ゆったり、ゆったりと暑さで溶けた時間が私のまぶたの上に堆積する。
私は、まどろみの中で時間の中に押し潰されるように眠りへと落ちていく。
地底は、地上の残暑のあおりを受けただただ暑かった。しかし唯一、この地霊殿の中で床と私の体が触れる部分だけはひんやりとしていた。
少しずつ、少しずつ意識が飛びそうになっていくのを感じる。
まるで、時間が溶けていくのと同じように暑さによって私の思考も溶けていくようであった。
私は、ついに耐え切れなくなり、意識のコントロールを失って灼熱の空気の中へと溶けていった。
目を覚ますと、私は自分の手のひらに溶けた空気とは違う熱があるのに気付いた。
その熱源に目をやると、私の隣でこいしが私の手をしっかりと握って寝ているのに気付いた。
ふむ、こうして一緒に寝るのは何日ぶりだろうか、と私は目を覚ましたままの姿勢で考える。
多分、一年二年、あるいはもっと前だろう。いつの間にか、私達は遠くなりつつあった。
呼び名もいつの間にか「お姉ちゃん」から「姉さん」になっていたりして、こいしは、知らないうちに「私の妹」から一人の「古明地こいし」になっていた。
私は、こいしの心が判らなくて、自分と違う選択をした妹が理解できなくて、いつの間にか自分から距離を置きつつあった。
そして、彼女と私はもう二度と交わらないものだと、そう思っていた。だけど、こうして今。こいしは私の手を握って、安らかな顔で眠っている。
そんな小さな一歩に、私はこの上ない喜びを覚えた。私は、手のひらのこいしの温かさを感じつつまたまどろみの中へと落ちていった。
次に目を覚ましたのは、さっき目を覚ました時以上の熱量の存在であった。
こいしは、私の腕をぎゅっと抱きしめて眠っていた。いわゆる抱き枕のような格好である。
ただでさえ暑いのが密着することによってさらに暑い。が、別に気持ちの悪い暑さではなく、心の静まるような暑さだった。
私は、こいしに体重をかけないように少しこいしから離れるように体をずらした。
すると、まるでこいしは生まれたばかりの赤ん坊のように、離れまいとして一層強く腕を抱きしめるのであった。
私は、しょうがない子ねとため息を付きつつ、天井を見上げて思索することにした。
今日の夕食のこと、明日の朝食のこと、とか様々な雑事を天井を見上げつつ考える。
考えるうちに気付いたことは、気温と体温で全体的に暑い私の体の内、唯一こいしの口元だけは寝息で涼しいということだった。
私は、そんな小さな小さな発見に嬉しくなりつつ、また意識がフェードアウトしていくのを感じた。
「ねえさーん、今何時?」
私は、突然言葉を発したこいしに少し驚きながら目を覚ました。
半分眠った状態の声を出すこいしを微笑ましく思いつつ私は答えた。
「わからないわ。時計が見える位置に居ないもの」
「わかったー、もうちょっとねるー」
「そろそろ起きて欲しいのだけどね。別に私と居た所で楽しいわけじゃないでしょ」
私は、しまったと思いながらそんあ言葉を発したのを後悔した。
心の奥ではこいしとこうして居るのが楽しいのに、私がそれを壊すようなことを言うなんて。
こいしに肯定されでもしたら、縮まりつつあったこいしと私の関係が――。
「今こうしてくっ付いてて気づいたけどさ。お姉ちゃんって私よりちょっとだけ心臓の動きが早いよね」
こいしは、そう言いながら私の手を握って、目を閉じた。私もそれに従って目を閉じる。
とくん。とくん。とくん。とくん。とくん。とくん。
こいしの言う通り、確かに私の方が少しだけ早かった。こいしは、悪戯っぽく笑って言った。
「こんな小さなことに気付けて、楽しいよ姉さん」
私は、こいしの言葉に少しだけ涙が出そうになったが、それを隠すためにこいしから顔を反らした。
だが、お互いの鼓動を確かめるために握った手だけは離さなかった。
「私も、もうちょっと眠たいから寝るわ。あなたも寝て良いわよ」
「はーい、おやすみ姉さん」
とくん。とくん。とくん。とくん。とくん。とくん。
私より少しだけ遅いその鼓動は、私の意識を少しずつなだらかにさせて、淡い眠りの中へと引き込んで入った。
「さとりさまー!ご飯はまだなんですかー!?」
「珍しいですね、さとり様がお昼寝なんて」
次に私が目を覚ましたのは、ご飯も作らずに惰眠をむさぼる私をちくりと刺す二つの声であった。
いつの間にか、こいしは何処かに行ってしまっていたが、感覚だけは私の手のひらに残っていた。
私は体を起こすと、大事な家族のためにご飯の支度を始めた。
寝息が涼しいと言うことは体温低いのかーとか邪念がたくさん。
離れていくようで、少しずつ近づいている。戻っていく姉妹の距離。そんな印象を受けました
どことなく小さい頃に戻りたくなる、そんな時間。
ごちそうさまでした。
お互いの距離感の描写もしつこくなくて好きでした。昼下がりから少し涼しくなる夕方にかけての情景がすぐに浮かんで気分が和やかになりました。
これは、距離が縮まったということなのかな。それなら嬉しい
最後のおくうのセリフにちょっとだけふいたw