音が見え隠れしなくもない。しかし、そんな皮肉に、茂平は分かっているのかいないのか、曖昧な相槌を打つのみだった。茂平は喧嘩の理由を聞いてみた。
「そりゃあ夏だろ。暑いだろ。で、じゃあ涼しくならないかと思って、氷で何か作ろうと思ったんだ。河原の、何とかって言う橋の下だ。氷は水から出来る。私は、川の水をたっぷり使って氷製のベッドを作った。初めは良かったんだぜ? 冷んやりして涼しいし。夢心地の気分だった。……まあ、本当に夢だったんだけどな。氷の上でうっかり寝ちまったんだよ。そんで、目を覚まして気付けば、湖の上にぷかぷか漂流してたって訳さ」
 茂平は、その光景を想像してみる。湖にぽつりと浮かぶ薄氷の上で、右往左往と魔女が走る。茂平は、その想像を考えなかった事にした。
「氷だし、そろそろ融け始めてたのかもな。とにかくバランス崩して、私は氷ごと川に流された。氷って重くても浮くんだよな。当たり前だけど。今更ながらにそんなことに気付かされたよ。で、しょうがないから泳いで帰って。でも、橋の下まで戻ったら私の箒がどこにも無いのに気付いたんだ。……そりゃあ、箒の機嫌も悪くなるよな。氷詰めのまま島流しにされてんだから」 
 そこでようやく話が箒に繋がった。話を遠回しで語るのは、彼女の癖なのかもしれない。それにしても、自分のご主人様に氷漬けにされた挙句、ぷかぷかと湖に放られた箒とは……。茂平は、その箒の柄をそっと撫でてやった。
「ったく。とんだ災難……、いやいや拗ねるなよ。パチェんとこ着いたら綺麗にブラッシングしてやるからさ」
 今度は彼女の手が箒の中腹を撫でた。一瞬震えた様な気がする。茂平は慌てて柄から手を放した。
「まあ、そんな訳だから事件のことは知らなかったな。大方、美鈴の線であってると思うぜ。あの鬼は単純馬鹿の酒狂いだからな。よくあることさ。気にすんな。それより、おっさんもこいつの機嫌直す方法を考えてくれよ。相棒が飛んでくれないと、私、すっげー格好悪いぜ?」
 そうして、それから暫くの間、茂平と魔女は、慣れない箒の説得に興じるのだった。




