ごろーん ごろーん
霧の湖と呼ばれる湖の底。不自然なほど透明度の高い氷の球が転がっている。
霧の湖は普段、周辺といわず湖上といわずどこか一箇所だけひんやりとした空気が漂っているものだが、それが妖精の仕業であると人里まで広く知れ渡ったのは、近頃稗田阿求によって編纂された幻想郷縁起によるところが大きいだろう。
この夏の暑いさなか、危険な妖怪が多いと先生に止められているにもかかわらず、涼と少しばかりのスリルを求めてやってきた、妖精とタメを張る程度のいたずら好きである寺子屋の子供たちが、有名な氷精チルノを見つけていじめてやろうと考えたのを、だからチルノは阿求のせいにして良いし、恨んでも良いかもしれない。
石蛙『水切り銃列隊』
突然のスペルカード宣言は、いつか見た巫女や妖怪少女たちの弾幕ごっこへの揶揄であろうか、憧れであろうか。戦いの前に名乗りをあげるなんて戦国時代でもあるまいし、という反面、その名乗りに何やら熱いものを感じてる子供たちも少なくなかったのだろう。
タイミングも速度も大きさもまるでばらばらに撃ち出される並列nWay弾の出来損ないの石つぶては、非常に運の悪いことに、避けようとしたチルノの額に順番に、結果全弾命中してしまった。
「狙ったか、グリグリ頭~、よりによって湖上(ホームグラウンド)で~……」
ランク1(自称最強)、チルノ、あえなく水没。
むすっとした顔で、チルノが沈む。
別に沈む必要はないのだが、今の自分には水底が似合いだ、とぼんやり考えるまま、しばしたゆたう。力を使うまでもなくひんやりとした環境が気持ちいい。
もっとひんやりさせてみようと氷を作ってみたところで不意にチルノの身体が引っ張り上げられる。
氷を手から離すと氷だけが昇っていく。チルノはよくベッドにしていた氷のことを思い出した。
「氷って、水に浮くんだっけ……」
冷気と氷を操るチルノは、湖底を見つめて、思う。
「たまには潜る氷も面白そうね……最強のあたいなら、やってできないことはないさね!」
自然から生まれた妖精の、ある意味冒涜ともいえる冒険心に火が点いた。
先ほど子供たちに撃墜された恨みは、目の前の浮力という強敵への対抗心にあっさり取って代わられたのだ。あんなちょっと息を吹きかけただけで逃げ惑うお子ちゃまどもなんて、このあたいの自由を全力で邪魔しにかかる湖に比べたら、と。
妖精は自然現象のいたずらであり、いたずらな自然現象が形を持ったものである。よって、そのいたずらで生まれた現象である妖精が自身をどの位置に移動させようと、どのような形で存在を表現しようと、そこには常識の介入する余地はない。チルノがここまで考えたかどうかは不明だが、彼女は不敵な笑みを浮かべて暗い水底を見据える。
「あたいがどこにいようと勝手よね」
――そう、勝手なのだ。
「氷そのものになって」
――チルノが氷の塊を纏って、
「湖の底を泳ぎ回っても」
――湖の底を転がり回っても。
悲しいかな妖精に毛が生えた程度の想像力。氷が浮かばないことを念じながら冷気を繰ると、出来たのはシンプルに大きな透明の氷の球。浮力を押さえつけるイメージに精一杯で、座標はぐんぐんと下へ下へ。
魚たちが落ちてきた氷塊をつつきに来ては、あまりの場違いな冷気に驚き逃げていく。透明度の高さから、うっかり衝突してわけもわからず目を白黒させる魚もいる。
やがて、ごつりと湖底を叩き、当初の予定とはやや違ったものの、チルノは「勝った」と一人目を輝かせて笑みを浮かべる。
こういったわけで、チルノは現在、霧の湖の底を転がっているのだ。
日の光は遥か上、波の綾にステンドグラス様に区切られてきらきらと揺らめく。ごろん、と氷球が転がり万華鏡のように風景が回る。湖底探検だけなら氷球は必要ないが、せっかく作った勝利の証を見せびらかしたい気持ちが、湖底の蹂躙という形に表れた。