 そして、茂平の舟は快調に湖面を滑る。今度の行先は迷いの竹林その沿岸。茂平は、今度も珍しい客を乗せていた。
「わーっ。私、舟に乗るのなんて初めてですっ」
 小さな子供である。可愛らしい幼女が二人。これで人間であれば、茂平は人攫いに見えるに違いない。しかし彼女らは、それぞれ背中に妙な羽を負っており、それが人では無い事を示していた。二人は、この湖を縄張りとしている妖精である。その妖精の頭、大妖精は、しばらく舟の風を満喫した後、友人の氷精チルノをちらりと振り返って言った。
「チルノちゃん、まだ良くならない?」
「ううう。アタイったら衰弱ね……」
「どうしちゃったのかなぁ。やっぱり夜のあれかなぁ。体温もこんなに低く……いつも低かった気がするけど、とにかくこんなに低くなっちゃってるし」
 大妖精はチルノの手を握る。氷精は氷を操る妖精だ。気がするでなく、常に体温が低い。逆に言えば、どのくらい下がったら危険なのか分かりにくいという事でもある。茂平は、どんな事情があったのかを聞いてみた。
「チルノちゃん。昨日の夜、暑くて寝苦しいからって、池の中で寝ちゃったんですよ。しばらくは涼しくて良かったみたいなんですけど、私が心配になって見に行くと、池が凍ってチルノちゃんが埋まってたんです。だから私、頑張って氷を割って、チルノちゃんを救出したんですよ。妖精仲間にも手伝ってもらって。それで、ようやくチルノちゃんを発掘したんですけど、チルノちゃんすっごくグッタリしていて……」
「ううう。アタイったら窮境ね……」
 見れば、氷の妖精チルノは、力なく舟の淵に寄りかかっていた。目は閉じたままで、吐く息は荒い。顔はどこか熱っぽくも見える。……何よりチルノが難しい言葉を使っている。大いに窮境(きゅうきょう)であるのは間違いない。
「だから、竹の向こうにあるっていう永遠亭で、チルノちゃんを治療して貰おうと思ったんです。病気? っていうのかな。よく分かんないけど、そんなのかなって思って。けど、私、行き方が分かんないし。なるべく急ぎでお願いしたいんですけど……」
 大妖精は、友の危機にさぞ心配の色をしている。茂平は、彼女の大きな瞳にゆっくり頷いて応えると、自分の舟をさらに早く走らせた。舟は進む。風は横に流れていく。この辺りの水は渦を巻いて、紅魔館方面へと流れている。流れを慎重に読みながら舟を走らせる。
 茂平はある事に気付いた。
「え? 鯉ですか? さあ、居たかなぁ。必死だったから覚えてないですけど。チルノちゃん覚えてる?」
「錦鯉がいたね。銀に斑の黒。観賞用だよ。市に持っていけば高く売れたかも知れない」
「……あ、あれぇ? もしかして治さなくていいのかも」
「うわーん、頭が痛いよう」
「……」
 その時、茂平と大妖精とは、恐らく同じ気持ちだったのだろう。チルノの処遇をどうするか、本気で悩んでいた。すると、チルノはすかさず抗議を入れる。大妖精がからかうと、余計ムキになって反論する。茂平は思った。これだけ元気があるのなら大丈夫だろう。そんな大事には為っていない筈だ。案外、岸に着く頃には全快しているかもしれない。
 ……茂平は、全て理解した。事件は茂平の頭の中で完結した。しかし、だから何だと言うのだ。空には青があり、白い雲があり、空の青が落ちたこの湖で、茂平は客を乗せて舟を走らせる。いつもの景色だ。どこまでも素朴で平和な日常だ。後ろで、客二人の笑い声が聞こえた。
 掛かる水を高く上げ、茂平の舟はただ進む。暑い、夏の湖の上を、難なく渡航していく。飛沫を上げる船主から、けたたましく唸るエンジンまで。茂平の舟は、本日も万事快調であった。

読了、お疲れ様でした。
暑いですね。残暑うざーっ、と思いつつも既に九月。
みすゞ
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コメント



0.400簡易評価
7.100山の賢者削除
この古臭い文体がすごくいい。
SSというよりは真っ当な小説らしさが気に入りました。
チルノは鰓呼吸ができるのかw
あと、強いて言うなら慧音の口調に違和感がありますかね。それくらいです。
こういうオリキャラものも、もっと流行ってもよさそうなもんですけど。
9.90url削除
いいっすね~
特にオリキャラの台詞がないというのが斬新でよかったです。

ただ地の文と台詞との間に一行、行間が欲しかったです。
段違いに見やすくなりますよ~。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
誤字報告です
>その時、茂吉と大妖精とは、
×茂吉 ○茂平 だと思います
14.無評価山の賢者削除
>>12
>>何かスカスカな気がしません?
自分もそれで悩んでいるんですよねえ。改行し過ぎるとスカスカに見えるし、かといってびっしり書くと、ここの人らはあまり小説の類を読まないらしく、見づらいといわれます。
この作品に関しては文体や雰囲気の都合でこのままでいいと思います。

余談ですが、こういった文体は「MS Pゴシック」より「MS ゴシック」のほうが見やすく、それっぽくなるのでフォント変更してみてはいかがか。
15.60名前が無い程度の能力削除
内容は中々面白かったです。

ただ、既に仰られている方がいらっしゃいますように、少々読みにくかったです。
ネット上の小説というのは、紙媒体の小説とはまた別のものです。
縦書き、横書き、の違いに加えて、PCのディスプレイは本よりも遥かに大きい。
このディスプレイを全て使うような、ひたすら横に長い文章というのは非常に読みにくい。

紙媒体の小説のように、紙代の予算を考えなければならないということは無いので、
改行を多くした方がよくなると思われます。
自分の好みの作品を参考にして、改行をされると良いでしょう。