転がるのは愉快。湖底の坂はさらに深くへ伸び、チルノはひたすらに転がって行く。メダカの群れとすれ違う。マスとすれ違う。美味しそう。オオサンショウウオとすれ違う。お前の目玉はどこにある。ウーパールーパーがぽかんとした顔でこちらを見ていた。アホ面ってあんな顔のことなのかな、と失礼な感想を抱く。アホロートルはそういう意味じゃない。うっかりザリガニを轢いて、泥にめり込ませる。うっかり亀を轢いたら甲羅の中に入って猛スピードでどこかへ滑っていった。100点。
日の光はどんどん遠く、弱く、小さくなっていく。周囲の水の色も深く、濃く、暗くなり、はるか上より手を伸ばす日の光を受け取った氷球が、薄ぼんやりと明りを散らす。
大きなヒレを五つも腹にこさえておきながらどうにも泳ぎの不恰好なシーラカンスが、ごつんと氷にあごをぶつけてふらふら泳ぎ去って行く。
なぜか[P]が落ちていたので轢いてみる。[F]も落ちていた。「むっふっふ、最強の最強で無敵ね」とみなぎる力に打ち震え、さらに深くを目指す。しかし、もはや日の光も弱弱しく、心細さが頭をもたげて好奇心とせめぎあい、チルノの心に境界を作り出す。
今のチルノを氷球ごと飲み込んでしまえそうな大きな頭のサンショウウオ。お腹にしか甲羅のない亀。つららのようにまっすぐな貝殻のイカ。次第に水底を這い回る虫のような生き物が増えるが、それらが海の生き物であることをチルノは知らない。どれもこれも見たことのない、聴いたこともない生き物の数々。心細さはふとした隙に正体不明の恐ろしさへと変わって、自分が氷球にかけていた力の解き方すら忘れさせる。
独り言のひとつすら声に出せずに、どうにもその場から動けなくなってしまったチルノを不意に、黒い大きな影が襲い――。
「うおわあああああっ!?」
乱暴に氷球ごと跳ね上げられたチルノが視界の端に見たのは、大きな大きな亀ともトカゲともつかない生き物。
一気に明るくなったところで力の使い方を思い出し、慌てて湖上に逃げ出す。キョロキョロと辺りを見回して、見知った者がいないかと興奮したまま飛び回り、湖畔に立つ紅い館に辿り着くと、門番、紅美鈴が目を丸くした。
「あら珍しい、湖の寒気じゃない」
「みっみずうみ!底の方にね、でっかいとかげが!亀かも、すごいでっかいの!首が長くて!」
「はーい、落ち着いて深呼吸ー」
必死な顔でまくしたてるチルノの頭を、美鈴はぽんぽんとたたきながらツボを押してみる。チルノは息を切らしながらも落ち着きを取り戻して、言われるままに深呼吸を始めた。ツボ押しはどうやら妖精にも効果を顕したようだった。
「湖の底に、あれ?……そうよネッシー!あれはネッシーね!」
「ネ、ネッシー?」
「ネッシー!あれを氷付けにすればあたいの最強っぷりをしらしめらめられるっ!」
「おーい……」
あっけにとられた美鈴はぽかんとアホロートルのような顔でチルノを見送る。チルノは勝手に盛り上がって、うおおと雄たけびを上げて飛んでいってしまった。
とりあえず暑さにでもやられたのかと納得するにしても置いてきぼりのままでは気持ちが悪い。今日もパチュリーの夏季限定水中図書館にお邪魔することにした。
「ネッシーなんてうちの湖にいましたっけ」
水で満たされつつも扉では縦に水面が張り、館の住人は泡で包まれ声は泡から泡へ伝わる。大掛かりな魔法であるが、その魔法を行使し、維持しているはずのパチュリーはむしろ快適に過ごしているようだ。水中ではほこりも胞子も舞いようがないからだろうか。
「完全に幻想になったということね。外では潜水艦のおもちゃということになっているらしいわ。ということはおそらく、
湖に本物のネッシーが流れ着いたんじゃないかしら。人間たちの想いを受けて生まれた、さしづめ妖怪ネッシーと
いったところね」
そびえる本棚をスクリーンにして、湖に暮らす生き物の姿が映し出されている。この水没図書館に、まだ夜よ、と朝方から酒を飲んでいた境界操作の達人に乱入されたところ、教師という仕事柄、早起きであるが為に絡まれ付き合わされていた歴史マニアとともに、酒の肴として提案されたものである。
それでもパチュリーはまんざらでもないといった様子で、つい先日からそのまま湖底の様子を映し続けている。
「ネッシーはともかくとして、この中に幻想はどれくらいいるのかしらね。」
三葉虫にウミユリ、ウミサソリ……。紫の絡み酒につき合わされ覚悟を決めた慧音が、湖底の断層からにじみ出る微かな歴史に気付く。そこからはあれよあれよという間に非常に幻想的な(胡散臭いとも言う)手段で持って、湖底に遥か古代の海を模したアクアリウムをこしらえてしまったのだ。寺子屋は本日臨時休業である。
海老の頭を持つ魚、バタフライのようにヒレを波打たせて泳ぐもの、トゲで歩くもの、三次元的にねじくれた殻を持つオウムガイ、生物史上のオーパーツ、またはミッシング・リンクたち。あくまで想像図による復元であるため、本物として存在し続けることはできないだろう。主犯二人の酔いが覚めて、消えたり死んだりしたら本物に近かった証拠だろう。残ったら幻想として生きるのかもしれない。
ふと、別の本棚に目をやると、そこには氷塊をまとって湖底に仁王立ちするチルノの姿があった。
「沈む、氷?……妖精ね、よく作ったものだわ」
「チルノですね、先ほどネッシーを凍らせに行くとか息巻いてました」
「氷をまとって沈むだけでも精一杯に見えるわね。せめて素潜りにすればいいのに」
「あ、かち上げられた」
霧の湖と呼ばれる湖の底。不自然なほど透明度の高い氷の球が転がっている。
霧の湖は普段、周辺といわず湖上といわずどこか一箇所だけひんやりとした空気が漂っているものだが、それが妖精の仕業であると人里まで広く知れ渡ったのは、近頃稗田阿求によって編纂された幻想郷縁起によるところが大きいだろう。
この夏の暑いさなか、危険な妖怪が多いと先生に止められているにもかかわらず、涼と少しばかりのスリルを求めてやってきた、妖精とタメを張る程度のいたずら好きである寺子屋の子供たちが、有名な氷精チルノを見つけていじめてやろうと考えたのを、だからチルノは阿求のせいにして良いし、恨んでも良いかもしれない。
石蛙『水切り銃列隊』
突然のスペルカード宣言は、いつか見た巫女や妖怪少女たちの弾幕ごっこへの揶揄であろうか、憧れであろうか。戦いの前に名乗りをあげるなんて戦国時代でもあるまいし、という反面、その名乗りに何やら熱いものを感じてる子供たちも少なくなかったのだろう。
タイミングも速度も大きさもまるでばらばらに撃ち出される並列nWay弾の出来損ないの石つぶては、非常に運の悪いことに、避けようとしたチルノの額に順番に、結果全弾命中してしまった。
「狙ったか、グリグリ頭~、よりによって湖上(ホームグラウンド)で~……」
ランク1(自称最強)、チルノ、あえなく水没。
むすっとした顔で、チルノが沈む。
別に沈む必要はないのだが、今の自分には水底が似合いだ、とぼんやり考えるまま、しばしたゆたう。力を使うまでもなくひんやりとした環境が気持ちいい。
もっとひんやりさせてみようと氷を作ってみたところで不意にチルノの身体が引っ張り上げられる。
氷を手から離すと氷だけが昇っていく。チルノはよくベッドにしていた氷のことを思い出した。
「氷って、水に浮くんだっけ……」
冷気と氷を操るチルノは、湖底を見つめて、思う。
「たまには潜る氷も面白そうね……最強のあたいなら、やってできないことはないさね!」
自然から生まれた妖精の、ある意味冒涜ともいえる冒険心に火が点いた。
先ほど子供たちに撃墜された恨みは、目の前の浮力という強敵への対抗心にあっさり取って代わられたのだ。あんなちょっと息を吹きかけただけで逃げ惑うお子ちゃまどもなんて、このあたいの自由を全力で邪魔しにかかる湖に比べたら、と。
妖精は自然現象のいたずらであり、いたずらな自然現象が形を持ったものである。よって、そのいたずらで生まれた現象である妖精が自身をどの位置に移動させようと、どのような形で存在を表現しようと、そこには常識の介入する余地はない。チルノがここまで考えたかどうかは不明だが、彼女は不敵な笑みを浮かべて暗い水底を見据える。
「あたいがどこにいようと勝手よね」
――そう、勝手なのだ。
「氷そのものになって」
――チルノが氷の塊を纏って、
「湖の底を泳ぎ回っても」
――湖の底を転がり回っても。
悲しいかな妖精に毛が生えた程度の想像力。氷が浮かばないことを念じながら冷気を繰ると、出来たのはシンプルに大きな透明の氷の球。浮力を押さえつけるイメージに精一杯で、座標はぐんぐんと下へ下へ。
魚たちが落ちてきた氷塊をつつきに来ては、あまりの場違いな冷気に驚き逃げていく。透明度の高さから、うっかり衝突してわけもわからず目を白黒させる魚もいる。
やがて、ごつりと湖底を叩き、当初の予定とはやや違ったものの、チルノは「勝った」と一人目を輝かせて笑みを浮かべる。
こういったわけで、チルノは現在、霧の湖の底を転がっているのだ。
日の光は遥か上、波の綾にステンドグラス様に区切られてきらきらと揺らめく。ごろん、と氷球が転がり万華鏡のように風景が回る。湖底探検だけなら氷球は必要ないが、せっかく作った勝利の証を見せびらかしたい気持ちが、湖底の蹂躙という形に表れた。
転がるのは愉快。湖底の坂はさらに深くへ伸び、チルノはひたすらに転がって行く。メダカの群れとすれ違う。マスとすれ違う。美味しそう。オオサンショウウオとすれ違う。お前の目玉はどこにある。ウーパールーパーがぽかんとした顔でこちらを見ていた。アホ面ってあんな顔のことなのかな、と失礼な感想を抱く。アホロートルはそういう意味じゃない。うっかりザリガニを轢いて、泥にめり込ませる。うっかり亀を轢いたら甲羅の中に入って猛スピードでどこかへ滑っていった。100点。
日の光はどんどん遠く、弱く、小さくなっていく。周囲の水の色も深く、濃く、暗くなり、はるか上より手を伸ばす日の光を受け取った氷球が、薄ぼんやりと明りを散らす。
大きなヒレを五つも腹にこさえておきながらどうにも泳ぎの不恰好なシーラカンスが、ごつんと氷にあごをぶつけてふらふら泳ぎ去って行く。
なぜか[P]が落ちていたので轢いてみる。[F]も落ちていた。「むっふっふ、最強の最強で無敵ね」とみなぎる力に打ち震え、さらに深くを目指す。しかし、もはや日の光も弱弱しく、心細さが頭をもたげて好奇心とせめぎあい、チルノの心に境界を作り出す。
今のチルノを氷球ごと飲み込んでしまえそうな大きな頭のサンショウウオ。お腹にしか甲羅のない亀。つららのようにまっすぐな貝殻のイカ。次第に水底を這い回る虫のような生き物が増えるが、それらが海の生き物であることをチルノは知らない。どれもこれも見たことのない、聴いたこともない生き物の数々。心細さはふとした隙に正体不明の恐ろしさへと変わって、自分が氷球にかけていた力の解き方すら忘れさせる。
独り言のひとつすら声に出せずに、どうにもその場から動けなくなってしまったチルノを不意に、黒い大きな影が襲い――。
「うおわあああああっ!?」
乱暴に氷球ごと跳ね上げられたチルノが視界の端に見たのは、大きな大きな亀ともトカゲともつかない生き物。
一気に明るくなったところで力の使い方を思い出し、慌てて湖上に逃げ出す。キョロキョロと辺りを見回して、見知った者がいないかと興奮したまま飛び回り、湖畔に立つ紅い館に辿り着くと、門番、紅美鈴が目を丸くした。
「あら珍しい、湖の寒気じゃない」
「みっみずうみ!底の方にね、でっかいとかげが!亀かも、すごいでっかいの!首が長くて!」
「はーい、落ち着いて深呼吸ー」
必死な顔でまくしたてるチルノの頭を、美鈴はぽんぽんとたたきながらツボを押してみる。チルノは息を切らしながらも落ち着きを取り戻して、言われるままに深呼吸を始めた。ツボ押しはどうやら妖精にも効果を顕したようだった。
「湖の底に、あれ?……そうよネッシー!あれはネッシーね!」
「ネ、ネッシー?」
「ネッシー!あれを氷付けにすればあたいの最強っぷりをしらしめらめられるっ!」
「おーい……」
あっけにとられた美鈴はぽかんとアホロートルのような顔でチルノを見送る。チルノは勝手に盛り上がって、うおおと雄たけびを上げて飛んでいってしまった。
とりあえず暑さにでもやられたのかと納得するにしても置いてきぼりのままでは気持ちが悪い。今日もパチュリーの夏季限定水中図書館にお邪魔することにした。
「ネッシーなんてうちの湖にいましたっけ」
水で満たされつつも扉では縦に水面が張り、館の住人は泡で包まれ声は泡から泡へ伝わる。大掛かりな魔法であるが、その魔法を行使し、維持しているはずのパチュリーはむしろ快適に過ごしているようだ。水中ではほこりも胞子も舞いようがないからだろうか。
「完全に幻想になったということね。外では潜水艦のおもちゃということになっているらしいわ。ということはおそらく、
湖に本物のネッシーが流れ着いたんじゃないかしら。人間たちの想いを受けて生まれた、さしづめ妖怪ネッシーと
いったところね」
そびえる本棚をスクリーンにして、湖に暮らす生き物の姿が映し出されている。この水没図書館に、まだ夜よ、と朝方から酒を飲んでいた境界操作の達人に乱入されたところ、教師という仕事柄、早起きであるが為に絡まれ付き合わされていた歴史マニアとともに、酒の肴として提案されたものである。
それでもパチュリーはまんざらでもないといった様子で、つい先日からそのまま湖底の様子を映し続けている。
「ネッシーはともかくとして、この中に幻想はどれくらいいるのかしらね。」
三葉虫にウミユリ、ウミサソリ……。紫の絡み酒につき合わされ覚悟を決めた慧音が、湖底の断層からにじみ出る微かな歴史に気付く。そこからはあれよあれよという間に非常に幻想的な(胡散臭いとも言う)手段で持って、湖底に遥か古代の海を模したアクアリウムをこしらえてしまったのだ。寺子屋は本日臨時休業である。
海老の頭を持つ魚、バタフライのようにヒレを波打たせて泳ぐもの、トゲで歩くもの、三次元的にねじくれた殻を持つオウムガイ、生物史上のオーパーツ、またはミッシング・リンクたち。あくまで想像図による復元であるため、本物として存在し続けることはできないだろう。主犯二人の酔いが覚めて、消えたり死んだりしたら本物に近かった証拠だろう。残ったら幻想として生きるのかもしれない。
ふと、別の本棚に目をやると、そこには氷塊をまとって湖底に仁王立ちするチルノの姿があった。
「沈む、氷?……妖精ね、よく作ったものだわ」
「チルノですね、先ほどネッシーを凍らせに行くとか息巻いてました」
「氷をまとって沈むだけでも精一杯に見えるわね。せめて素潜りにすればいいのに」
「あ、かち上げられた」